「はぁ……はぁ……」
息が絶え絶えになりながらも、目の前にいる男を睨み続けていた。
だが、額から零れる汗により、その視界も良好とは言えない。
むしろ、疲労から来る目眩により相手の動きを捉える事すら厳しい状況に有った。
「……まだ……終わってねぇ……」
「……いや、終わったね」
途切れ途切れの俺の言葉に対して、目の前の男も同等の疲れを持っていた。
お互い、立っている事すら辛い状態のはずだ。
少なくとも俺は、間違いない。
「よくやったよ、お前は」
相手の声が、やけに澄んで聞こえた。
周りの人間のどんな言葉より、眼前の男の声が聞こえている。
「こんなチームで、本当によくやったよ……」
相手の目が、哀れみの目になる。
かと思えばそれは尊敬の眼差しに変わり、次の瞬間には、勝負のそれに変わっていた。
「……でも―――」
男が、笑う。
「――これで終わりだッッ!!!」
奴の姿が俺の眼前から消えた――。
( ^ω^)ばすけっとからバスケットのようです
第二章
第一話 【六人のバスケ部】
時は、七月初旬。
歩くだけでも額に汗が流れるような気温の中、俺は体育館の中に居た。
息はさほどあがっていないが、自分の体をまとう汗が、自分の今の状況を語っている。
(;'A`)「次、3オン3!」
体育館中に響き渡るように、声を張り上げた。
それに対する返事は、ない。
(;'A`)「どうした!?声出てねーぞ!!」
またもや声を張り上げる。
今度は、ちらほらと返事が返ってきた。
だが、そのいずれも俺の期待したそれとは違っていた。
(;^ω^)「ちょ、ちょっとタンマだお……」
(;゚∀゚)「死んじまう……」
(;><)「もう動けないんです……」
(;´・ω・`)「流石にこれは持ちませんね……」
(;'A`)「何言ってんだ!まだまだ!」
ミ;,,゚Д゚彡「みんなこの暑さに慣れてないから……。
少し、休憩挟んだ方がいいんじゃない?」
俺の隣から一人の男が顔を出した。
その男、フサギコは続ける。
ミ;,,゚Д゚彡「無理して怪我するのが一番怖いでしょ。この人数じゃ」
(;'A`)「……」
確かに、その通りだ。
このギリギリの人数の中、一人でも負傷者を出してしまうのは危険だった。
一呼吸置いて、俺は叫ぶ。
(;'A`)「……5分休憩」
(*゚∀゚)「水!?」
俺が休憩を告げた途端、今までくたくただった連中の顔色が変わった。
そして次の瞬間には、まるでゾンビのような歩き方で体育館を出ていく。
(;'A`)「ふぅ……」
せっかく休憩を用いた以上、俺も休むことにする。
近くに置いていたタオルを使い、自分の顔の汗を一吹きした。
ミ,,゚Д゚彡「それにしても……やけに飛ばしてるね。
何か良いことでも有った?」
('A`)「別に……何もねーよ」
今日は、七月に入って初めての土曜日だった。
夏という季節は、運動部にとって地獄であり、同時に上達への最大の機会でもある。
どの部活にも、どの学校にも、夏は平等にやって来るのだ。
それをどう乗り切るかが、これからの実力に大きく影響していくだろう。
('A`)(でもやっぱ……フサギコがいると大分違うな)
フサギコがこの部活に入部して、そろそろ1ヶ月になる。
怪我の影響は多少あるが、それにしても、相変わらずのキレと判断力を持っていた。
('A`)(やっとバスケ部らしくなってきたんだ……ここで立ち止まるかよ)
もう、負けたくはない。
その心を強く持ち、俺は練習に励んでいた。
('A`)「よっしゃ!休憩終わり!」
大体5分が経過した頃、また練習を再開する。
周りの連中も、ぶつぶつ文句を言いながらもきちんと練習の体勢に入っていた。
('A`)「3オン3!今日は、俺とビロードとブーンのチームだ」
大体ポジション的に考えて、チームを編成する。
俺はジョルジュ、ビロードはフサギコ、ブーンはショボンにマークする事にした。
('A`)「いつも言っている事だが、大事なのはボールを持っていない奴だぞ!
マークの隙を突いて、出来る限りフリーな状況を作るんだ」
部員全員が頷いた。
初めの頃は意味が分かっていなかった連中も、今ではまともな動きになりかけている。
だが、所詮は付け焼き刃。
まだまだ穴だらけのそれを、練習を繰り返して埋めて行くのだ。
('A`)「フサギコ達のオフェンスから初めてくれ」
フサギコがボールを持って、構える。
怪我のせいで全力疾走の出来ないフサギコは、
先ずはパス相手を探そうと目線を動かした。
(;><)(でも、気は抜けないんです……!)
マークするのは、身長152cmのビロード。
いくら相手が怪我人とは言え、元は全国級の選手。
何が起こるか等、予想出来るハズも無かった。
ミ,,゚Д゚彡「ジョルジュさん!」
フサギコがそのままジョルジュにパスを出した。
やはり、無理はしないと言うことだろうか。
( ゚∀゚)「任せろぃ!!」
ボールを受けとるジョルジュ。
それに対峙するのは、この俺。
('A`)(絶対抜かせねぇ……)
全国優勝の経験を持つ俺でも、ジョルジュを止めるのは簡単ではない。
それほどジョルジュは、スピードに掛けては群を抜いているのだ。
膝を曲げ、腰を降ろす。
相手の足元を見て、自分のかかとを微妙に浮かした。
いつでも、どちらでも、動けるように。
( ゚∀゚)「……」
('A`)「……」
あのヘラヘラしたジョルジュも、ボールを持つと人が変わる。
一瞬の隙も逃さない、狩人の姿になるのだ。
('A`)「………ッッ!!!」
ジョルジュの左足に、重心が乗った。
次の瞬間には、ジョルジュの姿が右にズレる。
それに追い付くように、俺は素早く足を浮かせた。
(;゚∀゚)「チッ――!!」
ジョルジュの一歩目には、着いていく事が出来た。
一歩目さえ逃さなければ、その後着いていくのはそう難しくはない。
着いてくる俺を、そのままスピードで抜き去ろうとするジョルジュ。
だが、俺のマークは簡単には外れなかった。
('A`)(取れる――ッッ!)
ミ,,゚Д゚彡「ジョルジュさん!!」
突然、声が聞こえた。
方向は、俺の正面、ジョルジュの真後ろ。
( ゚∀゚)「ナーイスッ!」
ジョルジュが力を抜いて、ボールを後ろに投げる。
それをタイミングよくキャッチしたフサギコは、その勢いに乗って真上に跳んだ。
――パシュッ
フサギコの手から放たれたボールが、音を立ててリングを潜る。
相変わらず、綺麗なシュートフォームだった。
(;><)「ごめんなさいなんです……」
('A`)「どんまい。今のは、一回パスを出した後気を抜いたのが失敗だな。
常に相手の動きを見て、自分のマークには責任を持つんだ」
(*><)「了解なんです!」
('A`)「んじゃ、次は俺たちのオフェンスだな」
転がるボールを拾い上げ、それをビロードに渡す。
ポイントガードとしての成長を願って、練習中は出来る限りビロードに任せていた。
元々ビロードは他の連中に比べて、“武器”が少ない。
目立った得意技が無ければ、身体能力が高いわけでも無いのだ。
俺が教えた『秘密の必殺技』を練習中だが、そのほかに
最低限ポイントガードの能力は身につけて欲しかった。
( ><)「ドクオ君!」
ちょうどマークを振り切った俺に、パスが渡る。
マークのジョルジュが、一呼吸置いて俺に着いた。
( ゚∀゚)「抜かせねぇぞ!!」
ジョルジュがディフェンスの構えをする。
オフェンスではエース級のジョルジュだが、ディフェンスは正直並み以下だ。
身体を揺らし、相手の足を浮き立たせる。
完全にタイミングをズラされたジョルジュの右に、鋭いドリブルを突いた。
(;゚∀゚)「やべぇぇぇぇ!!!」
浮き足立った状態のジョルジュは、俺のドライブには着いていけない。
二歩目のドリブルで、完全にジョルジュを抜き去った。
('A`)(フリー……!)
ジョルジュを抜いた直後、そのままジャンプシュートの体勢に入る。
思い切り地を蹴り体を空中に上げ、そのままシュートを放とうとした。
――――だが
(´・ω・`)「君がそこでシュートを打つのは、計算済みですよ」
(;'A`)「!!」
突然、俺の横からショボンの手が伸びてくる。
その手は俺のシュートコースを完全に塞ぎ、ボールの行手を無くした。
(;'A`)「くっ……!」
ブロックされるのだけは不味い。
空中で一旦腕を曲げ、相手の手からシュートコースを外した。
(;'A`)「リバウンドだ!」
何とか無理矢理ブロックを避けたものの、ボールの方向は良くはない。
このシュートは、外れる――!
――ガコンッ!
予想通りボールはリングに当たり、そのまま真上へと上がっていく。
すぐさまリバウンドを取りに行こうとするが、
目の前のショボンに阻まれ動く事が出来ない。
( ゚∀゚)「もーらいっ」
ゴール下に向かっていたジョルジュがタイミング良くジャンプする。
ボールを取ろうとした、その瞬間だった。
(#^ω^)「うおおおおおお!!」
(;゚∀゚)「な――!!」
ブーンの手がぐんと伸び、ついにはジョルジュのそれを越える。
誰よりも速く、誰よりも高く、そのボールをキャッチした。
( ^ω^)「決めるお!!」
一度着地し、すぐさまシュートを放つ。
ゴールの真下から放ったそのボールは、綺麗にリングを潜り抜けた。
('A`)「ナイスリバウンドだ、ブーン」
(*^ω^)「おっおっ。ブーンも頑張ってるんだお」
自分で言う辺りが何だが、確かにブーンは最近一番伸びている。
元が初心者のため、教えられた事をぐんぐん吸収しているのだ。
('A`)(まるで桜木だな……)
となると、自分は赤木だろうか。
ふと、笑いが込み上げてきた。
(;^ω^)(ドクオが一人で笑ってるお……キメェ……)
俺たちが攻守の交代をしていると、体育館のドアが開いた。
現れたのは、一人の女性教師。
('A`)「集合!!」
その教師の元に駆け出し、その場に集合する。
彼女こそがこの部活の顧問。シュール先生だ。
lw´‐ _‐ノv 「やぁやぁ諸君。バスケの方はどうかね」
(;><)「めちゃくちゃキツいんです!」
lw´‐ _‐ノv 「それは米だな。ふむふむ……」
そう言うと、先生はどこかに歩き始めた。
もう知り合って3ヶ月だが、未だに彼女の事は全く分からない。
一つだけ言えるのは、間違いなく変人と言うことだ。
lw´‐ _‐ノv 「そういえば、明日試合入れたから米米」
('A`)「!!」
シュール先生の一言に、部員全員が反応する。
5月のパー速との試合以来、一度も試合をしていない自分達。
人数が六人である以上、紅白戦すら出来ないのである。
('A`)(この時期に試合入って助かった……)
バスケットは、五対五のスポーツだ。
いくら練習しても、結局試合では五対五の実力が試される事になる。
夏休み前に一度試合をして、自分達の課題を見付けておきたい所だった。
('A`)(先生も中々使えるな)
('A`)「それで、相手はどこなんですか?」
俺の問いかけに、シュール先生は無表情のまま答える。
lw´‐ _‐ノv 「VIP高校、女子バスケット部だ」
第一話 終
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