薄暗い部屋の中、窓際に置かれたベッドの上で二つの影が蠢いている。
男はベッドでひっくり返った蛙のようになっている女の膣に自らのペニスをあてがう。
だらしなく開かれた男の口から荒い息が漏れる。
そして端が吊り上がり、下品な笑いを見せた。
それを合図にし、女の具合を確かめもせず一気にペニスを挿入した。
「うおおっ!すげえお!」
産まれて初めて味わった快楽を得て思わず感嘆の声を上げた。
そして更なる快楽を求めて腰の動きを速める。
男は女に覆いかぶさってぎこちない腰でピストン運動を続けた。
対して女は男の背に手を回すだけで何の反応も見せず、
目を細め少し呼吸を乱し、男に興奮の高まりをアピールしていた。
「ど、う?わた、し、いい?」
雑な動きに言葉を乱されながらそう問いかけた。
「ツンっいいおっ!ツンっ!ツンっ!!」
男はうわ言のように女の名を呼んだ。
満ちる度にどんどん大きくなる満たされない欲求を満たそうとしてただ腰を振る。
数分後、腰を叩きつける度に出ていた男の声が一際大きくなった。
そして、
「セクサロイド最高だお!!」
その言葉と共に男は射精した。
※ ※ ※
('A`)「ただいまーっと」
そう声をかけたが俺の家に俺以外の誰かが住んでいることはない。
20代後半のフリーター、独身・一人暮らし、彼女いない歴=年齢、そして童貞。
それが俺の肩書だからだ。
('A`)「今日っのごっはんっは」
靴を脱ぎ、家の中へ足を踏み入れる。
('A`)「みん〜なだ〜いす〜き」
リビングへの扉の近くにある冷蔵庫を開け、
持っていたスーパーの袋からブツをとりだす。
('∀`)「ビィ〜フシッチュゥ〜♪」
買ってきたシチュー用の肉を冷蔵庫に入れ、ニヤニヤする。
これは今日特売でいつもより安くなっていたのだ。
「ビーフシチューですか」
('∀`)「おおともさ!」
('∀`)
ん?
俺は今誰に声をかけられた?
俺は今誰に返事をした?
ゆっくり顔をリビングの方へ、声のした方へと向ける。
日も暮れかけ、射し込むオレンジの陽の光が眩しい。
その光を遮る何者かが、そこにいた。
ζ(゚ー゚*ζ「おじゃましてます」
('A`)はセクサロイドを愛するようです
いちにちめ「俺とセクサロイド」
('A`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
('A`)「…………」
ζ(゚ー゚*ζ「…………」
('A`)「……………ζ(゚ー゚*ζ「あの」
声をかけられ体が跳ね上がった。
ζ(゚ー゚*ζ「冷蔵庫、閉めた方がいいんじゃないですか?」
(;'A`)「あ、はぁ、それもそうですね」
言われた通り扉を閉める。
しかし俺は依然金髪で、まるでお人形さんのような彼女をガン見だ。
('A`)「あのー……」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
女性は物が散らかった部屋のど真ん中、コタツの近くでちょこんと正座している。
それに俺を見つめて小首を傾げてくるんだから始末に負えない。可愛い。
('A`)「ど、どちらさんで?」
声が上ずってしまった。
その言葉を待ってましたと言わんばかりに脇のコタツの上からクリアファイルを取り、
それをすっと床に置いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ここに書いてますので、読んでください」
ζ(^ー^*ζ
そしてニコッ。
可愛らしい笑顔だ。
('∀`)
多分俺は情けない顔をしていた。
「セクサロイド」
男性と性行為を行える女性型アンドロイド。
髪の毛や顔、胸や膣内など、女性としての機能は完璧に本物に近い。
さらに人工知能を搭載し、自在に会話、行動、さらに思考まで行える。
それが今、俺の目の前にいる女性の正体らしい。
そこから長々とこれは国の秘密実験であることや、
ロボット三原則に基づく危険性の有無の説明、
法律や機密事項に関する事柄やらなんやらが書かれていたが、
そんなものは俺の頭を上滑りしていくに決まっている。
瞬きを忘れた目が最後のページの文字を読みこむ。
「避妊の心配は皆無、人権の心配も皆無。
さらに女性はあなたを受け入れてくれる。
あなたが行うべき行動はわかっていますね?」
長い文書はそう締めくくられていた。
セクサロイド?
セックスをするためのアンドロイド?
そんなものは聞いたことがない。
いや、ある。
でもそれはファンタジー。
現実にあり得るはずがない。
……はずなんだけど。
"わかっていますね?"だと?
そもそも何故そんなものが俺の所に?
いや、何故俺の家に入れたんだ?
国は何でもできるということか?
何故俺なんだ?
何故彼女はセクサロイドなんだ?
わけがわからん。
(;'A`)「……これ、なに?」
沈黙を破ったのは俺のバカみたいな質問だった。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
女性は答えない。
口元に笑みを残したまま、俺を見つめている。
人工的に作られたであろうその瞳に照れて目線を外した。
('A`)「とりあえず、君は人間じゃないの?」
ζ(゚ー゚*ζ「ええ。ほら」
そういって袖を捲しあげる。
本来ひじのある場所にはネットで見たことのある、
"ドール"と呼ばれる人形に使用されていた球体間接があった。
('A`)「……動力源は?」
ζ(゚ー゚*ζ「充電式です」
また「ほら」と言ってケーブルとうなじの接続部を見せてくれた。
うなじとコンセントをケーブルで繋ぐことで充電できるらしい。
さて、おさらいしよう。
俺は童貞である。
('A`)「つまり……君を好きにしていいってこと?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、その通りです」
もう一度言う。
俺は童貞である。
('A`)「……マジで?」
ζ(゚ー゚*ζ「マジです」
これが最後だ。
俺は童貞である。
この歳まで童貞だったのだ。
それには少なからず理由があり、俺の場合は"ヘタレである"こと。
突然こんな可愛い子で童貞を捨てられるチャンスがきても困ってしまう。
しかし彼女はアンドロイドであるという。
一秒の間に色んな事が頭を駆け巡り、
このまま襲いかかってもいいのかどうか回転を続ける。
襲う。襲わない。襲う。襲わない。襲う。襲わない。
回転を続けると言ってもこの問いの繰り返しである。
('A`)「……あ」
そして俺の頭が弾きだした答えは、"襲わない"。
理由は二つ。
確かにこの子とセックスをすることも可能、かもしれない。
しかし高校生卒業まで二次元の少女をオカズにオナニーをすることをためらったように、
俺は俺の中にある、"人以外とセックスする"という、
越えると帰ってこれないであろう一線を越えることを恐れた。
そしてもう一つ。
俺の脳が俺に見せた、ある女性の笑顔。
('A`)「……」
彼女は思索に耽っていた俺を不思議な顔をして見つめていた。
('A`)「あのさ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
一つ、瞬きをした。
本当に人間そっくりだ。
('A`)「何でもするんだよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、何でも」
('A`)「じゃあさ」
そう言って台所を指さす。
('A`)「ビーフシチュー、作ってもらってもいいかな」
外はもう真っ暗だった。
※ ※ ※
彼女は料理が下手だった。
ζ(゚ー゚;ζ「……ごめんなさい」
一口食べてスプーンを置いた俺に申し訳なさそうな顔を向けてくる。
(;'A`)「いや、うん、独創的な味だね……」
歪な形に切られた根菜達を見つめながら言った。
まずい、とはっきり言えたらどれほど楽だろうか。
しかし俺の性格上そう言えるわけがない。
ζ(゚ー゚;ζ「……私、料理下手なんです」
おいおいシチューを不味くできるなんて天才じゃないか?
というかアンドロイドが料理上手にプログラムされてないってどういうことだよ。
(;'A`)「ま、まあアンドロイドにも色々あるよ、気にしないで」
そこまで言って俺は初めて気がついた。
互いの自己紹介をしていない。
('A`)「えーっと、俺の名前はドクオ」
ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさん」
今更だなぁと苦笑いしながら自己紹介を続けた。
('A`)「君は?」
ζ(゚ー゚*ζ「私の名前はデレです」
(*'A`)「デレ、ちゃん」
名前を反芻してみる。
は、恥ずかしい……。
ζ(゚ー゚*ζ「えーと……」
そこで言い淀む。
視線を宙に浮かばせて考えこむ姿も可愛い。
このまま眺めていてもいいのだが、そういうわけにもいくまい。
('A`)「……それ以上プログラミングされてないとか?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、そうみたいです」
('A`)「へー……まあ料理の件もあるし、何らかの設定はされてるんだろうね」
ζ(゚ー゚;ζ「ご、ごめんなさい、得手不得手があるみたいです」
また申し訳なさそうな顔をする。
しまった、だから俺はモテないのか。
ζ(゚ー゚*ζ「そのあたりは個性を出すためだとか、なんとか?」
('A`)「じゃあ学習機能とかは?」
ζ(゚ー゚*ζ「実装済みです」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。可愛い。
('A`)「ビーフシチューの作り方とか覚えてる?」
ζ(゚ー゚*ζ「……うふ」
いくらアンドロイドと言えども万能ではないらしい。
※ ※ ※
彼女、デレちゃんは防水性らしく、一応風呂好きという設定らしい。
そのあたりはなかなか人間くさい。
可愛い子の後に風呂に入れるのは家主の特権。
可愛い子とはいってもアンドロイドではあるけども。
('A`)「お、ピッタリ……でもないけど一応着れてるから大丈夫だね」
着替えはとりあえず俺のを貸した。
ζ(゚ー゚*ζ「はい、ありがとうございます」
裸Yシャツというのは男のロマンである。
故に俺は今、モウレツに感動している。
余った袖の先からちょこんと出た指が可愛い。
ボタンの開いた胸元がエロい。
流石はセクサロイドと言ったところか。
セクサロイド。
デレちゃんは正確にはアンドロイドではなくセクサロイドなんだよな。
今日寝るときどうするんだろうか。
('A`)「…………」
や、やはり、せせせセックスするんだろうか。
というかそもそもこの子は自分の役割を知っているのか?
あの最後の文章、あれは確実に俺にデレちゃんとセックスをしろと言っていた。
でもこの子の振る舞いを見ているとまるで人間だ。
正直、俺は傍から見て気持ち悪い性格だ。
いわゆる"純愛"というやつを信じて止まない。
そんなものは臨機応変に変わるものだと言うことも知っているのにだ。
だが俺の童貞歴の長さが思考回路を鍛え上げ、
それは最早複雑に入り組んだ迷路のようになっている。
理性と理屈が俺の体にセーブをかけている。
ζ(゚ー゚*ζ「?ドクオさん、お風呂どうぞ」
('A`)「あ、ああ」
釈然としないまま風呂場へと向かう。
落ちていた彼女の金色の髪が目に入りドギマギした。
※ ※ ※
('A`)「……あのさ」
考え抜いた結果、デレには俺のベッドでスリープモードに入ってもらい、
俺はコタツで寝ることにした。
やはり童貞を拗らせている俺に一線は越えられそうにない。
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
豆電球の明かりが彼女を照らす。可愛い。
('A`)「俺のこと、呼び捨てとかでいいよ」
('A`)「あと別に畏まらなくてもいい、俺もそうするし」
セックスしない結果、この結論に至った。
この先どれくらい一緒に過ごすかは書類には書いてあったが
ぶっちゃけ忘れたのでまた明日にでも見ようと思う。
そして一緒に過ごすならせめて気を遣わずにいたいのだ。
彼女はアンドロイドなのだけど。
ζ(゚ー゚*ζ「……はい、わかりまし……わかった、どっくん」
('A`)「そう、それで……どっくん?」
聞き慣れない言葉が出て思わず聞き返す。
ζ(゚ー゚*ζ「うん。呼び捨てはなんか違うかなぁって思って」
('A`)「まあ、好きに呼んでくれていいよ」
俺が言い出したからな。
('A`)「じゃ、おやすみ」
ζ(゚ー゚*ζ「どっくん」
('A`)「ん?」
ζ(゚ー゚*ζ「私を呼んでみて?」
('A`)「……え?」
え?
ζ(゚ー゚*ζ「だって私が呼んだのに、どっくんだけ呼ばないのは卑怯じゃない?」
(;'A`)「……お、おう」
そりゃそういうことになるか。
……恥ずかしいし緊張する。
俺の童貞力を甘く見ない方がいいぞ。
何度か咳払いして、天井に向かって口を開いた。
(*'A`)「デレ、おやすみ」
「うんっ」
もぞもぞとデレが布団をかぶる音がした。
デレは今、どんなことを考えているんだろう。
いちにちめ「俺とセクサロイド」 おわり
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