( ^ω^)ブーンが蟲師になったようです2
( ^ω^)「てっきり魑かと思ってたけど木霊(こだま)かお。はじめて見たお。」
内藤の視線はヒノデのそれと同じく巨木へと注がれている。
いや、ただの巨木ではない。
見るものが見れば、その巨木の幹から人の顔のようなこぶが突き出ている事が分かる。
そう、”見える者”が見れば。
木から生えている顔は、男か女かもわからない。丁度顎の下から先が木とどうかしていて、頭部には髪の毛の代わりに細い枝がびっしりと生えている。
それらのうち、いくつかは先に葉をはやしているが、殆どの先端は木の幹へと同化している。
「な、ちょ、お、おま、なんでここに?」
( ^ω^)「とりあえず落ち着け。」
「な、な、なんで、なにしにこ、こ、ここへ?」
( ^ω^)「いや、どもりすぎだって。」
内藤の出現にそれほど驚いたのか、ヒノデの口からでる声は途切れ途切れだ。
( ^ω^)「一応言っておくと、おまいが山に入ってくのが見えたから、夜の山は危険だしなんか怪しいからこっそり後をつけてきた。」
「な、おまえ勝手に人の後を、っていうかお前、神様が見えてるのか!!?」
( ^ω^)「あの木から突き出てる顔かお?あれは木霊っていう、樹齢何百年もの巨木が蟲になったものだお。」
ヒノデの指と、内藤の視線の示す先には幹からでている顔、木霊があるが、その顔の方は内藤たちへと意識を向けている様子は無い。
視線も虚空を眺めるように一点から動かず、口からも鼻からも呼吸をしている様子は無い。
それは一見して、本物の人間の顔が木から突き出しているように見えるが、本当に頭部としての機能があるわけではなく、木の瘤が人間の顔のような形を取っただけだ。
「私以外にあれが見える奴は初めてだよ。皆ただの大きな木にしか見えないって言うんだ。」
( ^ω^)「まあ、蟲が見えない人間にはそう見えるんだお。そんな事より―――――」
ぐしゃり、という地面に広がった落ち葉を踏みしめる音。
( ^ω^)「――――その神様の方は僕のことをあまり歓迎してないようだお。」
ヒノデの振り向いた先、彼の背後に一丈(約3.03メートル)もある緑色の獣の上半身が、土から生えてきていた。
その威容をなんと表せばいいのか。
かろうじて虎に近い姿をしているが、それとも微妙に違う。
地面から少しづつ生えて姿を現しているそれの手足は、まるでヒグマのように太く、全体の印象として力強い感じがある。
いや、地面から生えているわけではない。
地面に散らばった落ち葉がその獣の体を少しずつ構成しているのだ。
( ^ω^)「成る程、自分から離れた葉を操れるのかお。」
獣を構成していく葉は、あの川辺で獣が撃たれた後に残ったもの、木霊の樹上から生えているものと同じだ。
今や完全に姿を現した緑色の獣は牙を剥いて内藤を威嚇する。
「な、なあ神様、ちょっと待ってくれよ!なんで―――」
ヒノデが巨木に向けて何か叫んだ瞬間、彼女に緑の獣が飛び掛ってきた。
(;^ω^)「危ない!!!」
咄嗟に内藤が飛び出し、ヒノデを突き飛ばす。
緑の獣は先ほどまでヒノデが立っていた場所に着地。
そのまま横を眺め、顔だけをヒノデを突き飛ばした内藤へと向ける。
両者はそのままにらみ合う。
(;^ω^)「・・・・・・・・・?」
だが、内藤の顔に浮かんだのは警戒でも恐怖でもなく、疑問の表情だった。
緑の獣は何かに怒って暴れているわけでも、体に異常があって暴れているわけでもない。
緑の獣の目はやけに澄んでいて、知性あるもの特有の輝きを放っていた。
怒りに我を忘れていたり、異常のあるものにこんな目はできない。
にらみ合った一瞬、その事をわずかに、だが確かに内藤は読み取っていた。
だが、両者のにらみ合いは唐突に終わりを告げた。
巨木の周りにさらなる足音が響いてきたからだ。
やがて、木々の間から内藤の前の前にいる獣と寸分たがわぬ姿をした緑色の獣達が現れる。
その数は十や二十ではきかない。
「こ、こんなに居たのか・・・・・・。」
驚きに口を空けて立ちすくむヒノデへ、内藤が声をかける。
(;^ω^)「おい、糞ガキ・・・。逃げるお。」
「え?」
瞬間、言うが早いが内藤がヒノデを脇に抱えて走り出す。
背後から獣たちの追ってくる気配は無い。
途中の木々をかいくぐり、盛り上がった木の根を飛び越えてがむしゃらに走る。
山のふもと付近まで来たところでようやく足を止めると、内藤はその場に座り込む。
「おい!放せ!何時まで抱えてんだ!」
(;^ω^)「うっせ、人に抱えてもらっといて何言ってんだお。」
「誰も逃げてくれなんて言ってない!!あれは何かの間違いだ!山の神が私達を襲うはずが無い!」
(;^ω^)「多分、おまいの言う事は正しいお。」
「は?」
まさか賛同を得られるとは思っていなかったのだろう、少女は内藤の思わぬ返事に目を丸くする。
(;^ω^)「あの木霊からは人を襲うような敵意は感じなかったお。むしろ、人に何かを伝えようとしていたお。」
「ならなんで逃げたんだよ!!!」
(;^ω^)「よくわからないお。けど、あいつは僕等にあの場所から離れて欲しがっていた。」
「どういうことだよ。」
(;^ω^)「だから、わからないって言ってるお。」
「・・・・・・。役に立たないオッサンだな。」
( ゚ω゚)「オッサンではない。」
オッサンと呼ばれて、怒鳴り返されると思っていた少女は、その内藤の声にびくりとした。
感情をそぎ落としたような平坦な声色と表情だった。
( ゚ω゚)「オッサンでは、ない。警告する。次は無いぞ。」
聞き分けの無い子供に無理やり言い聞かせるように、もう一度言った。
口調もがらりと変わっている。よほど頭にきたらしい。
「・・・・・・。(ていうか、顔怖ッ!)」
ヒノデは感情を感じさせないが、目だけは本気の内藤に、「大人の癖に子供相手に本気になるなよ」と、大人気なさを感じた。
多少呆れつつも、コクコクと内藤に向けて何度も頷いた。
「昔さ、山で迷った時、山の神が助けてくれたんだ。」
村を目指して山を降りていく途中、ヒノデがぽつりぽつりと話しはじめた。
「迷ってるうちに崖から落ちて足をくじいてさ、動けなくなってる俺をあの緑色のやつが山の神のところまで運んでくれて、私の脚がよくなるまで果物やら木の実やらをとっては持って来てくれたんだ。」
( ^ω^)「それでおまいはそんなに山の主を崇めてるのかお。」
「私だけじゃない。昔は皆山の神を崇めてたさ。けど、十年くらい前から山の神が人里に下りて助けてくれる事が無くなったからしいんだ。」
( ^ω^)「それで若衆連中は年寄り衆と違って山の主に対する敬いが無いのかお。」
「それでも多少の敬意はあったんだ。けど、最近になって地震が増えてきたり、人を襲うようになってからは掌を返したように山狩りをしようなんて言い出した。」
(;^ω^)「いや、そりゃあ襲われれば誰でも怖がると思うお。」
「でも怪我人は一人も出てない!あいつ等、山の神の事を化け物扱いして・・・これまではずっと敬ってきたのに・・・。」
ヒノデがそこで口をつぐんだ。
( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・塵、か。」
「え?」
( ^ω^)「この国からずっと西、清の国がある地からさらに西、遥か西にある南蛮の地では、人は塵からつくられたと信じられているらしいお。今の話を聞いて、それを思い出していたんだお。」
「塵?確かにこれまで守ってきてくれた神を狩ろうなんて、性根の腐った汚い奴等だけど・・・」
( ^ω^)「そういう事じゃあ、ないお。」
「?、それはどういう―――」
そこで、二人は前方から照らされる明かりに気づいた。
夜明けにはまだ早い。
では一体何の明かりなのか。
そう考えて、明かりの発生源を探す二人はそれを見た。
二人の歩く先、村のある山の麓付近から山の上へと向かって広がっていく炎を。
「山が燃えてる・・・。」
二人の視線の先、山の麓、村の側から山に火が放たれていた。油でも使っているのだろうか、ただの山火事にしては火のまわり方が早い。
(;^ω^)「まさか村の連中・・・・ッ!!!」
嫌な予感に突き動かされ、内藤が走りだすとヒノデもそれに続いた。
火のまわり方から見ても、これが人為的なものであることは明らかだ。
そう考えながらも走り続ける彼等の前に、火の着いた松明と油の入った水がめや酒樽を持つ村人たちが見えてきた。
村人たちも彼等に気づいたか、視線が集まる。
内藤は彼等の前に来るなり彼等を問い質した。
(;^ω^)「何やってるんだお!!!」
「あんた・・・確か蟲師の・・・」
(;^ω^)「おまい等、自分たちが何やってるのかわかってるのかお!」
「見てわかんないのか?山狩りだよ。あの化け物を何とかしないと、俺達はもうどうにもならない。」
化け物。確かに男はそう言った。
見れば、山に火をつけている男たちは全員若い者ばかりだ。
確かに村の老人たち以外には山の主を敬う心は無いらしい。
男達の口調に篭められた忌避感や嫌悪感に敏感に反応したヒノデが、食いつくように男へと話しかけた。
「なんで!!お前等なんで山の神を!!!」
「ヒノデ!!?おまえ、無事だったのか!!?」
「え?」
「お前のとこの親父さんもお袋さんも、お前が奴等に食われたと思って悲しんでるぞ!!」
( ^ω^)「奴等?」
「あの緑の化け物共だ。さっき村が奴等の群れに襲われた。もう奴等を方って置くわけには―――」
「おい!!!居たぞ!!!!こっちだ!!!」
「わかった!!!今行く!!!」
(;^ω^)「あ、コラ、ちょっと待つお!!」
内藤が止めるまもなく、男は別の男からかけられた声に従って山の中を駆けていく。
走り去っていく男の背には猟銃が背負われていた。
山の奥からもいくつもの銃声が響く。
何をやっているのかは明白だ。
(;^ω^)「糞ガキ、奴等を止めたいお!!!一緒に説得を―――」
「・・・のせい・・・・・・たし・・・・・・が・・・」
(;^ω^)「おい!!!糞ガキ!!!もしも山の主が死んだら、光脈筋の流れるこの山は―――」
「私のせいだ!!!私が居なくなってたから!!!私が殺されたと思ったからあいつ等は!!!!」
そこで内藤はハッとなった。
そうだ、あの山の主は人を襲いはしても殺しはしない。
あの木霊の側で、木霊の作り出した獣と視線が工作した一瞬にそれだけは読み取る事はできた。
ならば、村を襲ったとしても誰も被害を受けていないはずだ。
しかし、村を出て山の主に会いに行っていたヒノデの姿は無い。
彼等は思ったはずだ。
「ついに最初の犠牲者が出た」と。
「わたしが!!わたしのせいで―――」
(;^ω^)「違うお!!!おまいのせいじゃないお!!!奴等はいずれ山狩りをするつもりだったお!!!」
「でも私のせいでそれが早まった!!!あんただって分かってんだろ!!!私のせいだって―――」
(;^ω^)「違うお!!!」
「何が違うって言うんだ!!!私のせい―――」
(;^ω^)「だから―――」
瞬間、世界が揺れた。
此の世を誰かが揺らしているのではないか、そう思えるほどの大地震と共に、轟音が響き渡った。
三度、ヒノデの言葉をさえぎろうとした内藤の台詞が、さらにその轟音でかき消された。
(;^ω^)「な・・・ッ!!!!!」
その場に居合わせた誰もが呆然としていた。
山に火を放って居た男たちも、緑の獣たちを追い回していた男たちも、内藤も、ヒノデも。
全員が全員、口と目を開いてそれを見上げていた。
轟音とともに、頂上付近から溶岩を吐き出す山を。
「噴火だ!!!!山が噴火したぞ!!!」
誰かが言った。
山から溶岩とともに吐き出された岩石は空に炎で赤い弧を描きながら落下していく。
その空に浮かんだ火の雨によって夜の世界がほんのりと照らし出された。
天から火の雨が降ってくるかのようなその光景は、まるでこの世の終わりを見ているようで、地獄の釜の底のようで、
しかし一つ一つが人や家を押し潰すだけの威力を秘めたその赤い雨は、どこか息を止めさせる程に美しくて―――
「逃げろおおおおおおおおおおおッ!!!」
再び誰かの叫び声が響き渡った。
内藤本人は気づいていなかったが、それは彼自身の喉から発せられたものだった。
内藤の声に、夢から覚めたかのようにその場で固まっていた男たちが走り出した。
その日、その時、確かに彼等の世界は、彼等の山は一度終わったのだった。
あれから、どのようにして山を降りたのか、正確に覚えている者は居ないだろう。
内藤はまだ呆然としていたままのヒノデを拾い上げて抱えて、山の麓まで走ってきた。
村のあったあたりや山の殆どが山頂付近から流れ出した溶岩で埋まっている。
( ^ω^)「なるほど、山にあった岩の種類から火山らしいとは思ってたけど、活火山だとは思わなかったお。火山岩だらけだったのにあんなに木々が生い茂ってたのは光脈筋の影響かお。」
見事に草木の一本一本まで無くなってしまった土地を眺めながら、内藤が言った。
村の者達には奇跡的に被害者は居ない。
山に火を放って居た男たちも、全員山の麓付近に居たためだろう、噴火が始まってからすぐに下山して逃げ出すことができた。
( ^ω^)「で、おまいは何時までそうやってウジウジしてるんだお、糞ガキ。」
「・・・・・・・・・・・・だって、私のせいで山の神様を狩ろうなんて事にって・・・・・・。」
( ^ω^)「山の主は最初から死ぬのを覚悟でおまい等に警告していたんだお。もうすぐ噴火するぞ、って。」
あの時、山の麓で火を放って居た男たちだけでなく、村に居る者達も素早く逃げ出すことができた。
山の主の緑の獣たちが村を”襲っていた”ためだ。
もし、村人たちが寝たままであったら、被害は村が埋まるだけでは済まなかっただろう。
( ^ω^)「きっとあの主はずっと山の噴火を抑えてきたんだお。だからここ十年は人里に下りてきて村を助ける事ができなかった。」
「・・・・・・・・・・。」
( ^ω^)「それでも何時抑えられなくなるかわから無いから、緑の獣でおまいらを襲って山に近づかないようにしてた。」
「でも、結局山の神は・・・・・・・・・。」
( ^ω^)「完全に居なくなったってわけじゃないみたいだお。」
そう言った彼の指差す先を眺めて、ヒノデがハッとなる。
二人の視線の先、よたよたと歩いてくるものがあった。
あの緑色の獣だ。
緑色の獣は二人の前で倒れこみ、力尽きたのかバラバラと葉へと戻っていった。
その中心につるりとした表面の殻に包まれた大きな木の実があった。
「これは・・・・・・?」
ヒノデがふらふらと近づいていく。
( ^ω^)「あの木霊の巨木の実だと思うお。」
「・・・・・・じゃあ・・・。」
ヒノデは両手を伸ばすと、恭しいともいえる手つきでその大きな木の実を拾い上げた。
壊れ物を扱っているかのように、繊細で優しい手つきで。
( ^ω^)「うん。この土地の下には光脈筋が流れてるから、草木が育つのも田畑が戻るのも早いと思う。何年、何十年かかるかわからないけど、いずれはその木の実から新しい木霊が育つお。」
「・・・・・・・・・・・・ッ!!!」
ヒノデは両手ですくうように拾い上げた木の実を自分の顔の前に持っていった。
その顔から、手の中の木の実へと涙が流れる。
喉からは押し殺したような泣き声。
( ^ω^)「今度はおまいらが山の主を守ってやればいいと思うお。」
声を押し殺して、尾さえ切れなかった喜びが漏れ出すかのように、静かに涙を流し続ける少女にむけて内藤が言った。
それを聞いてさらに少女の涙は溢れ出す。
その少女の手の中で、涙に濡れた木の実が光に照らされて輝いた。
少女の名前と同じ光、悲しみに塗れた夜の世界を打ち消すように登った太陽の放つ、日の出の光に。
(;^ω^)「・・・これで三つ目かお・・・。」
そう呟く内藤の目の前には、発芽したばかりであろう植物の芽があった。
その植物の周りには、あの山の中で見た木霊の葉がちらばっている。
しかも芽は、まだ発芽したばかりだろうにやたらと大きい。
まず間違いなくあの木霊の芽だろう。
(;^ω^)「あの緑の獣は種子を運ぶのと、運んだ種子の栄養になるためのものなのかお・・・。」
彼がこれと同じ形の新芽を見つけたのはもう三つ目だ。
おそらく、あの噴火の後にあちこちに緑の獣が木の実を運んでいったのだろう。
この広い山々のうちの山道をひとつ歩いただけで三つも見つけたのだ。
この土地の中にどれほどの数の種子が存在しているのか。
(;^ω^)「ここらへんに木霊の森が出来る日も遠くないかもしれないお・・・・・・・・・。」
冗談めかしてそう言いつつも、彼は昨日発った村の事を考える。
あの後、少女と老人連中は嬉しそうに、心底嬉しそうに笑いながらも、あの木の実をどこに植えるか話し合っていた。
だが、山狩りをしていた男達はそれを遠巻きに、すこし苦々しげに眺めるだけだった。
この国より遙西、大陸の清の国よりもさらに西にある南蛮の地では、神は人を塵から造ったと信じられているのだという。
塵、すなわち風が吹けば容易に吹き飛び、風の吹く方向のままに流されるものたち。
軽い衝撃で揺れ動き、右往左往するものたち。
積みかげても積み上げても、簡単に崩れ去り、散らばってしまうものたち。
そう、あの村の若衆達のように。
人の心は脆い。
感情に、欲望に、恐怖に、あっというまに流され、これまで大切にしていたものも手のひらを返したように捨ててしまう。
これまで恵を与え続けてきた山の主も、その恵みが無くなれば彼等にとってはただの不思議な力を持った得体の知れない化け物でしか無いのだろう。
きっと、しばらくはあの村の若衆と老人達、ヒノデの間にはぎくしゃくとしたふいんき(←何故か変換できない)が続くだろう。
これから先、彼等はあの新芽を、それが木になっても、あの日の事を思い出し、罪の意識にさいなまれなければならないだろう。
だがあの木霊の新芽を彼等の山からどかすことは出来ない。
あの土地で彼等が暮らしていくだけの豊かさを、山が、土地が取り戻すのには、山の主である木霊のあの新芽が必要だからだ。
この土地でとれた作物を口に運ぶたびに、彼等は思い出すだろう。
自分達を救おうとした存在を、駆り立てようとした事を。
( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」
だがそれでも人は忘れてしまう。
やがて彼等も、木霊の巨木を眺めても何も感じないようになってしまう。
「時間が全てを癒してくれる」とは陳腐な言葉だが、まさにその通りだ。
人は塵なのだ。簡単に運ばれて、流されてしまう。
深い後悔と、自責の念さえも。
内藤は後ろを振り返った。
木々が一本も無い、溶岩が冷えて固まった火山岩だけが残った、素っ裸の山が見えた。
数年後、数十年後にはきっとあの土地には再び木々が生い茂っている事だろう。
そしてあの日、優しく木霊の木の実を照らし出していた、あの光の名前を持つ少女も、村人全員で木霊の巨木を眺めて笑い合う事のできる日が来るだろう。
空には上ったばかりの太陽があった。
周囲には夕日のように鮮やかで、優しい光。朝焼けだ。
その光は、この地に生きる全ての者達へと注いでいる事だろう。
この地に生きる、塵のもの達に。
明日は雨だな。
その朝焼けを眺めながら、内藤はそう思った。
『塵に注ぐ光』・完
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