小さな入り口が近づく。いつまでたっても小さな入り口だ。
操縦桿を握る手が振るえ、それにまかせて方向を変えようとする。

左手で押さえつける。
逃げ出したい。
右手が逃げようとする。

思いだ出す。ミルナ先生に宣告されたときを。
呪った。なんでこんな目にあうのだと。
やってきたことが台無しだと。
自分の責任から逃げようとした。
それに気付き矮小な人間に思えた。


      最終話 ブルースカイ万歳



ドクオは逃げなかった。
飛行艇を飛ばし勝とうとした。

もしここで操縦桿を引いたら。

また自分が矮小に感じるだけだ。
皮膚がゴムで中身は空っぽ。
虚勢で体積を膨らませるだけの存在。

空を見上げる。
見たくもない。
すぐにトンネルに視線を向ける。


あのトンネルをくぐれたらどんな空だろうか。
胸を張って綺麗だと、憧れていると言えるだろうか。
そして、この飛行艇も素晴らしい青になるだろうか。
ドクオはその青をどんな気持ちで見るだろうか

五臓六腑に空気を肺というポンプで送りこむ。

(♯ ω)「直線100メートル。右にR120、75メートル。
    左にR80、200メートル。そのまま左にR100、70メートルぅうう!!」

(♯ ω)「ドクオーー!!!最高のブルーを見せてやるおー!!」


一気に視界が暗転した。
速度は180キロに落としている。

一秒、二秒。正確に数えれば100メートル。右に切る。

一秒、半。これで75メートル。左に切る。ビビるな。

一秒、二秒、三秒、四秒。さらに左に倒す。

一秒、二秒、半前。前方に明かりが見えた。

左に倒れている機体を立て直す。後は直線。スロットルを押し上げる。
こだましていた音が、前方に向かって逃げていくのがわかる。
出口から空を覆う青が見えた。

そこにはかつて、いつか、これまでずっと、憧れた空が広がっているはず。


川 ゚ -゚)「ふぬ、ちょっとやりすぎたかな。」

しかし、つい遊び心が出て青い機体をからかってしまった。
可哀相なことをしたかなと反省し、連続コーナーが過ぎたところで加速した。
青い機体がついて来れないように速度を上げてひょうたん型の高速コーナーを飛んだ。

川 ゚ -゚)「ちょっと子供染みたことをしてしまったな。後で謝っておこう。」

座席の上でそう呟き後方を振り返った。
そこには青い機体はなかった。
少し後味の悪さを感じつつ視線を前方にもどす。

川;゚ -゚)「なっ!!」

前方に例の青い機体が飛んでいた。
一体どうやって?いつ抜かされた?
ありえないはずの事態に出会い驚愕したクー。
しかし、それでもすぐに状況を把握した。
とにかくこのままでは抜かされたことになってしまう。
それだけは避けなければと考えた。


(♯^ω^)「っどっどっど童貞ちゃうわー!!
       じゃなくてどんなもんじゃーーい!!」

真っ暗なトンネルから抜け出して太陽の光が機体に降り注ぐ。
ガッツポーズをする。
右手を操縦桿から離し何ども前後に動かして興奮を発散させる。

少し落ち着いたところで赤い機体がいるか辺りを見渡す。
いた。自分の後方に真っ赤な機体がいた。猛烈な速度で近づいてきている。

(♯^ω^)「ばーかばーかおちんちんびろろーん!!」

ブーンは第三チェックポイントを通過した。
赤い機体にもわかるようにチェックポイント係に親指を立ててやった。


( ・∀・)「第三チェックポイントより入りました。」

放送が流れた。が、もう皆はあまり興味がなくなっていた。
今まで結果を知るために聞いていたが、もうすでにわかっている。
聞かなくても大差はないと思って、もうすぐ来る8機の機体に注目していた。

(;・∀・)「えっこれは……」

放送者が呟いた。
それを聞いた観客は少しだけ、期待をもうすぐ来る8機から外す。

(;・∀・)「第三チェックポイントより入りました。
     ひょうたん型の高速コーナーをブーン氏が抜けました。
     その際に、係りのものに親指を立てたそうです。」

いったん区切りを入れて息を吸い込む。
観客は何があったかと耳を傾け始めた。


(;・∀・)「どうやらブーン氏がクー氏を抜いた模様です。
     何十メートルか離して飛んでいるとのことです。」

途端に会場内が湧き上がった。
赤い機体の速さは眼の前で見ている。
ブーンの遅さも聞いている。さっきまで馬鹿にしていた。
それが逆転している。憶測と予想が一気に飛び交った。

( ^Д^)「ミルナ先生聞いたかよ?抜いたってよ。」

( ><)「どういうことなんです?あんなに速い奴をなんです。」

(=゚ω゚)ノ「どういうことだょぉ?赤いの故障でもしたのかょぉ?」

( ゚д゚ )「わからん。お前ら取り敢えず計画は続行だ。」


  _
(;゚∀゚)「どういうことだよ?なんでだ?クーの機体、調子悪くなったのか?」

ノパ听)「よくわからんがよくやった!!そのまま抜いたままでこーい!!」

騒ぎの中ドクオだけは知っていた。
あそこで抜かしたんなら間違いがない。
そう思うと自然と口がにやけた。

('A`)「やるじゃねぇかブーン。まさかやるとはな。俺だって迷ってたのに。」


赤い機体が追ってくる。
このままでは、また抜かされてしまう。
しかし、さっきとは違う。気付いている。

(♯^ω^)「そのまま僕のプリティなお尻を眺めてろお。」

後ろに注意しながら飛ぶ。
右に来れば右に。
上昇すればそれに合わせる。
緩やかなカーブで追いつかれたがそっちの方が都合がよかった。
直線だと一気に抜かれてしまう。
真後ろにつかれていればそれが出来ない。
ブーンは赤い機体を前に出さない。


川♯゚ -゚)「クソ!!カーブのときに無理にでも抜くべきだった。」

このままだと今日築いた801社の名誉が地に堕ちる。
それだけは避けたい。絶対に。
抜かすべく右に出る。かぶせられた。
ならば上から。これもだ。

近づきすぎているからこそ抜けないことには気付かず
クーは目の前の敵を抜かすべく必死で操縦桿を動かした。

川♯゚ -゚)「どけぇええええええええ!!」


会場の観客から見える長い直線。その手前にある第四チェックポイント。
ここでブーンは自分がやられたことをお返ししてやろうと思った。

チェックポイントを通り過ぎる際に赤い機体の前で素早くロールしてやった。
いかに自分が余裕かを見せ付けるために。

(♯^ω^)「気分はドウデスカァア?!」

ブーンの叫びが聞こえたのか、クーも座席の上で叫ぶ。

川♯゚ -゚)「なめやがって!!抜かぁす!!」


(;・∀・)「第四チェックポイントより入りました。
      ブーン氏がロールや蛇行飛行などをしてクー氏の機体をからかっているようです。
      まだ、クー氏はブーン氏の後ろにいます。まもなくここから見えるようになります。」

放送が入るたびに湧き上がる歓声。
すでに観客は二機の行方に心を奪われていた。

その雰囲気を感じ取ったミルナは手下どもに命令を下す。

( ゚д゚ )「お前ら、開始しろ。」

( ^Д^)「でも、まだわかんねーじゃん。」

( ><)「そうなんです。抜かされたら可哀相なんです。」

(=゚ω゚)ノ「ばっか、周りをみろょぉ。すでにブーンはヒーローになってるょぉ。」

( ゚д゚ )「ぃょぅの言うとおりだ。空気が変わった。
    これなら結果はどうあれブーンは注目の的だ。ホラ、行け。」

( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ「ハイルミッルナー!!」


(;・∀・)「来ました!!紛れもなくブーン氏とクー氏の機体です。
     赤と青。対立する二つの色が飛行艇となって飛んでいます。」

会場からは機体の機種が見える。
どちらが前かはわからないが、動きから察するに青が勝っていると推測できた。
  _
( ゚∀゚)「うおおお、マジだブーンの奴やりやがった。」

ノパ听)「いけぇ!!抜かされるなー!!」

(♯'A`)「いっけっぇええ!!そのままゴールしちまえ!!周回遅れ何ざかんけいねぇ!!」

一番古く一番興奮した記憶が目の前にある。
自然と声が腹から出て大きくなる。


ξ゚听)ξ「ブーン!!いっけぇ!!」

(*゚ー゚)「ちょっとツン。あれドクオ君が作ったんだよ。」

ξ゚听)ξ「知ってるわよ。でも乗ってるのはブーンじゃない。」

(♯*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「皆―あれドクオ君が作った機体なんだよぉー!!」

ξ♯゚听)ξ「……」

周囲にいる友達にわかるように大声を張り上げた。
まわりは応援をやめて、うそぉなどと言っている。
ツンは口を尖らせ、流れを戻そうとしぃに負けない声で叫ぶ。

ξ♯゚听)ξ「ブーンがんばってぇえ!!!」


 / ,' 3「うひょひょひょひょ。何年前だったかのう。
    前も赤と青があんな風になってのう。」

( ,'3 )「覚えてますよ父さん。あの時と同じですよ。」

 / ,' 3「うひょひょひょ。こんなに燃えるのは何年ぶりかのう。」

(*゚∀゚)「おじいちゃん。前ってなに?」

 / ,' 3「十何年も前じゃ。お前はまだうまれてなかった。
     そのとき今みたいに、熱いデッドヒートがあったんじゃ。」

(*゚∀゚)「そのときはどっちが勝ったの?」

 / ,' 3「忘れたわい。」

( ,'3 )「どっちが勝ったのかなぁ。俺も覚えてないな。
    ところでつー。赤と青どっちが好きかい?」

(*゚∀゚)「青いの。だってドベでかっこ悪かったのに、かっこいいんだもん。」

 / ,' 3「うひょひょひょひょ。じゃあ応援しなきゃな。」

(*゚∀゚)「うん。青―!!がんばれぇ!!」


(♯^ω^)「もってくれよエンジンちゅわ―ん!!」

遠いがもうゴールは見えている。
この状態をキープできれば最下位だが間違いなく最高だ。
後少しエンジンがもってくれればいける。
常にフルスロットル。最高速度は……215キロ。

(♯^ω^)「させるか右ぃ!!」

赤い機体が前よりも果敢にせめてくる。
右に倒しこみそれを防ぐ。
あたかも空中戦で逃げている機体と後ろにつく機体だった。
上下左右に飛び回る。
あと少しだ。


川♯゚ -゚)「クッ!!私は馬鹿か!!」

いくらフェイントをかけてもこの近さでは抜かせない。
旋回性は勝るとしても、エンジンほどではない。
ならばエンジンで勝負すればいいだけのこと。
得意分野で勝負すればいい。相手と同じ土俵に立つことはない。
ギリギリになるが、いったん離れるべきだと考えた。
速度計を見る。215キロ。
相手のエンジン音から悲鳴が聞こえる。
このあたりが限界だろうと予測する。

川♯゚ -゚)「215キロ。それがお前の限界だ!!」

クーもフルスロットルにしエンジンに空気と燃料を大量に送る。
最新型の801エンジンがやる気を音にして表してくれる。
そして、加速する前にエアブレーキを使った。

川♯゚ -゚)「801エンジンのな……最高速度は286キロだ!」


(;・∀・)「おっとクー氏が離れました。どういうことでしょう。」


(;^ω^)「えっ?何でだお?」

赤い機体が離れたことによっていくらか冷静になった。
もう操縦桿やフットペダルを動かさなくていいからだ。
そして、離れた理由を考えてみる。
エンジン音は変わらないのに離れていっている。
すぐに悟った。その意図を。

(♯^ω^)「そうはイカの金玉ァ!!」

ブーンはわずかに操縦桿を引いて上昇する。
速度を殺さないためにすこしづつ。
焦る気持ちを抑え、速度計と高度計を凝視した。


加速するのに十分な距離をとった。
エアブレーキをしまう。
エンジンの回転数はレッドゾーンに入っている。

余分な抵抗がなくなり、ブースターのように加速する。
速度計は青い機体の最高速度と並び、さらに加速する。

川♯゚ -゚)「貴様の最高速度など簡単に抜かしてやる!!」


(;・∀・)「どうやらクー氏、距離をとったのは加速するためのようです。
      旋回では近すぎると判断したのでしょう。
      だが抜かせるのか?いや速い。追い上げる。これは抜かせれるでしょう。」

(;・∀・)「しかしブーン氏何故高度をとったのでしょうか。
      大会の制限ギリギリまであがっています。」


赤い機体よりも少し上空にいる。
急に会場内が静まり二機のエンジン音が聞こえるようになった。
どちらも悲痛な叫び声を発している。
そして赤い機体が速度をさらに上げ追いついた。
赤の上に青。青の下に赤。
赤はまだ加速する。ゴールのラインまで後10秒もあればたどり着く。

川♯゚ -゚)「フン!上にいるから勝ったつもりか?!残念だったな!!」

(♯^ω^)「おらぁ!!」

万力を回すようにじわじわと空間が無くなっていく。
早くやりたい気持ちを抑える。タイミングが重要だと。
赤い機体が真下に来たとき、ブーンは操縦桿を押し倒した。
心地いい浮揚感と共に落下していく。
そう、それが狙いだった。


観客からは急に落下する青い機体と、速度を増し続ける赤い機体が見える。
そしてほんのわずかな時間でそれを理解したものが何人か叫んだ。

('A`)「あいつ落下で速度を稼ぐつもりだ。!!」
  _
( ゚∀゚)「そうか、そういうことか。」


(*゚∀゚)「青が速くなったぁ。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、そうかやりおるのう。」

観客全員に一瞬で伝わり、歓声が一段と大きくなる。
今日の大会で起きたどれよりも声に興奮が混じっている。
皆がそれに負けじとさらに声を荒げる。

ξ゚听)ξ「いけぇえ!!」

(*゚ー゚)「抜かしてぇ!!!」

( ^Д^)「ブーンプギャー!!!。」

( ><)「行くんです!!」

(=゚ω゚)ノ「かっちょいいょぉ!!」


(;・∀・)「おっとブーン氏落下して速度を上げます。
      クー氏の加速を越せるのか?ゴールは目の前です。」

川♯゚ -゚)「なめるなぁ!!」

(♯゚ω゚)「ぶるぁああああああああああ!!」

ゴールまで十数メートル。
誰もが瞬きをせずにいる。
上空から奇襲するかのように青が突っ込む。
赤はそ知らぬ顔で加速する。
もう数メートル。
赤と青が混じった。
そしてゴール。


眼前にはスカイブルーを映し揺れる水。
それを避けるために操縦桿を引き急上昇にいれる。

(;^ω^)「だぁっと!」

フロートが水をかすり高く跳ね上げた。
今度は本物のブルースカイ。
ブーンはついでとばかりに、ロールをしてから宙返りに入る。
フロートについた水がロールの勢いで辺りに散る。
太陽の光が翼に反射し、それは観客をねめ回すように
観客達の視力を一瞬だけ奪った。

まるで勝者が自らの栄光を誇るかのように。


正式な順位は明らかだが、観客はこの勝負の行方を知りたがった。
自然、大会の放送をまつべく誰も声を発しない。
しかし、青い機体が水の祝福を受け、垂直に上昇し、自分達に太陽光を反射させた意味を想像するものがいた。


(*゚∀゚)「青が勝ったー!!」


その言葉を皮切りに、いたる所で同時に空気が揺れた。
賞賛するもの。自信の興奮を見知らぬ隣の人に伝えようとするもの。
それを聞いて自分の興奮を語るもの。

どっちが勝ったのかに誰も疑いを持たなかった。
ブーンの宙返りを全員が勝利の証と受け取った。
判定はともかく、勝者を皆が悟った。


クーはゴールと同時に減速してその後、着水し
会場のざわめきから勝負の行方を知ろうとした。
その時、放送が入った。

( ・∀・)「えー皆さんにお伝えします。
      ブーン氏が10位に入り、クー氏もウイニングフライトを終えました。
      これをもって、VIPカップのすべてが終わったことをお伝えします。
      なお、今のブーン氏とクー氏の結果ですが、それはお伝えしません。」

( ・∀・)「なぜなら順位とは関係のないことですのでお伝えする必要がありません。
      どちらが勝ったかは皆さんが存分に話し合ってお決めください。
      以上でVIPカップの放送を終えます。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、粋なこといいよるわい。」

( ,'3 )「よく思えば赤の方が速かった気がするけどな。」

(*゚∀゚)「青だもん。絶対青だもん。」

ξ゚听)ξ「ブーンが勝ったに決まってるじゃない。」

(*゚ー゚)「そうよ。絶対そうよ。」

( ^Д^)「いや、やっぱり赤の方が速くなかったか?」

( ><)「僕は見たんです。プロペラの分だけブーン君が速かったんです。」

(=゚ω゚)ノ「同時じゃないかょぉ?」


ブーンが着水して細長い桟橋に機体を止める。
ドクオや他の知り合い、ブーンを見ようとする観客が走って近寄ってきた。
ブーンは最下位ということが思い出されてしまい、表情に影を落とす。

('∀`)「よぉよく通ってこれたな。俺なんてやろうかどうかビビってたのに。」

( ´ω`)「ごめんだおドクオ。最下位だったお。」

('∀`)「気にすんな。聞いてみろよ。この騒ぎの半分はお前に向いてんだぜ。」

( ´ω`)「でも……」

ドクオに対して顔を見せれなかった。
そうはいっても最下位というのがのしかかる。

('∀`)「ばっかどうでもいいよそんなこと。思い出してみろよ。
    お前むかしに……ぶぇっぷ!!」

ノパ听)「いつまでぐじぐじするつもりだぁ!?」


ドクオ言葉を遮りついでに地面とのバランスも遮ってヒートが喧しすぎる声を出す。
その直後、ドクオが水に落ちた音が響いた。
ブーンは申し訳なさでヒートの顔を見れず、俯く。

ノパ听)「いいかよく聞け。明日や明後日ならわからん。
     でもな、何年後か、五年後か十年後にな、この大会で覚えてるのは優勝者の名前じゃない!!
     ブーンお前の名前だぁーー!!」

水の中からひょっこりと頭だけ出してドクオが口を挟む。

('A`)「そうだブーン。俺たちの憧れてた飛行艇だってどっちが勝ったかなんてしらねぇ。
   でも、いつまでも覚えてるのは絶対に優勝者じゃない。」

('∀`)「赤と青の飛行艇だ!!」

ξ゚听)ξ「なにしょぼくれた顔してんのよ。聞きなさいよこの騒ぎ。」

( ^Д^)「ブーンプギャー!!」

( ><)「かっこよかったんです。」

(=゚ω゚)ノ「そうだょぉ!!」


( ^ω^)「おっおっ」

観客達の覚めやらぬ歓声と嬌声。
ヒートとドクオのそして周りの言葉。それらを聞いて考える。
ブーンが見てきたVIPカップの中で最高の騒ぎとなっていたのがわかった。

( ^ω^)「じゃあ僕は喜んでいいのかお?」

('∀`)「当たり前だ!!」

ブーンはベルトを大急ぎで外し、翼の上に足を乗せる。
そして、手を強く握り締めスカイブルーに向かって突き出し叫んだ。

( ^ω^)「いーーーやっほぉおーー!!」

叫ぶと同時に大きくジャンプして水の中へと飛び込んだ。
とにかくはしゃぎまわりたかった。この歓声が自分のものだと思うと、とにかく動きたかった。


  _
( ゚∀゚)「言うねぇヒート。まったく。あいつが言うと重みが違う。」

飛行艇の周りに集まって騒いでいるのを眺めながらジョルジュが感慨深くもらす。

川 ゚ -゚)「ん、どういうことだ?」

それを聞いたクーが後ろからジョルジュに声をかける。
ジョルジュはヒート達の方からクーへと振り返った。

  _
( ゚∀゚)「ありゃ、何しにきた?」

川 ゚ -゚)「いや、からかったことを謝ろうと思ってな。
     それよりも、ヒートがどうしたって?」
  _
( ゚∀゚)「ああ、覚えてるか、昔俺が赤い飛行艇でお前が青い飛行艇でデッドヒートしたの。
     あいつらそれをずっと言っててさ、今回出たのだってそれに憧れたんだって。」

川 ゚ -゚)「ああ、レースが始まる前にきいた。
     でも少し疑問なんだがあのときの優勝者はヒートのはずだろ。
     ヒートがそれで私を嫌うのはわかったが、あいつ等は何故ヒートでなく私達なんだ?」


  _
( ゚∀゚)「ああそうよ優勝者はヒートだ。でもな、覚えてるのはヒートのことじゃない。俺たちのことなんだ。
    そういうことさ。誰も覚えていないんだ。」

川 ゚ -゚)「なるほど。でもお前言ってやればいいのに。何故教えないんだあいつ等に?」
  _
( ゚∀゚)「だってさ、あいつらいっつも喧嘩すんだぜ。赤が勝ったとか青が勝ったとか。
     それ見てるとさ言えねぇよ。手放しで俺を褒めるんだぜ。悪い気しねぇよ。
     それにさ、ヒートもそれで泣くんだぜ。あの時優勝したのはこの私だーって。
     ついそれがかわいくてな。あいつ自分からは言うのはみっともないからって黙ってるんだけど。」

ジョルジュは一息に喋るとクーの顔が自分の後ろを見ているのがわかった。
クーの無表情な顔から何があったのか推測できず、気になり首だけで振り返る。

ノハ )「ふーん。そういうことか。」
  _
(;゚∀゚)「きいてらっしゃったの?」

ノハ )「このド外道がー!!」

瞬間ジョルジュの視界範囲からヒートが消えた。
そして足首に圧力を感じる。下を向こうとした次の瞬間そこには空があった。


ノハ )「オラオラオラオラオラオラー!!」

ヒートはジョルジュの足を持ち盛大に回転している。
当然ジョルジュはそれに伴ない頭部に行くほど高速回転になった。
  _
(;゚∀゚)「勘弁してください!!帽子が取れるぅ!!」

両手で頭部を保護する、というよりは鳥打帽が取れないようにおさえている。
だが、頭に血が昇り朦朧としてきたところで、ついにレッドアウトした。
手がブランと回転によってふらふらし、おさえていた鳥打帽が飛ばされていった。
ヒートの手には白目をむいて頭の頂点が禿げ上がったジョルジュ。

  _
(  ∀ )


川 ゚ ー゚)「なんだ、あの後頭部は。まだ禿げる年じゃないだろ。」

ノハ;凵G)「こいつが浮気したときにやってやった。ちくしょー!!
     なんで誰もあのときの優勝者を覚えてないんだ!!
     私はそれがくやしぃ!!」

川 ゚ ー゚)「いいじゃないか。私とジョルジュが覚えている。」

ノハ;凵G)「うるさい!!私だってもっとジョルジュのようにあいつらから言われたいんだ
      なのにあいつ等ときたら調べればすぐわかることを調べもしない。
      さあわかったらお前も行け。また始まるんだ。私が抜いた、ジョルジュとお前の褒めあいがな。」

くすくすとクーは笑っている。
ヒートはクーのそんな顔を見たことがなかったので一瞬だけ戸惑った。
だがすぐに戻り大きな地声を出す。

ノハ;凵G)「どうした。はやくいけぇ!!」

川 ゚ ー゚)「いや、案外お前の泣き顔はかわいいと思ってな。」

ノハ;凵G)「う、うるさい!!お前があいつ等の言い合いを聞いていい気になるのは気にいらん!!」

川 ゚ ー゚)「わかったわかった。じゃあな元気でな。」


クーが立ち去ると、今まで回して鬱血させたジョルジュを大空へと放った。
ジョルジュは虹のように綺麗な放物線を描いて雲の向こうへと、頭に後光をたずさえ旅立った。

表彰式が始まりブーンとドクオの飛行艇の周りには学校の知り合いとミルナ、
それにブーンを間近で見ようとする人間で一杯になっていた。さながら表彰式のように。
みんながブーンのことを話す中、ミルナがそっと三人に呟いた。

( ゚д゚ )「いいか、タイミングが重要だ。自然にな。」

( ><)ノ(=゚ω゚)ノ( ^Д^) ノ「ハイルミッルナー。」

小声で言った後、三人はばらばらに散った。
二人は左右に。一人はツンの後ろについた。
そしてミルナの合図を待つ。


騒ぎが下火になった頃ミルナがブーンに声をかける。
手下はこらえきれずにニヤニヤと笑った。

( ゚д゚ )「さて、ブーン皆がこうやって集まってくれてる。
      丁度いいからそこに立って挨拶したらどうだ。」

ミルナは顎で飛行艇を指した。
そこに乗ってということだろう。ブーンは素直にそれに従い皆を少し見下ろす感じになった。

( ^ω^)「えー集まってくれた皆さん。今日は本当にありがとうございますお。
      結果は散々でしたが最後に何とか一泡吹かせれたことにまあ満足していますお。
      けれどもこうして出場で出来たのもあそこにいる……」

( ^Д^)「おいブーン!!ツンが言いたいことあるってよ。」

ξ;゚听)ξ「なに言ってるの急に。ちょ、ちょっと押さないでよ。」

ブーンの演説を遮って、無理矢理ツンを翼の上まで押していった。
青い飛行艇の上にバランスとバツが悪そうに二人が立っている。


('A`)「おうおう、いいこったな。ヒーロー。」

集団から少しはみ出していたドクオが軽く毒づく。
しかしその言葉はとても小さく、顔も皮肉な笑いがつくってあった。
誰かに聞かせるためではないが、ちゃんと聞いている者もいた。

(*゚ー゚)「ブーン君があそこにいるのドクオ君のおかげじゃない。私は知ってるよ。
    それじゃ駄目なの?」

(*'A`)「いや、いい。」

ツンは青い翼上、透き抜ける青空の下で困惑していた。
なんで、ここに押し上げられたのだろうと。期待が視線となって降り注いだ。


ξ;゚听)ξ「ちょっと。話すことなんてないわよ。」

そんなツンにブーンが助け舟を出す。

( ^ω^)「折角あがったんだから何か一言いったらいいお。」

ξ;゚听)ξ「そう?えーっと、小さい頃の夢をかなえておめでとう。
       他にもあるような気もするけど、取り敢えずこんなところで……」

語尾を濁しそれを終わりの合図とした。
それを受け取った皆は拍手で迎える。

いわれのない賞賛に頬を赤くして俯いた。
拍手がまばらになったところでミルナが大声をかける。

( ゚д゚ )「おーい、それだけか。せっかく上がったんだからもう少し何か言ったらどうだ。」

ξ;゚听)ξ「ちょ、別に言うことないわよ。」

ツンは何十もの視線に限界を感じ早く降りたいと思った。
緊張のためかミルナの微笑には気付かずにいた。

潮を含んだ風が流れ、ツンの髪が宙に泳いだ。
それを幸いと手持ち無沙汰の右手で撫で整える。
全員がツンに何かを期待し沈黙しているなか、一つの声が聞こえた。

(=゚ω゚)ノ「キース、キース。」


その小さな声は弱弱しく周囲のものが、ちらと視線を向けただけで終わった。
しかし、集団の対極にいる一人が手拍子と合いの手を入れる

( ><)「キース、キース。」

二人の周りが一緒に音頭をとろうかどうか迷い始めた。
腕を胸まで上げてみんなの方向性を探った。
すると集団の真ん中にいる人間が大きな声で囃し立てる。

( ^Д^)「キース、キース。」

( ><)「キース、キース。」

(=゚ω゚)ノ「キース、キース。」

(*゚∀゚)「キース、キース。」

( ,'3 )「こらつー。やめなさい。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、いいじゃないか。それキース、キース。」

( ,'3 )「父さんまで。」

三人の声は次第に大きくなり周囲のものを巻き込んだ。
そしてその周囲の周囲が巻き込まれ、弱弱しかったキスコールは次第に
大きくなり全員がそれを待ち望んだ。


(;^ω^)「ちょ。」

ξ;゚听)ξ「なによこれ?」

二人は多勢の人数からキスを強いられた。
祝福の強要。
それを見ておこぼれを授かろうとする者。

ξ;゚听)ξ「や、やめなさいよ。やるわけないじゃない。」

ツンの声は大多数の圧力によって消された。
なにが起こっているのか把握できず、助けを求めて見渡す。

( ゚д゚ )

ミルナがいた。この騒ぎをやめさせようと声をかける。
聞こえはしないが唇の動きでわかる筈だ。

ξ;゚听)ξ「………」

(゚д゚ )

目を逸らした。


誰もがコールしている。
意地悪な、それでいて悪意のない目で。
しぃや他の友達もコールしている。

ξ♯゚听)ξ「……」

全員が自分に恥をかかせて笑いものにするという総意に腹が立った。
こうなったら堂々と見せ付けて、笑いものに出来なくしてやる。
そう思い、ブーンの顔を見る。

ブーンも困った顔をして集団の中にいる知り合いに救援の視線を送っている。
大またで胸を張りブーンに近づく。

視線がツンに集まりコールがやんだ。ブーンもそれに気付き首を回しツンを見る。
一つは困惑の目で一つは意地の目で。二人がすっと見つめ合う。


雰囲気を察知し誰もが目じりを下げる。
戸惑っているブーンの頬を両手で押さえる。
見つめ合う瞳、その時間は1秒未満。
ツンが力を込めブーンの首を前に戻した。

そして、一気に距離を縮め、手をどかした頬に唇を押し付けた。

一秒。

二秒。

ツンがブーンの頬から唇を離すと胸を膨らませ大きく息をした。
拍手が沸き起こり、嬌声が聞こえる。
そのとき、表彰式の花火が鳴った。最下位への表彰式と頬への小さなトロフィー。


(*^ω^)「……」

ξ///)ξ「なんて顔してんのよ!!」

ツンは鼻の下は伸ばした間抜け面を川へと叩き込んだ。
また湧き上がる集団。どう収集をつけようか迷っているとついにミルナが皆をまとめた。

( ゚д゚ )「よーし引き上げるか。」

鶴の一声で静まり、帰り支度をしだす。
集団の合間を縫ってツンはミルナに詰め寄った。

ξ♯゚听)ξ「もっと早くまとめなさいよ!!」

こっちを見ているミルナを、ブーンと同じく川の中に叩き込む。
手をバタつかせながら落ちていくさまが滑稽だった。


('A`)「おうおう全く。」

(*゚ー゚)「羨ましいの?」

ドクオはしぃの問いにそっぽを向いた。
するとしぃは素早くドクオの顔向きに合わせ目の前にいく。

('A`)「べっつに、うらやましくも…」

ドクオの言葉が途切れる。
しぃの唇によって塞がれた。
といっても触れるか触れないかの淡い口付け。

離れて漏れる素直な感想。

(*'A`*)「いぃ…」

(*//ー/)「な、なにが、いぃ、よ。」

照れ隠しかドクオを突き飛ばす。
バランスを失ったドクオはそのまま川へと落ちた。


(*゚∀゚)「つーもおよぐぅ。」

川に入るブーンたちを見て勘違いしたつー。
父親の肩から飛び降り、桟橋からジャンプした。

( ,'3 )「つ、つー上がってきなさい。」

/ ,' 3「うひょひょひょ、わしもじゃ。今行くぞつー。」

爺が飛んだ。

( ,'3 )「父さんも何やってるんですか……でぇーい!!」

男も飛び込む。

川にいる人数が増えた。
だれかが、せーの、と言い全員が頷く。
百人あまりが一斉に川に飛び込んだ。
しぶきが空高く舞い上がり、虹が一瞬だけ見えた。

上に青。その下に赤。
すぐさま消えた。
最下位への表彰式はこれで幕を閉じた。


最終話 ブルースカイ万歳       〜終わり〜



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