(,,゚Д゚)は伝えるようです


754 :名も無きAAのようです:2012/03/17(土) 01:26:59 ID:i6fNNdGU0
こっそりと、即興で書いた短編投下します。30弱くらい。



755 :名も無きAAのようです:2012/03/17(土) 01:29:03 ID:i6fNNdGU0
ある夏の日の、早朝。

視界は薄暗いけれど、それはこれから先の日差しを予兆させる色合いで。
空気はそれなりに冷えているけど、昨日の熱をまだ帯びている。
詰まる所その時間帯が、この頃一番動きやすい時間帯なのだった。

(,,゚Д゚) 「着いた、と」

せっせと動かしていた足を止め、片足で自転車と己を支える。
目の前にあるのは、少しだけ時代を感じさせるアパート。

だけど、それは背景でしかない。

俺が見ていたのは、アパートの寂しげな鉄の手すりに寄りかかり
こちらを見ている、期待と不安と驚きのうまい具合に入り混じった笑顔だけ。

(*゚ー゚) 「ホントに、来てくれたんだね」

小さい声だったけど確かに聞こえた。
周りが静寂に包まれているから、なおのことそのか細い様子がよくわかる。

(,,゚Д゚) 「約束したとおりだからな」

俺がにぃっと笑顔を向けると、彼女はぎこちなく微笑み返してくれた。

756 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:31:02 ID:i6fNNdGU0
(,,゚Д゚) 「乗れよ、しぃ」

自転車の後部を手で示し、しぃの動作を促そうとした。

(*゚ー゚) 「二人乗りぃ?」

訝しそうな顔つき。
生真面目なしぃの性格を改めて思いだし、それから俺は鼻で笑った。

(,,゚Д゚)「こんな朝っぱらなら、誰も気づきゃしないさ。
     そんな嫌そうな顔するなっての。これの方が――」

後の言葉は言いづらい。

(,,゚Д゚)「あ、安心だからな。速いし」

(*゚ー゚)「速く行かなきゃなのは確かだけどね。
    わたしが乗って大丈夫? 転ばない?」

(,,゚Д゚)「お、俺の脚を信用しないってのか?」

(*゚ー゚)「はいはい」

いくらかほぐれた笑い方で、しぃは自転車の後部に手を掛ける。
その背中には、小さな体とは不釣り合いに大きな荷物。

(,,゚Д゚)「前籠に入れようか?」

(*゚ー゚)「え? ああ……大丈夫だよ! 速く行こ」

757 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:33:06 ID:i6fNNdGU0
俺の脚が、勢いよく地面を蹴り、自転車が動き出す。
起きたての時はいくらか億劫だったが、今ではもう自由に動く。
目覚めてから時間が経ったのもその原因の一つではあっただろう。もともと血のめぐりは良い方だ。

そして、今では背中にしぃの体温を感じていることも、原因に考えていいだろう。
風を切る中、しばらくしぃは強めに俺の胴体にしがみついていた。
本当に振り落とされないか不安だったに違いない。ちょっとだけ残念だ。

それでも少しずつ、その強さが和らいでいく。
慣れてきてくれたのだ。

(,,゚Д゚)「スピードはこんなもんで、大丈夫かい?」

(*゚ー゚)「うん。風が気持ちいい」

今は緩い坂道を上っている。
もうじきこの坂は勾配を高めていき、やがてちょっとした高台に上ることになる。
ここが一番しんどいところだ。気合いを入れていかなければ。

(*゚ー゚)「早起きなんだね」

(,,゚Д゚)「今日だけな」

(*゚ー゚)「わたしのため?」

(,,゚Д゚)「……言わせたいのかよ」

(*゚ー゚)「あ、ごめん」

(,,゚Д゚)「んにゃ、気にしてない。怒ってもない」

758 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:35:04 ID:i6fNNdGU0
(,,゚Д゚)「ていうか昨日から寝てない」

(*゚ー゚)「そうなの? どうして」

(,,゚Д゚)「ほら、ブーンのことだよ」

(*゚ー゚)「内藤君?」

(,,゚Д゚)「そう。ほら、あいつドクオと喧嘩になって、大けがしたろ?
     手術とかはもう終わって、昨日ようやくお見舞いできるようになったんだ」

(*゚ー゚)「そうなんだ……詳しくは知らなかった。
    なんかごめんなさい」

(,,゚Д゚)「いや、俺に謝ってどうするんだよ。
     仕方ないし、いつかあいつに謝ればいいだけさ。
     あいつそんなこと絶対気にしないし」

ブーンとドクオは喧嘩をした。
とはいえどちらも、一方を憎んでいたわけじゃない。
むしろ友達だからこそ、そんなことをしたのだろう。

759 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:37:01 ID:i6fNNdGU0
(*゚ー゚)「それで、お見舞いに行ったらどうして徹夜になるの?」

(,,゚Д゚)「ん、お見舞いは9時にはもうできなくなるんだけど
     そのときいたのが、俺と、モララーと、ジョルジュと、ドクオだった」

(*゚ー゚)「いつものメンバーだね」

嬉しそうなしぃの声。
ちょっとだけ心が痛む。

(,,゚Д゚)「……ああ」

(*゚ー゚)「それで?」

(,,゚Д゚)「拉致られた」

(*゚ー゚)「また駅前のカラオケボックス?」

(,,゚Д゚)「当たり」

(*゚ー゚)「よっしゃ!」

(,,゚Д゚)「嬉しがるなよ。俺、歌なんか歌えねえのに。
     無理やり連れてかれてさ。フリータイムで朝の5時」

(*゚ー゚)「あれ? 今は何時?」

(,,゚Д゚)「4時半ちょい」

(*゚ー゚)「あれれー?」

(,,゚Д゚)b「お金だけ置いて逃走」

760 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:39:03 ID:i6fNNdGU0
(*゚ー゚)「よく逃げられたね」

(,,゚Д゚)「そりゃ歌い続けてたらへとへとにもなるわ」

(*゚ー゚)「あはは。
    その三人はどんな様子だったの?」

(,,゚Д゚)「ひっでえことになってた。
     最初のうちは、ドクオがアニソン入れて、ジョルジュが踊りだして
     そのうち三人で回して歌いだして何が何やら」

(*゚ー゚)「あー、なんか話に聞いてた通り」

(,,゚Д゚)「つーさんから?」

(*゚ー゚)「そう、お姉ちゃんから」

(,,゚Д゚)「あの三人を仕切れるのはつーさんくらいだものなあ。
     ブーンも含めて四人か。
     そういえば三人とも言ってたなあ。『つーさああああああん』って」

(*゚ー゚)「お姉ちゃん人気者だったものね」

(,,゚Д゚)「可愛かったよなあ」

(*゚ー゚)「あ、そんな目で見てたんだ」

(,,;゚Д゚)「な、なんだよその急な振り」

(*゚ー゚)「ふふ、恥ずかしがりすぎでしょ」

761 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:41:03 ID:i6fNNdGU0
日が昇るにつれて、景色が明るみを増していく。
坂も徐々に急勾配となり、俺の息はちょっとだけ上がる。
そんなことを、しぃに悟られたくないものだから、俺はどうにか話をしようと思った。

(,,゚Д゚)「あー、ほら。先生が一人欠けるじゃん?」

(*゚ー゚)「ロマネスク先生のこと?」

(,,;゚Д゚)「……お、おぅ」

(*゚ー゚)「気にしすぎよ」

(,,;゚Д゚)「そうか? そういうものか」

気を取り直して、俺は続ける。

(,,゚Д゚)「で、その後任の理科の先生。
     新人の女性の先生らしい」

(*゚ー゚)「へぇー、よく知ってるね」

(,,゚Д゚)「ショボン校長からきいちゃった」

(*゚ー゚)「またなの?」

(,,゚Д゚)「へ?」

(*゚ー゚)「あなたはどうしてそう校長先生と仲がいいのかなー?」

(,,゚Д゚)「……はい、また呼ばれちゃったんですよね、これが」

762 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:43:05 ID:i6fNNdGU0
(*゚ー゚)「すっかり眼をつけられてるのね」

(,,゚Д゚)「いやいや、俺は元々品行方正だよ?
     だいたい最近は俺よりうちの」

(*゚ー゚)「兄弟のせいにしない」

(,,;゚Д゚)「はええよ」

(*゚ー゚)「つい、いつものノリで。
    でもホントでしょ」

(,,゚Д゚)「まーな。今ではすっかり
     俺の方から呼ばれに行っているようなものだからな」

(*゚ー゚)「よくないよー」

(,,゚Д゚)「わぁーってるよー」

と、そのとき、体の重みが急になくなるのを感じた。
勾配が終わったのだ。
つまりここが、高台の最頂点。

763 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:45:06 ID:i6fNNdGU0
(*゚ー゚)「うわぁー―――」

しぃの声が綺麗にのびていく。

広い広い眼下の街。
その向こう側にはさらに広い海。
そしてその一隅から、真っ赤な太陽がちょうど半分ほど顔を出したところだった。

朝靄の中を陽光が走り、空気を澄ましていく。
朝焼けというのは、こんなにも綺麗なものだったろうか。
多少は計算していたとはいえ、俺はそのあまりの見事さに呆然としてしまっていた。

いつの間にか自転車を止めて、片足で二人分の体重を支える。
さっきよりつらいはずなんだけど、俺の脚は耐えてくれた。
いや、重みをすっかり忘れていたのだろう。

それはしぃとて同じことで。
ちらっと顔を向けてみたら、両手で顔を覆っている様子が窺えた。
眼をキラキラと輝かせているしぃの顔。

764 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:47:03 ID:i6fNNdGU0

可愛いな――純粋に俺はそう思っていた。

さっきはしぃの姉、つーに対してその言葉を使ったけど。
今ははっきりとしぃにその形容をしたい。

いつの頃だったかはもう憶えていない。
近所だったから、しぃと遊んだりすることは多かった。
だから、隣にいるのはごく自然のことだった。

俺がつーさんたちに小突かれている中も、しぃは傍にいてくれていて
だからそれは当り前のことで、
それがこんなに嬉しいことだということに気付いたのは最近のことで。

小学校、中学校、高校までたまたま一緒で
高校一年生の夏、今この瞬間
俺は再確認していた。

俺はしぃを好きなんだっていう、その事実を。

765 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:48:35 ID:i6fNNdGU0
(*゚ー゚)「ねえ」

突然しぃが声を掛けるものだから、俺は少しだけびくついてしまう。

(,,゚Д゚)「な、なんだよ急に」

(*゚ー゚)「これ、狙ったの?」

(,,゚Д゚)「あー、どういえばいいか」

(*゚ー゚)「?」

(,,゚Д゚)「こんなに綺麗だとは、思ってなかった」

やや間が合って。

急にしぃが強く、俺に抱きついてきた。
俺の身体が一気に強張っていく。

「ありがとう」

しぃがどんな顔をしていたのかはわからない。見えなかった。
でも、俺にはしぃが笑っているように感じられた。
俺はこのとき、それだけで満足感をひしひしと味わっていた。

766 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:50:06 ID:i6fNNdGU0
(,,゚Д゚)「さて、下りるぞ」

俺は再び、漕ぎ始める。
いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
時間は限られているんだから。

(*゚ー゚)「出発進行ー!」

(,,゚Д゚)「しっかりおつかまり下さいー!」

時間は分かっている。
5時だ。5時に着かなければいけない。
しぃからもう聞いていた。
聞いた時から忘れることは無かった。

昇りつづける太陽に見送られて
俺はひたすらに自転車を転がしていった。
急勾配を駆けぬけることにより作りだされる風が俺達を待ちうけていて
ちょっと手荒だけど爽やかに出迎えてくれた。

しぃの嬌声が聞こえる。
腕の締め付けが強くなる。

時間は短いのだけれど
そこにはいろんな思いが詰め込まれていた。

767 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:51:35 ID:i6fNNdGU0
(,,゚Д゚)「しぃ!」

風の音に負けないように、俺は叫び気味に言う。

(*゚ー゚)「んー?」

しぃの声は、背中を伝って来る。

(,,゚Д゚)「忘れ物はー?」

(*゚ー゚)「なによそれー」

(,,゚Д゚)「あったら、後で届けられる!」

(*゚ー゚)「あはは」

俺の背中にすりつけるようにして、しぃは首を横に振る。
否定していることがこうしてちゃんと伝わってきた。

(*゚ー゚)「残念ながら、ありません!
    きれいさっぱり、です!」

そうして響く笑い声。
特に意味は無い。意味は無くても笑いあえる。
そういう仲だったわけで。

768 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:53:05 ID:i6fNNdGU0
朝は急接近して、俺達を飲みこんでいく。
空が青みを薄めていき、視界もはっきりとしてくる。
街が眠りから目覚めようとしているかのように。

そんな折、自転車はようやく目的地に着いた。
流石に俺は息を切らしていて、荒げる呼吸を必死に整えようとする。
もはやしぃの前の体裁どうこう言ってる場合では無かった。

(*;゚ー゚)「大丈夫?」

(,,;゚Д゚)「あ、わり……そっちこそ時間は?」

(*;゚ー゚)「まだ大丈夫。5分くらいあるから」

俺はしぃに、早く切符を買うよう促した。

ここは俺たちの街の駅。
田舎の駅だからすごく簡素で、未だに切符を使わなければならない駅。
駅員だけは、眠そうにしながら、改札の横の窓口にいる。

769 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:54:35 ID:i6fNNdGU0
しぃは券売機にお金を入れて、それから上を見る。
眺めているのは路線図。地名の下に料金が書かれている。
行ったことのない場所を目指すから、しぃの目線は散々に泳ぐ。

どうやら見つけたらしく、しぃは少し顔を綻ばせる。
俺の息はだいぶ整っていて、自転車を置いてしぃに近づいた。

(*゚ー゚)「あ、だめだよー。駐輪場!」

(,,゚Д゚)「どうせ5分だろ? ここで待ってるよ」

今は時間を惜しんでいたい。
自転車を停める場所ごときで、手間を取りたくなかった。

しぃは笑ってくれた。
でもその顔に力なんてない。

もう寂しさが上回っているようだ。
いくら微笑もうとしても、そこには翳りがあり、ただひたすらに表情を台無しにしている。

俺は頭を掻いて、何か気のきいたことを言おうとした。
でも、思いつかない。
ここ一番ってときに、俺の頭は役に立たないんだ。

770 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:56:06 ID:i6fNNdGU0
こんなとき――


踏切の音がする。
いつも以上に無機質で、無情に感じられる。

(*゚ー゚)「きちゃった、ね」

ぽつりと呟くしぃ。


こんなとき、あいつなら――


(*゚ー゚)「じゃあ、わたしは行くね」

しぃが改札をくぐって抜けようとする。
途中で荷物を引っかけつつも、俺に助けられながら、ホームへと進んでいく。
俺は駅員を説得して、ホームへ踏み込む。どうせ電車に乗るわけではないのだから。


あいつならなんというのだろう――


電車はすぐに到着してしまった。

771 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:57:36 ID:i6fNNdGU0
空気の漏れる音がして、扉が開く。


俺は結局何も言えないまま。


しぃが荷物を抱えて、一歩踏み出して車内に入り、
俺の方を向いた。

俺は顔を向けられなくて
俯いたままでいて

もうしばらく会えなくなることとかわかっていたのに
どうしてもその事実が受け入れられないままで


「ありがとう」

しぃの言葉。


「フサギコくん」

772 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 01:59:05 ID:i6fNNdGU0
一瞬のことだった。
しぃの口からその名前が出て来た。

俺の名前。

反射的に首が跳ね上がる。
息を飲んで前を向く。
同時に扉が閉まる。

俺が眼を見開くのと比例して、電車は音を高く上げていく。
車輪が回る。電車が動く。
目の前のしぃが動いて行く。

俺の名前を呼んだ?――

(,,; Д )「しぃ!!!」

呼びかけたけど、もう遅い。
電車は動き出してしまったのだから。

俺は震える手で、口を押さえる。


しぃは気付いていたんだ。

俺がギコじゃないってことに。

773 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:00:54 ID:i6fNNdGU0
~~~~~~~~~~~~~~~~
この街の片隅に、しぃの家と、フサギコの家があった。
しぃとフサギコは同い年で、それぞれ同い年の姉と兄がいた。
それが、しぃにとってのつーであり、フサギコにとってのギコである。

ブーン、ドクオ、モララー、ジョルジュはギコたちの小学校のクラスメートだった。
この四名と、つー、ギコを加えた六名が同い年であり、親友同士だった。

フサギコは、よくギコの友達に小突かれていた。
とはいえ決して嫌な意味では無い。じゃれあっていたというのが正直なところである。
その隣にはいつも、つーの妹のしぃがいて、笑っていた。

しぃはどちらかといえば愛でられる対象で
フサギコを弄りつつも、しぃを可愛がる、その流れがギコたちのいつもの流れだった。

また、男たちのいたずら好きも相当なもので、学校ではよく噂になっていた。
手を焼く先生たちの傍らで、生徒たちの喝采を浴びながら、彼らは様々な小さい悪事を働いていた。

ギコたちが高校一年生になった頃、ギコとしぃが付き合いだした。
そのことはすぐに友達間に知れ渡ったし、当然フサギコも知っていた。
その頃は、フサギコはしぃのことをただの友達と思っていたので、特に何も感じなかった。
強いて言うなら祝福する気持ちがあった。そんな高尚なものでもない気がしたが。

やがて、今年になり、フサギコたちが高校一年生になった。

774 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:02:24 ID:i6fNNdGU0
しぃの姉、つーが突然学校に来なくなったのは、7月初めのことだった。
しぃの両親は、必死でつーを説得し、学校に行くことを勧めた。
彼らはそのとき、つーには何か学校に行きたくない事情があるものと思っていた。

つーは高校三年生だった。
今まで成績優秀で、せっせと大学進学に勤しんでいた娘が、突然登校拒否となったのだから
両親の説得は、つーの将来のことを第一に考えた行動だった。

結果として、つーに事情があることは本当だった。
つーが自供したのだ。泣きながら自室のドアを開けるよう懇願している自らの両親の前で。

自らが、担任であるロマネスク先生から、性的暴行を加えられたことを。

プライドを傷つけられたために、つーは突然登校拒否となった。
だけど、泣いて縋る両親を前に、とうとう耐えられなくなったらしい。
だからつーは自供したのだ。そして立ち向かう道を選んだ。

つーの両親は激怒した。
当然ながら学校に乗り込み、ショボン校長とも話し合った。
ロマネスク先生は馘首。つーの両親の意気込みは凄まじかった。
それほどまでに、つーを守りたいという気持ちがあったのだろう。

しかし、その想いの強さから、両親は一つの結論を出していた。
つーを転校させよう。自分たちも一緒になって、この土地から離れよう。

つーがこの街を怖がっているのは確かなようだった。
この街の繁華街で、彼女は暴行を受けたのだ。だから、その恐怖がすりこまれていたのだろう。
そして両親はそのつーを見て、彼女の将来を考え、この街を離れることを決めた。

775 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:03:54 ID:i6fNNdGU0
あまりにも早期の決定に、しぃは手間取った。
そもそも学校が終わっていなかったので、両親は少しだけ、しぃをアパートに残すことにした。
学校が終わったら、すぐに自分たちのいる街に来なさい、とだけ言い残して。

実際にはもっといろいろな話し合いがあったのだろう。
でもフサギコはそんな断片的なことしか知らなかった。

しぃは一人暮らしもできるくらいしっかりした子どもだったので、両親としても安心できたのだろう。
周りの友達も、その生活をサポートするつもりは十分にあった。
フサギコもその一人で、年上の連中も同じだった。

ときどきしぃと一緒にご飯を食べてあげたり、買い物に付き合ってあげたり
もちろん一番親しいのはギコ。そこは彼氏として譲れなかったに違いない。

フサギコの胸にも、しぃに対する想いが募ってきてはいたのだが
そのあたりはさすがに抑え込んでいた。

そんなある日のことだった。

ロマネスクがこの街を去る日をたまたま知ることが出来た。

776 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:05:24 ID:i6fNNdGU0
先程、ブーン、ドクオ、モララー、ジョルジュがつーを慕っていた話はしたが
ブーンはその気持ちが一入だった。
だからこそ、つーを傷つけたロマネスクが許せなかったのだろう。

学校の教室の片隅で、ブーンは提案をした。
ロマネスクに思いっきりいたずらをしてやろうと。

調子のいいモララーとジョルジュがブーンを囃したてた。
だけど、ドクオだけは反対した。

今そんなことをして将来に影響したら元も子もない。
そうドクオは主張した。

それでブーンとドクオは喧嘩することになる。
気持ちの昂ったブーンは、ドクオに掴みかかる。
腕っ節の強いブーンが、痩身のドクオを丸めこめるのは容易そうだったが
ドクオは周りの机や椅子を駆使してブーンを避けつつ、反撃しをしようとしていた。

まずい状況だと理解したモララーとジョルジュがドクオとブーンを止めようとする。
けれども二人とも好き勝手に動き回るものだから、上手くいかない。
やがてブーンが椅子を抱え上げて、ドクオに襲いかかろうとした。

ちょうどそのときだった。
騒ぎを聞きつけたギコが教室に入って、ブーンの攻撃を体で受け止めたのは。


778 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:06:54 ID:i6fNNdGU0
崩れるギコの身体を目の当たりにして、ブーンはようやく事の重大さに気付いたという。
その隙をついてモララーとジョルジュがブーンを止め、ドクオが救急車を呼んだ。

実際にはブーンもドクオにより結構な手傷を負っていて、その治療には時間がかかった。
ギコの方はもうちょっとだけ深刻で、一週間ほどの入院をしなければならないという。

これがほんの三日前の出来事である。

フサギコは、ブーンとドクオが喧嘩して大けがしたことだけしぃに告げた。
そして、いざギコのことを告げようとしたところで、言葉に窮した。
どうしてもその先を告げることが出来なかったのだ。

これから遠いところへ言ってしまうしぃに対し、その彼氏が大けがを負ったとどうして伝えることが出来ようか。

そのためギコが困っているところに、しぃが或る事を言ってきた。

自分が出発する日の朝、ギコに送ってもらう約束をしたのだという。
朝の5時出発の電車に間に合うように、4時頃には迎えに行くと言われていたと。

フサギコは唸った。
兄は今動けない。約束も果たせない。
しかしそれを伝えれば、しぃは心配してしまう。
彼女を悲しませたくないという気持ちが生まれていた。
それは彼女への、表に出すことが出来ない好意によって、形成されていた。

そして、フサギコはある思いつきをする。翌日には髪を短くして整えた。
彼は当日、つまり今日この日に、ギコになる決意をした。
~~~~~~~~~~~~~~~~

779 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:08:24 ID:i6fNNdGU0
だけど、しぃは気付いていた。
俺がギコじゃないことに。

俺は何てバカなことをしてしまったのだろう。

扉の向こうにいるしぃの顔を見てしまった。
最後の言葉を聞いてしまった。

あのときの、「ありがとう」は、震えていた。

涙を堪えた人の声。

しぃは気付いてしまったに違いない。
今日、ギコが来れない理由ができてしまったことに。

そして、俺がこんな計画を練ってしまい、ばれてしまったばっかりに
彼女はギコの身に何が起きたのかわからず、遠くへ行ってしまう。

それ以上に、俺は思う。
しぃは俺だと気づいていながら、黙っていた。
もしかして、彼女は俺が切り出すのを待っていたのだろうか。

それなら、俺は――

考えるまでもなく、俺は自分の自転車を走らせていた。

780 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:10:24 ID:i6fNNdGU0
線路沿いの土手。

(‘A`)「んあ?」

眠い目を擦りながら、ひょろっとした少年が驚きの声を上げる。

(‘A`)「おーい、モララー、ジョルジュ。
    『今日限りのギコ』さんが凄いスピードでこっちにきてるぞー」

(;・∀・)「へ? なんでだよ。結局こっち来てんのかよ」
  _
( ゚∀゚)「ここは俺らに任せるんじゃないのか? しかしすごい体力してるな」

(,,; Д )「きこえ……てんぞ、ゴルァ」

息も絶え絶えに、俺は呻く。

(,,;゚Д゚)「あれは?」

( ・∀・)「できてるよ。途中まで一緒にいただろ?
      寝ないで作り上げてやったんだ。感謝しろよな」
  _
( ゚∀゚)「突然頼みごとしてきやがって、このロマンチストめ」

言葉は無視して、俺はそれを確認する。
真っ白い横断幕に、力強い黒い文字。

(‘A`)「電車来るぜ」

781 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:12:07 ID:i6fNNdGU0
思えば俺はかなり飛ばしてきたようだ。
電車とギリギリ並走してきたのだから。

そして、今自らの手で横断幕を掲げようとする。

(,,゚Д゚)「いきますよ、みなさん」

( ・∀・)「言われなくても、わかっとるわい」

この横断幕を昨日から、俺はギコの友人たちと協力して作り上げた。
電車に向かって掲げるために。

今や力を増していく陽光に照らされて、文字は堂々と煌めく。


     『しぃ、必ず会いに行くからな by』


元々ギコがこの言葉を言ったという名目で、俺はこの横断幕を作るよう指示した。
だけど、今、そのギコの文字を遮るようにして、俺は立っていた。

きっと周りの誰にもわからなかったろう。
俺の意図なんて。

だけどもお構いなしに、俺は電車へ向かって叫ぶ。

782 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:14:07 ID:i6fNNdGU0
 
 
 
 
 
 
 
(,,゚Д゚)「しぃー!!! 好きだあああああああああああああああ!!!!」


784 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:16:20 ID:i6fNNdGU0
(;・∀・)「へ?」
  _
(;゚∀゚)「おお」

(;’A`)「うわぁ」

呆然とする三人をよそに、すっきりする俺。

(,,゚Д゚)「よし!」

(;・∀・)「よし、じゃねえよ! 何言ってんだお前」
  _
(;゚∀゚)「どうすんの? え、奪い取るの?」

(;’A`)「これ、ギコに知られたら殺されるんじゃないかなあ」

(,,゚Д゚)「あー、何とかします。とりあえず言いたいこといいました」
  _
( ゚∀゚)「ところどころ兄に似てるなお前」

(‘A`)「俺しらねーっと」

( ・∀・)「お前真っ先にチクリそうだぞ、ドクオ」

785 :(,,゚Д゚)は伝えるようです:2012/03/17(土) 02:18:20 ID:i6fNNdGU0
電車はもう遠くへ行ってしまった。
俺の言葉が伝わったのかは分からない。

でも、もし伝わっていなかったら、いつか必ずこの口で言おう。

と、その前に兄と話し合おう。
話し合いなんて穏やかな済めばいいのだが。











~~(,,゚Д゚)は伝えるようです おわり~~

スレの反応

したらば総合より

Tags: ,
Filed under: 2012年避難所短編 — 青空ヒート 03:23  Comments (0)
コメントはまだありません »

コメントはまだありません。

コメントする