('A`)ドクオが夢を紡ぐようです 2話
妙に安っぽい装飾がなされたその部屋は入室するのにおおよそ5万円の現金が必要だった。
(#゚;;-゚)「お願いしますお願いします。どうかもう許して下さいご主人様」
( ・∀・)「えー。どうしようかなー」
(#゚;;-゚)「お腹痛いんですお願いします。もう、出させて下さいお願いしますご主人様」
体中に何かしらの傷跡をつけた全裸の女が床に這い蹲るようにして男に哀願している。
対する男はスーツのネクタイまできっちりと着込んでおり、女を見下ろしていた。
( ・∀・)「だって君、痛いのが仕事じゃん。楽しませてよ」
(#゚;;-゚)「お願いします!もうお腹限界なんです!!」
( ・∀・)「えー。だって今日俺接待風俗じゃないもん。自腹だもん。楽しみたいじゃん」
(#゚;;-゚)「お願いしますお願いしますご主人様!」
青ざめた顔に脂汗を浮かべた女は時折、四肢を、肛門をぴくぴくと痙攣させながら男を見上げる。
その、みじめな顔が気に食わない、と男は感じた。
( ・∀・)「ここって、ムチ一発3000円だっけ?じゃあ、大切に思い切り叩かないとね」
(#゚;;-゚)「…っぎゃぁ!」
ムチの鋭い音が響いた。女がたまらずに仰け反ると男はさもさも面白いものを見たとばかりに声を出して笑う。
( ・∀・)「っはははは!可愛いところあるねぇ君。不細工だけど!!!!」
(#゚;;-゚)「ぅ…うぅ…お腹…痛いよぅ…」
男は満足したように溜息をつくと、女を靴下を履いた足で軽く蹴った。
( ・∀・)「あともう20分くらいしかないから今日はもういいや。勝手にしていいよ。じゃーねーありがとー」
そうして男は振り向きもせずに退室した。
あとに残った女はゆるゆると立ち上がると慌ててトイレに駆け込もうとしたが、
体が気持ちについて行かないらしく、やはりゆるゆると歩いて行った。
(=゚ω゚)ノ「モララーさん!あざーっした!もういいんすか?延長安くしときますよぅ?」
( ・∀・)「うん。いいや。腹減ったし。これから飯食いに行くけどお前も来る?奢るよ?」
(=゚ω゚)ノ「あーすいません今金の管理出来るの俺しかいないから動けないんすよぅ。また今度よろしく頼みますよぅ」
( ・∀・)「ああ、そかそか。いやいやいいんだ。仕事中に誘って悪かったな」
(=゚ω゚)ノ「とんでもないですよぅ。モララーさんに誘われるなんて光栄ですよぅ」
( ・∀・)「よせやい。俺みたいなちんぴらに誘われて光栄もないっしょ」
(=゚ω゚)ノ「そんなことないですよぅ。このへんの若いもんはみんなモララーさんに憧れてますよぅ」
( ・∀・)「っはは。それだけロクでもない人間ばっかりなんだな」
(=゚ω゚)ノ「ロクでもなくないちんぴらなんかいないんですよぅ」
( ・∀・)「違いねぇ。じゃーねーありがとー」
先ほど女に残したものと同じ言葉を吐いてモララーはその店を出た。
まだ春に入ったばかりの風は生ぬるく、そして生臭かった。
( ・∀・)「…つまんねぇなぁ」
誰に言ったわけでもない。
気がついたら首を吊った彼のことを考えていた。
いや、正確には彼の死に顔を。酷い死相だったが、確かに幸福そうに見えた気がしたのだ。
( ・∀・)「いかんな…」
最近、事あるごとに彼の死に顔を思い出していた。
名前も覚えていないような相手。
今までああいった仕事を幾度も繰り返してきたが、
ああまで楽に仕事が進んだのは初めてだったからその所為かもしれない。
( ・∀・)「あー俺も明治な恋がしてぇなー」
最後に交わした会話も妙に印象的だった。
もしかしたら彼は詩人だったのかもしれない。
しかし、あの手紙だけはいただけない。
( ・∀・)「今時2chでも流行んねーよあんなの」
気がついたら歓楽街を抜けていた。
( ・∀・)「あー…何食おうかな。スパゲティ?お、スパゲティいいな…」
('A`)「あ、どうぞ」
( ・∀・)「ども」
( ・∀・)「…………ってしまった!」
気がついたらティッシュを受け取ってしまっていた。
都会に出てからもう随分経つのに、どうしてもこのトラップだけは抜けられないモララーだった。
('A`)「どうぞー。よろしくお願いします。どうぞー」
振り向くと髪がぼさぼさの明らかに社会不適合の匂いのする青年がティッシュを配っている。
可愛い女の子からならともかくあんな泥臭いガキからティッシュを受け取ったと思うと怒りを通り越して情けない気分になった。
( ・∀・)「やるな小僧…」
『あべまりーあー♪ぐらっつぃあぷれーなー♪どみぬすてーくむー♪』
( ・∀・)「お。デレじゃん」
モララーはポケットから携帯を取り出し耳に当てる。馴染んだ女の声が聞こえた。
( ・∀・)「うん。モララーですよ。大丈夫大丈夫。仕事中じゃないから。うん?今日?あ、そっか。デレもう飯食いました?あ、本当?良かった。
じゃあ、今から出られます?そう。スパゲティ食いましょう?スパゲティ?ん?パスタ?ああ、はいはいパスタね。て、そんな笑う事かなぁもう。
はいはい。じゃあ、待ってるから。早く来て下さいね。うん。それじゃ後で」
( ・∀・)「…何がパスタだよ。スパゲティじゃねーかスパゲティ!ッくそ」
モララーは悪態を吐きながら女を待つために駅に向かおうと踵を返す。
彼は綺麗な肌の女を抱けることに、期待ではなく何故か安堵を感じていた。
今日、ぼろぼろの商売女を見たからかもしれなかった。
('A`)「よろしくお願いしますー。」
( ・∀・)「ども」
(#・∀・)「………っ畜生!!」
女と合流したのは一時間後だった。
ζ(゚ー゚*ζ「お待たせです〜。すいません準備少なからず急いだんですけど、マスカラだけは妥協出来なくて…」
( ・∀・)「うん。僕、君の馬鹿だけどそーゆー正直なところ好きですよ」
デレはえへへと可愛らしく照れた。
( ・∀・)「褒めてないから」
ζ(゚ー゚*ζ「知ってます。でも、好きって言ってくれたの久々だから」
( ・∀・)「うん。女の子は好きですよ。僕は」
ζ(゚ー゚*ζ「私のことは?」
( ・∀・)「脳味噌足りないところとか大好きです。さぁ、パスタ食いに行きましょうパスタ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
その後、デレの勧めで入ったパスタ屋は量が酷く少なくハーブの香りがきつくて正直あまり口には合わなかったが、
デレは美味しそうに味わっていたので良しとした。
( ・∀・)「あー。鉄板に乗ったパスタが食べたいね」
ζ(゚ー゚*ζ「鉄板?」
( ・∀・)「うん。俺の地元ではパスタは鉄板に乗ってたよ」
ζ(゚ー゚*ζ「何ですかそれ?変なのー」
( ・∀・)「いやいやマジで。だからこっちに来て皿に乗っかったスパゲティが不思議でならなくてね。いや、パスタか」
ζ(゚ー゚*ζ「あはは。何それ食べてみたいですー。今度連れてって下さいよ。モララーさんの田舎」
( ・∀・)「んー。遠いよ?」
ζ(゚ー゚*ζ「どれくらいですか?」
( ・∀・)「直線距離で900キロくらいかな」
ζ(゚ー゚*ζ「えっと…私高校のころ家から学校まで2キロあって、だから大丈夫です」
( ・∀・)「そうだね。確かに毎日2キロで往復4キロ。それを三年間だから900キロは軽く超えるだろうけど、そう言う次元じゃないってわかるかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「むぅ…」
( ・∀・)「まあ、なんもないところだから来る必要もないよ。僕も行く気ないしね」
ζ(゚ー゚*ζ「鉄板に乗ったパスタがあるじゃないですか」
( ・∀・)「フライパンで茹でたパスタ焼けばいいよ。ミートソースで」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ!!なるほど!!」
( ・∀・)「それで納得しちゃう君が好きですよ」
その後デザートのアイスクリームも平らげ、
デレはとてもいい笑顔でレジの前で言い放った。
ζ(゚ー゚*ζ「ご馳走様でしたー」
( ・∀・)「はいはい。お粗末さまでした。と」
( ・∀・)(なんで俺いっつも奢ってるんだろう…別にいいけど)
ζ(゚ー゚*ζ「えっと、それじゃあ、そろそろ失礼させて頂きますね」
店の外に出ると彼女はそんな事を言った。
どうやら妥協出来なかったマスカラはパスタを食べるためだけの装備だったらしい。
( ・∀・)「こんな時間だし、送って行きますよ?」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ。大丈夫です。ごめんなさい。ご馳走様でした」
( ・∀・)「ああ、そう。それじゃあね。気をつけて」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。モララーさんも気をつけてー。楽しかったですよー」
デレはそうしてミニスカートをひらひらと躍らせながら去っていった。
( ・∀・)「女の子の日…かね…。帰るか」
郷愁に駆られたわけでもないのに、
無性に鉄板に乗ったスパゲティが食べたくなった。
あれは大盛りでも、今日食べたパスタよりは安いのだ。
('A`)「どうぞよろしくお願いしますー」
( ・∀・)「ども」
(#・∀・)「……ってまた!!!」
( ・∀・)「…いいや…。彼は悪くない…帰ろう」
その日の寝酒は酷く不味く感じた。
そして、
不思議な夢を見た。
('A`)「こんばんは。知らん人」
( ・∀・)「はい?………あ゛」
('A`)「あ゛?」
(#・∀・)「お前はティッシュ配り名人!!!」
(;'A`)「は?」
(#・∀・)「三回も俺に渡すな!俺はこれでもなぁ!組、じゃないや会社の方ではそれなりの地位があって泣く子も黙るモララー様なんだよぉ!
っつーかあのティッシュよく見たらうちの系列会社の宣伝じゃねーか言ってみれば俺お前の上司よ上司?」
('A`)「いや、違いますよ?」
( ・∀・)「は?」
('A`)「あんた、女の子じゃないですか?」
(*゚ー゚)「え?」
('A`)「ほら、鏡」
青年に手鏡を渡される。確かにそこには可愛らしい女の子が映っていた。
(*゚ー゚)「あれ…?」
('A`)「ようこそ夢の世界へ。容姿やら年齢やらが変わるのはわりとよく見てきたけど性別が変わるのは俺も初めて見ました。
あと、俺のこと覚えてた人も初めてですよ。ビビッたわぁ」
(*゚ー゚)「なんだこれ?夢?ああ、そうか夢かぁ。夢なら仕方ないなぁ」
('A`)「よく聞いて下さい。あっちの方に真っ直ぐ行くとピンク色のドアがあります。そのドアの中にあなたを待ってる人がいます」
(*゚ー゚)「それは、私の運命の相手なの?」
('A`)「運命の相手?まぁ、運命っちゃ運命ですね。こうなる可能性がとてつもなく低い事は否めません。そう言う意味じゃ運命とも言えるかと」
(*゚ー゚)「そう。それじゃあねありがとう」
('A`)「いってらっしゃい」
ティッシュ配り名人の示した方向に歩くと、確かに何もない空間にピンク色のドアだけが設置されていた。
(*゚ー゚)「何このどこでもドア。私の運命の相手はドラえもん?のび太君は勘弁だなぁ」
(*゚ー゚)「お邪魔しまーす」
ドアを開くと、そこは今日5万円を払って入室したあの部屋だった。
(*゚ー゚)「え…?」
从 ゚∀从「よーうこそお嬢さん。お客を待たせるなんて随分じゃないかな?え?」
燃えるような真っ赤な長髪に、すらりと伸びた体躯。中性的な顔とハスキーボイス。
一見して性別の分からない人間がそこには居た。
(*゚ー゚)「あなた、誰ですか…?」
从 ゚∀从「誰?誰だとう?お前のご主人様に決まってるだろうこの売女がっ!!!」
(*゚−゚)「きゃぁっ!!!」
どこから取り出したのか一本の長いムチが振るわれる。それはモララーの頬を掠めて床にぴしりと跳ねた。
腰が抜けて思わず床に座り込むと、床の冷たさが直に感じられた。
(*゚−゚)「え?え?私、なんで裸?」
从 ゚∀从「馬鹿が!メス犬が服なんか着られるわけねーだろ!!ハイン様だよハ・イ・ン・様!ほら、口に出して言ってみろよ」
(*゚−゚)「は、ハイン様…」
从 ゚∀从「っはは。そうだよく出来たよ、よく出来た。ご褒美だ」
(*゚−゚)「ん、んんんんんんんんっ!!!」
次の瞬間。
モララーは猿轡を噛まされ、その体には縄をかけられていた。
从 ゚∀从「おぉ。やっと可愛くなってきたじゃねーか」
(*゚−゚)「んっ!んっ!んっ!んんんんんっ!!」
从 ゚∀从「でもなぁ!!ちょっとうるせーんだよ!!!」
ハインによって腹を強かに蹴られる。恐怖で身が竦んだが縛られているせいで身じろぎすら不自由にならない。
(* − )「ん……んん…」
理不尽な状況に思わず涙が浮かんできた。
先に感じたのは恐怖。だが次に感じたのは己の無力に対する明確な怒りだった。
何も出来ない。何も出来ない。そんな言葉が頭から離れず、蹴られた腹の痛みがじわりじわりと怒りを広げる。
从 ゚∀从「泣くなよ。可愛いなぁ」
ハインがしゃがみ込んで自分の顔に手を伸ばしてくるのが分かる。
殴られるかと思い、目をきつく閉じたが予想に反して優しく頬を撫でられた。
その感触にぞっとする。
(* − )「んんんんんんーーー!!!」
从 ゚∀从「嫌がるなよ」
胸。腰。腹。背。尻。そして女の秘部。
ハインは撫でるように手を這わす。
从 ゚∀从「濡れてるぞ」
ぬちゃ、と言う音が、確かにモララーに聞こえた。
次の瞬間。
そこは青い空の中だった。
(*゚ー゚)「え…?」
その時、モララーは天使を見た。
从 ゚∀从「死ねよお前」
太陽を背に屹然とモララーを見下ろすその姿。
赤毛の彼女(あるいは彼かもしれない)には真っ白な美しい羽が生えていた。
(*゚ー゚)「ひ…」
落下。
(* − )「ひぃぁあああああああああああああ!!!!!」
落下。落下。落下。
だがまだ地面にはつかない。
飛んで、いるようだ。
从 ゚∀从「助けてやろうか?」
いつの間に近づいて来たのか、
嬉しげにモララーを覗き込んでくるハイン。
(* ー )「あなたが落としたの?」
从 ゚∀从「ああ、気持ちいいだろう?」
(* ー )「どうして落としたの?」
从 ゚∀从「お前らみんな、死ねばいいからに決まってるじゃねーかっ!!!」
(* ー )「そう」
从 ゚∀从「だがなぁ!!もし跪いて股開いてケツの穴広げていじめてくださいご主人様ってみじめったらしく言えたら助けてやってもいいぜ?簡単だろう?そのくらい」
(* ー )「そうね」
从 ゚∀从「さぁ、跪け!!!」
ハインのその優美な羽が踊るように羽ばたいている。
(*゚ー゚)「あなたは綺麗ね」
从 ゚∀从「はぁ!?」
次の瞬間。
そこは夜の教室だった。
从 ゚∀从「ほら、何してんだよ跪け」
薄暗い教室でセーラー服のハインが教卓に座ってこちらを見ている。
(*゚ー゚)「いや。跪いてあげない」
从 ゚∀从「はぁ!?お前自分の立場わかってんのかよ!!」
(*゚ー゚)「わかってわ。ご主人様」
从 ゚∀从「あぁあああ!!ざけんな!!!」
ハインが吼える。呼応するように教室の空気が震えるのがわかった。
(*゚ー゚)「可哀想に。泣いているのね」
今度はモララーがハインに手を伸ばすとハインが目に見えて怯えるのがわかった。
从 ゚∀从「…やめろぉおお!!」
次の瞬間。
そこは再び空だった。
だが今度は太陽のいない、
月明かりがいやにまぶしい夜だった。
月を背にしたハインの羽は銀色に光っている。
その美しい羽とは対照的に、ハインはどこか困ったような顔をしていた。
从 ゚∀从「跪けって言っただろうが」
(*゚ー゚)「ごめんなさい」
从 ゚∀从「謝れっつってんじゃねーんだよ!!!」
(*゚ー゚)「大丈夫よ」
もう、落下には慣れていた。
重力の優しい抱擁だと思えば良い。
(*゚ー゚)「あなたのために、死んであげるわ」
次の瞬間。
モララーは自分の部屋で飛び起きた。
( ・∀・)「なんつー夢だよ…おい」
(#・∀・)「あのティッシュ配り名人が…」
( ・∀・)「いや、青年は悪くない…悪くない…うん」
( ・∀・)「仕事に行こう…ってまだこんな時間かよ!どうりで暗いはずだよ!畜生!!」
時計を見るとまだ夜も明けやらぬ時刻だった。
( ・∀・)「俺は老人か!早起きの権化か!!ティッシュ配り名人の呪いか!?あぁ!?」
( ・∀・)「…オナニーでもするか」
( ・∀・)「…ってするかよ!こちとら朝勃ちもしてねぇんだよ!」
( ・∀・)「くそぅ…二度寝するか」
( −∀−)「………」
( −∀−)「寝れねぇ…」
( ・∀・)「あー…。詩でも書くか」
( ・∀・)「書くわけねーだろ」
( ・∀・)「テレビでも見よう」
六畳一間の狭い部屋で枕元からリモコンを探し出しテレビをつける。
丁度写ったのはモララーには始めて見るアニメだった。
真っ赤な髪の女が怪物と戦いながら何やら喚いている。
从 ゚∀从『私こそが絶対!!私こそが正義!!!例え世界が滅びても私が負ける事などありえん!!!』
( ・∀・)「…ん?」
从 ゚∀从『ハイン様だ覚えておけ愚民ども!!醜い貴様らに美の化身たる美しさの私が敗れるわけなかろう!醜い事はすなわち悪だ!!』
( ・∀・)「んんんん?」
( ・∀・)「あのティッシュ配り名人…もしかして…」
( ・∀・)「…オタクか?オタクの呪いか?」
( ・∀・)「…調べてみるか」
今度は枕元から充電していた携帯を取り出す。
数秒思案した後、モララーは電話をかけ始めた。
( ・∀・)「はいはーいモララーです。朝早くすまんね。あのさ。ちょっと調べて欲しい事あるんだけど。
あのさ。ティッシュ配りってうちどこに委託してたっけ?うん。そうそう金融部門の。
すぐ洗える?いや、別にしめたい奴がいるわけじゃなくって。
俺の個人的な頼み。いやいや女じゃないってそこまで飢えとらんようん。
電話番号すぐわかる?あ、わかる?まじで?ありがとー。
はいはい。じゃーメールで送ってねー。さんきゅー。ごめんねー」
そして3時間後。
モララーはいつか首を吊った彼と同じアパートの前に来ていた。
( ・∀・)「また、ここかよ…」
だが今回の目的は首を吊った彼の部屋ではない。
モララーは迷いのない足取りで二階の端の部屋の前に行くとインターホンを押した。
返事がない。
( ・∀・)「にゃろう…」
そして連打。
待つことおおよそ2分。やっと目的の人物がチェーンのかかったドア越しに顔を出す。
('A`)「新聞ならいりません…。俺、象形文字アレルギーなんで字が読めないんです…」
( ・∀・)「そこをどうにかして頂けませんかね。
今なら洗剤2箱からブラック企業の内定までお付け致しますよ。
契約は一ヶ月からでも大丈夫ですし」
('A`)「いやマジすいません。俺も象形文字アレルギー現在絶賛治療中な…んで?」
はたとモララーの顔を見てドクオの表情が凍った。
おおよそ、その間2秒。
そして彼は、
扉を閉めた。
('A`)「う、うわぁあああああああ!!!」
( ・∀・)「あれ?ドクオさん?ドクオさん?どうしたんですか?
そんなこと言わずに是非とも新聞お願い出来ませんかね?
わたくしごとで恐縮なのですがわたくしにもノルマと言うものが御座いまして、
例え一ヶ月契約でも取れたものなら脳内はそれはもう狂喜乱舞の無礼講。
個人的には飯一回くらいなら奢ってやっても構わないとすら思うところなのですよ?
あれですか?ドクオさんもスパゲティをパスタとかぬかしちゃう輩ですか?
お若いですもんねぇ。全くもう、羨ましい限りですよ。
あはははははは!何閉めてんだこの野郎。
ドアぶち破られたくなかったらとっとと出て来いやぁこのヲタク!!!」
どこぉ!とモララーの蹴りが安アパートの扉に一閃。
ドクオの奇妙に裏返ったひぃ、と言う声がドア越しに響く。
続いて、二発目、三発目と来て、その爆発音に似た音が四回目を数える前に、
再びチェーン越しにドクオがそろそろと顔を出した。
( ・∀・)「ええ。そんなわけで御座いまして、是非ともここは契約をして頂きたいな、と切に願うのですよ」
('A`)「お、お願いします。どどど、ドア蹴らないで下さい…。ただでさえ建て付け悪いんで…」
( ・∀・)「ああ、これは失礼。よろしければお邪魔させて頂いてもよろしいでしょうか?
ええ。契約に納得の出来ないところがあれば万が一ですから。
わたくしこれでもサービス業。お客様の満足で成り立つ商売。
双方納得の行くまで語らせて頂きますとも!」
('A`)「で、でで、でもうち、今散らかってて…」
( ・∀・)「ああ、構いませんよ。例え無駄打ちした精子をその身に孕んだティッシュが散乱していようとも。
そこはサービス業。お客様のプライバシーに踏み込むことは一切致しません。
お客様は何も気にせずわたくしと語り合って頂ければ良いのです」
('A`)「か、勘弁して下さい。ほんと新聞いらないんで、帰って下さい…」
( ・∀・)「ええ。そんなわけにも行かないんです。
こちとら仕事でもないのにわざわざこんな辛気臭いアパートに来てやったんですよ。
それが、そうすごすごと帰るかっつーの。馬鹿が!
あ、申し送れましたわたくしモララーと申します。」
('A`)「あ、あわわわわ」
( ・∀・)「お邪魔しまーす」
モララーは鞄の中からペンチを取り出したかと思うと迷いのない動作でチェーンをぶち切った。
('A`)「ちょっ!何するんですか!!」
( ・∀・)「気遣いはご無用です。あはは。大丈夫ですよ靴は脱いであげますから。
あ、なんだ汚いけど壊滅的って程じゃないですね。安心致しました。
あれ?何ですかこれ?フィギア?いわゆるフィギアってやつですか?
やっぱりヲタクなんですね。ヲタクの変態なんですね。あははははは。
それで魔方陣はどこにあるんですか?ろうそくは?生贄は?」
ずかずかと入り込みあちこちを物色するモララーに
ドクオは対応しあぐねてあたふたとついて回ることしか出来ないようだった。
('A`)「な、何のことですか?何なんですか急に。あ、あれですよ?いい加減にしないと警察呼びますよ?」
( ・∀・)「どうぞ」
('A`)「は?」
( ・∀・)「その代わり垂れ込む場合はそれ相応の覚悟がおありですよね?」
('A`)「か、覚悟…?」
( ・∀・)「あ?警察に垂れ込んだ以上、容赦なしにわたくしどもが全力で潰しにかかってもいいか?って聞いてるんですよ」
('A`)「ちょ、だから、え…?」
混乱してぱくぱくと口を開けるドクオ。
( ・∀・)「あははははは。冗談です冗談。借金もない素人にそんな理不尽なことするわけないじゃないですか。
わたくしども、結構好き勝手やってると思われておりますが、まぁ、実際は好き勝手やってるんですよ。
でも、好き勝手やるにも一応ルールと言うものがありまして、
ルールを守らないと好き勝手やる土壌も失われてしまいますからね。
ええ、ですからそんな緊張せずに。どうぞおかけになって下さい。
今日は本当にわたくしの個人的な用事で伺っただけですから。」
自らも勝手に小さなちゃぶ台の脇に腰掛けながらドクオにも席を進めるモララー。
ドクオも場に流されてモララーと向かい合うように腰をかける。
( ・∀・)「さて。やっと落ち着きましたね」
('A`)「あ、あの、何の用ですか?何でうちの場所…」
( ・∀・)「このへんで新聞のご契約をされていない家庭は全て把握しておりますので」
('A`)「えっと、それ嘘ですよね?新聞の勧誘じゃないですよね?」
( ・∀・)「当たり前じゃないですか」
('A`)「そもそも、あなた誰ですか?何の目的があってこんな…」
( ・∀・)「奇遇ですね。わたくしも同じ事を聞きに参りました」
('A`)「え?」
( ・∀・)「どうしてわたくしを見て逃げたんですか?新聞の勧誘がそんなに怖かったんですかね?」
('A`)「あ、あぅ…?」
( ・∀・)「ええ。何せ夢ですからね。わたくしも新聞の勧誘員のままならすごすごと引き下がろうかと思ってたんですよ。
それで何してんだ俺ぁとか思って自己嫌悪を楽しみながらぐだぐだ昼真っから酒でも煽って憂さを晴らそうかとね。
でも、ドクオさん。
あんたは明らかにわたくしを見て動揺されました。
もちろん、馬鹿馬鹿しいとは思ってはいるんです。
だけど自慢じゃないですがね。
わたくしこの手の直感、
外したことがないのですよ」
('A`)「な………」
( ・∀・)「伺いますよ」
モララーの口元から張り付いていた笑みが消える。彼は真っ直ぐにドクオを見据え、言った。
( ・∀・)「あんた、何もんだ?」
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