西日のさす中、数日間部屋に引きこもっている青年がいる。
彼は自分の余命を把握していた。
後半年で自分が死ぬという現実に耐えられず毛布をかぶりじっと座っている。
青年はずっと自分の世界に閉じこもり、必死で自我を保とうとしている。
そのときノックの音と女性の声が聞こえた。

川 ゜-゚)「クーです。本日よりあなたのカウンセラーとして雇われました。」



  ( ^ω^)ブーンが余命半年のようです


 


人口が100億人に達したときそれは突然起こった。
100億人目の人類が生まれたとともに、ある病が人々を襲った。
突然に血液中の成分が変化し、現在の医学では判別はできるのだが
治療法のない病気が世界中に広まった。
病気と言ったら少し語弊がある。表現するのなら現象が丁度いい。
現象がおきて初期のころ、権威ある学者はこの現象に対し、人類が増えすぎそれを抑止す
るための現象であると発表した。
患った者は個人差はあるものの体は健康のまま大体半年ぐらいで死に至る。
その病気は突然襲い掛かり、老若男女の間に区別はない。
検査は体液、排泄物でできるが感染することはなかった。
また治る希望がほんの少しでもある癌とは違い、治療法も、進行を遅らせるすべもなかった。
決められたスケジュールのように、病気にあがらうこともなく死を待つだけ。
人は希望があればそこに活路を見出す。無期懲役の囚人だろうといつか出れる日を夢見て。
しかし死刑が確定している囚人は毎日を悔やんで過ごす。毎朝看守の足音におびえる。


電車の中のいつもの日常、変わらぬ面面。
大学の帰り、電車の中で現象の記事を書いた吊りポスターを見ながらブーンが口を開いた。

( ^ω^)「テラコワスだお。」

('A`) 「だな、でも大丈夫だろう。確率的には0.00001%だぜ。車に轢かれるよか
      低いぞ。」

(´・ω・`) 「そうだね。でももし罹った場合なんだけど、皆はどうする?
       大学の健康診断の時に調べてるって言うじゃない。」

( ^ω^)「おっおっ、そうなのかお、知らんかったお。」

('A`) 「ただの噂だろ。でもそうだな、もし俺が半年病になったならソープに行って
筆下ろしを頼むかな。」

ドクオがそう言うと三人はげらげらと笑った。
こんな日常がいつまでも続くと思って、自分が罹るなんて想像しても現実味がなかった。
 


現象が全世界に広まって3年経ったが、人類が暮らすのにさほど支障はなかった。
半年病と名付けられた現象だが、患う確率は低く、いまだに10万人しか発病していない。
確率は0.00001%と低く、誰もが気にせず暮らしていた。
しかし問題は発病した後だった。発病がわかった患者の一部が人生を悲観し欲望のままに
行動するものがいた。
あるものは女性を犯し、あるものは駅前で無差別に殺人をし、あるものは道ずれにと飛行
機をハイジャックし無理矢理墜落させた。
一番大事を起こしたのが、総合商社の役員だった。彼は国の発展のために日夜努力し続けていた。
食品、エネルギー、金属、その他もろもろを輸出し輸入しているその商社は国のシステム
として不可欠のものとして存在している。
商社が無くなれば2週間ももたないといわれているのがこの国の現状だ。
 


ところが国の発展に貢献してきた彼が、今度は国を潰そうとした。
なんと、書類を巧妙にいじり会社を法律上倒産させてしまったのだ。
国が傾くような一大事ではあったが、ことの大きさに政府はすぐさま特例として倒産を無効にした。
数時間ではあったが国は大混乱に陥り、潰れた会社はすべて併せ100社以上にのぼり、大損害をこうむることになった。

このようなこともあり半年病患者に病名を告げるかどうかで問題になったが
結局病気とされていたので本人が望めば告げることとなった。

 


大きな事件があってから、民衆に騒がれ議会は苦し紛れにある法案を提出した。
半年病を告げた患者にはカウンセラーをつけること。
単純なことではあったが効果はあった。
その後、半年病の患者のうち犯罪者になるものが半分以下になり、カウンセラーの地位が比較的向上した。
 



ある日のこと、大学の掲示板にブーンの名前が貼られている。
至急、学生室へ来るようにと。
大学がブーンを呼び出しているが、覚えのないブーンは疑問に思いながら学生室へ向かう。

学生室につたブーンが職員に名前を名乗り、用件を聞こうとした。
その職員はあまり口をきかずブーンを応接室へと案内する。
ブーンは学生室を出る際、気のせいだろうか周りの目が哀れみの目を向けているように感じていた。
応接室に案内されたブーンは座るよう促され高級そうなソファに腰を下ろす。

( ^ω^)(なんかヤバスだお。もしかして留年でもしたかお?)

そんな不安をするブーンに理事長が沈痛な面持ちでプリントを見せながら話をはじめる。

 



/ ,' 3 「これなんだがね。君は健康診断のアンケートで、半年病に罹ったら告げてほしいと答えたね。」

(;^ω^)「はいですお。」

脇から汗が流れるブーン。
ブーンは緊張するといつもここから汗が出る。

/ ,' 3「これを見てほしい。」

理事長が封筒から紙を出す。
医者の診断書だ。
病名にはこう書いてある。



半年病

 



理解した瞬間からブーンは半年後に死刑を処される囚人と同じになった。
違うのは自分は自由で期限は半年ということ。
ブーンの頭の中で世界がゆがんだ。
ブーンには今見えるものすべてが歪んで見える。
理事長がなにを言ったか考えることができないまま応接室を出ていき
そのまますぐ駅へと歩こうとした。

歩いているブーンを見つけドクオが声をかける。

('A`)「おいブーン、飯食ってこうぜ。」

それを無視しブーンは足を速める。無視というより言葉が理解できなかった。

(;'A`)「シカトかよ…」
 


電車の中で受け取った診断書を何度も確認した。
ブーンはとにかく家へと帰りたかった。
家へ帰ればカーチャンがいて、
ご飯があって、トーチャンが帰ってきて
皆でテレビを見ながらご飯を食べるいつもの日常がある。
そこにさえ行けば、こんな非現実的なことなくなってしまう。
そう考えていた。

家に着き、夕飯の支度をしているカーチャンに診断書を見せ話すと
罹った本人よりも先に現実を受け止め、そして泣いた。
そんなカーチャンを見たブーンは漠然とこれが現実と思い部屋に入った。
現実は覆らない。宣告された死刑も覆らない。そう思った。

 



一週間後、ブーンの部屋は荒れていた。
地震がきたわけでも、二人組みの泥棒がくるから罠を仕掛け戦ったわけでもない。
ブーンが怒りに任せて暴れたからだ。
 


告げられた翌日、ブーンはその日1日中寝ていた。何もやる気がなく、ただ寝ていた。
とにかく時間が経てばそれでよかった。
考え事をしようにもただ自分の境遇を呪うしかなかったから。

そして夕方、トーチャンとカーチャンとブーンで夕飯を食べながらのことだった。
気まずい夕食。ブーンにかける言葉が見つからない。
必死で今までの日常を演出しようとする。
だが、もう日常へは戻れない。その矛盾した思いのため
口を開き話しかける相手は必然とブーンではなくなる。

(`・ω・´)「まさか、ブーンがかかるとはな。」

J( 'ー`)し 「まさかね。あたしもまだ信じれなくて……」
 


トーチャンとカーチャンが互いに慰めあっている。
例えるなら病人ではなく、その親に子供が病気になってつらいだろうと心配するような慰さめ方。
残されたものを悲しむ悲しみ方。
ブーンを置いてけぼりにお互いの伴侶を心配をしている両親。
頭が働いていなかったが、これまでの経験上すぐさま話の意味を理解した。
瞬間、頭に血が昇った。

( ;ω;)「何でお前らが泣いてんだお、死ぬのは僕なんだお!
      お前ら今、僕の死を悲しむんじゃなくて自分たちの立場を悲しんでたお
      息子が半年病になってかわいそうって、僕じゃなくお互いに言い合ってたお
      お互いに息子が半年病になってかわいそうだよなって言い合ってたお
      僕が死ぬより、残された家族のほうがかわいそうだって言いたいのかお
ふざけてんのかお!一番慰めるべきは僕じゃないのかお?」

 


ブーンは慰めてほしいとは思っていなかった。
自分が死に向かうようでも、そんなのはみっともない弱い感情だと思ったから。
ただ、自分が両親にどれだけ必要とされているかは知りたかった。
死に向かう自分がどれだけ大切に思われているのかを知りたかった。
死に対して少しでも安らかな気持ちで迎えたいと思っていた。
だが期待がはずれ、その怒りから親を怒鳴り散らし力任せに食卓をひっくり返した。
突然のことに驚いた二人は何もできずただおろおろするだけ。
そんな親に見抜きもせずすぐさま自室へと篭り、自分の人生と世の中をうらみはじめた。

 


ブーンは部屋から出ることなく
そのまま1週間が過ぎ、法律の通りカウンセラーがブーンのもとにやってきた。

川 ゚ -゚)「クーです。本日よりあなたのカウンセラーとして雇われました。」

ブーンはカウンセラーが来ることは忘れていたので、突然の訪問に驚くとともに
もしかしたら自分を救ってくれるかもしれないと思い、返事をする。

( ´ω`)「カウンセラーですかお。僕にそんなものは必要ないですお。」

わざと、そっけなく言い相手の出方をうかがう。
だが、ブーンの期待を裏切る返事が返ってきた。

川 ゚ -゚)「そうですか、では私は帰ります。また明日、この時間にもう一度きます。」
 


ブーンは1人でいるうちに1週間前とは違い誰かに慰めてほしいと考えるようになっていた。
そして半年病に罹った自分をどこまで甘やかしてくれるのか試してもみたかった。
しかし相手は優しい言葉をかけて自分を慰めてくれるだろうと思っていたのに反し、冷たい声で別れを告げると帰っていった。
誰かと接していたくなっていたブーンは明日を心待ちにした。
半年病に罹ってから明日を待つなんてはじめてのことだった。

次の日同じ時間にクーが来てノックを鳴らす。

川 ゚ -゚)「カウンセラーのクーです。昨日は帰れといわれたので帰りましたが今日は何かお話をするつもりはありませんか。」
 



ブーンは心が躍った。とにかく人と接したいと思っていた。

( ´ω`)「中に入ってくれお。何でもいいから話がしたいお。」

部屋の中に招き入れるブーン。

川 ゚ -゚)「失礼します。」

入ってきたのは、黒く長い髪がよく似合う綺麗な女性だった。
散らかっている部屋の適当なところに腰掛けブーンと向き合うクー。
2、3分の気まずい沈黙の後ブーンが自己紹介をする。

( ´ω`)「初めまして、ブーンですお」

沈黙の間ずっとブーンを見ていたクーが返事を返す。

川 ゚ -゚)「初めまして、カウンセラーのクーだ。
悩みがあったら聞くが、解決できるかどうかはわからん。
でも話すことにより楽になることもある。
急に話せといっても無理かもしれんが、今思っていることを私に話してみろ。」

 



直接向かい合ったためか口調が変わるクー。
そんなクーに戸惑いながらもブーンは生気のない声で話し始めた。

( ´ω`)「とにかく今は誰かと話がしたいお。何か喋っていないとずっと死ぬことばかり考えて頭がおかしくなりそうだお。」

川 ゚ -゚)「そうか、じゃあたっぷり話すがいい。私はブーン君の話を聞いてみたい。」

クーが興味深々そうな顔をする。それを見て少しブーンはうれしくなる。
だが、話せといわれても急に話題を見つけれるのは難しい。ブーンは正直に答えた。

( ´ω`)「そういわれても、急には話せないお。」

川 ゚ -゚)「じゃあ、質問する。なぜ話せない?」

冷たいようだが、さっきと表情が変わらないところをみると、単純に知りたいだけのようだ。

( ´ω`)「何でだろうお。クーさんのことをよく知らないし共通の話題がないんだお。」

いつもはふざけた会話をしているが、久しぶりの話し相手にいくらか素直になるブーン。
相手に帰られたくないというのもあった。




川゜-゚)「そうか。では共通の話題がないということは、何かしら共通するところがあればいいんだな。」

そういい少し考える。

川゜-゚)「話題についてはどうだろう。なぜ人は話すと思う。」

突拍子もないことを言うクー。しかしブーンはつい、そのことを考え込み始めた。
そんなことを考えたこともなかったブーンは黙り、自分なりの答えを探す。
そして、少しづつ言葉にして紡ぎだす。

( ^ω^)「いままでのことを考えたけど、話すというのは相手に理解してもらいたいと
いう願望だと思うお。自分の考えを相手に伝えるために話すと思うお。」

川゜-゚)「なるほど。今君は私に話すということを話した。
そしてはじめに誰かに話したいと言っていたな。
それはブーン君が考えていることを誰かに理解してほしいと感じたからだな。」

( ^ω^)「そうだお。僕の考えを話したかったからだお。」

川゜-゚)「じゃあ、なんで理解してほしいと思った」
 



ブーンの考えを引きずり出そうとするクー。
そして会話の中で故意に出さなかった言葉をブーンは思い出さなければならなくなった。

( ;ω;)「おっおっ、僕は半年病に罹ったお。
そしてトーチャンとカーチャンに話したけど僕になんて声をかけようか
迷うだけで僕のことを理解しようとしないんだお。
腫れ物に触る扱いなんだお。だから部屋に篭ってたお。
      死ぬのは怖いお。でも誰にも理解されないのも怖いお。」

泣きながら話すブーン。しかしこの一週間誰かに話したかったことを話せた。
それだけで、少しは楽になる。
自分を理解してくれる相手がいれば、自分を必要としてくれると思えるから。

 



川 ゚ー゚)「大丈夫だ。私は君のような人の気持ちを理解しようとするためこの職業についた。
     だから、変な勘ぐりはしなくていい。私は君の話したことに論理性があれば
その気持ちを理解したい。」

そういい泣いてるブーンの頭を軽くなでる。
子供をあやすような行動だが、ブーンは素直にそれを受け入れた。

 65 名前: 映画館経営(愛知県)[] 投稿日:2007/03/13(火) 15:05:15.56 ID:4V7XNvxn0

頭から手を離し、泣き止んだブーンに告げる。

川゜-゚)「はっきり言おう。ブーン君は半年後に死ぬ。
これは悪意でもなんでもない。
辛いだろうがまずそのことを事実として認識してくれ。」

半年病と判明してから初めて人の口から聞いた。
友達同士で言う「死ね」とはまったく違う言葉。
しかし1週間ずっと死ぬことを考えていたブーンは
それを受け入れる土壌が偶然にもできていた。
自分よりも不幸な人はいないと思い込んでいたため死は当然のことと思った。

( ;ω;)「はいですお。」

涙目ながらも返事をする。
思いのほかしっかりした返事だったのでクーは少し驚く。
そして、その驚きは喜びへと変わった。
これならしっかりした話ができると。
 


日記を見つめるブーンに説明する。
話を聞いて成る程と思うがある疑問を口にする。

( ^ω^)「でも僕は日記なんて書いたことないですお。
      なにを書けばいいんですかお?」

川 ゚ -゚)「君の好きなように書いたらいい。」

と言い少し黙るクー。そして言葉を変える。

川 ゚ -゚)「いや、好きに書けといわれても困るな。
     そうだなとにかく、その日1日で一番思い出せることを書いてみろ。
     そしてそれに自分の意見を書き込んでみろ。
     それだけでいい。それと書いてはいけないなんてことは何一つないから
     書きたいと思ったこと、整理したい考え事、自分の気持ち、なんでも書けばいい。
     そして自分の気持ちに嘘をつかず書けばいい。」

ブーンはそれを聞きとにかくやってみようと思った。
頭の中だけで考えるだけじゃなく、考えを独立させるということに興味を持ったから。

川 ゚ -゚)「それじゃ。また明日。」

それだけいい部屋を後にする。
 


午後六時、ブーンは早速日記を書き始めた。
半年病のこと、そしてそれに対する自分の気持ち。
クーのこと、今日話した内容。そして、なんでそんなことを話したかの理由。
自分の立場、小さいころの夢、宇宙の成り立ち、親に対する思い。
すべてに誰が見ても納得できるようにと心がけて書いた。
本を読むのが好きだったし、論理的に考えるということと数学が得意なブーンにはこの作業は向いていた。
そして書けば書くほど、頭の中が整理されていくのがわかった。
気づけば十数ページにみっちり書いていた。
そして何か充実感を得たブーンはふと眠くなり布団に入った。

 


ブーンが日記を書き始めるのと同時ぐらいに
クーはトーチャンとカーチャンに話をした。

川 ゚ -゚)「ブーン君は今半年病を自分で認めている最中です。
     話によると、まだご両親はブーン君にきちんと親として
     どう思っているかを言ってませんね。
     息子さんが半年病なのは事実です。ですからまず頼れる存在である
     お二人がブーン君をどう思っているのかを言ってあげてください。
     そんなことを言うのは照れくさいと思うかもしれませんが、
     ブーン君が死んでからは何も言えなくなります。」

トーチャンとカーチャンでも死や半年病といった単語を発しなかったのに対し
平然と口にするクー。
だがそれを認めなければ事態は何も変わらない。
トーチャンが一言わかったといい、カーチャンはそれに頷いた。

川 ゚ -゚)「当事者でない私がえらそうに言って申し訳ありません。
     では私は帰ります。」

それだけいい、玄関で見送られながら帰っていった。

 



次の日昼過ぎぐらいにトーチャンとカーチャンがブーンの部屋の前まで来た。
引きこもったブーンと話し合うのはこれがはじめてであった。

(`・ω・´)「ブーン起きてるか。」

扉は開けず話しかける。
中からブーンの声が聞こえた。

( ^ω^)「起きてるお。」

久しぶりの親子の会話、二人とも少し照れた。
 



(`・ω・´)「そのままでいいからとにかく私の話を聞いてくれ。
     お前が半年病に罹ったと聞いたときどうすればいいかわからなかったよ。
     そんなこと想像したことはあったが、それは私にとって都合よい想像だったよ。
     しかしそれが現実に起きてその事態に向き合うことが私は怖かった。
     都合のいい想像と違い何もかもうまくいかないんだからな。
     ブーン聞いてくれ。私はそのときこう思ってしまったよ。
     面倒くさいことになったな、って。
     今までの日常をなんで壊すんだって感じたよ。
     お前に対して怒りまで感じたよ。
     今思うとずいぶん自分勝手な話だと思う。
     だが本当にそう感じたんだ。」

トーチャン話が続く中、ブーンは冷静だった。
トーチャンの声はしっかりしているものの、自分を責めるような声だった。
それに昨日、日記に書いたことにトーチャンのことがあり、
ブーンが考え想像したトーチャンの気持ちとほとんど一緒だった。
 



(`・ω・´)「だがお前が部屋に篭ってから考えたんだ。
      これが現実なんだってな。」

一呼吸おき、自分に言うかのようにまた話し始める。


(`・ω・´)「お前は後半年後にいなくなるんだ。
     私はそのときああすればよかったこうすればよかったと思いたくない。
     あわよくばお前に感謝されたいとも思ってるよ
     だけど、いまのままじゃ絶対にそんなことにはならない。
     でも行動しなきゃ何もかわらないと知ったよ。
     自分勝手さは変わらないが、お前のために何かしてやりたいんだ。
     だからブーン、してほしいことがあったらなんでもいい
     私たちに言ってくれ。
     いまさら遅いが、お前にはこの家の子でよかったと思ってほしいんだ。
     お前が死に向かうことでようやくそれがわかったよ。」

 



ここまで言い、扉の前から離れていった。
ブーンはその言葉を聞いている途中で泣いていたが、
布団にくるまり嗚咽の声を隠していた。
そんなことまでは想像していなかったから。
だが、嬉しかった。ついに自分を認めてくれた気がした。
半年病になった自分を受け入れてくれた気がした。

 

 93 名前: 映画館経営(愛知県)[] 投稿日:2007/03/13(火) 20:05:54.25 ID:4V7XNvxn0

立派な手帳開けるとそこには文字の羅列があった。

               ( ^ω^)

おいすー。余命○○のブーンだお。
まじでやっかいだお、後○○で死んでしまうなんて。
こんな軽い口調だけど内心びくびくだお。でもこの書き方だととても書きやすいんだお。
実際は怖くてしょうがないお。
でもこう書くと他人事のように思えてペンが進むんだお。
現実逃避キタコレ。
ところで今日は、何で音楽を聴くか考えてみたお。
唐突なのはごめんちゃい。
ブーンは音楽聴くのは好きだお。
大声で歌ってカーチャンに聞かれたこともあったお。
ものすごい恥ずかしかったお。
歌ってる途中で何か言ってくれればよかったのに。
まじファックだお。ファックファックマザーファック。
 


話が脱線したお。
音楽を聴いた後なんとなく気持ちいいんだお。
自分がドラマの主人公になったかの様な気分になるお。
でもそこで考えたお。音楽を聴いてる途中と終わった後の違いはなんだろうって。
ところでブーンは富士山に登ったことがないお。
多分これから登ることはないんだお。
だってブーンは死ぬからだお。
怖いお、怖いお、死にたくない、死にたくないお
誰か助けてお、怖いお、怖いお、助けてくれお
 


また脱線したお。
富士山なんだけど登る人は何で登るのかな?
登ること自体が楽しい?見える景色が美しいから?
なんとなく音楽聴くことに似てるお。
このことが気になってしょうがないお。
だからブーンは登ってみることにしたお。
頂上はいけないけど、やってみることにしたお。
 


トーチャンの話を聞いて1週間がたった。
今ではもう普通の日常に戻ったようだ。
ただ変わったことは夕方にクーが訪ねてくることと、大学を休んでること。


川 ゚ -゚)「おじゃまします。ブーン君のカウンセリングに来ました。」

毎日同じ時間に聞こえる声。
今日こそ、ある話をクーに認めてもらおうとする。

( ^ω^)「きたお、早速部屋へいくお。」

 


自分の部屋へと急かすブーン。
そこにカーチャンの声が聞こえてきた。

J( 'ー`)し  「ブーン、クーさんに変なことしちゃだめよ。」

( ^ω^)「ちょwwしねーお。」

まだちょっと、会話にぎこちなさが残っているが1週間前と比べて
だいぶ意思の疎通ができている。
軽口を叩いた後ブーンとクーが部屋に入る。

川 ゚ -゚)「さて、今日もあの話かな?」

( ^ω^)「そうだお、早く認めてほしいお。」

 



あの話とは数日前のカウンセリングで話したこと。

川 ゚ -゚)「ブーン君、君は小さいころ何か夢はなかったか?」

それはこの一言から始まった。
半年病の人間にできることは限られる。
しかし、半年という期間はある程度のわがままが許される期間でもある。
家族を含め自分以外の皆が自分のやることに反対をしない。
無論、他人に迷惑をかけないという前提条件で。
だから、半年病患者は小さいころ夢だったことを叶えようとする人が多い
残された時間を有意義に使うため。
残る悔いを少しでも減らすため。

小さいころの夢を覚えていたブーンは率直に話す。

( ^ω^)「小さいころ僕は空を飛びたかったお。
       パイロットになりたかったお。」
 


そうは言ったものの、子供みたいな夢だなと思い顔を赤くした。
普通なら笑うだろう。その子供臭い夢を。しかしクーはまじめに言った。

川 ゚ -゚)「そうか、パイロットか。
     何でパイロットになりたいと思った。」

笑う素振りをまったく見せず、追求してきた。
そのときブーンは思った。
この人は自分のやること、考えていることを笑ったり嘲笑したりしないと。
だからこそ自分はこの人に何でも喋るのだと。
それがわかってブーンは嬉しかった。
本物の理解者が現れた。正確には理解しようとするもの。
それ以来クーにはなんでも喋るようになった。



川 ゚ -゚)「さて、また空を飛びたいという話しか?」

( ^ω^)「そうだお。諦め切れないお。」

ブーンは空を飛ぶのが夢だった。
小さい頃、空を飛ぶ機械を見ていつか絶対に乗るんだと誓ったりもした。

川 ゚ -゚)「前も話したがそれは不可能に近い。
     ブーン君も知っているだろう。
     ジャンボジェットをハイジャックして数百人道ずれにした話を。」

そう、半年病患者が事件を起こしてから世間は事故に過敏になった。
特に飛行機。いつあの惨劇が繰り返されるかもしれない。
人は少数では弱者に優しいが、多数になると途端に冷たくなる。
もっとも、これは仕方のないことだ。秤にかけたら誰しも多数の人間を守ろうとする。
 



ブーンはネットで飛行機免許取得について調べていたが
どこも半年病患者はお断りだった。
ウルトラライトプレーンというスポーツ要素的な航空機もあったが
これもまた半年病患者はお断り。
クーに諦めろと言われているがどうしても諦められない。
しかし、腹は立たない。
クーの言うことはいつも現実的ですべてブーンのためだから。


 



( ^ω^)「大丈夫だお。考えが変わったお。
     なんで、空を飛びたいかをこの2、3日考えてたお
     たしかに僕は空を飛ぶことに憧れてたお。
     でもそれはスタート地点だったんだお。
     僕は空を飛ぶ飛行機を見て素直にすごいと思ったお。
     こんな感動を与えてくれる人はすごいと思ったお。
     僕は飛行機に乗って他の人に自分のような感動を与えたかったんだお。」

ブーンは自分でも恥ずかしいことを言ってるなと感じている。
けど相手がクーなら何でも話せた。
どんな馬鹿げたことでも話の筋さえ通っていれば
子供っぽいだの、考えが浅いだの言わず一緒に考えてくれた。
 



クーは話を聞き頷く

川 ゚ -゚)「成る程。それなら問題はないな。
    でもどうやって実現させる?」

あくまでも現実的な話をするクー。
むしろ現実的に話してくれないとブーンの夢は前に進まない。
そのことをよく知っているのでブーンは
どうやって実現するかの青写真を日記に書いていた。

( ^ω^)「これを見てくれお。」

 


そう言って日記のあるページを見せる。
クーはそれを熟読する。そして口元を緩ませこう言った。

川 ゚ ー゚)「いいじゃないか。
      これなら、君の夢は叶うんじゃないか。」

日記を見てクーのOKがでる。
ブーンはより現実的なものとするためクーと計画を練りこむ。

 

 

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