( ^ω^)ブーンがトライアスロンに挑戦するようです 3日常




忘れもしない、彼女と出会ったのは高校の時だった。

高校二年の頃、当時男子バレーボール部に所属していた自分は彼女に出会った。
マネージャーで入ってきた彼女、どうしてだろうか自分と気が合ったのだ。


今からじゃ考えられないだろうが、当時自分は純粋な青年だった。
付き合ったりしたことなんて無かったし、女性に話しかけられるだけで大袈裟に反応していた。

それを面白がって彼女は自分によく声をかけてくれたんだ。


女性と話す事をほとんどしない自分、彼女を好きになったって何の不思議もないだろう。
それは必然とも言えた。


男だらけの部活にとってマネージャーはとても良くモテる。
少し茶色がかったその髪、部活で応援の時は良く後ろに束ねていたっけ。
目はくりくりっと大きく、笑った時に向けられる目線はまるでレーザーのように自分を貫いた。


付き合うなんて縁のない話だよなと自分に言い聞かせていた。


話しかけられればそれは嬉しかった、でも緊張のあまり返事はほとんど一言だけだった。
もっと話がしたいと思いつつ、つい相手を跳ね除けてしまうのだ。


自分は選手としても特に目立ったわけではなかった。
一応レギュラーだったが、良くベンチと交代させられていた。

勉強だって頑張ってはいたが中の上といったところ。
それよりも賢いヤツはいくらでもいた。


彼女は一年下の後輩だった。
噂では何人からも告白されていたが、全て断ったと聞いた。

それを聞くたびに淡い期待、同時にとても告白なんて出来ないという思いの葛藤が起こった。


どうして恋なんてしてしまったのだろう。
恥ずかしながらにそう思った。




高校を卒業する時に告白されるなんて誰が考えていただろうか。


突然の告白、メールでだったが自分は冗談じゃないのかと何度も悩んだ。
OKの返信をしたら罰ゲームでしたとバカにされるんじゃないかと思った。
そんな酷い人じゃないとは分かっていたが、信じられなかったのだ仕方ない。


肯定的な返信をすると、電話がかかってきた。


そして一言、「好き」と言われた。


自分のどこに惚れるような所があったのかは分からない、それでも彼女は自分を好きだと言ってくれた。

休みの日には一緒に遊んだ。
大学になって部活やサークルにも所属しなかった自分は、遊ぶ時間など腐るほどあった。


受験生の彼女に勉強を教えるため、家に行ったりもした。


元々女性と話をするのは苦手だったが、気付けば他の女性とも普通に話できるようになっていた。

ただ他のどんな女性よりも、やはり彼女と話をしている時が一番楽しかった。


彼女は受験生だ、そのため思うように二人で会って遊ぶ機会は少なかった。
部活のマネージャーも続けていて、大会で会えない時も良くあった。

それに彼女は奢られるのを嫌った。

自分は大学生でお金もあるから気にしないのに、2回に1度は割り勘だった。
そしてそれが申し訳なくて自分も思うように誘えなかった。



次第に会える機会が減り、時間が出来てくる。

自分はバレーボールのサークルに入ってその時間を潰した。


会える時間が少なくなっても自分は彼女が好きだったし、彼女の第一候補の大学は自分と同じ大学だ。
翌年になればいくらでも時間が出来ると思った。

時間がないながらも彼女は毎日メールしてくれたし、自分も思い出したように何度も電話した。


会う頻度が少なくなればなるほど、彼女の顔が思い出され、会った時の喜びが増した。


やっぱり自分は彼女が大好きなんだ、彼女以外の人と付き合うなど考えられない。


さて、季節は冬にまで一気に加速する。


センター試験で彼女は失敗した。


自分と同じ大学に入るのは十分可能な範囲だったが、それでも心配が付き纏う。
そして彼女は独り暮らしする自分の元にやって来た。


初めは驚くばかりだったが、しぶしぶ承諾して部屋の中に入れた。

少なからずやましい気持ちになり、そんな自分に嫌気がさした。


そして彼女と色々と話をした。
どれだけ彼女が頑張ったか、どこを失敗して悔しかったのか。
どこを受験しようか悩んでいる事、思うように勉強が手に付かない事。


そして空が暗くなり、彼女は自分の家に泊まって行った。


期待をさせたら申し訳ない、別にその一晩何も怪しい事はしていない。
そんな誘惑が少なからず沸いたが、傷付いている彼女に申し訳なくなって拳を握った。
爪が突き刺さる痛みで冷静を保っていた。


そして次の日、嬉しそうな彼女は自分にこう言った。


  「まだまだ可能性は十分にありますよね。
   ごめんなさい、ちょっと弱気になっていました。
   色々とありがとうございます!」


なんて活発で可愛い子なんだ。



そして春、無事彼女は同じ大学に入学した。


正直に言おう、自分は彼女を本気で愛していた。


だからこそ、不思議とやましい気持ちにならなかった。
いや、それは嘘だがやましい気持ちになるたびに罪悪感で一杯になったのだ。


性行為や愛撫、そういった事をしたいとは考えなかった。

彼女がいるだけでよかったのだ。


汚れた事を考える自分が嫌だった、だからそういう事は考えなかったのだと思う。
今思い出しても、それは不思議な感情だった。


自分にとって彼女は人形のようだったのだ。
そこにいるだけで、何もしなくたって自分を和ませてくれる存在。
そしてこの上なく清楚な存在でいて欲しかったのだろう。


だからこそ過ちは起こってしまったのだ。


自分が悪いのは分かっている、でもだからこそ聞いて欲しい。



彼女は大学に入ってから自分と同じバレーボールサークルに入った。

自分達が付き合っていることは周知の事実だった。



ただ……実はそのサークルの中に一人、以前自分に告白をしてきた娘がいた。

自分には彼女がいるのだ、当然断ったがその後もその娘は変わらない態度で自分と話をしてくれた。

決して愛じゃない、好意が生まれていた。


さて、自分が大学4年生になる頃も相変わらず自分たちの交際は続いていた。
当然性行為には及んでかったが、やはりしたいとも思わなかった。

そして自分の就職決定祝いを、前述した娘の家でやる事になったのだ。


7人程度が集まっていたが、夜になるにつれ一人また一人といなくなってしまった。
彼女もバイトがあったのでしばらくしたら帰ってしまい、残りが3人になった。

ああ、ここでいう『彼女』は当然恋人のことだ、それ以外を『彼女』とは呼ばない。


日を跨ごうかという頃に最後の一人が帰ろうと言い出したので、自分もそれに続こうとしたらその娘に止められたのだ。
ちょっと二人だけで話したい事があると。


自分だって男だ、下心はあった。


彼女に対して性行為をしたいと思わなかっただけで、性行為自体に興味が無かったわけではない。

酔っていた勢いもあっただろう。
いや、それは言い訳だ聞き流してくれ。


意識がある中で自分はその行いをした。


彼女を裏切ったのだ。


  「それでは表彰を始めたいと思います……ショートの部6位、ジョルジュ選手」

湧き上がる歓声に苦笑いし、手を振って応えると舞台に上がる。
まさか自分が入賞していようとは……参加者が少なかったとはいえ驚きだ。

大きな表彰状に小さな表彰状、そして商品として名産のお米を5kgもらった。
試合後の体にこの米は響く、持ちにくい米を皆の元へと何とか運んだ。

('、`*川「ジョルジュさんすごーい!」

ξ*^ー^)ξ「おめでとうございます、格好よかったですよ」

( ^ω^)「おめでとうだお、やっぱり凄いお!」

('A`)「おめでとうございます」

まさかこんな日が来るとは思わなかった。
これで最後と決めていたトライアスロン、その最後の大会で入賞なんて……ドラマティックな話だ。

らしくないな。


その後レンタカーのバンにロードバイクを積み込むと、皆でそれに乗り込んだ。
運転は伊藤がしてくれて、自分は助手席だ。

('、`*川「それにしてもジョルジュさん、本当に凄いですね」

( ゚∀゚)「いやいや、偶然だよ。それよりも辛かったら運転代わるぞ?」

('、`*川「とんでもないです、大丈夫です。それより疲れているでしょうし寝ていてください」

運転をしながら伊藤は応えた。
後ろの席を見ると、ブーンとドクオは早くもコクコクとしている。
これは早い目に切り出したほうが良さそうだ。

( ゚∀゚)「ブーン、ドクオも……ちょっといいか?」

(;^ω^)「あ、は、はいですお!?」

('A`)「……ああ、はい」

( ゚∀゚)「皆に伝えて起きたい事があるんだ」

車内が静かになったのを確認すると、口を開いた。


さて、彼女がいるにも拘らず他の女性としてしまった性行為、当然のようにバレた。

彼女は泣いていた、そして涙の溜まった目で、震えた声で……別れようと言った。


自分は頷いた。


彼女だけを愛する自信はあった、そして彼女だけを愛している自信もあった。
あまりに愛するがゆえに望む事無かった性的な欲求。

当然自分は別れたくない、だけど……引き止めれば彼女が困るんだ。


彼女を困らせたくないばかりに別れた。


バカだ、どこまでもバカだ。


その後、自分は一人で出来る過酷なスポーツを探した。

彼女を裏切った自分を痛めつけて、罪を償ったような気になりたかっただけだ。
それでトライアスロンを始めたんだ。
別に何でも良かった、ただその時に偶然見つけたのがトライアスロンだった。


きっかけはそれだけだ。


その後も自分は色んな女性と何度も付き合った。

ただ……そのほとんどが成就しなかった。
1ヶ月も持てばよい方だ。


自分の中に刻まれた彼女の面影。
昔の美化された映像ばかりが自分の恋を邪魔した。


彼女ほど安らぎを与えてくれる人がいない。
彼女ほど愛せる女性がいない。

彼女と比べればどんな女性も霞んで見えたのだ。


付き合って、性行為をして、すぐに別れて……
自分が女たらしと影で呼ばれている事も知っている。
これでも自分は頑張って相手の事を好きになろうと努力しているんだ。

ただ……昔の、彼女の面影が消えないんだ。
やっぱり自分が好きなのは、愛した女性は彼女ただ一人だったのだ。


相手と別れるたびに凄く申し訳ないと思った。

そしてその悔しさは全てトライアスロンにぶつけた。


そんな気持ちで純粋にスポーツを楽しめるわけ無かったんだ。


それから少しずつ自分は頑張った。
付き合った相手を愛そうと努力した。
今の恋人とはなんと1年も続いている。

たかが1年というかもしれない、それでも自分にとっては凄い進歩なのだ。


とはいえ彼女を愛しているかというと、やはり答えには詰まる。
好意を抱いてはいる、一緒にいて安らぐが……やはり愛しているとは言い難い。


とても良い娘だ、こんな自分なんかと1年も付き合いを続けてくれているんだ。
相手が良い子だからこそ、こんな中途半端な自分が嫌になる。


(;゚∀゚)「えーと……だな」

車内は思いの外静まり返っていて、逆に言い出し辛い状況になってしまった。
車のエンジンと積み込んだバイクがガタガタと鳴る音だけが車内に反響した。

( ^ω^)「? どしたんですかお?」

(;゚∀゚)「その……な、実はオレこの大会でトライアスロンを引退しようと思うんだ」

意を決して言うと、口を揃えて「えー!?」っと言われた。
当然だよな、自分こそ今まで黙っていたのだからタチが悪い。

(;^ω^)「なんですかお、突然!?」

(;'A`)「そうですよ、何があったんですか!?」

必死になってくれる仲間を嬉しいと思いながら、その理由を口にした。


(;゚∀゚)「オレ、結婚するんだ」

(;^ω^)「……え?」

(;゚∀゚)「恋人が妊娠しててさ、出来ちゃった婚なんだが……。
    本当悪いと思ってる、トライアスロンに誘ったのは自分なのにこんな勝手に引退して……」

交際が始まってから1年、恋人が妊娠したとわかったのは半年以上前だ。
子供を授かった恋人が辛そうにしているのを見て、この試合を引退試合にしようとはずっと前から決めていた。
恋人の支えになろうと、好きになるために少しでも長く近くにいてやろうと。

( ゚∀゚)「だけどブーンにドクオ、これだけは言わせてくれ。
    オマエ達とトライアスロンが出来て……本当に楽しかった、ありがとう」

言い切ると、静かな雰囲気の中ブーンが口を開く。

(;^ω^)「ジョルジュさん、止めるなんて言わないで欲しいですお」

ドクオもブーンに続いた。

(;'A`)「そうだよ、せっかく俺たちジョルジュさんと戦えるようになったのにさ」


( ^ω^)「ジョルジュさん、結婚して、子供が大きくなったら……また一緒に出るって約束して欲しいですお。
    僕達はジョルジュさんの分までこれからもトライアスロンを続けたいですお」

('A`)「オレたちは10年でも15年でも待ちますよ、だから……また一緒にやってほしいです」

車内で二人に頭を下げられる。
上司と部下だ、頭を下げられるのには慣れているが……どうしてこんなにも嬉しいのだろう。

まったく、上司の言う事を聞かない部下はまたいつか懲らしめてやらないといけないな。


( ゚∀゚)「約束するよ、これから何年先になるか分からないが……また絶対に勝ちに戻ってきてやる」


( ^ω^)「約束ですお、勝ち逃げは許さないですお!」


いつになるか分からない、それでも……コイツらがトライアスロンを続ける限り、いつかこの舞台に戻ってくるか。






( ゚∀゚) 「ブーン、トライアスロン……やらないか?」

( ^ω^)「はいですお、ぜひ泳げる場が欲しかった所ですお」





(;'ω`)「僕は……完走したんだお……」

('A`)゚∀゚)「お疲れ様!」

(;^ω^)「おっおっ!」





(;'A`)「あー、えれぇッ!! もうぜってートライアスロンなんて出ねぇえええッ!!」

( ゚∀゚)「はじめは皆そう言うんだよ」


(;゚∀゚)「あー、マジつっかれたもう走れねーッ!!」

(;'A`)「ああああー、もうぜってえトライアスロンなんてやらねぇぞおおッ!」

(;^ω^)「もう限界だおしばらく運動はしたくないおおおおッ!」





( ゚∀゚)「オマエ達とトライアスロンが出来て……本当に楽しかった、ありがとう」

(;^ω^)「ジョルジュさん、止めるなんて言わないで欲しいですお」

(;'A`)「そうだよ、せっかく俺たちジョルジュさんと戦えるようになったのにさ」





( ^ω^)「そういえばジョルジュさん、最後に言いたい事がありますお」

('A`)「あ、オレも」

( ゚∀゚)「なんだよ二人して……」

( ^ω^)('A`)「トライアスロンを教えてくれて、ありがとうございます(お)!」





          ( ^ω^)ブーンがトライアスロンに挑戦するようです・END



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