('A`)路上から始まるようです ◆PmDK6Lrsx6  したらば [ログ






川 ゚ -゚)「誰も聴いてないのに、どうして君は歌うんだ?」

('A`)「……」


 真夏の陽射しが肌を焼く、ある日のこと。

路上の隅に座り、ギター一本を抱えて歌う男に、黒髪の女が話しかけました。


('A`)「……」

川 ゚ -゚)「ずっとこの場所で同じ歌ばっか歌ってるだろ。
      ぶっちゃけ誰も聴いてないし、誰も君なんて気にも留めてないのに」

川 ゚ -゚)「何の為に歌ってるんだ?」

川 ゚ -゚)「言っちゃ悪いけど、あまり歌もギターも上手くないし」


 会って数秒で、ダメ出しです。
オブラートに包むなり、もっとやんわりとした伝え方をすればいいのに、
女はキツイ言い方のまま、無表情で言いました。


川 ゚ -゚)「他のストリートミュージシャンのが上手いし、君よりやる気もあるよ」

川 ゚ -゚)「君の歌にはさ、こう…グッとくるもんがないんだよね」

川 ゚ -゚)「ダラダラと同じ歌を歌うだけ。それじゃあ、業界には入れないぞ」

('A`)「別に、いいよ」


 一言ぼそりと答え、男はまたギターを爪弾きます。
彼の歌は、涼しさを求める人ゴミの中に消えてゆきました。








川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「ふーん…」


 つまらなそうに息を吐き、何故か女は男の隣に座ります。

あれだけダメ出ししていたのにと、男は怪訝そうに女の横顔に視線を移しました。


('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「……何?」

川 ゚ -゚)「何が?」

('A`)「あんなにボロクソ言ってたのに、何でここにいんの?」

川 ゚ -゚)「いちゃ悪い?」

('A`)「……」

('A`)「別に」


 ギラギラに頑張る太陽が容赦なく気温を上げていく中、
男は誰の耳にも届かない歌を歌い続けました。

そんな彼の横で、黒髪の女はぼんやりと往来を眺めています。
通りを行き交う人達は、二人には目もくれません。


川 ゚ -゚)「どっから来たんだ?」

('A`)「……ヴィップ町から。まだ一ヶ月くらいだけど」

川 ゚ -゚)「あの田舎か。私はしたらば町からだ」

('A`)「へぇ」

('A`)「……」




('A`)「あんた、業界の人?」

川 ゚ -゚)「に、見える?」

('A`)「見えねぇ」

川 ゚ -゚)「だろうね」

川 ゚ -゚)「実際、ただの一般人だし」

('A`)「ふーん」

川 ゚ -゚)「さっき言ったこと全部ね、私が言われたことなんだ」

川 ゚ -゚)「ちょっと八つ当たりさせてもらった。すまん」

('A`)「いいよ、別に」

('A`)「……ってことは、あんたも歌やってたんだ?」

川 ゚ -゚)「あぁ」

川 ゚ -゚)「……もう、終わった話だけどね」

('A`)「……」

('A`)「へぇ」


 人ゴミを睨み、男は歌います。
この場所からずっと変わらない、たった一曲を。
誰も気に留めない、ただ消えるだけの歌を。

川 ゚ -゚)「……」


 その日ずっと女は、男の歌を聴いていました。




 * * * * *
* * * * *

 男は翌日も、そのまた翌日も同じ場所で歌っていました。

愛想を振り撒くこともせず、往来を睨み、ただ一曲だけを繰り返し繰り返し。

どんなに暑くても、風が強くても、雨の日も、変わらず。


川 ゚ -゚)「……」


 そんな彼の観客は、いつもひとり。

どこからかふらりとやって来ては、歌う男の横に座り込み、
彼がギターを片付ける頃にどこかへ消えるのです。


川 ゚ -゚)つ□「ん」

('A`)「……何?」

川 ゚ -゚)「差し入れ」


 そんな毎日が続けば、交わす言葉は少なくても、
お互い無害だという妙な信頼が生まれます。


('A`)つ□「……」


 女の差し入れのペットボトルを受け取り、男は礼も言わずに、また歌い始めました。


川 ゚ -゚)「その歌、オリジナルだよね」

('A`)「まぁな」

川 ゚ -゚)「何て曲名なんだ?」

(;'A`)「あー……」

('A`)「……曲名、ないんだ」


 困ったように口を尖らせ、ごまかすようにギターを適当に鳴らし。

男は、隣に座る女に言いました。




('A`)「今まで誰にも聞かれなかったし、別に名前ないままで良かったけど」

('A`)「特別に、お前が決めていいよ」

川 ゚ -゚)「何で私が」

('A`)「お前が聞いてきたんじゃん」


 短く答え、男はまた歌い始めます。

さて、曲の題名を決めていいと言われた女は、すっかり困り果ててしまいました。
生まれてこのかた、何かに名前をつけた事なんてほとんどないのだから、当然です。


川 ゚ -゚)「(……『誰にも聴かれない歌』……『夢が叶わなかった歌』……)」

川 ゚ -゚)「(『踏まれる歌』……『四季』……)」


 色々名前は浮かぶけれど、どれも何だか違うような気がします。

女は目を閉じて、横から聴こえる歌に耳を傾けました。

毎日毎日、何度も何度も聴いてきた歌です。
歌詞だって、もう覚えてしまいました。


川 ゚ -゚)「……」

('A`)「別に無理してつけなくていいよ」

川 ゚ -゚)「いや、意地でも私が名付け親になってやる」

('A`)「……あ、そう」




 太陽が大分沈み、辺りは暗くなってきました。

他の路上ミュージシャンが活動する頃に、男はいつも楽器を片付けるのです。
その理由も、それどころか男の名前さえ、女は知りません。


川 ゚ -゚)「曲名、どうしようかね」

('A`)「まぁ…いつでもいいよ。つけなくても別にいいし」


 そう言い残すと、男はギターケースを背負って、
さっさとその場から立ち去ってしまいました。

残された女は、すっかり脳に刻み込まれた『名前のない歌』をひとり口ずさみます。
それでも、なかなかよい名前は思い付きませんでした。




 * * * * *
* * * * *

 季節がゆっくりと夏から秋へ変わる頃になっても、
女は『名前のない歌』の名前をつけられませんでした。

男は何も変わらず、同じ場所で毎日毎日同じ歌を何度も繰り返します。

相変わらず、男の歌には誰も耳を傾けません。
それが当たり前になっているようなものなのです。

いつもと変わらず、女は男の歌を聴きながら、言いました。


川 ゚ -゚)「そういやさ」

('A`)「ん」

川 ゚ -゚)「何で、その一曲しか歌わないんだ?」

川 ゚ -゚)「他にも考えた曲とかあるんじゃないの?」

('A`)「……」

('A`)「いいんだよ、これで」

川 ゚ -゚)「プロになりたいとか、有名になりたいから歌ってるんじゃないの?」

('A`)「別に?」

('A`)「ってか、お前はどうなんだよ」

川 ゚ -゚)「何が?」

('A`)「何で、歌やめたんだ?」


 あまりにも簡単な質問に、女は口ごもりました。
そんなやすやすと答えられるようなものじゃないのです。



('A`)「有名になれなかったから、歌やめたのか?」

('A`)「有名になれなかったから、歌やめた挙げ句、俺に八つ当たり?」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「そうだよ」

('A`)「ふーん」


 女が歌をやめた理由など、大して興味はないようです。

道の隅に座る二人の前を、お気楽そうな若者の集団が通りかかりました。


「マジ俺のが歌うめぇしwwwww」

「嘘つくなしwwwwお前カラオケで70以上出せねーじゃんwwww」

「ちょwwwwwwww70とかwwwwwwww」


 若者は、男の歌を散々からかって立ち去っていきました。
それでも、何事もなかったかのように男は歌い続けます。


川 ゚ -゚)「……ここでさ」

川 ゚ -゚)「ちょうど、この場所だよ。音楽で生きていきたくて、
      この街なら道が開けるとかアホみたいな事思ってさ。
      周りの反対押し切って、ギター持って歌ったんだ」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「…何か秀でたところがないとさ、誰も素人の歌なんか聴いてくれないんだよね」

川 ゚ -゚)「こんなに人がいるのに、誰も私には目もくれないんだよ」

川 ゚ -゚)「顔がいい訳でも、歌がめちゃくちゃいい訳でも、ギターが上手い訳でもない」




川 ゚ -゚)「誰も聴かないよ、そんなの」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「名前も知らない暇人に『お前の歌なんか、誰も聴かない』って言われてさ、
      そりゃあもう悲しかった」

川 ゚ -゚)「あんなに大口叩いて、音楽で生きてこうって思ってたのに。
      その一言で白けて、やめちゃった」

川 ゚ -゚)「この街に来た頃は、あんなに輝いて見えたのに」

川 ゚ -゚)「今は、くすんで見える。灰色だ」

('A`)「へー」

('A`)「別に音楽が好きな訳じゃないんだな」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「そうかもね」

('A`)「俺は好きだけどな」


 男はギターを弾く手を止め、傷だらけのボディを撫でました。




('A`)「一曲しか持ち歌がなくても」

('A`)「どんなに歌が下手でも」

('A`)「コード抑えるの、時々間違えても」

('A`)「歌うのも、弾くのも、聴くのも」

('A`)「こんなに楽しい事はないのに」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「そうだな」

('A`)「どんな歌でも、聴いてくれる物好きはいるぞ」

川 ー )「はは、……そうかもね」


 寂しそうに笑う女の隣で、男は歌います。

まだ名前を与えられていない、名も無きたった一曲を。


川  - )「……」


 女の耳には、もう何百何千も聴いた歌詞とメロディが流れて来ています。

いつもは落ち着くはずのこの歌が、今は、女の気持ちをざらつかせました。




 * * * * *
* * * * *


 秋が深まり、やがて冬がやってきました。

二人の距離も、歌と往来の距離も、何も変わりなく。

今日も男は、歌います。
今日も女は、聴き続けます。


川 ゚ -゚)つ□「ん」

('A`)「ん」


 今日の差し入れは、ホッカイロのようです。

北風が手を冷やすので、素直にこの差し入れは男にとって嬉しいものでした。


川 ゚ -゚)「寒いな」

('A`)「寒いな」

川 ゚ -゚)「お前のコートを寄越せ」

('A`)「むしろお前が寄越せ」

川 ゚ -゚)「レディに優しくしろって教わらなかったか」

('A`)「完璧なレディにだったら渡してもいいけどな」

川 ゚ -゚)「そんなんだからお前はドクオなんだよ」

('A`)「……何、そのセンスのかけらもない名前」

川 ゚ -゚)「お前、なんかドクオって感じするじゃん」

(;'A`)「ねーよ」

川 ゚ -゚)「するだろ。クリスマスも大晦日も昼間っから夕方まで『独り』なんだから」

('A`)「現在進行形で独りじゃない訳だが」

川 ゚ -゚)

川 ゚ -゚)「口答えをするな」




 つん、とそっぽを向いた女に、ドクオは温まったカイロを放り投げました。

カイロは女の横顔に当たり、


川#) -゚)「痛い」

('A`)「当てるつもりはなかった」

川#) -゚)「そうか」


 いつもの歌のイントロが、冬の張り詰めた空気を震わせます。

ドクオのギターも、歌も、あまり上手くはなっていません。

白い息を吐いて、女は「下手くそ」と笑いました。




 * * * * *
* * * * *

('A`)「……明日」

川 ゚ -゚)「ん?」


 太陽がビルに沈み、他の路上ミュージシャンがちらほら現れた頃、
ギターを片付けながら、ドクオは言いました。


('A`)「……」

('A`)「いや、やっぱいいや。明日で」

川 ゚ -゚)「なんだよ、気になるじゃないか」

('A`)「明日言うから、気にすんな」

川 ゚ -゚)「?」


 ぼそぼそと言葉を濁し、ドクオはさっさとギターを持って、
人ゴミの中へ消えてゆきます。

残された女は、いささか納得いかないように首を傾げていましたが―――


川 ゚ -゚)「ま、いいか」


 黒髪を揺らし、自分も家路につきました。

ドクオの言った意味が分かるのは、翌日の正午過ぎのこと。


('A`)「ん」

川 ゚ -゚)「」


 野暮ったい服に身を包んだドクオは、いつも使っているギターを女に渡しました。




川 ゚ -゚)「何だこれは」

('A`)「ギター」

川 ゚ -゚)「いや、そんなん分かってるわ」

('A`)「ギター以外の何物でもないぞ」

川 ゚ -゚)「いやいやいやいや」

('A`)「俺、今日ヴィップに行くんだ」

川 ゚ -゚)「帰るのか?」

('A`)「いや」

('A`)「……ちょっと、人と会う約束してるんだ」

川 ゚ -゚)「お前がヴィップに帰るのと」

川 ゚ -゚)「このギターの関連性が分からんのだけど」

('A`)「歌ってけよ」

川 ゚ -゚)「」

川;゚ -゚)「帰る!」


 ギターを置き、ドクオに背を向け、女は来た道を引き返しました。

彼女を呼び止める訳でもなく、


('A`)「コードも歌詞もメロディも分かってんだろ!」

('A`)「頼んだぞ!」


 ただ、そう言い残し、ドクオは駅へと行ってしまいました。


川 ゚|壁「……」


 ドクオが駅へ行って、数分後。

女は潜んでいた物影から姿を現し、壁に立てかけられていたギターに近付きました。




川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ -゚)「(ギターって、こんなに重かったっけ)」


 かつては華々しい未来を夢見てこの街にギター一本だけを持って降り立った。

けれど、今は……


川 ゚ -゚)「(私のギター、どこにしまったんだっけ)」

川 ゚ -゚)「(何で売らないで、とっといたんだろう)」

川 ゚ -゚)「(……『売れなかった』? いやいや、まさか)」

<…あれ、クー? クーじゃない!!

川 ゚ -゚)「!」


 クーと呼ばれた女に近付いて来たのは、


ξ ゚听)ξ「やっぱりクーだ! 久しぶり!」

川 ゚ -゚)「ツン…?」


 したらば町にいるはずの、親友でした。


川 ゚ -゚)「何でこんな所に」

ξ*゚听)ξ「ちょっと遊びに来たの! それより、何歌うの? 聴かせてよ!」

川;゚ -゚)「あ…いや、私、もう歌は……」


 「やめたんだ」

彼女の歌を期待している親友を前に、まさかそんな事を言う訳にもいきません。




川 ゚ -゚)「……」


 クーは、ドクオから託されたギターを構えました。


ξ*゚听)ξ「曲名は?」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ー゚)「教えない。一番最初に聞いてほしい奴が、今いないんだ」

ξ ゚听)ξ「?」


 親友が不思議そうに首をかしげるのを無視して、クーは目を閉じました。

何百、何千、何万回と、誰よりも近くで聴いたあの歌を。
歌詞を、コードを。
わざわざ思い出さなくても、勝手に指は動いてくれます。

たったひとりの観客の為に、クーは歌いました。

寒さで声は震えるし、時々押さえる弦は間違えるけれど、


川 ゚ -゚)「…どうだった?」


 それでも、なんとか歌いきりました。


ξ ゚听)ξ「うん…言っちゃ悪いけど、下手くそ」

川 ゚ -゚)「ですよねー」

ξ ゚听)ξ「でも、なんだろう。すごくいい歌ね。
       所々音は間違えてるし、声も外してた。
       それに、あまり万人受けするような感じではないわ」

ξ ゚听)ξ「ライブとかで栄えるような曲でもなさそうだし」




ξ ゚听)ξ「でも…」

ξ ゚听)ξ「また聴きたい」

川 ゚ -゚)「……」

川 ー )「そうか。この歌を作った奴に、そう伝えとくよ。
     多分、最高の褒め言葉だと思うから」

ξ ゚听)ξ「この歌を作った奴?」

ξ ゚听)ξ「あら、なんか意味深?」

川 ゚ -゚)「意味深なもんか。ただの変わり者だよ」

ξ ゚听)ξ「どうだか。ね、それより、CDとか出さないの?」

川 ゚ -゚)「出さないだろうね。興味ないと思う」

ξ ゚听)ξ「……もったいないね、なんか…」


 そう言う親友は、心底残念そうでした。

彼女が去ったあと、クーはもう一度、ギターを弾きます。


川 ゚ -゚)「……」




 指に食い込む弦の感触。
音を合わせる作業。
歌を楽しむ気持ち。

見知らぬ人間の、たった一言のせいで捨ててしまった夢を思い出し、


川 ゚ -゚)=3

川 ゚ -゚)「託されちゃー仕方ない、歌うか」


 クーは歌います。

人ゴミに消えてゆく歌を。
木枯らしに負けてゆく歌を。
雑踏に踏まれてゆく歌を。
暇人にからかわれ、笑われる歌を。

相変わらず、道行く人はクーの方に目もくれません。

でも―――


川 ゚ー゚)


 何故でしょうか。

クーの顔は、それはそれは楽しそうに緩んでいました。




 * * * * *
* * * * *

川 ゚ -゚)「ん」

('A`)「どうだった?」


 翌日。

クーにギターを返してもらい、ドクオは尋ねました。


川 ゚ -゚)「最悪」

('A`)

川 ゚ -゚)「…手垢はすごいし、ピックはボロボロのしか無いし。
      ボディの手入れしてないだろ、もっと労ってやれよ」

('A`)

(;'A`)「あ、はい」

川 ゚ -゚)「それと、せめて予備の弦くらい持ってろよ。昨日の夜、切れちゃったぞ」

(;'A`)「す、すいません」

(;'A`)「って、そうじゃなくて……」

川 ゚ -゚)「『また聴きたい』」

川 ゚ -゚)「昨日の観客が、言ってくれたよ」

('A`)「聴いてくれた人いたの?」

川 ゚ -゚)「ひとりだけ」

川 ゚ -゚)「しかも、私の知り合い」

('A`)「なんだ」

('A`)「でも、素直に嬉しいね」

川 ゚ -゚)「そっちは?」

('A`)「まぁ、普通」

川 ゚ -゚)「ふーん」




( 'A`)「……」

( 'A`)「…なんか昨日、あったのか?」

川 ゚ -゚)「ん? …何で?」

('A`)「妙にすっきりした顔してるから」

川 ゚ -゚)「あー」

川 ゚ -゚)「昨日、部屋の中探してね」

川 ゚ -゚)「埃かぶってたけど、私のギター見付けたんだ」

川 ゚ -゚)「また、一からやり直すかなーって」

('A`)「へぇ」


 ドクオが歌い、しばし会話が途切れます。

やっぱり誰も彼の歌には興味を示さず、忙しなく行き交う人の群れに、
マイクを通さない歌声は消えていくだけ。

クーがそれを気にしなくなったのは、良くも悪くもドクオの影響を受けてのことでしょう。




('A`)「―――この曲さ」

川 ゚ -゚)「?」

('A`)「ヴィップにいた頃、作ったんだ」

('A`)「『音楽で食ってくわwwww』っつって、
   町出てく奴に餞別としてくれてやろうと思って」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「ま、昨日会いに行った奴よ」

('A`)「どうせお前なんか売れる訳ねぇだろって、そいつを送り出してさ」

川 ゚ -゚)「……その人は?」

('A`)「夢破れ、今は普通の会社員」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「残ったのは、そいつの為に作った歌だけ」

('A`)「今も昔もこれからも、俺の曲はこれだけだ」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「だから、別に誰も聴いてなくていいんだよ」

('A`)「プロなんか目指してねぇし、時々お前みたいな物好きが引っ掛かってくれば、
   それはそれで楽しいしさ」

川 ゚ -゚)「……そっか」




('A`)「お前も、また歌うのか?」

川 ゚ -゚)「あぁ、歌うよ」

川 ゚ -゚)「この路上から、また始めてみる」

('A`)「それでいいんじゃね」

('A`)「好きにやればさ」


 路上の歌が流れ、けれど、それを気に留める人は誰もいません。

クーの心情が変わったように、季節もまた、変わろうとしていました。




 * * * * *
* * * * *

川 ゚ -゚)つ○「ん」

(;'A`)「…何、それ」

川 ゚ -゚)「饅頭」

(;'A`)「何で饅頭?」

川 ゚ -゚)「春じゃん」


 桜が舞い踊る春になっても、ドクオが歌い、クーが聴くという形に変化はありません。


('A`)「いや、まぁそうだけどさ」

川 ゚ -゚)「人の差し入れにケチつけるようになったとは、
      君もずいぶん偉くなったものだね」

('A`)「すいませんっした」


 けれど、壁に背中を預けるクーの脇には、それなりに年期の入ったギターケースが置いてありました。




('A`)「そういやさ」

川 ゚ -゚)「うん」

('A`)「アレ、どうなった?」

川 ゚ -゚)「アレ?」

('A`)「この歌の名前」

川 ゚ -゚)「あぁ…」

川 ゚ -゚)「決まったよ。いい名前だと思う」

('A`)「自信満々じゃん」

川 ゚ -゚)「そりゃあね」

('A`)「で、何て名前にしたんだ?」

川 ゚ -゚)「曲名は―――」


 この曲に相応しいと思った名前を、ドクオに伝えました。

それを聞いたドクオは、呆れたように、けれど嬉しそうに笑います。


('∀`)「はは、お前ネーミングセンスねぇなぁ」

川;゚ -゚)「笑うなんて失礼な」

川 ゚ -゚)「…お気に召さないなら、また考えるけど?」

('∀`)「いや、それでいい。気に入ったよ。この歌にぴったりだ」


 なんだかんだで、クーがつけた曲名を気に入ってくれたようです。




('A`)「歌うか」

川 ゚ -゚)「……」

川 ゚ー゚)「あぁ、歌おう」


 ―――決して上手くない歌に、ギター。

そんな歌を立ち止まって聴いてくれる物好きなんか、そうそういません。

けれど、


ミセ*^ー^)リ「すごい好きです! なんて曲名なんですかー?」


 どこにだって『暇人』はいるもので。


(゚、゚トソン「えぇ? 他の路上ミュージシャンのが歌もギターも上手くないですか……?」

ミセ*゚3゚)リ「トソンは分かってないなぁ、こういうのはね、上手い下手じゃないの!」

ミセ*゚ー゚)リ「『好き』か、『どうでもいい』かなんだよ!」

(゚、゚トソン「はぁ…」

ミセ*゚ー゚)リ「で、なんて名前の歌ですか?」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「……」

('A`)「この曲のタイトルは、」










 「『Field of dreams』」










 歌で生きていくと夢を膨らませ、町を出ていった友人のためにドクオが作った曲。

プロになる夢を諦め、歌う事すらやめてしまったクーが、また歌おうと思うきっかけになった曲。

この路上から、夢を始めるために歩きだした人達に向けた曲。


ミセ*゚ー゚)リ「また聴きたい!」


 貴重な観客が望むなら、歌いましょう。

下手くそな歌を。
下手くそなギターを。

路上から始まる、この歌を。






('A`)Field of dreamsのようです川 ゚ -゚)

終わり





モチーフ曲は、Do as infinity/Field of dreams

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