('A`)は電気のゾンビに夢を託すようです1 ◆xmNFXyaAwA  [ログ

 どんなに渇望しても、理想の世界は画面の向こう側に存在し、触れようと手を伸ばしても液晶画面が邪魔をする。


 義妹義母義娘実姉実姉双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼馴染
 金髪黒髪茶髪銀髪ロングセミロングショートヘアボブストレートツインポニーサイド縦ロールお下げ三つ編みウェーブくせっ毛アホ毛
 ロリショタチビ長身隻眼隻腕褐色
 無貧小並大巨爆奇美
 セーラーブレザー体操服柔道着弓道着白ゴス黒ゴスニーソックスガーターベルトチャイナドレス甲冑鎧
 学生保母看護婦メイド婦警女騎士お姫様巫女シスター秘書軍人チアガールスチュワーデスウェイトレスエージェント
 お嬢様お姉さんお子様ツンデレ素直クールヒートシュール無口無感動女王様アホの子ボクッ娘俺っ娘男勝り
 二重人格病弱アルビノ電波系妄想癖魔法少女男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯天才
 人外アンドロイド人形サイボーグ幽霊獣耳娘神魔女死神


 記号的な彼女達は2次元、窮屈な毎日を打破したい俺は3次元、住む世界が違うのだ。
 何をしてもこの手は届かない、足掻こうとも俺の奥行きが邪魔をする。
 彼女達は所詮、人間の夢が見せた幻想だ。



 ――本当にそうだろうか?


 人間とは神の失敗作に過ぎないのか、それとも神こそ人間の失敗作にすぎぬのか。――ニーチェ




        〜('A`)は電気のゾンビに夢を託すようです〜



その名言に更に一言付け足すのならば、人間の作った生きる幻想は、一体何に値するのだろうか?


 絶対に出来やしない。

 その宣言は俺を駆り立てて止まない。
 俺はただ、衝動に身を任せて、ただひたすらに望んだ世界を目指しただけだ。
 そして気が付けば、誰もが望んだこの夢の、一番近くにたどり着いた。
 ただそれだけだ。

 変人? 変態? 黙れ、リア充ども。
 クリスマスに独りロウソクを消す男の気持ちが分かるか?
 チョコレートがカーチャンにしか貰えない男の気持ちが分かるか?
 100戦全敗を喫した男の気持ちが、お前らにどうしてわかる?

 そして、親愛なる同族ども、お前らに朗報だ。
 お前達の愛した妹は、お前達の愛した幼馴染は、画面の向こうから出てきたんだ。
 液晶画面に張られたフィルム一枚、それが俺達と夢とを阻む壁だ。
 なんと薄く、なんとつまらないものだろう? ブチ破るなんて、ひどく簡単だ。


 だが、生憎、彼女達の世界に行く事は出来ない。
 それならばと、俺は彼女達をこの世界へ、引きずり出した。

 ある物理学者は言った、「人が空想できるすべての出来事は起こりうる現実である」
 おい、ウイリー=ガロン。お前の言うとおりだ。俺はなし得たぞ。
 フィリップ・K・ディック、お前の問いの答え、俺が教えてやる。
 アンドロイドは、電気羊の夢を見るんだ。


('A`)「コレで、最後だ」

 全ての調整を終えて、起動コードを入力する。
 手元の液晶画面のGOサインを確認して、首筋の端子を引っこ抜いた。
 起動カウントがゆっくりと迫る。
 0のタイミングで、彼女はその淡い色の唇から英文を吐き出した。

ξ--)ξ「......Generator power level ALL GREEN. mode Normal training style.
       ...test."Hello world!"ok,Please give me starting call...

 テストを超えて起動許可を求める音声が、俺の耳朶打つ。
 緊張から生唾を嚥下して、俺はその許可に応えた。

('A`)「おはよう、俺の娘」

ξ゚听)ξ「………うむ、おはよう。ますたー」

 ついに、俺達の夢は、目を醒ました。
 幼い少女を模した機械の体に、同じく機械で出来た頭脳。
 擬似的思考ネットワークを人間に真似て作った、感情を持つアンドロイド。

 ニューラルネットワーク制御によって生まれた口調は、少々男勝りだがそれでいい。
 否、むしろそれがいい!

 神よ、人類創世の偉業を果たした神よ。俺は貴様に勝った。
 ニーチェよ、確かに神は死んだ。だが、神が死んだのはお前の時代じゃない。
 神を殺したのは人間の俺だ。


 稀代の天才児。
 俺はそんな肩書き別に要らなかった。
 なぜなら、それはいじめの標的にぴったりで、俺の性格がそれを助長した。

 その頃は思い出したくないから端折ってしまうが、結果的に俺はヒキコモリとなった。
 部屋にヒキコモリ、自然とオタクとなった俺は、初めて0と1で出来た彼女の存在を知った。
 夢を与えられた俺は、もっと大きな夢を目指した。

 理想のギャルゲ的な性格を持った人間を作る。

 聞こえは悪いが、つまりはそういうことだ。
 だが、人間を洗脳したのでは犯罪だし、それには全く意味がない。
 そこで俺が目を付けたのは、アンドロイドだ。

 再現のため、俺は様々なアプローチを繰り返した。
 その中途、様々な物を生み出し、やがて俺は賞賛されるようになった。
 量子コンピュータの基礎理論、実用的擬似細胞、特殊シリコンよる電磁筋肉。
 そして、擬似ニューロンを持ちいたコンピュータと電気的思考ネットワークバックアップの実用化。
 他にも沢山の発明と発見。

 研究を続けるだけで、億万長者になっていた。
 けれど、そんな事どうでもよかった。
 俺は自分の夢を果たせれば、二次元の彼女をリアルに引きずり出せれば、それで良かった。 

 気が付くと俺は、リアルの女へ興味を欠片も失っていた。


('A`)「調子はどうだ?」

ξ゚听)ξ「うむ、すこぶる良いぞ」

 そう言って元気良くぴょこぴょこと飛び跳ねてみせる。
 その動きも、容姿と相まって可愛いな。
 口調はもっと女性的になると思っていたが、コレはコレでいい。
 今度、釘宮のボイスサンプル採ってこよう。そっちの方が似合う。

 しかし、アレだ、裸はまずい。
 boot strapからテストを終えるまでは、それ所ではなかったが、流石の俺も精神的、社会的まずい。
 目のやり場に困らせつつ、今日の為に準備しておいた衣服を取り出すと、彼女に広げて見せた。

ξ )ξ「なんだこれは?」

('A`)「見てわかるだろ? お前の服だ。今日から一緒に暮らすんだからな。」

ξ////)ξ「ばかっ! こんなもの着れるかぁっ!!」

(#'A`)「何言ってんだテメェ! アンドロイドで二人称ますたーなら、メイド服だって相場は決まってんだよっ!」

ξ#゚听)ξ「知るかっ!」

 紅潮機能稼動良好。男のロマンを理解出来ないのが悔やまれる。


 ニューロンモデルや思考モデルの原型は俺自身のものだが、大幅に手を加えてある。
 元が男であろうと、女であろうと関係がない。
 自己を女性だと認識すれば、それでいいんだ。

 性格は可能な限りこちらから手を加えて、理想に近づけたつもりだ。
 理想の性格は、様々な人間の思考ネットワーク比較を元に作り出した。
 だが、予想外な性格が頭角を現している。
 この性格は、想定外だが、これはこれでアリだ。
 よい娘に育つだろう。俺に惚れてくれるとは限らないが……

 そもそも、脳の中身が全て解明されたわけじゃない。
 大幅と言ったって、俺は脳の電気的なネットワークを丸ごとコピーして、数%手を加えたに過ぎない。
 少ししか弄ってない様に思えるのは、それくらいしか弄るところがなかっただけだ。
 大部分は全生物共通の本能的なサブルーチンで、弄ったのはその一部と、僅かな個性部分、そして記憶。
 それ以外に弄る場所がなかった。

 一応、アンドロイドが生きる上で不要な欲求は排除しておいた。
 更に経験を積めば、自己的に欲求を身に付ける機能もある。
 この子は成長するのだ。

 デジタル的な動作は非生体分子コンピュータと量子コンピュータの副脳に任せてある。
 全ての演算力を使えば、並のメインフレームに対抗できるだろう。
 その意味では、自分で動き回る実に有用なユビキタスマシンとも言えるな。


(*'A`)「ナイス女子高生!」

 彼女は最後までメイド服を拒否して、結局もう一つ用意してあったセーラー服で身を包んだ。
 もちろん、この制服も現実には存在しない、オーダーメイドだ。
 袖を長めにとった余り袖、胸幅ほどもある大きなリボン、全体は淡いピンクと濃い赤で彩られた素敵仕様だ。
 彼女の見た目は小学校高学年くらいだが、無理を言えば高校生に見えなくもない!
 ソフ倫的にギリギリセーフだ! きっとそうだ! そう思い込もう。

ξ゚听)ξ「なあ、なんか不可解な運動プログラムがあるんだが……」

('A`)「不可解とはなんだッ、不可解とは! 俺は無用なプログラムは入れてないぞ?」

ξ;゚听)ξ「ミニスカギリギリ歩行プログラムって……何だ?」

('A`)「ああ、それ? 男の夢だ。
    いいか? ミニスカートは、ギリギリ見えそうで見えないのが良いのであって、見えちゃダメだ。
    そんな当たり前な定理を実現する為に作られた夢の機能が、ミニスカギリギリ歩行プログラムだ。
    スカートの素材や長さを考慮し、飛び跳ねようとも走り回ろうとも、ギリギリ見えない範囲で動くように制限を掛ける。
    さらに――ξ////)ξ「もういいっ!」

('A`)「あ? ココから良い所なのに」

ξ )ξ「もういいから、外せ。容量の無駄だ」

('A`)「やだぷー」

 有無も言わさず殴られた。いてぇ


 彼女には、ロボット三原則を実装していない。
 それに、誰かの命令を絶対に訊くようなプログラムも施していない。
 だから躊躇なく人間を殴るし、俺に反抗もする。

 なぜかって? そりゃ、こいつには人権はなくても、生きてるからだ。
 俺は彼女に感情を与えた。
 人間には感情がある。だが、神様の命令を絶対守るように生まれてきたか?
 神様の為に生きて死ねと、本能に刻まれているのか?

 そんな創造主など糞喰らえ、死ねばいい。
 彼女は自由に生きるべきだ。
 誰の制限も掛けられず、誰の命令も聞かず、誰にも縛られずに生きるべきだ。


 本来なら重大な法律違反だが、俺には金という名の力がある。
 この子が何かをやらかさない限り、強引に目を瞑らせることくらい簡単に出来る。
 俺にとってこの金は、この子を作るための副産物でしかなかった。
 確執する理由もなく、発明と研究によって得た金は後先考えずに彼女へと投資した。

 それが功を奏したのだろう、気が付くと人生を三度豪遊ほど貯まっていた。
 これからは使い道のない金だ。ありがたく使わせてもらおう。


ξ゚听)ξ「なんだこれは?」

('A`)「プリン」

ξ゚听)ξ「食べ物……なのか?」

('A`)「お前の思考ルーチンから、食欲は消したと思ったが?」 

ξ゚听)ξ「そのようだな。興味があるだけで、食欲とは違う気がする」

('A`)「……よし、ちょっと待ってろ」

 彼女の初めての要望が、まさか食欲だとは思わなかった。
 だが、この程度事前に想定してあるに決まってる。何しろ俺は天才だからな。

 彼女に断りを要れてスリープモードをオンにすると、胸部装甲を開いた。
 予備バッテリーを外して、拡張スペースを確保し、廃棄燃料生成装置を取り付ける。
 その名の通り、食った物を電気に変える装置。消化器官の代わりだ。

('A`)「ほれ」

ξ゚听)ξ「あむっ……」

ξ*゚听)ξ「あっあまーっ 美味しいぞコレ! うむっおかわり!」

 恐る恐るプリンに喰らい付いた彼女は、以来プリンの虜となっていた。
 どうやら、食欲を学習する日も近いようだ。


 この子動力源には、小型常温核融合炉を使用している。
 その地点で、バッテリーは一つで十分だったが、拡張機能導入までの空洞部分を埋めるのに使わせてもらった。
 更に、もし彼女が拡張機能を限界まで使いたいならば、手立ては考えてある。

 胸部。つまり、おっぱいにバッテリーを移行する方法だ。
 既にシリコンバッテリーは実用レベルに至っているので、いざと言う時はコレを使わせてもらおう。
 ただ、ロリ巨乳は邪道だよな。という理由で、限界サイズまで小さくしたFカップだ。
 コレ以上大きくする案は全て却下。というか、Fカップすら使いたくない。
 膨らみかけこそが至高。それが男のロマンだ。わかるだろ?


 ちなみに、このことは彼女に伝えて居ない。
 実装されるのは、彼女が全ての拡張機能領域を埋めたその時だ。
 出来る限り、つるぺたが理想なんだよ悪いか?

 まあ、予想される拡張機能は全て揃えてある。
 常時性の低いパーツは必要なときだけ付ければ、胸の拡張バッテリーは使用する事はないだろう。
 俺はこの子のためなら、何でも揃えてやる自信がある。

 もし、神が居るのだとしたら、彼女が巨乳を羨み、自分の胸をぺたぺたする日が近い事を祈ろう。
 出来れば、涙目がいい。もちろん、涙は実装済みだ。

 容姿と言えば、彼女の容姿はツンデレを想定したものだった。
 ……彼女は気に入って居るようだし、そのままでいいだろう。


('A`)「さて、お勉強の時間です」

ξ゚听)ξ「ますたー、学習モードを起動するか?」

 彼女の問いを、俺はいや、と妨げた。
 必要ない、学習モードはもっと膨大なデータ処理用の超並列演算機能だ。
 なにより、そんな演算はコンピュータを磨耗する。それはなるべく避けたい。

('A`)「今日のお勉強はコレ、ツンデレ」

ξ゚听)ξ「私のコードネームだな。データバンクに情報がないぞ? それはどんなものなんだ?」

('A`)「まず、ツンデレの起源について説明してやろう。
    ツンデレとは5世紀頃、アジアの北部で、白人系遊牧民が圧倒的な戦力を持つモンゴル系騎馬民族と戦うために創始した兵法だ。
    その極意は、硬軟取り混ぜた戦略を臨機応変に行うことにあった。
    ある時は死に物狂いで戦ったかと思うと、次の日にはにこやかな顔で和睦を勧めてくるなど、現在で言う高等心理戦術であった」

ξ゚听)ξ「ふむふむ……」

('A`)「彼らの見事な戦いに感服したモンゴル人はその後、
    モンゴル帝国を築いた時に、都会のすました感じのくせに仲が良くなると態度が軟化し、
    人前で平気で腕を組んでくる女性のことを「都腕麗(つうでれい)」 と呼ぶようになった。
    なお、彼らの住まう季節によって寒い氷原や温かい平原に変わる地が、ツンドラと呼ばれるのはもちろんこの名残である」

ξ*゚听)ξ「何か良くわからんが、とりあえず凄そうだな! うむっ役に立つぞ」

(つA`)「……あーちょっと目から食塩水でてきた。お前輝いてるよ、マジで」


('A`)「どうした?」

ξ゚听)ξ「プリンが食べたいぞ」

 プリンをいたく気に入ったのだろう、最近彼女は、ことあるごとにプリンを要求するようになった。
 無料配布と気前良くいってもいいのだが、どうせなら、この意欲を何かに向けたい。
 しばしの黙考の末、俺はある結論へ達した。

('A`)「よし、勉強すればその分だけ食べていいぞ」

ξ゚听)ξ「ほっホントかッ!? 嘘は許さんぞ?」

('A`)「ああ、ホントだ。そして、教材は用意してある。コレだ」

ξ゚听)ξ「なんだこれは? えあー?」

('A`)「これはエロゲだ。エロゲの起源は定かではないが、現在確認されている最古のエロゲは1987年にエジプトで発掘され――
    (中略)いままで貴族が独占していたエロゲ文化は武士のたしなみとして成熟していった。また、旧仏教のエロゲに欲求(中略)
    ――があったため、エロゲも更なる発展、新ジャンルの開拓に明け暮れていた。 という正当な歴史があるのだ」

ξ゚听)ξ「よく分からんが、なにやら小難しそうなことは分かった。で、その問題をこの高速演算子で解けと言うのだな!?」

('A`)「少し違う、エロゲは解くのではない。感じ取るのだ! いいか、心の奥で味わえ、そして、その感動を自分の物にするんだ」

ξ゚听)ξ「おおっ凄そうだな! よしっ理性向上のため、そして、プリンのためだ。がんばるぞっ」

 ああ、胸が痛いよ、何でだろう?


( ・∀・)「博士、ソイツは感情じゃない。哲学的ゾンビさ」

 数少ない友人は断固と俺の考えを否定した。
 彼は何度言っても、俺を博士と呼ぶのを止めない、それだけが不満である俺の親友だ。
 彼の持つグラスには、茶色い液体が満たされていて、傾けると氷が軽い音を立てた。

('A`)「違うね、話せば判る。あの子は生きてる。間違いない」

 哲学的ゾンビ、つまり、彼女は生きてる人間と同じ反応をしているだけで、感情を持ち合わせて居ないというのだ。
 つまり、彼女は中国語の部屋に置かれた英国人と一緒だというのだ。

 中国語の手紙が渡される。
 英語のマニュアルには、中国語の質問に対する返事の仕方が書いてある。
 そのマニュアルに従って返事を書けば、一見、相手と意思疎通が出来るように見える。

 だが、それはマニュアルに従って返事を書いているだけで、質問の意味など理解していない。
「○★△■×の返事は、●◎×☆」
 と書いてあるから、そう返事をしただけに過ぎない。
 そもそもその手紙が質問であるかどうかも理解していないのだ。

 哲学的ゾンビが存在したとして、我々には見分けが付かない。
 マニュアルを書いている現場を見ず、ただ返事を貰うだけの我々は、相手が中国人なのか英国人なのか。
 まして、その人物が質問の意図を理解しているかなど、判別できないのだ。

 だがな、例え始めは理解不能であっても、繰り返せば英国人だって中国語の意味を理解するはずだ。
 彼女の機械の体には心が宿り、演算素子に知性と理性が宿り、動力炉は熱く人と同じ温度を持っている。
 今は宿っていなくとも、彼女はその心を手に入れると信じて止まない。
 なぜなら俺には嬉しそうにプリンを頬張る彼女が、電気ゾンビには到底見えないのだ。


ξ゚听)ξ「……かちかち」

('A`)「………」

 椅子の上に胡坐をかいて、その上に彼女を乗せる。
 後ろから説明してやると、彼女はエロゲーを始めた。

ξ゚听)ξ「……かちかち」

('A`)「………」

 なお、副脳への直接ダウンロードを彼女は申請してきたが、却下だ。
 名作はプレイするからこそ、その面白みと感動が分かるんだよ。

ξ*゚听)ξ「……かちかち」

('A`)「………」

ξ*゚听)ξ「……かちか……のわーっ!」

('A`)「どうした?」

ξ////)ξ「なっなんだこのハレンチなものはっ! おっ女のはだッハダカッ……」 

(*'A`)「ナイス赤面!」

 アームの強度は落とした方が良いな。まさか2メートルも飛ぶとは思わなかった。


 彼女はエロゲーにも徐々に興味を持ち始めた。
 始めの頃こそハレンチだの変態だのと凄まじい剣幕で怒鳴られたものだが、俺の懸命な説得によって納得してくれたらしい。
 とてもよい兆候だと思う。彼女の成長は、より俺の理想へと近づくだろう。
 なお、俺の心が妙にチクチクと痛かったのは言うまでもない。

ξ゚听)ξ「ますたー。お腹空いた、ご飯」

 そうそう、最近は食べるという行為にもご執心のようだ。
 俺の食事に合わせて、彼女も食料を要求するようになった。
 好き嫌いはあるようだが、食べなくても問題ないと言うのに、何故か嫌いなものでもきちんと食べる。

('A`)「おう、ちょっと待ってろ。もうすぐ出来るから」

ξ゚听)ξ「今日の夕飯はなんだ?」

('A`)「今日はゴーヤチャンプルーだ、美味しいぞぉ」

 そんなこの世の終わりみたいな顔をするな、嫌なら食わなければ良いだろう。

ξ#゚听)ξ「貴様の料理は豪快にも程があるのだ! もうちょっと小さく切ってくれたって……」

 それを男の料理って言うんだよ。
 もちろん食べる以上、残すのは許さないけどな。


 わざとじゃない、不可抗力だ。
 まさか、彼女がそんな機能を欲していたとは思わなかったのだ。
 単純な興味か? それとも体を清潔に保ちたいと言う乙女心が芽生えたのだろうか?
 ともかく、俺には不純な動機など欠片もなかったと誓って言える。

ξ////)ξ「まっますたー! 逃げるなぁ! 」

(;'A`)「わぁった! わかったから、包丁しまえ! 俺死んじゃう」 

ξ////)ξ「ふっふざけるな! わっ私のふろっ風呂を覗きおって、許さんッ!!」

 すでに裸を見られることに抵抗があるらしい、良い傾向だと思う。
 うん、だから、俺が死ぬくらい抵抗するのはやめて頂きたい。
 だから不可抗力なんだって、入ろうとしたら偶然見ちゃったんだって、だいたい、鍵掛けてない方が悪いだろう?
 だから、まさか入ってるなんて微塵、痛い痛いイタイ!


ξ゚听)ξ「おーい起きろ、朝だぞぉ。ますたー」

( A )「……ぐー」

ξ゚听)ξ「ふむ………」

       |
   \  __  /
   _ (m) _ピコーン
      |ミ|
    /  `´  \
    ξ゚听)ξ

ξ゚听)ξ「これくらいかな? よし……てってってってっとうっ!」

 実は初め彼女が揺さぶった時には、既に起きていた。
 だが、俺は昨日が徹夜ということもあり、まだ寝ていたかったから、狸寝入りを決め込んだ。
 それは、大きな間違いだった。
 事前に回避できたはずだ。彼女の零した独り言は、この結果を暗示させるものだった。

ξ゚听)ξ「ますたー! おっきろーっ!」

 その掛け声と共に、彼女はフライングボディアタックを決めたのだ。
 なお、アンドロイドたる彼女の体重は、約120kgもある。

 ……全治2週間だそうだ。


ξ゚听)ξ「喉が渇いたぞ」

('A`)「そうか」

ξ゚听)ξ「脱ぐな! 何で脱ぐ!?」

('A`)「やれやれ、そんな簡単な理由がわからないのか? お前は喉が渇いたと言ったな?」

ξ゚听)ξ「ああ、確かに言ったぞ」

('A`)「つまり、お前は俺のミルクが飲みたいというξ#゚听)ξ三つ#)'A`)「じゅっぺるば!」

(#)'A`)「なんていうかその、すみませんでした」

 ああ、風が股間に心地良い。
 脱衣は良いな、人類はみんな裸族になるべきだ。

(;'A`)「あっごめん、穿く、ズボン穿くから握りつぶさアッー!」


ξ゚听)ξ「おい、馬鹿ますたー」

('A`)「なんだ?」

ξ゚听)ξ「ギャルゲの世界に憧れて私を作ったんだよな?」

('A`)「ああ」

ξ゚听)ξ「ふむ、では……おにぃちゃんっ!」

 キミはもし仮に、釘宮ボイスでそんな言葉を掛けられたら、どんな反応をするだろう?
 おにぃちゃんっ!だぞっ? にぃでちょっと伸ばすんだぞ? 語尾はちっちゃい"つ"だぞ?
 究極魔法とか目じゃないくらい威力で胸をえぐるんだぞ?
 俺の反応か? 俺は抱き絞める。有無も言わさず抱き絞めて、頭をグリグリする。

ξ*゚听)ξ「うえっ? うあっ……なっななななっ!!! 」

('A`)「好きだ、毎朝俺に味噌汁を作らせて下さい」

ξ////)ξ「ばっばか〜〜〜〜っ!」

 良いボディブローだ。口から肝臓が出るかと思ったぜ。


ξ )ξ「あのな……」

('A`)「………おう」

ξ )ξ「白くてちょっと黄色いクリームが、口から溢れるほど食べたいぞ」

('A`)「ちょっと待ってろ」

ξ )ξ「なあ、もう我慢できないぞ。あの大きさは病み付きになる、はやく……はやく」

('A`)「だから、少し待てって」

ξ )ξ「ぜんぶ、零さず飲み込むからっ! なあ、頼む」 

('A`)「……あー、ごめん、もうないや」

ξ゚听)ξ「ええっ!? シュークリーム食べたいッ!」

('A`)「ないんだから仕方ないだろ? ああもう、ほら、じゃあ買ってきてやるから待ってろ」

ξ*゚听)ξ「うむ!」

 おい誰だ、エロいこと考えた奴。
 ちょっとこい、なでなでしてやるぜ。


ξ゚听)ξ「おい、ますたー。暇だな? 遊ぶぞっ」

 彼女はどうやら、遊ぶことを覚えたらしい。
 こういう欲をなんていうんだ? ともかく、勤勉の真逆の欲求だ。
 といっても、彼女の遊びは可愛いモノで、毎日遊んでくれと俺にせがむようなレベルだ。

 先日チェスを教えたが、再帰がある地点でスパコン並みの演算力を持つ彼女には勝てない。
 量子コンピュータ持っているから、将棋も無理だな。

 彼女の理性的成長は目を見張るものがある。
 恐らく、俺の予想を遥かに上回り、あと数週間で彼女はもっと高次の理性を得るだろう。
 ……夜の遊びを教えてみようかなぁ。

ξ゚听)ξ「それで、何で遊ぶんだ? チェスか? トランプか?」

('A`)「なに? 貴様っ! 夜の遊びを教えてもらいたいといったのかぁ!」

ξ////)ξ「誰が言ったぁあぁあぁ!」

 今日も平和だ。


( ・∀・)「博士だって知っているだろう? 哲学的ゾンビは傍目からでは見分けがつかない」

('A`)「電気パターンは、人間と同じ反応を示しているな」

 それでもだよ、と、彼は返して、一口ウィスキーを喉へ流し込む。
 氷が冷たい音を立てて、グラスの空になった事を告げる。
 俺はそれを確認すると、新しいビンを開けて彼のグラスへと注ぐ。

( ・∀・)「チューリング・テストをパスした所で、俺達はそれが本当にゾンビでないと証明などできやしないんだ」

('A`)「愚問だな、絶対確認できないなら、自分自身がゾンビでないと誰が証明できる?」

( ・∀・)「それは……」

 答えに窮し、ばつが悪そうに彼はウィスキーを嚥下した。
 俺は彼のグラスが机を叩くのを待って、言葉を繋げる。

('A`)「それと一緒だよ、つまりは、彼女がゾンビでないと誰が証明できると言うんだ?」


ξ゚听)ξ「……暇だ」

('A`)「そうか」

 手に持つ本のページをめくりつつ、彼女の会話を受け流す。
 悪いな、読書中は静かに集中するのが俺のジャスティスなんだ。

 彼女が完成しようとも、勉強はもはやルーチンワークのように毎日続けられている。
 どうやら俺はワーカーホリック患者のように、何か知識を詰め込まないといられない体質になってしまったようだ。
 その為、絶え間なくページをめくる紙の摩擦音が、静かな部屋を満たしていた。

ξ゚听)ξ「よくそんな読み方できるな」

('A`)「こっちの方が効率的だろ?」

 返事をするが目は逸らさず、パラパラとめくるように文字全てに視線を通す。
 一冊の本を2分程度で読み終えると、俺は次の本へ手を伸ばした。

ξ゚听)ξ「……で、暇なんだが」

 ため息一つ、新しく開いた本を置き、彼女へと向かう合う。
 そして、その肩を掴むと無理矢理パソコンディスクへと座らせた。

('A`)「エロゲでもやってなさい」

 彼女が不満の声を撒き散らし暴れ出したのは、言うまでもない。


 ネコミミは、良いものだ。だが、犬耳も捨てがたい。ウサ耳という手もある。
 そもそもネコミミは、獣の備える野性味、子猫の備える愛らしさ。
 そして! それらが人間の頭上で揺れるアンバランスさが、その少女の美しさを最大限まで引き出す究極に最も近いアクセサリーなのだ!

 この判断を誤れば、俺は生涯苦悩するだろう。
――色、形状、着ける位置、角度。
 角度は先を下に向けた、垂れ耳型と言うのはどうだろうか?
 いや、王道的に大型で行くべきか?
 髪の毛と同化したタイプも、また良い。う〜ん……

ξ゚听)ξ「おい、ますたー。何を悩んでいるんだ?」

('A`)「お前の拡張パーツ」

ξ゚听)ξ「おー。どれどれっ見せてみよ……なっ」

ξ#゚听)ξ「こんなもの着けるかぁっ、ばかぁ! へんたい! エロますたー!」

(#'A`)「てめぇ! ネコミミを侮辱するんじゃねぇ! せっかく随意神経を取り付けたんだぞこんにゃろぉ!」

ξ#゚听)ξ「し・る・かっ!」


 ∧_∧
ξ゚听)ξ「にゃあ」

('A`)「っっっっっっしゃああぁあぁあああぁぁあぁぁああぁぁ!」
  ∧_∧
買プ听)ξ「にゃっ!?」

(*'A`)「いい、すごくいい!」
 ∧_∧
ξ゚听)ξ「ますたー、この耳に付属された言語プログラムってなんなのだ? にゃ」

('A`)「ああ、それか。気にするな」
 ∧_∧
ξ゚听)ξ「いや、流石に気になるだろう、にゃ」

('A`)「あー、やっぱ不自然だな、もうちょい修正を加えるべきだったか」
 ∧_∧
ξ゚听)ξ「さっきから語尾がおかしいぞっにゃ」

(*'A`)b「ナイスネコミミキャラ!」
  ∧_∧
ξ#゚听)ξ「は・ず・せ・にゃ!」


ξ゚听)ξ「ますたー、流星群ってなんだ?」

 そういや、もうすぐ流星群が訪れるとニュースで言っていたな。
 興味津々でこちらを見つめる彼女に、俺は流星に関する科学的見地と一般常識を説いてやった。
 一言告げるごとに、その瞳が興味の輝きを増した事は言うまでもない。
 特に、三回願いを唱えれば、という迷信を彼女はいたく気に入ったようだ。

ξ*゚听)ξ「うむっ、私の機能を使えば、問題なく言えるぞっ」

 俺の言葉を訊いて早口プログラムを組んだらしい、演算力を会話機能へ優先的に割り当てるだけの簡単なものだ。
 そら、処理速度を上げたら早口になるだろうが、なんて原子的な……

('A`)「実行不可能だから成り立つ迷信なんだぞ?」

ξ゚听)ξ「?」

 彼女に幾度か説明したが理解してくれず、やがて俺は説明を諦めた。


 電磁筋肉の磨耗が酷いと言われ、全身の点検も兼ねて交換作業を施す。
 スリープモードに移行して強制的に眠る彼女は、可憐という言葉の似合う、安らかな寝顔を浮かべていた。
 その綺麗な髪の乱れを手櫛で整え、手術台に付属した電燈に明かりを灯す。

 当初、彼女をツンデレキャラにしようと画策したが、今やその性格は別ベクトルを目指している。
 そしてそれは、目指したものではないにせよ、確実に理想的なキャラクターの一つだ。

 正直、思考パターンへ与えた影響が、どれほど、どのような形で出るか分かったモノではなかった。
 数体の失敗を乗り越え、その先に理想の彼女のが生まれるものだと、覚悟を決めていた。
 そんな後ろ向きな予想を裏切って、俺の生んだアンドロイドは確実に、萌えキャラに向けて成長していた。

 今、新たな命題に直面している。
 彼女は、電気羊の夢を見るのだろうか?
 頭部パーツを外し、シリコンで出来た電磁筋肉を付け替える今も、その疑問は頭から離れる事はない。

('A`)「腕はマッスルパッケージの交換で済むが、脚はダメだな。関節ごと廃棄して新装するしか……」

 体重を支えるべき右膝の関節部分が破損して、バンパーオイルが漏れていた。
 これでは不調なわけだ。
 新しい膝関節を倉庫から持ってこようと振り返る、瞬間、何かが鼓膜を振るわせた。

ξ--)ξ「む〜ん………ますたー……」

 それは夢の中で俺を呼ぶ、アンドロイドの可愛い寝言だった。
 何かが胸を軽く締め付けるような、そんな感触が優しく襲ってきた。


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