ある日ある時、私はある声を聞きました。

 それは低くてこもっていて聞き取りづらい、男の人の声。

 今まで何とも思わなかった様なその声が、
 何故か、とてもはっきりと私の耳に舞い込んだんです。


 その声の主は、同じクラスの男の子。
 背が高くて痩せていて、長い前髪で目元が隠れています。

 でも痩せているだけで、彼は実は整った顔立ちをしてるんです。

 鼻筋はしゅっと通ってるし、目尻の下がった切れ長の目。

 誰もそれには気付かないし、彼も気付いてないんだと思います。

 それに、私は彼の外見は、悪く言ってしまうとどうでも良いんです。


 私の目ではなく、耳が彼を追い求める。
 私の耳の後ろ側を優しく低く撫でる、彼の声。

 初めて聞いたその瞬間、首の後ろをざわざわと
 優しく甘く嘗められた様な気持ちだったんです。




 低くてこもってる、聞き取りにくい声。
 彼の雰囲気がそのまま反映された様なその声が、私は大好きです。

 あの声で耳元をくすぐられたら、背筋に気持ち良いぞくぞくが駆け抜ける。
 聞いているだけで表情がゆるむ、こそばゆくてしょうがなくなる。

 気持ち良い声。

 みんなが聞き取りにくい、辛気臭いと嫌うあの声は
 どうしようもなく、どうしようもなく気持ち良い声。

 もっと、耳元で囁いてください。
 私、純粋にあなたの声が好きなんです。

 私、ああ、私、



 あなたの声に、恋をしています。

            【夏に恋するようです】
      『−声とJKと変態−』







 私はその日の休み時間、いつもの様にお友達とお話をしてました。
 その内容は宿題やお勉強、昨晩観たテレビの事と言った他愛もない物ばかりです。

 特に意味も無ければ理由も無い、ただ穏やかな空気を楽しむ為の会話。

 私はそれが嫌いではありません。
 寧ろ、みんなが楽しんでくれているなら嬉しい位です。


 お友達がきゃらきゃらと、楽しそうにドラマについて話しています。

 賑やかな教室の中、彼女の声がクラスメイト達の声と同化して行く。

 ああ賑やかだなあ、そんな事を思う私の耳には
 たくさんの声が一緒くたになって、ざわざわと入り込みます。

 誰かを呼ぶ声、返事する声、高い声に低い声。
 その中にかき消されそうな、木の根っこみたいな声。


 あれ、?




 低くて、小さくて、誰かに返事をする声。

 お友達に向けていた顔をきょろきょろと、色んな方向に向ける。
 聞き覚えのない低い声に、首を傾げながら。

 ぼそぼそと話す声を追って、私は教室の中を見回して
 視界のはしっこに引っ掛かったのは、大きくて曲がった背中。


(´・ω・`)「でさ流石君、次の日曜なんだけど、どうかな?」

( ´_ゝ`)「…………ごめん、俺は……」


 ぞく。


(´・ω・`)「そっか……」

( ´_ゝ`)「……ごめん…………弟が、行くと……思うから」


 ぞくぞく。




(´・ω・`)「ううん、無理言ってごめんね、それじゃ」

( ´_ゝ`)「ん……」


 ぞく、ん。


 あ、れ?
 あれ、れ?

 変、なんだか、体の奥が変です。

 すごく、背中や耳の後ろがぞわぞわする。
 でも気持ちの悪いぞわぞわじゃなくて、少し、違うんです。


 私は、猫背の彼から目が離せません。
 窓際の後ろから三番目に座る彼から、目が離せないんです。

 あ、背中が、ぞわぞわが気持ちいい。




 少しずつ引いて行くぞわぞわに身を抱いて、軽く俯きます。
 そして、ゆっくり机の木目を見つめる彼から視線を外しました。


 クラスメイトの男の子と話していたのは、背の高い、猫背の男の子で。

 ええと、ええと、名前は、確か、流石兄者くん。
 隣のクラスに双子の弟さんが居る、背の高い男の子の、はずです。

 耳の後ろを撫でられた様なぞわぞわに肩を竦めていたら、
 目の前に座るお友達が、いぶかしげに私に声をかけてきました。


o川;゚ー゚)o「……デレちゃんっ、デレちゃんっ! ……聞いてた?」

ζ(゚−゚;ζ「へなっ!? ぇ、あ、はひっ?」

o川;゚ー゚)o「なんやーへなって……もう、聞いとらんかったなぁ?」

ζ(゚ー゚;ζ「ご……ごめんなさい、キューちゃん」

o川;゚ー゚)o「キュウリのお漬け物みたいな呼び方はやめてー……」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、じゃ、じゃあ…………トーちゃ」

o川;゚ー゚)o「立ち位置から変わってまう、変わってまうよデレちゃん!」

ζ(゚ー゚;ζ「ご、ごめんなさひ……」



o川;゚ー゚)o「やっぱキューちゃんで良いや……ところで、何見てたん?」

ζ(゚ー゚;ζ「ぇ、その、あの……」

o川*゚ー゚)o「角度からしてあっちー……だとー……」

ζ(゚ー゚;ζ「あ、あの、あんまり、見なくても、その」

o川*゚ー゚)o「…………流石くん?」

ζ(゚ー゚;ζ「や、あ、ち、違うんですっ、声、あの、あんまり聞いた事なくてっ」

o川*゚ー゚)o「あー……流石くんって無口やもんね、声も低くてこもっとるし」

ζ(゚ー゚;ζ「は、はひ」

o川*゚ー゚)o「双子の弟くんは明るいんやけどねー……」

ζ(゚ー゚;ζ「へぁ……」

o川*゚ー゚)o「……」

ζ(゚ー゚;ζ「……」




 あ、なんだか、視線が痛いです。

 男の子をじっと見てたのがバレちゃうのは少し恥ずかしくて、
 ついはぐらかしちゃったたのですが、もしかしたら肯定した方が楽だったかも。

 お友達である直野さん、直野キュートちゃんが私を見ています。

 キューちゃんは焦げ茶の髪に、ポンポンのついた飾りを二つつけています。
 とっても可愛らしいお顔で、私よりは大きいですが背も低め。

 特徴的な彼女の言葉遣いは、なんだかとても落ち着くんです。

 とても大事なお友達の一人、キューちゃん。


 そんなキューちゃんの視線を、私は笑顔で受け止めているのですが、
 きっと、その笑顔はひきつっているんだと思います。

 何かを探る様なキューちゃんの視線にどう返事をするか。
 汗を流しながら考えていると、後ろから声をかけられました。




(´・ω・`)「直野さん、河合さん」

o川*゚ー゚)o「ん? 委員長どないしたん?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたんですか?」

(´・ω・`)「今度の日曜にクラス合同の課外授業があるんだ」

o川*゚ー゚)o「あー先生が言うとったねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、それの参加についてですか?」

(´・ω・`)「うん、先生に参加者集めを言われたんだ。二人はどうする?」

o川*゚ー゚)o「あー……ほんならうち行くわ、どうせ参加者少ないんやろ?」

(´・ω・`)「うん、ありがたやです……河合さんは?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、私も」



   ( ( ´_ゝ`)「…………ごめん、俺は……」 )



ζ(゚−゚*ζ!




ζ(゚−゚*ζ

o川*゚ー゚)o「……デレちゃん?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ……ごめんなさい、私は遠慮します」

(´・ω・`)「そっか……わかった、ごめんね」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ、こちらこそごめんなさいです」

(´・ω・`)「うーん……参加者は今のところ二人かぁ……」

o川;゚ー゚)o「……まさか、うちと委員長だけ?」

(´・ω・`)「……うん」

o川;--)o「ただのデートやないの、それ……」

(´・ω・`)「あ、でも先生が居るからそれはないと思うよ」
  _,
o川*゚听)o「そこは少しくらい照れたりしてくれへん?」

(´・ω・`)?
  _,,
o川#゚听)o「…………恥ずかし腹立つわぁ……」




(´・ω・`)「じゃ、他のクラスで聞いてくるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「いってらっしゃいです」

o川#゚ー゚)o「いってらヘタレ眉毛」

(´・ω・`)ショボン


 委員長の男の子、眉山くんがしょんぼりと教室から出て行きます。
 その後ろ姿を見送りながら、キューちゃんが舌を出していました。

 二人は仲が良いんだな、と少しだけ羨ましい気分になります。

 私は男の子と、どう関われば良いのかよく分かりません。
 ですから、キューちゃんみたいに男女問わず仲良く出来るのが羨ましいんです。


 焦げ茶の髪の毛はさらさらの直毛で、私の癖っ毛とは全然違う。
 あのポンポンのついたゴム、私がつけると髪の毛に埋まっちゃう。

 小柄だけど私よりは背が高いし、細い手足がしゅっとしてて綺麗。




 何でもまっすぐに意見を言えるし、物怖じしないし、
 なんだか、糊のきいた白いシャツみたいな彼女が、すごく、羨ましいです。


o川*゚ー゚)o「どないしたん? デレちゃん」


 暑そうに開けられたシャツのボタンに、緩んだネクタイ。
 その隙間から覗くのは、キャミソールのレースとリボン。

 私の制服は、着崩れる事もなく頑固なまでにぴっちりそのまま。
 本当は暑いけれど、ボタンを外すどころかネクタイを緩める勇気もない。

 先生に怒られるのが怖いから、私はネクタイも緩められない。

 勇気がないんです、私には。
 平坦な道しか歩けない、意気地無し。

 キューちゃんには、ネクタイを緩められる勇気が
 誰にでも話し掛けられる勇気が、ある。


 良い、なぁ。




ζ(゚−゚*ζ「……」

o川*゚ー゚)o「……デレ、ちゃん?」


 勇気。

 ちら、と視線を動かして、窓の方を見ます。

 そこには、相変わらず白いシャツにシワを寄らせた猫背の彼が座っていました。
 そっと耳の後ろを指先で撫で、さっきのぞわぞわを思い出す。

 彼の声を聞いて、私の体にぞわぞわが駆け抜けた。
 あのぞわぞわは、すごくすごく、気持ちよかった。


 またあのぞわぞわを味わいたい。
 そのためには、きっと、彼の声を聞かなきゃいけない。

 でもどうやって、彼の声を聞くの?




 そんなの、話しかけるのが一番早い。

 決まってるじゃない、話しかけたら、彼はきっと返事をしてくれるもの。


 まあ、


ζ( − ζ(……話しかけられたら、苦労しないのにー……)


 ですよね。

 だってだって、男の子に話しかけるのはなんだか恥ずかしい。
 話しかけられたらお返事はするけれど、自分からなんて、そんな。

 ああでも、でも聞きたいんです。

 ああうでもでもでもでも


o川*゚听)o「ソイヤァッ!!」

ζ(゚−゚;ζ「はひっ!?」




o川*゚ー゚)o「なーにを悶々とわちゃわちゃしとるん、デレちゃん」

ζ(゚ー゚;ζ「へひ、へ、ぇ?」

o川*゚ー゚)o「黙ったまんま一人でめっちゃ百面相しとったよ?」


o川*゚ヮ゚)o

o川*゚ー゚)o

o川 ゚−゚)o

o川 ゚ -゚)o
  _,
o川 ゚ -゚)o
  _,
o川 - -)o
  _,
o川*- -)o
  _,
o川///)o


o川*゚ー゚)o「こんな感じで」
   ,_
ζ(゚ヮ゚*;ζ「わはぁ……お恥ずかしいです……」




o川*゚ー゚)o「で、どないしたん? キュウリに話してみ?」

ζ(゚ー゚;ζ「キュウリ……あ、いえ、そのぅ……」

o川*゚ー゚)o「ボケを殺した報いを受ける前に言うた方が得やでぇ」

ζ(゚ー゚;ζ「あっ、あのっ、どど、どうしたら話しかけられるのかなぁって!」

o川*゚ー゚)o「えぇ判断や。で、話しかけるって? 誰に?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、あの…………キューちゃんは、男の子に話しかけられます、よね?」

o川*゚ー゚)o「何やうちえらい逆ナン女みたいな言い方やけど……かけれるよ?」

ζ(゚ー゚*ζ「……どうしたら、話しかけられるんですか?」

o川*゚ー゚)o「…………普通に、ちゃう?」

ζ(゚ー゚;ζ「ぬわー……」




o川*゚ー゚)o「まぁそれは冗談として、別に構えずに話しかけてるからなぁ」

ζ(゚−゚*ζ「うー……何で話しかけられるんですかぁ……」

o川*゚ー゚)o「まぁ場合にもよるやんね、話しかけなあかんのかそうでもないのか」

ζ(゚ヮ゚*;ζ「や、その、あの……別に、かけなくてもなんですけど……その」

o川*゚ー゚)o(何やラブタイフーン感じるなぁ)

ζ(。_ 。`*ζ「……話しかけたいと言いますか、その……あの……声を……」

o川*゚ー゚)o(デレちゃんえらい顔になっとるでー、つか青春しとんなぁ)

ζ(_ _`*ζ「話しかけられたいと言いますか……きもちいいと言いますか……」

o川*゚ー゚)o(デレちゃん目ぇどこやー俯きすぎやでー、いや待て何やきもちいいて)

ζ(, ,`*ζ「どうすれば良いんでしょうか……これ……」

o川*゚ー゚)o(じぶん誰や、その前に何やこのラブフェスティバル開催しとる乙女)
   ,_
ζ(゚- ゚*ζ「……聞いてます?」

o川*゚ー゚)o「え? あ、うん? ああ聞いてる聞いてる?」



   ,_
ζ(゚- ゚*ζ「……聞いてなかったでしょ?」

o川*゚ー゚)o「うん、ごめん。いやまあ待て待て乙女」
   ,_
ζ(゚^ ゚*ζ「なんですか?」

o川*゚ー゚)o(あ、その顔カワイイ様でイラッとした)

o川*゚ー゚)o「でなくって、要するに、誰かと話したいん?」

ζ(゚- ゚*ζ「んー……ちょっと、違う……かな?」

o川*゚ー゚)o「ほんなら、声を聞きたい?」

ζ(゚ヮ゚*ζ「あ、それです!」

o川*゚ー゚)o「んーむ……ほんならー……」

ζ(゚ワ゚*ζ ワクワク

o川*゚ー゚)o(口でけぇな)

o川*゚ー゚)o「……録音したら?」




ζ(゚△゚*ζ「……録音、ですか?」

o川*゚ー゚)o「その人の声、録音して聞いたら?」

ζ(゚□゚*ζ

o川*゚ー゚)o(ふむ、流石にこのボケはデレちゃんにはキツかったか)

ζ(゚◇゚*ζ

o川*゚ー゚)o

ζ(゚q゚*ζ

o川*゚ー゚)o

ζ(゚々。*ζ

o川*゚ー゚)o(あかん突っ込みたい、うちがボケたのに突っ込みたい、怒濤の勢いで突っ込みたい)

ζ(^ヮ^*ζ

o川*゚ー゚)o(何やねんさっきまでの顔面崩壊の末にこのカワイイ笑顔て)




o川*゚ー゚)o「あー……その、ごめんデレちゃ」

ζ(^ヮ^*ζ「ありがとうございますキューちゃんっ!」

o川*゚ー゚)o「ワオ予想外」

ζ(^ヮ^*ζ「分かりました、録音していっぱい聞きます!
      取り敢えず、帰りにボイスレコーダー買います!」

o川*゚ー゚)o「これは斜め上やでぇ、どないしようか」

ζ(゚ー゚*ζ「何がですか?」

o川*゚ー゚)o「ううん何でもないでー、うまくいくとえぇなー☆」

ζ(^ヮ^*ζ「はいっ! ありがとうございますっ!」

o川*゚ー゚)o(デレちゃん……あんた、予想以上にアホやったんやな……
      それ、話しかけられへんって言う事の解決には全くなってへんで……)

o川*゚ー゚)o

o川*゚ー゚)o(どないしよう)




ζ(゚ー゚*ζ「寝る前とか、暇な時に聞いて……」

o川*゚ー゚)o(デレちゃん……)

ζ(^ー^*ζ「うふふっ……ふふふぅ」

o川*゚ー゚)o(なあ、デレちゃん……)

ζ(^ヮ^*ζ「ふふー……幸せかも知れませんー……」

o川*゚ー゚)o(デレちゃん、変やで……物凄い、変態みたいやで……)

ζ(-ヮ-*ζ「いーっぱい聞きたいなぁ……色んな事……うふふー」

o川*゚ー゚)o(あかん、うちのせいでデレちゃんがおかしぃなってしもた)

ζ(゚△゚*ζ「あ、でも」

o川;゚ー゚)o「ゆべしっ?」

ζ(゚- ゚*ζ「……どうやって、録音しましょう?」

o川;゚ー゚)o「……ボイスレコーダーに向かって、話してもろたら?」

ζ(^ワ^*ζ「あっ、なるほどー! ありがとうございますっ!」
  _,
o川 ;−;)o(デレちゃん…………半端なく頭、悪なっとるで……)





 放課後、私はどこか疲れた顔のキューちゃんと別れました。

 キューちゃんはがっくり肩を落として、軽く手を振って足早に帰ってしまいました。
 何かあったのでしょうか、少し心配です。

 鞄を肩からかけて、靴を履き替えようと下駄箱の扉を開けます。
 そして外靴を出して、上履きを脱ごうとした時、ある事に気付きました。


ζ(゚−゚*ζ「あ……辞書、忘れて来ちゃった」


 少し軽い鞄に首を傾げてから、机の中に英語の辞書を忘れた事を思い出しました。

 もう良いかな、とも思いましたが、今日出された宿題は英語が多い。
 さすがに辞書がないと、ちょっぴり大変です。

 しょうがない、と外靴を戻して、私は教室へと戻って行きました。


 窓や扉から流れ込む夕暮れ時の風は、昼間に比べると涼しい。

 僅かに緩和される暑さに、少しばかり、体が軽いです。




 ほとんど聞いた事も無いような、低い声。
 どうして私がこんなに、彼の声に固執しているのか。
 それは、私自身にもよくわかりません。

 ただ彼の声が、低くてぼそぼそした声が、気持ち良かったんです。

 だからその声をまた聞きたくて、もっと聞きたくて、もっと気持ち良くなりたくて。

 ああ、やっぱり私、変です。
 思い出すだけで背中がざわざわする声。

 私、あの声に酔わされてる。
 流石くんの声が、私を壊して行くんです。

 どうすれば良いのか分からない
 だけど気持ち良くなりたいから、あの声を求める。


 聞きたいの、聞かせてほしいの、もっと壊してほしいの。

 ああ私、すごくはしたない女の子みたい。

 でも、もっともっと、欲しいんです。




 身を抱いてぞわぞわを堪能しながら、がらり、辿り着いた教室のドアを開けた。

 夕方の赤に塗られた教室。
 そのはしっこに、ぽつりと存在する影。


ζ(゚−゚*ζ「ぁ……」

( ´_ゝ`)「…………ん、?」

ζ(゚−゚*ζ「流石……くん」

( ´_ゝ`)「……かわ、い……か?」


 赤くてうっすら暗い教室に、一人で存在する人。

 その人は顔を隠す様な長い前髪で、しゅっと通った鼻筋に下がった目尻。
 痩せているけれど、とても背の高い人。

 襟の隙間から覗く鎖骨が、とてもくっきりと見える人。
 こつんと出っ張った喉仏が、少し太い首を飾る人。


 気持ち良い声を発する、その人。




ζ(゚−゚*ζ「ぁ……ま、まだ……帰って、なかったんですか?」

( ´_ゝ`)「…………ああ」

ζ(゚−゚*ζ「ど、どうしたんですか? 何かあったんですか? もう暗くなりますよ?」

( ´_ゝ`)「…………」

ζ(゚△゚;ζ「あ、う……あうあう……」


 どどどどどうしようどうしよう。

 突然の事でびっくりしちゃって、何を言えば良いのか分かりません。
 ぽろぽろと溢れて行くのは、畳み掛ける様な質問。

 ああもう、無口な流石くんがこんな問い掛けに全部答えてくれるのでしょうか。
 無口な方にそれをさせるのは無茶です、無茶ですよ、あああもうっ。

 あわあわ。
 私は戸惑って混乱して、どうすれば良いのかと右往左往。

 ただ辞書を取ってまた明日と言えば良いだけ、何も戸惑う事はない。
 それなのに、私は混乱してしまっていました。




 引っ込んでいた汗が、ぶわりとあふれだす。
 夏の暑さの所為ではなく、原因不明の冷たい汗が私を濡らして行きます。

 私が今にも目をぴよぴよ回すんじゃないかと思った時、
 窓際の席から届いた、低い声。


( ´_ゝ`)「……委員長が、忙しかった……から」

ζ(゚−゚;ζ「ふぎゃっ!?」

( ´_ゝ`)「先生に…………その分の仕事、任された……」

ζ(゚−゚;ζ「あ、そ……そうなん、ですか?」

( ´_ゝ`)゙

ζ(゚−゚;ζ「……まだ、いっぱいあるんですか?」

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)"




 私の問いに、流石くんは少しの間を置いてから首を横に振りました。

 今の間は何だろうと首を傾げ、そたと流石君の席に近付いてみました。
 すると、流石くんの机には山盛りの紙束とホッチキス。

 紙にはびっしりと文字が書いてあり、その一番上には「課外授業」の文字。
 私が目を丸くすると、流石くんは困った様に肩を落としてしまいます。



ζ(゚−゚*ζ「これ……日曜、の?」

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`)゙

ζ(゚−゚*ζ「こんなにいっぱい……これ、合わせてホッチキスで止めるんですか?」

( ´_ゝ`)゙

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ私、お手伝いさせて下さい」

(;´_ゝ`)そ




ζ(゚ー゚*ζ「二人でやった方が早いですよ、ね?」

(;´_ゝ`)「…………かわ、い、は……早く、帰った方が……」

ζ(゚ー゚*ζ「やです」

(;´_ゝ`)

ζ(^ー^*ζ「私、この癖っ毛みたいに頑固なんです
      だからお手伝いさせて下さい、一緒にやって早く帰りましょう?」

(;´_ゝ`)

(;´_ゝ`)゙

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、椅子持ってきますね!」

(;´_ゝ`)゙

ζ(゚ー゚*ζ「んっしょ、と……さ、始めましょう!」

(;´_ゝ`)゙




ζ(゚ー゚*ζ「重ねてー……合わせてー……ぱっちんな」

(;´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「合わせてー……重ねてー……ぱっちんな」

(;´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「重ねて合わせてー……ぱっちんな」

(;´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「えいしょ、のいしょ、ぱっちんな」

(;´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「えいこらよいこら……ぱっちんな」

(;´_ゝ`)

ζ(゚ー゚*ζ「ぱっちんぱっちんぱっちんなっと」

(;´_ゝ`)(集中……出来ん……)




(;´_ゝ`)「…………かわ、い?」

゙ζ(゚- ゚*ζ!

(;´_ゝ`)?

ζ(゚ー゚*ζ「あ、な、何ですかっ?」

(;´_ゝ`)「……かわいは、ひとり、ごと…………多い……のか」

:ζ( ヮ *ζ: ゾクッ

ζ(゚ー゚*;ζ「あ……ご、ごめんなさい、うるさかったですか?」

(;´_ゝ`)「…………いや、そうじゃ、無い……が」

:ζ( ヮ *;ζ: ゾクゾクッ

ζ(゚ー゚*;ζ「ご、ごめんなさい、独り言……小さい頃からの癖で」

(;´_ゝ`)「そう……なのか」
   ,_
:ζ( △ *;ζ: ゾクゾクゾクッ

(;´_ゝ`)(…………かわい……なんか、変な奴……だな)




 ああもうやっぱり気持ち良い。
 この声、ずるいです、私の耳を嘗めるみたいに撫でる。

 ぱちんぱちん、とホッチキスが音を立てる。
 少しずつ出来て行く課外授業の資料。

 独り言をぐっと押さえ込んで、静かにその作業に没頭する。
 何か言わないかなあ、流石くんに喋ってほしいなあ。

 そんな事を考えながら、ちらちらと流石くんの顔を盗み見る。
 たまに目が合って、少し焦って視線を外して、作業。


 電気を消した教室には、ぱっちんぱっちん、ホッチキスの音ばかりが転がっていました。

 私は流石くんとなかなか言葉を交わせず、よく分からない自己嫌悪に陥ります。
 敬語、嫌かなあ、話しづらいかなあ。
 もっともっと、聞きたいなあ。

 はふん。





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