( ゚∀゚)ジョルジュと麦わら帽子のようです ー最終日ー



『やっぱり、好きなんだよね』

『この気持ちだけは、嘘じゃないんだ』

『もう……隠すのも、無理っぽいし』

『だから、今、宣言しておくね』


マスターが目の前に仁王立ちしている。

こんな時だというのに、その厳つい表情は変わらない。

むしろ、断腸の思いで……てな雰囲気を感じる。

だが、いくら経営難だからと言って、それだけは認めない。

(`・ω・´)「……バイト代だ」

マスターが封筒を取り出した。

取り出すまでに随分と時間がかかった。





目の錯覚でなければ、その腕は震えている。

ふざけるのもその辺にしなさい。

(`・ω・´)「ほら、感謝し――」

( ゚∀゚)「ありがとうございます」

(`・ω・´)「あぁん……」

あっさり受け取ったら、面白い声が返ってきた。

しまった……録音しておくんだった。

(`・ω・´)「……じゃあ、一号も」

言って、マスターがモララーさんにも、同じ封筒を差し出す。

( ・∀・)「お世話になりました」

モララーさんは恭しく頭を下げて、それを受け取った。

大人だ。





(`・ω・´)「……じゃあな、一号。二号」

( ・∀・)「マスター。それ、毎年言ってるんじゃないですか?」

(`・ω・´)「う、うるせぇなっ」

モララーさんの茶々に、マスターが本気になって応える。

それから不意に背を向け、

(`・ω・´)「……さっさと行け。電車、無くなるぞ」

そう言って、店の中に消えた。

( ゚∀゚)「あぁ……なるほど」

マスターが名前を覚えない、その理由。

それは――、

( ・∀・)「行こうぜ、ジョルジュ」

( ゚∀゚)「……そうですね」





モララーさんに促され、歩き出す。

一度だけ、後ろを振り返って。

(`・ω・´)「――っ!?」

こっちをのぞいていたマスターが、慌てて物陰に隠れた。

( ・∀・)「可愛いじゃん、あのマスター」

( ゚∀゚)「五十代なのに」

( ・∀・)「そうだなぁ。二十歳の女だったらなぁ」

( ゚∀゚)「まだ言うか」

( ・∀・)「なぁ、ジョルジュ。一週間で四パクは記録だと思わねぇ?」

( ゚∀゚)「パクとか言うな」

そんなことを言いながら、ビーチをあとにする。

一夏の……思い出と共に。





『えっ――い、いきなりっ!?』

『そ、そんなコト言われてもっ……』

『ダメだよ……だってわたし達』

『ちょ、ちょっと待って――』


( ・∀・)「ジョルジュ、お前、どっち方面?」

( ゚∀゚)「ラウンジ区ですけど」

( ・∀・)「ブルジョワジーめっ! 人類の敵めっ!」

(;゚∀゚)「いっ、痛いですって!」

海水浴客も姿を消した、閑散としたホームで。

過ぎる時間を惜しむように言葉を交わす。

顔を合わせることは……たぶん、最後だから。

奇跡と、偶然と、まぐれと、出会い頭が揃わなければ、たぶん無理だから。

それでも、その可能性はゼロではないわけで。





( ・∀・)「はぁ……ったくさぁ、お前、もっとなんとかならなかったわけ?」

( ゚∀゚)「……なんのことですか?」

( ・∀・)「かーのーじょ」

( ゚∀゚)「あぁ……」

苦笑する。

この人は女ばっかりだ。

( ゚∀゚)「まぁ、俺は俺のペースで行きます」

( ・∀・)「はぁ? てめぇ、その曖昧な言い方はなんだ? 俺が理系だからってバカにしてんのか?」

(;゚∀゚)「いつの間に転部したんだあんたは」

ため息と共に、風が揺れる。

線路の遥か遠くに、ここに来るときに一度だけ乗った車体が見え始める。





( ・∀・)「あ〜ぁ。これで終わりかぁ」

モララーさんが大袈裟に呟く。

( ゚∀゚)「どうしたんですか?」

( ・∀・)「俺、また明日から学校だよ。めんどいなぁ」

( ゚∀゚)「……なんですって? じゃあ今までは?」

( ・∀・)「サボりだよ、サボり。明日から大変だぜ? どうしてくれんだよ」

知るか。

( ・∀・)「あ〜ぁ……終わり、なんだよなぁ」

( ゚∀゚)「……そんなに学校がイヤですか」





( ・∀・)「そうじゃなくてよ」

( ゚∀゚)「はい?」

( ・∀・)「苦手だな……こーゆー空気」

( ゚∀゚)「……」

その、ふと漏らした一言の言葉に、一週間という時間の長さと短さを感じ。

そして、

( ・∀・)「女と別れるときは楽なのになぁ」

( ゚∀゚)「……」

やっぱりモララーさんはモララーさんだった。





『始めるよ、野球』

『でも……今度はゼロから、始めたいんだよね』

『だから、これ。……預かってくれない?』

『ドラフトか……大学野球で名前売って、戻ってくるから』


乗り換えの駅で、降りる必要のないモララーさんまで、わざわざ電車を降りる。

特に話すこともなく、通り過ぎる人並みを眺めながら。

( ・∀・)「……お前、ケータイ持ってるよな?」

( ゚∀゚)「あ、はい……持ってますけど」

( ・∀・)「番号……」

そこでモララーさんは、一度、言葉を句切って。

十秒ほど、考えて。

( ・∀・)「……やっぱやめとくか」

そう、言った。





( ・∀・)「なんかさ、こんなことしたら……重みが消えそうじゃん?」

戯けるように言ったその言葉には、それなりの重さがあって。

( ・∀・)「それに……またすぐに、会えそうな気がすんだよな」

リアリストだと思っていたモララーさんの意外な一面に驚き。

( ・∀・)「……ま、無理だとは思うけどさ」

言葉とは裏腹な笑顔に誘われて。

( ゚∀゚)「会えるんじゃないですか……そのうち」

そう、呟く。

そこには希望と……やっぱり希望を、込めて。





( ・∀・)「……」

モララーさんが、俺の顔を見つめる。

長い間見つめて……、

( ・∀・)「お前が女だったらなぁ〜」

( ゚∀゚)「やっぱりそれですか」

その言葉に安心した。

( ・∀・)「よし、帰るか」

強い調子で、モララーさんが言う。

こんなことじゃ、マスターをバカに出来ない。

モララーさんも……俺も。

( ・∀・)「またな」

( ゚∀゚)「そうですね……また、機会があったら」

( ・∀・)「んじゃ」





軽く手をあげて、モララーさんは停車中の電車に――、

「こら! そこっ!」

駆け込み乗車して怒られていた。

( ゚∀゚)「……さて」

発車の騒音で苦笑を誤魔化して。

家に向かって歩き出す。

久しぶりの我が家。

( ゚∀゚)「……あぁ、そうだ。その前に――」





『あ、や、野球!? ……なんだ、野球かぁ』

『えっ? ……どういう意味?』

『――こ、これっ。グローブじゃないっ』

『あっ――じゃ、じゃあわたしもっ。これっ』


/ ,' 3「ん? あれ? ジョルジュか?」

( ゚∀゚)「おっちゃん、久しぶり。グローブ売ってくれ」

/ ,' 3「野球はやめたんじゃなかったのか?」

( ゚∀゚)「ちょっとね……人生の転機が訪れて」

/ ,' 3「ふられたか?」

( ゚∀゚)「うるさい」

その日、バイト代のほとんどをつぎ込んで、無くしてしまった野球道具を揃えた。

こうやって少しずつ、失った時間を埋めて。





/ ,' 3「んで、どうする? 今さら野球部には戻れねぇだろ?」

( ゚∀゚)「土下座でもするよ」

/ ,' 3「ほぅ……これはこれは」

( ゚∀゚)「……なに?」

/ ,' 3「えらい大失恋だなぁ」

( ゚∀゚)「だからうるせぇ」

/ ,' 3「わっはっは! なんだ? プロポーズでもしてきたのか?」

( ゚∀゚)「いや……」

それは……まだもう少しだけ、先の話だ。





『麦わら帽子……いいの?』

『う、うんっ。わ、わたしもそれ無くても平気になるように頑張るからっ』

『おー、偉い』

『だからっ! 嘘ついたら怒るからねっ!』

『任せて。……で、さぁ』

『あ……なぁに?』

『その、戻ってきたときの話なんだけど……』

『……えっ?』




『水着着てくれる?』

『ばかぁっ!』



fin




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