( ^ω^)は内藤ホライゾンを描くようです
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川#゚ -゚)「お前には絵の才能がない。絵描きなんぞやめてしまえ」
(;^ω^)「そ、そんな!!何でそんなことを言うんですかお!」
川#゚ -゚)「やかましい!!私は『私を描け』と言ったんだ!
誰が黒髪ロングの谷亮子を描けと言った!!」
(;^ω^)「ひ、ひどいお!谷亮子は言い過ぎだお!ブーンは一生懸命クー先生を描いたのに……」
川#゚ -゚)「それが私に見えるのなら眼科に行け!とにかく!お前には絵の才能がないんだ!!
お前は破門だ!!二度と私の前に顔を出すな!!」
(;^ω^)「ま、待ってくださいお!もう一度だけチャンスをくださいお!」
川#゚ -゚)「黙れ!!私と谷亮子の区別がつかない奴の声なんか聞きたくない!!」
( ;ω;)「お願いしますお!ブーンには絵しかないんですお!!もう一度だけでいいからチャンスを下さいお!!」
川#゚ -゚)「……わかった。なら最後にもう一度だけチャンスをやる」
( ;ω;)「あ、ありがとうございますお!」
川#゚ -゚)「……じゃあ『誰が見てもそれが内藤ホライゾンだとわかる』自画像を描いてこい。
それで私が納得できればこの事は水に流してやる。
だが私を納得させるような出来でなければ……わかるな?」
( ;ω;)「わかりましたお!絶対、クー先生を納得させるような作品を描いてきますお!!」
( ^ω^)は内藤ホライゾンを描くようです
* * *
それから一年。
内藤ホライゾンことブーンは、いまだに『これが自分だ』という絵が描けないままだった。
師である素直クールは時間制限を設けなかったこともあり、
今日も古いアパートの一室で描いては捨てて描いては捨てての繰り返しだ。
(ヽ ω )「違う……これじゃないお……」
ブーンはひどくやつれていた。
それと言うのも絵を描くのに没頭するあまり、ろくに食事をとってないからである。
なぜそこまで絵に執着するのか、
何が彼をここまで必死にさせるのかは常人にはわからないだろう。
ただ、『絵描き』であるブーンにとって、『絵』とは自分の全てであり、
何物にも代えられない物だと言うことだけは言っておこう。
《ピンポーン》
チャイムが鳴った。
(ヽ ω )「……」
しかし、ブーンは動かない。
無地のキャンバスに筆を滑らせるだけで、玄関の方を見向きもしなかった。
《内藤さーん?いるんでしょ?出てきて下さいよー》
やけに間延びした若い男の声が玄関から聞こえる。
だがやはりブーンは全くそちらに興味を向けない。
《あのねー。借りたものは返さなきゃいけないって小学校で言われましたよねー?》
《私たちはあなたを信用してお金を貸したんですよー?その信用を裏切るなんてひどいと思いませんか?》
男はブーンの反応がないにも関わらず話し続けた。
先ほどの言葉からわかるとは思うが、彼は借金取りだ。
なぜ、ブーンが借金なんかしたのか。
理由は簡単だ。
元々、絵描きは儲かる仕事ではない。
だから一年前までは必死にバイトして金を稼いでいた。
それでもいっぱいいっぱいだったのに、この一年間はひたすら絵を描いていた。
つまり収入はゼロになってしまったのだ。
それでも家賃は払わなくてはならない。
絵を描く場所がなくなるから。
電気代も払わなくてはならない。
夜に絵を描けなくなるから。
食費もいる。
絵を描く人間がしんでしまうから。
画材費もいる。
絵を描くことができなくなってしまうから。
だから、金を借りたのだ。
《……ゴルァ!!内藤!!出てこい!!いるのは分かってるっつってんだろ!!》
しかし、借りた場所が悪かった。
いわゆる闇金融である。
法外な金利により、いつの間にか返済額は借りた時の10倍ほどに膨れ上がっていた。
《金がないとは言わせねぇぞ!!内臓でも売っぱらえば金はつくれんだからなぁ!!》
(ヽ ω )(……チッ。うるせぇお。絵を描くのに集中できないお)
ブーンはおもむろに立ち上がってフラフラと玄関に歩いて行った。
この時、すでにブーンの精神は普通じゃなかった。
ただ絵を描くことしか考えられなかったのだ。
(,,゚Д゚)「おっ……。やっと出てきたか、内藤」
ブーンがドアを開けると、そこには強面の若い男が立っていた。
(ヽ ω )「絵を描きたいんだお。邪魔しないでくれお」
(,,゚Д゚)「ならとっとと五百万返すんだな。そうしたら俺達も引き下がってやるよ」
(ヽ ω )「そんな金はねぇお。絵を描かせろお」
(,,゚Д゚)「だったらお前の体のパーツを貰うだけだ。腎臓一個で百万、眼球一個で四百万でちょうどだろう」
(ヽ ω )「まだ両目が必要だからそれはダメだお。絵を描かせろお」
(#゚Д゚)「あぁん?お前、今の状況わかってんのか?」
(ヽ ω )「うるせぇお。絵を描かせろお」
(#゚Д゚)「あのな?まだ下にはお前の見張りをやってる仲間がいるんだよ。
その気になれば力付くでお前を連れていくことができるんだぞ?」
下に見張りがいる。
その言葉にブーンが反応した。
(ヽ ω )(下にこいつらの仲間がいたら絵の具を買いにいけないじゃないかお……。
もうすぐ黄色が無くなるっていうのに……)
(ヽ ω )「わかったお。内臓なんて全部くれてやるお」
(,,゚Д゚)「お、やっとその気になってくれたか。嬉しいぜ。
ただ全部はいらないな。目と腎臓で十分だ」
(ヽ ω )「うるさいお。内臓なんて全部くれてやるお。そのかわり条件があるお」
(,,゚Д゚)「……なんだよ」
(ヽ ω )「絵を描く邪魔はするなお。絵が描けたらブーンの心臓だろうがなんだろうが持って行けばいいお」
(,,゚Д゚)「ほぉ……」
男……ギコは考えた。
今すぐブーンを捕まえて五百万支払わせるよりも、
絵が完成するのを待って臓器を片っ端から売った方が儲かると。
(,,゚Д゚)「いいだろう。ならば、絵を描き終わるまで待ってやる。
ただし、逃げ出さないように毎日俺が見張ってるからな」
(ヽ ω )「絵を描く邪魔をしないなら、構わないお」
こうして、ブーンと借金取りの奇妙な同居生活が始まった。
(ヽ ω )
(,,゚Д゚)「……」
ブーンはひたすらに自分自身を絵に表そうと筆を動かす。
ギコはただそれを見つめていた。
キャンバスに描かれたそれはもはや形など持っていない。
ギコにはブーンが一体何を描いているのかわからなかった。
(,,゚Д゚)「なぁ」
(ヽ ω )「話かけるなお。気が散るお」
(,,-Д゚)「悪いな。ただ、お前が何を描いてるのかわかんねぇんでな」
(ヽ ω )「……やっぱり、わからないかお?」
(ヽ ω )「……じゃあ、これもダメだお」
そう言ってブーンは描きかけの絵を木枠から剥がし、その場に投げ捨てる。
そして新しいキャンバスを木枠に貼ろうとしたが、ちょうどキャンバスがきれていた。
(ヽ ω )「ちっ……。買いに行かなきゃならんお」
(,,゚Д゚)「おい、待てよ」
さっさと歩いていくブーンの後をギコがついていく。
逃げ出すことはないと思うが、念のためだろう。
(ヽ ω )「こうして外に出るのも久しぶりだお」
(,,゚Д゚)「いつから外に出てなかったんだ?」
(ヽ ω )「あんたらがブーンの家にくるようになってからだお」
(;゚Д゚)「なっ……!メシとかはどうしてたんだよ」
(ヽ ω )「金を借りた時に大量に買い貯めたお。それに、ご飯はほとんど食べてないお」
(,,゚Д゚)「……狂ってるな。だが、これからはちゃんとメシは食ってもらうぞ。
少しでもアンタの内臓をいい状態にしとかねぇといけないんでな」
(ヽ ω )「狂ってるのはあんたもだお」
(,,-Д-)「……ふん」
それきり二人は無言で歩いていた。
* * *
('A`)「いらっしゃ……おや内藤さん」
二人がやって来たのは近所のくたびれた雑貨屋だった。
そして二人を出迎えたのは、これまたくたびれた男だった。
('A`)「ん?隣のは誰だい?甥っ子か?」
(ヽ ω )「……まぁ、そんなとこだお」
(#゚Д゚)「あぁ?」
ブーンが適当な事を言い出したのでギコは顔をしかめた。
ブーンは黙って画材置場まですたすたと歩いて行ってしまった。
(#゚Д゚)「おいどういうつもりだよ」
すぐにブーンに駆け寄り、乱暴に肩を掴む。
ブーンはそれに臆せずに答えた。
(ヽ ω )「別に弟でも甥っ子でもいいじゃないかお。
それとも闇金の借金取りですって正直に言った方がよかったのかお?」
(#゚Д゚)「……けっ!」
ギコは不満そうな声を漏らし、ブーンから手を離した。
ブーンはやはり何も言わないまま、画材置場を物色し始めた。
(ヽ ω )「これ、下さいお」
(;'A`)「ん……ちょっと待って。背中がめっちゃかゆいんだ……」
(;'A`)「と、届かない……」
(ヽ ω )「はやくして下さいお」
(;'A`)「も、もうちょい……」
(#-Д-)イライラ
(;'A`)「くっ……だ、ダメだ」
('A`)「背中かゆい届かないオワタ」
(#゚Д゚)「ああ!もう!後ろ向け!俺が掻いてやる!!」
背中を向ける店主と、その背中をボリボリと掻いてやるヤクザ。
それはとてもシュールな光景だった。
(ヽ ω )「……ぷっ」
(#゚Д゚)「あぁ?何笑ってんだよ!!」
(ヽ ω )「おっ……?今、ブーン笑ったかお?」
(#゚Д゚)「笑ってたよ!!」
(ヽ ω )「笑った……今……笑った……」
一年ぶりに笑ったブーンは、不思議な感覚に包まれた。
『笑う』という感覚。
(ヽ ω )(そういえば昔の僕はよく笑っていたお)
(ヽ ω )(そうかお……内藤ホライゾンを描くには『笑う』って感情がいるんだお)
(ヽ ω )「笑う……笑顔でブーンをする…………それが内藤ホライゾン……」
(,,゚Д゚)「あぁん?何ブツブツ言ってんだ」
(ヽ^ω^)「礼を言うお。ギコ。おかげでいい絵が書けそうだお」
(,,-Д゚)「けっ。意味がわからんことを言いやがる」
* * *
その後、帰り道の途中、ギコの強い希望で食料品店に寄った。
(,,-Д-)「あんたにはカラダが高値で売れるように健康な生活を送って貰わなきゃなんねぇからな」
と、これはギコの言い分。
ブーンの部屋に帰った時にはもう日が暮れていて、ギコはさっさと調理場へ向かった。
一応、一年前まではブーンもそれなりに料理はしていたため、調理器具は揃っていた。
(ヽ^ω^)「……」
ブーンは、買ってきたばかりのキャンバスに筆を滑らせる。
心なしか、前に描いた絵より明るい色が多くなった気がする。
(,,゚Д゚)「おい、飯だ」
(ヽ^ω^)「うるさいお。邪魔しないでくれお」
(,,-Д゚)「飯食ってもらわねぇと俺が困るんだよ。
それに、何か食ったほうが頭の中がスッキリするし、いい絵も描けるようになるんじゃねぇか?」
(ヽ^ω^)「……なら、食べるお」
ブーンが筆を置く。
そして、食卓の椅子に腰を掛けた。
こうやって食卓に着くのも随分久しぶりなことに思えた。
テーブルの上にはおおよそヤクザが作ったとは思えない料理。
どれも見た目は完璧で、その場で息を吸えば鼻腔いっぱいに美味しそうな匂いが広がった。
(,,゚Д゚)「どうした?早く食えよ」
(ヽ^ω^)「……いただきますお」
まずは手前の皿に盛ってある肉じゃがに手をつける。
口に含むと、ほのかな甘味と一緒に、懐かしい味が舌の上を転がった。
(*ヽ^ω^)「うまいお」
にっこり笑って、ブーンが言った。
ギコは照れ臭そうにそっぽを向いた。
次にブーンが手をつけたのは、キムチをかんぴょうで結んだもの。
一巻きに含まれるキムチの量は多すぎず少なすぎず、
噛むとキムチから染み出す辛みのある汁と、
かんぴょうに含まれる甘い汁が混ざってなんとも言えない風味を生み出した。
普通なら、出会うはずのなかったキムチとかんぴょう。
しかしキムチはこうしてキッチンの上でかんぴょうと出会い、そして結ばれたのだ。
ブーンはしばし絵の事を忘れて、ギコが作った料理に夢中になった。
ギコは自分の作った料理を美味しそうに頬張るブーンを見て、
恥ずかしそうな、嬉しそうな表情を浮かべていた。
(*ヽ^ω^)「あー、うまかったお」
(,,゚Д゚)「そりゃよかった。これから毎日三食俺の料理を食ってもらうからな」
(*ヽ^ω^)「大歓迎だお。特にあの肉じゃがは是非また食べたいお」
(,,゚Д゚)「気に入ってくれたか。あの肉じゃがは俺のおふくろ直伝なんだぜ?」
(ヽ^ω^)「……でも、なんでこんなに美味しい料理を作れるのに闇金なんかに……」
(,,゚Д゚)「……。……俺にも事情があるんだよ」
ギコは少し俯いて、それ以上は一言も発せずに食事の後片付けを始めた。
ブーンはそんなギコの姿に違和感を覚えつつも、またキャンバスに向かって絵を描きはじめた。
* * *
それから季節が一つ変わった頃。
ブーンはいまだに絵を完成させられずにいた。
だが、その生活はガラッと変わっていた。
(,,゚Д゚)「おいブーン。白の絵の具買ってきたぞ」
( ^ω^)「お。そこに置いといてくれお」
まず、ギコはブーンの事を「内藤」ではなく、ブーンと呼ぶようになった。
そして24時間常にブーンを監視することもなくなった。
ブーンはギコの料理のおかげか、血色がよくなった。
ギコに話し掛けられても「邪魔をするな」と言わなくなった。
そして何より、二人はまるで家族のような間柄になっていた。
(,,゚Д゚)「なぁ、前も聞いたけどよ。何を描いてんだ?」
( ^ω^)「その答えがギコにわかった時が、この絵が完成する時だお」
(,,-Д-)「……じゃあ、その絵も失敗だな」
( ^ω^)「そうだお」
キャンバスを床に投げ捨て、ブーンが大きく伸びをした。
( ^ω^)「お腹すいたお。そろそろご飯にするお」
(,,゚Д゚)「オーケー。今日は肉じゃがだから楽しみにしてろよ」
(*^ω^)「おっ!」
ギコが台所で調理を始めると、ブーンは絵を描くのをやめて、すぐに食卓についた。
そわそわしながら料理が完成するのを今か今かと待ち侘びている。
その姿はまるで子供のようだった。
(,,゚Д゚)「ほら、できたぞ」
(*^ω^)「待ってましたお!」
コトン、と肉じゃがの盛られた皿がテーブルに置かれる。
甘い香りを広げるそれを、ブーンが口へと運んだ。
(*^ω^)「うまいお!」
(,,゚Д゚)「そう言ってもらえて嬉しいぜ」
二人はたわいのない話をしながら夕食を楽しむ。
そして夕食を食べ終わったらそれで終わり。
しかし、この日はちょっと違った。
(,,゚Д゚)「俺、さ」
( ^ω^)「おっ?」
(,,゚Д゚)「実は、料理人になろうと思って上京してきたんだ」
(,, Д )「ところが、どの店で働いても長続きしないし、俺の料理を認めてくれる人なんて誰もいなかった」
( ^ω^)「……」
(,, Д )「ある日、俺が誠心誠意込めて作った料理を、料理の師匠に試食してもらったんだ。
そしたら、『なんだこれは?豚の餌か?』って言って、俺の料理に手も付けずに棄てやがった」
(,,-Д-)「……それで何もかもが嫌になって……今の仕事についたんだ」
( ^ω^)「……」
ブーンは箸を置くと、無言でその場を離れ、キャンバスの前に座った。
そして、しきりに筆を動かしながら、言った。
( ^ω^)「ブーンも絵の先生に似たような事を言われたお。
その人をモデルにして、一生懸命描いた絵を『谷亮子』って言われたお」
向こうでギコが何かを吹き出したのが聞こえた。
だが、ブーンは続ける。
( ^ω^)「その時は正直腹がたったお。
……でも、ブーンには夢があったから、どうしても絵を描くのをやめるわけにはいかなかったんだお」
(,,゚Д゚)「……」
いつのまにか、ブーンの後ろにはギコが立っていた。
ブーンは今までより格段に早いペースで、それでいて丁寧に絵を描きつづける。
( ^ω^)「そして先生に描けと言われたのがこの絵だお。
ブーンは今までこの絵を描くために全てを犠牲にしてきたお」
(,,゚Д゚)「これは……」
絵の全体像が見えてきた。
( ^ω^)「……でも、間違いだったんだお。
この絵を描き上げるためには、ブーンの全てが必要だったんだお」
まだ5分の1も完成していなかった絵がものの30分でその形を成そうとしている。
これは普通ならありえないことだ。
( ^ω^)「ギコ。君のおかげでブーンは失ったこの絵の『パーツ』をどんどん取り戻していったお。
でも、何かが足りなかったんだお」
もう絵はほとんど完成していた。
一見、何でもないようなデタラメな絵だが、ギコにはその絵が何を表しているかよくわかった。
( ^ω^)「……欠けていた最後のパーツ。
最後のパーツは、『内藤ホライゾンの夢』だお」
ブーンが筆を置く。
そして振り返り、最高の笑顔でギコに聞いた。
( ^ω^)「さあ、これは何の絵かわかるかお?」
ギコは答えた。
迷うことはなかった。
(,,゚Д゚)「……ブーン。お前自身の絵、か」
( ^ω^)「その通りだお」
ただ絵の具をぶちまけ、奇怪な図形が並んでいるようにも見えなくない絵。
どこをどう見てもブーンとは似ていない絵。
しかしその絵は確かに、明らかに、内藤ホライゾンそのものを描いていた。
本来ならここで、絵の完成を二人で祝うのだろう。
……だがそういうわけにもいかなかった。
( ^ω^)「……じゃあ。これでお別れかお」
(,, Д )「……」
絵が完成したら、ブーンは殺される。その約束だった。
しかしいつのまにかブーンに特別な感情を抱いていたギコに、そんなことが出来るはずがない。
(,, Д )(そうだ、逃げよう。二人で)
そう、言おうとした時だった。
「パン、パン、パン、パン」
どこからか聞こえてきた、拍手の音。
そして彼らの前に姿を現した黒服の男。
( ´ー`)「いや、素晴らしい。今まで本当にお疲れ様だったよ。内藤」
(;゚Д゚)「ボ、ボス!」
ギコにボスと呼ばれた男はゆっくりとブーンに近づく。
そして絵とブーンを交互に見ながら言った。
( ´ー`)「そうか…お前はたった一つのカオスな絵題を一年以上も引きずってきたんだな。
よしよし。大変だったな。さぞ苦しかったろう。
お前は良く頑張った。本当に頑張った……」
( ´ー`)「安心して死ね」
背筋の凍るような声で、言った。
(#゚Д゚)「んなこと……させるかぁぁぁぁぁ!!」
ギコが黒服の男に飛び掛かる。
右の拳を強く握り、男の左頬に目掛けて思い切り打ち込もうとした。
もちろん、その拳が男に届くことはなかった。
(; Д )「かはぁっ!?」
鳩尾を蹴り上げられ、その場にうずくまる。
それでも立ち上がり、男を殴ろうとするが
( ^ω^)「ギコ。もういいお」
それをブーンが制した。
(; Д )「ブー……ン……。なんで、だよ……」
( ^ω^)「僕の夢は、もう叶ったお」
笑顔のまま、ブーンは続ける。
( ^ω^)「誰かの心に残るような絵が描けた。それだけで僕は十分だお」
( ^ω^)「次は君の番だお。ギコ。夢を手放しちゃダメだお」
(; Д )「ブー……ン……」
( ^ω^)「じゃあ、行きましょうかお」
( ´ー`)「へへへ。潔い人間は嫌いじゃないぜ、内藤」
ギコの目から涙が滲み、視界が霞む。
ブーンと男の背中が少しずつ遠くなっていく。
( ^ω^)「ああ、ギコ。最後にお願いだお」
ブーンが振り返る。
ギコは薄れゆく意識の中でブーンの言葉を必死に聞き取ろうとした。
( ^ω^)「その絵、ギコが大事に持っててくれお。
絶対に、ギコが持っててくれお」
(,,;Д;)「う……あぁ……。あぁ……!」
ギコは頷いた。
何度も何度も頷いた。
二人の姿が見えなくなってからも、ギコは何度も頷いていた。
* * *
それから三年ほど経った頃、その街にある居酒屋が出来ていた。
「らっしゃい!」
店にやってきた女を出迎える店主らしき男は、まだ若かった。
女がカウンター席に座ると、男が爽やかな笑顔で注文を聞いてきた。
注文票を握る左手には小指がついていなかった。
この店で人気の肉じゃがを頼んだ女は、軽く店内を見回した。
そして壁にかけられた一枚の絵に目が止まった。
パッと見だと機械化された根菜達が乱雑に置かれているような不思議な絵だが、
よく見てみるとなんだか懐かしい感じのする絵だった。
「あの絵が気になりますかい?」
「……ああ。あの絵を見てると、昔の教え子を思い出すんだ。
あの絵はあんたが描いたのか?」
「いえいえ。あれは、俺にもう一度夢を与えてくれた人が描いた絵なんですがね。
この世に一枚しかない特別な物ですわ」
「……そうか」
女との会話が終わると、男は厨房へ姿を消した。
―――それは一枚のただの絵かもしれない。
―――無名の一人の画家が描いた、なんの価値のない絵かもしれない。
―――しかしその絵は、一人の男の生き方を変えた。
―――一人の男の心の中にずっとずっと消えない思い出を残した。
―――そういうただの絵の事を、名画と呼ぶのではないだろうか―――
( ^ω^)は内藤ホライゾンを描くようです 終わり
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