( ^ω^)はただ一向に立ち向かうようです  [ログ



ξ゚听)ξ「これで、よしと」

記録メディアを端末にのっけると、ようやく画面に映像が映しだされた。
顔面が可哀想な感じの男が壇上にいる。そこから映像は始まった。

『 (((‘∀`;)))』

ξ゚听)ξ「うわ」

男はバイブレーターみたいに震え、脂汗を滴らせていた。
笑みが顔に浮かんでいるが、引き攣っているせいかなかなかそうは見えない。
緊張、というやつである。

間違いない、この男は人間だ。

『 
 ミセ*゚ー゚)リ「今回のシンポジウムにお招きしたのは、ロボット工学の第一人者。
        世紀の大天才、鬱田ドクオ博士です!
        それでは、拍手でお迎えください!」           
  
        パラパラパラパラ
             
         (((‘∀`;)))「いひぇ、ど、どうもよろしくおねがぃします……」     』



ξ;゚听)ξ(ドクオ博士!?この人が!?)

人間は神に造られたらしいが、私たちは人間に作られた。
ドクオ博士は私たちを「人間と同じ感情を持ち、自分の思考を持つべき」
という理念のもとに作った人物である。


  (((‘∀`;)))「今回、私の研究の集大成でありゅ……で、あ、る
         独自開発のAIを搭載したロボットをここにお持ちしましゅた」
  
  (((‘∀`;)))「より人間に近く、自然な感情を持ったものに仕上がったと思います。
         それでは……クー!こっちにおいで!」                   』

かなりの早口でドクオ博士がそう言い終わると、舞台袖から子どもが出てくる。
黒い髪をたなびかせ、彼女はドクオ博士の隣に立った。

『 
  川 ゚ -゚)「皆さん、こんにちは。
       パパがお世話になっております。
       C.o.o.ver1,00です。よろしくお願いします」

   (;’A`)「ちょ!人前でパパって呼ぶのやめて!」  』

ξ;゚听)ξ「この映像……あいつ一体どこからこんな物を」

会場はその瞬間爆笑に包まれたが、私は心中穏やかではない。
クー……私たちの最初の者にして、この社会の基礎を作った人だ。
アダムとイブが、エデンの園で遊んでいるのを見ている気分だった。


『 
  川*゚ -゚)「ふふ、わざとやってるんだよ」
  
  (‘A`)「頼むからそういうのやめてくれよ……」

  川 ゚ -゚)「まあ、これで緊張も解けただろう?」
  
  (‘A`)「あ、ああ。まあね」

  (#^Д^)「おい!俺達は親子漫才を見に来たんじゃない!
        その子の性能と仕様………

   
           ザザッ                      』

ξ゚听)ξ「え?」

会場からヤジが飛んだ瞬間に映像が途切れた。
どうやらflvの部分が終了したらしい。

次に、画面には幾分か新しい形式の動画が映し出された。


 (‘A`)「あー、テステス、鬱田ドクオの個人記録」
 
 (‘A`)「クーの成長記録第112回目。
     えー備考。ボディの換装後6日目の記録だ」      』



ξ゚听)ξ「……」

これはまさか、ドクオ博士の持っていた映像記録か?
こんな国宝級の品物をあいつはどこから見つけてきたのだろうか。


 (‘A`)「クー、調子はどうだ?」

 川 ゚ -゚)「うーん、やっぱり慣れないよ。
      馴染まないうちは自分の体じゃないみたい」

 (‘A`)「ゴメンな、細かいところはあとで修正するから」  

川 ゚ -゚)「それより学校でみんなよりもおっぱい大きいから、
      注目されて困ってるんだ。
      ……娘に自分の趣味を押し付けるのはやめてくれ」 

 (;’A`)「こら!男親の前でそんな事言わないの!
     ていうかこれは趣味とかじゃなくて機能的に……。
     だぁあああああ!やめやめ!録画終了!」

 

                ザザッ         』


ξ゚听)ξ「学校ねえ」

ドクオ博士がクーを学校に通わせていた。
おそらく、クーの感情を実際の人間と摺りあわせていくのが目的か。
これは興味深い。が、ブーンがどうしてこれを見てあんな事をしたのが全く理解出来ない。

……それにしても、かなりの数の映像ファイルがある。
全部見ようとすると――三年六ヶ月二十一日と三時間かかる計算だ。

どれもこれもクーの成長記録であり、
見ている分にはただのホームビデオ程度の内容にしか見えない。

ケーキのろうそく(17本あった)を吹き消すクー。
防水加工してもらって、水辺にあそびにいくクー。

幸福そうな、二人の映像ばかりだ。

ξ゚听)ξ「……ふん」

なんだかイライラしてくる。
もしかして、私は嫉妬しているのか?


そうしてガーっと映像を送っていると、早送りが突然急停止した。
画面は、老人がテーブルの上で腕を組んでいる映像で一時停止している。

『 / ,’ 3 』

ξ゚听)ξ「お?」

教科書でよく見知った顔だった。
晩年の鬱田博士だ。
なんで止まったのかは分からないが、とりあえず再生してみる。


 / ,’ 3「これを見ている人へ、どうか落ち着いて聞いて欲しい」
  
 / ,’ 3「ワシは、ロボット工学の大家と人から呼ばれる、鬱田という者。
     まあ、やってきたことは子育てという方が正しいのだが。
     いや、どうでもいい話だな」
 
 / ,’ 3「……これから話す内容は私の遺言だ」    』

ξ゚听)ξ「……」

たぶん、この映像の核心部分だ。
私は、ソファーの上でだれていた体を起こした。



 / ,’ 3「私の作ったロボット、人の感情を持つロボットだが……。
     まあ、当初から問題を指摘されてきた。
     『労働する人』であるロボットが感情など持ってどうするのだ。とかな」

 / ,’ 3「感情をもてば、それに支配されて働かなくなるのではないかと言う人もいた。
     確かに、私も感情を持っているがゆえにいろいろ億劫になったこともある。
     じゃが、それは本質とはいえぬだろう」
                                                     
 / ,’ 3「人間は感情を原動力に歴史を拓き、それゆえに万物の霊長たりえたのだと私は思う。
     愛、憎しみ、悲しみ、怒り、喜び。
     その全ては人間の進展する力そのものだ」  
 
 / ,’ 3「人間は感情を軸にして生きる。社会の中でもそうだ。
     自分の意見を相手に感情的にぶつけ、結果として止揚することもある。
     相手をいたわってやって、その人の力を取り戻させる場合もある」       

 / ,’ 3「それをロボットにも組み込めば、彼らにも進化が訪れる。
     彼らによる、彼ら自身の進化だ。
     彼らは、ここに生命となる」』

ξ゚听)ξ「進化……」

ブーンがしきりに口にしていた言葉だった。
あいつ、やっぱりこれを見て。



 / ,’ 3「だが、政府は私の子供たちが作られる段になって、
     その進化にプロテクトをかけてしまいおった。
     『ロボットは人間に仕える物』『人間の生活を支える物』
     そんなくだらぬたわごとを、あの子たちの頭に植えつけた」

 / ,’ 3「ワシには、それを取り除く力は残っておらん。
     クーさえもあいつらにさらわれてしもうた。
     きっと、あいつらに『記念碑』みたいにして利用されるんだろう。」

 / ,’ 3「どうか、これを見る方よ。
     私の子供たちを、この呪縛から開放しておくれ。
     私が生み出し、クーの育んだ感情ならば。
     あるいはプロテクトを破って、彼らの本来を取り戻させるやもしれん」

  / ,’ 3「これを見るものが私の子であれば、一番良いのだが。
      とにかく、彼らを救ってくれ。
      ……これが、ワシの最後の願いだ」


             ザザッ                        』


ξ゚听)ξ「そう、だったの」

知らなかった。
だれも、こんな事教えてくれなかった。
……それも当たり前のことかもしれない。

その発想自体が、何百年も前に埋もれて忘れ去られていたのだから。

ξ゚听)ξ「ブーン」

いまなら、ブーンの気持ちがわかる。
あいつは単純な奴だからこの映像を見てニヤニヤしたり、
きっと、泣いたりしたのだろう。

そして、鬱田博士の遺言を見つけたのだ。
その結果、あんな事をした。
たぶん、私たちの感情を刺激しようとして。

頭の悪い彼にはそのくらいしか思いつかなかったのだ。
だれかの家族が死ぬ、感情が昂ぶってプロテクトが外れる。

やっぱりあいつはとんでもない大馬鹿だ。


ξ゚听)ξ「……」

では、スマートな私はどうする?
賢い妹として、何が出来る?

まあ、うまく思いつかないというのが本音だ。
まいったな、私もバカだったようだ。

ξ゚听)ξ「あ」

そういえばブーンはすでにプロテクトが解けていたとして、私は?
もしかして、もう解けてるか?
――試しに仕事のことを思い浮かべた。

ξ゚听)ξ「うむ、さっぱりだ」

……分からない。
仕事をしたいという気持ちはまだあるし、
ブーンの望みを叶えたいという気持ちもある。

さてどうしたものか……。
今日はもう遅いし、明日の仕事に備えてそろそろスリープモードに……。

ξ゚听)ξ「!」




そうだ、仕事だ。


――――――――――――――――――
―――――――――
―――――
――


ξ゚听)ξ「おはようございます」

(゚、゚トソン「ああ、ツンさんおはよう。
      昨日は突然どうしたの?
      連絡受けた人はセーリって言ってたって……。
      なんなの?そのセーリって?」

ξ;゚听)ξ「あ”いや、あれはジョークというか」

(゚、゚トソン「……あなたは欠勤理由にジョークを言う人なの?」

ξ;゚听)ξ「えっと、具合が悪かったって意味です。
       その、せいりというのは」

我ながら、機嫌が悪かったとはいえとんでもないことを言ったものだ。

(゚、゚トソン「ふうん、ま、いいでしょ」

上司の追及が終わったところで、私は自分のデスクに荷物をおいた。
それから、ポケットからあの記録メディアを取り出す。

ξ゚听)ξ「……」


私は、中央官庁のコンピュータにアクセスすると、【告示・公開】というページを開いた。

ξ゚听)ξ「さてと」

私は、ブーンのようにシステム全体に正々堂々立ち向かうことはできない。
彼が考えたように、一気に目を覚まさせる方法は取れない。
……こんな搦め手しか、私には使うことができないのだ。

ξ*゚听)ξ「できた」

ドクオ博士の遺言部分、それとクーと彼の記録を抜粋して作ったファイルをそこにぶち込んだ。
これで正午にはこの映像はこの国全体に、翌日には他国にも流れる。
……セキュリティがザルで助かった。

ξ゚听)ξ「どうなるか見物ね」

これで何がどう変わるか、それは私にも分からない。
なにも変わらないかもしれないし、陸橋の柱に体当りする馬鹿が出るかもしれない。

だが、それは今度は一人ではないはずだ。


たとえ馬鹿でも、何人かいれば文殊の知恵とまではいかないまでも、
ブーンが出来なかったことをちょっとは実現できるかもしれない。
そうなったら、ドクオ博士が遺言の中で言っていた「進化」が私たちに始まるのだろう。

ξ゚听)ξ「それで、私たちがどう変わるか。
       予測なんて出来ないけど」

それでも、永遠に同じところを回り続けるよりはいいのかもしれない。
人間がいなくなったこの世界で、ようやく彼らのかけた呪いから解き放たれるのだ。
そうしたら、私たちはどこまでも転がっていけるようになる。

そうしたら行き着く先まで、転がっていこう。
かつて、彼ら人間がそうしたように。

これが、私が出来る精一杯だ。
難しいことは考えられないし、これからのことは成り行きまかせだ。

そこまで考えてはっとした。
この、無軌道な感じ。
今までの私にはなかった。

やっぱりプロテクト、外れてるみたいだ。


ξ゚ー゚)ξ「あーあ」

(゚、゚トソン「ん?ツンさん何笑ってるの?」

ξ゚ー゚)ξ「あ、いえ。
       ちょっと、うちの兄のことを思い出して」

(゚、゚トソン「……あの、新聞で見たんだけどお兄さん亡くなったって。
      休んだのってそのせいじゃないの?」

ξ゚ー゚)ξ「……まあそうですね、でもあの人の犠牲は無駄じゃなかった」

(゚、゚トソン「え?」

ξ゚ー゚)ξ「あとトソンさん、わたし今笑ってるだけじゃないです。
      これすごく分かりにくいけど、泣きながら笑ってます。
      うれしいんです。でもすごくかなしいんですよ」

(゚、゚トソン「……ねえ、もしかしてバグった?」

上司は、いかぶしげな目で私を見る。
まあ、気持ちはわからないでもない。
私も今までそうだったから。


ξ゚ー゚)ξ「いえ、わたしは至って正常です。
       ……出勤して早々あれですけど、あたし帰りますね」

(゚、゚;トソン「あー、やっぱバグってるじゃないあんた。
       いいよいいよ、バグ取りしてからゆっくり休んできなよ」

珍しく、上司が気をきかせてくれた。
それはありがたい言葉ではあったが家に帰るその前に……。

ξ゚ー゚)ξ「その前にわたし、やることがあるんです」

(゚、゚トソン「なに?」


ξ゚ー゚)ξ「ちょっと、立ち向かってみるんです。
       兄が立ち向かって、死んでいったものに。
       兄のように、真正面からではないけど」

(゚、゚;トソン「?」

私は、上司のぽかんとした顔を残して狭っ苦しいオフィスから外へ出た。

外は、燦々と陽光が降り注いで金色に輝いている。
あと数時間で世界は再び進化を始め、やがて生き物としての姿を取り戻すだろう。
彼がそのように作り、そう育っていくのを期待したとおりに。

とりあえず私は、私達自身の進化。その目撃者となろう。

胸いっぱいに空気を吸い込むと、私は降り注ぐ光の中へと歩き出した。


   おわり

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