本当はわかっていたんだよ。
俺は“それ”を打たれたんだから。
― ( ゚∀゚)ジョルジュと麦わら帽子のようです ―
一日目
ザザァ……ザザァ……。
打ち寄せる波。
「待ってよー」
駆け回る水着。
(`・ω・´) 「二号、働け」
……ヒゲ親父。
( ゚∀゚)ジョルジュと麦わら帽子のようです 二日目
まだ七月に入ったばかりだというのに、そこにはうざったいほどの人が溢れていた。
夏休み前であるせいか年齢層は若干高く、それを見て平和な国だなぁとか考えてる俺は高校生。
いわゆるテスト休みを利用して、このビーチに出稼ぎに来ていた。
(`・ω・´)「二号っ!」
野太い声で呼ばれる。
断っておくが、二号というのは俺の名前じゃない。
俺の名前はジョルジュ。
十七歳。
日本経済を裏で支える財閥の御曹司で、今は帝王学の研修中だ。
嘘だ。
言ってみたかっただけだ。
(`・ω・´)「二号!」
(;゚∀゚)「うぎゃ……」
耳元でマスターの声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には殴られていた。
さらに耳を引っ張られ、
(`・ω・´)「聞こえてないのかぁっ!」
(;゚∀゚)「い、いたたたぁっ! ごめんっ、働くっ。働くからっ!」
(`・ω・´)「さっさと店の掃除しろっ!」
(;゚∀゚)「わかった! ギブ!」
必死に叫びながら試合続行不可能を訴える。
マスターは俺の耳を離すと、
(`・ω・´)「てめぇはさっきから気が入ってねぇぞ! そんなに水着見るのが楽しいかぁっ!?」
( ゚∀゚)「水着は大好きだ」
(`・ω・´)「うむ、俺も大好きだ」
( ゚∀゚)「……」
(`・ω・´)「……」
( ゚∀゚)「……」
(`・ω・´)「二号っ!」
(;゚∀゚)「うわぁっ!」
颯爽と身を翻し、ほうきを持って店の裏に避難する。
あの漁業で鍛えられた筋肉相手にしてたら、体がいくつあっても足りない。
店の裏に逃げてしまったら水着が見られなくなるが……まぁ、時間はたっぷりある。
何せここは海の家で、目の前に広がるのはビーチなのだから。
海の家『サマー様々』
センスの悪いオーナーが親父ギャグを華麗な言葉遊びと勘違いしてそのまま店の名前に採用したらしい。
ついでに言えばこの海の家、俺のバイト先。
夏なのに寒風吹き荒むその様は一見の価値ありだ。
そして、その海の家の店長が、さっき俺の外耳を引きちぎろうとしたヒゲ親父。
店員には総じて自分をマスターと呼ぶよう教育している。
いや、むしろ強要している。
どう考えてもあの外見に横文字は似合わない。
たぶん漢字も似合わないから、せいぜい平仮名が限界だ。
あいつの頭も平仮名が限界だ。
そうに決まってる。
(`・ω・´)「二号」
駐車場に続く店の裏手を掃除していたら、マスターにそう声をかけられる。
見ると、普段はハーフパンツにTシャツ一枚で営業してるマスターが、アロハ羽織って薄手のチノパンをはいていた。
ハワイに行った夢でも見ていて、現実との区別がつかなくなったのだろうか。
この筋肉バカならあり得る。
(`・ω・´)「二号」
マスターは俺の目の前まで来て、再び同じように声をかける。
( ゚∀゚) 「何ですか?」
(`・ω・´)「接客しろ」
( ゚∀゚) 「えっ? でも、掃除がまだ……」
(`・ω・´)「これから少し、俺は店を空ける。だからその間、お前も店に出てろ」
それは好都合だ。
(`・ω・´)「今日は客が多い。一号一人じゃ無理だ」
( ゚∀゚) 「はい。わかりました」
(`・ω・´)「客に失礼のないようにしろよ」
( ゚∀゚) 「えぇ、もちろん」
日に焼けた体を揺らしながら、マスターが歩き去っていく。
あれで今年五十になったというのだから、人間ってのは底知れない生き物だ。
まぁ、筋肉は別にして、記憶力は順調に減退しているようだが。
( ゚∀゚)「……さて。営業しますか」
微笑みながら呟いて、店に戻る。
ほうきを用具入れに戻し、店員用のエプロンを着用して仕事再開。
( ・∀・)「おー、ジョルジュ」
店のカウンターにはいると、同じ店員で大学生のモララーさんに声をかけられる。
言うまでもないが、彼が一号。
( ・∀・)「ちょっと俺、出前行ってくるから、ここいいか?」
( ゚∀゚)「……出前って何ですか?」
( ・∀・)「頼まれたんだよ、可愛いお姉さんにさ。シーフード焼きそばと夏の思い出を運んでくれって」
( ゚∀゚)「……」
それはたぶん出前とは言わない。
加えて言うなら夏の思い出も注文されてないはずだ。
( ・∀・)「そんなわけだから」
そう言って、モララーさんはプラスチックの容器に入った焼きそばを形だけ携え、店を出た。
( ゚∀゚)「……さて」
店内を眺める。
店内には客用の椅子とテーブルがいくつか置いてあるが、今現在、そこには誰も座っていない。
砂浜には相変わらず人が溢れているが、二時という時間も影響してか、
客が多いというマスターの言葉とは裏腹に今は暇な時間帯らしい。
カウンター内に置かれた丸イスに腰を下ろし、ぼーっと浜辺を眺める。
( ゚∀゚)「……」
ここへ来て二日目になる。
そろそろ二号という呼び方にも慣れた。
あれは単に、マスターが僅か一週間だけのバイトの名前を覚えたくないから使っている呼称で、深い意味はない。
今年は求人に対する応募者が少なかったらしく、バイトは俺とモララーさんの二人だけ。
厨房担当のドクオさんという人がいるが、彼は裏方で滅多に表には出てこない。
しかも、ドクオさんは十一時から三時までしか店にいないので、それ以降に入った食い物の注文は、在庫次第ということになる。
そんな怠慢経営でやっていけるのかとも思うが、どうやらあのマスターはこの店を始めて長いらしく
過去の経験と照らし合わせてそれで十分と判断したとか。
悔しいことにその言葉通り、昨日と今日を見る限り、在庫不足で文句を言われたことはない。
こうして自然を前に仕事をすれば、客も店員もおおらかになれるのだろう。
マスターの記憶力はおおらかすぎるが。
( ゚∀゚)「……」
青い海が夏の太陽を反射して光った。
慣れ親しんだ都会を離れ自然に抱かれれば気も紛れるかと思ったが、
どうやらそう簡単なことではないらしい。
重い気分が足枷になり、モララーさんのように一夏の間違いを起こす気にもなれない。
一ヶ月前までは、俺も水着を見るだけで元気になる健康な高校生だったのに。
从'ー'从「すいませーん」
( ゚∀゚)「はい」
从'ー'从「氷イチゴ二つ欲しいんですけど〜」
( ゚∀゚)「……」
水着が登場した。
淡いピンクのビキニ。
胸についたリボンが最高。
色々と元気になった。
从'ー'从「店員さん?」
( ゚∀゚)「……これは失礼」
頭を下げる。
ダメだ……営業中は妄想しちゃダメだ。
真面目に接客しないと、あのマスターに外耳どころか内耳まで持っていかれる。
でもなぁ……このふくよかな胸は凶器だよなぁ。
从'ー'从「あの、氷イチゴ二つ……」
( ゚∀゚)「ちょっとジャンプしてみましょうか」
从'ー'从「えっ……」
( ゚∀゚)「氷イチゴ二つですね。少々お待ち下さい」
从'ー'从「……」
慌てて容器を取り出し、電動のかき氷製造器にセットする。
冷凍庫から取り出した氷を中に入れ、蓋を閉めてスイッチオン。
うるさいノイズが三十秒ほど流れて、かき氷の出来上がり。
それにイチゴのシロップをかけ、客の前に戻る。
( ゚∀゚)「氷イチゴ二つで四百円になります」
从'ー'从「あ、はい」
( ゚∀゚)「五百円お預かりします」
人肌に暖まった硬貨を受け取り、レジをはじく。
百円玉一枚とレシートを客に手渡し、
( ゚∀゚)「百円のお返しです」
从'ー'从「はい」
( ゚∀゚)「ありがとうございました」
客が歩き去っていく。
その背中はすぐに、明るい笑い声に囲まれて消えた。
( ゚∀゚)「……場違いだなぁ」
苦笑しながら呟く。
やっぱりどこかが狂ってる。
こうなることは覚悟していたはずなのに。
ここまで引きずるとは思っていなかった。
俺とモララーさんは、簡単に言うとただの“つなぎ”だ。
マスターの幅広い人脈もあって、本来ならこの店の店員は、走れて泳げて潜れるという
三拍子揃った海の男が務めるはずなのだ。
しかし、毎年のように夏をここで過ごす彼らにも、各々の都合というものがある。
仕事をしている人もいれば、大学に通ってる人もいる。
そんな彼らの事情と、世間の常識を無視してやってくる海水浴客とを合わせて考えた結果、
一週間という短い時間の、つなぎのバイトが必要だったのだ。
だからマスターはバイトの名前を覚えないし、すれちがうだけの客の記憶にも残らない。
そんな環境は、今の自分にちょうどいいと思っていた。
( ゚∀゚)「ありがとうございました」
小さな子供連れの女性が、トロピカルドリンクを持って歩き去っていく。
店に出てから、そろそろ一時間がたつ。
それほど忙しくないとは言え、休憩できるほど暇でもない。
あれから何人もの他人とすれ違い、僅かな言葉を交わして別れた。
ξ゚听)ξ「こんにちはー」
( ゚∀゚)「あ、いらっしゃい……」
店に一人の少女が現れた。
よそ見をしていた俺は、慌てて立ち上がるが、
ξ゚听)ξ「あの、フルーツジュース一つ下さい」
( ゚∀゚)「……」
言葉を失う。
目の前に立つ少女……彼女は間違っている。
何が間違っているかって、水着を着ていない。
これはもう、この海の家の存在意義を揺るがす一大事と言っても過言ではない。
ξ゚听)ξ「あの……店員さん?」
( ゚∀゚)「水着はどうした」
ξ゚听)ξ「えっ……」
( ゚∀゚)「ここをどこだと思っているのだっ」
ξ;゚听)ξ「きゃっ」
少女が一歩、後ずさった。
しかし、これだけは譲れない。
水着だけは譲れない。
男の子だもの。
( ゚∀゚)「ねぇ、君。ここがどこだかわかってる?」
ξ゚听)ξ「……ビーチ」
( ゚∀゚)「そう。じゃあ間違いに気付くよね? おじさん怒らないから言ってごらん?」
ξ゚听)ξ「……」
( ゚∀゚)「あらあら? わからないのかな? じゃあ説明してあげよう。
ビーチって言うのはね、若い肌を大気に解き放ち、潮の香りと日焼けあとをつけるための場所なの。
だからほら、そのワンピ脱ぎ去ってごらん。大丈夫、おじさんが見守っていてあげるから」
ξ゚听)ξ「……変態」
( ゚∀゚)「これは失礼なことを。おじさん、正義の使者だから、猥雑な感情なんて持ってない。ほら、心配せず――」
(`・ω・´)「二号っ」
(;゚∀゚)「うぎゃぁ!」
気が付いたら後頭部に衝撃を受け、前のめりにダイブしていた。
ささくれだった木の床が肌に擦れて痛いこと痛いこと……。
(`・ω・´)「こらぁっ、二号!」
( ゚∀゚)「あ……マスター」
(`・ω・´)「てめぇ、真面目に接客しろと言ったのを忘れたのかっ」
( ゚∀゚)「してましたよ。ビーチの何たるかを知らない若者に特別授業までしちゃいました」
(`・ω・´)「するなバカ野郎っ!」
(;゚∀゚)「いたぁ……」
再び殴られた。
痛い……頭が痛い。
耳の奥で除夜の鐘が聞こえる。
うわぁ……身体の仕組みって不思議が一杯……。
(`・ω・´)「悪かったな、ツンちゃん。こいつはまだ、二日目でよ」
ξ゚听)ξ「……」
マスターがさっきの少女に話しかけた。
ツン……これはあの少女の名前だろう。
と言うことは、二人は知り合い?
ξ゚听)ξ「……今年は質悪いですね」
(`・ω・´)「そう言われると返す言葉もなぇや。ツンちゃん、変なことはされなかったか?」
ξ゚听)ξ「一応“まだ”されてません」
言って、女がこっちを見る。
ふんっ、ふざけるなよ。
俺だって水着着てない女などに興味はない。
(`・ω・´)「ツンちゃん、注文は?」
ξ゚听)ξ「あ、フルーツジュースを一つ」
(`・ω・´)「おう。じゃ、すぐ作るから。座って待っててな」
ξ゚听)ξ「はい」
マスターに笑顔を向けて、少女が日陰の椅子に腰を下ろす。
見ると、少女の肌は夏という単語にさえ不釣り合いなほどに白く、体も華奢だった。
麦わら帽子の陰からのぞく髪の毛は、これもまた夏の海にはあまり似合わない黒髪のツインテール。
接客したのがモララーさんでも、この彼女が場違いだと感じるだろう。
(`・ω・´)「二号」
( ゚∀゚)「……ん?」
マスターに呼ばれ、振り向く。
マスターはその手にフルーツジュースを持って、
(`・ω・´)「これを彼女のとこに持って行け」
( ゚∀゚)「いや……俺ですか?」
(`・ω・´)「日本語が通じないのならバイト辞めろ」
( ゚∀゚)「……マスターが行けばいいじゃないですか」
突き放すような言葉に、思わず邪険になる。
マスターは厳しい表情で俺を睨むと、
(`・ω・´)「持っていくついでに謝ってこい」
( ゚∀゚)「そんなものは、水着着てないあの女が――」
(`・ω・´)「行け」
( ゚∀゚)「……」
ジュースの入ったグラスを突きつけられる。
拒否できる雰囲気じゃなかった。
( ゚∀゚)「……わかりましたよ」
うなずいて、渋々グラスを受け取る。
それからカウンターを出、海を眺めていた彼女の前にグラスを置き、
( ゚∀゚)「お待たせしました。フルーツ――」
ξ゚听)ξ「どうも変態さん」
(#゚∀゚)「……」
カチーンときた。
きたのだが……我慢だ。
マスターが見てる。
こんなガキっぽいことで一々目くじら立てては――、
ξ゚听)ξ「今年は厄年みたいね」
( ゚∀゚)「……」
独り言のように、女が呟き始めた。
ξ゚听)ξ「マスターにはもう長い間お世話になってるけど、こんなに店員の質が悪い年も初めてだわ」
( ゚∀゚)「……」
ξ゚听)ξ「一時的とは言え、こんな店員にお金払うなんて、マスターも可哀想」
(#゚∀゚)「……」
ξ゚听)ξ「ねっ、そう思わない? 店員さん?」
プッツン。
ξ゚听)ξ「……ちょっと。何か言いなさいよ。謝るとか――」
( ゚∀゚)「貧乳」
ξ#゚听)ξ「なっ、なんですってっ!?」
女が立ち上がった。
きつい目で俺を睨みつけ、
ξ#゚听)ξ「あんたっ、客に対してなんてこと言うのよっ!」
( ゚∀゚)「ふんっ。俺の客は水着の女オンリーだ。偉そうなことはワンピ脱いでから言え」
ξ;゚听)ξ「へっ、変態っ!」
( ゚∀゚)「何とでも言え。だが割合的にマイノリティのお前になにを言われようと、痛くもかゆくもない」
ξ#゚听)ξ「あんたっ――」
女が腕を振り上げた。
足を踏み出して俺との間合いを詰め……そして、
その腕が振り下ろされることは、なかった。
( ゚∀゚)「えっ……?」
ξ;゚听)ξ「んっ、はっ、はぁっ……あぁっ」
(`・ω・´)「ツンちゃんっ!」
( ゚∀゚)「……えっ?」
女が胸を押さえてうずくまる。
マスターが慌てて駆け寄ってくる。
倒れそうになるその肩を抱き、心配そうに顔をのぞき込みながら。
(`・ω・´)「大丈夫か? ツンちゃん。深呼吸して」
ξ;゚听)ξ「あっ……は、はい。もう……」
頼りない足取りで彼女が立ち上がる。
水滴を滴らせるグラスを手に取り、それを一口飲んで、小さく息をつく。
額には、玉のような汗が浮かんでいた。
ξ゚听)ξ「……もう大丈夫です」
(`・ω・´)「ホントか? 無理は――」
ξ゚听)ξ「平気です」
彼女がマスターに笑顔を向ける。
でもそれは、まだ弱々しかった。
(`・ω・´)「帰ろう。な? 今日は日差しが強すぎる」
ξ゚听)ξ「そうですね……ごめんなさい、迷惑かけて」
(`・ω・´)「なに言ってんだ。そりゃこっちのセリフだ。……ほら、裏に車あるから」
二人が歩き出す。
俺に背を向けて……、
( ゚∀゚)「待てよ」
声を、かけていた。
( ゚∀゚)「俺、まだ言いたいことが――」
(`・ω・´)「黙れ」
( ゚∀゚)「……マスター」
(`・ω・´)「二号。てめぇはここで、黙って仕事してろ」
( ゚∀゚)「……」
(`・ω・´)「今度何かしでかしたら、問答無用でクビだ」
言い切って、二人はまた歩き出した。
一人、がらんとした店に残される。
( ゚∀゚)「……」
「あのー。ここ、ビールって売ってますー?」
( ゚∀゚)「……はい」
客が、来た。
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