帰ってきたようです

737 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:11:37.58 発信元:123.254.30.116
空が赤く染まっている。
世界が赤く染まっている。
どこかで見た風景が呼び起されるような赤だ。

そんな夕焼けの街の中、僕は家路を急ぐ。
そして、古びたアパートの一室に辿り着く。

( ^ω^)「今日も疲れたお」

通算何回目か分からないひとりごとを口にしながら僕は玄関のドアを開けた。



   ―――― 帰ってきたようです ――――



738 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:12:42.56
( ^ω^)「ただいまー」

(#゚;;-゚) 「……」

返事はない。
彼女、でぃは一心不乱に絵を描いている。
リビングの奥にある六畳間は画材が散らばっており、そこは彼女のアトリエとなっていた。

( ^ω^)「今日は部長に怒られて大変だったお」

(#゚;;-゚) 「……そう」

彼女は基本的にこのような相槌しか打たない。
普通の人からすると彼女の発する言葉は必要最低限以下と言えるだろう。


739 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:13:41.22
彼女がこんな風に口数が少なくなった(といっても元々喋る方ではなかったが)のには理由がある。

彼女には以前、ドクオという名前の彼氏がいた。
ちなみにこの男は僕の友達でもあったのだが、とにかく彼女はこのドクオと少し前までは付き合っていた。

しかし、彼は死んでしまった。
3ヶ月前、崖から落ちて。
死亡推定時刻は朝の4時から6時の間ということで、ちょうど朝焼けが見える時間帯だったと考えられているらしい。
警察は「何故そんな時間帯に彼がそこにいたのかは分からないが」と前置きしながらも、滑落したような跡がなかったために死因は自殺だと発表されていた。


740 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:14:38.79
ただ、でぃやドクオの家族は殺人の可能性もあると考えていたようだ。
犯人が滑落の痕跡を消した可能性もある、と。
しかし、警察は自殺と断定して捜査を打ち切った。

( ^ω^)(まあ目撃情報もないし、警察も自殺と考えた方が楽だからだお)

僕は勝手にそう考えているが、おおよそ理由はこれで合っているだろう。

とにかく彼女はドクオが死んだことで壊れてしまった。
ほとんど喋ることのない今の状態になってしまった。


741 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:15:42.15

そんな彼女と僕が何故一緒に住んでいるかというと、彼女のそんな姿をいたたまれなく感じて家に来ないかと誘ったからだった。
彼女に断られるかと思ったが、意外にも了承してもらえた。

( ^ω^)(いや、違うお)

そうだ。本当はそうじゃない。
僕は単純に彼女のことが好きだった。
不謹慎かもしれないが、ドクオがいなくなったことで彼女が僕を好きになる可能性もあるんじゃないかという打算があった。


742 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:17:17.40
仕事で疲れていたので、風呂に入って寝る準備をした。
彼女はまだ絵を描いているようだ。

( ^ω^)「でぃ、おやすみだお」

(#゚;;-゚)「……おやすみ」

彼女はこのような挨拶には返してくれるが、何故か「おかえり」という言葉を返してくれたことはない。

( ^ω^)(一緒にいられるならこんなの些細なことかお)

そんなことを考えつつ眠りについた。


743 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:18:01.85
次の日。いつものように夕焼けの中を歩いて帰宅した。

( ^ω^)「ただいまー」

(#゚;;-゚) 「……おかえり」

( ^ω^)「お、おう……ただいまだお!」

彼女が返事をしてくれた!
今までこの手の挨拶に対しては全く返してくれなかった彼女が!
しかしながら顔はキャンバスの方を向いたままであったが。


744 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:19:13.40
まあ、そんなことはどうでもいい。
この進歩には素直に喜ぶべきだろう。

そんな喜びに浸っていた僕に、突然、彼女がこう言い出した。

(#゚;;-゚) 「今、絵が完成したの」

( ^ω^)「お、絵が? 是非見てみたいお」

(#゚;;-゚) 「こっちに来て」


745 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 21:20:21.64
そうして僕は彼女の「アトリエ」に入った。
アトリエの中心にはイーゼルがあり、そこにキャンバスが立てかけられている。
しかし、こちらからは描かれている絵がよく見えない。

彼女は合図もなくイーゼルごと絵をこちらへ向けた。

( ^ω^)「これは……?」

そこには一人の男が描かれていた。
絵の中心に映るのは崖の上で朝焼けを背に立つ男の姿。
背景を覆う力強い赤とそれを背に立つ男の鬼気迫るような表情に、絵が言葉を持ち何かを訴えかけているような錯覚を起こした。


750 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 22:15:37.80
(#゚;;-゚) 「帰ってきたの」

( ^ω^)「えっ?」

僕は不意な彼女の言葉に思わず聞き返した。

(#゚;;-゚) 「彼が、ドクオが帰ってきたの」

( ^ω^)「それはどういう……」

意味が分からず再び聞き返そうとしたが、絵を見つめてハッとした。

( ^ω^)「もしかしてこの絵のモチーフは……」

(#゚;;-゚) 「そう、ドクオ。おかえり、ドクオ」

彼女は当たり前のように呟く。
僕になかなか与えてくれなかった言葉を。

いや、待て。
もしかしたらさっきの「おかえり」というのも僕にじゃなくて……。


751 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 22:17:19.77
( ^ω^)「これはどういうことだお!」

(#゚;;-゚) 「どういうこと、って?」

( ^ω^)「なんでドクオの絵を描いたんだってことだお!」

(#゚;;-゚) 「そんなの……ドクオを愛してるからに決まってるじゃない」

彼女が僕を愛していて一緒にいるわけではないことは分かっていた。
だが、いつかはドクオのことを忘れ僕を愛してくれると信じていた。


752 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 22:18:25.79
しかし、違った。
彼女は今でもドクオを愛しており、これからもドクオを愛し続けるのだ。

これでは、僕は……。

( ^ω^)「――っ!」

瞬間、感情が爆発した。

僕はキャンバスを力任せに突き飛ばした。
イーゼルが倒れ大きな音を立てる。


754 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 22:20:37.78
突き飛ばされて床に落ちた絵に目を向ける。
絵となってこの世に帰ってきたその男は睨むようにこちらを見つめていた。

( ^ω^)「はあ……はあ……」

身体、そして心に疲労感があった。
膝をつき、手をつき、目を伏せる。

その頭上から彼女の声が聞こえる。

(#゚;;-゚) 「ねえ。あなたは彼が帰ってきて嬉しくないの?」

嬉しいわけないじゃないか。だって僕は……。

(#゚;;-゚) 「ねえ。あなたは――」


755 名前:帰ってきたようです 投稿日:2012/03/05(月) 22:21:46.15
  



    「あなたはそうやって彼も突き飛ばしたの?」


   
   終

スレの反応

( ^ω^)ブーン系小説シベリア図書館のようです★43 http://toro.2ch.net/test/read.cgi/siberia/1324127787/

Tags: ,,,
Filed under: 2012年避難所短編 — 青空ヒート 21:11  Comments (0)
コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

コメントする