( <●><●>)は全て解っているようです  [ログ






( <●><●>)「12月27日、今日もヒートちゃんに男の影なし」

( <●><●>)「早朝、ヒートちゃんの出したゴミより古い靴下ゲット、専用宝箱へ」

( <●><●>)「朝食は手作りの目玉焼きとお味噌汁に昨日の晩御飯の残りである煮物。家に進入して奪取成功」

( <●><●>)「これは今すぐ食しましょう」

( <●><●>)「……ヒートちゃんのことは全て私(わたくし)、解ってます。ふ……ふふふふふふ」

( ><)「………あのう」

( <●><●>)「さて、今日も一日元気に保護活動といきますか」

(;><)「あのう!!!」

( <●><●>)「どうしました、ビロード」

(;><)「どうもこうもないんです! 人の家でストーカー行為をしないで下さいなんですーー!!」




振り向き、解せないという風に顔を傾げた男を僕は思い切り怒鳴りつけました。
今まで友達のよしみで我慢してきたけれど、今日という今日は限界です。
なんだって僕の部屋が見知らぬ女の子の写真で埋まらなければならないのでしょう?

こんな理不尽、流石の僕も我慢できません

(;><)「いい加減にして欲しいんです! ここは僕の部屋なんですよ!?
      ストーカーするならせめて見えないところでやってほしいんですっ!」

( <●><●>)「…ビロードが言いたいことはよく解ってます」

彼、ワカッテマスくんは僕が子供の頃からずっと親しくしている幼馴染でした。

小さい頃はそれなりに格好よくて頭もよかったのに、ある日を境に、突然彼は変わってしまいました。
まるで頭のネジがばらっばらになったかのように、言動、行動、全てが常人のそれではなくなってしまったんです。

何が原因なのかも
何をすれば治るのかも
それは未だにわかんないんです。

ただ、子供の頃はヒーローとして憧れていた人なので、
今のワカッテマスくんの姿は正直見ていて泣きたくなってきます。

( ><)「解っているなら話は早いんです…早く」

( <●><●>)「ヒートちゃんの手作りお味噌汁、ビロードも飲みたいのですね」

(;><)「わ、解ってな――――い!!」

( <●><●>)「確かに家に厄介になっている以上、多少は譲るべきですね。
         解ってますよ、このジャガイモはビロードに差し上げます」

(;><)「全然解ってないし別にいらないんです!!
      僕が言いたいのはそのストーカー行為のことですよ!」


はて?と首を傾げるワカッテマスくんに僕は盛大なため息をつきました。

彼は昔からよく『解ってます』というのが口癖でしたが、最近は全くわかっていません。
いや、解っていないというよりも自分で歪曲した事実を頭の中で信じて疑わないのです。

今だって僕が怒っているのは、自分が好きな彼女のお味噌汁を独り占めしているからだと思っているに違いないんですから。

( <●><●>)「ストーカーではありません。
        これは純真無垢なヒートちゃんが誰かに騙されないよう見守る保護行為です」

( ><)「ストーカーは皆そう言うんですよ」


( <●><●>)「…貴方もわからない人ですねビロード。私と一緒に見守りたいならそう言えば良いのに」

(;><)「いやそんなこと一言も言ってないんです!」

最近の彼は解っていないどころか僕の言いたいことを1%も酌んでくれません。

痺れを切らした僕はワカッテマスくんの首に下げられていたデジカメを奪い、画像をサムネイル表示にして彼の前へと突きつけました。

(#><)「これの何処が保護写真だって言うんですか!」

サムネイル表示にされているその画像は、小さく潰れていて良く見えないけれど
いずれも下着姿やパジャマ姿、どうやって撮ったのか入浴中の写真までと

霰のないシーンがいくつも写されているということだけはわかります。

( <●><●>)「ヒートちゃんの健康美は人類の宝だと、そう思いませんか」

(;><)「僕は犯罪の片棒を担ぐ気はないんです!」

この友人はもうダメです。
僕は近いうち警察に行く羽目になりそうなんです。

頭の中で警察に事情聴取される自分を想像しながらがっくりとうな垂れていると

向かいの家から可愛らしい声が響きました

ノハ ゚听)「行ってくるぞぉおおおっ!」

( <●><●>)「はっ!」

ワカッテマスくんが僕の持っていたカメラを奪い窓へと走ります。

向かいの家の玄関から出てきたのは、長い髪を揺らしながら出てきたセーラー服の女の子でした。

彼女が『ヒートちゃん』
ワカッテマスくんにストーキングされている可哀相な女の子なんです。

ヒートちゃんは黒いブーツを雪の上で滑らしつつも、ブーン!と両手を広げて走っていきました。

( ><)「…………」

( <●><●>)「ふふふふふヒートちゃんがそのポーズで走ることが好きだということは、
         私いつも解ってます。解ってますとも。はぁはぁはぁはぁはぁ」

カシャ!カシャ!パシャ!ジー…カシャ!パシャパシャパシャ!!

(;><)「…………」

隣から物凄い勢いでシャッター音が聞こえてきました。

振り向きたくはなかったけど恐る恐る横を振り向けば案の定、そこには鼻息を荒くした
ワカッテマスくんが一心不乱にシャッターをきっています。

父さん母さん…僕はもう本当にダメかもしれません。


++++++++


それから、ワカッテマスくんはいつものように「保護行為に出かけてきます」といいながら
盗聴器やらデジカメやらを身につけ、目立たない格好で出ていきました。

僕は諦めにも似た思いで手を振るとそのまま扉の鍵を掛け、部屋の中で横になりました。

( ><)「……はぁ…」

そもそもワカッテマスくんはいつからあんな風になってしまったのでしょう?
まったくもってわかんないんです。
子供の頃はそれなりに女の子にモテる人だったということは覚えているのに、
付き合っている姿はそういえば見たことがありませんでした。

そして実を言えば、彼がやっているストーカー行為は『ヒートちゃん』が最初ではなく、
今までも何回かやっていることを、僕は知っているのです。

幸か不幸か、警察のお世話になったことは一度もないけれど、
僕の部屋が見知らぬ女の子の写真で埋まったことは一度や二度ではありませんでしたから。

良くは知らないけど、ワカッテマスくんが追いかける女の子はいずれも一人身で、
その度に彼は「保護行為」と称して女の子を付回していました。

しかしその女の子に男が出来ると「彼女は穢れてしまいました」と言って
また違う女の子を「保護行為」にかかるのです。

( ><)「惚れっぽいんですかね…」

中身はアレでも、外見は結構格好いいのだから、一度くらい真っ向から告白してみれば案外上手くいくかもしれないんですのに。
とは思うものの、好きな子さえいない僕にそんなこと言えるはずもありませんでした。

そもそもクリスマスもワカッテマスくんはストーカー行為を止めず、女の子を付回していたので
僕は友人が犯罪に手を染めないよう、ずっと一緒にいるという寒いことをしていたんです。

…自分で思い出すだけでも泣きたくってきました。

( ><)「…バイト、行かなきゃなんです」


ガチャリ、といつもより重く感じる鍵を開けて、ノブを回し僕は外へ出ました。
太陽はまだ真上で笑ってて、なんだか目に光が刺さるようでした。

…はあ、今頃はどこかでワカッテマスくんも保護活動に勤しんでいるのでしょう
僕はなんだか泣きたくなって来ました


+++++++++



/ ,' 3「じゃあ、解らないことはあの子に聞いてね」

ノハ ゚听)「了解しましたぁあぁぁあ!!」

(;><)「……………」


ちょっと待ってくださいなんです
何ぞこれ

店に着くと、店長の隣で『ヒートちゃん』が右手を上げて店長と話しているところでした。

制服に着替えてやってきた僕を見つけると店長は軽く手招きをし、隣に立っていた彼女を僕に紹介してきます。


/ ,' 3「ビロちゃんビロちゃん、この子、今日から新しく入るバイトの子だよ」

ノハ ゚听)「素直ヒートです!よろしくお願いしますだぞぉぉお!先輩!!」

そういって彼女は僕の右手を強引に握ってきました。

自己紹介されるまでもなく僕は『ヒートちゃん』のことを知っていましたが、
まさかそんなことを本人に言うことは出来ず、ただされるがままに握手します

(;><)「え、あ、あう…」

/ ,' 3「新人さんだからね、わからないことがあったらビロくん教えてあげてほしいんだよ。
    ヒートちゃん、こちら先輩のビロードちゃんだよ」

(;><)「店長!そ、そんなこと言われても僕だってまだわかんな」

ノハ ゚听)「はい!頑張りまあぁぁぁあす!」

(;><)「あぁあ……」

僕の意見は殆ど無視され、店長は早々に厨房の方へ行ってしまいました。
後には僕とヒートちゃんだけが残されてしまい、気まずい雰囲気が流れました。
実際気まずかったのは僕だけなのかもしれませんが

このまま突っ立っていることもできず、とりあえずはとレジについて教えることにしました。

僕が働いているバイト先はパン屋さんで、販売の人間は商品の値段は全て頭に記憶しなければならないのです。

何十種類もあるからそれを覚えるだけで結構大変なんです

( ><)「それじゃあ、とりあえずレジ打ちについてなんです」

ノハ ゚听)「はい!」

( ><)「えっと…店長から聞いてると思うんですけど、パンの値段を覚えなくちゃいけないんです」

ノハ ゚听)「聞きましたぁぁああ!家である程度全部覚えてきましたよ!!」

(;><)「え、そ、それはすごいんです」

僕なんて覚えるのに一週間もかかってしまったというのに、
どうやらこのヒートちゃん、記憶力は良いらしいんです。
いや、単純に僕の記憶力が悪いだけなののかもしれないけれど。
でもそうなると話は早いんです、僕はレジについての説明を始めました。レジのキーを指差しながら、一つずつ教えていきます

( ><)「まず値段を押して、パンの種類を押すんです。
      例えばあんぱんなら110円を押して、甘パン……っと」

ノハ ゚听)「間違ったらどうするんですか?」

(;><)「その時はこの訂正ボタンを…………ハッ!」

ノハ ゚听)「先輩?」

何処からか、視線を感じました。
突き刺さるような痛いそれは、僕には身に覚えがあります。
なぜならばいつも近くでその視線を見ているからです

<●>)

(;><)「………………」

案の定、店先で全身真っ黒の服を来た厨二っぽい友人がこちらを見ていました。
本人はバレていないつもりなのかもしれませんが、正直隠れる気があるのかと問いただしたくなるくらいバレバレなんです。

ノハ ゚听)「先輩?どうしたんですかぁあー!」

( ><)「ちょ、ちょっとここで待ってて欲しいんです」

僕はヒートちゃんをその場に待たせ、店の外にでるとワカッテマスくんの首根っこ掴んで裏路地へと回りました。

ワカッテマスくんは裏路地に着くと僕へ気まずそうな視線を送ってきます

(;<●><●>)「……バレてしまいましたか」

( ><)「隠れてるつもりがあったんですか」

( <●><●>)「完璧だと思ってました」

( ><)「バカなんです」

どうして、彼はいつもこうなのでしょう。
どうして、いつもこう僕に迷惑ばかりかけるのでしょう。
そんなことを考えていると、不意にワカッテマスくんが話しかけてきました。

( <●><●>)「ビロード、あなたヒートちゃんをどう思いますか?」

( ><)「!それは…」

彼は僕にヒートちゃんを取られるとでも思っているのでしょうか。いやそんなハズはないんです。
ヒートちゃんと会うことは今日が初めてで、そして僕が彼女に興味ないことは、
いつもストーキングしているワカッテマスくんが一番よく知っているはずなのに。

真剣な目で僕を見つめてくるワカッテマスくんはなぜか問い詰めるよう前に進んできて、僕は後ずさりました

しかしその時、僕の中で小さな悪戯心が火を灯ったのです。
ここで、彼女が好きだといったらワカッテマスくんはどんな反応を示すのでしょう?
悲しむでしょうか、怒るでしょうか、それとも、恋人が出来たのだと祝福してくれるでしょうか?
どれも想像できそうでできません。

( <●><●>)「ビロード」

( ><)「…………別に、どうも思ってないんです。心配しなくてもワカッテマスくんの邪魔する気はないんです」

結局、僕は真実を告げました。
嘘をついたところでなんの意味も無いからです。


するとワカッテマスくんは突然音をなくしたように、すぅと無表情になりました。
いいえ、彼の場合いつも無表情です。それは僕にだってわかるんです。

でも、今のワカッテマスくんはこう、何かに興味をなくしたよう地面へと視線を向けています。

持っていたデジカメを首から外して僕の首にかけ、盗聴器は近くのゴミ箱へと投げ捨てました

( <●><●>)「帰ります」

(;><)「え、あ、ヒートちゃんは?」

( <●><●>)「そんな女、もうどうでもいいのです」

それでは、と別れを告げて、ワカッテマスくんは路地裏を抜けかえって行きました。
後にはデジカメを託された僕だけが突っ立っているだけです。

…一体なんだったのでしょう。
どうして、ワカッテマスくんはあんなにも興味をなくしてしまったのでしょう?
僕にはさっぱりわかりませんでした。

ノハ ゚听)「先輩っ!こんなところにいたんですかぁあああ!もう、お客さん沢山来ているんですよ!!」

(;><)「え、わ、ご、ごめんなさいなんです!」

その時、ヒートちゃんの声が静寂を切り裂きました。店員のいないパン屋なんてどうしようもありません。
僕は慌てたヒートちゃんに手を引かれ、再びお店に戻ることにしました。
それにしても、どうしてワカッテマスくんはあんな風に言ったのでしょうか?僕にはわかりませんでした


++++++++


家に帰ると、いつもと同じようにワカッテマスくんが座布団に座っていました。
僕は幾分か安心して隣に座ります。

( <●><●>)「お帰りなさい」

( ><)「ただいまなんです。……写真、外したんですね」

( <●><●>)「もう不要ですから」

( ><)「今度は誰なんです?」

( <●><●>)「この近くに住む妹者たんです」

壁や天井、一面に貼り付けられていた少女の写真は今や跡形もなく、
代わりにおかっぱ頭の幼女の写真が貼り付けられていました。
とうとうこんな小さい子にまで…という視線を向けましたがワカッテマスくんはまったく気づいていません。

( ><)「ワカッテマスくん、一つ聞いていいんです?」

( <●><●>)「なんですか?」

( ><)「どうして、ヒートちゃんに興味をなくしたんですか?わかんないんです」

彼氏が出来たとか、彼女に好きな子が出来たというのならば、話はわかります。
ワカッテマスくんはストーカーですけど、良識のあるストーカーです。
まぁこの言葉もなんだかおかしいですけど、彼は絶対にその女の子を直接的に傷つけたりはしませんし
ストーカー行為がばれるようなヘマもしません。

簡単に言うと、いつもただ見ているだけなんです。

だから、彼氏も出来ていないヒートちゃんに興味をなくした理由が、
僕にはどうしてもわかりませんでした

( <●><●>)「素直ヒートさんでは、ダメだったのです」

( ><)「?」

( <●><●>)「彼女だけではなく、ツンデレさんも、デレデレさんも、素直クールさんも、
         ペニサスさんも、ミセリさんも、ハインさんも、しぃさんも、……ダメだったのです」

その名前はどれも今まで彼がストーキングしていた女の子の名前でした。
中には聞いたことの無い名前もあったけれど、話の流れから察するに、多分間違いないのでしょう。

僕はいよいよ首を傾げてワカッテマスくんに問いかけます

( ><)「ダメって、何がダメなんです?」

( <●><●>)「解りませんか?」

( ><)「わかんないんです」

( <●><●>)「本当に?」

顔を近づけて、大きな瞳で僕を見てきます。
僕はその言葉に答えることが出来ず、うろたえるように口を噤みました

( ><)「…………」

( <●><●>)「ビロードは、私をなんだと思っていますか?」

(;><)「わ…ワカッテマス、くんなんです。僕の幼馴染で、友達の」

( <●><●>)「……そうですか」

ワカッテマスくんはそういって立ち上がり、近くにあった机の引き出しを開け、
中から出てきたそれを僕に手渡しました。
それは、一枚の写真

僕とワカッテマスくんが学生服姿で笑っている、卒業式の写真なんです。
桜の花びらが綺麗に待っている中、卒業証書を抱えて笑っていました。

( <●><●>)「あの時言っていればよかったのですかね」

( ><)「……?」

( <●><●>)「どうして、ビロードはいつもわからないんですか」

( ><)「わ、ワカッテマスくん?」

( <●><●>)「いつもいつもビロードは、わからないのではなく、わかりたくないだけなのでしょう」

がしり、と肩をつかまれました。
その力は強く、走った痛みに僕は思わず顔を顰めましたが、力が緩む気配もありませんでした

( <●><●>)「お願いですから、自覚してください。気づいてください」

真剣な眼差しで射抜かれ、僕は言葉を失いました。
どうしたのでしょう、これは本当にワカッテマスくんなのでしょうか?
いつものように女の子を見てニヤニヤしているのが本物の彼ではなく、タダの道化だったのだとしたら、
今此処にいる彼が本物のワカッテマスくんなのですか?
わかんないんです

わかんないんです!

ひらり、と一枚の写真が床に落ちていきます。
僕と、ワカッテマスくんの写真が

そういえば卒業式のあの日、彼はなんて言ったのでしょう。
今の時と同じような顔をしていた気がします。

( ><)「……ワカッテマスくん」

( <●><●>)「ビロードが気づいてくれるまで、私はストーキングをやめません」

( ><)「ストーキングって…保護行為じゃないんですか」

( <●><●>)「そんなこと、もうどうでも良いのです。ただ、気づいて、ちょっとだけ妬いて貰えれば、もうそれで」

( ><)「…………」

( ><)「…………」

俯いた先には、一枚の写真
セーラー服を着て笑っている僕と、学ラン姿のワカッテマスくん

二人とも楽しそうに笑っていて、あの時からずっと僕達の関係は変わらないものだと思っていました。
でも、そうじゃなかったのでしょうか。

胸が膨らんできて、声も男らしくなったりなんてしなくて、それでもワカッテマスくんだけは僕に
変わらず接してくれると思っていたのに、それは間違いだったのですか?

もう、それすらもよくわかりませんでした。

ワカッテマスくんの手が、僕の頭に伸びてきました。
僕はその手を振り払うことはしませんでした



〜( <●><●>)「は全て解っているようです〜 fin 〜

 

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