('A`)28メートルを飛べ!のようです
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「よしっ!」矢が風を切り裂いて真っ直ぐに的を貫く。その時の爽快感は、悪いたとえだが、麻薬のようだ。中(あた)れば中(あた)るほど弓引きは、弓道って麻薬に溺れていく気がする。
( ^ω^)「ドクオー!調子いいお!」
('A`)「お、おう」
VIP高校弓道部。ドクオは、所謂天才というやつだ。ただし…。
( ´_ゝ`)「三年集まれ!来週の打ち合わせだ!!」
( ´∀`)「さて、君達、来週はいよいよ県大会だ」
( ´∀`)「ここで選手を発表する。いいな?」
( ´∀`)「大前、ジョルジュ!二的、兄者!中、ショボン!落前、ブーン!」
( ´∀`)「そして、落、ドクオ!」
(゜A゜)「おぼろろろろろろろろろ!!!」
「うわあああドクオが吐いたああああああ!!!!」
病的にプレッシャーに弱いのであった。
( ^ω^)「ドクオ大丈夫かお?」
('A`)「あ、ああ、大丈夫」
幼馴染のブーンはドクオのメンタルの弱さを昔から知っていた。
小学校の時の運動会、アンカーを任されて、同じように本番で吐瀉物を撒き散らしたことも覚えている。
そんなものならまだいいが、今回はそれとわけが違う。
この県大会はインターハイの選抜試合なのだ。
('A`)「何で俺が落なんだよ…」
( ^ω^)「何でって、そりゃドクオはうちのエースだからだお」
_
( ゚∀゚)「そーだぜ!お前上手いんだから自身持てよ」
ジョルジュがアクセサリをちゃらちゃら鳴らしながら、割り込んでくる。
まっ茶色の髪にピアスをごっそり付けた彼は、弓道部の問題児である。
_
( ゚∀゚)「大前は目立つからいいけどさ!やっぱ落が一番かっこいいよなぁ」
('A`)「おまえ…想像してみろよ…全員が中ててさ、最後、自分が中てたら優勝って状況だったら、どうするよ?」
_
( ゚∀゚)「責任重大だなぁwwww」
ジョルジュは他人事のように、げらげらと笑う。彼のお気楽さにはドクオも感心するばかりで、もし、ジョルジュみたいな前向きな奴になれたらなぁ…。そう思ってはため息をつくばかりだった。
( ´_ゝ`)「おい、そこの3人!選手なんだから練習しろよ!」
兄者の怒号が響く。兄者は部の主将であり、高校生にして弓道4段を所持した猛者である。
(;^ω^)「い、今行くお!」
5人立ちの射場に選手が並ぶ。こうしてみると、やはりジョルジュが悪い意味で目立つ。何故規律に厳しい兄者がこれを許すのかというと、やはり、上手いのだ。ドクオほどではないし、射形もグチャグチャだが、何より中てる。的中立だけではドクオに匹敵する。
所作や射形はさておき、大会を勝ち抜くにはひたすら中てなくてはならないのは当然で、ともすればジョルジュの態度やらが黙認されるのも仕方がない。
( ´_ゝ`)「ジョルジュ!試合までに早気なおせよ!」
_
( ゚∀゚)「俺のタイミングでやらせてくれよ!」
*早気とは、会(弓を引ききった状態)から離れ(矢を放つ)までの時間が短いこと。中てようと意識しすぎると、早気になる。普通は、5秒から10秒は保つ。
( ´_ゝ`)「ブーンを見習え!あいつは30秒は会を保つぞ」
_
( ゚∀゚)「保ちすぎwwwww」
拍手が起こった
ドクオが離れを終えたばかりであった。兄者とジョルジュがドクオの腕の先を目で追っていくと、そこには的に吸い込まれるように突き刺さった矢が四本。皆中だ。
部活終了後
(´・ω・`)「やっぱりドクオ君はすごいよ」
帰り際、無口で気弱なショボンが呟くように言った。
彼は、特殊な腕の形である猿腕のせいか、よく腕を弦ではらってしまうのだ。
(´・ω・`)「僕もドクオ君みたいに皆中をバンバン出してみたいな…」
('A`)「…出来るよ」
(´・ω・`)「無理だよ…僕は弓を引くのが恐いんだ」
(;'A`)「あ…その腕…」
(´・ω・`)「あ、はは…またはらっちゃったんだ。やっぱ僕には才能無いのかなぁ…」
ショボンはそう言ったきり、黙りこくってしまった。
………気まずい…。何か言わなくては…コミュ障のドクオは何を言っていいのか、分からなかった。
( ^ω^)「おいすー!ドクオ帰ろうおー!」
呑気な声。ブーンだ。
( ^ω^)「お?ショボン!おまいも一緒に帰ろうお!」
(´・ω・`)「え?う、うん…」
そんなことで、ブーンとドクオとショボンは、肩を並べて帰路についた。
( ^ω^)「まさかブーンが試合に出られるとは思わなかったおー」
(´・ω・`)「僕も…」
( ^ω^)「ブーンの目標は大会で全試合皆中することだお!!」
(´・ω・`)「僕も、一回は皆中したいなぁ…」
( ^ω^)「そんな弱気じゃ駄目だお!夢はでっかく!インハイ!」
(´・ω・`)「だって…僕は所詮、頭数を合わせる為の代表だもの」
( ^ω^)「そうなのかお?」
(´・ω・`)「三年男子は5人しかいないでしょ?大会は5人じゃないと出られないからね」
ドクオは考えていた。何で、ショボンの発言を否定しなかったのか。確かにショボンは的中率こそ低い。しかし、射形の良さは兄者の折り紙付きじゃないか。才能がないなんてことは、決して、ない。
('A`)「ショボン…」
(´・ω・`)「え?」
('A`)「インハイ、いこう」
(´・ω・`)「う、うん」
('A`)「…ショボンが、いつまでも残って、射込みしてるのは、知ってる。努力が報われないことは、ない、と俺思うんだ」
つくづく俺は気が利いたことが言えない。ドクオはやきもきした。しかし、ショボンは笑った。
(´・ω・`)「ありがとう!」
( ^ω^)「いいこと言うおドクオ!来週は頑張ろうおっショボン!」
(´・ω・`)「ブーン君もありがとう!」
(´・ω・`)「僕はこっちだから、ここで…」
('A`)「おう、また明日」
( ^ω^)ノシ「ばいぶー」
(;'A`)「は、腹痛ぇ…」
( ^ω^)「ちょっwwまたかおwww」
がむしゃらに射込むうちに一週間はあっという間に過ぎた。
ドクオは見事に下痢ピーになった。
げっそりするドクオと対照的に、ブーンはつやつやしている。どうせ、昨日の晩に豚カツでも食ったんだろう。ドクオはニヤついたピザを見つめた。
_
( ゚∀゚)「遅ぇぞ!」
ジョルジュはこの一週間、相変わらず早気だった。
(´・ω・`)「おはよう。今日は頑張ろうね」
ショボンは相変わらず腕をはらって、腫らしていた。湿布の臭いが鼻をつく。
( ´∀`)「いいか、今日優勝すれば、県代表になれる。頑張れよ。……じゃあ、主将から一言」
モナーがちらりと兄者を見る。それにつられるように、ドクオ達部員は主将を見つめた。
( ´_ゝ`)「今までうちの高校からインハイにいった者はいない。もしかすると、これが引退試合になるかもしれない。でも、手は抜くな。悔いの残らない試合にしよう。以上」
川 ゚ -゚) 「遅れてしまったな。ツンのせいで」
ξ;゚听)ξ「何度も謝ったじゃないの!」
川 ゚ -゚) 「もう始まっているな。お、ラウ高のエースが中てたな」
ξ゚听)ξ「ラウ高って…インハイ常連のラウンジ高校のこと?」
川 ゚ -゚) 「ああ。お、また中てた。皆中だ」
ξ゚听)ξ「ラウ高はどうでもいいわよ!VIPは!?」
川 ゚ -゚) 「む、一応準決勝まで進んでいるようだな」
( ´∀`)「おや、お前たち。応援に来てくれたのかい?」
川 ゚ -゚) 「差し入れにドーナツを買ってきました。この、Dポップはドクオに…」
ξ゚听)ξ「ちょっと、さもアンタが買ってきた様に言わないでよ。」
川 ゚ -゚) 「ああ。そうだな。部費が余ったそうなので」
ξ゚听)ξ「余った訳じゃないわよ。私がうまーくやりくりして…」
( ´∀`)「ツン。こんな時まで会計の仕事をさせて悪いね。こんなに沢山ありがとう」
川 ゚ -゚) 「この半分はブーンにやるんだよな」
ξ゚听)ξ「ち、違うわよ!!何わけ分かんないこと言ってんのよ!」
会計のツンは、湯水のように部費を使っていると見せかけて、実は結構節約上手だったりする。とはいえ1年のときから、何となく気になっていたブーンに部費で買ったドーナツなどを渡すのは嫌だったので、ブーンのドーナツはこっそり自分の小遣いから出していた。
始めっ!!
審判の合図が聞こえた。
川 ゚ -゚) 「ブーンに抱いている好意を見透かされたことを、ツンが真っ赤になって否定しているうちに、準決勝の試合が始まったのだ」
ξ゚听)ξ「え、何!?誰に言ってるの!?止めてよ変なこと言…」
川 ゚ -゚) 「試合中だ。静かにしろ、ツン」
ξ゚听)ξ「………」
ジョルジュは、いつも通りの滅茶苦茶な射形で弓をh…離れた。良くも悪くもジョルジュだ。会は0,5秒。矢はまっすぐに的を貫く。
兄者は、いつも通りの教本の挿絵のような射形で弓を引く。流石は四段。胴に全くといって良いほどブレが無い。矢はやはりまっすぐに的を貫く。
ショボンは、腕をはらう。痛くて叫びだしたくなった。矢は失速し、矢道(射場から的までの草の生えたゾーン)に突き刺さった。
ブーンは、いつも以上にゆっくりと弓を引く。
ξ゚听)ξ「相変わらず、なっがいわね…」
川 ゚ -゚)「そうだな。何だ、いつもよりいやに長いな」
そして、時間切れ寸前まで保ち続けるのではないか、という思いすら湧き出てきたその瞬間、離す。ズバーンッと、漫画のような音をたてて的に中る。ブーンは部内で一番重い弓を引く。そのせいか、離すと風を切り裂くような音と、爆発音のような音が響き渡る。
『やべぇ…吐きそう…まぁ、三中はしてるし…ジョルジュと兄者は皆中してるしな…外しても、文句は言われねぇか』
ドクオは気楽に弓を引く。やはり、気負いしないとドクオは強い。
矢を的の中央、所謂ど星に叩き込む。皆中だ。
( ´∀`)「よくやったぞ。皆。決勝戦まで進むなんて、VIP高弓道部始まって以来だよ」
結果、皆中、皆中、羽分(二中)、皆中、皆中。ショボン以外は皆中であった。
ツンとクーが持ってきたドーナツを頬張りながら、ふとドクオは気付いた。ショボンがいない。
('A`)「兄者…、ショボンは?」
( ´_ゝ`)「巻き藁練習をしに行ったぞ」
('A`)「ショボ…( ^ω^)「ドーナツ無くなっちゃうお!!僕、ショボンを連れてくるお!」
ブーンは癖なのか、両手を大きく広げて、巻き藁練習場に走っていった。
('A`)「あ…」
川 ゚ -゚)「ドクオ。お前は行かないのか?」
('A`)「副主将」
川 ゚ -゚)「私は行くぞ。副主将としてではない。部の仲間としてだ」
('A`)「…待って、俺も行く」
ショボンは巻き藁に矢を放っていた。その度、内出血を繰り返し赤黒くなった腕が軋む。
射ては、抜き、また、射ては、抜き。気づかぬうちに、大粒の涙が溢れ出た。
また皆に迷惑をかけた。
何故僕は、こんなに役立たずなんだ。
モナー先生だって、記念のつもりで僕を出してくれたんだ。本当に勝ちに行くつもりだったら、僕より上手い後輩を選手に選んでいたよ。
涙をぼろぼろ零しながら、ぼろぼろの腕で弓を引く。
( ^ω^)「おーーい!ショボンー!!」
ブーンと効果音が出そうな勢いでブーンがドーナツの包みを持って走ってきた。後を追うように、ドクオとクーがショボンの横に立つ。
( ^ω^)「ショボン!ドーナツ持ってきたお!ポンデリングとエンゼルクリームどっちがいいかお?」
(´;ω;`)「ブーン君…」
('A`)「もうすぐ、決勝が始まるぜ。少し腕、休ませろよ」
川 ゚ -゚)「情けない顔をして…。戻れ、ツンが包帯を用意している」
俯いたままショボンが部員の元へ戻ってきた。ツンに包帯を巻かれながら、再び涙を流した。
(´;ω;`)「ごめん、皆…僕が役立たずで…」
_
( ゚∀゚)「ホントだよ!羽分はないなー」
ジョルジュが無神経に言い放つ。
_
( ゚∀゚)「俺らは、一応優勝狙ってんだよ。決勝でもそんなだったら、ぶん殴るぞ」
(´・ω・`)「ごめん…」
ジョルジュの言葉は、ある意味部員全員の気持ちを代弁しているようなものであった。ここまできたからには、やっぱり優勝したい。しかし、ショボンは怠けていたわけではない。一生懸命だったからこそ、誰もそんな文句は言えなかった。
_
( ゚∀゚)「大体さぁ…」
( ´_ゝ`)「ジョルジュ、言い過ぎだ」
兄者がやんわりとたしなめる。
( ´_ゝ`)「ショボン。ジョルジュの言うことは否定はしない。だが、お前の努力も否定はしない」
(´・ω・`)「主将…」
( ´_ゝ`)「一つ言っておく。猿腕ははらいやすく、上達しにくい。だが、一度上達してしまうと、それは最大の武器になる」
(´・ω・`)「は、はい!」
( ´_ゝ`)「諦めるなよ」
(´・ω・`)「「はい!」
さっきまで晴れていたのに、太陽は完全に雲に包まれ、辺りは薄暗くなってしまった。雨でも降るのだろうか。ドクオは不安になった。それは雨への心配だけではない。
「選手は控えに入ってください!」
審判の声が聞こえた。決勝が始まるのだ。
ラウンジ高校は、当然のように決勝まで勝ちあがってきた。選手たちには余裕の笑みさえ見える。仕方が無い。VIP高校は無名の弱小校だから。
もう春だというのに、風は冷たい。
心なしか、さっきよりも風速が強くなったような気もする。
まずいな…。兄者は心の中で舌打ちをする。
この風の中では、ブーンほどの弓を引いていない限り、矢がブレてしまう。
控えに座りながら、ドクオは震えていた。もちろん、寒さだけが理由ではない。体は冷えきっているのに、弓手だけがじっとりと汗をかき、握り革を濡らした。
「始めっ!」
機械のような審判の声が、スピーカー越しに、耳へ届く。
相変わらず、風は強い。いや、むしろさっきよりも強くなっている気さえする。
大前、ジョルジュ。
_
( ゚∀゚)『風がやんだ一瞬を狙うぜ…』
ジョルジュの早気は、今回ばかりはうまく作用したようだった。まずは一中。
二的、兄者。
(;´_ゝ`)『くそっ…風の流れが分からない……』
兄者のコントロール力をもっても、風に抗うことは出来なかった。外す。
中、ショボン。
(;´・ω・`)『どうしよう…どこを狙って射ればいいんだ……』
がむしゃらに、放つ。
風は、ショボンに味方をしたようだ。矢は真っ直ぐに的に中る。
落前、ブーン。
( ^ω^)『そういえば、フレンチクルーラーが残ってたお』
もとから20キロ以上の弓を使っているので、ブーンには風などほとんど関係なかった。一中。
落、ドクオ。
(;'A`)『やべえええええ!!ラウンジに勝つには、皆中しかなくね?無理いいいいい!!!』
腹がグルグルと鳴る。このままでは、神聖な射場でスカトロ騒ぎになる。やばいやばいやばいやばいやばい…。ドクオは頭が真っ白になった。
その時。
「ばぶぅーーん」
全ての気持ち悪さを超越したブーンの顔がこっちを向いていることに気づいた。
本来、試合でこんなことをやってはいけないのだが…。元来優しい彼は、彼なりにドクオをリラックスさせようとしていた。
('A`)「プ…」
軽く吹き出すと、顔色の悪さはどこへやら。
落ではいつものエース、ドクオが、堂々と弓を引いていた。
一方、ラウンジ高校も、風に苦戦していた。インターハイで何度も優勝を重ねているKO高校と同等の力量を持っていても、やはり自然の力にだけは抗えないものだ。
二射目。
ジョルジュはタイミングを計り違え、矢は幕すれすれのアヅチに力なく刺さる。
兄者は、一射目で風の流れを掴んだか、ペースを取り戻した。
そしてショボン。
ショボンは嬉しかった。一人で練習していた時、ブーン達が来てくれたことが。下手くそな自分の努力を認めてくれた、兄者の言葉が。
“猿腕は、上達すれば最大の武器になる。”
その意味を考えた。
猿腕は、曲がっているから、腕をはらうんだ。もし、離れの時に強く弓手を押したら…。
やってみよう。
ショボンは大きく打ち起こすと、強く強く、弦を引いた。
考えたように、弓手をまっすぐに突き出すと、今までに見たことの無い速度で風を切り裂き、的をぶち抜いた。
ξ゚听)ξ「ショボンて、あんな矢勢あったけ!?」
川 ゚ -゚)「猿腕の利点に気付いたんだな」
( ^ω^)『皆頑張ってるおー…全試合で皆中して優勝したら、カーチャンが新しい弓を買ってくれるって言ってたお。ブーンも…中てるお!!』
ブーンも中てる。
さっきの、今世紀最大の変顔を見せ付けられたドクオは、いつもの試合とは別人のようにスムーズに中てていった。風のせいで的の端ギリギリではあったが。
VIP、ラウンジ、共に二射、三射目を終え、お互い最後の一射になった。
ジョルジュは、兄者は、ショボンは、ブーンは、渾身の力で矢を放つ。
ラウンジの選手も、軽快に的紙を貫く音を響かせる。
風が強い。部員たちは、風の音など気にせず、掛け声を発する。
ラウンジの総的中数は、17。
VIPも17。最後の一本、ドクオが皆中すれば、VIPの優勝が決まる。
俺が外したら、試合は長引き、皆への負担も大きくなる。
俺が中てなきゃいけないんだ。俺が、あ て な きゃ だ め だ 。
血の気が引いていくのが分かる。やんだはずの腹痛が再びドクオを襲う。
矢を番える手がガクガクと震える。
もう、いいかな。
射詰め競射になったって、皆が中ててくれるでしょ。
射終わって退場していくブーンの背中を見つめながら、ドクオは必死で言い訳を考えた。
瞬間、ブーンが振り返る。
今までに見たことのない、笑顔だった。
ニヤニヤした脂っこいピザブーン。
でも違う。これは本当に俺を信じて、笑ってくれたんだ。
既に退場し終えたジョルジュが、応援席からドクオをみる。
…そーかい。エースなら中てろってか。
風がやんだ。静寂が耳に沁みる。
ドクオはニヤリと笑った。
引き分けを行い、会に入る。
中る!
強く離れる。
放たれた矢は、射場から、的までの28メートルを泳ぐように進む。
音は無い。ただただ真っ直ぐに、的をめがけて。
風が吹いた。
ξ;゚听)ξ「あ!矢がっ…!」
川 ゚ -゚) 「まずい、ブレたか!?」
的に中ったような、外の木枠に当たったような、判断の付かない音がなる。
ミスった…。ドクオは覚悟を決めた。
俯きながら、射場をあとにしようとした時、兄者の声が会場いっぱいに響いた。
( ´_ゝ`)「落、確認お願いします!!!!」
矢取りの係が、ドクオの的に走り寄る。
「落、皆中です!!!」
どわっと歓声と拍手が起こった。ドクオは射場から退場すると、目を丸くして、腰を抜かした。すると、先に退場した選手たちが集まってきた。
( ^ω^)「やったおーーーーーーーーー!!優勝だおドクオ!!」
_
( ゚∀゚)「ひゅ〜流石エース!やってくれるねぇ」
(´・ω・`)「ドクオ君、ありがとう!」
('A`)「いや、ショボンこそ、スランプから脱出できたみたいだな」
(´・ω・`)「コツ、なのかな?掴めたみたい」
('A`)「あと、兄者。確認頼んでくれてありがとう。俺、頭真っ白で忘れてたわ」
( ´_ゝ`)「退場するまでが弓道だぞ。阿呆みたいな顔して…」
川 ゚ -゚)「ドクオ!」
('A`)「クー…」
川 ゚ -゚)「Dポップ食べ忘れているぞ」
ξ゚听)ξ「今はいいでしょうが!」
( ^ω^)「じゃあ、ブーンが食べるお!」
ξ゚听)ξ「何でそうなるのよ!バカ」
VIP高校弓道部、初のインターハイ出場が決まった。
( ・∀・)「よお、お前か。ドクオ君ってのは」
('A`)「えーと…。ラウンジのモララーさん」
( ・∀・)「タメだよ。敬語やめ」
( ・∀・)「優勝おめでとう」
('A`)「お、おう。ありがとう…」
モララーは気さくにドクオに話しかけるが、目が僅かに赤く腫れていた。
( ・∀・)「俺、正直すげぇ悔しいよ。聞いたこともない三流高校に負けたんだからな」
ドクオは口籠もった。俺たちの優勝の下敷きにされた高校が、山ほどいる。そう考えると素直に喜べなかった。もちろん中には、ドクオよりずっと練習を重ねた選手だっているんだろう。
( ・∀・)「何暗い顔してんの」
('A`)「あ、いや」
( ・∀・)「インハイは県大会なんかよりずっと強いやつがいるの、分かってるよな?」
('A`)「もちろん」
( ・∀・)「ま、ラウ高に勝てたんだから、優勝も夢じゃないかもなwww」
「おーい!モララー!」
( ・∀・)「おーう!…じゃ、俺行くわ。頑張れよ。エース!」
“エース”
俺がエースと名乗っていいのだろうか。ドクオは何かモヤモヤした気持ちを抱えて、部員達の元へ戻った。
( ´∀`)「今日は祝賀会でもしようかね?」
( ^ω^)「ブーンは焼肉がいいお!」
_
( ゚∀゚)「俺は中華!!」
( ´_ゝ`)「俺はイタリアンがいい」
ξ゚听)ξ「ここは、今日のヒーローにでも決めてもらいましょうか」
(´・ω・`)「そうだね」
どうする?ドクオ?皆が皆、ドクオを見つめて問いかける。
(;'A`)「お、俺、腹痛いから、温かいそうめんが食べたい…」
はあああ!?
皆の怒号が響き、もみくちゃにされるドクオ。
ぐちゃぐちゃになって、皆でへらへらしているうちに、日が暮れ始めた。
帰り道。
電車に揺られながらドクオは思った。
俺は一人では、エースとかいうものにはなれなかったなと。
俺を、エースたらしめているのは、皆の存在なんじゃないかと。
電車の窓から、きれいな満月が見えた。
それはまるで、俺たちが追い求めている的のような形だった。
月が的に見えるなんて、やっぱり弓道は麻薬みたいだ。
ドクオは静かに笑った。
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