爪'ー`)アイラビュー、ナンバー090のようです(   )  [ログ] [前へ




 * * *


 プルルル、プルルル……


爪'ー`)


 プルルル、プルルル……


爪'ー`)


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「今日も、彼女は出ないんじゃないのか?」






爪'ー`)「そんなことはないさ」

爪'ー`)「きっと彼女だって俺の声を聞きたいに決まってる」

爪'ー`)「俺だって」

爪'ー`)「彼女の声が聞きたいんだ」


( ゚д゚ )「だがもう二週間だろう」

( ゚д゚ )「彼女からのコールが来なくなって」

( ゚д゚ )「それからというもの、こうしてお前からコールしても」

( ゚д゚ )「まったく出る気配が無い」






爪'ー`)


( ゚д゚ )「気付いたのかもしれんな」

( ゚д゚ )「こんな恋人ごっこの無意味さに」


爪'ー`)「黙ってくれよ、旦那」


( ゚д゚ )「フォックス、もう二週間だ」


爪'ー`)


( ゚д゚ )「そしてお前には、もう十日も時間は残されていない」






( ゚д゚ )「諦めろ、なんてことは言わないが」

( ゚д゚ )「そろそろいいんじゃないか?」


爪'ー`)

爪'ー`)「全然良くないさ」

爪'ー`)「まだ、二週間だ」

爪'ー`)「あと十日もないって言うなら、その間ずっとコールしてやる」

爪'ー`)「最後の日の、一分、一秒でも」

爪'ー`)

爪'ー`)「俺は彼女に電話をかけ続けるんだ」






( ゚д゚ )


爪'ー`)「馬鹿だと思うかい? 阿呆だと思うかい?」

爪'ー`)「かまわないさ。自分でも馬鹿だと思ってる」

爪'ー`)

爪'ー`)「でも、馬鹿にならずにはいられないんだ」


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「そうか」






 プツッ


(   )【もし……もし……?】


爪'ー`)「!」

爪'ー`)「090、090なのか?」


(   )【その声は……090ですか?】

(   )【お久しぶりです。えっと】

(   )【今は……今、は、何時でしたっけ?】






爪'ー`)「いいんだ。時間なんていいんだ」

爪'ー`)「何があったんだい? 今までどうしていたんだ?」

爪'ー`)「ずっと不安だったんだ」

爪'ー`)

爪'ー`)「君の、君からの電話が無くて」


(   )【ご……めん、なさい、ぅ、ぅぅ】

(   )【少し、事情があって】

(   )【電話に、出れなくて】

(   )【うぅ、うううう、うぅうう……】






 ブチッ……ブヂブチッ……ブチッ……ブヂッ


(   )【う゛ぐぅううう、うぐ、うぅ゛ううう】


爪'ー`)「一体、どうしたんだ?」

爪'ー`)「すごく苦しそうだ。具合が悪いのかい」

爪'ー`)「何か……変な音も、聞こえる」


 ブヂュ、ブヂ……ブギ、ミチ……ブチッ


(   )【あ゛あ゛ぅう゛ううう、うぅう゛、ううぅ、う】






爪'ー`)

爪'ー`)「090」

爪'ー`)「返事をしてくれよ、090」


(   )

(   )【ご、めんなさい】

(   )【私、醜いのは、顔や体だけじゃなかった】

(   )【心まで、腐ってる】

(   )【化物】


爪'ー`)






(   )【人を、愛してはいけなかったんだ】

(   )【そんな資格、わた、私には、なかった】


爪'ー`)

爪'ー`)「お願いだ、090」

爪'ー`)「もう、どうして電話をくれなかったかなんて聞かない」

爪'ー`)「代わりに教えてくれ、何があったんだ?」

爪'ー`)「一体君に、何が起きているんだ?」


(   )

(   )【あの、夢に、は……怖い夢、には――】







 続きがありました。



 薄いガラスの上で、猫を恨めしく見ている私。

 その周りを、いつしか同じような黒猫が何匹も何匹も現れる。

 みんな美しい、みんな息を呑むような愛おしさ。

 ころころ、ころころと喉を鳴らして私を呼んでいる。

 嗚呼、抱きしめたい。

 頬ずりしたい。






 でも手が届かないの。伸ばしても伸ばしても届かない。

 もう少し触れそうになっても、すいっとみんな逃げてしまう。

 私は気付きました。猫は私の手を嫌がっている。

 赤切れて、渇いて、爪もぼろぼろな醜い手を。

 そんなあんまりよ、と叫んでも、どの猫も近づいて来てくれない。

 ころころ喉を鳴らして、翡翠の瞳で私を誘惑するだけ。

 どうしてなの?






 そんなに醜い私に、触られるのが嫌なの?

 美しいことがそんなに偉いの? 生まれ付いて醜い私はそこまで落ちぶれているの?

 憎たらしい、憎たらしい。

 どうして、どうして。

 嗚呼、憎い猫、猫、猫、猫猫猫、見渡す限りの黒猫。


 認めてくれないなら、蔑むのなら。


 殺してやる。






(   )【私はガラスにヒビが入ることも厭わずに】

(   )【立ち上がると手当たり次第に猫を捕まえて】



 く     びり        こ ろし       て       。



(   )【あああ、私はそれが嬉しくてたまらなかった!】

(   )【猫が! 綺麗な猫が! ごみくずのように崩れるのが嬉しくて!】

(   )【醜い自分を蔑んでいたものたちが、豚の鳴くような呻き声をあげて!】

(   )【死んでいった! 息をしなくなった! ざまあみろ、ざまあみろ!】




ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ
 ざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろざまあみろ





(   )【うぅう、うわああ、あああ……なんて、なんてことを!】

(   )【ずっと忘れていたんです。ずっと忘れて、無かったことにしてた】

(   )【私は卑怯な女、醜い怪物、悪魔……!】

(   )【あんなに、あんなに殺してしまうなんて、酷い、酷い……】


爪'ー`)


(   )【う、うぅ、うぅ……】

(   )【私には、もう誰かを愛することなんてできない】

(   )【その資格が無いんです……】






爪'ー`)「090……」


(   )【私が、私がここにいる理由がやっと思い出せた】

(   )【全部、罰だったんですね】

(   )【罪を清算するために、ここに閉じ込められたんだった……】


爪'ー`)


(   )【電話をかけなかったことは、ごめんなさい】

(   )【でも、もうかけられない】

(   )【かけたくても、かけれないんです】






 ブヂュッ


(   )【う、うぅ゛、もう゛、もうかけられない】


爪'ー`)

爪'ー`)「指を」

爪'ー`)「指を噛んでいるのかい?」


(   )

(   )【今日は】

(   )【今日だけは、痛くても】

(   )【我慢して、ボタンが押せました】






(   )【でも、もう】

(   )【腐って、膿んだ指じゃ、電話をかけられない】


爪'ー`)


(   )【ごめんなさい、ごめんなさい】

(   )【私は】

(   )【あなたに愛してもらえない……】

(   )【今日は、それを伝えたくて、電話を】

(   )






爪'ー`)


(   )【忘れて下さい】

(   )【私の事なんて、全部ぜんぶ】

(   )【あなたにも、もう時間が無いんでしょう?】

(   )【私なんかのために、最後の時間を浪費しないで】

(   )【私はこのままでいいんです】

(   )

(   )【このまま一人ぼっちで死んでいきます】


爪'ー`)

爪'ー`)「そんな」

爪'ー`)「そんなこと、言わないでくれよ」






爪'ー`)「なら君は俺にも一人ぼっちで死ねと言うのかい?」


(   )


爪'ー`)「返事をしておくれ、090」

爪'ー`)「君は確かに、恐ろしいことをしてしまったかもしれない」

爪'ー`)「でも」

爪'ー`)「言ったろう。君はここに罰を受けにきたんだ」

爪'ー`)「罪を認めて、受け入れたんだ」


(   )






爪'ー`)「無くなったものはもう帰ってこない」

爪'ー`)「それなら」

爪'ー`)「与えられた罰を、潔く受けるなら」

爪'ー`)「もうそれでいいじゃないか」

爪'ー`)「これ以上に、君が苦しめられる必要なんてないよ」

爪'ー`)「だから」

爪'ー`)

爪'ー`)「最後のほんの少しの時間を、安らかな気持ちで過ごしたいと思う」

爪'ー`)「それはヒトとして当たり前の感情だ」

爪'ー`)「それは罪深いことなのか?」






(   )

(   )【ええ、罪深い】


 ブチッ……ブチチッ……ブヂッ


(   )【私には、死を与えられるその日まで、安らぐことは許されてはいけない】

(   )【人を好きになるなんて、幸福な気持ちは持ってはいけない】

(   )【だから寂しく、一人で】

(   )

(   )【もう、これで終わりにしてください】






(   )【電話を切って】

(   )【私は、もうボタンを押せないから】


爪'ー`)


(   )【あなたが終わらせて、090】


爪'ー`)

爪'ー`)「俺は」

爪'ー`)

爪'ー`)「僕は婚約者を殺して、ここに来た」


(   )


爪'ー`)「聞いて欲しいんだ」

爪'ー`)






 美しい人だった。


 細く華奢な見た目だったが、たっぷりと流れる黒髪が綺麗だった。

 いつも花の香りがする女性で、僕の自慢の婚約者だったんだ。

 ただ、頑固なところもあって。

 最初は些細な口論で、次第に二人とも見境がつかなくなったんだ。

 僕は彼女を愛していたし、彼女も僕を愛していたと思う。

 でも、喧嘩はどんどん過激になって。

 ある日、彼女を軽く突き飛ばしたつもりが。


 がつん、と。






 打ちどころが悪かった。

 彼女はクローゼットの角に頭をぶつけて、もう二度と目を覚まさなかった。

 僕は、僕は恐れた。

 そしてあろうことか、彼女の亡骸を隠そうとした。

 酷い行いだった。

 僕は、彼女の死と罪を受け入れるよりもまず、

 保身に走ったんだ。

 とても口で言えないような方法で、彼女の亡骸を処理しようとしていたら。


 呆気なく、彼女の家族にバレた。





 僕はどうかしていた。

 その時、彼女の両親に何と謝ろうかと考える前に、

 彼らを殺すことしか思い付かなかった。

 父になるはずだった人を殴り倒し、

 母になるはずだった人を絞め殺していた。

 
 いろんな理由があったんだろう。

 彼女たちを殺して三日もせずに、警察が僕の家を訪ねてきた。

 後は、もう全てが明らかになっていくだけだった。





爪'ー`)「婚約者の死因は事故だと認められた」

爪'ー`)「でも死体の処理と両親を殺したことは、どうあっても許されなかった」

爪'ー`)「そして僕はここに入れられた」

爪'ー`)「君と同じ、死を待っている」

爪'ー`)「償いを待っているんだ」


(   )


爪'ー`)「僕は愛した人を殺してここに来たけど」

爪'ー`)「今だって彼女を愛している」

爪'ー`)「そして、彼女と同じように君のことも愛している」






(   )

(   )【ひどいですね】

(   )【それじゃ、二股じゃないですか】


爪'ー`)「そうだね」

爪'ー`)

爪'ー`)「でも、それが正直な気持ちなんだ」

爪'ー`)「君のことが好きなんだ」

爪'ー`)「だから、君のことを想って死んでいきたい」






(   )


爪'ー`)「もう一度聞きたいんだ」

爪'ー`)「君は、僕のことが嫌いかい?」


(   )

(   )【その聞き方は……卑怯、です】

(   )【嫌いなわけ、ない……じゃ、ないですか】

(   )【こんなに、こんなにあなたのことが好きなのに】






爪'ー`)「僕もだよ」

爪'ー`)「だから、たくさん殺してきたことを受け入れよう」

爪'ー`)「僕も、愛した人を殺したことを受け入れる」


爪'ー`)「君と一緒に、罪を償いたいんだ」


(   )

(   )【私の罪は、償えるの?】

(   )【たくさんの命を、私一人の、死で】

(   )【未練がましく、愛情にしがみつく、私なんかの死で】






爪'ー`)

爪'ー`)「足りないかもしれない」


(   )


爪'ー`)「でもこれ以上に幸せで、辛い死に方もないだろう?」

爪'ー`)「誰かを愛して、その人と添い遂げられないまま死ぬなんて」


(   )

(   )【グスッ……グスッ……】

(   )【そうですね】






(   )【あなたと知り合えたことは幸福だけど】

(   )【あなたに会うこともないまま死ぬのは不幸ですね】


爪'ー`)「うん、だから」

爪'ー`)「僕たちのような罪人は、これでいい」

爪'ー`)「愛して、苦しんで、死んでいく」

爪'ー`)「それが、唯一無二の償いなんだ」


(   )


爪'ー`)






(   )【グスッ……グスッ……】

(   )【会いたい】

(   )【あなたに会いたい】

(   )【死ぬ前に一度だけでいい】

(   )【会いたい、会いたいです】


爪'ー`)

爪'ー`)「僕も会いたいよ」

爪'ー`)「電話じゃなくて。直接君に会いたい」






(   )【090……090、私は、私は】



 プツッ



爪'ー`)

爪'ー`)「090……?」


【バッテリーが切れました。充電し直してください】


爪'ー`)

爪'ー`)「090……君は」

爪'ー`)「…………」





 * * *


爪'ー`)


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「いいのか?」


爪'ー`)「ああ」


( ゚д゚ )「今日なんだぞ」

( ゚д゚ )「もう最後の日なんだ」

( ゚д゚ )「未練があるだろう、例え仮初の恋人だとしても」






( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「電話をかけてやらないのか?」


爪'ー`)

爪'ー`)「いいんだよ」

爪'ー`)「俺たちはいくら電話をかけあっても、これ以上の距離は縮まらないんだ」

爪'ー`)「もう一センチも」

爪'ー`)「一ミリもね」


( ゚д゚ )






爪'ー`)「今日は優しいじゃないか、旦那」

爪'ー`)「どういう風の吹き回しなんだい」


( ゚д゚ )「別に」

( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「手紙も残さんのか?」


爪'ー`)「読む相手がいないよ」


( ゚д゚ )「望むならば彼女に届けてやってもいい」






爪'ー`)

爪'ー`)「本当に今日は優しいねえ」

爪'ー`)「でも、いいんだ」

爪'ー`)「死んだ奴の手紙なんか受け取っても嬉しくないに決まっている」

爪'ー`)「貰った相手は、ただ泣くしかないじゃないか」


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「本当に、いいのか」


爪'ー`)

爪'ー`)「ありがとう、旦那」







爪'ー`)「いいんだ。それに約束したから」


( ゚д゚ )「彼女とか?」

( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「何と?」


爪'ー`)「必ず会える、って」


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「そうか」

( ゚д゚ )「約束を、守れるといいな」







( ^Д^)



( ^Д^)「…………」

( ^Д^)「時間です。あとは我々が引き継ぎます」


( ゚д゚ )「はい、お願いします」


( ^Д^)「はい」


爪'ー`)






( ^Д^)「立て、囚人番号090206、フォックス」


爪'ー`)「あぁ、はい」


( ^Д^)「今からお前を絞首刑場まで連れていく」

( ^Д^)「牢を出たら両手を壁に突け。手錠をかける」


爪'ー`)


 ガチャ、ガチャ……






( ^Д^)「前の者に続いて歩け。後ろには私がいる」


爪'ー`)「はいはい、今さら逃げませんよ」


( ゚д゚ )


爪'ー`)

爪'ー`)「じゃあな、旦那」


( ゚д゚ )

( ゚д゚ )「ああ」





 * * *


 この国には法律がある。


 法律がある以上、それを破る人間もいるわけで。

 つまり犯罪者だ。
 犯罪者は刑務所に入らなければならない。もっと酷ければ死刑になる。
 俺は死刑になる人間だ。死んで当然の罪を犯したから。

 でもこの刑務所はお優しいことに、死んで当然の屑にも温情を与えようとしてくれる。


 それが携帯電話だ。






 ある決まった番号にしか、かけられないように細工された携帯電話。
 それを渡されて、一日の決まった時間にだけ電話をかけることを許される。
 田舎のお袋の声が恋しくなっても無理だ。外の番号にはかけられない。

 生涯を終える冷たい牢獄で、俺達が話すことを許された相手。

 同じ犯罪者だ。

 俺の相手にあてがわれたのは、同じ人殺しの女だった。
 とても綺麗な声で喋る人だったんだ。いつも、彼女と話すことだけが楽しみだった。
 偽善で与えてられた温情で、俺は彼女と出会えた。

 それで幸せだった。

 もう、何もいらないはずだった。









                爪'ー`)



 でも、いざ死ぬ時になると、最後に一目だけでも会いたかったなあなんて思ってしまう。









( ^Д^)「どうした、歩け」


爪'ー`)

爪'ー`)「あぁ、すいませんね……」


 看守に尻を警棒で突かれながら、自分の墓場まで急かされる。
 そんな時だよ。いっつも牢屋で俯いて暮らしていたんだ。
 最後にぐるっと首を回して、すっきりしようと思ったらさ。



                川;д川



 通り過ぎた牢の中で、女を見た。






 随分と顔を泣き腫らして、元がどうかは分からないが酷く不細工な顔をしていた。
 俺が看守と前を通り過ぎる間も、すんすんとしきりに鼻をすすっている。
 よっぽど悲しいことがあったんだろうなあ、なんて何の気なしに思っていたんだ。


 そしたら彼女、どうやら指を怪我してるらしくて。


 潰れた両の指で、床に転がってる携帯電話を愛おしそうに。
 何度も何度も、突いている。









                 爪'ー`)



 そんな怪我した指で、携帯なんて触っていたらそりゃあ痛いだろうに。
 泣きたくもなるだろうに。
 なんて思ってたら、なんだか俺も泣きたくなって。










 悲しくなって。


 嬉しくなって。


 こんな最後に、こんな出会いに。


 文句の一つもつけたくなった。








( ^Д^)「どうかしたか」


爪'ー`)

爪'ー`)「いいや」

爪'ー`)「何でもない」

爪'ー`)「何でもなかったのさ」


爪'ー`)「ただ約束を思い出しただけだよ」







川д川「…………」

川−川

川д川「もし……もし……」











 牢屋の泣き声が、止んだ気がする。

 それは、可愛い女の子をからかうことより嬉しいことだ。










爪'ー`)アイラビュー、ナンバー090のようです川д川



おわり





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