( ^ω^) ブーンがシリアルキラーになったようです
- 1 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:45:18.29 ID:1A8VHmRy0
- もうなんだかgdgdなので今日明日中にでも終らす
まとめ
http://boonsoldier.web.fc2.com/siriaru.htm
- 2 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:49:01.91 ID:1A8VHmRy0
- そして僕はわき目も振らずに駆け出したところで―――
―――曲がり角から出てきたばかりの人影にぶつかった。
お互いに「いてっ」だの「わっ」だの言ってその場に倒れこむ。
が、同時に起き上がって態勢を整える。
僕は握り締めたままのナイフをもう一度握りなおし、構えた。
僕にぶつかってきたそいつは、あの日待ち伏せをしていた二人組みの茶髪の方だったからだ。
その手には拳ほどの大きさの白い塊が握られている。
息を呑む僕に対して、茶髪の方は全く驚いた様子も見せず、笑いながら口を開く。
「こりゃよかった。家まで行く手間が省けたよ。」
「そうかお。それじゃあ生きる手間も省いてやるお。」
僕も凶暴な笑みを浮かべる。
見たところ、ここにはこの茶髪一人しか居ない。
あの黒スーツも一緒に居て、なんらかの策を練っていたのだとしたら、曲がり角で僕とぶつかるはずがない。
- 3 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:49:19.75 ID:1A8VHmRy0
- おそらく、目の前の茶髪にとってこれはある程度想定の範囲外の事象。
ならば、これは連中の戦力を削ぐ、目下の脅威を削ぐまたとない好機。
僕は喋り終えると、躊躇う事なくナイフを突き出す。
横薙ぎに振るうには一度手を横に、唐竹割りに振り下ろすには振り上げねばならない。
そんな行動を起こせば、相手に反応する十分な時間を与える事になってしまう。
即ち、最も先を制するのに適した攻撃方法はノーモーションでも繰り出せる突き。
相手も瞬時にそう判断したのだろう。
僅かに左に、右手を突き出した僕が、左腕で追撃をかけられない位置に動く。
突きのような点での攻撃は、振り回すような直線の攻撃よりも避けられやすい。
だが、そんな事は僕とて百も承知だ。
僕が出したのは、単なる突きではない。
茶髪の前に握りこぶしが出現したときには、茶髪の目が大きく見開かれていた。
僕のナイフを握った拳は、手首の間接を目一杯曲げて、ナイフの刃がある親指側を自分に、小指側を相手に向けていたからだ。
そんな状態からできる攻撃は一つ。
茶髪がそれに気づき紙一重で避けて僕の死角に移動するのを放棄。右手に握っていた白い塊を手放してその場から飛びのこうとするのと、僕の曲げられた手首が動いたのは同時。
肩から先、肘も捻って、手首から先を鞭のように横薙ぎに振るう。
腕全体で振り回す時のように、攻撃できる範囲が広くはならないが、紙一重で避けようとしていた相手には十分に届く。
- 4 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:50:06.34 ID:1A8VHmRy0
- 肉を切り裂いて、振りぬく手ごたえ。
僕のナイフは咄嗟に首を捻って顔を背けた茶髪の頬を切り裂いていた。感触からして、おそらく傷は頬を貫通している。
本来ならもっと踏み込み、目を狙う事が出来たはずだが、できなかった。
理由は単純。
踏み込んでいたら僕が死んでいたから。
顔を背け、後ろに跳びながらも無造作に伸ばされた茶髪の手には何時の間にかナイフが握られていて、僕の左肩に突き刺さっている。
これ以上踏み込んでいれば、心臓を突かれていた。
「ンだよぉ、コレ。いてぇじゃん。」
一度噴水のように血が飛び出し、未だにぼたぼたと血を垂らしている頬を抑えながら茶髪が言った。
口に溜まった血のせいか、発音が不明瞭だ。
「うわぁ、貫通してる、貫通。どうりで痛いはずッスわ、これは。」
頬に出来た傷口に、僕に見せるように指を通す。
頬の傷口を突き抜けた指は、自らの歯をなぞる様に蠢く。
「歯にも傷入ってんじゃん。折れたらどうしてくれんの?これからメシ食べる時大変じゃん。マジ痛かったんスけど。」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 22:50:09.76 ID:XvFEaAvv0
- >>1
駄スレ立てんな
チェーンソーで切り刻んでやろうか?
- 6 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:50:29.55 ID:1A8VHmRy0
-
全く痛そうにせず、ヘラヘラと笑いながら言う。
「そしたら二度と何も食べなくていいように殺してやるお。」
僕も意地の悪い顔を作って、軽口を返すが、左肩の痛みで多少表情が強張ってしまったかもしれない。
「まあ、そっちがその気なら」
ここで、茶髪が何かを握った左手を前に出す。
茶髪の親指が動いたかと思うと、一瞬のうちに茶髪の手の中からナイフのブレードが現れた。
表面を焼き付けられ、ブラックフィニッシュを施された、光を反射しない真っ黒のブレード。
スイッチ式のフォールディングナイフだ。
スイッチナイフは日本では販売も所持も禁止されている上、アメリカでも一部の人間にしか所持が認められていないはずなのだが、この男、如何にして手に入れたのか。
おそらく、先程何時の間にか右手に握られていて、僕の肩を貫いたナイフもスイッチナイフだったのだろう。
僕の肩に刺さる寸前に突然奴の握られた手の隙間から刃が延びたように見えた。
「こっちもその気になるのが礼儀ッスよね?」
茶髪が多少肘を曲げ、左右それぞれの黒と銀のナイフ下で構え、正面から僕と向き合う。
右頬からは血が流れ続け、顔の右下半分を朱に染めている
対して僕は、肩に傷のついた素手の左手を後ろに、ナイフを握った右手を前に出す。
さらに、相手に対して斜め45度で構え、スタンス・インテグリティをとる。
- 7 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:50:47.29 ID:1A8VHmRy0
- 格闘戦において、人は真横からの衝撃、両方の足を結んだ直線方向からの衝撃には強いが、正面からの衝撃には弱い。
つまり、こちらから相手の45度にかまえてやれば、ナイフを横薙ぎに振るった場合、自然と相手の正面に打撃を与える事が出来る。
また、こちらは常に相手の攻撃に対して、真横に対応できる。
近接格闘では如何にして常にスタンス・インテグリティを取るかで勝敗が決する。
部長の本棚にあった「徹底CQC、CQBマニュアル」にそう書いてあったので間違いない・・・・・・ような気がする。
ああ、あの本を置いておいてくれてありがとう、部長。
とりあえず僕は思考をそこで中断。
僕が馬鹿な事を考えている間にも、茶髪は接近してきている。
馬鹿めッ!貴様に対してスタンス・インテグリティを取っている僕は圧倒的に有利ッ!
だというのに不用意に仕掛けるとはッ!
口には出さずに心の中で叫びつつ、茶髪の振るった右のナイフを咄嗟に右のナイフで受け止め、押し返し、さらに追撃をかけてきた左のナイフを、余裕を持って受け止める。
茶髪の目が驚愕に見開かれた。
流石スタンス・インテグリティッ!勢いの乗った相手の攻撃を受け止めても余裕で押し返せるッ!
と、心の中で部長に感謝。
- 8 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:51:10.39 ID:1A8VHmRy0
- しかし、こちらはナイフ一本なのに対して、相手は左右に二本。
手数で責められては手も足も出ないので、後ろに下がって距離を取る。
茶髪も自分の二刀が、僕の一刀で防がれた事に驚いたのか、距離を詰めようとはしない。
「馬鹿みたいに硬いナイフ使ってんだね、あんた。刃に傷が入ってるし。」
茶髪が両のナイフを掲げてみせる。
成るほど、離れているので確認しづらいが、刃に切れ込みのような物が入っている。
「馬鹿め、もしも僕が先をとって攻めていたら、おまいのナイフは今頃折れてたお。」
僕が嘲るように挑発すると、茶髪は少しムッとしたような表情を取り、不満げに口を開く。
「勝負に”もし”なんてないッスよ。それならもし俺が銃持ってたらあんたは今頃脳みそ打ち抜かれてるじゃん。」
「じゃあ、もし僕が波紋使いだったらおまいが銃使おうが使わまいが殺せるお。」
「は?じゃあもし俺が大統領だったら今頃あんたは爆撃されて死んでるっスよ。」
「でも、もし僕に予知能力が(ry」
「なら、もし(ry」
- 9 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:51:36.00 ID:1A8VHmRy0
-
下らない言い合いはここまでにして、真面目に相手への対処法を考える。
ここまでいくつか分かった事は、この茶髪は人を殺しなれていないという事。
通常、心臓を狙うときは肋骨に阻まれないように、隙間を通すように刃を寝かせる。
が、この茶髪はそれをしなかった。
かといって、ナイフで人を傷つけるのに慣れていないわけではなかった。
ナイフで物を切るときに、力はいらない。
ようは、どれだけ速く刃を滑らせて、摩擦を起こすかなのだから。
その点、茶髪のナイフの振り方は理想的だった。
手首を腕に対して直角異常に、小指が腕に触れる事ができるのではないかと思えるほど、間接を曲げいてた。
間接自体がとんでもなく柔らかいのもあるのだろうが、茶髪はナイフを振るうときに、腰や足捌きを殆ど使わず、手首や肘の動き、捻りだけで瞬間的なスピードを作り出している。
正直、手首から先の動きは全く見えなかった。
そして、腰のバネを使わないのは、単純に別の手での攻撃に繋げる時に時間を短縮できるからだろう。
早い話が、「速さ」にばかり特化した戦い方。
ならば、次の行動も大体は予測がつく。
茶髪は、突然軽口の応酬を中止して黙り込んだ僕を、警戒するように眺めている。
口元は相変わらず笑っているが。
そして、僕が奴とどう戦うのが最も効率的か、それを考えているのに気づいたのだろう。
笑っていた茶髪の目が据わり、一瞬でナイフを振るう。
- 10 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:51:56.03 ID:1A8VHmRy0
- まずは、右手に持ったナイフを一線。
今度はしっかりと腰をひねって勢いをつけている。
今までに無い程の速さで、茶髪のナイフが動く。
その肘から先は、光を反射するナイフの刃が発する銀影以外、まったく僕の目に映らない。
が、僕はやはり余裕を持って右手のナイフで受け止め、押し返す。
茶髪の目が三度、驚愕に見開かれ、喉の奥から引きつったような声が出る。
「・・・・・・・・・・・っっっッ!!!!」
僕の押し返したナイフが茶髪の右手から弾き飛ばされていた。
光を反射して輝きながら、ナイフはゆっくりと放物線を描いて地面に落ちていった。
カラン、という音。
茶髪の振るったナイフの速度は完璧だった。どれほどの剣や格闘技の達人にも視認することはできないだろう。
驚くのも無理は無い。
が、僕は相手の驚愕などお構いなしに、相手のナイフを弾き飛ばしたばかりのナイフで突きを繰り出す。
茶髪が慌てて左手のナイフを振るうが、僕はそれを無視。相手にナイフを突き入れる事だけに集中する。
- 11 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:52:12.93 ID:1A8VHmRy0
- 先ほどの攻防で、僕の方が膂力で勝っている事は確認済み。
ならば、茶髪が速さで勝負を仕掛けてくるのは簡単に予測できる上、どれだけ手首から先の動きが早くても、腕や肩の動きさえ見えれば、
簡単にナイフの軌道は予測できる。
さらに、手首の間接は曲げれば曲げるほど手の握力は下がる。親指や人差し指に力が入れにくくなるからだ。
事実、茶髪のナイフには、殆ど力が入っていなかった。
先ほど両手のナイフを受け止めたときの、茶髪の驚愕の表情からも分かるとおり、相手とナイフ同士で打ち合う事など想定していなかったのだろう。
推察するに、こいつはただ喧嘩に慣れているだけだ。
素人同士が刃物を持って切り合ったところで、何合も刃物を打ち合うなどという事は無い。
剣術家や訓練を積んだ軍人ならば、「この体制からなら、最も効率のいい体の動かし方はこうだ」と、自分の経験や知識から相手の動きも大方読むことができる。
が、それは相手も自分と同じような訓練や経験を積んでいることが前提での話だ。
何の経験も知識も無い素人が振り回す刃物には、道理も効率性も無い。
動きを読むことは難しくなる。
おそらく、茶髪はそういった、打ち合うことの無い「先に相手に切りつけて怪我をさせた方が勝ち」というような戦いしかしたことが無いのだろう。
残念だが、僕はもう既にドクオやラスカと言った、学術名・ホモサピエンスから種や目が外れていそうな人外連中と打ち合っているのだ。
茶髪が最後に見れたのは、自分に迫ってくる迷彩柄のナイフの刃だけだろう。
一瞬後には、そのナイフで視界が埋め尽くされたのだから。
- 12 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:53:04.65 ID:1A8VHmRy0
-
「が・・・・・・っ!!!!」
茶髪の左手のナイフ―――こちらはテフロン加工が施されて黒いため、夜の闇に紛れて残像すら見えなかった――――は僕の胸の中央、鍵穴のある辺りに一センチほど食い込んで止まっている。
対して、僕のナイフは根元まで茶髪の左目に突き刺さっている。
結果は歴然。
そもそも、ナイフを横薙ぎに振るって人間の胴体に致命傷をおわせようなどというのが間違いだ。
確かにナイフで物を切るのに力はそれほど重要ではない。
だが、力の無いナイフで人の肉や皮は切れても、骨を断つ事などできない。
相手を殺す気が無い路上の喧嘩で、相手に適当な傷を負わせることができても、一撃で人を殺す事は不可能。
僕に突き刺さったナイフは軽く肉を切って、僕の胸骨で止まっていたが、僕の突き刺したナイフは相手の眼球だけでなく脳も貫いている。
茶髪のナイフが突き刺さった場所に、丁度僕にしか見えない鍵穴があり、胸骨ではなく、その穴にナイフが引っかかって止まったように見えるのはただの偶然だろうか。
- 13 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/23(木) 22:53:39.12 ID:1A8VHmRy0
-
「がァ・・・ッ、あ、あ・・・ッ!!!!」
そんな声を出しながら、茶髪がよろけるようにその場に倒れこむ。
持ち主の無くなったスイッチナイフが、地面と音を立てて衝突する。
茶髪は頬から未だに流れ続ける血と、眼球の置くから迸る血で顔中を真っ赤に染めながら地面を転がる。
ナイフが眼窩に突き刺さったままなので、当然動けば動くほどナイフが揺れて、脳みそがかき混ぜられる。
茶髪の腕がナイフを引き抜こうと、その柄に触れたところで、茶髪は動かなくなった。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:16:29.12 ID:pTWphoUyO
- グロいようママン
(´。・ω・。`)ブワッ
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:19:30.94 ID:8fUnjl3L0
- なあに、かえって免疫力がつく
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:28:51.18 ID:RBqiXVecO
- ついに北
age(゚∀゚)
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:29:05.24 ID:d38w6WLoO
- wktk
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:31:22.64 ID:oGoyFfubO
- 正直今日と明日で終わりと言うのが悲しい
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:32:34.67 ID:d38w6WLoO
- 俺も。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:38:49.34 ID:RBqiXVecO
- 同じく…
昨日の投下見逃しちゃった…
まとめサイトで少し読んだけど
今ツンはさらわれてる?
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/23(木) 23:44:09.82 ID:oGoyFfubO
- >>20
まだわからない、ツンから文章無しのメールが来て終わり
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:00:06.11 ID:R0ViHxmnO
- 落ちるのは俺だけで十分だ!!!!!!!
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:03:11.71 ID:FhlRClpuO
- >>21
d
保守
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:21:21.37 ID:NN9gidaBO
- スマン。昨日スレを守り切れなかった。
- 25 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:31:29.41 ID:xghEL8fw0
-
「・・・・・・・・・・・・。」
僕は動かなくなった茶髪の眼窩からナイフを引きずり出すと、地と油に塗れたそれを茶髪の服で拭った。
何気なく、時計を見る。
家を飛び出してから、三分程度しか経っていない。
やはり、何かの訓練を積んだわけではない僕らの決着は、あっという間についていた。
ツンを探しに行こうとして、僕は茶髪が落とした白い塊に気がついた。
こぶし大の、細長い塊。
茶髪は「手間が省けた」と言っていた。
という事は、この白い塊で何かをしようとしていたのだろうか?
一体何を?
拾い上げてみると、一見、紙をクシャクシャに丸めただけに見えたそれは重かった。
中におもりが入っているのだろう。
窓でも割るつもりだったのだろうか?
僕はその紙を広げて絶句した。
そして、駆け出した。
第十二話・完
- 26 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:32:05.09 ID:xghEL8fw0
- 13、因果応報3
魔物と闘う者は、その過程で自分自身も魔物になることがないよう、気をつけねばならない。
深淵をのぞき込むとき、 その深淵もこちらを見つめているのである。
―――酒鬼薔薇聖斗「懲役十三年」第一節と第五節より。
僕は走っていた。
向かう先は、この街に面している湾の港にいくつもある倉庫の内の一つ。
茶髪の落とした紙の中に入っていたのは、一振りのナイフと、その倉庫を示した地図だけ。
それがただのナイフだったのなら問題は無い。
だが、それはツンのナイフだった。
今まで一緒に狩りをして見慣れていたナイフ。
それを視界に納めた瞬間、僕は居ても経っても居られずに駆け出していた。
まず間違いなく、ツンは連中―――と言っても、これ以上奴等に仲間が居ないなら黒スーツ一人だけだが―――に捕まっている。
しかし、僕はツンの捕まっているその場所に行って、どうするのだろう?
何をするつもりなのだろう?
僕はツンを助けるつもりなのだろうか?
ツンを殺したがっている僕が?
いや、ツンを殺したがっているからこそ、他人にツンが殺されるのが我慢できないのだろうか。
わからない。
わからないが、このまま何もせずにツンが殺されたりすれば、絶対に僕は後悔する。
だから走っていた。
- 27 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:32:35.36 ID:xghEL8fw0
-
警戒などせず、一目散に倉庫の入り口へとかける僕の耳にカツン、という足音が響いたのはそのときだった。
歩くときに出る足音ではなく、単純に相手の意識を人文に向けるためだけの、わざとらしい足音。
罠で、誰かが待ち構えているというのは分かりきっていたので、僕は驚かずに相手を見据える。
いつの間にか、倉庫の入り口から黒いスーツを纏った人影が現れていた。
黒髪黒瞳の黒ずくめの男。
あの建設途中の家屋で、僕のナイフを素手で受け止めた男だ。
「帰ってこないことを考えるに、城嶋は死んだか。」
きじま、と言うのはあの茶髪の事だろうか。
だが、僕にはそんな事はどうでもいい。
喋る男を無視して、僕は突貫。
走っている勢いをつけてナイフを突き出す。
が、あっさり男は右に移動する事であっさりとそれをかわす。
以前に、背後からの奇襲でも受け止められた事を考えれば、当然の結果だ。
しかし、僕にはこの男と正面から戦う気など無い。
まずは、倉庫に入る。
そしてツンを助ける。
それが最優先すべき事。
- 28 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:32:54.85 ID:xghEL8fw0
-
そう考えて、ナイフを避けて横に退いた男の脇を通り過ぎようとしたところで右の脇腹に衝撃が来た。
見れば、男の踵が僕の脇腹に食い込んでいる。
男の体と蹴りを出した足は一直線に、地面と平行、軸足と垂直になっている。
足刀蹴りだ。
衝撃に吹き飛びながらも、一瞬だけ倉庫の中が見えた。
確かに、ツンと思われる人影が転がっていた。
気絶しているのか、それとも、考えたくは無いが死んでいるのか。ツンは動かずに横たわっている。
僕はそのまま港の周辺に積んであるコンテナに激突。
痛みを我慢してすぐに起き上がるが、脇腹を走る激痛に顔をしかめる。
肋骨は折れやすい。多分、数本ヒビが入っているか、折れている。
だが、幸いにも吹き飛びながらも僕の右手はナイフを手放しては居なかった。
相手の追撃が来る前に体制を整えようと、急いでナイフを構えなおすが、予想に反して黒スーツには追撃をかけてくる様子は見られない。
男は先ほどと同じ位置に立ったままで、構えてすら居ない。
「人の話はちゃんと聞けよ。」
男がゆっくりと言葉を発した。
その声色で分かった。
男は怒っている。
- 29 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:33:35.12 ID:xghEL8fw0
- 仲間の死を悲しんでいるのか、ともかく男は怒っている。
「随分焦ってるな。いままで散々派手に殺してきたんだ。自分たちが殺されても文句は言えないだけの覚悟がるもんだと思ってたが・・・・・・」
男の言葉が終わるよりも速く、僕は駆け出している。
再び突進の勢いに任せてナイフを繰り出す。
男の顔を狙ったナイフは、男が顔を僅かに逸らした事であっさりと空を切る。
そして、僕の顎に男の掌底が来る。衝撃。
頭蓋骨と頚骨が引き離されるのではないかと言うほどの衝撃に、脳みそが揺らされたが、僕は無視してさらにナイフを振るう。
が、男は手刀で僕の手首の関節を打ち、受け止める。
一瞬の後には僕の手を受け止めていたはずの男の右手が、手刀で肘を曲げたままの状態から繰り出されている。
また、衝撃。手首から先だけで繰り出されたはずのそれは、とんでもない威力を持って僕の左の下あごを抉るように直撃。
再び脳が揺れる。
体がふらついたが、手さえ動けば構いやしない。
諦めずに僕はナイフを振るうが、男は余裕だ。
常に自分から仕掛ける事はせず、後の先をとって、カウンター気味の一撃を打ち込んでくる。
- 30 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:34:07.82 ID:xghEL8fw0
-
「まるでガキだな。あれだけ人を殺しておいて、自分たちの番になれば無茶苦茶に暴れまわる。」
なおかつ、男は接近戦のさなかに語りかけてくる。
「後先考えず、餓鬼や畜生のように出鱈目に手足を振り回し、人を殺そうとし、お前等2ちゃんねらーは人間以下の獣だな。」
男の右の拳が僕の左頬に入る。
歯が折れて、口から血が噴出したが、それでも僕は止まらない。
拳を出して、腕が伸びきって無防備になった男の右の腹目掛けてナイフを突き出す。
が、やはり手をはたかれて防がれる。
次の瞬間には僕の鳩尾に男の拳が突き刺さっている。
「げぇぇッッ」
僕の口から自分が出したとは思えないような声が漏れる。
吐き気を堪えながらも屈んだ僕の顔を、男の右足が蹴り上げた。
蹴られた勢いで顔が後ろに吹き飛び、体もそれにつられて起き上がる。
たまらずに僕は仰向けに地面に倒れこんだ。
- 31 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:34:27.19 ID:xghEL8fw0
-
起き上がろうとするが、散々脳みそを揺らされたせいでうまく体に力が入らない。
そして、地面に倒れ付し、奇妙に手足を動かす僕に、男が静かに告げた。
「因果応報なんだよ。」
因果応報?
なんだよそれ。
なんだよそれは。
だから大人しく殺されるってのか?
だから大人しくツンが殺されるのを見過ごせってのか?
なんなんだよそれはッッッ!!!!!!
一度動きを止めると、僕は両足を揃え、体を折り曲げて両足を自分の顔付近まで持っていく。
そして、勢いをつけて起き上がる。
男は強い。
茶髪の男よりも、ドクオよりも、そしておそらくラスカよりも強い。
だが、男は2ちゃんねらーではない。
ただ単純に、強い。
- 32 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:34:50.21 ID:xghEL8fw0
- 何かの格闘技が武術を学んだ結果だろう。
どれほどの心血や時間を注いで学んだのかはわからない。
ともかく、男の動きには隙が無く、全ての動作がひとつひとつ、適当に見えて流れるように行われている。
だがそれがどうした?
僕がこれからツンを助ける事と、何の関係がある?
そうだ、僕はツンを助ける。
ツンを助けてどうするのかはわからない。
それでも僕はツンを助ける。
助けたいから助ける。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
気づけば僕は叫んでいた。
この男は殺す。
絶対に殺す。
ツンを助ける邪魔をした。
現在進行形で邪魔になっている。
だから殺す。
僕やツンを害する奴はみんな死ぬか、後悔すればいい。
アドレナリンで興奮した僕の脳味噌が、さらに凶暴的な思考を生む。
- 33 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:35:51.10 ID:xghEL8fw0
-
「吠えるな畜生が。」
怒りを押し殺した淡々とした声で男が応えると、僕が気合と共に袈裟切りに振るったナイフを、これまたあっさりと屈んでかわす。
そして、再び僕の腹に突き刺さる男の右拳。
胃のおくから何かがこみ上げてきたが、我慢する。
口の端から酸っぱいものが少し漏れたが、気にしない。
僕は両足に全身全霊を込めて踏みとどまり、男の右手に突き出した。
先ほど地面に転がってもがいていた間に掴んでいたメスを。
「っっッ!!!」
今まで冷静に見えた男の顔が少し強張る。
―――ざまあみろ。
僕は心の中で勝ち誇る。
お前は死ね。
僕より強かろうがなんだろうが死ね。
僕では殺せないなら、まずは腕から殺す。
殺されようが殺す。
絶対に殺す。
- 34 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:36:17.72 ID:xghEL8fw0
-
心の中で必殺を確信しつつもメスを突き出す。
そしてメスは僕の狙い通り、男の皮膚を破り、肉を裂き、腕に突き刺さった。
が、それだけだった。
「な・・・・・・・・・ッ!」
僕の喉が驚愕に震える声を絞り出す。
僕のメスは確かに男の腕に突き刺さっている。
が、軽く肉を裂いて、それ以上は進まない。
皮膚の下に鉄でも仕込んでいるのだろうか。
そう思えるほど、かえってくる手ごたえは硬い。
「肉を切らせて骨を断つ、か。それとも、ただ単に必死になってなりふり構わずに俺の腕にメス
を突き立てただけか?」
男が再び落ち着いた声色で喋る。
「どちらにしても、俺の骨はそうそう簡単には断てんぞ。」
- 35 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:36:34.92 ID:xghEL8fw0
-
三度、男の拳が僕の鳩尾を殴打した。
僕はその場に崩れ落ちると、嘔吐感に耐え切れずに胃の中の内容物を吐き出した。
その中に、白い小指の爪ほどの物体が見える。
僕自身の歯だ。
先ほど折れてから吐き出した覚えが無いとは思っていたが、どうやら飲み込んでいたらしい。
―――ああ、痛いなぁ、畜生。
呟こうとしたが、僕の口は吐瀉物を吐き出すだけで声を出そうとはしなかった。
痛かった。
無茶苦茶痛かった。
一通り居の中のものを全部吐いて、落ち着いた僕の即頭部を、男の右足が蹴り飛ばした。
その衝撃に、僕はあっさりと横に転がる。
胃の奥だけでなく、頭の置くもジンジンと熱を持ったかのように痛みを発し続ける。
起き上がって今すぐにでも男に切りかかりたかったが、どうやら無理そうだ。
僕は起き上がろうとして力を失い、その場に転がる。
「もう終わりか?」
男が僕の傍らで、余裕の表情で僕を見下ろしている。
- 36 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:37:02.16 ID:xghEL8fw0
- ――――ああ、なんだよ。
―――――殺すなら殺せよ。
目を閉じれば、頭に浮かぶのはツンの顔。
でも、なんだ、
最後に見るなら、こんな陰気臭い野郎の顔じゃなくて、
ツンの顔が良かったな。
頭の中にツンのあの笑顔が浮かんだ。
屋上で、ツンに殺人の事を告白したときに見せた、あの笑顔。
何もかも包み込んで許してくれるような、
それでいて花が咲いたように可憐なあの笑顔。
純粋に「笑いたいから笑う」という意思しか感じられない、あの笑顔。
―――ああ、畜生、顔見たいなぁ、ツン。
その瞬間、僕の体に力が沸いた。
奇跡とは多分、こういう事を言うのだろう。
もう指一本たりとも動かす気概の無かった僕の中に、ツンの笑顔が浮かんだ瞬間だけ、体を動
かす気力が生まれた。
寝転がったままの体制で、僕は男の顔に向けて右手のナイフを突き出す。
が、あっさり男の手に払われる。というか、寝転んだ体制のままで男の顔に僕の手が届くはず
が無い。
それでも僕は止まらない。
- 37 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:37:21.34 ID:xghEL8fw0
- 僕はさらに男の腹にむけて左手のメスを振るう。
しかし、これも届かない。
男が一方後ろに下がる事で、あっさりとかわされた。
それならば、
届かないならば届くようにしてやればいい。
幸いにも、僕はまだ武器を一つ残していている。
だから僕はその武器を突き出した。
右足を軸足に一方白に下がった男の、残された左足に向けて。
両手を使っても、まだ僕に残されている武器―――――
―――口の中の犬歯、前歯を使って男の左のアキレス腱を噛み千切った。
「があああああああああああああああぁあっぁぁぁッッッッ!!!!」
これまでの落ち着いた物腰からは信じられないような苦鳴が男の口から漏れた。
自分の口の中、男の足から「バン」という、何かが破裂するような音が響いた。
聞くところによると、アキレス腱が切れた時は、銃声のような音がするらしい。
しかし、僕の攻撃はまだ終わっていない。
左足に力を失って、男が左にバランスを崩しながら落ちるようにしゃがむ。
僕はその隙に、メスを放り投げた左手で地面を押し、立ち上がりざまに右手のナイフで男の顔
に切りかかる。
- 38 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:37:44.20 ID:xghEL8fw0
- だが、ここで信じられないことがおきた。
男が左のアキレス腱を噛み千切られながらも、右足一本で無理やり飛びのいたのだ。
僕のナイフの切っ先は僅かに男の左目を切るに留まる。
―――浅い。
瞬間的に悟る。
僕は失敗した。
おそらく、傷は浅い。眼球を傷つけてすら居ないだろう。
まぶたと、目の上下の皮と脂肪を僅かに切っただけだ。
本当に信じられないことだが、男は右足とアキレス腱の切れた左足でなんとか立ち上がると、
僕の放り投げたメスを拾って切りかかってくる。
おそらく、怒りと痛みにわれを忘れているのだろう。
左目を血で完全に染めながらも、ただ力だけを込めて、技術も計算も無い一撃を唐竹割りに叩
き込んでくる。
十センチ程度のメスが一メートル近い太刀に見えた。
僕は目を瞑り、やがて訪れるであろう死を待った。
―――なんだよ。
―――これでおしまいかよ。
―――ツン、ごめん。助けられなかった。
僕は脳裏にツンの顔を思い描きながらも、死を待った。
だが、それは何時まで待ってもやって来なかった。
代わりに、閉じられた視界の中で金属同士がぶつかる甲高い音が聞こえた。
疑問に思い、目を開けた僕の目に飛び込んできたのは――――
――――ファー付きのコートを着込んだ男の背中だった。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:38:38.49 ID:9kHytHB5O
- 先生久しぶり!
wktkしてまってたよ
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:42:09.18 ID:SqfUmOK0O
- すっごい期待してたのに・・・今夜で終わりなの?
- 41 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 00:43:50.40 ID:xghEL8fw0
- >>40
時間が出来たら続編みたいなのも書きたいな、と思ってる。
というか、この話、設定ばら撒いただけだし。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 00:53:24.69 ID:NN9gidaBO
- ワロスwwww
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 01:01:24.41 ID:SqfUmOK0O
- >>41
時間が出来たらじゃないよ・・・(´;д;`)
毎日一行づつでも書かないとヤらなく成っちゃうよ
- 44 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:09:49.74 ID:xghEL8fw0
-
「・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!」
僕はもう驚きと混乱が入り混じって声も出せない。
見れば、黒スーツの男も同じようで、突然の乱入者に絶句している。
乱入者は二人。
一人はファー付きのコートを着た、ファーと同じ色、同じような髪質の城嶋とか言う男よりも暗い感じのする、焼けた肌を持つ茶髪の男。間違いなく、それはラスカとの戦いの前に、僕に忠告をしたあの男だった。
もう一人は、染めたものではなく、自然な色とつやを持った長い金髪の、長身白皙で欧米系の外国人。僕はその長身白皙の男の金髪を見て、なんとなくだが狐の毛並みを連想した。
「なんだ、お前らは。」
男が静かに、しかし驚きを隠せない声色で問いただす。
アキレス腱を噛み切られた痛みと出血からだろう、なんとなく顔が青ざめている。
だが、乱入者達は答えない。
僕はこの隙になんとか起き上がるが、両足に力が入らずにふらつく。
起き上がって、ファー付きコートの男の背から移動すると、黒スーツの振るったメスをコートの男が逆手に構えたナイフで受け止めているのが分かった。
元から逆手に構えるように作られた、内側に反った片刃の鎌のような刃を持ったカランビットナイフだ。
歪曲した柄の先には丸い輪がついていて、そこに人差し指を通して握っている。
柄全体は黒く塗られているが、刃だけがテフロン加工を施されずに銀色の輝きを放っていた。
僕はそれを見て、動物の牙のようだな、と脈絡も無く思った。
コートの男の膂力は、左のアキレス腱をきられたからか、黒スーツの膂力にも引けを取っておらず、拮抗状態となっている。
- 45 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:10:10.15 ID:xghEL8fw0
-
「なんなんだって聞いてんだよぉぉぉおぉぉぉ、手前等はぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁッッッ!!!!」
答えない乱入者達に痺れを切らせ、男が叫ぶ。
そこになって、やっと乱入者の一人が返事を返した。
「運営。呼ぶのならそう呼ぶと言い。」
どう見ても外国人のような外見の長身白皙の男が、流暢な日本語で答えたのだ。
その表情は、どこか冷めていてつまらなそうだ。
機嫌が悪いのかとも思ったのだが、男の顔からは怒り等の感情は汲み取れない。
おそらく、その退屈そうな表情がデフォルトなのだろう。
「運営?」
黒スーツが思わず単語を繰り返して聞き返す。
「別にただ見てるだけでも良かったんだがね。フサがどうしても手を出したがっていたからな。」
長身白皙の男が無表情に言う。
フサとは、おそらくファー付きコートの男の事だろう。
「おい、おまえ。」
と、此処にきて蚊帳の外風味だった僕に、フサと呼ばれていた男が声をかけていた。
殆ど他人事で、隙を探して倉庫内に入ろうとしていた僕は心臓が止まるかと思うほど驚いた。
- 46 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:10:26.41 ID:xghEL8fw0
-
「ぼ、僕かお?」
「ああ、おまえだよ。あの女を助けるんだろう?だったらさっさと行け。」
フサが視線だけは黒スーツに向けながらも言った。
「なんでだお?なんで助けてくれるんだお?」
「・・・・・・俺も久しぶりに走りたくなったのさ。」
「は?」
「いいから早く行け。」
なんだかよくは分からないが、ともかくこれはチャンスだ。
僕は軽くフサに対して頭を下げながら、倉庫の入り口へと向かった。
そこで、黒スーツがフサのナイフを押し返して、倉庫の入り口をくぐろうとする僕の背へとメスを突き立てようとする。
が、フサが追いすがって再びカランビットナイフでメスを受け止める。
僕は振り返らずに倉庫の中へと足を踏み入れた。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 01:29:03.24 ID:SqfUmOK0O
- ( ^ω^)保守だお
- 48 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:35:29.32 ID:xghEL8fw0
-
「そんな足と目で、奴の事を気にしながら俺と戦えると思うか?」
どうにかして中に入っていった内藤へと攻撃を加えようとする日浦に向かって、フサギコが呟いた。
その左手には、何時の間にかカランビットナイフがもう一本出現している。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
日浦は半眼になってフサギコを睨む。
ここまで追い詰めて生け捕りに出来なかった内藤の事は残念だが、
目の前のフサギコはどう見ても、別の事を考えながら戦えるような相手ではない。
万全の状態ならともかく、左のアキレス腱を失った今の日浦では、苦戦しそうだ。
「フサ、逃げるようなら無理に追撃をかけなくてもいいぞ。」
フサギコの後ろに控える長身白皙の男が呟く。
それは事実上、「逃げるようなら見逃してやる」と言ってるようなものだった。
フサはそれに対して頷くと、両手のカランビットナイフを逆手に構える。
両肘と膝を曲げ、重心を低くして両手を腰の辺りまで下げる。
二本のカランビットナイフの刃が、犬の犬歯のように輝いた。
- 49 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:35:50.00 ID:xghEL8fw0
-
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
日浦はアキレス腱の切れた左足を前に、右足を後ろにして構えた。
左の視界も血で塞がれているが、その気迫はフサギコに遅れをとっては居ない。
退くつもりは無いようだ。
「あの二人の事は今回は諦めるんだな。女を守ろうって男の邪魔をするなんざ、無粋にも程があるぜ。」
フサギコが、大き目の犬歯をむき出しにしてニヤリと笑う。
が、日浦はその挑発には応じず、静かに構えを取る。
その集中力に、日浦の本気を感じたのだろう、フサギコも顔を真剣なものに変える。
「合図、要るか?」
ここで、長身白皙の男が銃を掲げながら二人に尋ねた。
「ええ」と答えようとしたフサギコは、目の前の日浦の顔が凍りついていることに気づく。
彼の主人の銃は、日浦に向けられていた。
「ちょ・・・」
フサギコが何かを言う前に、男は引き金を引いていた。
”着弾音が鳴ってから”、銃声が響いた。
- 50 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:36:19.27 ID:xghEL8fw0
- 倉庫の床に転がるツンの体を、僕は丁寧に、壊れ物を扱うかのごとく揺らして起こした。
ツンの目がゆっくりと開かれる。
「・・・・・・・・・・・・内藤?」
僕はこれまで、自分がツンを殺したいのだと思っていた。
ずっと、このまま一緒にいれば、何時かツンを殺してしまうと思っていた。
ツンはまだ現状を把握できていないのか、怪訝そうに僕を見る。
そして、その視線を受けながら僕は思った。
僕は確信した。
僕はツンを本当に殺したがっているという事を。
「内藤、あいつ等は?黒いスーツ着た奴と茶髪の―――」
「ツン、」
状況を把握しようと質問を投げかけてくるツンの言葉を遮るように、僕はツンに呼びかけた。
僕のその真剣な表情に何かを察したのか、ツンはそれ以上問おうとしない。
- 51 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 01:37:04.43 ID:xghEL8fw0
-
「ツン、」
もう一度呼びかける。
「何?」
ツンは微笑みながら聞き返した。
「ツン、君を殺したい。」
言った瞬間、世界が止まった。
もう、僕の目にはツンしか見えていない。
僕はゆっくりとツンの心臓にナイフを突き立てた。
疲れ果てて、全身を痛みがさいなんでいたはずだが、不思議と痛みも苦しみも感じなかった。
そして僕は、最早ツンしか見えなくなった世界の中で、ナイフをツンの胸へと押し込んだ。
第十三話・完
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 02:00:04.92 ID:q65f0P6WO
- ほす
- 53 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:05:04.49 ID:xghEL8fw0
- エピローグ「無垢世界2」
世界中に向かって、僕は君を愛していると叫びたい
―――レイモンド・フェルナンデス
恋人のマーサ・ベックと共に二十人前後の女性を殺した連続殺人犯。
上の一節は、彼等が処刑される二時間前にマーサに送った手紙より。
「成るほど、これはお前の言うとおりにしておいて正解だったな。面白い事になっている。」
倉庫の入り口をくぐった、長身白皙で、金髪の男が嬉しそうにそう言った。
話しかけられた、男の後ろにつづくフサギコは、憮然とした表情のまま返事をしない。
「そうむくれるな。お前の戦いに手を出したのは悪かったと思ってる。とりあえず見てみろ、これ
は完全に想定の範囲外だ。」
不機嫌そうにしながらも、彼の主が退屈そうなもの以外の表情を見せるのは滅多に無い事な
ので、フサギコは倉庫の中を覗き込む。
「これは・・・・・・・・・・・・。」
フサギコが中の状態を見て絶句する。
倉庫内には、二つの死体が転がっていた。
- 54 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:05:26.78 ID:xghEL8fw0
-
「入るなよ。見るだけだ。できれば、このままそっとしておいてやりたい。」
長身白皙の男が静かに言うと、二つの死体に近づいていく。
フサギコには、彼が言葉の通り彼らを誰にも触れさせずにそっとしておくために力を使うのだと
いう事がわかった。
そして、彼の主にはその程度の力の行使は造作も無い事も。
「・・・・・・・・・・・・・・・なんで、」
フサギコは思わず呟く。
「死んでるってのに、なんでそんなに幸せそうなんだよ。」
声が静かに響く。
それを聞いた彼の主、長身白皙の男の目が細められた。
慈しんでいるのだ、二人の死体を。
二人の結末を。
お互いの心臓に、もつれ合うように微笑みながら刃を突き立てている二人を。
- 55 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:05:43.60 ID:xghEL8fw0
-
「ツン、君を殺したい。」
言った瞬間、世界が止まった。
僕はもうツンしか見ていないし、おそらくツンも僕しか見ていない。
口に出してみてあらためて確認する。
僕はツンを愛してる。
愛してるから殺す。
殺したいほど愛してるし、愛したいほど殺してる。
「知ってたよ。」
ツンは、あの時の屋上で見せたような笑いで答えた。
僕も微笑み返す。
「きっと内藤と私は似たもの同士なんだよ。私も、内藤を殺したい。」
そのツンの台詞に、僕は安堵感を覚える。
ああ、僕がツンを殺したくてしかたがなかったように、ツンも僕を殺したがってくれていた。
僕とツンは、同じ感覚を共有していた。
そのことが、無性に嬉しい。
- 56 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:06:28.83 ID:xghEL8fw0
- 「なんか、口に出して言ってみたら、今まで我慢してたのが馬鹿みたいに思えてきたお。」
僕が囁くように、微笑みながらツンに言った。
「じゃあ、内藤」
「ツン、」
もう言葉は要らない。
それでも僕らは言葉をつむぐ。
『君を(あんたを)、殺したい。』
ツンはクリスマスに僕がプレゼントしたメスを取り出して僕の心臓に突き立てた。
それをツンに渡した時の事を思い出して、僕の口元が自然と綻ぶ。
そして僕も、自分の右手に握ったナイフをツンの心臓に突き刺した。
ツンが僕の全てを受け入れるように、包み込むように柔らかに微笑む。
口の奥から血が漏れてきたが、僕も必死に微笑み返す。
僕はしっかり笑えているだろうか?
今の僕は、ツンのように透明に笑えているだろうか?
そんな思考で脳内が埋め尽くされたが、ツンの笑顔を眺めていたら吹き飛んだ。
- 57 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:07:16.50 ID:xghEL8fw0
- 僕らはこれから死ぬだろう。
でも僕らは寂しくなんか無い。
僕らはひとりでは無いから。
僕らは今、確かにこれ以上ないほど強固に結ばれたから。
僕らは今、お互いの心臓に突き刺さったメスとナイフで、完全に一つに繋がったから。
僕らは寂しくなんかなかった。
僕は何時の間にか自分の思考の中に暖かい物が生まれている事に気がついた。
ツンの事を考えると、それはもっと暖かになり、やがて僕に高揚感をもたらす。
胸に突き刺さった痛みに比例して大きくなっていくが、不安はない。
胸の痛みは、僕らの繋がっている証だから。
僕らの結びつきから生まれる感情。
ならばそれを―――
―――僕は暫定的に愛と呼ぼう。
そうだ、愛だ。
それは確かに愛だった。
酷くいびつで、禍々しくて、醜くて、物騒で、馬鹿馬鹿しくて、そしてただひたすらにどこまでも真
っ直ぐで。
世界中の人間が眉をひそめて嫌悪するような、当人達以外は誰にも理解できないような、それ
はそういうものだった。
それでもそれは愛だった。
紛れもない愛だった。
僕は頭の中で色々と考えたが、何を考えても最終的にはツンの笑顔に行き着いた。
僕は微笑みながらも、
そして、直ぐに脳内を幸福感が埋め尽くして―――
- 58 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:08:08.97 ID:xghEL8fw0
-
―――幸福の絶頂の中で僕らは息絶えた。
『ブーンがシリアルキラーになったようです』・完
- 59 名前:無糖栄助 ◆HOKURODlk6 :2006/03/24(金) 02:10:07.28 ID:xghEL8fw0
- なんだこの終り方( ^ω^;)
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 02:10:15.79 ID:q65f0P6WO
- 乙、ご苦労さま
最後の場面で涙でてきた
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 02:12:00.78 ID:q65f0P6WO
- >>59
これはこれで良い終わり方だとオモタ
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/24(金) 02:12:44.68 ID:Z83uBnWS0
- 乙ー
なんか謎が結構残ったまま終わったけどそれはまたそれで
ブーンの話としては完結してるしいいんじゃないかと
戻る