『
きっと、間違っちゃったんじゃないかなぁ、と、思う。
間違っちゃったから、色んなことがとても難しくて。
周りを見渡したら、足元さえ見えなくなるような真っ暗闇で。
間違っちゃったから、私みたいな失敗作が出来ちゃうんだ。
私は失敗作だから、もちろんそれは不用品で。
誰も私に話しかけないし。
誰も私を求めない。
ずっと、一人で。
多分、いつまでもその繰り返し。
どうして私だけなんだろう。
どうして他の人は違うんだろう。
こんなふうにはなりたくなかった。
こんな思いはしたくなかった。
でも、しょうがないね。
間違っちゃったんだから。
だから、わたしは
』
ξ゚听)ξ壁殴り代行始めました 案件7:古山フサギコ様
壁の時計がシャッチャッ、シャッチャッ、機械的なリズムを刻む。
長い針は3の上に止まっていて、短い針は2より少し先に進んでいるから、
多分今は午後二時十五分なんだろうと思う。
ξ゚听)ξ……。
ぼんやり眺めていた19インチの液晶画面の中から、突然誰かに呼ばれた気がしたのでハイと返事をしたけれど、
応答がなかったので、呼ばれたのはテレビの中の別の誰かでそれを勘違いしたんだと分かった。
皮膚細胞から半径5cm以上先の世界をシャットアウトしているので、
こういう勘違いは稀にあるのだけれどそれは本当に時々のことで、
大体の他の出来事は問題なく進むから、思考を閉じて機械みたいになるのは凄く楽だ。
1が来たら回路を開いて、0が来たら回路を閉じる。
コンピュータみたいになれば余計なことを考えなくて良いから、それは凄く楽なことだ。
ξ゚听)ξ……。
長い針が270度進んで短い針が3の上に来たら所長が帰ってきて、
そうしたらすぐに車で依頼人のところに向かうことになっている。
依頼人というのはあのフサギコという刑事のことで、
一昨日事務所で私が一人留守番してるときに菓子箱を持ってたずねて来たのだ。
所長は留守なのだと言うと仕事を頼みに来たのだがそれなら予約は出来るかと聞かれたので、
いつが良いのかと言ったら二日後ならあいているということだった。
所長のスケジュールは把握していたので午後なら大丈夫だと返事をするとじゃあそれで、と頷いて、
これはこの前迷惑をかけたお詫びだといってヨックモックのお菓子の詰め合わせの箱を置いて帰っていった。
帰りぎわに補修された窓枠と新しく備え付けられた上り棒のことを聞かれたので
消防署の真似だろうといったら凄く笑って、ぜひ一度試させてくれと言うので
私の物ではないので許すも許さないもないから好きにしてくださいと言ったら変な顔をされて
何か嫌なことでもあったのか? と聞かれた。
よく分からなかったのでよく分からないと返事をしたら、そうか、と言って黙り込んでしまったので
これはシステムがエラーを起こして何か間違ったことを言ってしまったのだろうと思って
ごめんなさいと言ったら、何がだ? と言われて不思議そうな顔をされたので
わけが分からなくて凄く混乱して緊張した。
ξ゚听)ξ……。
コンピュータになるのは凄く楽なことだけど、時々そういう食い違いが起きてとても混乱してしまうから
そのことは嫌だなぁと思うのだけれど、
私は出来損ないだからコンピュータにならないと他の人に迷惑がかかるし自分も疲れてしまうから
それは仕方のないことなんだと思う。
ξ゚听)ξ……。
シャッチャッ。シャッチャッ。
長い針がゆっくり進むので、いっそ寝てしまおうかと思ったけれど、
今睡眠をとってしまうと夜眠れなくなってしまうのでやっぱり起きていることにした。
コンピュータになるのは楽なことだけど、簡単に出来ることではない。
特に真夜中に布団の中で目を閉じていると嫌なことをいっぱい考えてしまうし
それは凄く悲しくて辛いことだからコンピュータになって思考を閉じてしまおうと思うのだけれど
そうするのはどうしても昼間より夜のほうが難しくて、だから夜眠れなくなってしまうのは嫌だ。
ξ゚听)ξ……。
誰かのせいにしたいけれどやっぱりおしまいにはいつも自分が悪いんだって分かってしまうから、
そういう嫌なことをたくさん考えてしまうから夜眠れなくなるのは本当に恐くて嫌なことだ。
メロディはあるのに私にだけそれは聞こえなくてみんなみたいに上手に踊れないのは、
結局自分が出来損ないだからなんだということが分かってしまうからそれは本当に悲しくて辛いことだ。
『どうして上手くいかないんだろう』
ξ゚听)ξクズだからでしょ。
『どうしてそうなんだろう』
ξ゚听)ξ生まれたときから決まってるんだよ。
『そんなのって、
ひどい
よ』
ξ゚听)ξどうしようもないでしょ、あきらめなよ。
誰の責任でもない。自分のせいなんだから。結局、自分が悪いんだよ。
『……何
が悪い
の』
ξ゚听)ξ間違っちゃったこと。
『……何
が
間違い
だっ の?
た 』
ξ゚听)ξ……分かってんだから、聞くなよ。アホか。
ξ゚听)ξ……。
でも思考を閉ざしてコンピュータになればそういうことは考えなくてすむ。
○.×.イエス.ノー.T.F.はい.いいえ.
1.1.1.1.1.1.0.null.
受け取って、返すだけ。凄く楽だ。
コンピュータに、なりたいと思う。
ξ゚听)ξ……。
シャッチャッ。シャッチャッ。
短い針がゆっくりゆっくり進むので、やることがなくて困ってしまう。
コンピュータになるのは楽なことだけど、簡単に出来ることではないのだ。
やることがなくなるとどうしても余計なことを考えてしまうから、
そういう時は頭の中の記憶の箱から良い思い出だけを取り出して、綺麗に並べてそのことだけを考えようとする。
六歳の誕生日プレゼントに、大好きだったくまのプーさんのぬいぐるみを飼ってもらったこと。
その次の年のクリスマスに、ディズニーランドに連れて行ってもらったこと。
二年生のときの図工の時間に、絵の具で描いたセーラームーンの絵が上手だって、先生が誉めてくれたこと。
五年生の夏休みに、初めて水に顔をつけたまま十五メートル泳げたこと。
六年生の卒業式の日に、同じクラスの男の子が、私のことが好きだっていってくれたこと。
ξ゚听)ξ……。
そういう良い思い出だけを丁寧に取り出して、じっくりそのことについて考える。
何度も何度も繰り返してきたことだから、今は擦り切れてすっかりボロボロになってしまったそれらの記憶だけれど、
それでもやっぱりなんだか幸せな気分になって、だからコンピュータになれないときはそうやって時間を潰す。
そうすると時計の針が少しずつ進んで、色んなことがゆっくりゆっくり後ろに流れていく。
ξ゚听)ξ……。
ドッ。ドッ。ドッ。ドッ。
外の階段を上る足音が聞こえるから、多分所長が帰ってきたのだろう。
ドッ。ドッ。ドッ。ドッ。ガチャリ。
事務所の入り口のノブが回って、ドアが開く。
(´・ω・`)ただいまぁん♪ 留守番ご苦労様ぁん!
『1.』
ξ゚听)ξはい。
(´・ω・`)留守中、何かあったかしらぁん?
『0.』
ξ゚听)ξいいえ。
(´・ω・`)そう、じゃ、お仕事いきましょうかしらねん!
『1.』
ξ゚听)ξはい。
凄く、楽だ。
(´・ω・`)〜♪
ξ゚听)ξ……。
車のエンジン音は規則正しくて分かりやすいから好きだ。こういう音楽があったらいいなぁと思う。
昔読んだ小説の中で、音楽の根幹にあるのは現実には存在しないものへの渇望で、
それは言い換えれば現実逃避だから俺は音楽が嫌いなんだと言う主人公が居たけれど、
それと全く同じ理由で私は音楽が好きだ。
妄想や逃避は弱い人間のすることかもしれないけれど、誰にも迷惑をかけないし私自身も傷付かないから好きだ。
(´・ω・`)〜♪
ξ゚听)ξ……。
ハンドルを握る所長の表情を横目で伺いながら、私はこの人に傷付けられたのだろうかと自問する。
そうかもしれない、と、答える。
初めてのアルバイトの日、あの帰り際の夕闇に包まれた駅前のロータリーで私は多分、期待してしまったのだのだと思う。
この人の穏やかで優しい眼にまともに見つめられて、もうずいぶん長い間、そういう風に私をちゃんと見てくれる人は居なかったから、
それがなんだか凄く嬉しかったのだと思う。何かが始まるような気がしたのだと思う。
(´・ω・`)〜♪
ξ゚听)ξ……。
でもそれはただの勘違いで、やっぱりいつもと同じことの繰り返しなんだと分かってしまったから傷付いたのだろう。
だけどそれは勝手に期待してしまった私が馬鹿だっただけでもちろんこの人の責任などではないのだから、
結局私が間違っていただけなのだけれど。
期待しなければ失望しないし、関わらなければ傷付かない。
そんなこと、初めから分かってたはずなのに。
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)うぅん? どうしたのん? 顔に、何かついてるかしらぁん?
『0.』
ξ゚听)ξいいえ。
いつも、その繰り返し。
(´・ω・`)さってと、ついたわねぇん。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
腕時計を見たら三時二十三分だった。それは去年の冬に買ったウィッカの時計で、
値段は少し高かったのだけれどブレスレットみたいにつけられるのが可愛くてそれを買うことに決めたのだ。
ピンクがかった文字盤の色もあまり派手すぎないデザインも、私の好みだった。
シャッチャッ。シャッチャッ。
左手首に神経を集中すると皮膚の上で一秒一秒時計の秒針が正確に動いているのが分かって
その規則的なリズムは、私を落ち着かせてくれる。
混乱したり緊張したりしたときは頭の中で時計のリズムを数えると回路に正常に電気が流れて、
そうすると上手にコンピュータになれるから、腕時計の秒針の小さな小さな振動は私を凄く落ち着かせてくれる。
(´・ω・`)えぇとぅ、404号室……。あんまりいい番号じゃないわねぇん。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
ドッ、トン。ドッ、トン。ドッ、トン。
所長の後ろについて、その大きな団地の一棟の階段を登っていく。
壁にさえぎられて外の光が少ししか差し込まないためにひどく薄暗く感じるその空間に、私たちの立てる靴音が妙に響く。
手すりと支柱をかねた壁面は黄ばんでいて凹凸があり不注意でそこに擦ってしまった手のひらが少し、痛かった。
ドッ、トン。ドッ、トン。
(´・ω・`)ふぅ……。とうちゃーく。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)……ピンポーン♪
<……。
灰色の塗装がところどころはげかかった玄関ドアの向こう側でドタドタとあわただしい気配があって、
金属製の扉が重そうな音を立てて内側から押し開かれた。見覚えのある男の顔がそこに覗く。
ミ,,゚Д゚彡……あっ、どうも! ご苦労様です!
(´・ω・`)はぁいん♪ 壁殴り代行サービスでぇっす♪
ミ,,゚Д゚彡お待ちしてました! どうぞどうぞ!
(´・ω・`)はぁいん♪ お邪魔しまぁっす。
『1.』
ペコリξ゚听)ξ失礼します。
促されて私も、沓摺りを跨ぐ。
短い廊下を渡り、五畳間の和室に通された。
中央に濃茶の座卓が置いてあり、手際よく座布団を並べた男が、私たちに座に着くよう勧める。
そうしておいて自分は部屋の隅に置いてあった電気ポットに手を伸ばし、三人分のお茶を淹れる。
ミ,,゚Д゚彡すいませんね、こんなカッコで。久しぶりに休み貰ったんで、グダグダしちゃってて。
紺色の上下のスウェット姿で、そういって男がぼんのくぼに手をやって照れくさそうに笑った。
卓に置かれた湯飲み茶碗から、白い湯気が昇っている。少し室温が低いのかもしれない。
(´・ω・`)あらぁん。そんなの、気にしなくていいわよぅ。それで、今日はどうしようかしらぁん?
ミ,,゚Д゚彡はい、その……。最近どうにも疲れがたまってるて言うか……。
ちょっと息抜きが必要だな、と思いまして。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
このアルバイトを始めてから私はたくさんの、問題を抱える人たちを見てきた。
夫の不倫に悩む主婦、竹馬の友と喧嘩してしまった老人、義理の父親との確執を背負った息子、
仕事が無くて嘆くお笑い芸人からなんていう依頼もあった。
(´・ω・`)……そうなのぉん。
ミ,,゚Д゚彡いやぁ、はは……。やっぱりこんな仕事だと、どうしても人様の嫌なとこばっか目に付いてしまって。
(´・ω・`)ああ、そうよねぇん。刑事さんって、大変なお仕事よねぇん。
ミ,,゚Д゚彡いやいや、代行師の方達とは比べるのもおこがましいくらいなもんなんですがね、はは。
(´・ω・`)あらぁん、そんなことないわよぅ。
ミ,,゚Д゚彡いや、大げさ言ってるわけじゃなくて、うわさには聞いてましたけど実際目にしてみると、やっぱ凄いっすね。
あの一件はカルチャーショックっつか、実際。……あっ、その節は本当にご迷惑かけてしまって。
(´・ω・`)あらぁん! かまわないのよぅ! 私だって、和ませてもらったし、その上お菓子までいただいちゃってぇん。
ミ,,゚Д゚彡あー、いや、はは、ホントお恥ずかしい。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
そういう人たちを目の前にして無意識のうちに私は、ある種の不思議な心地よさを感じていたのだと思う。
自分だけが不幸なわけじゃないんだという、後ろ向きの安心感。
所長が拳ひとつで次から次へとそういった依頼人達の悩みを吹き飛ばしていくのを見て、
どうしてか憎らしい気持ちを覚えたりしたのは、だからきっと、嫉妬していたんだと思う。
顔まで泥に浸かって息が出来ない私の目の前で、いとも簡単にその底なし沼から抜け出していく彼らを見て、嫉妬していたんだと思う。
出来れば彼らにもっとひどい思いをしてほしくて、
だから全部が済んで吹っ切れたように晴れやかに笑う人たちを見て、憎悪したんだと思う。
どこまでも、最低な人間だと、思う。
シャッチャッ。シャッチャッ。1.0.1.0.
ξ゚听)ξ……。
嫌なことを考えそうになると皮膚細胞から半径5cm以上先の世界をシャットアウトして、機械みたいになろうとする。
思考を閉ざして何も見ないで、コンピュータになろうとする。それで大抵のことはうまくやり過ごせる。
ミ,,゚Д゚彡……それで、今日はひとつ、自分も壁殴り代行業をお願いしたいと思った次第でして。
左のこめかみの辺りを指でなぞりながら、男がそう言った。
(´・ω・`)そうねぇん。そしたらやっぱり貴方は、イットキハチャメチャコースがいいと思うわよぅ!
ミ,,゚Д゚彡ハッ、ハチャメチャコース……ですか?
(´・ω・`)そうよぅ! これはねぇん、お客様自身も壁殴りに参加してもらうってコースなのん。
ミ,,゚Д゚彡えっ!? 自分でやるんすかっ?
(´・ω・`)もちろん仕上げは私がやるんだけどねぇん、たまには貴方も破目をはずしてたのしまないと駄目よぅ!
ミ,,゚Д゚彡おお、そいつは……俺なんかに、うまく出来ますかね。
(´・ω・`)モッチのロンよぅ! それじゃぁ、早速トライしてみましょう!
『null.』
ξ゚听)ξ……。
そこまで話して所長と男が立ち上がったので、私もそれに従った。
自分で考えないで回れ右だけしていれば、それで大抵のことはうまくやり過ごせる。
ミ,,゚Д゚彡こちら側の壁だったら、突き抜けても向こうは台所なんで。
和室の、その鶯色のザラザラした壁面に片手をついて男が言った。
(´・ω・`)オッケーねぇん! じゃ、はじめましょう!
ミ,,゚Д゚彡はい! お願いします!
両の拳を固めて壁に向かい合い、テレビで見たことのあるファイティングポーズをとる。
左足を前にして肩幅よりすこし大きめの間隔で足を開き、左拳を目線の高さに持ってきて右拳はあごを守るようにしている。
綺麗に腰が落ちていて全身が張り詰めて見えるのに全然緊張しているようではなかったから、
もしかしたらなにか格闘技の経験があるのかもしれないと思ったけれど、私にはそういうことは分からない。
(´・ω・`)大事なのはフラストレイションを打ち出すんだって気持ちなのん。
そういう気分になれれば、殴る強さはあまり問題じゃないのよぅ。
あんまり力を入れすぎて、手首を傷めないようにねん! さ、やってみてちょうだいん!
ミ,,゚Д゚彡ようし……フッ!!!
言われて男が、右拳を壁に突き出す。コン。と軽い音がした。
(´・ω・`)……いいじゃない、その調子!
ミ,,゚Д゚彡ハハッそうっすか……じゃ、もういっちょうっ!!
コォン。
(´・ω・`)グゥレイト!! どんどん行きましょう!!
ミ,,゚Д゚彡ふっ!! ふっ!! ふっ!!
コン。コォン。ゴン。
段々重い音が混じる。
(´・ω・`)最高よぅ!! 声も出しましょう!!
ミ#゚Д゚彡オラッ!! オラッ!! オラッ!!
ドォン。ドォン。ドォン。
衝撃の振動で、床がピリピリと小さく震える。
(´・ω・`)気持ちを込めてっ!! もっと強く! もっと強く!!!
ミ#゚Д゚彡オオオオオオオッ!!!!
ドドドドドド……。
男の拳が、何度も何度も壁にたたきつけられる。何度も、何度も。
(#´・ω・`)エクセレントよぅッ!! いくわよおおおおうっ!!!
(#´゚ω゚`)らぶりいいいいいいいいッ!!!!
ミ#゚Д゚彡いくぞっ!!!! 滝ッ!!!!!
『null.』
ξ゚听)ξ……。
(#´゚ω゚`)ちゃあみいいいいいいいッ!!!!
ミ#゚Д゚彡おおっ!! 来いっ!! 本郷っ!!
『null.』
ξ゚听)ξ……。
(#´゚ω゚`)ばあああああいばああああいッ!!!!
ミ#゚Д゚彡おおおおおおっ!!!!
鶯色の壁が、打撃の衝撃に負けて打ち抜かれる。
突き破られた壁の穴の向こうに、流し台の水道の蛇口が見えた。
バシュウウウン(((((((´・ω・`)))))))……ふぅ。
ミ*,゚Д゚彡はっは! すっげええええ!!
男が、両手を打ち鳴らして歓声を上げる。
パチッ(´・ω-`)^☆ うふふ、今日も絶好調ねん♪
ミ,,゚Д゚彡いや、ほんと! お願いしてよかったです! すっげえ!
(´・ω・`)うふふ。それほどでもないわよぉん。ご満足いただけたかしらぁん?
ミ,,゚Д゚彡はい!! ありがとうございます!!
(´・ω・`)うふふ、どういたしましてぇん。
それじゃぁ、イットキハチャメチャコースで、お会計4200円頂戴いたしまぁっす♪
ミ,,゚Д゚彡えーと……4000と……200、と。これで!
(´・ω・`)はぁい、確かに。 じゃ、ツンちゃん領収書、おねがいねぇん!
『1.』
ξ゚听)ξはい。
ミ,,゚Д゚彡おお……。ご苦労さん!
『1.』
ペコリξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)うふふ。じゃ、私たちはこれでぇん。
ミ,,゚Д゚彡はい。ありがとうございました!
(´・ω・`)ありがとうございましたぁん! またよろしくねぇん♪
『1.』
ペコリξ゚听)ξ……。
大抵のことはうまく、やり過ごせる。
団地の階段をおりきったところで所長が振り返り、後に続いていた私の顔をまじまじと見つめ
困ったような微笑を浮かべて何かいいたそうな表情をしていてたけれど
結局何も言わずに駐車場の方へ歩き出したので、私もその後へ従った。
(´・ω・`)……さ、帰りましょうかしらぁん。
『1.』
ξ゚听)ξはい。
私たちを乗せて走り出したマーチの車内にはどこかしらぎこちない雰囲気が漂っていて、緊張した。
シャッチャッ。シャッチャッ。
先ほど、この人は何を言いかけたのだろうと思って緊張して混乱しそうになったので、
左手首に神経を集中して時計のリズムに身を任せる。
シャッチャッ。シャッチャッ。
凄く、落ち着く。
(´・ω・`)……。
ξ゚听)ξ……。
バックミラーにぶら下がったキティちゃんのちいさな人形が、車の振動に合わせてぶらりぶらりとゆれるのを見ているうちに、
家に帰る前にコンビニでお酒を買わなければいけなかったことを思い出した。
アルコールを美味しいと感じたことはないけれど、酔ってしまえば何も考えないですぐに眠れるので便利だから好きだ。
次の日に残るくらいに飲まないと酔えないので二日酔いになってしまってそのことは嫌だなぁとは思うのだけれど、
夜眠れなくなるのは本当に恐ろしいことだから、それは仕方のないことなんだと思う。
(´・ω・`)ふう……。とうちゃーく。
『1.』
ξ゚听)ξありがとうございました。
駅前のバスターミナルまで降ろしてもらい、時計を見たらまだ午後五時五分前だった。
(´・ω・`)あのね、ツンちゃん……。
帰ろうとする私の耳に、肩越しの所長の呼び止める声が聞こえた。
『1.』
ξ゚听)ξはい。
(´・ω・`)……。
『null.』
ξ゚听)ξ……。
(´・ω・`)……今日も、お疲れさま♪。
『1.』
ξ゚听)ξ……はい。お疲れ様です。
一礼してきびすを返し、歩く。コンビニでお酒を買って帰ろうと思う。
早く帰ろうと、思う。
(´・ω・`)……。
(´・ω・`)……ふう。
(´・ω・`)……はやいとこ、なんとか、しなくちゃねぇん。
領 収 書
古山フサギコ 様
¥ 4, 200 −
但し イットキハチャメチャコース
上記金額正に領収致しました
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