爪'ー`)アイラビュー、ナンバー090のようです( )
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顔も知らない恋人よ
君はいま、何を思っているのでしょうか
爪'ー`)
( ゚д゚ )
爪'ー`)
爪'ー`)「そろそろかな」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「そうだな」
爪'ー`)「ええと、090の、××××、××××」
プルルル、プルルル……
爪'ー`)
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「どうして」
( ゚д゚ )「いつも一つ一つ番号を押しているんだ?」
( ゚д゚ )「着信履歴を使えば、もっと楽だろう」
爪'ー`)
爪'ー`)「いやねぇ」
爪'ー`)「こうやって番号を一つ一つ押していると」
爪'ー`)「なんだか気分良く話せるんだよ」
爪'ー`)「手間暇かけてるほうが、気持ちがこもるのかねぇ」
爪'ー`)「愛のための作業は、作業にならないのかもな」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「そうか」
爪'ー`)「もう黙っててくれないかな、旦那」
( ゚д゚ )
爪'ー`)「繋がったよ。大事な蜜月の時間だ」
( )【もしもし?】
爪'ー`)「もしもし、聞こえてるよ090」
( )【それは良かったです、090】
( )【ええと、今は何時でしょうか】
爪'ー`)「んん、時間か。そうだなぁ、夜の九時かな」
( )【そうですか】
( )【では改めて、こんばんは090】
爪'ー`)「こんばんは、090」
( )
( )【どうしましょうか】
( )【いつものことですけど、聞きたい事がいっぱいで】
( )【いざ話してみると、何を聞こうか忘れてしまいます】
爪'ー`)「俺も聞きたい事がいっぱいだよ」
爪'ー`)「先に聞いてもいいかい?」
( )【どうぞ】
爪'ー`)「ありがとう」
爪'ー`)
爪'ー`)「今日の夕食はどうだった?」
( )【そうですね】
( )
( )【おいしくなかったです】
爪'ー`)
爪'ー`)「俺もだよ」
( )【くすくす、なら聞かなければいいのに】
爪'ー`)「いやあ」
爪'ー`)「俺がまずくて食えたものじゃないって思った飯を」
爪'ー`)「090はどんな風に味わったのかなぁって」
爪'ー`)「思ったのさ。可笑しいかい?」
( )【そうですね、可笑しいです】
爪'ー`)「でもよぉ、これで」
爪'ー`)「090と俺の味覚は、似通ったものなんだって分かったよ」
爪'ー`)「運命を感じちゃうね」
( )【あの夕食なら、十人が食べれば十人がおいしくないと】
( )【言うと思いますよ。私は】
爪'ー`)「おやおや」
爪'ー`)「そうなると随分大安売りな運命になっちゃうなぁ」
( )【くすくす】
( )
( )【090は本当に口だけは達者ですね】
爪'ー`)
爪'ー`)「俺が君に披露できるものは喋くりしかないからね」
爪'ー`)「見せられるなら、ぜひともこのツラをお見せしたいよ」
爪'ー`)「あまりの美男子ぶりに、三回くらい恋に落ちてしまうかも」
( )【くすくす】
( )
( )【でも、私は090に顔を見せる自信が無いです】
爪'ー`)
爪'ー`)「おやおや、それは意外だね」
爪'ー`)「090は鳥のさえずりよりも美しい声をもっている」
爪'ー`)「こんな綺麗な声の女性なら、容姿見た目もさぞ美しいだろう」
爪'ー`)
爪'ー`)「――なんて、俺は思っていたのだけれど」
( )【くすくす】
( )【もしかしたら、とても綺麗な女声の男かもしれませんよ?】
( )【それに、期待しているほど私は見た目が良くありませんから】
爪'ー`)「おやおや、090は男だったのか」
爪'ー`)「残念至極だ。電話越しの美声の持ち主が」
爪'ー`)「腕も脛も毛深くって、胸板の厚い無頼漢だったとはね」
爪'ー`)「怖い怖い。これからは尻の穴に気をつけないとな」
( )
爪'ー`)「おっと」
爪'ー`)
爪'ー`)「女性との会話で尻の穴は卑猥だったかな」
( )【そうですね】
( )【少し下品ではないかと】
爪'ー`)「ということは090は女性で構わないね」
( )【あ】
( )
( )【本当に、090は口ばっかりが達者な人ですね】
( )【おまけにいじわるです】
爪'ー`)「失敬、ははは、これは失敬」
爪'ー`)「ちょっとした冗談を言う君も可愛いが」
爪'ー`)「ふてくされた声の君もまた可愛いよ」
( )
( )【またそんなことを】
( )【きっと、090は今までにもこうやって】
( )【何人もの女の子を口先でからかってきたのでしょうね】
( )【ひどい人です】
爪'ー`)「可愛い女の子をからかうこと以上に楽しい事なんて」
爪'ー`)「この世にないからね」
爪'ー`)
爪'ー`)「機嫌を悪くしたかな? なら謝るよ」
( )
( )【気にしていません】
( )【090はいつもそんな風ですからね】
( )
( )【でも、そういうのも嫌いじゃないですから】
爪'ー`)「それは喜ばしいことだ」
( )【くすくす、またそんなことを言って】
( )
( )【いつか】
爪'ー`)
( )【いつか、あなたに会いに行きたい】
( )【会って】
( )【こうやって、電話じゃなくて直に話して】
( )【笑ったり、からかったり】
( )
爪'ー`)
爪'ー`)「会えるさ」
爪'ー`)「いつか必ずね」
( )
( )【そう、ですよね】
( )【こんな変なことを聞いてしまって】
( )【ごめんなさい。すごく不安なんです】
爪'ー`)「どうして?」
( )【夢を見るんです】
( )【もう何年も見なかったはずなのに】
( )【最近は、眠ると必ず夢を見る】
爪'ー`)
爪'ー`)「どんな、夢だい?」
( )
( )【思い出せないんです】
( )【でも】
( )【きっと嫌な夢です】
( )【じゃなきゃ、毎日がこんな不安にはならない】
( )
( )【夢を見るのが怖いんです】
爪'ー`)
爪'ー`)「そうか」
爪'ー`)「俺に出来ることはあるかな」
爪'ー`)「一晩中、君が眠りに落ちないように語らい続けるとか」
( )【くすくす】
爪'ー`)「俺は真面目だよ?」
( )【どうでしょうね】
( )
( )【でも、気にしないでください】
( )【思わず、こぼしてしまったけど】
( )【こんなことで、090に迷惑をかけたくないから】
( )
( )【それに】
( )【怖い半面、私はすごくその夢が気になるんです】
( )【よく分からない感情だけど、それは】
( )【とても大切な気持ちだと思います】
爪'ー`)
爪'ー`)「そうか」
( )
( )【どのくらい、喋っていたのでしょうか】
( )【もう今日はこれで終わりにしましょう】
爪'ー`)「そうだね」
( )【ごめんなさい】
( )【私のせいで、気分を悪くしてしまったでしょうか】
爪'ー`)
爪'ー`)「いいやそんなことはないよ、ない」
爪'ー`)「ただ、君のことが純粋に心配で」
爪'ー`)「愛おしいだけさ」
( )
爪'ー`)
( )【おやすみなさい、090】
爪'ー`)「おやすみ、090」
プツッ
爪'ー`)
( ゚д゚ )
爪'ー`)
爪'ー`)「旦那」
( ゚д゚ )「どうした」
爪'ー`)「あと」
爪'ー`)「何ヶ月……いや、何日だい?」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「もう一ヶ月は切っている」
( ゚д゚ )「あと二十三日だ」
爪'ー`)
爪'ー`)「そうかい。もうひと月ないのかい」
爪'ー`)「そうかそうかぁ、早いもんだなぁ」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「楽しいか?」
( ゚д゚ )「顔も見えない相手と、恋人ごっこを繰り返すのは」
爪'ー`)
爪'ー`)「あぁ、もちろんだとも」
爪'ー`)「楽しいに決まっている」
爪'ー`)「分かり切っていることを聞かないでおくれよ」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「そうだな」
爪'ー`)「旦那、もう行ってくれよ」
爪'ー`)「野郎のツラを眺めて眠りたくないんだ」
爪'ー`)
爪'ー`)「おやすみ」
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )「おやすみ」
* * *
プルルル、プルルル……
爪'ー`)
爪'ー`)「もしもし」
( )【もしもし? 090ですか?】
爪'ー`)「心配しなくても、この番号で俺以外の人間が出ることはないよ」
( )【そうでしたね】
( )
( )【こんばんは、090】
爪'ー`)「こんばんは、090」
爪'ー`)「珍しいね。いつもは俺の方から」
爪'ー`)「君にコールするのに。何かあったのかい?」
( )
( )【ええ】
( )【前に、怖い夢の話をしましたよね】
爪'ー`)「ああ」
( )【昨日も、またその夢を見ました】
( )
( )【でも、いつもと違う所があったんです】
( )【夢を、夢の内容を、憶えていたんです】
爪'ー`)
爪'ー`)「そうか。もし」
爪'ー`)「君が辛くないのなら、どんな夢だったのか教えて欲しいな」
爪'ー`)「その話を聞いてから毎晩」
爪'ー`)「君の夢のことが気になって仕方なかったんだ」
( )【ええ、大丈夫です】
( )【私もお話しするつもりで、こうやってこっちから電話をかけたわけですし】
( )
爪'ー`)
( )
( )【――猫】
猫がいるんです。
綺麗な猫。黒猫。
ベルベットよりもきめの細かそうな毛並み。
瞳の色は、翡翠を埋め込んだかのような息を呑むグリーン。
ガラスの床の上で、訳もなく突っ立っている私の周りをぐるぐるぐると。
歩き回っては、鈴を転がしたような鳴き声で私を誘惑します。
私はとても気分がよくて。
この世のものとは思えないほど綺麗な、その猫を眺めていると。
心の底から満たされていくのが、分かるんです。
毛づくろいをする猫に触れたい、抱きしめたい。
でも、ガラスは薄くて。
私が不用意に動けば、そのままぱりんと割れてしまいそう。
為す術もなく、私は蟲惑的な猫の艶姿を、ただじっと見つめている。
それが口惜しくて、悔しくて。
なんだか、そのもどかしさが、次第に怒りへと変わって。
私は、黒猫のことを美しいと思うより。
憎たらしいと、思い始めるのです。
爪'ー`)
( )
( )【憶えているのは、ここまで】
( )【不思議な夢でしょう】
爪'ー`)
爪'ー`)「あぁ、不思議な夢だ」
爪'ー`)「君はその夢が怖いのかい?」
爪'ー`)「不安を覚えて」
爪'ー`)「一人の夜に涙するくらいに」
( )
( )【ええ】
( )【怖いです】
爪'ー`)
( )【なにより】
( )【夢の中で、猫に憎しみを抱く自分が】
( )【堪らなく怖いんです】
爪'ー`)
爪'ー`)「そうかい」
爪'ー`)「でも、夢は夢だろう?」
( )
爪'ー`)「安心しておくれよ。君には」
爪'ー`)
爪'ー`)「俺が付いている」
( )
爪'ー`)
爪'ー`)「俺では少し頼りないのかな?」
( )
( )【くすくす】
( )【ありがとうございます】
( )【少しだけ、元気になれました】
爪'ー`)「君がいつも健やかでいることが」
爪'ー`)「俺にとっての数少ない喜びなんでね」
( )【あら、じゃあ】
( )【女の子をからかうこととでは、どちらが嬉しいんですか?】
爪'ー`)
爪'ー`)「うぅん」
爪'ー`)「女の子をからかうことかなぁ」
( )【もう】
( )【またそんなことを言って】
( )
( )【ねぇ、090】
爪'ー`)「なんだい?」
( )
( )【あなたは、本当に顔も見たことのない人を好きになれるのですか?】
爪'ー`)
( )【時折、不安になるの】
( )【ごめんなさい、こんなことあなたに言うべきことじゃないのに】
( )
( )【でも、堪らないんです】
爪'ー`)「うん」
( )【私、顔は綺麗じゃない】
( )【きっとスタイルも良くありません】
( )【声は……あなたが褒めてくれたように、少しは自信がある】
( )【でも、声だけじゃ本当の私じゃない】
( )
( )【あなたが、私の声だけで私を好きだと言ってくれるのなら】
( )【きっと、私はいつかあなたの気持ちを裏切ってしまう】
( )【それが怖くて、怖くて】
爪'ー`)
爪'ー`)「うん」
( )【だから、私は時々】
( )【この携帯電話を――】
ぱきっと、二つに折ってしまいたくなるんです。
( )【見せかけだけで、あなたの気持ちを裏切ってしまうのなら】
( )【もう、終わりにした方が……って】
( )
爪'ー`)
爪'ー`)「そうか」
( )【ごめんなさい】
( )【本当に、こんな泣き事言うべきじゃなかった】
( )【気分を悪くしてしまったのなら謝ります】
( )
爪'ー`)
爪'ー`)「君は俺のことが嫌いかい?」
( )【いいえ】
( )【いいえ、そんなことないです。ない……】
( )
爪'ー`)「ならいいじゃないか」
( )
爪'ー`)「俺も君のことが好きだよ」
爪'ー`)
爪'ー`)「だから、また」
爪'ー`)「こうして君からも、電話をかけて欲しい」
爪'ー`)「構わないかな?」
( )
爪'ー`)「下らない話でもいいんだ」
爪'ー`)「そうだ、また」
爪'ー`)「夢を見て、怖くなったらでもいい」
爪'ー`)「電話しておくれ。そうしたら」
爪'ー`)
爪'ー`)「いつだって、君の話を聞いてあげられるから」
爪'ー`)「こうやって笑わせてあげられるから」
( )
爪'ー`)「電話の向こうでも、好きな人が悲しそうにしているのだけは」
爪'ー`)「俺だって堪えられないから」
( )
爪'ー`)
( )【かけます】
( )【私、電話をかけます】
( )【いつだって、何度だって】
爪'ー`)「うん」
( )【あなたのことが知りたいから】
( )【好きな人のことを】
( )【もっともっと知りたいから】
( )
( )【そして私のことも、知って欲しいから】
爪'ー`)
爪'ー`)「俺も」
爪'ー`)「俺のことをもっと君に知って欲しい」
爪'ー`)「君のことを知りたい」
爪'ー`)「だから電話を待ってる」
爪'ー`)「そして電話をかけるよ」
( )
( )【グスッ…………】
爪'ー`)
( )【ありがとうございます、090】
( )【私、あなたのことが好きだったみたいです】
爪'ー`)「うん」
( )
( )【おやすみなさい、090】
爪'ー`)「おやすみ、090」
プツッ
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