「よーし、準備はいい?」

『うん、大丈夫だよ!』

「じゃあいくよ……誓いの言葉」

『誓いの言葉』

「良き時も悪き時も」

『富める時もま、まじゅしきときも』

「病める時も健やかなる時も、共に歩み」

『他の人によらず? 死が二人を分かち時まで……』

「……ちょっと待って」

『なぁに?』



「言葉を変えよう、そこは僕が言うよ」

『んー? 分かったぁ』

「他の人に依らず、死が二人を分かつとも、なお」

『……あ、えっと、愛を誓い!』

「―――のことを思い」

『―――のことを思い』

「―――のみに添うことを」

『―――のみに添うことを』



「私達は」

『私達は』

「全ての自然と―――」

『人と―――」

「生き物と―――」

『悪魔と―――」

「そして神に誓います」

『そして神に誓います」


「―――我らに祝福のあらんことを」




  ( ^ω^)あいむNOTあDEADぼでぃーのようです








派手にレッドで「WANTED」と書かれた紙には一人の男が写っていた。
ややこけた頬は不健康そうではあるが、その男の表情はいたって笑顔だった。
場違いな表情に私は疑問を抱き、近くにいた老婦人に訪ねたのだ。

ξ゚听)ξ「すいません、少しいいですか?」

从'ー'从「はい、どうぞ構いませんよ」

老婦人は見るからに高級な毛皮に全身を包まれていたが、決して傲慢そうではなく、
それどころか和やかな顔つきをしていて、私の今の境遇からすれば眩しいと感じるほどだった。

ξ゚听)ξ「この男が何をしたか知っていますか?」

从'ー'从「ああ、この人……ワリングさんの事ですね?」

ξ゚听)ξ「お知り合いですか?」

从'ー'从「前に一度、ね」

老婦人は写真に向かって、懐かしそうな瞳を浮かべていた。



从'ー'从「この人がしたのは強盗よ」

ξ゚听)ξ「強盗?」

私が思わず聞き返してしまったのは、この男の懸賞金が強盗犯とは考えられない程に高く、
どうしても納得が出来なかったからだ。

从'ー'从「ええ、それもこの国中であちこちやっていたみたいでね。
     強盗をした回数だけでも、100回を超えてたらしいわ」

ξ゚听)ξ「100回! よくそれで捕まりませんでしたね」

从'ー'从「ふふふ、まぁ確かに普通の人なら出来ないでしょうね。
     でもね、この人の顔を見てみて?」

私はもう一度写真の男を眺める。
先ほどと何ら変わりない笑顔だった。




从'ー'从「ワリングさんはね、この通りいつも笑顔でいたのよ。
     それこそ、まさか犯罪者だとは思えないくらいに……ね」

ξ゚听)ξ「へぇ……」

確かに犯罪者が常に笑顔でいるなんて、誰も思わないだろう。
でも、この男に笑顔が似合っていると私はどうしても思えず、曖昧な返事を返すのがやっとだった。

从'ー'从「ちょっと前まではこの人の噂で街はいっぱいだったんだけどね。
     今はもう、口に出す人なんて殆どいないんじゃないかしら」

ξ゚听)ξ「どうして?」

从'ー'从「あら、それは本気で言っているの?」

老婦人はくすくすと笑いながら、ワリングの手配紙の隣の紙に目をやった。
私はそれを見て、ああなるほどと心の中で唸ってしまった。





ξ゚听)ξ「爆弾魔ですか、確かに大変な事件ですもんね」

从'ー'从「ワリングさんは人に危害を負わせるタイプの人じゃありませんでしたからね。
     命より大切なものはないということでしょう」

近頃国中を騒がしているのは『マッドボマー』という爆弾魔。
犬小屋から重要文化財まで、ありとあらゆる物に見境なく爆弾をしかけ、
最早狂っているとしか思えない犯行の数々から、いつしかマッドボマーなんてヘンテコな呼び名がついていた。

莫大な懸賞金とマッドボマーの名が書いているだけの手配紙は、
この犯罪者の情報を警察がこれっぽっちも掴めていないことを表していた。

从'ー'从「最近は本当に物騒で、この間も……」

ξ゚听)ξ「あ、貴重なお話ありがとうございました。
      ちょっと約束もあるので、これで」

从'ー'从「あらそうですか」

もちろん約束なんてある訳がない。
少し気になって尋ねただけで、老人の世間話に付き合うつもりは更々無かった。




ξ゚听)ξ「お詫びと言ってはなんですが」

私は背負っていたリュックからリンゴを取り出し、老婦人に手渡す。
元々、街にはこれを配りに出てきたのであった。

从'ー'从「あら、美味しそうなリンゴ」

ξ゚听)ξ「是非召し上がってください、では」

老婦人に一礼をすると、逆に深々と礼をされてしまった。
やけに照れくさい気分になった私は、足早にその場を立ち去ろうとする。
そして、私の後ろ姿に向かって老婦人が言った。


从'ー'从「貴女に、神の御祝福のあらん事を」

……神様なんていないんです、何より貴女がそれを示しているんですよ。

心の中でそう呟いて、振り向きもせずに路地を奥へと進んでいった。


櫛の歯の様に細い路地にも、ようやく慣れてきたところだった。
カラースプレーの文字に埋め尽くされた壁、足場を埋め尽くすかという量のゴミ、
人の気配があるとすれば不良少年たちが恐喝の場に使っているくらいのものだ。

以前はこの雰囲気になれず、大通りの道だけを選んで歩いていた。


ξ゚听)ξ「……臭い、ここいらのチンピラ全員死ねばいいんです」

今では、文句を垂れながらひょいひょいと歩いていける。
ここ大都市VIPでは、こういう場所を通らないと街が広すぎて堪ったものじゃない。

そうそう、ジーンズの裾が汚れてしまうのも気になる。
もっとも、セール期間だから買った、見事に風を遮らないコートに、
買った当初から色落ちしているような安物のジーンズを身につけている今となっては、過剰な反応ではある。

この街に来たばかりの頃は何も知らず洒落た格好をしていて、
ブランド品を着込んで歩き、やはり後悔していたことを考慮すれば尚更だ。

しかし、それでも衣服に気を使いたくなる私は、やはり女なのだろうと苦笑した。



大通りの車道では絶え間なく車が行き交っている。
それに負けじと、スーツ姿の男性やらコートを羽織った学生やらが、歩道にいる私の横をすれ違って行く。
もうじき夕飯時になるこの時間帯は、空は暗くても一番人が賑わう格好の時だ。


ξ゚听)ξ「さてと……」

早速私はリンゴを渡す相手を探し始めた。
警戒心が無い低能馬鹿や、無駄に人を信じるようとする親切馬鹿を選ぶ事が何より大事だ。

とりあえず学生に一つか二つ渡しておきたい。
どいつもこいつもガキのくせに私より良いコートを羽織っていてムカつく。

そうして私は人間観察に努めた。
変わり映えの無い退屈な光景に見えるが、実際はそうでもない。

帰路を急ぐ会社員も、人目を気にせずいちゃつくカップルも、
トラックにはね飛ばされている人も、バイクに乗ってピザを運んでいる若者も、
よく見れば、どれもが決して併せ持たない個を持って存在しているのだ。



ξ゚听)ξ「……ん?」

いや待て落ち着け、そんな人がいる訳ないじゃないか。
疲れているのだろうか。 今日はもう帰った方が良いのだろうか。

深呼吸をしろ、それからもう一度辺りを見渡せ。
ほらそうすれば、今度は正しく……ぐるり、ぐるりと―――?

(  ω ) 「ろべあッ!!」

ξ;゚听)ξ「うあっ!?」


見間違いではなかった。

トラックにはね飛ばされた男は重力のまま地へと叩き落とされ、
それでも勢いは収まらず、あろうことか私の元へと転がりやってきたのだ。

(  ω ) 「おぐおぉ……ふひぃ……」

ξ;゚听)ξ「………お、おお?」

周囲の耳をつんざく悲鳴と比べたら、私の反応は冷めきったものだっただろう。
ただそれは、声を上げることすらままならない程に驚愕していたからに他ならない。



(  ω ) 「口付けを……」

ξ;゚听)ξ「……はい?」

(  ω ) 「どこでもいいから……僕に口付けを……」

聞き間違いではなく口付けをしろと言っている。
そして、これも勘違いではなく、彼は私に向かってそれを言っているのだ。

何が楽しくて見知らぬ男に口付けをしなくてはならないのだろうか。
生憎、私はそこまで軽い女でも親切でも無い。

……だが。

(  ω ) 「口付けを……口付けを……」

こうまで懇願されると中々に断り辛い。
おまけにそれが最期の願いとなっては尚更。

歩道を血で汚し続ける男を前にして、私はどうにかなってしまったみたいだった。




ξ゚听)ξ「……じっとしててくださいよ」

口付けをした。
そっとかすめる様に唇を合わせた。

男の言葉を聞かない野次馬にとって、私の行動は理解出来ないものだっただろう。
もっとも、私自身だって自分が何をしているのかよく分からなかった。


ξ゚听)ξ「……それでは、安らかなる死を、アーメン」

(  ω ) 「……っ」

ξ゚听)ξ「え?」

男が何かつぶやいた気がした。
消え入りそうな声を聞き取ろうと顔を近づける。



ξ゚听)ξ「何ですか?」

(  ω ) 「……のに」

ξ゚听)ξ「…………」

(  ω ) 「どこでも良いって言った……のに、口に……」

ξ#゚听)ξ「……あ!?」

わざわざそれを声に出すということは、こういう事なのか。
私のキスが不服だったと言いたいのか。


ξ )ξ「私だって……」

(  ω ) 「……お?」

ξ#゚听)ξ「私だって、こんな所でファーストキス使いたくなかったわよ、畜生がぁあああ!!」




なんたる侮辱!
感謝される覚えはあっても貶される覚えはまるで無い!

だから、私がこの死にかけの男を殴り飛ばしたことも、決して間違った判断ではないことを、声高々に宣言したかった。


ξ;゚听)ξ「……て、てへ」

だとしても、やはり現実は厳しい。
周囲からの冷たい視線は矢となり、私の心を無残にも貫いていた。


ξ;゚听)ξ「……お、覚えてろよっ!!」

そんな言葉が口から出たのは、そういった類のエンターテイメントの見すぎだった。

私はその場から逃げだした。
パトカーのサイレンの音が、遠く、響いていた。






  第一話【爆音をBGMに死者は深い眠りから目覚める】





その日、僕が見た光景は夢だったのではないかと思う。
立ちすくんだその3分間を、一生忘れることは無いだろう。

まず道を歩いていた僕の横を、黒服の男が通り過ぎた事から始まった。
何かに脅える様に走り続けている男は、通行人にぶつかったとしても足を止めることはなく、
時折振り返ってはひたすらに道を進んでいった。

どうしてあんなに急いでいるのだろうかと僕が疑問に思った時、男は車道に躍り出た。
そこに横断歩道は無く、車に対しての信号は青だった!
彼は一秒間に何台と車が通るという道を突っ切ろうとしたのだ!

ああ、それはとても危ないことだった。
思わず僕も手に汗を握って彼を見守ってしまっていた。

映画だったら、男はその道を見事に通り抜けたことだろう。
唯、生憎それは作り物ではない訳で……男は本当にトラックに撥ねられてしまった。





吹き飛んだよ、それこそ衝撃実験を行ってる人形みたいにさ。
眺めているだけの僕にもその瞬間はスローモーションだったんだから、
本人視点だったら、一体どんな風に見えているのか凄く気になったものだよ。

空中でふわりふわりと浮かんでいる時間がふっと終わると、急激に時間は動き始めた。
男は鈍い音を響かせながら地面に叩きつけられた。
当然その程度で勢いは収まらず、コンクリートに体中を打ちつけながら、およそ10メートルは転がってようやく静止した。

僕は両手で顔を覆ってたけど、その指の間から目を釘付けにしていた。
神様に男の無事を祈りつつも、これからどうなることかとハラハラしていたよ。

だってさ、男の転がった先には、びっくりするくらい綺麗な女性が立っていたんだもの!
彼女の泣き喚く姿が見れるのかもしれないと思って、期待に胸を膨らませたさ!

……おっと、確かに趣味の悪い事を言ってしまったね、ごめんよ。





だけど、その女性は至って冷静に男の様子を眺めていたんだ。
驚く様子を一応は見せていたけど、あれは、僕がスモウレスラーが太っている理由を知ったとき程度の驚きっぷりだった。
分かりにくいって? そんなこと言わないでよ。
とにかく、女性が人一倍冷静だったって事だけ伝えたかったんだ。

で、話はここからが面白い。

その後、男と女性が何やら二、三会話した。
短い会話だったことは確かで、ようやく野次馬が集ってきた頃だった。

突然、女性が男にキスしたんだ。
彼らは別に恋仲にある様には見えなかったし、むしろ初対面に見えた。
それでも間違いなく二人は口付けを交わし、暫くの間見つめあっていた。

僕がそれにどれだけショックを受けたことか!
僕は恋愛というものはもっと神聖なものであるべきだと思っているからね!

だって、最近の子達ときたら……え? 今はそんなことより話の続きをだって?
……まぁ、それもそうだね。 





けどさ、ここからは意味が分からないんだ。
僕がこの体験を二度と忘れられないものだと言った所以にもなる。

女性は、突然男をぶん殴った。
ざまぁみろ!……とは思わず、頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
数秒前にキスした相手を、ましてや死にかけの男をぶん殴った。
そんな理不尽な行動に納得のいく答えが貰えるなら、僕は一週間分の生活費を捧げてもいい。

女性は逃げだした。

これは当然だ、野次馬たちは彼女を殺人鬼を見るような目つきで見ていたから。
正確に言うなら、死にかけの男に止めをさしたわけなんだけど……でもね、実はこれも正しくないんだ。

良いかい、僕は嘘なんてこれっぽっちもついちゃいない。
これから言うことだって、紛れもない真実だし、僕が見た事実なんだ。

それだけは分かって聞いてほしい。




男は、むくりと起きあがった!

死にかけだったはずなのに、トラックにはねられたはずなのに、
まるで、たっぷり半日は寝た後みたいに起きあがったんだ。

野次馬達は一同にぽかんと口を開けて呆けていたね。
その内の一人の女性は悲鳴を上げようとしたけど、それを制止したのは他でもないその男だった。

そして準備体操なのか、全身を曲げたり伸ばしたりした後、男はやっぱり走り出した。

でも、進行方向がさっきとは違っていた。
何故かと思って少し考えたけど、ちょっと考えたら納得した。
だって、その方向は男にキスをした女の逃げ去った方角だったんだもの。

……とまぁ、僕が見たのはこれくらいのものさ。


さぁどうかな、これを聞いて君は何を思う?




ξ゚听)ξ「あー、胸糞悪い」

こんなに走ったのは久しぶりのことだった。
それこそ学生時代に、体育の時間に走らされた時以来だ。


ξ゚听)ξ「それにしてもここは一体……どこなんですかね」

遠く遠くへと行ってみたは良いが道に迷ってしまったらしい。
老婦人と出会った裏路地の類だろうが、壁に書いてあるスプレー文字に見覚えがない。
スプレー文字は不良たちの縄張りのマーキング代わりにもなっている。
普段使っている道とはまるで違う場所だという事だけは確かだった。

ついてない、非常についてない。

今日は思う存分新作を試す予定だったのに、今頃は快い気分で歌でも歌ってるはずなのに。
どれもこれも、全てあの事故ってた男のせいだ。
八つ当たりなのかもしれないが、そうでもしないとやってられない。




ξ#゚听)ξ「もおおおお!! あの変態野郎めぇええええ!!
      ていうか、ここは一体どこなのよぉおおおおお!!」

全ての不満をぶちまけるかの様に吠えた。
雄叫びは建物にぶつかり反響し、私の耳に礼儀正しく帰ってきた。
余計にいらつく結果になるとは恐ろしい。


( ^ω^)「まぁ、怒る気持ちも分かりますお」

ξ#゚听)ξ「でしょ、あの憎たらしい顔は絶対に忘れないわ!」

で、そうそう、確かこんな顔をしていた。


ξ;゚听)ξ「………って、えっ?」

( ^ω^)「でも怒る前に話を聞いて頂きたいんですお、これには深い訳が……」

正直言えばその憎たらしいという顔はちらと見えた程度であり、本来ならまるで記憶に残らないはずなのだが、
口付けをしたということもあってか、そのにやけた口元を、私は鮮明に脳に刻み込んでいたのだ。

ξ;゚听)ξ「……ご、ごめんなさい、謝るから許してください、じゃこれで」

だから私は逃げる。 絶対逃げる。 すぐ逃げる。
走ると逆上させちゃいそうなので早歩きで逃げる。




(;^ω^)「いや、ちょっと待ってくれお!」

ξ;゚听)ξ「ごめんなさいごめんなさい、まさか化けて出るなんで思わなかったんです!」

ああ、事故った男の幽霊が追いかけてくる!
私が止めをさしたせいだろうか、そうに違いない!

(;^ω^)「化けて出るって何のことだお?」

ξ;゚听)ξ「殴ってしまった事は謝ります。
       でもアレには貴方にも非があったということでここは一つ……」

(;^ω^)「その事はもう良いんだお、僕はただ君にお礼を言いたくて……」


ξ;゚听)ξ「私、お化けとかダメなんだから止めてくださいよおおおおおおおおお!!」

(; ゚ω゚)「僕は幽霊なんかじゃないおおおおおおお!!」

幽霊じゃない……? 本当だ、足がある。




(;^ω^)「はぁはぁ……分かってくれたかお?」

ξ;゚听)ξ「で、でも、貴方はさっき……!」

死んだはず、とは続けられなかった。
よくよく考えれば別に事切れた瞬間を見たわけでもないし、何より今現在私の目の前で元気にしているのだから。

( ^ω^)「ああ、僕は……えーと、その、人より丈夫にできてるんだお」

ξ゚听)ξ「はぁ……」

( ^ω^)「君には……き、キスをして貰ったからお礼を言いに来たんだお。
       どうも、ありがとうございましたですお」

深々とお辞儀する黒服の男。
よく分からないまま返答する私、なんだこれ。

( ^ω^) 「じゃ、用はそれだけですのでこれで……」

ξ゚听)ξ「は? ちょ、ちょっと待って―――」





私が男に呼びかけるよりも早く、聞き覚えのある冷酷な音がした。
思わずリンゴの無事を確認しそうになってしまったが、それより早く状況は把握できた。

曲がり角から出てきた三人組の男たちは、皆一様に白のスーツで決めていた。
それどころか、赤いネクタイ、黒のワイシャツ、胸もとのバッジ、
煌びやかながらゴツイ靴まで、そっくりそのまま同じデザインを揃えている。

それは私が思い浮かべるマフィア連中の姿そのままだった。
先頭にいるリーダー各と思わしき奴は、未だ硝煙立ち上る拳銃を構えていた。


ξ゚听)ξ「……ま、って……って……?」

ついさっきまで会話していた黒服の男は、地面に仰向けに倒れていた。
額には直径1センチ程の穴が空いていて、そこから溢れる様に血が流れ出している。

撃たれていた。どうやら即死だったらしい。




ξ;゚听)ξ「えーと……何者ですか?」

「それは多分、嬢ちゃんが考える通りの人間だなぁ」

白スーツは嘲るように答えた。

ξ;゚听)ξ「どうして、この人の事を殺したんですか?」

「知りたいのかい?」

三人組はいやらしい笑みを浮かべながら、問答を続けていた。
拳銃を向けられているため、私は身動きが取れない。


「ソイツの名はブーン=マストレイ。
 ちょっと前までは、どこにでもいる極普通の男だった」

ξ;゚听)ξ「私には、今も普通の人に見えますけど……?」

「見た目はな、ところがソイツは不死身なんだよ」

今日は色々とおかしな事があったが、今日一の奇怪だった。
唯、それを信じる節が無いわけでもなかった。




「何をしても死なない、今も死んでいる様に見えるが死んでねぇ。
 ちょいと手間をかければそりゃもう元気に動き出すだろうよ」

ξ゚听)ξ「手間……?」

「それは言えねぇなぁ、嬢ちゃんに余計な事をされる訳にもいかねぇし」

先頭にいたリーダー格の男は、さて、と一言呟いて私との距離を詰める。
向けられていた拳銃は、今や私の胸元に突き付けられていた。


「どうして、俺がこんなにお喋りだったのかが分かるか?」

ξ;゚听)ξ「……親切なのかなって」

「へへへ、そうだな、実は俺は無益な殺しは嫌いなんだ。
 肩がぶつかった相手を殺すことはあっても、道行く人間に突然ピストルぶっぱなしたりはしねぇ」





「そんな俺だから残念だ……非常に残念だ」

ξ;゚听)ξ「……な、何がです?」

「俺がソイツを殺した所をみた場面をな、見られてホイホイ返す訳にはいかねぇんだよな」

男の人差指に、僅かな力が籠ったのが分かった。
しかしそれは、トリガーを引くには十分過ぎるほどだった。

ξ;゚听)ξ「今ならまだ間に合いますよ、止めてくださいって」

「遺言はそれくらいでお終いか?」

ξ;゚听)ξ「いや止めた方が良いですって、こんな事したら……!!」

「こんな事、が俺たちには日常なんだよ。
 じゃあな、さっきのお話を冥土の土産にして……死んでくれや」


漆黒の夜空にぽっかり穴を空けた満月が私の目に映る。

静けさを増す闇夜に、場違いな破裂音が響いた―――




「……あ?」

理解し難い光景に、俺は一切のアクションをとれなかった。
それは俺の隣で余裕を見せていたはずの部下も同じだっただろう。

拳銃を突きつけていた筈の嬢ちゃんがいねぇ。
俺の目の前には誰もいねぇ、構えていたはずの拳銃も消えちまった。

そして、何故だ、どうして―――俺の右腕すら消えちまってんだ?


ξ )ξ「……だから言ったんですよ、こんな事しちゃダメって」

突如、背後から聞こえてきた言葉にはっとした。

激痛の走る右腕を押さえながら、今為すべき行動を必死に導き出そうとする。
しかし、遮られていく視界に、その思考すら奪われようとしていた。

「ぶわっ! 畜生、何にも見えねぇ!!」

「くそっ、煙幕かっ!?」




白煙が辺り一面を完全に包み込んでいた。
視力に頼れないことに不安を覚えたのか、部下二人は怒声をあげていた。

「馬鹿野郎ッ! 音を立てるんじゃねぇ!!」

ξ )ξ「はい、その通りですね。
      視界の悪い場所で音を立てるなんて、自分から場所を宣言しているようなものです」

そして、特大のクラッカーは鳴らされた。
火薬が炸裂する音をそう例えたのは、軽い現実逃避を交えていたのかもしれない。
ただ、そんな風に考える一方で、すでに一人は殺られているのだとも理解していた。

ξ )ξ「で、もっと大事なのはいかに冷静でいるかってことですね。
      その点では貴方は……」

「そこかァ!! 糞アマぁ!!」

「よせ、止めろ!!」

俺の抑制の声も無視し、ピストルは乱射された。





ξ )ξ「不合格ってやつですね」

それは悪手だった。
見える筈はない、が、部下の背後に忍び寄る女の影が見える。
乱雑に繰り返されていた発砲音は、予兆もなく終わりを告げた。



「……ありえねぇなぁ、おい」

そして煙が晴れていく。

徐々に自由になる視界に映し出されたのは、悲しくも予想通りの光景。
即ち、血を垂れ流して死んでいる部下二人の姿と、悠然と立ちすくむ女の姿だった。

ξ゚听)ξ「あんな事されたら、私は貴方達を殺さなくちゃいけないでしょ?
      だから止めろって言ったのに……馬鹿は嫌いです」

俺は、あろうことかそれを美しいと感じていた。
遊戯を楽しむ子どもの様に人を殺した女に、芸術を見出していたのだ。




ξ゚听)ξ「はい、これあげます」

投げ渡されたのはリンゴだった。

「……お前、ひょっとしてマッドボマーか?」

ξ゚听)ξ「あ、やっぱり分かりました?
     貴方の腕を吹っ飛ばしたのも、実は爆弾だったんですよ。
     私が持ってる中でも、最小の小型爆弾なんです!」

ならば、つまり、これもそういうことなのだろう。

こんな境遇に立たされて、俺の心に芽生えたのは愉快の二文字だった。
死の間際に立たされた人間の考えは分からない。例えそれが自分自身であったとしても。

ξ゚听)ξ「大体、いきなり人を撃ち殺すなんて事しちゃあ駄目じゃないですか。
      事情があるんだか知らないですけど……それじゃあまるでいかれた人間ですよ」

「……は、お前が言うなよ」

ξ゚听)ξ「私がいかれてるって言うんですか……?」





ξ゚∀゚)ξ「でも、それって当然じゃありません!?」

ξ゚∀゚)ξ「だって私は狂ってるんです、頭ん中ァぐっちゃぐちゃなんですよ! 
      私よりいかれた人なんている訳ないんですよぉ、そんな事言う奴いたら殺しちゃいます。
      ぶっ壊して、肉片飛び散らして、血飛沫浴びて、ようやく私はゆっくりおやすみなさいなんです!
      あははははは!! あー、生きてるって感じしますよね、幸せ!」

綺麗な顔を歪ませ、悲鳴のような笑い声を上げるこの女を見て思った。
……成程ね、いかれてるってのはこういう奴のことを言うんだな。


ξ゚听)ξ「……ねぇ、そのリンゴを召し上がってはいかが?
      まだまだ新鮮だから、それはもう美味しいことでしょうよ」

「そうか、じゃあ頂くよ」

断った所で、迷いなくコイツは俺の頭を打ちぬくんだろう。
リンゴに歯を立てると中心部の方でカチリと音が鳴り、


そ、し    て  まっし、


          ろな  光    「が」―――




ξ*゚听)ξ「ああ綺麗、なんて美しいのでしょう!」

私は頭部を爆破させた男を見ながら恍惚としていた。
赤黒い肉はそこら中に飛び散っていて、私の頬にもいくつかこびり付いている。
それを指ですくい口に放り入れる。 鉄錆の匂いがした。


ξ゚听)ξ「さて、と」

今ここには4つの死体があるが、私が興味あるのは黒服の男の死体だ。
未だに半信半疑ではあるが、どうやらこいつは不死身の肉体を持っているらしい。

ξ゚听)ξ「でも、おかしいですねぇ」

死んでから既に十数分は経っているじゃないか。
だというのに、何ら変化が無いというのは、やはりこれは唯の死体だということなのだろうか。

暫し頭を悩ませる。
すると、いくつかの事柄を思い出した。





一つは、白スーツが言っていた『手間をかければ蘇る』ということ。
不死身ではあるが、他者の協力が無ければいけないのだ。
もう一つは、このブーンという男がなんども口にした『口づけを』という言葉。


ξ゚听)ξ「……ああ、そういうことなんですか」

何てロマンチックなゾンビさんだこと。
なんて考えながら、私は今日二度目の口付けを彼と交わした。

その唇は冷たかった。
血の気の無い、死体の体なのだから当然だろう。

しかし、突如として生命の脈動が唇を通して伝わり始めた。
心臓の鼓動、猛スピードで血管を再流する血液、体温の上昇。
それは本来微弱であり、傍から見ているだけではまるで感じ取れない筈のもので、
口付けをするというリスクを犯しても、体験して良かったと思える貴重な温もりを私は得ていた。





ξ゚听)ξ「……ふぅ、気分はどうですか?」

( ^ω^)「……上々ってとこだお」

そうして、ブーン=マストレイは蘇った。
体が自由に動くことを確認した後、彼は私に尋ねた。

( ^ω^)「これは、君がやったのかお?」

ξ゚听)ξ「これというのが、貴方を蘇らしたことなのか、マフィアを皆殺しにしたことなのか、
      一体どちらなのか私には分かりませんが、そうですね、私がやってしまいました」

( ^ω^)「そうかお……」

彼はむむと唸り始め、腕を組んで思案に耽った後、もう一度私に尋ねた。

( ^ω^)「もしかして、君は今噂のマッドボマーってやつですかお?」

ξ゚听)ξ「そう名乗ってる訳ではないですけど、世間的にはそう呼ばれていますね」





再び彼は考え込み始めた。
一体何度このやり取りを繰り返すのかと私は少し期待したのだが、

( ^ω^)「何故貴女のような犯罪者が僕を助けたのかは分かりませんが、ありがとうございましたですお。
       とはいえ、僕はとても急ぐ身であるので、これにて失敬……」

そう言って立ち去ろうとしたので、私は右腕をむんずと掴んでやった。

ξ゚听)ξ「待ちなさいな」

(;^ω^)「な、何ですかお?」

ξ゚听)ξ「私は二度も貴方の命を救ったっていうのに、それで、はいお終い……ってのは都合が良すぎません?」

(;^ω^)「そうは言われても、ええと、そのですね……」

彼の瞳を見てみれば、一体どんな事を考えているかなんて嫌でもわかる。
人殺しの爆弾魔である私といるのが、怖くて怖くて仕方ないのだ。
不死身だなんて、化け物じみているのはそっちの方だっていうのに。




ξ゚听)ξ「まぁ、お聞きくださいブーン=マストレイ」

(;^ω^)「何だお? ていうか僕の名前知られてるのかお」

ξ゚听)ξ「よく分からないですけど、貴方は命を……ってのは死なないんだから違いますね。
      マフィアにその身を狙われてるんでしょう?」

( ^ω^)「厳密にいえばマフィアだけじゃないけど……まぁそうだお」

ξ゚听)ξ「あ、一個聞いておきたいんですけど、その体ってバラバラになっても蘇ります?」

( ^ω^)「え、うん大丈夫だと思うお」

ξ*゚听)ξ「それを聞いて安心しました、私、貴方のボディガードになります!」


私はドンと胸を叩いて宣言した。
彼は露骨に嫌そうな顔をするどころか、手でばってんのジェスチャーをした。

(#^ω^)「てめぇの下心が丸見えだったぞこの野郎」

ξ;゚听)ξ「あ、あらやだ、一体何のことでしょう!?」




ξ゚听)ξ「確かに、私は人間を爆破して体中がバラバラに飛び散る様子を見るのが好きですよ、大好き!
      でもだからといって、守ってあげる代わりに何回か爆破させようなんて考えてもいません!」

(#^ω^)「やっぱりそんなこと考えてやがったのかお、糞ビッチ!」

ξ#゚听)ξ「良いじゃない! 不死身のその体を最大限楽しむだけでしょ、減るもんじゃない!!」

(#^ω^)「確かに不死身だけど、死ぬって事は何回やっても嫌なもんなんだお!!
       それに、爆死なんて、それこそ死んでもやりたくねぇお!!」


ξ )ξ「私のファーストキス奪ったくせに……」

(;^ω^)「おっ!?」

ξ;凵G)ξ「私の純情を弄んでおいて、ボロ雑巾の様に捨てるんですね……」

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくれお、それは君が勝手に……」

おいおいと泣き始める私に、彼はたじろぎ始めた。
オッケー、もうひと押し。 男なんてちょろいもんだ。




ξ;凵G)ξ「うう……私は何て悲しい女〜♪
       親切すらも卑下にされ、糞ビッチと言われちゃうんです〜♪」

(;^ω^)「くそう、余裕を感じるのに反論出来ない……。
       あーもう分かったお、ボディガードでも何でもすればいいお!」

ξ*゚听)ξ「本当!?」

( ^ω^)「ただし、ぼかぁそう簡単に死んでやらないから覚悟しろお」

ξ*゚听)ξ「うんうん、分かってますって!!」

爆弾で脅すことも考えたが、思った以上にうまくいってよかった。
これから毎日、どうブーンを爆破しようか悩むことになるなんて、何たる幸福!

やっぱり、人助けはしておくものだ。




ξ゚听)ξ「私はツン=デレイド=クヴァニルです」

( ^ω^)「改めてブーン=マストレイだお、よろしく」

ξ*゚听)ξ「よろしくね、ダーリン!」

(;^ω^)「うわっ、くっつくんじゃねぇお!」


何度でも爆破出来るなんて、良いおもちゃが手に入ったものだ。
コイツを狙ってくるマフィアも殺せるし、まさに一石二鳥。

ああ、神様、今日という日と、この出会いに感謝します。


―――The story might continue



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