(-@∀@)とある眼鏡の蔵書目録のようです・SF(すこしふしぎ)版 最終話
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そして視点はアサピーへと移る。
***
私の性情は、一人の死に大きな影響を受けている。
私の父親は精神が比較的弱く、ヴィップグラードでの過酷な労働環境に適応できなかったらしい。
母親は仕事へ私は学校へと行っている間、父親は家で一番安い酒をちびちびと舐めるように飲むか散歩と称してぶらぶら出歩くか。
それが原因で虐められもしたし憎んだりもしたのだが、少なくとも私にとって悪い人間ではなかったと断言できる。
にこやかでおだやか。
酔っても大人しく眠るだけ、酒乱など想像すらつかない、ただ要領の悪い人間。
父親は釣りを趣味とし自然を尊敬し自然を愛し自然を恐れ、人を慈しむ人間で、ドナー登録だってしていた。
でも事故にあった。
何故何時何処だったかは、あまり覚えていないがとにかくその日父親は事故に遭い意識を失う。
即死すれば話は分かり易いのだが信心深い一家だった私達に、そんな慈悲は与えられず。
父親には延命措置が与えられ、引き替えに家の財政はブリザードが吹き荒れることになり凍え切った母親と私は延命措置停止と、臓器提供の書類にサインと拇印をした。
母親は、そのせいで精神を病んでしまう。
「どうして、何をそんなに悩むの?」
当時の幼い私は愚かにも訊ねた。
「だって、あの人は、私が殺してしまったのよ?」
「私たち」と言わなかったのは…費用を払えなくなる一因に私の養育費があると言わなかったのは彼女が母親だったからであろうか。ともかく私は、そこでようやく、ある程度の理解をした。母親の悩みは至極単純にして酷く難解、死の境界。
父親は、どこから死んだと言えるのか?
伊藤計劃の『虐殺器官』というSF小説の一文を引用すると、だ。
『母は苦しんでいるのですか、とぼくが訊くと、苦痛を受けとる主体―――「わたし」の存在が問題なのです、と医者は答え、さらに言葉を継いだ。いったい、どこからが「わたし」なんでしょうね、と。』
父親には、生命の息吹とでもいうものが維持されていた、人類が汝と汝の隣人を救うべく積み上げてきたテクノロジーによって、私達が決断をするまで。
父親の意識がどういった状態だったのか、私は想像してしまう。実は仮死状態のように眠っているのか、実は反応できないだけで、意識は残っているのか?
こちらが受け取れないだけで精一杯叫んでいたのか?見捨ててくれるな、と。
脳死という言葉は存在するものの、専門知識も無しに完璧な理解をするなど到底できず、納得もできなかった。
コンピュータではないから当時の父親との同期ができない。
だから解らないのだ。
脳の機能モジュールの何処が何ヶ所無事ならば「わたし」は消えずに残り、機能を維持する神経から流れ込む質感を受け取れるのか?
「私たち」が父親の生命という曖昧な存在を諦めた瞬間、父親の「わたし」がまだ残されていたのならば母親と私は罪人か?
はっきりとした線引きはなされておらず医師の答えすらも曖昧なものだから、いつしか私は白黒はっきりとしている物事を好むようになる。
数学にハマったのは0にせよ1にせよ、確固たる解と至る道筋を自分で得られたから。
…この世界は曖昧な物事だらけ。
あの世界…もうひとつのブーン系小説シベリア図書館がある世界も曖昧だ。
ならば私は、溢れ滴る曖昧さを利用しよう。
父親も母親も幸せに天寿を全うする物語を書き、分類しよう。
そこに…私は要らない、母親を支えきれなかった私など必要ない。
結果は分からないだろうが所詮、世界は現実ですら曖昧なのだ。
はっきりした結果など望むべくもない。
( ^ω^)おーいアサピー
(-@∀@)館長…
( ^ω^)どう、したお?
(-@∀@)…寝ぼけてました。すみません、もう大丈夫です
( ^ω^)そうかお…ま、たまには良いお
(-@∀@)ありがとうございます、館長
***
後日、シベリア新聞を小脇に挟んだ私は、ひとりでとあるカフェを訪れた。
その名は『9Cafe』、存在こそ知っていたものの、店の事やいつから有るかなど一切知らず、訪れるのは当然初めてだ。
だからマスターを一目見て、うっかりドアに挟まった。
川 ゚ -゚)やあ、いらっしゃい…大丈夫?
(;@∀@)え…あ、あなたは、まさかっ!
从゚∀从おーなんだなんだ?マスターの知り合い?
川 ゚ -゚)いや…初めてのお客さんだと思うけど
(;@∀@)マスター?…そうか、私の勘違いです
川 ゚ -゚)はい、わたしがマスターです。いらっしゃいませ、まあ座って
(-@∀@)ああ…いや、ご迷惑をお掛けしました。知り合いにとても良く似ていたので…すみません
川 ゚ -゚)気にしない、気にしない。ゆっくりしていってね
从゚∀从なんだ勘違いか、マスターの隠された過去がついに!的な展開かと期待したのに
川 ゚ -゚)ねーよ…さて改めて、いらっしゃいアサピーさん
(-@∀@)…なぜ私の名を?
川 ゚ -゚)このお店では小説やSSが好きなお客さんも少なくないからね
(-@∀@)シベリア新聞の記事にあったが、読み手書き手達のサロンになりつつあるのかい?
川 ゚ -゚)うーん、ここは単に、美味しい食べ物と楽しい会話を味わってもらうところだよ。本の話題が出る時もあるけれど偶々さ
(-@∀@)そうか
(´<_` )俺もそうでしたよ
Σ(;@∀@)ガタタッ!
(´<_` )…失礼
(;@∀@)いいえ、あなたも知人に良く似ていらっしゃる…
(´<_` )俺も初めてここに来たとき、あなたのように考えていたのでつい話しかけたくなりまして。時にアサピーさん
(´<_` )俺は最近SF小説ばかり読んでいますが、あなたは仕事以外ではどんな本を読んでいますか?
(-@∀@)…いろいろさ。最近はね
川 ゚ -゚)一日に最低24冊は読みそうだね
从゚∀从あれだ、普通の本12とブーン系12冊ずつだろ
(-@∀@)いやあ、そんなに読んでばかりもいられないさ
( OWO)でも確かにそんなイメージですよ
ノハ#゚听)こらあ、新ジャンルを忘れるな!
(-@∀@)はは…おっと、そういえば何も注文していなかった。マスター、お勧めは何かな?
川 ゚ -゚)今日はオムライスにトマトスープがお勧めだよ
(-@∀@)良いね、両方いただこう
川 ゚ -゚)わかりました
ノハ*゚听)ここの料理は美味しいぞー。ゾンビ属性に蘇生系ぶつけるくらいだよ
___|ω・`)ヒーちゃんそのたとえ微妙にずれてない?
ノハ;゚听)そ
音楽が流れる店内は暖かく、BARとはまた違う、ゆったりとした雰囲気で満ち満ちている。
賑やかな空気の中で酒ではなく、温かい料理をゆっくり味わうのは久しぶりのことだ。
( OWO)美味しいでしょう?ここの料理はワシが育てた!
ノパ听)いやいや、ワシが育てた!
___|ω・`)いんや、ワシが育てたね!
从゚∀从ちょっとまったーっ!実はワシが育てた!
(-_-)ども…なにこの流れ
ノパ听)おひさー
(-_-)うん、おひさ
川 ゚ -゚)いらっしゃい、久し振りだね。ココアかい?
(-_-)うん。なんか忙しくて…あ、アサピーさん。初めまして
(-@∀@)初めまして
実に心地良い。しかしながら段々と私の感情も表情も陰ってゆく。この料理の味が、問題なのだ。
川 ゚ -゚)今日は人がたくさんだね…随分と渋い顔になったけれど。ひょっとして不快かな?それとも料理が原因なのかい?
___|ω・`;)あ、やっちゃった?
从;゚∀从うるさかったか。ごめんなさい
(-@∀@)いえ、違います。不快とか不味いだとかじゃあ決してない。料理を口にして思ったのだが、マスターあなたはヴィップグラードの出かい?
川 ゚ -゚)おお、よく分かったね。でもどうしてだい
(-@∀@)味付けがね…懐かしくてさ。私もヴィップグラードからの移民なんだ。それで少し苦い思い出が蘇ってしまった
女性の味付けというのは地域単位で分類できそうだ。
高貴な香りや甘酸っぱい酸味などの中からほんのわずか、恥ずかしそうに顔を出す控えめな甘さ、その配分量。
もう二度と味わえないと思っていた。
母親の作る料理と、実によく似ている。
精神を病もうと家事、特に料理は変わらず続ける母親の背中が思い出されたのだ。
…あっ、やべ泣きそう。
(-_-)はいティッシュ
(-@∀@)や、どうも
(-_-)ま、僕も経験あるしね
(-@∀@)…ありがとう
川 ゚ -゚)ふうん、そうだったの。規制かな?
(-@∀@)うん…ま、そんなところだ。しかしおかげで決心がついた
从゚∀从なになに、なんの決心?
ノハ*゚听)ハイパー告白タイムか!
(;OWO)ヒーちゃん自重
(-@∀@)ふふ…私は今人生初の執筆活動中でね。先輩たるあなた方からアドバイスをもらえやしないかと来たんだよ
川 ゚ -゚)アドバイス…待って。シベリアには書き物をしている場所がいくつもあるのに、雑談メインのここを選んだの?
(-@∀@)基本は把握しているが、経験した者からしか学べない点も多いだろうと思った…しかし専門的な場所ではちょっとね
(-_-)なら尚更…あ、そっか
ノパ听)謎はすべてとけたのか!?
(-@∀@)きっと貴方が考えている通りさ…恥ずかしいじゃないか、だって
ノパ听)あー、そっか
( OWO)あるある
___|ω・`)まあ、そうなるのも無理ないね
从゚∀从しっかしアドバイスっていってもなあ。なんだろ、やっぱ楽しむとか?まずは自分が楽しまなきゃ
___|ω・`)そうだね。あと、好きな本をよんだ読後感が残ってるうちに好きな音楽聴きながら書く、とかもいいんじゃないかい?
(-_-)山場シーンやキャラクターのイメージを絵にするのも良いと思う
ノパ听)恥ずかしがるとダメだよ、バカップル並に見せつけなきゃ
(-@∀@)なるほど
(´<_` )見せつけるで思い出しましたがそういえば、以前読んだ本にですね…
***
書いている。
そう私は書いているのだ小説を。
なんということだろう、かつては書くどころか内容への興味すらなかったのに、今では目録を記す時のように筆が進むなんて!
楽しい、楽しいぞ、なんて楽しいんだ。
私は今最高にハイってやつだ、気分はまさに爽快だ、ひたすらに清々しい。
他人から見れば、独り言をぶつくさ言いながら背を丸めている私は狂人そのものだろう。
そんな酷い状態なのに清々しいのは何故か?
…そう、全裸だからだ…。
…いやべつに私は露出が趣味でないし、事実服を着ている。
この場合の全裸とはつまり精神的な意味合いである。
某カフェで勧められた『バカが全裸でやってくる』という本を参考にしたのだ。
要するに一字一句全てが妄想から生まれたのならば、小説を書くとは著者の全裸を露出狂ばりに見せつけるようなもの、らしい。
口に出そうものなら警察を呼ばれても文句は言えないと思う。
自由と身勝手は紙一重だからな。
自由か…嗚呼、唐突に母親の言葉が頭をよぎる。
「人間は自ら不自由になることができるから、自由なのよ」
それは確か、なにかの受け売りだ。
「自ら選択し、他人の自由の為に自分が不自由になる事。正当性を持つ何かに隠れ、自ら不自由になることで自由に振る舞う事」
私は机に縛り付けられる不自由を選択し、過去から目を逸らす自由を捨て去って、創造の自由を得た。
それは自分をさらけだすこと、ありのままに記すこと、丸裸の妄想を、思想を、過去を、他人に触れられるようにすること。
とてつもなく気持ちの良い行為であるが、非常に難しい行為でもある。
全裸となるには当然服を脱がなくてはならない、それはとても不安で恥ずかしい。
服とは鎧であり、拘束具でもある。
私が実行できたのは、私を諭した彼女たちの存在があったから。
私は、彼女たちのおかげでようやく父親と向き合い、みっともなくすがりついて赦しをこうて、ちっぽけな自己満足を得ようと思えた。
父親が死んだ後、あらぬ方向を向きながらの独り言が増えた母親に、墓参りも行かないで寂しくないのかと聞いた事がある。
すると母親は。
「寂しくは無いの。お墓に行かなくても、お父さんが傍に居る気がするから」
そう言って、天井の隅に向かってまた独り言を始めた。
母親は寂しさを誤魔化す愛情の残滓に壊されているらしかった。
あの時から常々思っていたのは、お墓とは、誰かが誰かの死を納得するためだけの物だという事。
ペットが死んだ、知人が死んだ、親友が、恋人が、親が死んだ後に。
墓はその事実を淡々と語りかけ、認めさせようとする。
だから本来は遺された人が、あいつは死んだ、と認めた時点でその役目を終える。
何でできているのかは関係ないのだと思うのだ。
石だろうが木だろうが、紙だろうが残っていれば。
そして私が書き残す小説は紛れもない墓標となる。
恥ずかしさは無い、言いたいことの全てをさらけ出しても、フィクションとしてしまえばいい。
ましてや読んでもらおうとか、評価されたいから、ではないのだ。
動機など最初から不純極まりない故にどんな厳しい批評も怖くない。
…嗚呼、それにしても書くのが楽しい。
数字ばかりで薄っぺらい私でもこんなに書けたのか。
なるほど確かに人生、死ぬまで分からないな。
……ちくしょう。
もっと前から書いていればと今更思ってしまった。
そうすれば、母親にも読んで貰えたのに。
( ´ー`) おまたせしました、アザラシ丼です
( ^ω^) おー、きたきた
(-@∀@) すみません、二人前も奢っていただいて
( ,,゚Д゚) なに、悪いことしちまったからな
『9Cafe』でドアに挟まってから数日後、訪れるのは『スターリン』を飲んで倒れた夜以来となるBARのカウンター席で、私と館長と出会したギコさんはいきなり頭を下げ、奢らせて欲しいと言い出した。
私が倒れた後BARに来なかったので嫌われたのだと考え込んでいたらしい。
私も館長も、笑ってしまった。
( ,,゚Д゚) さあ、バンバン注文してくれ。こう見えても金あるんでな
そう言って得意げに翳した財布にはシベリア銀行で貰える可愛らしいシベギンちゃんストラップがぶら下がっていて、全く持って金があるようには見えない。
( ´ー`) いやあ、良かった。ようやくいつものギコさんに戻りましたね
( ^ω^) どういう事だお?
( ´ー`) ギコさん、あの日から毎晩落ち込んだ表情でここに来ては「今日も来ねえな〜、やっぱ怒ったかな〜」なんて言いながら、寂しそうにしてたんですよ
( *^ω^) おっ…
(*@∀@) ぷっ…あーっははは!そうですか!ギコさんシケた面になってたんですか!
( ;*゚Д゚) う、う、うるせーっ!作り話だそんなん!
( *^ω^) なんというツンデレ
(*@∀@) ははは…おっかしい
( ´ー`) あなたも変わりましたね、アサピーさん
(*@∀@) 私…ですか?
( ´ー`) ええ。あなたは随分と清々しく笑うようになりましたよ
( *^ω^) お、そういえば確かに
(,,*゚Д゚) うん、なんだか丸くなった気がするな
(*@∀@) そうですか…多分、新しい発見をしたからですよ
( *^ω^) 発見?
(*@∀@) そうです。(自分の精神的な)幼さを解き放ち、丸裸の自分を白日の下へとさらけ出す事(赤裸々に綴る的な意味で)があんなに気持ちいいなんて…
( ^ω^)
( ,,゚Д゚)
( ´ー`)
__[警]
( ) (@A@)
( )Vノ )
| | | |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
***
―――どんな人が、私の事を読んでいるのだろう―――
***
ハハ ロ -ロ)ハ うー…さぶっ
私が、シベリアに越してきてもうすぐ早1年、生活はともかく寒さには慣れそうもない。
特に今日は恐ろしく冷え、わりと白かった肌は赤くなりおまけに痛いときたもんだ。
正直なめてましたシベリアン。
ハハ ロ -ロ)ハ (なんでアンタらは平気そうなの)
朝方、煉瓦敷きの『レーニン通り』には結構な人数が歩いているものの、皆あまり寒そうには見えない。
ハハ ロ -ロ)ハ (なに?みんなアル中なの?)
飲み屋がやたら多いのはこのためか。
ハハ ロ -ロ)ハ (でもあたし酒飲めないかんなー。あ、凄い美人ハケーン)
ξ゚听)ξ
すれ違った彼女は上質な赤いマフラーと綺麗な金髪の巻き髪が印象的だ。
ハハ ロ -ロ)ハ (くそう、あたしも金髪なのに…どうせ癖っ毛ならあんな感じになれば良いのになあ…)
悲しいかな、なんかみっともない感じの癖っ毛なのでショートが限界である。
ハハ ロ -ロ)ハ うひゃっ
なにやら風が出てきた、と思った矢先。
シベリア鉄道の駅がある方から、パトカーが2、3台走ってきた。
「こちらはシベリア警察です。現在シベリア連邦政府から大規模なブリザードの接近にともなった屋内退避命令が発令されています。ただちに自宅または最寄りの公共施設、店舗、避難所等に避難してください。繰り返します…」
ハハ ロ -ロ)ハ うそーん
どんだけだよシベリア。
マジなめてました自分。
パネェ、シベリアパネェ。
ハハ ロ -ロ)ハ (買い物は無理か。つーか最寄りの公共施設って…)あ、あそこがあったな
本好きの自分としては、どうせ施設に避難するなら暇したくない。
よって望みを託して図書館へ。
ただし、ブーン系の方だが。
ハハ ロ -ロ)ハ (やっべ、雪が降ってきた)
足早に向かう中でふと思う。
ハハ ロ -ロ)ハ (そういえば…ブーン系って読んだことないんだよね…趣味にあわなかったらどうしよ…)
「入り口はこちらになりまーす。避難する方はこちらへどうぞー」
正門から入って出入り口に着くと、職員らしき女性が誘導をしていた。
自分以外にもブーン系のほうの図書館に避難する人は大勢いるみたいで、ちょっと混雑ぎみだ。
ハハ ロ -ロ)ハ あ
ξ゚听)ξ 落ち着いてゆっくり入ってくださーい。当館は十分なスペースがあります…
入るときに再びすれ違った美人さんは、やっぱり凄く綺麗だ。
赤いマフラーが引き立て役だもの…胸は圧倒的に私の勝ちだけどね。
ハハ ロ -ロ)ハ ふいー暖かい
館内は確かにとても広く、暖房も暖かすぎない程度に聞いていて、正直うたたねしたら最高に気持ちいいだろうなと思った。
('A`) えー、皆さんこちらへどうぞー。読書スペースもありまーす。迷惑行為はひかえてくださーい。飲食は専用のスペース以外では禁止でーす
ハハ ロ -ロ)ハ (あ、こいつ絶対やる気ねえな)
根暗そうで気怠そうな印象の男性が、大きく丁寧なつくりの扉へと皆を誘導していた。
ハハ ロ -ロ)ハ (ククク…匂う…匂うぞ…本の匂いじゃあ)
期待に胸を膨らませながら中へ入ると。
ハハ;ロ -ロ)ハ って、えっ?
圧倒された。
扉の向こうに広がっていたのは、予想を遙かに上回る蔵書たち。
ハハ ロ -ロ)ハ (これなら…暇しそうにないかな)
思った通り、時間がたつのは早かった。
本を探す時間が、随分と短縮できたこともある。
ハハ ロ -ロ)ハ (目録超便利なんだけど。なにこれすごい)
どんな人(作成者は司書兼学芸員であることくらいしか記されていない)が作っているのかは知らないけれど、最新作まで含む全蔵書を網羅した蔵書目録のおかげだった。
きめ細かい(神経質とも言えよう)分類がなされているため、ピンポイントで読みたい本を探せる。
そのうえ、とても分かり易く書かれた目録なので、探すのが億劫になることもなく。
ハハ ロ -ロ)ハ (ありがたいなあ…てか良く作れるなこんなの。普通なら絶対嫌になるって)
ハハ ロ -ロ)ハ おっ。次これにしよっと
新作一覧のコーナー、その片隅に置かれた本がなんとなく目に止まったのだ。
経験上、数多並ぶ中で、表紙もろくに見ていないけれどなぜだか気になる本というのは自分に合っていることが多い。
ハハ ロ -ロ)ハ どれ
適当な椅子に腰掛け、長机に本と肘を乗せて表紙を開いた。
ハハ ロ -ロ)ハ …(ふうん)
数頁読み進めて、正直惚れた。
主題は言ってしまえばありきたりな夫婦愛、だがおもしろい。
意識せずともイメージさせる情景描写、生き生きとした登場人物達、読み進めやすいリズミカルな文章などなど…全ての行が洗練され、作者の喜びすらも伝わってくる。
まだブーン系に慣れていない私でも、この作品はしっくりとくるのであった。
ハハ ロ -ロ)ハ (…ちょいまって、誰書いたんだろ?)
表紙に戻って確認すると、作者の名は個人名でもペンネームでもなく、肩書きだった。
ハハ ロ -ロ)ハ (ここの司書さん何者だよまじで…さすがに気になるなあ)
本に栞を挟み、キョロキョロとそれらしき人物を捜して見るも見あたらない。
('A`) はーいこっちだよー
彼だろうか?でも司書が子供をトイレに案内する?
( ;^ω^) すみません、当館はあくまでも図書館でありまして…
彼は確か館長だ、そもそもクレーム対処は司書がやるべきではないだろうし。
てか避難場所提供してもらってるのに文句言うとかどんだけだよ。
ξ゚听)ξ そこのあなた、すみませんがイヤホンから音が漏れていますので音量を減らしてください
ξ#゚听)ξ …は?俺の勝手?寝言ほざくなやクソガキが
…司書って、モップ片手に強面野郎の胸ぐら掴むのかしらん…。
ハハ ロ -ロ)ハ (うーん…他の職員が見えないからなあ…おっ?)
(-@∀@) 失礼、通ります
ひょっとして彼かな?
( ^ω^) お、アサピー。お疲れさまだお
アサピーと呼ばれた、数冊の本を抱える彼。なんか連日引きこもって仕事してそうだな。
(-@∀@) ありましたよ、倉庫の一番奥に
( ^ω^) すまんお
(-@∀@) あちらの方にお渡しすれば良いんですね
え?なんかアサピーさんこっち来るんだけど。いやちょっと待て、なんかわかんないけど緊張してきた、なにこれ。
(-@∀@) 失礼、お待たせしました
ハハ;ロ -ロ)ハ ビクッ!
(-@∀@) こちらがお探しの本です。まず…
ああ…なんだ、向かいに座ってる人に本を渡しに来たんだ。
ハハ;ロ -ロ)ハ ドキドキ
それにしても、このアサピーさんて人…なんか凄く落ち着いてるなあ。聡明そうで重みがあるというか、線は細めなのに存在感がすごいや。
(-@∀@) …やあ、それは良かった。貸し出しの手順は…
ううむ、不思議と眼鏡ばかりに目がいってしまうけど、端整な顔立ちっぽいな。声も良い、低過ぎも高過ぎもせず、聞き取りやすい。発音もはっきりとしていて…そういえばアサピーさん、お向かいさんが片言だからか、ちょいちょいポーランド語で会話してる…
ハハ;ロ -ロ)ハ ドキドキ
なんだろ…すごく、落ち着かないや。
(-@∀@) ありがとうございます。それでは
ハハ;ロ -ロ)ハ あっ
無意識に、声をかけようとした。
('A`) おーいアサピーさん
(-@∀@) はい
ハハ;ロ -ロ)ハ (あ、行っちゃった…)
こっそりと目で追うと、いつの間にやら入ってきていた軍人らしき人達と挨拶してる。
(-@∀@) ギコさん、あなたシベリア特殊部隊だったんですか!
( ,,゚Д゚) おうよ、もうとっくに予備役だがな
('A`) …お久しぶりですギコ大尉
( ,,゚Д゚) 久しぶりだなドクオ。元気か?
('A`) 勿論です大尉…しかし、なぜあなた方シベリア特殊部隊がここへ?
( ,,゚Д゚) 協同作戦さ。シベリア連邦政府からの通達により、気象観測所、自警団、連邦軍、特殊部隊、空軍、空母シベリア、さらには民間の警備、軍事会社にいたるまで今回のブリザード対処にあたっている
(-@∀@) そんなに大変な事態なのですか?
( ,,゚Д゚) いやいや、ちょいと大袈裟だがな。良い機会だ、もっと連携を密にとれるようにしておこうって意味合いが強い。シベリアのモットーだろ?積極的な交流ってやつはよ
( ,,^Д^) まっそういう訳で、ライフラインは心配しなくていいし、観測所によるともうじきブリザードは止むよ
( ^ω^) 本当に、ありがとうございますお
( ,*゚Д゚) てれるからよせやい
…どうやら、軍人さんと親しいみたい。まあシベリアは軍人さん多いからなあ。
ハハ ロ -ロ)ハ (ふうん、そっか)
彼が、この本を書いたのか…って。なんで、話が終わってすぐにまたこっちに来るの?
ハハ;ロ -ロ)ハ (ええ…もう心臓バックバクなんすけど)
(-@∀@) すみません
ハハ;ロ -ロ)ハ ひゃいっ
…死にたい。ていうか止めて。誰かロマンチック止めて、胸が苦しいから。
(-@∀@) 間違いならば申し訳ないのですが、先ほど何か御用でしたか?
ハハ;ロ -ロ)ハ は、はい…あの、その
どうしよう、無意識に声をかけようとしました、なんて言えない。
ハハ;ロ -ロ)ハ (うう…真っ直ぐ見つめてくるなあ、この人…あ、そうだ)
ハハ;ロ -ロ)ハ あ、あのですね
(-@∀@) はい
ハハ;ロ -ロ)ハ この…本を書いた人と、お話が…
(-@∀@) …
ハハ;ロ -ロ)ハ できれば、な…と…すみません…なんでもありません…
(-@∀@) かまいませんよ
ハハ;ロ -ロ)ハ へっ
斯くして。
2人でずらりと並ぶ本棚の奥、窓際にひっそりと設けられた小さな読書スペースに移動した。
(-@∀@) どうぞ、こちらにお掛け下さい
ハハ;ロ -ロ)ハ どうも
お礼もろくに言えないほどにカッチカチやぞ自分。
(-@∀@) よっこいしょっ
あ、今のその、椅子に座るときの爺臭さなんか隙があって良いね…って、思考回路がショート寸前な件。ほんと、どうしちゃったんだろう。
ハハ;ロ -ロ)ハ あの、ワタクシ、ハローと言います
(-@∀@) アサピーです。よろしく
ハハ;ロ -ロ)ハ …
(-@∀@) …
ハハ;ロ -ロ)ハ …あ
何から話せばを考えていたから、アサピーさんが持っていた本に気が付かなかった。よし、これだ。
ハハ;ロ -ロ)ハ アサピーさん、そちらの本は?
(-@∀@) これですか?
彼は、机に置いた本にそっと手を添える。
全体に灰色でひたすら地味な装丁、しかも電話帳に負けない分厚さ。初見ならまず、手に取ろうとは思わないだろう。
(-@∀@) さっき、倉庫の最奥部で見つけたんです
ハハ;ロ -ロ)ハ どんな本なのですか?
(-@∀@) さあ?知りません。なにせ、私はまだ頁を開いてませんから
ハハ;ロ -ロ)ハ そうなんですか…でも蔵書なんですよね、あなたなら…
アサピーさんはさっきから凄く愛おしげに、灰色の本を撫でまくっている。
(-@∀@) …実はこの本、図書館の記録のどこにも記載されていないんです。分類番号はおろか、蔵書であることの証明すらない。まさに幻の本、というわけです
ハハ;ロ -ロ)ハ そんな怪しげな本を、どうしてそんなに大事そうにしているんですか?
(-@∀@) …まあ、なんですか
(*@∀@) とても…楽しめそうなんですよ、この本は
ハハ*ロ -ロ)ハ
言って、彼は不適な笑顔を見せる。けれどもそれは子供っぽさが微かに覗く、可愛らしい笑顔だった。
***
原作
『(-@A@)司書アサピーのようです』
『( ^ω^)司書ブーンの憂鬱だそうです』
『( ^ω^)感想祭が近いようです』
伊藤計劃 『虐殺器官』
入間人間 『バカが全裸でやってくる』
その他、司書アサピーや図書館を形作るレスの数々とシベリアを形作るスレの数々
出演協力
『川 ゚ -゚)9Cafe』の皆様より 川 ゚ -゚) ___|ω・`) ( OWO) 从 ゚∀从 (-_-) ノパ听)
***
(-@∀@)とある眼鏡の蔵書目録のようです・SF(すこしふしぎ)版
終
***
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