( ^ω^)ブーンが蟲師になったようです
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およそ遠しとされしもの 下等で奇怪 見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達 それら異形の一群をヒトは古くから恐れを含み いつしか総じて「蟲」と呼んだ
『塵に注ぐ光』
山間の道を青年が歩く。
背中には旅の薬師等が背負う大き目の薬籠を背負っており、山林を歩きなれているのだろう、薬籠を背負いつつも、その足取りは軽い。
( ^ω^)「しかし・・・、歩けど歩けど人っ子一人出会わないお。」
呟きながら、青年は道に残った足跡を眺める。
( ^ω^)「山に馴れた人間の足跡だお。ここら辺の土地の者かお・・・?」
思考をまとめつつも、まとまりきらなかった思考が口から漏れているかのように、青年は呟き続ける。
と、そこで青年は道端に落ちているそれを見つけた。
狼の死骸だ。銃で撃たれたのだろう、周囲にはかすかに火薬の匂い。
(;^ω^)「猟師かお・・・!早まったことしなければいいけど・・・。」
青年は呟く労力も惜しいとでもいうかのように、それっきり無言になると静かに歩を進めた。
やがて道の先、山のふもとに木造の家がいくつも見えた。
目的の村だった。
青年が村に入ったのは、丁度太陽は南の空に高く上がったころだった。
彼が村に入ると、背中に背負った薬籠等の彼の背格好を目にした年寄り衆が彼を手厚く迎え、村長宅へと案内した。
「あなたが紹介していただいた蟲師の方ですね。」
村長宅へ入り、客間に座るなり村長はそう切り出してきた。
( ^ω^)「どうも、紹介されてきた蟲師の内藤ですお。」
内藤と名乗った青年は、とりあえず自分達蟲師に助けを求めた村の村長に名を名乗る。
( ^ω^)「お話はだいたい伺ってますお。なんでも人食い虎が出たとか。」
内藤はさっさと用件を切り出す。彼ら蟲師の仕事は蟲の相手をすることであって、人間相手にだらだらと喋ることではない。
「いいえ、人食いトラなどとは滅相もない。あれはここいらの猟師の間で山の主と呼ばれている虎です。」
( ^ω^)「人を食えばどんな立派な虎でも人食い虎ですお。しかし、ただのトラではない。だから僕が呼ばれたんでしょう。」
「はあ・・・、しかしその前に訂正が。人食い、人食いと申されますが、人を襲うだけで食われた者はいまだに出ておりません。それに少々、普通の虎、いや、生き物とは事情が違いまして・・・。」
( ^ω^)「・・・・・・・・・。詳しく聞かせてくださいお。」
それから村の村長は、自分の息子ほどの年格好の青年でしかない内藤に、すがるような口調と目つきで、滔滔と事情を話し始めた。
「以前からかのトラの事は山の神として村のものたちは崇めてまいりました。川の上流をよく水辺としており、猟師達はとれた獲物の一部を山の神であるその虎にささげておりました。その虎もわれわれを襲うことは無く、
これまではお互いにそれほど関わらずに共存してきたのですが・・・、ここ数日で急に凶暴化してヒトを襲うようになりまして・・・。」
村長の話はこうだ。
昔からこの地では山の神として崇められてきたその虎とヒトが共存してきたが、ここ最近凶暴化したトラは、ついに人里近くにまで下りてくるようになり、猟師等は山から追い出されてしまったらしい。
それに怒った血気盛んな若い衆が、山狩りをしてそのトラを狩ると言い出したのを見て、山の神を殺すのはまずいと思った村長が近隣の村の村長や猟師達に相談したところ、その中に以前蟲師に村の異変を助けられた事があるという者がいたらしい。
そこから蟲師達に連絡が行き、僕に仕事が回ってきたというわけだ。
( ^ω^)「なるほど。よくわかりましたお。しかし、山の主とされる大きな動物ならあちこちに居ますお。『普通の生き物とは事情が違う』とは?」
「どうも、不思議な力があるようで・・・・・・。」
( ^ω^)「不思議な力、とは」
「虫の大量発生で稲が全滅しかけたときに、あの虎がふらりと山から下りてきて一声ほえたかと思うと田の虫たちが一斉にこの地から出て行ったり、山で遭難した者の道案内をしたりと、とにかく普通の生物ではないのです。」
( ^ω^)「・・・・・・・・・。」
「何を馬鹿な、と思われるかもしれませんが、やはりあれはもう山の神としか・・・。」
( ^ω^)「そうですかお。それじゃあとりあえず行きましょう。」
「は?行くとは、どちらへ?」
( ^ω^)「山ですお。その山の神とやらを見てみないことには、どうにも・・・・・・。」
そう言うと、内藤はさっさと席を立つ。
( ^ω^)「誰か、ここの山に詳しい人間をつけてもらえませんかね?」
「おお、では山の神を鎮めることができるのですか?」
内藤に向けて、村長が再びすがるような、少し安心したような声をあげる。
( ^ω^)「できるかどうか、それがわからないからこれから調べに行くんですお。」
内藤は軽い調子でそう答えるだけだった。
「で、あんたか?蟲師とかなんとかって胡散臭い奴は。」
村のはずれ、山道の入り口にここら辺の地理に詳しいという若い猟師の男が待たせておく、という村長の言により、村のはずれへと向かう内藤に、そんなぶしつけな声がかかった。
声のしたほうへと視線をめぐらせれば、話しかけてきたのは12歳程度の少女だった。
少女は、見掛けに似合わずやけに乱暴な口調で内藤に話しかけてくる。。
( ^ω^)「胡散臭い、ね。」
「ああ、胡散臭いね。だいたい蟲師ってなんなんだよ。あんたも山狩りして山の主を狩ろうって考えてんじゃないだろうな。」
( ^ω^)「さあね。山の神ってのを見てみないことにはなんともいえないお。必要がなければそんな事する気は無いお。」
「おまえッ!!!じゃあ場合によっちゃあこの山の主を、この山の神を狩るっていうのか!!!!」
( ^ω^)「ああ、狩るね。場合にもよるが人に危害を加えないように退治する必要がある時だってある。」
叫ぶ子供に向けて、それまでの気軽さから一転して、冷酷とも思えるサッパリとした声で断言した。彼の目の前で、子供が息を飲む。
( ^ω^)「まあ、退治しなきゃいけないかどうかをこれから見に行くんだお。けど坊主、山狩りうんぬんはお前等の父親や若衆たちが言い出したことじゃないのかお?子供が口を出す事じゃないお。」
「・・・私は・・・子供じゃない。」
一転して、再び軽い口調に戻った内藤に、やっとの事で少年が返事をした。
先ほど垣間見た内藤の雰囲気と今の口調とのギャップに戸惑っているのだろう。
少年の台詞に内藤は苦笑する。
( ^ω^)「はいはい。じゃあガキじゃないっていう生意気な糞ガキ、山の主ってのについて何か知ってる事はあるかお?」
「だからガキじゃねえって言ってんだろ!!!私にはヒノデって名前があるんだ!!!ガキ扱いすんなよ、オッサン!!!」
( ^ω^)「そうかお。僕にも内藤ホライゾンっていう名前があるお。よろしくな、糞ガキ。あとオッサン言うな。まだそんな年じゃないお。」
「ほらいぞん?変な名前。」
(#^ω^)「・・・・・・・・・。」
多少こめかみを引きつらせながらも、内藤は怒りを押さえ込むと、再びヒノデに質問する。
( ^ω^)「とりあえず、山の主について知りたいから、何か知ってる事があったら教えて欲しいお。」
「は?余所者のあんたに簡単に教えられるかよ、オッサン。」
(#^ω^)ピキピキ「・・・・・・・・・。」
「あんた、山の主をどうにかしようとしてんだろ?だったら余計教えられないね。あの山の主は神だ。山の守り神だ。それを狩ろうなんて、猟師連中は頭がどうかしてる。」
山の主を狩ろうとしている連中への怒りを思い出したのか、ヒノデの声には熱が入る。
( ^ω^)「なんでそんなにおまいは山の主を信仰してるんだお?」
「信仰?山の主が普通の動物じゃないってのは厳然たる事実だぜ?それに・・・」
そこでヒノデは喋っていいものか測りかねる、といった表情で逡巡した後、意を決して続ける。
「私が昔山で遭難した時、山の主が助けてくれたんだ。山の主のやる事に間違いは無い。山の主はいつもこの地に生きる私達を守ってくれている。」
( ^ω^)「でも実際、山の主は人を襲ってるじゃないかお。」
「襲われたって言ってる連中が何か悪い事したに決まってんだろ。寝ぼけてんじゃねーぞオッサン。」
(#^ω^)「オッサンって言うな。まだ僕は21だお。」
「叫ぶなよオッサン。迎えが着てるぜ。」
ヒノデはそう言うと、内藤の背後を指差した。
内藤が振り返ると、確かに猟師と思われる猟銃を背負った男がこちらに向かってきている。
内藤がなかなか来ないため、業を煮やしたのだろう。
「蟲師の内藤さんですよね。」
(;^ω^)「すいませんお。遅くなってしまって。」
山の案内を務める事になる猟師に挨拶をする内藤を尻目に、ヒノデはさっさとその場から離れる。
「じゃあな、オッサン。せいぜい山の主に追い返されないように気をつけな。」
(#^ω^)「オッサンってゆーな!!!」
怒鳴り返すも、その頃には駆けていくヒノデの姿は見えなくなっている。
子供だからか、やたらとすばしっこく、足が速い。
「すいません、ヒノデの奴、山の主の事になると何時もあんな感じでして・・・。」
( ^ω^)「いや、気にしてませんお。」
「そう言っていただければ幸いですが、山に入るなら早くした方がいいでしょう。夜に山に入るのは危険ですし。」
見れば、既に日は傾きかけている。
( ^ω^)「そうですね。僕も夜に入って迷うのは御免ですお。」
そう言うと、内藤は山道へと足を踏み入れる。
「気をつけてください。途中までは山道を進みますが、山の主がよく現れる川辺に行くには、山道から外れて獣道を行かなければなりませんから。」
内藤を追い越した猟師の男が先を進む。
確かに、人の手が入った山道などに山の主とまで言われるような獣が出没するはずは無い。
( ^ω^)「山は歩きなれてるので大丈夫ですお。そんな事より、山の主の特徴を教えていただけませんかお?」
「特徴?心配しなくても見れば分かりますよ。あの虎、普通の虎と違って緑色なんですよ。」
男の口調にはあからさまな嫌悪と忌避感が篭められている。
どうやら若い世代は、人を襲い始めた山の主を害獣のようなものと思っているらしい。
男の表情から察するに彼等は、山の神に対する畏怖というよりも、むしろ得体の知れない化生の物に対する畏怖を抱いているようだ。
( ^ω^)「緑色・・・ですかお・・・。」
「ええ、丁度この山の木々の様に、濃い緑色をしてます。ところで内藤さん、山の主はどうにかなりそうですか?」
彼の言葉には隠す事のできない不安がにじみ出ている。
彼ら猟師にとって、山は神聖な場所であると共に、大事な狩猟場だ。
山に入れないというのは、彼等にとって致命的な事なのだろう。
( ^ω^)「まだなんとも言えませんお。ただ、山の主の正体は、だいたい見当がついていますお。」
「見当?」
( ^ω^)「おそらく、『魑』と呼ばれる類の蟲ですお。」
「魑、ですか?」
( ^ω^)「魑魅魍魎という言葉があるでしょう。魑魅が山林の異気から生ずるという、すだま等の物の怪、魍魎が山川の精、木石の物の怪だと言われていますお。」
「はあ・・・。」
( ^ω^)「一説に寄れば魑魅の魑とは、虎の形をした山神で、魅が猪頭人型の沢神だといわれています。この山の下には光脈筋が流れてるようですし、この山の主はその光脈筋に土地の主として認められた『魑』ですお。」
説明する内藤に対して、猟師の男は先程から曖昧な返事を返すのみだ。
あまり理解できていないのかもしれないし、物の怪だの魑魅魍魎だのと言ったところで信じられないのかもしれない。
蟲は見える人間には見えるが、見えない人間にはとことん見えないので、猟師の男のような反応は仕方の無いものだと言える。
蟲の中にも、動植物に”近い”蟲は人間にも見えるのだが、そういった蟲に出合ったり、「普通の生物とは違う」と気づきつつも遭遇する人間は極々稀だ。
内藤がそもそも蟲というものは何なのかについて語り出したあたりで、彼等は山道から獣道へと足を踏み入れようとしていた。
「内藤さん、そろそろ獣道に入ります。枝や足元に注意してください。」
内藤の長話に辟易していたのか、話題を逸らせて救われたかのような顔で男が言った。
気をつけてください、とは言ったものの、男は彼の後ろを行く内藤という青年が、山歩きの素人ではない事はこれまでの内藤の歩き方等から察していた。
彼のように山で生まれ育ったのか、それとも山道等を歩き馴れているのか。
兎にも角にも、この調子なら日が暮れる前までに山の主を拝んで山を下る事が出来そうだ。
そう考えてさらに歩を進めようとした男に静止の声がかかる。
( ^ω^)「ちょっと待つお。」
「どうかしましたか?」
( ^ω^)「先程言ったようにこの山の下には光脈筋があるみたいだお。蟲がやたらと多いお。」
そう言うと内藤は近くを散策し、いくつかの草花を集めてくると背中の薬籠を地面に置いて中から土焼製のすり鉢と、青い光沢をもった奇妙な擂粉木状の石を取り出す。
「何をしているんですか?」
男が怪訝そうに聞くが、内藤はとりあわずに先程集めてきた草花を、取り出したすり鉢と石ですり潰していく。
物珍しそうに眺める男には構わずに、黙々と草花の原型が無くなるまですりつづける。
やがてすり潰された草花は草花自体が含んでいた水分によって、濃い緑色のどろどろとした粘性のある半固体状になっていった。
( ^ω^)「水、持ってますかお?」
「水ですか?飲み水なら・・・。」
男はおずおずと、懐から竹製の水筒に入った水を差し出す。
内藤はその水を半分程と、自分の持っていた水筒の水を全てすり鉢の中に注ぎ、かき混ぜる。
すり鉢の中に、良質の抹茶を思わせる綺麗な草色の液体が出来上がった。
それを眺めて満足そうに頷くと、内藤はまるで茶の湯のように自らの前ですり鉢を三回回すと、両手で恭しく男の前に差し出した。
( ^ω^)「どうぞ。」
「は?」
( ^ω^)「だから、どうぞ。」
男はわけも分からないまま、内藤の差し出したすり鉢の端に口をつけ、舌先を恐る恐る液体に沈め・・・・・・・・・
「苦ッ!!!!!!!!!」
( ^ω^)「何やってるんですか。そんなの飲んだらお腹壊しますお。蟲避けの薬だから体に塗ってくださいお。」
「・・・・・・・・・・・・。」
白々しくそう言う内藤に、男は内心で「絶対わざと飲み物と勘違いするように差し出しただろう」と思いつつも、口には出さずに恨めしげな視線を向けるにとどめておく。
内心では毒づきながらも、村長から「山の中ではできるだけこの蟲師の先生の言う事を守るように」と言いつけられている手前、大人しく服から露出している手足、顔にその液体を塗りたくっていく。
「・・・・・・・・・土臭い。」
( ^ω^)「匂いは我慢してくださいお。あと、主と遭遇しても声は出さないようにしてくださいお。その薬は蟲の目を誤魔化しますが、声から感ずかれる恐れがありますお。」
そう言うと、今度は内藤がすり鉢を手にして、その中身を自分に塗りたくっていく。
( ^ω^)「それじゃあ行きますかお。」
さっさと山へと入っていく内藤の後姿を眺めつつも、自分と内藤の体から漂う土と草のむせ返るような濃い匂いに、男は早くも引き返したくなった。
先にそれの接近に気がついたのは猟師の男の方だった。
流石にこの山を歩き回り、獲物を追う事が生活の一部になっているだけあって、この山の中の事は男の方が詳しいようだ。
だから、問題の川辺で男の表情が強張ったとき、内藤はそれの接近を知ることが出来た。
男はそれの存在を視認できたわけではない。だが、幼い頃から山で育ち、山を仕事場として生きてきた男の勘が、その圧倒的な存在感を放つ生物の接近を感じていた。
それ―――山の主とも山の神とも呼ばれる蟲は、彼等に気づかれる事無く彼等に接近していた。
内藤が気づいたときには、それは既に川辺で川の水を眺めていた彼等の対岸まで来て川の水を啜っていた。
この山は火山で、昔に噴火でもあったのだろう。そこら中に玄武岩等の噴出した溶岩が急冷してできたと思われる火山岩が転がっている。
その火山岩の上から川の水に口先を沈めている山の主は、その巨体とも相まって威風堂々、自然と一体化した芸術性すらも漂わせていた。
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!!」
手を伸ばせば触れられる程の距離とまではいかないが、川を挟んで一丈(約3.03メートル)程先に緑色の巨体がある。
主の体長もこれまた一丈(約3.03メートル)程だろうか。言われて見れば虎に似ているが、その体に縞の模様は無い。
ならば何に似ているのかと聞かれれば、正直首を傾げざるを得ないのだが・・・。
(:^ω^)(やっべ。虎ってこんなでかいのかお。こりゃ主とか神とか関係なしに、襲われたら楽に死ねるお・・・。)
先ほど調合した薬のおかげで、主は彼らに気づいてはいない。
今も対岸で自分を観察する者達がいるなどとは夢にも思わず、川から水をすすり続けている。
(:^ω^)(成る程、気配からして普通の獣じゃないお。見たところ火山岩だらけのこの山がここまで緑で埋まってるのも、光脈筋とこの主のおかげみたいだお。)
内藤は隣の男へと目線で「音を立てないように」と伝えるが、男はそんな内藤の視線など目に入らない様子で震えている。
おそらく、これほどの至近距離でこの山の主を見るのは初めてなのだろう。
青ざめて震えている。
その時、山の主のが川から顔をあげた。
それはただの偶然でだったのだろうし、主もただ水をすするのを一息つけて、なんとなしに対岸を眺めていただけなのかもしれない。
しかし、その主の何気ない行動が男に与えた恐怖は大きかった。
「・・・・・・・・・ッッッッ!!!!!」
男の喉の奥から、「ヒッ」と「ハッ」の中間のようなかすれた音が漏れた。
(:^ω^)(あ、バーロー。声だすなって言ったのに・・・。)
音に敏感に反応して、主が音の発生源へと目を向ける。
そこには先ほどまでは視認できなかった男たちの姿。
調合した薬で意識を逸らして自分たちの存在を感知される事を免れてきたが、音から存在を感知されては、もう意識を逸らし続けることはできない。
どこを眺めるでもなく、あちらこちらへ動いていた山の主の視線が固定された。
だが、それからの男の行動は迅速だった。
幼いころから父親の猟についていき、山での生き方を学んできた男の体は、恐怖の中でもしっかりと今まで積み上げてきたそれらを無意識のうちに使っていた。
ほとんど反射とも言える動作で男の手が猟銃を構えて発射。
山の主は銃口が自分にぴたりと据えられた瞬間、その場から飛びのき事なきを得るが、再び男の銃口が動くと、一目散にその場から駆け出した。
しかし、恐怖に囚われた男の手は止まらない。
(:^ω^)「ちょっと待つお!!!」
山の主を殺してはならない。
主の変調や死はそのまま山の変調、死へと繋がる。
内藤が急いで静止するが、男の猟銃からはすでに銃弾が放たれていた。
銃弾は一直線に、背を向けて逃げ去る山の主へ追いつき、食らいついた、が―――
「・・・・・・・・・・・・。はずした・・・・・・?」
確かに銃弾は主の体を捉えたはずだったが、山の奥、主の逃げていった先には死体どころか血一滴たりとも流れていない。
山に変調が見られないことからも、主に以上が無いのは明らかだ。
(:^ω^)(・・・どういう事だお?)
内藤は怪訝そうな顔で、弾丸が主に食らいついたと思われる地点まで歩いていく。
( ^ω^)(しかしあの主、弾が当たった瞬間に消えたように見えたお。)
首をひねりつつ周囲を見渡すと、そばに大量の落ち葉が集まっているのが見えた。落ち葉だというのに、つい先ほどまで木についていたかのように、やけにみずみずしい。
落ちていた落ち葉の内、一枚を背負った薬籠に入っていた瓶の中へと入れると、内藤は背後で固まったままの男へと振り返った。
男は山の主とあれほどの至近距離で遭遇したショックからか、銃を構えたまま呆然としていた。
( ^ω^)「そろそろ日が落ちてきたし、さっさと下山するお。」
「え・・・?あっ、はい。」
( ^ω^)「・・・落ち葉・・・・、か。」
村に帰った内藤はさっそく村長に、主と遭遇した事を話した。
しばらくこの村に留まる事になりそうだと告げると、村長は快く自分の家の空いている部屋を貸してくれた。
その夜、村を地震が襲った。
それほど大きな揺れではなかったが、小さくもない。
(;^ω^)「・・・・・・・・・なッ!!!」
揺れる地面に仰天した内藤が布団から飛び起きる。
飛び起きた頃にはもう地震は収まっているのだが、周囲の様子を見るためにふすまを開けて部屋から出る。
「内藤先生、ご無事でしたか。」
(;^ω^)「村長さん、地震が・・・」
「ええ、このところどうも多くて。これも山の神様のお怒りなのでしょうか・・・」
(;^ω^)「・・・・・・・・・・・・。」
「とりあえず収まったようですし、今日の疲れをとるためにももうお休みください。」
(;^ω^)「はあ・・・・・・。」
内藤が頷くと、村長は自分の部屋へと戻って行った。
わざわざ内藤を心配して様子を見に来てくれたらしい。
それとも、なにがなんでも内藤に山の主を鎮めてもらうためにも怪我を負ってもらっては困る、といったところか。
( ^ω^)「ん?」
部屋に戻ろうとふすまに手をかけたその時、内藤の視界の隅を何かが横切った。
( ^ω^)「?」
そのまま寝てもよかったが、なんとなく横切った何かを目で追った。
( ^ω^)「子供・・・・・・?」
先ほど内藤の視界を横切ったのは、昼に内藤につっかかってきたあのヒノデという子供だった。
こんな夜中に何をするつもりなのか、山へと続く道を歩いていく。
( ^ω^)「・・・・・・・・・。」
ヒノデは夜の山をひたすら歩き続けていた。
夜の山は危険だが、山のとある場所とその周辺に関しては危険は無い。
道に迷う心配はあるかもしれないが、幼い頃から山を駆け回って遊んできた彼が山で迷うなどと言う事はまずありえない事だと思っていたし、獣に襲われる心配も無い。
獣たちは知っているのだ。
その場所に何が居るのか。
「・・・・・・・・・。
やがて、木々の間を抜けると少し開けた場所に出る。
その場所の中心には一本の巨大な木。
まるで木々がその巨木に遠慮しているかのように、巨木の周りはただ落ち葉だけが広がっている。
「なあ神様、なんで―――」
( ^ω^)「へぇ・・・、これがこの山の主かお。」
「−――――ッ!!!!!!」
いつの間にかヒノデの後ろに昼間会った内藤という男が現れていた。
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