10.あまり共通の話題はないようですbyトリプルS
('、`*川「うーん……」
ミンミンシャワシャワと蝉が鳴きまくる夏。
プール、入道雲、カブトムシ。愛すべき夏の代名詞たち。
しかしあたしはそのどれもをこの夏体験できないでいた。
('、`*川「……あっつーい」
受験、受験、お受験ザマス。
みんなは進路を決めていて、みんなのやる気は星飛雄馬。
あたしはすっかりやる気なし。なぜなら夢がないからさ。
('、`*川「……」
家の縁側にゴロンと寝転がる。
シャツがまくれてへそが見えるがあたし以外には誰もいないので問題ない。
('、`*川「ふー……」
親の手前、予備校には通ってる。
でも受ける気のない授業を延々と聞くのは苦痛。
すいへいりーべぼくのふね。サインコサインタンジェント。
どれも将来役立つとは思えない。
('、`*川「……」
そんなことを言うのは中学生の言い訳。そんなのわかってる。でもダメだ。
自分に必要ないとわかっているのにそれを吸収しようとする力はあたしにはない。
('、`*川「あ」
不意に肘がテレビのリモコンに当たる。
テレビが画像の受信を開始する。
('、`*川「……高校野球」
テレビの向こうでキラキラ輝く高校球児。
今のあたしと嫌でも比べて自己嫌悪。
('、`*川「ふう……」
それでも特にすることがなかったあたしはテレビにかじりつく。
聴いたことない学校と、聴いたことない学校の対決。
赤勝て白勝て。あたしはそんな気分だった。
('、`*川「……」
結局勝ったのは聴いたことない学校。
負けたほうの聴いたことない学校の球児が泣いている。
いいなあ。泣くほどのめりこむものがあって。
('、`*川「……あ」
早々とベンチが入れ替わる。
次の試合は聞いたことない学校と聞いたことあり学校。
確か近くにある私立の学校。たまに坊主が家の前をランニングしてる。
('、`*川「甲子園出るほど強いんだ……」
知らなかった街角情報。
得した気分になってさらにテレビにかじりつく。
('、`*川「……あ」
見たことのある子たちが甲子園に出ていた。
かっこいいショートくん、背が高いセカンドくん、ちょっと太ったピッチャーくん。
('、`*川「がんばれー」
同郷のよしみ。なんとなく応援する。
それでもシーソーゲームのこの試合に私のボルテージは上がってく。
そして、すっかり興奮したあたし。
本当にかじりつく勢いで応援する。
('、`*川「あっ!」
野球素人のあたしでもわかる、大きい打球。
ピッチャーくんの青ざめた顔、打った奴の満面の笑み。
ショートくんやセカンドくんは泣いていた。
('、`*川「あーあ……」
そうため息をついた後にはっとする。
あたし、柄にもなく興奮してた。
('、`*川「……ふふ。きーめた」
野球で興奮したのなら、野球を追う記者になろう。
それならサッサと勉強しなきゃ。
すいへいりーべはいらなくても、現代文はいるだろう。
('、`*川「……」
ふと、画面を見る。
顔をくしゃくしゃにして泣く、ショートくんセカンドくんピッチャーくん。
('、`*川「……私に道を与えた者たちよ! 私に取材される権利を与える!」
なんとなく、テレビを指差し宣言する。
この場面を弟に見られたことを知って赤面するのはもうちょっとあとの話だ。
伊藤紅、18歳夏。進路、決まりました!
ヴィッパーズ対レールウェイズの試合。
内藤が4失点KOされた試合。
つまりヴィッパーズが優勝を決めた試合。
『ヴィッパーズ、選手の交代をお知らせします。
ピッチャー内藤に代わりまして、流石。背番号30』
(; ω )
ガックリとうなだれてベンチに引っ込む内藤。
その姿はどの角度から見ても情けない。
ξ#゚听)ξ「……っ! ないとー! この、あほんだら――!!」
('、`;川「つ、ツンちゃん……」
一緒に観戦していた伊藤ちゃんに若干引かれる。
それがどうした。人の目を気にしてたまるか。
ξ#゚听)ξ「……」
('、`;川「……」
ミセ;゚ー゚)リ「……」
あたしが怒っているのを気遣ってか、2人は何も喋らない。
長岡くんが打っても、ドクオが打っても喜びもしない。
ξ#゚听)ξ「……煙草吸ってきます」
('、`;川「い、行ってらっしゃい……」
これ以上あたしがいても雰囲気を悪くするだけだろう。
煙草を吸うと言って席を立つ。
ξ#゚听)ξ「……」
指定の喫煙所にずかずかと歩く。
当然だが、煙たい。
ξ#゚听)ξyー・~「……」
バックから煙草を取り出し、火をつける。
喫煙所に備え付けられているモニターには試合が逐一映される。
ξ#゚听)ξyー・~「……」
あたしは野球にあまり詳しくないので、細かいことはわからない。
でも今ヴィッパーズが負けていることはわかる。
誰のせいで? 彼氏のせいで。
「やっぱダメだなあ。内藤は」
「やっぱりこんな大一番に弱いんだよなあ」
「あー、こんなときに高岡がいればなあ」
ξ#゚听)ξyー・~「……」
同じ喫煙所で煙草を吸う男2人がいる。
2人は内藤の悪口をくっちゃべっている。
ξ#゚听)ξyー・~「……」
ξ#゚听)ξyー・~「……っ」
ξ#゚听)ξ「うるさいわよ!!」
「!?」
「!?」
あたしの大声に内藤の話をしていた2人だけでなく、喫煙所全体が静まる。
する音と言えばモニターから流れる野球のものだけだ。
ξ#゚听)ξ「なにを内藤のことをわかった風に!
あいつがどれだけあたしをほっぽってロードワークしてるか!!」
「……」
「……」
あたしのあまりの剣幕に男2人は黙り込む。
周りの人々もいっしょ。
ξ#゚听)ξ「知ってるの!? ねえ、あんたらはあたし以上に内藤を知ってるの!?」
「いえ……」
「すいませんでした……」
ξ゚听)ξ「ふん」
あたしは灰皿に煙草をなすりつけ席を外す。
落ち着きに煙草を吸いに来たのに余計にイライラしてしまった。
「あのユニ……内藤の彼女かな」
「かもな……」
「綺麗な子だな……」
「うん」
「内藤、俺たちより勝ち組……」
「言うなよ」
('、`*川「あ」
ミセ*゚ー゚)リ「おかえりなさい」
('、`*川「どうよ、少し落ち着いた?」
ξ゚听)ξ「ええ、まあ」
嘘だ。
心はまだささくれ立っている。
ξ#゚听)ξ(そもそもあいつがKOされるから悪いのよ……あの豚インフルめ)
次に内藤と会ったときにどんな悪口を言ってやろうか。
あたしの頭はそれでいっぱいだった。
結局その日はドクオのサヨナラ打で勝ち。
伊藤さんがバックネットの選手に一番近いところに走っていったのが印象的だった。
ξ゚听)ξ「……」
ミセ*゚ー゚)リ「あちゃー」
彼氏が所属するヴィッパーズの優勝。
監督のおじいちゃんが胴上げされ、スタンドは大盛り上がり。
今はペナントを選手が持ってグラウンドを一周している。
伊藤ちゃんはまだ帰ってこない。
ξ゚听)ξ「……ミセリ、あんまり悔しそうじゃないわね」
ミセ*゚ー゚)リ「悔しいですよ。……でも」
ミセリはあたしの目を見て、可愛らしい笑顔を浮かべる。
ミセ*゚ー゚)リ「長岡くん、がんばったから!」
ξ゚听)ξ「……そうね」
――そして、オフシーズン。
いつもは寮に住む内藤も実家に帰っているらしい。
今日は、内藤に呼び出された。
ξ゚听)ξ「……なんだろ」
いつも待ち合わせする駅前の公園。
あたしは待ち合わせ時間の30分前についた。
でもあいつは、もう公園にいた。
(*^ω^)ノシ「ツーン!!」
ξ゚听)ξ「……もう」
こんな人混みの中で自分の名前を呼ぶのは止めてほしい。
欲しいのだが。
ξ゚听)ξ「……」
ξ*゚ー゚)ξノシ
ξ゚听)ξ「まったくあんたはほんとにねー……」
(;^ω^)「返す言葉もないですお」
連れてこられたのはオシャレなイタリアンレストラン。
こいつが連れて行くのはたいがいロイホなのでいささかビックリする。
あたしは優勝決定戦のことを内藤に話していた。
ξ゚听)ξ「あんたがKOされて煙草吸いにいってね、そこでアホな男が――」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「聴いてる?」
(;^ω^)「キャン!! き、聴いてますお」
なんだかおかしい。
内藤が上の空だ。いつもはあたしの言葉をちゃんと聴いてくれるのに。
ξ゚听)ξ「ま、いいわ。……そういや」
続きを話そうとしたその時。
今年のシーズン前に内藤に言われた言葉を思い出す。
ξ゚听)ξ「あんた、10勝したらあたしに言うことがあるって」
(;^ω^)「ひっ」
ξ゚听)ξ「……」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「10勝」
(;^ω^)「いやっ」
ξ゚听)ξ「……」
これは、何かあるな。
ξ゚听)ξ「言いなさいよ」
(;^ω^)「嫌だお」
ξ゚听)ξ「いいから」
(;^ω^)「10勝してないから言えないお」
ξ゚听)ξ「9勝だから似たようなもんじゃない」
(;^ω^)「全然違うお」
言えや言わないの掛け合いが続く。
いい加減イライラしてきたあたしは半ば怒ってこう言った。
ξ゚听)ξ「じゃあなに? 来年あんたが10勝するまで気になって眠れない夜を過ごせと?」
ヨヨヨ、とチープな泣きマネをする。
それでも内藤に効果はあったようだ。
(;^ω^)「……わかったお。言うお」
いつになく真剣な顔。
内藤の目が、あたしの目を見る。
( ^ω^)「結婚して欲しいお」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ^ω^)「 」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ^ω^)「 」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ;ω;)「 」
ξ;゚听)ξ「な、泣くんじゃないわよ!」
( ´ω`)「そうかお……死にたいお」
ξ゚听)ξ「勘違いしないでよね」
( ´ω`)「豆腐の角に頭ぶつけて死にたいお……ん?」
ξ゚听)ξ「あんたのことは好きよ。もちろん」
( ´ω`)「おっおっ……」
ξ゚听)ξ「家はどうするの家は」
内藤は寮住まいだ。
あたしも実家。結婚するには家がいる。
( ´ω`)「どっちにしろ僕も8年目だお……マンション借りて退寮の手続きしたお」
ξ゚听)ξ「ふーん」
( ^ω^)「家があるなら結婚してくれるのかお!?」
ξ゚听)ξ「やだ」
( ´ω`)
ξ゚听)ξ「結婚指輪がないじゃない」
( `ω´)「指輪ならあるお! 給料3ヶ月ぶんだお!!」
そう言って内藤は結婚指輪を取り出す。
ダイヤがついた、しかしそれを強調しすぎない上品な指輪だ。
ξ゚听)ξ「あら綺麗。でもダメね」
( `ω´)「なんでだお! 何が足りないんだお!」
ξ゚听)ξ「10勝目のウイニングボール」
( ^ω^)「!」
ξ゚ー゚)ξ「無理?」
あたしは頬杖をついてニヤリと笑う。
きっとあたし、イジワルな顔してるんだろうな。
( ^ω^)「……任せとけお」
内藤も、ニヤリと笑った。
――満員の、ニュー速スタジアム。
ひとりの男が、マウンドに立つ。
少し太ったその男が白球を投じる。
バッターが打つ。打球が上がる。打球は、レフトのグラブに収まった。
キャッチャーがマウンドに駆け寄る。
「10勝おめでとうございます、内藤さん」
「ありがとうだお、ワカ」
「ボールポイっとな」
「ああああああああっ!! 何してるんだおアーロン!!」
「何って観客席に投げたんやが。記念やったか? すまんすまん」
「問題大ありだお!!! すいませーん!! 返してくださーい!!」
そのボールを捕った人物は心優しい人物だったらしい。
ボールは観客席からグラウンドに返された。
「ありがとうございますお! 記念品たっぷり贈らせてもらいますお!!」
太った男がお立ち台に上がる。
今日は彼の記念日だ。……あたしにとっても。
『10勝おめでとうございます!!』
アナウンサーの声が球場に響く。
満員のスタジアムは大いに湧く。
「ありがとうございますお!!」
「……もう」
まさか、本当にやっちゃうとは思わなかったなあ。
10勝できなくても、結婚してあげるつもりだったんだけど。
ヒーローインタビューは順調に進む。
アナウンサーが締めに入る。
『それでは内藤さん。ファンの皆さんに一言』
「……すいません、今日はファンの方にではなく、大事な人に一言言わせてくださいお」
『?』
アナウンサーさんの顔にははてなマークが浮かんでいる。
内藤はそれを気にせず大きな声で叫ぶ。
「ツーン!! これで条件は揃ったお!! 結婚してくれお――!!」
「……ばか」
スタジアムが湧く。
人ごみではあたしの名前を呼ぶなって言ったのに。
とりあえず、返事を考える。
きっと返事をするときのあたしは、赤い顔をしているんだろうな。
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