( ^ω^)ブーンは壁を超えるようです
その壁がいつからあるのか、それは誰も知らない。
ブーンは技師の家に生まれた。
その街の技術は大した物では無かったので時計や、子供のおもちゃ細工などといった物の修理程度の仕事であったが
生計はなんとかなっていた。
ブーンもその仕事を継ぎ、両親が他界した今では家には彼しかいなかった。
( ^ω^)「……」
ブーンは工房の壁にかかった古時計が指し示す時間を見ると作業を中断して立ち上がりいそいそと用意を始めた。
恋人と会うのだ。
以前からしょっちゅう会ってはいたがここ数カ月は毎日だった。
しかし彼は少しも嬉しくなかった。
ただ、葉の散っていく木々を見つめ続けるような毎日だった。
( ^ω^)「……」
工房で作業していた『それ』を彼は一瞥するとそこを後にした。
壁についての記憶をたどってみてもそれはブーンが父に手を引かれ散歩をしていた頃から存在し、
「ごらんブーン、あれは父さんが子供の時からあるのだよ」
などと言われていたので少なくとも自分よりもはるかに長い歴史を持ってそこに存在しているのだろう。
壁は彼の住む町をぐるっと囲み、少々日当たりこそ悪くなるものの外敵から身を守る防壁として素晴らしい代物だった。
門は無い。完全に囲われている。
その防壁の中で人々は暮らし、作物などを栽培し、自給自足の生活を育んでいた。
壁によって一体どれだけの危機を逃れられたのだろう。少なくとも成人したブーンが今日日
自分の記憶をするすると辿ってみても特に危機という危機が無かったことを考えると外の者に対して相当な威圧感を与えているのであろう。
しかしブーンは壁が憎かった。忌々しかった。
その壁が記憶の及ばぬところでその街とその住人を守っていようがブーンには関係なかったのである。
( ^ω^)「おはようだお」
彼は壁に対して話しかけた。
雲を手で掴むかのように繊細に、そして自分から離れ行く声を逃がさないかのようにはっきりと。
ξ゚听)ξ「おはようブーン」
壁は十数年ぶりの再開を喜ぶかのように彼に挨拶を返した。
防壁の代価は住人の命だった。
そして今年はブーンの恋人のツンがイケニエだった。
( ^ω^)ブーンは壁を超えるようです
生きた壁に年に一度一人イケニエをささげる。その風習がいつからあるのかは確かなことは誰も知らない。
しかしそれを想像するのは物心ついた幼子であろうと出来るくらい容易かった。
おそらく壁とともにその風習は出来たのであろう。
壁に触れるや否や壁に引力があるかのように吸いつけられる。
それぐらいならば強固な意思を持って引き剥がせばいいのだが数十分でもくっついていると手が一体化しまう。
そうして少しづつ体は取りこまれ、痛みも無く、死の実感など感じさせぬままいずれは壁となりイケニエはこの世から消える。
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「そんな顔しないでよ、大丈夫だから」
大丈夫な物か!! ブーンは思う。
半身になっているツンの体は既に半分ばかし壁と一体化し、碧色の澄んだ両目はもはや片目しか見ることは出来ない。
ブーンが壁にくっつくわけにはいかないので視線をこちらへと動かしているツンの事を思うと彼は胸が張り裂ける心地だった。
おそらく数日もすれば意識は失われてしまうだろう。
影がかかった壁は冷たそうだった。
二人はたわいもない会話をした。今朝何を食べたか、今日の天気、どんな夢をみたか、など。
いくら会話を繰り返そうが後悔が胸の奥に積った。なぜ何を話そうと言い残した心地になるのか。
そもそもなぜ彼女を無理にでも連れ出さなかったのか、連れだせなかったのか。
ξ゚听)ξ「ねえブーン」
会話のネタも尽き、二人がただぼんやりと見つめ合い始めた頃、ツンが彼に再び話しかけた。
( ^ω^)「なんだお」
ξ゚听)ξ「遠慮しないでいいからね」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「そろそろじゃないの? 完成」
彼女がイケニエになり、壁にと一体になってしまう前までは二人の希望の象徴だった物。
今になっても『それ』を捨てられずブーンは作り続けていた。
( ^ω^)「もう意味なんて無いお」
なんでもないかのようにブーンは言った。
嘘だった。会話の中心である『それ』を先ほどまでブーンは弄っていた。
口でなんと言おうが手に染みつき、肌の色とまでなった油の汚れは隠せない。
ξ゚听)ξ「嘘。だってあれ私と会う前から設計してたじゃない」
『それ』は二人の希望である前は彼の夢だった。
ただただ、好奇心という母から生まれた純粋な夢だった。
( ^ω^)「でも……」
ξ゚听)ξ「ねえブーン」
( ^ω^)「聞きたくないお……」
ξ゚听)ξ「でも私はもうね」
( ω )「聞きたくないお!」
苛立ちと悲しみを一緒くたにしてそこらじゅうにぶちまけたような声だった。
( ;ω;)「聞きたく……ないお……」
ξ゚听)ξ「……」
ブーンは泣いていた。
最近の会話の終わりはいつもこうだ。
しかし今日は違った。ツンが一歩先へと会話を踏み出した。
ξ゚听)ξ「ねえ、きっと私明日ぐらいには喋らなくなるよ」
( ω )「……」
ブーンは答えない。自分の中の感情を整理出来ず声が出ないのかもしれない。
ξ゚听)ξ「なんとなくわかるんだよ、少しずつ私が私で無くなっていっているの。
気持ちも変わらないよ、痛みも無いけれどなんとなくわかるの」
( ω )「……」
ξ゚听)ξ「私見られたくないの、ブーンに。私が私で無くなっているのに私だった物をブーンにみられるのが。私は……」
ξ )ξ「私は……」
「私はあなたより長く生きてあげたかった」
取り込まれていない左手はもう動かないのだろう。
だらんとして、拭えぬままツンの目からは涙が流れた。
( ^ω^)「ごめんだお……」
しばらくの沈黙の後、ブーンはツンの涙をそっと拭ってやると、その後に軽く口づけをした。
本当ならばもっと長い間そうしていたかったが、壁と一体となった彼女に取り込まれかねないので
惜しみながらもすぐに離れた。
ξ ー )ξ「暖かい、暖かいよブーン」
そう、感じたのか、そう感じたかったのか、それはわからないが彼女は確かにそういった。
( ^ω^)「……明日、行くお」
ξ ー )ξ「うん……」
( ^ω^)「ちゃんと見て欲しいお。絶対に見せてやるお」
ξ ー )ξ「うん」
( ^ω^)「だから、それまでは」
ξ ー )ξ「わかってる」
( ^ω^)「……」
ξ ー )ξ「私の分までよろしくね?」
( ^ω^)「当然だお」
少しでも気を抜くとまた泣いてしまいそうだった。
決壊してしまいそうな気持ちを抑えブーンはその場を後にした。
ξ゚听)ξ「……」
ツンは何も言わず、彼の背中を見つめていた。
まだ夜露の消えぬほどの時間だった。
壁によって覆われた街はまだ、暗い。
しかしこれから起こる音でツンは十分に気付くだろう。
( ^ω^)「……」
ブーンは『それ』に乗り込み一つ一つ計器を確認した。
全て手製の計器だ。時計などを弄り、長い年月をかけて別の物へと作り変えてきた。
後ろの席を見る。
本来ならば『それ』は二人乗りだった。
設計当初は一人乗りだったのだが……
( ^ω^)「……」
すぐに感傷を振り払いブーンは作業に没頭した。
ろくにテストもしていないが、街から出れればそれで十分だった。
最終確認を終え、ひとつ思いつく。
そういえば名前が無かったな。
( ^ω^)「そうだ」
そう呟きブーンは『それ』を見た。
先に付いた風車の羽にも見える何か、大きく広げた鳥の翼を彷彿とさせる羽。
ブーンが子供の時に見た鳥から発想を膨らませ、幾度も実験を重ねた彼の翼だった。
( ^ω^)「名前をお前にやるお」
ポンポンと『それ』を軽く叩きブーンは言った。
( ^ω^)「ホライゾン」
ξ゚听)ξ「……」
ツンの意識は水辺に一滴の絵具を垂らしたかのように飛散していた。
自分が自分で無い何かに変わっていく感覚。
理性では恐れているのに段々と自分がそれに違和感を覚え無くなっていることが彼女は何より恐ろしかった。
ξ゚听)ξ「……」
既に表情にも自由は無い。
数分後にはここに自分はいないだろう。
「あ……」
飛散しきり、色が無くなる直前、
彼女はそれを見た。
大空を舞う二人の翼。
( ^ω^)
ξ゚听)ξ
( ^ω^)
ξ゚ー゚)ξ
それの駆動音によって跳ね起きた人々の声も、
人々の走りまわる音も、
彼女には何も聞こえなかった。
夜露も消え、街の人々が夜の出来事に各々折り合いをつけた頃、
人知れず彼女は完全に壁と化していた。
ξ ー )ξ
その顔は安らかだったという。
( ^ω^)ブーンは壁を超えるようです おわり
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