( ゚∀゚)ジョルジュと麦わら帽子のようです 三日目
三食付きの住み込みバイトとしてここに来たはずだった。
だが、詳しく話を聞いてみると、食事は場合により二食になるらしく、どうしても腹が減った場合は自己調達。
しかも朝食が。
( ゚∀゚)「……釣れねぇ」
時計を見る。
午前五時。
こんな時間に何をしているのか、そろそろ自分でも不思議になってきた。
釣り竿を垂れて早一時間、餌の交換以外に竿をあげた記憶がない。
( ゚∀゚)「あぁっ、やってられるか」
言って、竿を放り出す。
そのままその場に寝そべる。
一面雲のない澄んだ青空が目に入った。
( ゚∀゚)「……なぁにが入れ食いだ」
つい一時間前に聞かされた言葉。
慣れない時間に目を覚まし、目を擦る俺にマスターは言った。
(`・ω・´)『今日は“不漁”だった。だから朝飯は自分で何とかしろ』
いくら従業員とはいえ、そんなことを言われて納得できるはずもなく、俺は聞き返す。
( ゚∀゚)『ちょい待った。昨日はちゃんとあったじゃないですか』
(`・ω・´)『昨日は“大漁”だった』
( ゚∀゚)『……』
(`・ω・´)『言いたいことはそれだけか?』
それはこっちのセリフだ……と思ったが、あの漁業関係者相手に口に出せるはずもなく。
あの後、釣り竿とバケツを無料で支給され、一応マスターお勧めの入れ食いスポットも教えてもらった。
だが、その結果がこれ。
バケツの水は干上がって底が見えている……否。
水をくむ必要すらなかった。
これだから海の男はアバウトで嫌いだ。
( ゚∀゚)「あ〜ぁ、どうするかなぁ」
快晴の空を見ながら考える。
朝食にありつけないとなると、今日一日のバイトが不安だ。
生まれてこの方、親元で暮らしていて、朝食を抜いたこともない。
つい最近までスポーツマンだったわけだし。
脂肪は燃費悪いんだよなぁ。
さらに言えば金もないし。
( ゚∀゚)「モララーさんはコンビニだろうなぁ……」
ここから二キロほど歩いた場所に、一応、コンビニがあるらしい。
金のある人間はそこで飯を調達すればいいのだが、俺はまったくと言っていいほど金がない。
ここにくるまでの交通費で、ほぼ完全に底をついた。
元々、バイトなんて金のない人間のすることだ。
モララーさんのように目の保養と言う目的だけで働ける方がおかしい。
裕福な人間はいいよな。
( ゚∀゚)「釣るしかないか」
呟いて起きあがる。
まだ五時半。
あと一時間も粘れば、焼き魚の一匹くらいは腹に収められるだろう。
( ゚∀゚)「さぁて」
自分の世界から心を乱す全てを取り除けば、なにも考えずに時間を過ごせると思っていた。
まったくもって勘違いの逃避行だ。
何も無ければ無いほど、心は記憶で埋め尽くされていった。
――……
(*゚ー゚) 「マースター!」
(`・ω・´)「ん?」
(*゚ー゚) 「一年ぶりーっ」
(`・ω・´)「おー、しぃちゃんじゃねぇか」
太陽が天頂にさしかかる頃、一人の水着ちゃんが店にやってきた。
彼女は入ってくるなりマスターを呼びだし、そしてその腕に抱きつく。
(*゚ー゚) 「久しぶりー。元気だった?」
(`・ω・´)「おーう。元気だったぞ。しぃちゃんも元気そうだな」
(*゚ー゚) 「へっへー。OLは体が資本だからねー」
(`・ω・´)「そうか。あのやんちゃだったしぃちゃんも、とうとう社会人か。
……で、男の一人も出来たか?」
(*゚ー゚) 「それがねー。昨今の男には見る目がなくて。今日は同僚と」
言って、彼女は後ろを振り向く。
その視線の先に、二人の水着ちゃんが立っていた。
(`・ω・´)「上手くやってるみたいだな」
(*゚ー゚) 「ま、頭は悪いけど、人付き合いだけは得意だったから」
(`・ω・´)「そういやぁ、去年は浜辺の視線独占してたなぁ」
(*゚ー゚) 「もーマスターやめてよー」
楽しそうに笑いながら、マスターと女がじゃれあう。
昼時でひっきりなしに客が入れ替わるこの時間でも、彼女の存在は特別らしい。
マスターに言わせてみれば、これが経験の為せる技なのだろう。
俺に言わせりゃ働けの一言で終わるが。
( ・∀・)「ジョルジュ、こっち手伝ってくれ」
( ゚∀゚)「あ、はい」
モララーさんに呼ばれ、慌ててカウンターに戻る。
厨房からドクオさんが出てきて、出来たてほやほやの焼きそばを置いて、再び急ぎ足で厨房に戻る。
こんな時間はいい。
なにも考えずに済むから。
「すいませーん。ホットドック二つくださーい」
( ゚∀゚)「あ、はい。ただいま」
人でごった返す店内を見て、昨日そこにあった、記憶の中の影を追った。
――……
午後二時半。
やっと客の流れが落ち着く。
マスターはカウンターに腰を下ろし、スポーツ新聞を眺めている。
モララーさんは今、恒例の“出前”中。
( ゚∀゚)「……あの」
しばらく客が来なさそうなのを確認して、マスターに声をかける。
マスターは視線だけをこっちに向け、
(`・ω・´)「なんだ」
( ゚∀゚)「聞いてもいいですか?」
(`・ω・´)「だから、なんだ」
( ゚∀゚)「昨日の子のこと」
(`・ω・´)「……」
マスターの手が止まる。
それでも新聞を閉じようとはせず、
(`・ω・´)「やっと反省したか」
( ゚∀゚)「……まぁ、一応」
(`・ω・´)「遅い」
( ゚∀゚)「ですよね……」
マスターの言葉にうなずく。
そうだ……いつだって俺は、気付くのが遅すぎる。
これでもかってくらい壊してからじゃないと気付かない。
刻まれた傷を見て、初めて傷つけた事実に気付くように。
ただのバカだ。
( ゚∀゚)「……あの子、この辺の子ですか?」
(`・ω・´)「違う」
( ゚∀゚)「そうですか」
(`・ω・´)「……」
( ゚∀゚)「……裏の掃除してきます」
立ち上がり、ほうきを手にとって店を出ようとする。
そこで、
(`・ω・´)「すぐ近くに避暑地があるのは知ってるか?」
( ゚∀゚)「……えっ?」
声をかけられた。
振り返ると、相変わらずマスターは新聞に目を向けている。
ただ、その視線は所在なさげに泳いでいた。
さすがは海の男、非常にわかりやすい。
(`・ω・´)「あの子は毎年、この時期になるとここにくる」
( ゚∀゚)「はぁ」
(`・ω・´)「ここは夏でも、都心ほど暑くならねぇ。静養にはいい場所だ」
( ゚∀゚)「ふ〜ん……えっ?」
聞き慣れない言葉に思考が止まる。
一瞬……いや、それより遥かに長い時間をかけて、
( ゚∀゚)「……静養?」
聞き返した。
マスターはため息をこぼし、そしてやっと新聞を閉じて、
(`・ω・´)「わかるだろ。そう言うことだ」
( ゚∀゚)「……」
苦しそうな吐息。
したたり落ちる汗。
震える足。
( ゚∀゚)「……どこが、悪いんですか?」
恐る恐る尋ねる。
だが、返ってきたのはにべもない答だった。
(`・ω・´)「知らねぇ」
( ゚∀゚)「はっ?」
(`・ω・´)「俺はただの海の家のマスターだ。そしてあの子は、常連だけどただの客だ」
( ゚∀゚)「随分……冷たいですね」
(`・ω・´)「自分に何も出来ないからって俺を責めるな。後悔は自分で抱えろ」
( ゚∀゚)「……哲学ですか? 洒落てるじゃないですか」
(`・ω・´)「茶化すなバカ野郎」
マスターが立ち上がる。
そのまま店を出ようとして、
(`・ω・´)「……居場所になってやれりゃ、いいんだけどな」
( ゚∀゚)「はぁ?」
(`・ω・´)「結局、夏の終わりと一緒に終わるんだよ。毎年顔を合わせちゃいるが、それはただ、毎年始まって終わってるってだけの話だ」
( ゚∀゚)「意味がわかりません」
(`・ω・´)「だったら必死に考えろ」
( ゚∀゚)「……」
(`・ω・´)「店番してろよ」
マスターが歩き去った。
人のいない店内に、一人だけ残される。
それからしばらく、必死に考えた。
もちろん、意味なんてわからなかった。
――…
( ・∀・)「俺は年上が好きなんだよね」
モララーさんが言った。
どうやら今日の“出前先”は年上だったらしい。
( ・∀・)「それにさ、人妻って響きが最高じゃん?」
しかも人妻だったらしい。
あんたはバイト先で何をしてるんだ。
( ・∀・)「いやー、夏はいいよなぁ。暑いせいで、みんな色んなとこが弛んじゃってるし」
( ゚∀゚)「直球ですね」
( ・∀・)「全力ストレートを打ち返されりゃ、諦めもつくだろ?」
( ゚∀゚)「まぁ……そうかもしれないですね」
苦痛を伴った呟きをもらして、浜辺を見る。
だいぶ人が減っている。
時間は午後五時。
あと一時間で閉店時間だ。
そんな時間に、彼女はやってきた。
( ゚∀゚)「いらっしゃい」
ξ゚听)ξ「……」
( ゚∀゚)「ごめんなさい」
頭を下げる。
どうせ謝るなら早いほうがいい。
モララーさんの言うとおりだ。
俺はただ、全力のストレートが投げたかっただけだった。
ξ゚听)ξ「……気持ち悪い」
全力のストレートは簡単に打ち返された。
しかも、
ξ゚听)ξ「悪いものでも食べたの?」
バットのおまけ付き。
受け止めたらケガしそうだから、無難にスルーする。
( ゚∀゚)「ご注文は?」
ξ゚听)ξ「クリームあんみつ」
( ゚∀゚)「少々お待ち下さい」
ξ゚听)ξ「あなたの奢りね」
( ゚∀゚)「……」
ヘルメット投げつけられた。
滅茶苦茶だ。
( ゚∀゚)「……少々お待ちを」
答えてカウンターに戻る。
冷蔵庫からクリームあんみつの材料を取り出していると、モララーさんに声をかけられた。
( ・∀・)「おい、ジョルジュ。あの子なに? 可愛いじゃん」
( ゚∀゚)「地元の子ですよ」
( ・∀・)「へぇ〜。お前も隅に置けないねぇ」
( ゚∀゚)「……そんなんじゃないですよ」
クリームあんみつ完成。
それを持って、定位置らしい日陰の席に腰掛けた彼女の元へ行く。
背中に刺さるモララーさんの視線が痛い。
( ゚∀゚)「お待たせしました」
ξ゚听)ξ「どーも」
( ゚∀゚)「それじゃ、ごゆっくり」
ξ゚听)ξ「言われなくてもそうするわ」
( ゚∀゚)「……でしょうね」
苦笑してカウンターに戻る。
モララーさんが興味津々の視線を投げかけてくるが、今は気付かないことにする。
グラスを洗う振りをしながら。
何も見ないように。
なにも聞こえないようにしながら。
( ゚∀゚)「……」
心のどこかが疼いた。
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