( ^ω^)の涙のようです




まだ真新しい木材の香りが立ちこめる新居の一室で、ブーンはさめざめと泣いていた。
もう晩秋も近いというこの時期にしてはひどい薄着でいる。声をあげるたびに肩が震え
るのは、決して寒さのせいだけではなかった。

( ;ω;)「うっうっ……寂しいお。……みんなに会いたいお……」

自分専用に割り当てられた2階の8畳間でブーンは呟いた。


内藤ホライゾン、通称ブーン。今年で中学一年生になった13歳。

体型はやや肥満。健康状態極めて良好。

 そんな彼の父親が夢にまで見ていた新築の一軒家に引っ越して
きたのは、3ヶ月前の夏休みのことだった。

 “新しい家を買ったぞ”父親はそう誇らしげにブーンとブーンの母
親である己の妻に言った。

ブーンはそれまでに住んでいた古い2DKのアパートに愛着があっ
たが、新しい一軒家と自分専用の部屋という魅力に一も二もなく喜んだ。


しかし、ブーンには父親達にはない問題があった。

学校を転校しなければならないという問題だ。

父親はいい。住む場所が違えど、会社までの通勤時間はさほど変わらず、
むしろ最寄りの駅までが近くなったと両手をあげていた。

母親もいい。それまでに住んでいたアパートには、友人と呼べるような近所
付き合いはなく、やはり買い物をするのに便利になったと両手をあげていた。

しかし、ブーンは違う。

ブーンには駅が近いとか、買い物が便利だとかいう大人の事情は関係ない。

ブーンにとっての一大事は、つまり友人と離れ離れになってしまうという事だ。

みなで作り上げた秘密基地を、みなでカブトムシを採りに行ったブナ林を、
その全てを手放さなければならないという事だった。


友人たちは涙ながらに別れを惜しんでくれ、ブーンもそれに
やはり涙ながらに応えた。

その別離の辛さに比べれば、広い一軒家や、自室を手に入
れるなどというのは些末な事だと知った。

特に引っ越ししたてはその辛さが顕著だった。

何しろ夏である。夏休みである。

学校もなく友人もいなくなってしまったブーンは、毎日を無為
に過ごしていた。暇を持て余していた。

人生で一番つまらない夏休みだった。

別離を惜しみあった友人に会いにいこうと思うも、2つ隣の県ま
で電車を乗り継いでいくのは今年小学校を卒業したばかりのブー
ンにとっては酷な話だった。


幸い以前住んでいた場所よりも若干都会だったため、本屋や
ゲームセンターに通うということも出来たが、それもすぐに飽きた。

なにをするにしろ、楽しみや喜びを共有できる者がいなければ面
白くない。

だけども、とブーンは思った。

だけどもこの茶葉の搾りカスのような夏休みが終わり、学校が始
まれば、自然と友達ができるはずだ。

以前の様に気の置けない仲間たちと楽しい毎日を送れるはずだ。


いや、それどころか転校生ということで人気者になれるかもしれない。
最初の掴みさえ間違えなければ、彼女を作ることだって夢じゃない。

そう思うと心が弾んだ。始業式よ早く来い。夏、おまえはもういい、終
われ。来年また構ってやるから。

ブーンはおおよその同年代とは反対に、夏休みが一刻も早く終わる
ことを待ち望んでいた。

そして、始業式。全校をあげての式ということで、なかなか厳かな雰
囲気に包まれている。

これから同窓になるかもしれない生徒達がチラチラとこちらを伺っている。


まだだ、まだ焦るな。

今のこの状況ではまだ仲良くなりようがない。勝負はクラスごと
のホームルームに入り、担任が自分のことを同窓生に紹介した時だ。

そこで自分がエスプリの効いたジョークを言う。クラス中が笑いの渦
に包まれる。

完璧だ。

なにせ自分は転校生である。みな自分に興味津々のはずだ。自然と
笑いの沸点も低くなる。よし、予定通りにいけばあと10分足らずで自分
は人気者だ。ブーンはそう算段した。

 そしてブーンが振り当てられた1−2のクラス。メガネをかけた神経質
そうな担任に引き連れられ教室に入ってみると、クラスメイトは既に着
席していた。

 ブーンは教壇の前に立つ。


 ……あれ? おかしい。緊張してきた。あれほど念入りに計画して
いたのに、頭の中が真っ白になる。

 担任が言う、「今日からこの学校に転校して来た内藤君だ」と。ブー
ンにはその声がどこか遠くから聞こえてくるように感じられた。

 「内藤君、自己紹介しなさい」と促される。よし、今だ。言え。事前に
決めておいた自己紹介をしろ。みなを笑いの渦に巻き込んでやれ。
さぁ、今だ。

 ……あれ?

 何だ? わけがわからない。何で声がでないんだ? 膝が震える
んだ? なぜ?
 


 ブーンの喉からは息が漏れるだけだった。手にじっとりと汗をかく。
およそ80個の瞳に見つめられ、ブーンは自分を見失っていた。

 「内藤君?」担任のメガネが不審そうな目で見てくる。うるさい、今
から僕が喋るんだ。黙ってろ。

(;^ω^)「きょ、きょうから、この、クラスに……」
 
 そこまで言って、眩暈を覚える。

 思ったとおりに声が出ない。倒れてしまいたくなる。最早計画は破綻
した。

 ブーンはそこから先の言葉を継ぐことが出来なかった。


 やってしまった。

 とにかくやってしまった。

 最悪だ。人気者になるどころじゃない。

 自分を呪った。肝心なところで緊張しやがって、クラスメイトから
の第一印象は最悪だったに違いない。結局、黙り込んだままで、最
終的には担任にまとめてもらっていたじゃないか。何が人気者だ、笑
わせるな。

 ブーンは強く自分を叱責した。一時限目の授業中はずっと頭を抱え
ながら自分を罵倒し続けた。

 だが、まだ挽回のチャンスはある。

 この授業が終わったら、きっとクラスメイトの何人かは自分の席に来
て、質問をしてくるはずだ。そこでさっきの失敗を取り返せばいい。おま
え、本当にこれが最後のチャンスだぞ? ここでしっかりやらなきゃ、こ
の学校での生活が陰鬱なものになると思え。


 そう言い聞かせ、休み時間になるのを待った。

 そして授業が終わり、全員で教師に礼をする。ブーンに
とってはここからが本番だ。

(*゚―゚)「ねぇねぇ、内藤君」

 ほら、来た。最初の会話相手はおとなしそうな女の子だ。
ブーンは座ったまま視線だけをその女の子に合わせる。

( ^ω^)「お?」

(*゚―゚)「内藤君ってどこから転校して来たの? この近くの
学校?」

 質問だ。ここは無難でいい。きっちりと答えて、和やかな空
気になったら自分のひょうきんさを見せ付けてやれ。

 しかし。

(;^ω^)「おっ、おっ。えっと、お……」

(*゚―゚)「?」

(;^ω^)「あの……」

 ダメだ。うまく言葉になってくれない。


 なぜこんな簡単な質問に答えられないんだ。

 女の子は怪訝そうな顔をしている。そして相変わらず黙ったまま
でいるブーンを一瞥すると、自分の席に戻ってしまった。


 終了。


 何もかもが、終了。

 ブーンは目の前が真っ暗になった。世界がぐるぐる回っている。吐き
気すらも感じた。

 そしてやおらに立ち上がると荷物を掴み、教室を飛び出した。みな不
思議そうな目をしてブーンを見たが、今のブーンはそれすらも気付かない。

 ただ、一刻も早くこの場から逃げ出したかった。


 自室に戻ると、ブーンは荷物を放り投げベッドにうつ伏せに横たわ
り、泣いた。

 何で? 何でうまく喋れないんだ? 前は、ここに来る前は普通に
やっていたことじゃないか。普通に気さくに仲間と笑いあっていたじゃ
ないか。それがどうして出来ない?

 ブーンは泣いた。もうどうしたらいいのか分からない。友達の作り方
がわからない。

 この間まで仲良くしていた奴らとは普通に友達になれていたじゃな
いか。やり方は忘れた。なにせ小学校低学年の話だ。でも、仲良くし
てたって事は、つまり何かしら会話をして友達になったはずだ。それ
がなぜ今できない?

 県民性の違い? 転校生だから? 馬鹿馬鹿しい。だって、彼らは
自分から話しかけてくれたじゃないか。お客様扱いだ。すすんで話し
かけに行くよりよっぽど会話を成立させやすいはずだ。ダメだったの
はおまえだ。自分自身だ。


 ブーンは自分に失望していた。

 この間まで友達がいたのは、つまり過去の自分の手柄であって、
今の自分は満足に他人とコミュニケーションをとることすら出来ない
不能野郎。

 ぬるぬると優しくしてくれた友人達の陰で、自分はこんなにも他人と
関われない奴になっていたのだ。

 おい、昔の自分、小学校にあがる以前の内藤君。友達の作り方を教
えてくれ。他人との関わり方を教えてくれ。頭でも何でも下げるから。

 ブーンはそんなことを考えながら、深い眠りに就いていった。

 目が覚めたのは母親が夕飯ができたからと起こしに来たときだった。

 学校どうだった? と、そんな母親からの質問に胸が痛む。

 ブーンはいい子だからもうたくさん友達が出来たんじゃない? と。

 ブーンは胃にこみ上げるものを感じ、食欲がないから自室に戻ると母
に告げた。

 実際、具合は悪い。


 頭は重いし、指先が少し痺れている気がする。

驚いた。自分はここまで弱い人間だったのか。

ブーンは情けないやら寂しいやらで、昼間に学校から早退した
時のように声を殺して再び泣く。

誰かがドアをノックする。母親がドアの向こうで大丈夫? 何か
あったの? と声をかけてきた。

それが申し訳なくて余計悲しくなり、何でもない、と鼻声で答え、
少しして、また眠った。


新しい朝が来た。ちっとも希望の朝なんかじゃない。

相変わらず気は重い。でも、とブーン。一晩寝て、少し気分が
落ち着いた。そう、昨日は少し失敗してしまっただけ、大したこと
じゃない。

なあに、今日学校に行って『昨日は急に具合が悪くなっちゃっ
てさ』とおどけて言えばいい。

まだ取り返しのつかない事態じゃないはず。

そう思うとわずかだが気が楽になった。

よし、学校に行こう。まだ通常の登校時間より早いがそわそわして
落ち着かない。

今はなんだか一刻も早くクラスメイトに会って事情を説明したい。

ブーンは覚束ない足取りで学校へと向かった。


 案の定、クラスにはまだ誰も来ていなかった。

それもそうだ。まだ朝のホームルームまで時間がある。ブー
ンは自分の席についてそわそわしている。

そして、10分ほど待った頃だろうか。一人の男子生徒がガラ
ガラと戸を引き、教室に入ってきた。

その生徒はこんな時間に誰かがいるとは思わなかったのだ
ろう。ブーンに気付くとぎょっ、という驚きの表情をした。

さあ、お待ちかねのクラスメイトが来たぞ。頑張って話し掛け
ろ。もう無理に笑いなんてとろうとするなよ? 無難な会話で地
道に仲良くなっていけ。


(;^ω^)「おっ、おはようだお!」

ブーンはなけなしの勇気を振り絞って挨拶をした。

たかだか挨拶をするだけなのに、こんなに勇気が必要だとは
露にも思わなかった。

(;´∀`)「あ、あぁ、おはよう」

対して男子生徒は気まずそうな歯切れの悪い返事をするだけ。

そこで会話終了。これ以上どう話を膨らましていけばいいのか、
ブーンにはわからない。朝一番から泣きそうだった。

名前も知らない生徒は、やはりブーンと話したくないのだろうか、
ちらりともブーンの方を見ない。

……『名前も知らない生徒』?  そうだ、とブーンは閃いた。

そうだ、まず名前を聞いて、それを会話の突破口にしよう。そして
その要領で質問していけば、相手もすぐに心を開いてくれるはずだ。

その考えはブーンにとって天啓に思えた。すがるべき藁に思えた。


どちらにしろこのままでは自分の中学生活は暗闇に閉ざされたままになって
しまう。

そんなのはいやだ。ならばいけ。

(;^ω^)「お……」

ブーンが再び話し掛けようとした瞬間、教室に他の生徒が入ってきた。

そして名も知らぬ男子生徒と楽しげに話しだした。

誰もブーンなど見ていない。いや、見てはいるのだが関わろうとしない。


 つまり、荒らして欲しくないのだ。

2学期にもなると、だいたいどの生徒もどこかのグループに所属し始める。

小学校から一緒に上がってきた友人や、そのまた友人、全く面識はなかった
が気の合う者、その構成は様々だが、およそ集まるメンツというのも限定されてくる。

みな、自分のテリトリーに入ってきてほしくないのである。ましてや昨日来たばかり
の転校生、それも口下手で、授業中に勝手に早退してしまうようなイレギュラーな奴
には、自分の縄張りを荒らして欲しくないのである。


 なるほど、とブーンは思った。
自分は、裸の王様だった。今まで無難に人と関われたのは友人が
いたからで、友人達が自分の言葉をうまく広げ、会話として成立させ
てくれていたのだ。


空虚。


ブーンの胸中は空虚で満たされていった。

そしてその日を境に、ブーンは学校を休みがちになる。


 “友達がいないから学校に行きたくない”とも言えず、親には毎回仮病を
使っていた。

明らかに多い病気の回数についてブーンを問いたださないのは、両親も
薄らと感付いているからなのだろう。

たまに学校に行こうとすると、母は喜んだ。

普段の夕餉よりも豪華と思える弁当をブーンに持たせてくれた。

どんな思いで母は弁当を作ってくれたのか。きっと友人達と輪を作り、談
笑しながらの食事を願って調理してくれたのだろう。

実際はトイレの個室にこもり、物音をたてずに静かに咀嚼しているだけ。

たまに漏れる嗚咽のせいで、最早味などわからなかった。

ブーンは教室での大半を寝て過ごした。机にうつぶせに突っ伏して、眠る。
そうすると時間が早く過ぎていってくれる。

眠くない時ももちろんあったが、他に術がないので同じように机に額をくっつ
けていた。

誰も起こそうとしない。周から談笑が聞こえる。耳に蓋がないことを本気で不
便だと思った。


そして誰も話し掛けてこないのが煩わしくなくて助かると心の中で嘯いた。


嘘だ。


なら、なぜこんなにも胸が苦しい? 本当は人の輪に加わりたいくせに。

そんな考えが頭をよぎるたび、ブーンは瞼の裏が熱くなった。

周囲から聞こえてくる笑い声がまるで呪咀の言葉のように、ブーンの頭の
中にいつまでも響いていた。


 そして今日もブーンは自室で泣いていた。

今日は両親がいない。気兼ねなく涙を流すにはうってつけの日だった。

ブーンは昔の地元に戻りたかった。みんなの元に、住み慣れた町に帰りた
かった。

しかしそれは現実的ではない。中学一年生のブーンが一人暮らしをするな
ど、荒唐無稽もいいところだ。


それに、両親にそんな事を言えるはずがない。ブーンが引っ越
したいと言いだせば必ず理由を聞いてくるだろう。

理由を話して泣きながら訴えれば、あるいは聞き入れてくれ、以
前のボロアパートに戻れるかもしれない。

しかし、この新築は父と母の夢だったのだ。せっかく叶えた夢を、
自分のせいで手放させるなんて悪い冗談としか思えない。それで
後に残るのは多額の借金。馬鹿らしい、喜劇にもなりはしない。

つまるところ、どんな形であれブーンはこの土地で生きていくしか
ないのである。

そのことがブーンに重くのしかかる。重くて重くて、また視界がぼ
やけてくる。


――そして、それはいた。


 涙が落ち着きを見せ、霞み掛かったような視界が元に戻りつつあ
った時、ブーンの目の前に、それはいた。



(´・ω・`)「やあ」


猫である。目前に猫がいる。名前は聞いてない。

いやいや、おかしい。ついに狂ったか。

人間は寂しさを極めると、頭がおかしくなるという。そしてありもし
ない音、いもしない物を確かに捉え、まるでそこに誰かがいるかの
ように振る舞うと聞く。

なんてこった。まさか自分が狂うとは。

目の前に猫がいる。

いや、猫がいるだけならいい。いつの間にか部屋に入り込んでいた
とか、強引ながらも納得できる言い訳を自分に出来る。

しかし、この猫はかなり小さいのだ。およそ体高15センチ。二足直立
をしている。

 その上、喋った。気さくに挨拶までしてきやがった。

そして、これが一番問題なのだが、猫である。いやいや、猫は猫なの
だが、何というか、アニメチックにデフォルトされた猫である。目はつぶ
らで、その少し上にハの字に垂れ下がった眉毛がある。


つまり、現実とかなりかけ離れた猫だった。

これを猫と判別できたのは偉大なるイデアのおかげかもしれない。

 とにかく、今目の前にいる猫は、ブーンが普段駐車場などで見かけ
るような猫とは全然違っていた。

(;^ω^)「お、おまえ、何だお?」

 なんとも要領を得ない質問だが他に聞きようがない。

(´・ω・`)「なにって、君が今流してたろ?」

 変な猫は答える。

(;^ω^)「えっと、僕が流してたって?」

(´・ω・`)「僕は君の『涙』さ」

 は? 言ってる意味が分からない。本当に分からない。何言ってるんだこの猫。

 僕の涙ってどういうことだ? 確かに今、僕は泣いていたけど。
 
(;^ω^)「涙って、この涙かお?」

 ブーンはフローリングに零れ落ちている涙を指す。


(´・ω・`)「そう、その涙」

 どうやら本当にイカレてしまったらしい。

(;^ω^)「涙の妖精ってことかお?」

(´・ω・`)「妖精? あれはお伽話の中の生き物だろ? 僕は涙だ。今
君が僕を流したんじゃないか」

 妖精じゃない? いや、まぁ妖精でもおかしいけど。

(;^ω^)「その涙さんがなんの用だお?」

(´・ω・`)「変なこと聞くなぁ。君は用があって涙を流すのかい?」

 頭が痛くなってくる。つまりこいつは自分の涙で、特に用があって出て
きたわけではないらしい。というか自分が勝手に出したのか。
 
(;^ω^)「何で涙が猫の形をしていて、言葉を喋ってるんだお?」

「知らんがな」と涙は答えた。


(´・ω・`)「君だって何でそんな顔をしていて、言葉を喋れているのか分
からないだろう? 同じことさ。ただそこに在っただけなんだよ」

 ブーンは事態を良く飲み込めないでいた。そして現状を打破すべく、あ
る行動にでる。

( ^ω^)「わかったお」

 そう言うとティッシュを10枚ほどとり出し、涙と言い張る猫をくるむ。なん
となく直接素手で触るのはいやだった。

(´・ω・`)「あらら」

 窓を開け、涙をくるんだティッシュごと外に捨てる。

( ^ω^)「うん、これでもう変なものを見ずに済むお」

 ほっと胸を撫で下ろし、後ろを振り返る。

(´・ω・`)「やあ」

 力が抜けた。何でまだいるんだ? 今確かに外に捨てたのに。


(´・ω・`)「捨てても無駄だよ。だって、君はまだ泣いているから」

 なんてこった。この猫は自分が泣いている限りはいなくならないらしい。
しかし、

(;^ω^)「僕はもう泣いてないお。涙はとまったお」

 そうブーンは抗議する。

(´・ω・`)「いや、君はまだ泣いているさ。そうだろう?」

 ブーンは言葉に詰まる。確かに、今は猫が現れた驚きで涙は止んだが、
すぐにまた涙は零れ出てくるだろう。

 やれやれ、と涙が嘆息した。

(´・ω・`)「君はまた泣いていたんだねぇ。しょうがないなぁ」

 また? どういうことだ?


(´・ω・`)「まぁとにかく、君が本当に泣きやんだら僕はいなくなるからさ」

 涙が、すっ、と小さな手を伸ばしてきた。

(´・ω・`)「それまでの間、仲良くやろうぜ」

 ブーンはしばらく躊躇していたが、涙の真っ直ぐな視線に負けて、手を伸ばした。

 親指と人差し指で涙の手を握り、軽く上下に振ってやる。

 涙の手は、ふわふわしていた。



( ^ω^)「ところで、おまえ名前はあるのかお?」

 ブーンと涙が出会って1時間ほど。握手したからといって特に何も進展はなかった。
涙はごろごろとテレビを見ている。ブーンは最初こそなんだこいつ、と思ったが、別に
涙にしてもらうような用事はなかったので放っておいた。

(´・ω・`)「あるよ」

( ^ω^)「なんて名前なんだお?」

(´・ω・`)「ショボン」

 ショボン? なんてふざけた名前だ。涙だから、ショボン。しかし確かに似合っている。
眉毛もハの字だし。


(´・ω・`)「君はブーンだろ?」

 ショボンがそれまで見ていたテレビからブーンのほうに視線を向ける。

( ^ω^)「知ってるのかお?」

(´・ω・`)「そりゃね。なんたって僕の産みの親だからね」

 親という割には随分なれなれしく接してくる。

 ブーンは半ば呆れていた。

 その時、玄関のほうから「ただいま」という声が家に響く。母が帰ってきたらしい。

( ^ω^)「おっおっ、母ちゃんが帰ってきたお」

(´・ω・`)「みたいだね。お出迎えにいってあげなよ」

( ^ω^)「言われなくてもそうするお。ショボンはおとなしく待ってるんだお」

 ショボンはテレビを見ながら生返事を返した。


 階下に行くと母が靴を脱いでいた。

( ^ω^)「母ちゃん、おかえりだお」

J( ‘-`)し「ただいま、ブーン。具合はもういいの?」

(;^ω^)「おっおっ、もう平気だお」

J( ‘-`)し「そう? じゃあ今ご飯の用意するから、ちょっと待っててね」

(;^ω^)「うん……」

 ブーンは食事が出来上がるまで、自室で待つことにした。

 自室ではやはりショボンがテレビを見ていた。

(´・ω・`)「おかえり」

( ^ω^)「母ちゃんが帰ってきたお」

 ショボンはふーんとさして興味もなさそうに返事をした。



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