結局、私は何を悩んでいたのだろうか?

帰り着いた家のソファーに座り、1人考える。
茜色の光が、レースのカーテンを通して室内を柔らかく照らす。

客観的に見れば、どうでもいい事で悩んだポーズをしてた、ただの構われたがりなんじゃないかと思えてくる。
置かれた境遇は確かに特殊だったけど、そんなに悩むような話ではなかったはずだ。

でも、私は悩んでた。
そして諦めていた。

私は何に悩み、何故諦めていたのか。

トソンに話はしたものの、あれは半分も話せてない。
私が悩んでる事は察してた様だけど、肝心の悩みの中身は話せなかった。
むしろ私がトソンの悩みを聞く形になってたし。

あれはあれで少し嬉しかったのは確かだが。

そもそも、話すに以前に私は私の悩みを正しく理解していない。

ミセ*-−-)リ「……本当に?」


私は口に出し、私自身に問いかける。

こんな簡単な答えに気付かないはずはないのだ。

ただ私は、それを考えたくなかっただけで。

子供で大人でわがままで我慢して。

それでよくわからなくなって、投げ出したというようなポーズで諦めて。

でも、本当は……

ミセ*゚ー゚)リ「……答えはわかってる」

私は立ち上がり2階の私の部屋に走る。
机の上から目的のものを掴むと、リビングのテーブルの上に設置した。
電源とケーブルを繋ぎ、スイッチを押す。

ミセ*゚ぺ)リ「どこだっけ……自分じゃ開かないからな……おっと、あっちも用意しなきゃ」

私は再び立ち上がり、キッチンへ向かう。
冷蔵庫からサイダーを取り出す。


あの後お兄ちゃんが入れておいてくれたらしい。
そう大きくもないあの鞄の中に何本入れてたのか聞きたいぐらいの数のサイダーが冷蔵庫に収まっていた。

ミセ*゚−゚)リ「わかりやすいなぁ……」

サイダー以外も買ってきてくれればいいのに。
などと言ってみたところで、こちらは何と言うか業務用なのだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「まあ、好きだけどね」

コップとビー玉は空いた手に掴み、リビングに戻る。
適当なそれらしい言葉で検索を掛け、いつもお兄ちゃんが開いてるようなページに辿り着いた。

ミセ*゚ー゚)リ「おお、こんな感じだったよな」

いつもは見るとはなしに見ていたページ。
昔は興味を持っていてもよくわからなく、今は見たくもないページに成り下がっていたので、どんな事が
書かれているのかをじっくり見るのは初めてかもしれない。

ミセ*゚ぺ)リ「まあ、今見てもよくわからないんですけどね」


相応に専門知識を必要とするそのページは、私が見てもさっぱりだった。
ああ見えてお兄ちゃんはちゃんと勉強して来たのだとほんの少し感心した。
それはともかくとして、今私に必要な部分はこの一部だけなので、特に問題はない。

ミセ*゚ー゚)リ「さてと……」

私はコップにサイダーを注ぎ、ビー玉を沈める。

ミセ*゚−゚)リ「神様か……」

何の変哲もないビー玉。
サイダーの中で泡にまみれる透明なガラス玉。

ミセ*゚−゚)リ「神様はいつから神様だったんだろ……」

いつから、それは2つの意味でいつからなのか。
初めてお母さんに話を聞いたあの日なのか、初めて流れを教えてくれたあの日なのか。
私にはよくわからない。

もう1つ、神様はいつまでがただのビー玉で、いつから神様に変わるのだろうか。
それもよくわからない。

改めて考えてみると、すごくあやふやなもの。


トソンは、神様は信じてないといっていた。
正しくは、そういう概念的なものは信じるが実在するとは思わないと言っていた。

じゃあ、実際に見えるこれはなんなのだろう。

いつの間にか私にはいくつもの浮かんでくる名前が見えていた。
神様は教えてくれる。

でも、これが神様じゃないとしたらなんなのだろう?

ミセ*-−-)リ「おっと、今はこっちを……」

私は浮かんできた名前をメモ帳に書きとめる。
いつも通りの作業だが、1人でこなしたのは初めてだ。
色々と抜けがある気もするけど、今日の所は練習だからこれでいい。

私は意識を神様から離し、乱雑に並ぶ文字列に目を落とす。

ミセ*゚−゚)リ「……」

私はそれを画面と見比べ、別の紙に綺麗に清書し、封筒に入れて机の上に置く。
今日は多分来ないと思うけど、一応念のためだ。

これから毎日この作業を続けなければならない。
それが目的の日までで済むのか、それとも死ぬまでなのかはわからないが、今は何も考えずに割り切る事に決めた。


・・・・
・・・

お兄ちゃんは意外に早く、それから約1週間後に姿を見せた。
こんなに早い間隔で訪れるのは最近ではなかったと思う。
何か大事な取引でもあるのかもしれない。

それなら却って好都合だ。

( ^Д^)「久しぶり、元気してたか?」

ミセ*゚ー゚)リ「1週間前に会ったばかりだよ」

( ^Д^)「そうだっけ? まあ、いいや。 ほら、お土産」

そういってビニール袋に入った箱を私に手渡す。
中身はいつも通りケーキだろう。
いつもより重く感じるのは、きっとまだ新作が出てなかったから定番のものを余分に買って来たのだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう。私も、これ」

私はお兄ちゃんに封筒を手渡す。
お兄ちゃんは首を傾げ、私から封筒を見ると中身を取り出した。


(:^Д^)「お前……これ……」

ミセ*゚ー゚)リ「あらかじめ見といた」

(:^Д^)「そ、そうか……ありがとう」

普段とは違う私の行動にお兄ちゃんは戸惑っているようだ。
しかし、その顔はすぐに笑顔に変わり、私に再度礼を告げる。
話が早くて助かったとでも思っているのだろう。

( ^Д^)「えーっと……ああ、そうだ、こいつは冷蔵庫にでも入れておくな」

鞄からサイダーを数本取り出した。
私は無言で頷き、お兄ちゃんの行動を見守る。

キッチンから戻って来たお兄ちゃんは、机の上に置かれていた鞄を手に取って私の方を向いて言う。

( ^Д^)「それじゃあ、そろそろ俺は行くよ。ありがとな」

ミセ*゚ー゚)リ「……」

それがお兄ちゃんの答えだった。
予想はしていたけど、やはり実際に目の当たりにすると少し寂しい。


ミセ*゚−゚)リ(……寂しいか)

心の中で自然に湧いた感情。
至極単純な理由。
私が認めなかった答えは、そんな簡単なものだったのかもしれない。

( ^Д^)「んじゃ、身体には気を付けろよ」

ミセ* − )リ「……」

玄関まで見送り出て来た私に、テンプレートな言葉を掛け、お兄ちゃんは玄関のドアに手をかける。
私は頃合を見計り、意を決して声をかけた。

ミセ* − )リ「……出来れば、それは買わないで欲しい」

( ^Д^)「あ?」

お兄ちゃんの動きがぴたりと止まる。
私が何を言っているのかわからないのか、怪訝な表情を浮かべて。


ミセ*゚−゚)リ「もしそれを買うんだったら、もうここには来ないで欲しい」

(;^Д^)「な……お前?」

ようやく私が言っている事の意味が理解出来たのか、目に見えて狼狽した様子で何かを言おうとしたが、私はそれを遮って
言葉を続ける。

ミセ*゚−゚)リ「ああ、心配しなくていいよ。その場合でもちゃんと教えるから」

もう1人で見れるようになったから、見たものをメールで伝える。
それ以外に用もないのに、わざわざ足を運んでもらう必要はないと私は玄関のドアの方に向かいながら言った。

(;^Д^)「え? いや、何で……」

ミセ*^−^)リ「じゃあ、そういうことだから、バイバイ」

私はお兄ちゃんを強引に押しやる形でドアを閉め、鍵とチェーンを掛けた。
突然の事に反応出来なかったのか、私のなすがままに押され、お兄ちゃんはしばらく玄関の前に突っ立っていたようだが、
ようやく我に返ってドアを開けようとするも当然開かない。



鍵を開けたところでチェーンもかかってて入れないとわかると、お兄ちゃんは私に呼びかけて来たが、私はもう2階の自分の
部屋に引っ込んでいた。

電話線はあらかじめ外してある。
携帯は着信拒否。

しばらくはお兄ちゃんの声らしきものがドア越しに聞こえていたが、その内静かになった。
諦めて帰ったのだろう。
もう夜だし、ご近所さんの迷惑も考えてくれたのだろうか。

ミセ*゚−゚)リ「……これでいいんだよね」

私はベッドの上で膝を抱えて座ったまま、誰に言うでもなく呟く。

これでいい。

これは私が決めた事なのだから。

私は両腕に力を込め、身を固くして縮こまる。
明けない夜はないのだと、陳腐な言葉が頭をよぎり、少し笑ってしまった。

眠れないと思っていたのだが、どうやら普通に眠れそうだ。
阿呆が阿呆みたいに抱えてた重さが取れ、随分と軽くなったらしい。

私はベッドに寝転び、目を閉じた。



・・・・
・・・

ノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「こーんにちはー!」」」

ミセ*゚ー゚)リ「おお、よく来たね、いらっしゃい」

(゚、゚トソン「どうも、本日はお招きに預かり、大変──」

ミセ;゚д゚)リ「硬いし長い。いいからあがってよ」

明けて翌日、休みという事もあり暇を持て余した私はトソン達をうちに招待した。
あれから何度かご馳走になっている朝ご飯ごはんのお礼とういう形で、晩ご飯をご馳走するという名目で。

(゚、゚トソン「あまりお気になさらずとも良かったのですが……」

ミセ*゚ー゚)リ「なら、そっちも気にしないで欲しいね。私はただ友達を家に呼んだだけなんだからさ」

当然、トソンに直接言ったら遠慮されるのは目に見えてたので、最初にブーン君やビロード君、そしてヒートちゃんを
あらかじめ籠絡しておいた。
3人にせがまれたらトソンも断り切れないだろうという私の目論見は見事に功を奏したようだ。



(〃^ω^)「お! ホントにテレビでやってる新しいゲームがあるお!」

ミセ*゚ー゚)リ「そりゃあるさー。ミセリお姉ちゃんはウソつかないからね」

(゚、゚トソン「ブーン、他人様の家のものを勝手に──」

ミセ;゚ー゚)リ「だからお前は硬いと。一緒に遊ぶために呼んだんだからいいんだよ」

羨望の眼差しを向ける3人のため、私は早速テレビゲーム機をセッティングする。
みんなで遊べるようなゲームもいくつか持ってはいるので、どれをやりたいか3人に選んでもらう事にした。

友達のいない引きこもりが何でそんなものを持っているのか聞かれても返答に困る。
強いて言うなら、多人数プレイのゲームを1人でやってコンピュータをいじめて優越感に浸るのは楽しいからかな。

トソンにそう言ったら、何故かものすごい哀れみの視線で肩をポンポンと叩かれてしまった。

(〃^ω^)「これにするお!」

ミセ*゚ー゚)リ「おお、4人対戦格闘ゲーム、ワロッシュブラザースね。中々目の付け所がいいね」

私はソフトをセットし、ゲームを開始させる。
使う機会は来ないだろうと漠然と認識しつつも買っていたコントローラーを3人に手渡す。
無駄にならなくて良かったと、少し笑みがこぼれた。



ミセ*゚ー゚)リ「ここをこうして……よし、これで遊べるから、取り敢えず練習がてら3人で遊んでてね」

ノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「はーい」」」

重なる3つの元気な返事は、すぐに歓声に変わる。
3人がゲームに夢中になっているのを確認すると、私はトソンの方へ身体を向けた。

ミセ;゚ー゚)リ「トソン……って、あれ?」

しかし、先ほどまでソファの辺りに立っていたはずのトソンの姿が見えない。
立ち上がり、辺りを見回すとキッチンの方で何やら探し回っているようなトソンがいた。

ミセ;゚ー゚)リ「何してんの?」

(゚、゚トソン「私達は晩ご飯にお呼ばれしたのですよね?」

ミセ*゚ー゚)リ「そだよー?」

(゚、゚トソン「確か、手作りの料理を食べさせるとか」

ミセ*゚ー゚)リ「うん、そう言ったね」



(゚、゚トソン「ここにはどう見ても材料しかないですが、今から作るのですか?」

時刻は午後3時頃。
ブーン君たちと遊ぶ予定もあったから早めに呼んだのだ。
今から作っても晩ご飯には十分間に合うだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「そ、今から作るの。……トソンが」

(゚、゚;トソン「……はい?」

ミセ*゚ー゚)リ「いや、私料理とか出来ないし」

(゚、゚;トソン「いや、出来ないしじゃなくて、ならば何故呼んだのですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「晩ご飯ご馳走するため?」

(゚、゚;トソン「作れないのでしょう?」

ミセ*゚ー゚)リ「材料はちゃんと買っておいたから、料金は私持ちじゃん?」

(゚、゚;トソン「そういうのをご馳走すると言いますか?」

呆れた顔で正論を並べるトソンに、私も正論を返す。
私が作る微妙な料理をあの子達に食べさせるのと、トソンが作る真っ当な料理を食べさせるのはどちらが良いかと。



(゚、゚;トソン「……」

ミセ*゚ー゚)リ「……」

(-、-;トソン「……ハァ」

(゚、゚トソン「ミセリも手伝ってくださいね?」

ミセ*゚ー゚)リ「オッケー」

渋々ながらも折れるトソン。
随分とひどいホストだと思われたかもだが、どうせ鍋か焼肉にしようと思ってたのだから、駄目でも材料を切るだけ
だったから、私でも出来たはずだ……多分。

(゚、゚トソン「この材料なら鍋でしょうかね」

ミセ*゚ー゚)リ「それならそんな急がなくても作れるでしょ? ちょっとお茶にしますか」

私は冷蔵庫からサイダーを取り出しコップを3つ用意する。

ミセ*゚ー゚)リ「私はコーヒーにするけど、トソンはどうする?」



(゚、゚トソン「サイダーじゃないのですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「いつもそればっか飲んでるわけじゃないよ」

とはいえ、あの子達にはサイダーの方がいいだろうから冷蔵庫を開ける。
私は3つのコップにサイダーを注ぎ、それぞれにビー玉を沈める。
トソンの何か言いたげな目を、私は見詰め返した。

ミセ*゚ー゚)リ「おまじない。神様が見守ってくれますように、ってね。それだけだよ」

(゚、゚トソン「やはりそれはあなたにとって神様なのですね」

ミセ*-ー-)リヾ「うーん……どうなんだろね……」

よくわからなくなってると、私は正直に今の気持ちを白状した。

ミセ*゚ー゚)リ「元々はお母さんの作り話だけど、私はそれを信じてた」

それが作り話だとわかった上で。
それはきっとお母さんが好きだったから。
一生懸命私のためにお話を作ったお母さんの気持ちが嬉しかったから。

私はそれを信じていた。



ミセ*-ー-)リ「もう増やす事の叶わない、お母さんとの大切な想い出だったからね」

トソンは黙って頷く。
背後からは子供達の楽しげな歓声や悲鳴が聞こえて来る。

ミセ*゚ー゚)リ「それだけで良かったんだけどね」

お母さんとの想い出、それだけだったはずの神様は、いつしか私に教えてくれるようになった。
それが私を幸せにして、そして不幸せにした。

ミセ*-ー-)リ「何でこうなったのか、それが私の、神様のせいなのかよくわからないけどね」

結果的にそうなったけど、何が悪かったのかを言い切れないと思う。
いくつも重なった小さな事が、今を作っただけなのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「他人のせいにはしたくないしね。多分私が、ちゃんと言わなかったのが駄目だったんだろね」

(゚、゚トソン「ミセリ……」

辛そうな眼差しを向けるトソンに、私は胸を張り、親指を立てて答える。
私はもう、平気だから。
自分でちゃんと答えに向き合ったのだから。



ミセ*゚ー゚)リb「大丈夫、やるだけやったから。あとは結果待ちなのさ」

(゚、゚トソン「結果待ち? 何を……」

実を言うと、昨日お兄ちゃんに渡した紙は出鱈目だ。
あの通り買ったら、お兄ちゃん、いや、お兄ちゃんのお客さんは大損するだろう。

その場合、お兄ちゃんは怒鳴り込んでくるかもしれない。
でも、またメールで次からは正しい情報を伝えるつもりなのですぐに取り返せるだろう。
それでまた、お兄ちゃんはいつも通り、楽しい毎日が送れるはずだ。

でも、もしお兄ちゃんが買わなかったら。

(゚、゚;トソン「何でそんな事を……?」

ミセ*゚ー゚)リ「うーん……何でだろうね」

ほとんど思い付きだし、穴だらけの計画だ。
例えばお兄ちゃんがあの紙の通り買ったのに、買ってないと言っても私にはその真偽を確かめる術がない。



(゚、゚トソン「ですね。だったらそれは……」

ミセ*゚ー゚)リ「そう、全てはお兄ちゃん任せ」

私なりに考えた上での結論を渡したので、あとはお兄ちゃんの考えに任せようと思う。
どう受け取られるかはわからない。
でも、どういう結論を出すにしても考えて欲しい。

私の事を。

ただそれだけなのだ。

(゚、゚トソン「それでいいのですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「……うん、それでいい」

私は3つのコップを両手に抱え、リビングに向かう。
同じく私の後ろを付いて来るトソンがまた問いかけて来た。

(゚、゚トソン「それが神様じゃないとしたら、あなたに教えてくれた神様はどこにいるんでしょうね」

私も思った同じ疑問。
でも、多分もう答えは出てる。
私にそんなお節介を焼いてくる人は1人しかいなかったし、その人がいるとすればここしかない。



ミセ*゚ー゚)リ「多分ここだろうね」

コップを持ったままの手の親指で、私自身を指差す。
心臓の辺り、それが何を指すか、トソンはすぐに理解したようだ。

(゚ー゚トソン「そうかもしれませんね」

ミセ*゚ー゚)リ

トソンは私からコップを受け取り、1つをテーブルの上に置く。
私も残りをテーブルに下ろし、3人に向かって声をかけた。

ミセ*゚ー゚)リ「おーい、お前らジュースだぞー」

ノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「はーい」」」

ゲームに夢中かと思った3人はすぐさまゲームを止め、こちらを振り向く。
聞きわけが良いのか食い意地が張っているのかはわからないが、素直なのは良い事だ。

ミセ*゚ー゚)リ「おっと、食い意地といえばあれ忘れてた。あ、トソン、インスタントでいいから適当にコーヒーお願い」

(゚、゚トソン「はいはい。カップは勝手に使いますよ」



( ^ω^)「おー? これ、どうして丸いのが入ってるのかお?」

ノパ听)「ホントだー。何だこれ?」

ミセ*゚ー゚)リ「ああ、それは……トソン、お願い」

(゚、゚;トソン「へ!? いや、何故あなたの家の風習を私に振るのですか?」

驚いた表情でこちらを凝視するトソンを無視し、私は再びキッチンに向かう。
冷蔵庫から紙箱を取り出し、お皿に取り分けようとしたが、それぞれに選ばせるかと考え直し、そのままお皿とフォークと
一緒に抱えてリビングに戻った。

d(゚、゚トソン「というわけで、神様がみんなの幸せを見守ってくれますようにというおまじないらしいのです」

文句は言っていたものの、トソンはちゃんと3人に説明してくれたようだ。
聞いてると少し話はアレンジされていたが、それでいいと思う。
私とお母さんとの想い出のように、トソンとこの子達の想い出なのだから、その方がいいのだ。

(*><)「すごいんです!」

(゚、゚トソン「あくまで見守ってくれているだけですから、ちゃんと自分の事は自分でやらないと駄目ですからね?」

……少しどころじゃなくアレンジされてるかもしれないがそれもまあ、いいか。
お母さんが残してくれた神様が、少しずつ形を変えながらみんなの心に残ってくれるのなら私は嬉しいと思う。



ミセ*゚ー゚)リ「はーい、そんじゃおやつにしようか」

私は4人が座るの真ん中辺りに箱を下ろし、蓋を開けた。

ノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「ケーキだー!」」」

(゚、゚トソン「わざわざ買って来たのですか? そんな気を──」

ミセ*゚ー゚)リ「違う違う、昨日お兄ちゃんからもらったやつだよ」

定番のイチゴショートにチョコレートケーキ、チーズケーキにモンブラン、プリンアラモード、その他諸々と、どう考えても
1人じゃ食べ切れないケーキの量に、トソンも納得してくれたようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「好きなの食べていいよ。あ、ケンカしちゃ駄目だからね?」

ノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「はーい!」」」

(゚、゚トソン「私が取ってあげますから、好きなのを言ってみてください」

ノパ听)「ブーン、好きなの選んでいいよ」

( ^ω^)「お、ヒートが先でいいお」

( ><)「僕は一番最後でいいんです」



ミセ*゚ー゚)リ「お前ら謙虚だな。じゃあ、私が……って誰か突っこめよ」

子供を厳しく躾けすぎてないかと思いはしたものの、3人の様子を見る限りは無理に言わされている感じはしない。
きっと3人とも本心から譲り合っているのだろう。

仲のいい兄弟だ。
羨ましいくらいに。

最終的にトソンお姉ちゃんから選ぶという事に3人の結論が落ち着きそうなのを、トソンは苦笑して遮り、歳の若い順に
しましょうと、ブーン君にケーキを勧める。

(゚、゚トソン「それじゃあ、ブーン、どれにしますか?」

(〃^ω^)「おー、いっぱいあってどれにするか迷うおー」

ミセ*゚−゚)リ「……」

ケーキを取り分けるトソン達4人の姿が、私の記憶の中の家族の姿に重なる。

あまりうちにいることはなかったお父さん。
やさしかったお母さん。
ちょっと調子に乗る事が多かったけど、頼りになったお兄ちゃん。



記憶の中の私達は、仲の良さでは目の前の4人には圧倒的に負けてるけど、それでも楽しい日々を送っていた。

今となってはもう、過去の風景。
失われた想い出。

それでも、私にはまだ残されたものもある。
私はそれを、取り戻せるのだろうか?

(゚、゚トソン「ミセリは何がいいですか?」

思考の海に沈んでいたのを不意に引き上げられ、私は少し慌ててしまう。

ミセ;゚ー゚)リ「うぇ!? お、みんな取った? ……ってお前がまだじゃんか」

(゚、゚トソン「私は最後でいいですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「客なんだからトソンが先だってば」

私はどれも食べた事があるしと説得して、何とか先に選ばせた。
それでもまだ4つほど余ってるので、選択幅は広い。

私はチーズケーキを選び、トソンにお皿に入れてもらった。
残りの3つは帰りに持って帰ってもらうかな。



ミセ*゚∀゚)リノハ*゚听)(*><)(〃^ω^)「「「「「いただきまーす」」」」」(゚、゚トソン

(*><)「美味しいんです」

(〃^ω^)「美味しいお!」

ノハ*゚听)「美味しいぞー!」

あっという間に食べてしまいそうな3人の勢いに、私はトソンと顔を見合わせて微笑む。
ロマネスク亭のケーキはいつも通り美味しかったけど、いつも以上に美味しく感じられたかもしれない。

どんな時でも美味しいなんて前に言ったような気もするが、もっと美味しくする手段はあったようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「食べ終わったら勝負しようぜ?」

ノパ听)「よーし、負けないぞー」

(〃^ω^)「お! ゲームで遊ぶお!」

( ><)「がんばるんです!」

(゚、゚トソン「……食事の支度は手伝わないつもりですかね? まあ、いいですけど」



トソンの呟きは敢えて無視し、コントローラーを1つ手に取る。
まだ時間はあるので、ご飯の支度はそう急がなくてもいいだろう。
そう思い、コントローラーのボタンを押そうとしたが、それは玄関から響く硬質なチャイムの音がそれを遮った。

ミセ*゚ー゚)リ「お?」

(゚、゚トソン「来客ですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「だろうね。トソン、パス」

(゚、゚;トソン「ちょ、えっ? 私ですか?」

私はコントローラーをトソンに投げ渡し、立ち上がる。
ゲームなんかやったことないから無理というトソンを尻目に玄関に向かう。
やったことなくても子供の相手ぐらい出来るだろうと思うが、逆さに持ったコントローラーを見る限りでは駄目かもしれない。

ミセ*゚ー゚)リ「はいはい、どなた──」

(;^Д^)「おう……」

ミセ*゚−゚)リ「お兄ちゃん……」

来るだろうとは思っていたが、こんなに早く来るとは考えていなかった。
緩みそうになる気持ちを抑えるべく、私は俯いた。



(;^Д^)「……」

ミセ − )リ「……」

それっきり、不自然な沈黙が続く。
後方から、賑やかな家族の歓声が届いて来る。
こちらの家族は、不協和音すらも響かせないというのに。

(;^Д^)「……あの」

ミセ − )リ「……」

私は答えない。
私の答えは出したから。
私は答えを聞くだけなのだ。

(;^Д^)「……そのな」

ミセ − )リ「……」

しどろもどろになるお兄ちゃん。
きっとそれが答えなのかもしれない。
結果を見て、事の重大さに気付き、何とか取り繕おうとしている。

ほんの少し目線を上げ、覗き見たお兄ちゃんの顔は、私の目にはそう映ってしまった。



(;^Д^)「……えっと」

ミセ − )リ「……大丈夫、ちゃんとメールはするから」

(;^Д^)「……え?」

答えを待つはずなのに、自分から答えを出してしまった。
何とも堪え性のないことだ。

リビングからの楽しげな声は、さっきからトソンの悲鳴が一番目立つ。
どうやら弟妹達にこてんぱんにやられてるらしい。

姉の威厳を保てるよう、レクチャーしてあげようか。

早くあの楽しそうな空間に戻りたい。

ここは……寂しくて……

(;^Д^)「いや、違う! そんな事はどうでもいいんだ!」

ミセ − )リ「え?」


(;^Д^)「あれは買ってない」

ミセ − )リ「ウソ……」

(;^Д^)「いや、ウソじゃないって。そりゃ証拠もないし、実際直前までは勧めようとしたけども……」

ミセ − )リ「……」

(;-Д-)「どうしても買えなかった……お前の顔が浮かんでな……」

ミセ*゚−゚)リ「私の……顔……?」

そう言ってうなだれるお兄ちゃん。
調子の良い顔ばかり見せていたお兄ちゃんのそんな顔を見たのは久しぶりだ。
あの日、お母さん達が亡くなった時以来かもしれない。

(;-Д-)「すまん、お前がどういうつもりであんな事を言ったのか俺にはわからなかった。しかし……」

ミセ*゚−゚)リ「……」

(;^Д^)「理由はどうあれ、もう2度とお前に会えないのは嫌だからな」


お兄ちゃんは私に自分の答えを提示した。

私はその目をまっすぐ見据える。

(;^Д^)「今日はそれだけ伝えたかった。また来るよ」

一瞬、寂しそうな陰が瞳をかすめる。
それはきっと私の目に浮かぶものと同じ色をしたもの。

ミセ*゚−゚)リ「あ……」

いくつも点が線となり、何かが流れる。

ミセ*゚−゚)リ(これ……神様の……)

私の中の神様が教えてくれる。

お兄ちゃんの言葉を。

家族の言葉を。

真実を。


ミセ* ー )リ(そっか……ありがとう、お母さん)

(;^Д^)「それじゃあな」

ミセ*゚−゚)リ「待って!」

背を向けて去ろうとするお兄ちゃんに、咄嗟に手を伸ばした。
掴んだその手は、あの日の記憶と同じく暖かく、大きな手だった。

(;^Д^)「ミセリ?」

ミセ*゚−゚)リ「……友達が来てるんだ」

(;^Д^)「あ、ああ、さっきから賑やかだなとは思ってたんだが……」

( ^ー^)「楽しく暮らせてるみたいだし、本当に良かったよ」

ミセ*゚−゚)リ「……お兄ちゃんは、お父さん似だよね」

(;^Д^)「え? 何だ、突然?」

やさしく微笑むお兄ちゃんの顔を見て、唐突に浮かんだそんな言葉。
お父さんも、時々こんな顔を見せてくれた。

お父さんはお兄ちゃんほど愛想は良くなかったし、仕事ばっかりの人だったけど、家族の事は大切に思ってくれていたと思う。
特に何かを言ってくれたわけでもないけど、気付けば家族を見守る目がそこにはあった。
不器用で、それを表すのが下手だっただけなのだ。


ミセ*゚−゚)リ「何でもない。それよりも友達なんだけど、兄弟連れて来てるんだ」

( ^Д^)「ああ、なるほど。それでこんな賑やかなわけか」

何を勘違いしたのか、お兄ちゃんはそれならば何かお菓子やジュースでも買って来ようかと提案して来たが、私は首を振った。

ミセ*゚−゚)リ「それはあるからいいよ……って、その袋は?」

( ^Д^)「ああ、忘れてた。これ、いつもの……」

ミセ;-д-)リ「……お兄ちゃん? 昨日ももらったのに、これで何個になると思ってんの?」

袋には昨日より一回り大きい箱が入っているのがわかる。
もしトソン達が来ていなかったら、これから1週間ぐらい毎日朝晩のご飯はケーキになりそうな勢いだ。
つーか流石に太るわ。

(;^Д^)「す、すまん。そういえばそうだったな。ちょっと動揺してたらしい」

目に見えて狼狽するお兄ちゃん。
平謝りに謝って来るが、別に私は怒っていない。
むしろ食べ盛りがいっぱいいるので丁度いいぐらいだ。


ミセ*゚ー゚)リ「いいって。まあ、タイミングも良かったし。ありがとう」

(;^Д^)「お、おう……」

私は空いた手でケーキの袋を受け取り、礼を述べる。
お兄ちゃんは少し面食らったような顔をして、軽く頷いた。

ミセ*゚ー゚)リ「……上がっていく?」

(;^Д^)「え……いいのか? って、友達が来てるんじゃ……」

ミセ*゚ー゚)リ「向こうも兄弟連れなんだから、こっちも兄妹連れでいいんじゃない?」

( ^Д^)「え……そういうもの? でも……」

ミセ*゚ー゚)リ「いいからいいから、ほら、上がって」

私は少し強引にお兄ちゃんの手を引っ張る。
お兄ちゃんはよろけながらも引かれるまま、私に続く。

元々後ろ向きの手を掴んだのだ。
歩きづらいだろうが私は手を離さない。

手を伸ばし、掴んだ答えを私は離さない。


神様が教えてくれた、私の選んだ答え。



ミセ*゚ー゚)リ「よーし、みんなちゅーもーく」

ノパ听)( ><)( ^ω^)「「「「?」」」」(゚、゚トソン

ミセ*゚ー゚)リノ「ケーキの追加来たよー! あと、ついでに私のお兄ちゃん」

(;^Д^)「俺はついでか……」

ミセ*^ー^)リ「あはは」

思わず吹き出した私に、お兄ちゃんも苦いながらも笑みを浮かべる。
視界の端には、4つの笑顔。


ねえ、神様、ちゃんと見てくれていますか?
笑顔に囲まれた私を。

あなたが教えてくれた幸せは、きっとずっと続いていきます。

あなたの想い出とともに。



 − ミセ*゚ー゚)リ神様inサイダーのようです(゚、゚トソン −


           〜 おしまい 〜


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