思いつめたような声。

なんだろう、いつものしぃとは、別人のように感じた。

('A`)「何言ってんだよ、嫌いになんてならないよ」

「そう、ありがとう。・・・それじゃ、また日曜日に電話するね」

('A`)「お、おう」

通話が切れ、俺は携帯を閉じて安堵のため息をつく。

思ったより、電話しちゃえばなんてことなかったな。

('A`)(しぃ・・・)

ベットに寝転び、目を閉じる。

しぃの姿が自然に脳裏に走る。

('A`)「俺、どうしちゃったんだろ・・・」

そのまま、静かに夜は更けていった。



  


(*゚ー゚)「ふぅ」

携帯を閉じ、そのままベットに倒れこむ。

広い部屋、大型の液晶テレビ、高級なソファーに大きな本棚・・・。

私の知らない物ばかり溢れてる。

この部屋で長いこと一緒にすごしていたのに、私はそれらを知らない。

(*゚ー゚)「ドクオ・・・」

今は、この小さな携帯が一番身近に感じる。

・・・いや、携帯の向こうのドクオだろうか。

たった一つの、外の世界への道。



  

「しぃ、入るぞ」

ノックが鳴り、パパが部屋へと入ってきた。

(`・ω・´) 「明日のパーティーは3時からだから、ちゃんと準備をしておきなさい」

(*゚ー゚)「・・・はい」

(`・ω・´) 「うむ、それじゃおやすみ」

(*゚ー゚)「おやすみなさい」

・・・またパーティーか。

正直、行きたいとは思わなかった。



  

また、社長令嬢を演じなければならないと思うと気持ちが沈んだ。

(*゚ー゚)「・・・うう」

泣くな、こんなことで泣いてどうする?

強くなれ。私はもう大人なんだ。

眠れ、そして明日にはいつものように演じるんだ。

・・・だから、今だけは。何も考えずに眠るんだ。

明日は、待ってはくれないのだから。



  


(;^ω^)「ええーっ!? しぃさんの彼氏役!?」

('A`)「バカ、声がでけぇ。・・・一応、極秘機密だぞ」

土曜日、俺はブーンと近所の喫茶店で落ち合っていた。

明日のこともあるし、色々話す相手が欲しかったのだ。

( ^ω^)「しっかし、しぃさんがそんな大金持ちだったとは知らなかったお」

('A`)「俺も驚いた。・・・で、どうやったらあっちのお父様に認めてもらうかっていう話だ」

( ^ω^)「ふぅ〜ん、なるほどだお」

ブーンはオレンジジュースをストローで飲みながら言う。



  

( ^ω^)「ドクオ・・・しぃさんのこと好きなのかお?」

('A`)「ぶふぅ!」

俺は飲んでいた水を少し噴き出してしまった。

ブーンにそんな質問されるとは・・・

('A`)「何言ってんだ! お、俺は成り行きで・・・」

( ^ω^)「ドクオ、目が泳いでるお」

('A`)「な、な!?」

ブーンはニヤニヤ笑いながら俺を見る。

それはいつものブーンの笑いじゃなく、まるで子猫を見るような目だ。



  

( ^ω^)「大丈夫、ドクオの正直な気持ちをぶつければしぃのお父さんもわかってくれるおw」

('A`)「おま、だから違うって!」

( ^ω^)「ふひひwwまぁ応援してるおwwむふふww」

気味の悪い笑いをしながら、ブーンは喫茶店を出て行った。

('A`)「なんだそりゃ・・・」

俺は一人喫茶店に残され、ブーンの言ったことを考える。

あいつ、何が言いたかったんだ?

結局、また悩む。だが、考えても何も思いつくものは無かった。



  


高級な服は嫌い。

動きにくいし、何より全体的にキツイ。

( ´ー`)「お飲み物をどうぞ」

(*゚ー゚)「ありがとう」

私はグラスを受け取り、パパの方を見る。

他の会社の社長さんと楽しそうに話している。

・・・まだ終わりそうにないや。



  

( ゚∀゚)「お嬢さん」

(*゚ー゚)「え?」

私のこと?

ふと声の主を見ると、身なりのいい青年が立っていた。

( ゚∀゚)「初めまして・・・フジサン商社の跡取りのジョルジュと申します」

(*゚ー゚)「あ、どうも。シャキン商社のしぃです」

( ゚∀゚)「おお、あのシャキン商社の・・・どうりでお美しいはずです」

ジョルジュと名乗った男は私の手を取り、握手をする。

ずいぶん積極的。あのフジサン商社の跡取りというだけあって自信に満ち溢れている。



  

( ゚∀゚)「よろしければ、こちらで一緒にお話でもどうでしょうか?」

(*゚ー゚)「父の用事が終わるまでなら・・・」

( ゚∀゚)「ええ、もちろん。じゃああちらのテーブルへ行きましょう」

ジョルジュは私の手を引いて向こうのテーブルへと連れて行った。

あぁ、面倒くさい・・・。けど、愛想は良くしないと。

私は興味の無いビジネスの話を聞きながら、適当に相槌を打っていた。



  


翌日

('A`)「おー、ここがVIP動物園かぁ」

電車で30分ほど揺られ、俺達は動物園の前にいた。

(*゚ー゚)「はぁ。私、動物ってあんま好きじゃないんだよね・・・」

(;'A`)「なんだよ、やぶからぼうに・・・」

(*゚ー゚)「だって、猿や像を見ても別におもしろくないじゃない?」

('A`)「ったく、いいから早く入ろうぜ」

文句を垂れながらモタモタしているしぃの手を引っ張る。

(*゚ー゚)「あ・・・」

しぃが何か言おうとしたが、俺はしぃの方を見ずに歩いた。

(;'A`)(手繋ぐのって、こんな感じでいいんだよな・・・)

(*゚ー゚)(結構やるじゃん・・・ふふ)

柔らかい手の感触に緊張しながら、俺達はVIP動物園に入園した。



  

(*゚ー゚)「キャー! ちょっとすごい! ゴリラだよゴリラ!」

(;'A`)「・・・」

さっきまでうだうだ言っていたのはどこの誰だったのだろうか?

しぃは手すりに掴まり、ゴリラを見ながら大声を出している。

(*゚ー゚)「ほら、ドクオ! 次はキリン見に行こう!」

('A`)「お、おう」

手を繋いだまま、引っ張られるように走る。

まるで子供とその親だ。



  

('A`)「ふぅ、やれやれ・・・」

でも、喜んでいるしぃの笑顔を見ると安心する。

なんか、こういうのを恋愛っていうのだろうか?

まぁ、今彼氏役だからなんちゃって恋愛だけど。

(*゚ー゚)「キャー! すごい首長ーい! なんでなんで!」

('A`)「キリンは高い木に生えた草を食べるために首が長くなったんだよ」

(*゚ー゚)「へ〜。ドクオも草食べればあれくらいの身長になるんじゃない?」

(;'A`)「いや、あそこまで大きくなりたくないし! ってかそれは俺をチビと言ってるのか!?」



  

(*゚ー゚)「やーい、チビw」

('A`)「なにぃ〜! 俺とあんま身長変わらないくせに! うりゃ!」

(*゚ー゚)「きゃっ! もう何すんのよ!」

('A`)「はい、よけた〜。当たらないよーだ」

(*゚ー゚)「にゃろめ〜・・・待て!」

動物園で走りあう二人。

自然に笑い合い、他人から見れば普通のカップルのように見えるだろう。

壁ω・´) 「う、おのれぇ・・・ミルナ君! ミルナ君!」

( ゚д゚ )「はい、シャキンさん」

(`・ω・´) 「わかってるね。あいつをボコボコにしてかっこ悪い所をしぃに見せるんだ」

( ゚д゚ )「はい、シャキンさん!」


  



('A`)「お前、二回叩いたろ! 反則!」

(*゚ー゚)「知らないよ〜だ」

しぃは子供のように舌を出して逃げる。

運動不足のせいか、追いつけない・・・。

('A`)「ちょ、ちょっとタイム・・・」

(*゚ー゚)「もう、運動不足だなぁ」

乱れた息を整える。

その時、前にいたしぃが誰かとぶつかった。

(*゚ー゚)「いたっ!」

( ,,゚Д゚)「ってぇ!」

大柄な男にぶつかり、しぃがよろける。



  

(*゚ー゚)「あ、ごめんなさ・・・」

( ,,゚Д゚)「ゴラァ! てめぇどこ見て歩いてんだゴラァ!! あぁ?」

男は大声を張り上げ、威嚇する。

見るからにチンピラ風の男。

まずい、因縁つける気だ。

('A`)「ちょ、ちょっとすいません」

( ,,゚Д゚)「あぁ? なんだゴラァ!!」

怖ぇ! ・・・なんでこんな人が動物園にいるんだ。

俺は見上げるような大男に軽く頭を下げる。

('A`)「ぶつかっちゃってほんとすいません・・・ほら、いこうしぃ」

(*゚ー゚)「う、うん」

俺はしぃを隠すようにその場を立ち去ろうとするが、男はそれを許さない。



  

( ,,゚Д゚)「はぁ? ふざけてんじゃねぇぞ。ぶつかっといてその態度はなんだぁゴラァ!!」

('A`)「危ない!」

(*゚ー゚)「キャッ!」

男の拳が振り下ろされ、とっさにしぃをかばう。

鈍い音と共に、頬に激痛が走った。

(*゚ー゚)「ドクオ!!」

・・・久しぶりに殴られた。

口に血の味が広がる。



  


(`・ω・´) 「ねぇ、誰なのあいつ!? ミルナ君の知り合い!?」

( ゚д゚ )「い、いえ。私の通ってるジムにはあんな男いませんが・・・」

(`・ω・´) 「まずいよ、早くあのチンピラ倒しちゃってよ! しぃが危ない!」

( ゚д゚ )「え、ええ!? 私がですか!? 勘弁してくださいよ! あの男ちょっとでかすぎワロタ!」

(`・ω・´) 「ええい、ムエタイやってるんだろ!! なんとかしろ!」

( ゚д゚ )「はい、先週から始めました」

(`・ω・´) 「・・・」


( ゚д゚ )



  


( ,,゚Д゚)「ゴラァ。黙ってんじゃねえぞ?」

(*゚ー゚)「ドクオ、大丈夫? ねぇ、ドクオ!」

俺はゆっくりと立ち上がり、相手を見る。

・・・怖い。逃げ出したい。

でも、しぃを守らなくちゃ。

('A`)「すんません、これで気はすみましたか?」

( ,,゚Д゚)「あぁん? ふざけんなカス!! すむわけねーだろーが!!」

('A`)「じゃあ、気が済むまで殴ってくださいよ」

俺は一歩前に出る。

・・・近づくと、男との身長差がよくわかる。

まともに殴り合ったら、絶対勝ち目は無い。



  

('A`)「その代わり、彼女には手ださないでくださいね」

(*゚ー゚)「ドクオ・・・!?」

男の口がにやりと笑う。

( ,,゚Д゚)「じゃあそうさせてもらう、ぜ!!」

男は拳を振り上げ、俺の顔面に向かって振り下ろした。



  


(*゚ー゚)「ドクオ・・・!」

('A`)「はぁ・・ぶはっ・・・!」

口の中の血の味が、さらに濃くなった。

頭がグラグラと揺れる。もう何発貰っただろう?

( ,,゚Д゚)「はぁはぁ・・・しつこい野郎だゴラァ・・・」

男も息を切らし、疲労している。

絶対、倒れない。喧嘩は殴り合いの強さで勝敗が決まるわけじゃない。

( ,,゚Д゚)「いい加減、寝ろ、よ!!」

大振りなフックが俺の頭を打ち抜く。

一瞬、ふらついたが体勢を立て直し相手を睨みつける。

( ,,゚Д゚)「野郎・・・」



  

(*゚ー゚)「もう、もうやめてよドクオ! 死んじゃうよ・・・」

('A`)「黙ってろ・・・しぃ。大丈夫だから」

しぃの涙声も、聞き取るのが精一杯だ。

男の苛立ちが頂点に達したのか、奇声をあげて襲い掛かってくる。

その手には・・・ナイフ?

( ,,゚Д゚)「ゴラァァ!!! ふざっけんな!!」

やばい。刃物は予想してなかった。

避けようにも、もう足に力が・・・



  

(`・ω・´)「社長キーーック!!!」

( ,,゚Д゚)「ぶほぅ!?」

突然、横からから現れた人が男にとび蹴りをかます。

あれは、お父様?

(`・ω・´)「このチンピラが!! うちの娘に因縁ふっかけやがってぇぇ!!!」

( ゚д゚ )「そうだそうだ!」

お父様は男に馬乗りになってパンチを何発もぶち込む。

もう一人・・・の人は遠くから見てるだけ。

(*゚ー゚)「ドクオ、ドクオ!! 大丈夫? ねぇ・・・」

('A`)「・・・はは、強ぇや。かなわ・・・ね・・・」



  

(*゚ー゚)「バカ! なんで・・・なんでそんなになるまで!」

しぃの目が涙で溢れる。

('A`)「俺・・・しぃの彼氏だから・・・だから、守らなきゃ・・・」

(*゚ー゚)「!!」

視界が歪み、力が抜けてしぃにもたれかかる。

俺の体はもう、言うことを聞いてはくれなかった。

(*゚ー゚)「・・・バカ。かっこよかったよ・・・ドクオ」

しぃは俺の背中に手を回す。

しぃに抱きしめられたまま、俺は意識を失った。



  


('A`)「いてて、痛ぇ!」

(*゚ー゚)「ほら、動かない! 今、消毒液塗るから」

(;'A`)「けが人なんだから、もっと大事に扱ってくれよ」

俺は医務室で治療を受ける。

あの後、警備員も駆けつけて大変な騒ぎだったらしい。

男の方が重症だって。・・・娘を想う父は強し。

(*゚ー゚)「はい、終わり!!」

('A`)「いてぇ!!」

しぃは俺の背中をバーン、と叩く。



  

('A`)「ったく、一応、今は彼氏なんだぞ?」

(*゚ー゚)「ばーか、自惚れすぎw」

('A`)「く・・・なんて恩知らずな」

お互いに笑いながら話す。

時計を見ると、もう午後8時になっていた。

・・・ずいぶん長い時間、気絶してたみたいだ。

(*゚ー゚)「ま、でもさ」

しぃはふっと、俺の目を見る。

(*゚ー゚)「今日はありがと・・・かっこよかったよ、ドクオ」

素直にお礼を言われる。

・・・恥ずかしいけど、嬉しい。



  

('A`)「・・・べ、別に彼氏として当たり前のことしただけだよ」

(*゚ー゚)「へへ、その台詞、なんか嬉しいな」

言った自分も恥ずかしくて赤面する。

・・・なんだろ、俺。しぃとすごく気持ちが通じ合ってる気がする。

('A`)「・・・しぃ、あのさ!」

(*゚ー゚)「ん?」

振り返った、その仕草にすらドキッとする。

俺はしぃともっと一緒にいたい。

もっと知りたい。

ずっと――彼氏でいたい。



  

('A`)「俺・・・しぃのことが――

瞬間、唇がふさがれる。

しぃの唇が俺の言葉を、キスという行為で抑える。

(*゚ー゚)「―っぷは」

('A`)「・・・あ」

ファーストキス、しぃに奪われちまった。

(*゚ー゚)「ど、ドクオは私がいないと危なっかしいんだから、こ、これからも・・・」

('A`)「これからも?」

ふっと、しぃが微笑み、言った。

(*゚ー゚)「これからも、私の彼氏としていっぱい愛してもらうんだから!」

オーケイ、契約成立。

色々あったけど、なんだかんだでこうなる運命か。

それなら、喜んで受け入れよう。彼女を、これからの未来を。



  

('A`)「俺も、いっぱいしぃのこと愛するから、覚悟しろよ!」

(*゚ー゚)「ん――」

そう言って、俺はしぃにキスをする。

愛おしい恋人は、俺のキスを静かに受け入れてくれた。

互いの気持ちが、唇を通して伝わってくる。

俺の、大切な人。

しぃの為なら、俺はどんな壁だって乗り越えられる。

そう、思った――



  



(*゚ー゚)「いってきまーすw」

(`・ω・´) 「ん、しぃ。どこにいくんだね?」

(*゚ー゚)「今日はドクオとデートする約束してるんだ」

(`・ω・´) 「むぅ、わかっているな。6時までには帰ってきなさいよ!」

(*゚ー゚)「はいはい、それじゃいってきまーす」

ドアを開け、いっぱいの朝日を浴びて外に出る。

約束の時間、向こう側を見ると自転車に乗ったさえない彼氏がやってくる。

('A`)「おっす」

(*゚ー゚)「うん、時間通りでよろしい!」

('A`)「まったく偉そうに・・・ほら、早く後ろ乗って」

(*゚ー゚)「了解!」



  

自転車の後ろに乗り、ドクオの腰に手を回す。

ドクオがゆっくりとペダルを漕ぎ、自転車は動き始める。

(*゚ー゚)「今日はいっぱい服買うから、ちゃんと似合うの選んでね」

('A`)「また買うの!? もー、荷物持つのすごく大変なんだけど・・・」

(*゚ー゚)「彼氏はそういうこともしなきゃいけません」

('A`)「うう、そんな決まりいつ作ったんだよ・・・」

いつものように話しながら、自転車は道をスイスイと走る。

そのやや後ろに、ゆっくりと追跡してくるバイク。



  

(`・ω・´) 「まだ私は認めたわけでは無いのだぞ・・・ふふ」

( ゚д゚ )「ショボンさん、どうですこの運転! この間免許取ったばっかなんす!」

(`・ω・´) 「・・・いささか不安だが、このスピードなら君でも大丈夫だろう」

( ゚д゚ )「あ、でもでも。ガソリンがもう無いです。サーセン」

エンジンの音が少しづつ小さくなり、失速していく。

(`・ω・´) 「な、なぜ入れておかないんだーー!!」

( ゚д゚ )(ドクオさん・・・お嬢さん、頑張ってください。サーセンw)

自転車はやがて小さくなっていき、見えなくなる。

夏が終わり、秋の風が吹き始める。

ドクオとしぃを乗せた自転車は、静かに川沿いを走っていった。



fin

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