3 :祭り1ξ゚听)ξ 「エイエイさん」のようです:2011/08/29(月) 21:24:48 ID:YNf.iCgQO




私が高校を卒業するまで暮らしていた備布村では、年に一度、妙な祭が行われていた。

 「備布祭」というもので、出店が立ち並び、神輿が担がれる――
 まあ、一般的な夏祭りと大差ないものだった。
 一部分を除いては。


 その一部分について説明しよう。

 小学生未満の子供がいる家庭は、祭に参加出来ない決まりになっている(胎児は含まれない)。
 家族全員、その日の夕方以降は外に出ることも許されない。

 遠くの祭り囃子を聞きながら、「エイエイさん」が家に来るのを待つ。

 「エイエイさん」は、5人ほどの、神様――の格好をした地元の若者――の集団である。

 子供の様子を見に来て、何の問題もなければお土産を置いて帰っていく。
 子供が悪い子であれば、連れていってしまう。という、設定だ。
 私が知る限りで、実際に連れていかれた子供がいたという話は聞いたことがない。



 さて。
 それでは、14年前――私が体験した、備布祭に関する話をしよう。



  ξ゚听)ξ 「エイエイさん」のようです




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 14年前、8月某日。備布祭が行われた夜。

 当時の私は幼稚園に通う6歳の子供であった。
 祭の決まりにより、両親と私、姉、そして祖父母の5人は
 家の中で「エイエイさん」を待っていた。



ζ(゚ー゚*ζ「来年から、やっとお祭行けるようになるねー」

 3歳上の姉が、麦茶を飲みながらそう言った。
 彼女が生まれてからを含めると、この家の人間は――私を除いて――もう9年も
 祭に参加出来なかったのだ。

 両親が、うんうんと頷く。

( ・∀・)「長かったなあ」

川 ゚ -゚)「私は騒がしいところは好きじゃないし、来年からも行かないつもりだけどな」

 祖父母は、母の言葉に苦笑した。
 相変わらずだなと祖父が呟く。

/ ,' 3「来年は、デレ達も連れて、みんなで祭に行こうじゃないか」

('、`*川「そうそう。ツンも楽しみでしょ? 来年」

ξ*゚听)ξ「うん」

 祖母に頭を撫でられながら頷いた私は、本当に楽しみで仕方がなかった。

 楽しみと言っても、来年が、ではない。
 もっと目前に迫った「チャンス」に心踊らせていた。




 ――それから少し経って、午後7時半。

 しゃんしゃん、と、玄関に掛けていた鈴が鳴った。

( ・∀・)「お、来た来た」


「荒巻さんや」

「ツンや、ツンや」


 玄関から、私を呼ぶ声が飛んできた。

 「エイエイさん」だ。

 皆、腰を上げ、玄関へと向かう。


【(´・ω・`)】「――やあ」

【('A`)】「去年ぶり」

川 ゚ -゚)「ようこそいらっしゃいました。……ツン、挨拶」

ξ゚听)ξ「こんばんは」

 「エイエイさん」は、お面を着けている。

 お面、と表現するのも億劫な――デフォルメされた目口が描かれた紙を
 顔に貼りつけただけ、といった、随分粗末なものだったが。



【(*゚ー゚)】「ツン、何か悪いことはしたかしら?」

ζ(゚ー゚*ζ「私の算数のノートに落書きした!」

ξ;゚听)ξ「あっ、やだ、言わないでよー!」

【(*゚∀゚)】「あひゃひゃ、それぐらいなら許してやるよ」

 「エイエイさん」は男3人、女2人の5人組。
 毎年、村長から指名を受けた男女が「エイエイさん」を務めることになっている。
 すべて村長の一存であり、他の村人には誰が選ばれたのか知らされていない。

【(´・ω・`)】「来年からは会わなくなるけど、僕らは君をちゃんと見ているからね。
        悪いことをしちゃいけないよ。
        ――さて、次の家に行こう」

【('A`)】「おう。……さあ、お土産だ」

('、`*川「ありがとうございます」

/ ,' 3「今年も、お疲れ様でございました」

 痩せっぽちの「エイエイさん」が、ビニール袋を差し出した。
 ソースの匂いが漂う。

 「エイエイさん」がくれるお土産は、祭の出店で売られている食べ物だ。
 たこ焼きやお好み焼き、とうもろこし、林檎飴、などなど。
 祭に行けない身としては、非常にありがたい。

ζ(゚ー゚*ζ「焼きそば食べたい焼きそば!」

( ・∀・)「はいはい、ちゃんとツンと半分こな……――ん?」

 姉に急かされて袋の中を物色した父は、首を傾げた。
 どうかしたの、と「エイエイさん」の1人が訊ねる。



( ・∀・)「今年は焼きそば無しみたいだ」

ζ(゚、゚*ζ「えー。毎年あったのにー」

【(*゚∀゚)】「焼きそば? ないの?」

川 ゚ -゚)「んんー……ないみたいですね」

【(*゚ー゚)】「あら……」

【(´・ω・`)】「モナーの奴、忘れたな。
        まあ仕方ない。今年は諦めてもらえるかな、焼きそば」

ζ(゚、゚*ζ「はあい」

 そのとき、私は違和感を覚えていた。
 今にして思えば、よくもまあ、誰も直ぐに気付かなかったものだ。

 「エイエイさん」が、1人足りない。

ξ゚听)ξ「エイエイさん、もう1人は?」

【(´・ω・`)】「え?」

【('A`)】「……ああ! ブーンの奴いねえぞ!」

【(*゚ー゚)】「あ、本当だ。道理で例年より静かだと思った」

【(*゚∀゚)】「ぐだぐだだなあ、今年は。……んまあ、放っといても、いずれ帰ってくんだろ」

 神様が足りないというのは結構重大なミスのような気もするが、
 当人達は「しょうがない奴だなあ」などとあっさり流していた。
 それでいいのか恒例行事。

 そうして、おやすみと手を振りながら「エイエイさん」達は我が家を離れた。


*****






 この日の私にとって、本番はこれからであった。

 「エイエイさん」との対面が終わり、家族は気が緩んでいる。
 特に姉と父はお土産に夢中だ。

 ――こっそり家を抜け出して、祭に行くチャンス。

ξ*゚听)ξ

 玄関から持ち出した靴を履き、私はトイレの窓から飛び下りた。

 前々から、祭の様子を見てみたいと思っていたのだ。
 来年など待てるものか。

 ちょっとだけ見られれば、それでいい。
 祭の雰囲気を知れたら、すぐに家に帰る。
 大丈夫大丈夫――





ξ;゚听)ξ「……あれー……」



 ――迷った。

 祭り囃子のする方へ歩いていたつもりだったのだが、気付けば、音から遠ざかっていくばかり。
 紛うことなく迷った。



ξ;゚听)ξ「どうしよ……」

 不安が迫り上がる。
 祭会場どころか、家に帰ることすら出来ないのでは?

 背筋が寒くなり、じわりと涙が浮かんだ。
 やめておけば良かったと後悔しても遅い。

ξ゚;)ξ「う……」


「――おーん! どこだおー!」


ξ゚;)ξ「……?」

 近くから響いた声に、一瞬、思考が止まった。

 恐る恐る、そちらへ歩み寄る。
 林の入口で、1人の男が四つん這いになっていた。

ξ゚听)ξ「……何してるの?」

(    )「!」

 私が声をかけると、男は顔を隠しながら振り返った。
 数秒の沈黙。
 不意に、ツンちゃんかお、と男が呟いた。


なんだか嫌な予感がぷんぷんしますねぇ



(    )「荒巻さんのところの」

ξ゚听)ξ「うん。……誰?」

(    )「僕はブーン……って言っても分かんないか」

 ブーン。聞き覚えがあった。

ξ゚听)ξ「エイエイさん」

(    )「……おっ、正解だお」

 件の、行方不明の「エイエイさん」だ。
 こんなところで何をしているのかと問えば、返ってきた答えは「落とし物」。

(    )「お面がどこかに行っちゃって……あれがないと、みんなの家に行けないお」

ξ゚听)ξ「ふうん……」

 私は、何気なく上を見た。
 もしかして木に引っ掛かっているんじゃないか、なんて。


【( ^ω^)】

ξ゚听)ξ


 あった。
 「エイエイさん」――ブーンが這いつくばっている真上、木の枝に乗っかっていた。
 気付けよ。



ξ;゚听)ξ「あれじゃないの?」

(    )「え? うわあ! すっごい近くにあった! 恥ずかしい!」

ξ;゚听)ξ(上ぐらい見ればいいのに)

 溜め息をつき、私は小石を拾い上げる。

 枝の真下から石を放り投げると、石に弾かれたお面がひらひらと舞い落ちた。
 ブーンは私に背を向けて、急いでお面を顔にくっつける。

 無事に作業が終わったようで、彼は勢いよく振り返った。

【( ^ω^)】「ありがとうお!」

ξ゚听)ξ「どういたしまして」

【( ^ω^)】「お礼するお。何か、欲しいものはないかお?」

ξ゚ -゚)ξ「……おうち帰りたい」

【( ^ω^)】「ああ、それは勿論、家まで送ってあげるつもりだお。
         君くらいの歳の子が夜に出歩いたら危ないものが寄ってきちゃうし。
         ……それ以外に、何かないかお?」

 急に訊かれても。

 唸りながら考え込んでいた私は、はたと思いつき、両手を打った。



ξ゚听)ξ「焼きそば。焼きそば食べたい」

【( ^ω^)】「それでいいのかお?」

ξ゚听)ξ「うん」

 ブーンが腕を後ろに回す。
 そのまま10秒。

 何か言おうと口を開きかけた瞬間、ブーンは私へと手を突き出した。

 そこには、焼きそばが入ったパックと、ご丁寧に割り箸が一つずつ。

 ――どこから出したのだろう。

【( ^ω^)】「デレちゃんと分け合って食べるんだおー」

ξ;゚听)ξ「う、うん」

 さらにビニール袋まで取り出すと、それに焼きそばのパックを突っ込んで私へと持たせた。

 目の前の出来事に呆然とする私の手を引き、ブーンが歩き出す。

 繋いだ手は、とても温かかった。



 ――ブーンと共に帰宅した私は、当然ながら、こっぴどく叱られた。
 祖父母が尋常じゃないくらいにブーンに謝っていた光景が、妙に色濃く記憶に残っている。



 「決まりを破って外出したことは『悪いこと』だけれど、
 助けてくれたから特別に見逃してあげるお」。

 去り際、ブーンはそう言っていた。


*****






 この話には続きがある。

 翌日。
 父の友人であるモナーが遊びに来たのだが、
 菓子をつまみながら、彼は、こんなことを言っていた。

( ´∀`)「いやあ、実は昨日、うっかり焼きそばをお供えするの忘れちゃったんだモナ」

( ・∀・)「ああ、エイエイさんへのお供え物?
      奇遇だな。昨日うちに来たエイエイさんも、焼きそば忘れてたよ」

( ´∀`)「しかも出店での売上金が一人前、足りないんだモナ……」

( ・∀・)「ははは! 本物のエイエイさんが焼きそば持ってっちまったんじゃないの?」

ξ;゚听)ξ

( ・∀・)「ん? どうした、ツン」

ξ;゚听)ξ「……なんでもない……」



*****







 まあ、「そういうこと」なのだろう。


 それから私が18歳で村を出るまでの12年間、一度も「エイエイさん」を見かけなかった。
 近所の幼稚園児は会ったと言っていたので、いなくなったわけではないらしい。

 そして、現在も行事は続けられているそうだ。



 ――だから。

 いつか私が備布村に戻って、結婚して、子供が生まれたら。

 あのドジな「エイエイさん」に、すっかり忘れていた焼きそばの礼を言ってやるつもりである。





終わり

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