(´・ω・`)ようこそバーボンハウスヘ、のようです
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 22:59:23.81 ID:Bqe48Qpm0
- >>24
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:00:02.80 ID:WI34UtyFO
- 糞スレ
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:00:48.96 ID:amx02RSE0
- ありがとうございます。
では投下させて頂きますなのです。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:01:10.33 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)ようこそバーボンハウスヘ、のようです
薄暗くもどこか柔らかい灯りと、重厚感に溢れる木製のカウンター。
その向こう側に、僕はいる。
背後には酒棚を。
お世辞にも広いとは言えない空間で、ただ黙々と、グラスを磨く。
ここはバー、バーボンハウス。
多くの――とは言えないかも知れないが、それでも日々疲れたお客様がやってくる。
僕の仕事はそんなお客様に、癒しを感じるお酒を提供する事だ。
さて、そろそろ開店時間だ。
今日はどんなお客様が来るのだろう。
……とは言っても、開店時間にお客様が来るだなんて事は、この店には滅多にないんだけどね。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:03:04.04 ID:amx02RSE0
- どれくらい時間が流れただろうか、不意にバーのドアが、微かな軋みと共に開かれた。
ようやくお客様がいらしたようだ。
僕は磨いていたグラスをそっと置いて、笑顔と共に口を開く。
(´・ω・`)「いらっしゃいませ。ようこそバーボンハウスへ」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ 「……」
お客様は、男女の二人組だった。
別に珍しいことでもない。
カップルでお越しになられるお客様は、それこそ幾らでもいる。
だが彼らは、そう言ったカップル達とはどこか毛色が違うようだった。
何と言うか、お互いが近寄ろうとしているようでもあり、反発し合ってるようでもある。
何か喧嘩でもしたカップルなのか。
あるいは、まだカップルになりきれていない、青々しい二人なのか、どちらかだろう。
(´・ω・`)「何になさいましょう。強さなどは……」
( ^ω^)「……あまりお酒は詳しくないんですお。適当に、お勧めを御願いしますお。多少強くても問題ありませんお」
ξ゚听)ξ「私も同じので」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:03:14.57 ID:k1Wt/7ZlO
- 支援
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:05:03.34 ID:amx02RSE0
- 時間帯から見るに、食事はもう済まされているだろう。
ならばオーソドックスに、マティーニにしておこうか。
ジンとベルモットを酒棚から取り出し、氷を詰めたミキシンググラスに注ぐ。
流れるような動作でステア――バースプーンを使って酒をかき混ぜ、カクテルグラスに注ぎ込んだ。
まずは一杯だけ、女性の方に差し出した。
(´・ω・`)「マティーニです」
ξ゚听)ξ「あら? 私だけ? 同じ物って頼んだ筈だけど……」
(´・ω・`)「えぇ、彼の方にも、マティーニを差し出しますよ」
言いながら、僕は同じような手順でマティーニを作る。
出来上がったグラスを、男性に差し出す。
(´・ω・`)「マティーニですね」
( ^ω^)「ありがとうですお。それじゃツン……乾杯だお」
女性の方はツンと言うのですか。
忘れないようにしなければ。
彼らは小さくグラスを乾杯すると、似たような動作で一口酒を飲んだ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:07:02.97 ID:amx02RSE0
- ( ^ω^)「おっ、おいしいですお」
ξ゚听)ξ「ホントね」
お褒めの言葉に、僕は二人に小さく微笑みを返した。
次にやってくるであろう言葉に対する、楽しみも込めて。
( ^ω^)「このキレのある味わいが……」
ξ゚听)ξ「この仄かな甘みが……」
そこまで言って、二人はお互いを見やった。
僕は笑顔を絶やさぬままに、二人に提案する。
(´・ω・`)「交換して、飲んでみたらいかがですか?」
二人は戸惑いながら、お酒を交換した。
そして、そっと口に運ぶ。
( ^ω^)「あれ? ほんとに甘いお……?」
ξ゚听)ξ「あら? 何か違う……」
二人は不思議そうにしている。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:07:05.33 ID:G564ue8vO
- なんかウンコ渡す奴思い出した
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:08:50.15 ID:c3Vw0MWjO
- なんかいいな
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:09:03.67 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「そちらの、ツンさんのマティーニはスイートベルモットを使ったのですよ。女性ですし、甘口の方がよろしいかと」
ξ゚听)ξ「あら、そうだったの。ありがと。……でも、甘いものが好きなのは、こっちのブーンの方なのよ。ホラ、体型とかそれっぽいでしょ?」
確かに言われてみれば、ブーンと呼ばれた男性は何と言うか、とても太ましい方だった。
とは言え肯定する訳にもいかず、僕は曖昧な苦笑いを浮かべて誤魔化した。
(;^ω^)「相変わらずツンは手厳しいお……。でもその通りだし、これは僕がもらってもいいかお? そのマティーニも、ツンにピッタリだと思うお」
ξ#゚听)ξ「……それは私がいっつもキレてるって意味かしら?」
(;^ω^)「いやまさかだお。ただ、甘くは無いけどどこか爽やかな優しさがあって、綺麗な味のマティーニだったんだお」
確かに彼のマティーニにはレモンピールを掛けて、更にステアの回数も1、2回多くしてあった。
水っぽくならない程度に、角の無い味を目指したが、どうやら成功だったらしい。
しかし、彼女のような美人と僕のカクテルを重ねていただけるとは、まったく嬉しい事だ。
ξ゚听)ξ「……ばーか、そう言うセリフは、言う奴の顔を選ぶもんよ」
だが、なるほど。
確かに彼女は手厳しいようだ。
こんな所に二人で来ている以上まんざらでは無いだろうに。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:11:03.08 ID:amx02RSE0
- やがて時が経って、二人は程よく酔い、店を出る事になった。
あれからもブーンさんは、何度か好意を表すような言葉を述べていた。
だが、どうにもツンさんはなびかずに、その度に軽く受け流していた。
そのくせ口が過ぎて彼がへこんでしまったような時は、慌てて、とても必死にフォローを入れるのだ。
まったく、見ているこちらがもどかしくなるような二人だった。
(´・ω・`)「……実は、ツンさんだけに飲んで欲しいカクテルがあるんですよ。少しだけ、お時間頂けませんか?」
ドアに向かう二人に、声を掛ける。
ツンさんが、静かに振り返った。
その所作さえ美しく見える。
本当に、美しい輝きを孕んだカクテルのような女性だ。
女性を酒に比喩する僕は、ちょっと感覚がズレているのかもしれない。
ξ゚听)ξ「……構いませんよ。ごめんブーン、先帰ってて」
( ^ω^)「……分かったお」
ブーンさんには申し訳ないが、これは僕の性分みたいなものなのだ。
ツンさんの了承を得るなり、僕は幾つかの酒を取り出し、ミキシンググラスに注いだ。
シェリーとベルモットに、オレンジビターズを一振り。
淡く黄緑色に輝く液体を、彼女に差し出した。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:12:44.70 ID:MmJKvG7V0
- wkwk
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:13:08.28 ID:amx02RSE0
- ξ゚听)ξ「……飲みやすくて、美味しいわ。でも、何でこれを?」
(´・ω・`)「……そのカクテルは、名前を『バンブー』と言います」
ξ゚听)ξ「バンブー……竹ね。確かにそんな色をしているわ」
納得する彼女に、僕は首を横に振る。
(´・ω・`)「それだけではありません。バンブーはアルコール度も低く、すっきりとした辛口でとても飲みやすいんです」
ξ゚听)ξ「へぇ……、確かに言われてみれば」
(´・ω・`)「でしょう? ……これは竹に因んで、とても『素直』なカクテルなんですよ」
ξ゚听)ξ「……竹に因んで?」
(´・ω・`)「竹は縦に割ると、すぱっと綺麗に割れてくれます。だからですね」
あぁなるほど、と言わんばかりに、彼女が大きく二回頷いた。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:15:03.32 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「……人もお酒も、素直なのは良い事ですよね」
ξ゚听)ξ「……っ!」
僕が意図的に零した言葉に、彼女はグラスを持つ手に、明らかに力を込めた。
引っ掛けるつもりだろうか。
それも、仕方ないだろう。失礼を働いたのは僕の方だ。
ξ#゚听)ξ「……」
しかし、彼女は寸でのところで思いとどまったらしい。
覚悟してはいたが、やはり助かるに越した事は無い。
ξ゚听)ξ「……分かってるわよ。それぐらい。でも、どうしても素直になれないのよ。
何て言うか、肝心な時になると頭が沸騰しちゃいそうな位恥ずかしくて、それで……」
(´・ω・`)「その気持ち、分かります。私もその手の事には、随分と奥手でして」
ξ゚听)ξ「あら? さっきの言葉は一体なんだったのかしら?」
(´・ω・`)「カウンター越しだからこそ、の言葉でしたね。それに、岡目八目と言う言葉がありますし」
何それ、とツンさんが笑った。
そしてグラスに残ったバンブーを一気に呷ると、すっと席を立ち上がった。
ξ゚听)ξ「ありがとう、バーテンダーさん。きっと、また来ますね」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:17:03.43 ID:amx02RSE0
- 彼女は御代を置くと、そう言ってドアへと歩んでいく。
(´・ω・`)「えぇ、お待ちしております。お客様」
遠ざかる彼女に聞こえるように、僕はそう言った。
やがて来た時と同じように微かな軋みを立てて、ドアが開けられる。
ツンさんはカクテルシャンゼリゼのように美麗な髪の毛を僅かに揺らしながら、店を後にした。
分厚いドアのせいで分からなかったが、どうやら外では雨が降っているようだった。
これでは、客足もかなり減ってしまうだろう。
そう思い、僕は再び悠長に、グラスを磨き始めた。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:17:16.09 ID:k1Wt/7ZlO
- なかなかいいな
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:19:03.92 ID:amx02RSE0
- ――数日後。
店内に、微かな軋みが響く。
僕は反射的に磨いていたグラスを置き、ドアの方に顔を向けた。
(´・ω・`)「いらっしゃいませ。ブーンさんにツンさん」
入り口には、数日前に見たばかりの顔があった。
薄暗い店の中でも、ブーンさんの体型と特徴的な笑顔。
ツンさんの美しい立ち姿や髪の色は、しっかりと捉える事が出来た。
( ^ω^)「おっ、よく覚えてますおね」
当然だ。
バーテンダーがサービス業である事は勿論、
お客様はバーに様々な物を持ち込んでくるのだ。
愚痴や希望、見栄や矜持。
それらを語る為に。
そんな時に、語るべき相手が自分の名を覚えていなかったら、どう思うだろう。
だから、絶対に忘れてはいけない。
一度の対面で覚えなければならないのだ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:19:30.89 ID:9a0T5EcuO
- いいなー
こういうオシャレなバーってどうやって見つけるの?
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:20:31.50 ID:ac2hH+1e0
- 過剰アクセスとか
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:21:03.68 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「今日は、何にしましょう」
( ^ω^)「やっぱり、お勧めで御願いしますお」
(´・ω・`)「分かりました」
さて、今度は何にすべきか。
時間的には、やはり食事を済ませているようだ。
まずは一杯目、あまり甘口の物は、次の酒を不味くする。
ソルティドッグ辺りで、どうだろうか。
何を作るかを決めると、僕は酒棚から必要な物を取り出していく。
と言っても、ソルティドッグはウォッカとグレープジュースだけの、簡単な物なのだが。
( ^ω^)「ツン……話って、何だお?」
材料を混ぜていると、ブーンさんがそんな事を言った。
どうやら、勝負時らしい。
僕は黙って、カクテルグラスを前に押し出した。
ξ゚听)ξ「……」
しかしいつまで経っても、ツンさんは口を開かない。
たまにちびりちびりとカクテルを口に含んで、結局彼女は一杯飲み干してしまった。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:22:12.85 ID:+uFV+fIr0
- おもしろいな
支援
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:22:56.28 ID:9BUAcfk00
- バーボンのマスターは俺の理想の人間像の一つ
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:23:02.89 ID:amx02RSE0
- 僕はやはり無言のまま、グラスを引き下げた。
長い長い時間が経ち、重い重い沈黙だけが場を包んでいく。
話がある。
そう言うだけでも、彼女には相当な勇気が必要だったに違いない。
だったら、ここは僕の役目だ。
ありったけの勇気を振り絞って。
それでも足りなかったお客様に。
グラス一杯分の勇気を差し上げるのは、バーテンダーの仕事に、他ならないじゃないか。
(´・ω・`)「お客様。実は今日も、一つ飲んで頂きたいカクテルがございます」
ξ゚听)ξ「……へ? あ、あぁ、別にいいけど。今度は何てカクテルなの?」
(´・ω・`)「……『ブラッディ・メアリー』です」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:25:03.05 ID:amx02RSE0
- 材料を整えながら、僕は答える。
ξ゚听)ξ「血塗れメアリー……」
(´・ω・`)「えぇ、イングランドで異教徒を迫害した女王、メアリー一世の名に因んで付けられました」
ブラッディ・メアリーはとても簡単なカクテルだ。
ウォッカとトマトジュースをかき混ぜるだけでいい。
だけど今回は、少し違う手法をとろうと思う。
と言っても、一つ手順を付け足し、少々レシピを変えるだけだ。
まずウォッカだけをよく冷やしたシェイカーに注ぎ、シェイクした。
十分にシェイクを終えたら、後は従来の手法通りにブラッディ・メアリーを作る。
そして出来上がったカクテルに、塩とウスターソースを僅かに付け足した。
(´・ω・`)「どうぞ、ブラッディ・メアリーです」
ξ゚听)ξ「ん……。美味しいけど……なんかカクテルって感じがしないわね。本当に、ただのトマトジュースみたい」
その通りだ。
このブラッディ・メアリーは、お酒らしくない味が一つの売りなのだから
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:26:00.55 ID:k1Wt/7ZlO
- 僕モナに出てきたアレか?
マリーだっけ?
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:26:03.87 ID:amx02RSE0
- ツンさんは順調な勢いで、グラスを傾けていく。
(´・ω・`)「……このカクテルの名は女王に因んで付けられたと言いましたが、僕はもっと、別の解釈が出来るとも思うんです」
ξ゚听)ξ「へぇ、どんな?」
(´・ω・`)「……このカクテルは、何故だか分かりませんが、よく男性から女性に送られるのですよ」
まぁ、僕は本当の理由も知っているのだが、それはここでは伏せておこう。
(´・ω・`)「童話や神話と言うのは、これまた何故なのか、東洋にも西洋にも似たようなものが出てくるらしいです。
そして、こんな迷信があるのですよ。『美しい女性の血液は、それを浴びた者を美しくする』と」
お二人が、ごくりと生唾を飲んだ。
(´・ω・`)「日本では空洞の竹を女性に突き刺して、血の溜め池が作られたとか。
西洋で有名なアイアンメイデンは、名の通り処女の血を集める為のものです。」
区切りのいい所で小さく一息吐いて。僕は更に続ける。
(´・ω・`)「だからブラッディ・メアリーには、より貴女が美しくなりますように。
そんな意味が込められているのかも、知れません。
まぁ、少し血なまぐさい話ではありますけどね」
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:28:07.00 ID:amx02RSE0
- 軽く笑った後、僕は手を差し出しグラスを指す。
(´・ω・`)「……ツンさんも、それを飲んでみたらいかがですか? 更なる美しさは、更なる勇気をくれるかもしれませんよ?」
ξ゚听)ξ「……っ」
僕の言葉に彼女は一瞬戸惑うも、すぐにグラスに残った液体を一気に飲み干した。
やれやれ豪快な事だ。
ξ゚听)ξ「……ねぇ、ブーン?」
俯き気味だった顔を上げて、彼を見る。
ただそれだけの動作で――ツンさんはくらりと、まるで立ちくらみのように上体を前に倒れこませた。
ξ*゚听)ξ「あ……あれ?」
(;^ω^)「だ、大丈夫かお!?」
慌てて、ブーンさんが彼女を介抱する。
二人の顔が、とても近くなる。
いけ、ツンさん。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:29:15.79 ID:MmJKvG7V0
- 言っちゃえー
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:30:03.53 ID:amx02RSE0
- ξ*゚听)ξ「……あのね、ブーン。私……その……ずっと昔からアンタの事が……」
彼女は、そこで一旦俯いてしまった。
だけど、
好きだったの。
告白の言葉を彼女は確かに言い、彼は確かに聞いたのだ。
僕には聞こえないような小さな声で。
それでも口の動きを見て、僕にはそれが分かった。
( ^ω^)「……僕もだお。ツン、大好きだお」
やがて彼が答え、暫くの間、三人しかいないバーには優しい沈黙が流れた。
これを破るのはどこか心苦しい物がある。
だが、生まれたばかりのカップルに祝福をするのも、やはりバーテンダーの仕事だ。
(´・ω・`)「おめでとうございます、お客様。お祝いとして、一つ捧げたいカクテルがあるのですが……。もちろん私のおごりです」
( ^ω^)「ありがとうございますお。……でも、ツンはもうかなり酔ってるみたいだし、申し訳ないんですが……」
(´・ω・`)「ふふ、大丈夫ですよ」
言うや否や、僕は材料をカウンターに並べる。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:32:04.69 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「レモンジュース、砂糖、卵、ジンジャーエール。
スライスレモンにチェリー。材料はこれだけです」
( ^ω^)「おっ……? それじゃただの……」
(´・ω・`)「えぇ、ただ混ぜるだけでは、ミックスジュースに過ぎません。
ですが、氷を選び、シェイクの方法と時間を考え、心を込める事で……」
二つのグラスにカクテルを注ぎながら、僕は言う。
(´・ω・`)「ラバーズドリームと言う、一杯のノンアルコールカクテルが出来上がるんです」
ツンさんの方には、甘みを抑え、酸味と炭酸を強めたラバーズドリームを注がせてもらった。
酔い覚ましとしても、いける一杯だ。
( ^ω^)「恋人達の夢……、素敵な名前ですおね」
ξ*゚听)ξ「ホントね。ブーン……乾杯」
二人は軽く、グラスを鳴らす。
小さな小気味いい音が、僕にはまるで祝福の鐘のように聞こえた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:33:53.69 ID:wiUqVJas0
- 好きなふいんき(ry
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:34:06.76 ID:amx02RSE0
- しかくして二人は帰り、僕は再びグラスを磨き始めた。
『血』に染まったグラスを洗い流しながら、僕は心中でツンさんに謝った。
何せブラッディ・メアリーを男性が女性に進めるのは、
簡単に飲めてしまう口当たりに比べ、アルコール度が高い。
つまり簡単に酔わせてしまえるのが理由なのだから。
ウォッカを先にシェイクしたは、空気と混ぜる事で、アルコールの角を殺す事が目的だ。
塩とウスターソースを加えたのも、よりトマトジュースさを前面に出し、また味を複雑に変化させる為だ。
そうする事で、ウォッカが多量に入っていても、簡単に飲む事が出来る。
(´・ω・`)「それをあんな風に飲んじゃ……そりゃ酔いもするよね」
まぁ、嘘も方便と言う。
結果として、また一組のカップルが出来上がったのだから、それでいいだろう。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:36:04.11 ID:amx02RSE0
- ここはバー、バーボンハウス。
多くの――とは言えないかも知れないが、それでも日々疲れたお客様がやってくる。
僕の仕事はそんなお客様に、癒しを感じるお酒を提供する事だ。
入り口のドアがまた、軋みと共に開かれる。
僕は笑顔を作り、入り口の方を向いて言う。
(´・ω・`)「いらっしゃいませ、ようこそバーボンハウスへ」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:36:32.22 ID:9a0T5EcuO
- なんかレモンハートみたい
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:37:59.85 ID:Cw4f6AdZO
- いいね
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:38:08.05 ID:amx02RSE0
- ここまで第一話。
>>19
やっぱり一番手っ取り早いのは銀座とかに行く事ですねー。
>>26
マリーもメアリーも同じです。
本当はそんなグビグビ飲める物でもないので、もし飲まれる時はご注意を。
続けて二話目なのです。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:38:42.27 ID:wiUqVJas0
- おお、二話もあるのか
一話面白かった、期待
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:40:03.63 ID:amx02RSE0
-
薄暗くもどこか柔らかい灯りと、重厚感に溢れる木製のカウンター。
その向こう側に、僕はいる。
背後には酒棚を。
お世辞にも広いとは言えない空間で、ただ黙々と、グラスを磨く。
ここはバー、バーボンハウス。
多くの――とは言えないかも知れないが、それでも日々疲れたお客様がやってくる。
僕の仕事はそんなお客様に、癒しを感じるお酒を提供する事だ。
さて、そろそろ開店時間だ。
今日はどんなお客様が来るのだろう。
……おや、珍しい。
こんな早くから来て頂けるとは、一体どんなお客様なのだろうか。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:40:19.52 ID:c3Vw0MWjO
- これはきたいできますな
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:41:04.59 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「……いらっしゃいませ。ようこそバーボンハウスへ」
ドアを潜って入って来られたのは、くたびれたスーツに身を包んだ中年の男性だった。
いや、中年と言うよりは、最早初老と言うべきか。
(´・ω・`)「何に、致しましょうか」
( ´ー`)「……ジンベースの物で適当に。アルコールは程々でお願いします」
(´・ω・`)「かしこまりました」
ジンベースでアルコールが強くない。
となると、アースクエイクやギムレットは除外される。
女性ならばオレンジ・ブロッサム辺りを出すところだが、
初老の男性にはどこか不似合いな気がしないでもない。
ここは、ゴールデンデイズで行ってみよう。
ジンと桃のリキュール、そこにオレンジジュースを加える。
まろやかな味の中にも辛味と酸味があり、爽やかな甘さのカクテルだ。
(´・ω・`)「どうぞ……。ゴールデンデイズです」
( ´ー`)「ありがとう」
お客様はグラスを受け取ると、そっと口に運ぶ。
静かな飲み姿が、とても様になる方だと思った。
くたびれた感じのスーツでさえ、どことなく気風を帯びて感じる。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:42:46.10 ID:k1Wt/7ZlO
- 支援
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:43:03.69 ID:amx02RSE0
- ( ´ー`)「ゴールデンデイズ……、黄金の日々ですか」
グラスの中の液体が半分ほどに減った頃、お客様が呟いた。
( ´ー`)「……実は私、今日で定年退職なのですよ」
(´・ω・`)「それは……よろしいのですか? 送別会などは……」
( ´ー`)「私はそう言う賑やかな物が苦手でして……簡単に済ませて終わりにしてもらいました」
お客様は目を閉ざし、小さく息を吐く。
その様子はまるで、何か心に憂いを抱えているようだった。
( ´ー`)「……少し、愚痴のような物を吐いてもよろしいでしょうか」
(´・ω・`)「勿論です。そうして少しでも気分よく帰っていただくのが、バーの存在意義なのですから」
ありがとうございます、と。
初老のお客様は恭しく言った。
それが僕の仕事なのだから、礼を言う必要などないと言うのに。
( ´ー`)「私は……自分で言うのもなんですが、とても真面目に仕事をしてきました。
42年間働いて部長にまで上り詰めて、そこそこ会社に貢献出来たと思っています」
ですが、とお客様は言葉を繋いだ。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:44:28.46 ID:Kx8xDd5Y0
- 支援
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:45:03.64 ID:amx02RSE0
- ( ´ー`)「送別会でね、こう言われたんですよ。『これからも、第二の人生頑張ってくださいね』って。
そこで私は思ったんです。一体何を頑張ればいいのか、と」
誰だか知らないが、全く出来てない社員だ。
仕事だけがライフワークだと言う人は、サラリーマンなら少なからずいる。
だから頑張ってください等の、自分の与り知らない所にまで踏み込んだ発言は、送別会ではしてはいけないのだ。
( ´ー`)「……バーテンダーさん。貴方には、何か趣味がありますか?」
(´・ω・`)「趣味ですか。……いえ、今は仕事で頭がいっぱい、と言った所ですね」
( ´ー`)「そうですか。バーテンダーには、定年もありませんしね」
少しだけ羨ましそうに、お客様が仰った。
(´・ω・`)「えぇ、『バーテンダーは仕事ではなく生き方だ』と、そんな言葉もあるくらいですから」
( ´ー`)「羨ましいですね。……私はこれから、どのように生きればいいんでしょうか」
お客様の言葉に、僕は答えかねて口を閉ざしてしまった。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:45:41.80 ID:InQsqb/S0
- いいね支援
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:47:04.26 ID:amx02RSE0
- ――カウンターを隔てて、客席――
( ´ー`)「羨ましいですね。……私はこれから、どのように生きればいいんでしょうか」
私の言葉に、若いバーテンダーは言葉に詰まり、黙り込んでしまった。
まったく、大人気ない事だ。
何を今更、ペシミズムに浸っているのか。
悲観になる理由が、どこにある。
私は人生を後悔しているのか?
そんな筈はない。
48年間、会社に尽くし続けたのは私の誇りだ。
辛いと思った事など、一度も無かったのだ。
ならば何故。
『第二の人生、頑張ってくださいね!』
不意に、部下から言われた言葉が、リフレインした。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:48:50.79 ID:2YfOVhpPO
- 話の軸がしっかりしてる
支援
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:49:03.56 ID:amx02RSE0
- 同時に、頭の中でかちりと、音が鳴った気がした。
あぁ、そうか。
全てが、合致した。
私はもう、別人となっていたのだ。
仕事だけを生き甲斐としてきた人生は終わり、別人として、今その人生を眺めているのだ。
私の人生は、他人から見れば、それはもうつまらない物だったのだろう。
昔ながらの友人がいる訳でもなし。
結婚もしていない。
本当に、仕事だけしかない人生だ。
なるほど、これは確かにつまらない。
思わず蔑笑がこみ上げてきてしまう程だ。
私はその笑いを誤魔化す為に、再び目の前のグラスを口に運んだ。
( ´ー`)「……?」
しかし口内に広がったのは、調和の取れた爽快な味ではなく、違和感だけだった。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:51:00.11 ID:cal1IeYb0
- 勤務年数が6年延びてますよ
支援
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:51:04.51 ID:amx02RSE0
- 確かに美味しかった筈のカクテルは、ひどくばらばらで、薄っぺらい味に変容していた。
(´・ω・`)「あ……、お時間が経ち過ぎたようですね。もしよければ、作り直しましょうか?」
どうやら私は、思ったよりも長い時間、考え事をしていたようだ。
私の微かな表情の変化を読み取ったのか、若いバーテンダーがそう提案してきた。
あるいは、私は自分が思っている以上に酷い顔をしていたのかもしれないが。
( ´ー`)「いえ、結構です。これはこれで、私にお似合いですしね」
彼の申し出を断ると、私はグラスに残った液体を全て飲み干した。
そう、これがお似合いなのだ。
色あせてしまった、つまらない味。
私が最も輝いていたであろう黄金の日々は、少し時間が経ってしまえば、この程度の物なのだ。
(´・ω・`)「……そんな事、ありませんよ」
不意に、バーテンダーが小さく呟いた。
何の事だろうか。
考えて、すぐに気がついた。
彼は、私を気遣ってくれているのだ。
私の人生を、無価値なものにしまいとしてくれている。
- 52 名前:>>50 しまったぁ。>>47は42年の間違いです:2008/12/01(月) 23:52:59.85 ID:amx02RSE0
- ( ´ー`)「……そう言ってもらえると、嬉しいですね」
飲み下した酒のせいか、それともさっきの言葉のおかげか。
少しだけお腹の辺りが、暖かくなった気がした。
(´・ω・`)「42年間仕事と会社に尽くし続けた……。凄い事じゃないですか。尊敬しますよ。
それに、生まれた時から全てを持っている人なんて、どこにもいません。
今からでも、何かを始める事に遅すぎるなんて事はありませんよ?」
本当に、ありがたいと思った。
彼は私の事を思って、真摯な言葉を掛けてくれている。
だが、私には。
年老いて枯れてしまった、その枯れを自覚してしまった私には。
あと一歩、その言葉は届かない。
自分でも届いて欲しいと思っているのに。
少し勇気を出して手を伸ばし、口を開けば、届くのに。
( ´ー`)「……それは、若い者だからこそ言える言葉なのですよ」
口から出てくるのは、意図とは反したひねくれた言葉のみだった。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:53:54.54 ID:MmJKvG7V0
- (´・ω・`)「僕らがなんで生きてるのか教えてあげよう」
を思い出したw
- 54 名前:>>50 しまったぁ。>>47は42年の間違いです:2008/12/01(月) 23:54:03.91 ID:amx02RSE0
- 本当に、申し訳なく感じる。
彼の誠意を、私は下らないプライドでむげにしてしまった。
彼のバーテンダーとしての矜持にも、傷をつけてしまったかも知れない。
(´・ω・`)「……お客様に、飲んで頂きたいカクテルがございます。よろしいですか?」
不意に、バーテンダーが口を開いた。
私は面を喰らいながらも、小さく頷いた。
(´・ω・`)「ありがとうございます」
バーテンダーはそう言うと、にやりと笑った。
そして、カウンターの上に幾つかのボトルを並べ始めた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:56:03.97 ID:amx02RSE0
- ――再びカウンターを隔てて――
(´・ω・`)「……お客様に、飲んで頂きたいカクテルがございます。よろしいですか?」
お客様は、とても疲れている。
疲れや迷いのせいで、魂の輝きを失ってしまっている。
自分の本当の声が聞こえているのに、聞こえないふりをしてしまっている。
ならば、グラス一杯のお酒で、輝きを無くした魂を濯いで差し上げるのは、やっぱりバーテンダーの仕事じゃないか。
(´・ω・`)「……今からお出しするお酒の名は、『イエスタディ』と言います」
( ´ー`)「昨日……ですか」
(´・ω・`)「えぇ、少し拡大解釈して、『過去』とも取れますが。……どうぞ」
差し出されたグラスを、お客様は手に取った。
一瞬だけ迷ったようにグラスの液面を見て、それから一口カクテルを口に含んだ。
(´・ω・`)「いかがですか?」
( ´ー`)「……辛くて、少しキツいですね。でも、色合いも綺麗で美味しいですよ」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:56:49.26 ID:kGAWXUzc0
- おもしろいな
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:57:40.07 ID:k1Wt/7ZlO
- 支援
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/01(月) 23:58:04.59 ID:amx02RSE0
- (´・ω・`)「でしょう? 私は過去と言うのは、このカクテルと同じだと思っています。
少し口当たりはキツいかもしれないけど、それでも綺麗で、美味しくて、
何よりその味のように、確かに存在するものなんだと」
顔を上げたお客様と、目が合った。
その目には、少しだけ輝きが戻ったようにも感じられる。
( ´ー`)「……ですが、それも今だけでしょう? 少し時間が経てば、先ほどのグラスのように、褪せた味に……」
だが、まだ足りなかったようだ。
もう一押し、必要らしい。
(´・ω・`)「……本当に、そうでしょうか?」
( ´ー`)「と……言いますと?」
勿論、その一押しにも抜かりは無い。
(´・ω・`)「本当ならお勧め出来た飲み方ではありませんが……
少し時間を置いてから、もう一度そのグラスを飲んでみてください」
お客様は訝しみながらも、了承してくれた。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:00:05.94 ID:dB8sZFn10
- 暫くの間、奇妙な沈黙がバーに流れた。
(´・ω・`)「……大体、先ほどと同じ位の時間が経ちましたね」
( ´ー`)「……そうですか」
お客様が、再びグラスを手に取る。
その目はやはり力なく、しかし小さな期待も、垣間見えた。
お客様自身、期待しているのだ。
このカクテルに。
昨日を、過去を意味するこのグラスに、自分が救われるだけの力を。
答えられるだろうか。
一瞬だけ、心に不安が過ぎる。
偉そうな事を言って、本当にミスは無かったか。
氷選びは適切だったか。
またその積み方は正しかったか。
シェイクは失敗していなかっただろうか。
時間は長すぎなかったか、短すぎなかったか。
お客様を救い得る完璧な味を、僕は作れただろうか。
お客様が、グラスを一気に傾けた。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:02:04.42 ID:dB8sZFn10
- ( ´ー`)「……」
(´・ω・`)「……」
静寂が訪れる。
心臓が早鐘のように高鳴っていく。
だが、表情には億尾にも見せてはいけない。
川の奥底を流れる静かな水のように、ただ笑顔だけを浮かべている。
( ´ー`)「……不思議なカクテルですね。時が経っても色褪せない過去。一体どんな魔法を使ったんですか?」
成功していたようだ。
僕は心中で、ほっと胸を撫で下ろした。
(´・ω・`)「不思議ですよね。……お酒は、ただの液体じゃありません。
どんなお酒にも、それぞれに魂が篭められているのです。
だからこの『イエスタディ』は、時が経っても味が褪せないんじゃないでしょうか」
にこりと笑いながら、僕はお客様にそう申し上げた。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:03:41.21 ID:SYmug1+/0
- 何話構成なんか?
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:04:03.74 ID:dB8sZFn10
- ( ´ー`)「……なるほど。ありがとう、バーテンダーさん。
君のおかげで、私の過去が少しだけ良い物になった気がするよ」
(´・ω・`)「いえ、貴方の人生は元から、素晴らしいものだったのですよ。
私はただ、そこに付いてしまった微かな曇りを、洗い流しただけです」
僕の言葉に、お客様は小さく微笑んだ。
その目には、優しい煌きが灯っている。
( ´ー`)「そうかな。……そうなのかもしれないね」
(´・ω・`)「そうですよ。そうなんですよ、お客様」
僕が小さく微笑みかける。
お客様も、小さく笑い返す。
この時僕は、本当にバーテンダーをしていて良かったと、思えるんだ。
( ´ー`)「ありがとう、また来させてもらうよ。……遅れたけど、私はこう言う物……だったんだ」
古ぼけた名刺入れから一枚の名刺を取り出し、お客様はカウンターに置いた。
丁寧に礼を言い、両手で拾い上げる。
(´・ω・`)「シラネーヨ様ですか。分かりました、お待ちしております」
シラネーヨさんはドアの近くで小さく頭を下げて、それから店を出て行った。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:05:17.23 ID:e0sOI0an0
- いい雰囲気だ、お酒の勉強にもなりそう
支援
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:06:03.94 ID:dB8sZFn10
- シラネーヨさんが帰ってから、僕はまたいつものようにグラスやボトルを磨き始めた。
イエスタディのグラス。
氷のチョイスと、シェイクの仕方、回数に細心の注意を払う。
またグラスの淵に直接、微かにライムの皮をピールしておく。
こうする事で、少しの時間が経ったくらいでは香りや味の褪せないグラスが出来る。
誰かに知られたら、お前のした事は詭弁だと謗られるだろうか。
(´・ω・`)「でも……嘘も方便って言うしね」
だけど、そもそもバーとはそう言う所なのではないだろうか。
バーのカウンターは舞台なのだと言う言葉がある。
このカウンターの上では、精一杯のカッコつけが許される。
ほんの少しの嘘も、許されるのだ。
事実、シラネーヨさんは来た時よりも晴れやかな気持ちで、
お帰りして頂けただろうと、僕は思う。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:06:42.90 ID:j4gbSuU50
- 「〜こういう者……」、だな
支援支援
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:07:53.45 ID:iQOlIrOT0
- >>65
「だった」でいいだろ……
名刺には会社の名前とか役所とか書いてあるんだから
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:08:03.61 ID:dB8sZFn10
- 翌日。
またも開店時刻直後に、ドアが軋みを立てた。
( ´ー`)「やぁ」
(´・ω・`)「いらっしゃいませ。……シラネーヨ様」
少しだけ面を喰らってしまった僕に、彼は笑いながら言う。
( ´ー`)「第二の人生って事でね、暫くはこの店でお酒を飲む事を、趣味にさせてもらうよ。
……構わないよね?」
僕は笑顔で答える。
(´・ω・`)「えぇ、勿論です。今日は何にいたしましょう」
今日、ここバーボンハウスには、また一人常連さんが増えた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:10:09.61 ID:dB8sZFn10
- これで第二話はおしまいです。
支援や質問、その他のレス、本当にありがとうございました。
>>47は自分が足し算引き算を間違えたのです。お恥ずかしい。
>>65
そうですね。×物 ○者でした。
ありがとうございます。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:10:30.48 ID:j4gbSuU50
- >>66
物→者
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:10:49.23 ID:iQOlIrOT0
- そっちだったか……
乙
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:12:08.68 ID:PUBPRzRlO
- これは期待出来る
乙
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:19:37.62 ID:j4gbSuU50
- 終わりかな?
乙、続き期待してる
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:20:31.92 ID:cPjBT3BH0
- 面白いな、読み物くわしくねーからなんて言って言いか解らないけど
面白いな
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:20:55.11 ID:dB8sZFn10
- 今回の投下分はおしまいですー。
また近い内にスレ立てしたいと思いますです。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:22:22.20 ID:bZ183B+Y0
- 一乙
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:23:42.18 ID:bYrj5Szt0
- 素晴らしい文才の持ち主だなw
また楽しみにしとくよ 乙
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:28:51.28 ID:0KlBQo2OO
- 乙 こういう雰囲気を醸し出す文面を書ける奴はすごいと思う
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:39:46.51 ID:dC/E7Ljn0
- いいスレだった、お疲れ!
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:43:18.08 ID:yrhGkxTdO
- 寝る前にいい読み物をしたよ
ありがとう>>1
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 00:47:45.03 ID:4Bn34gVDO
- 乙
また頼む
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 01:33:30.41 ID:cop674Qz0
- すばらしいお味だった
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/02(火) 01:45:18.87 ID:Scjc67YgO
- イーデンホールか?
しかしショボンはやっぱり違和感無いな
乙っした
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