( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです


Side Story 〜絆・後編〜











クックルとの遭遇から1週間が経ったときのことだった。
先週に行われた、新人戦の1回戦と2回戦の相手を余裕で下した我がVIP第二中学は、
その次の週である今週にもその続きの試合を行っていたらしい。


らしいというのはもはや僕の回想においては当然の言葉なのかもしれないね。


試合の結果は、4回戦で敗戦。

なんでも、土曜日の3回戦と日曜日の4回戦の間にクックルが怪我を負ったかららしい。原因は不明。
クックルは怪我をおして4回戦に強行出場するも、すでにチームの主軸となっていた彼の負傷は、
チーム全体にとって大きな枷となり、VIP第二中学の敗戦の原因となった。
さらに、怪我にもかかわらず強行出場をしたクックルの怪我の容態はひどくなったようで、
しばらくの間はクックルは練習を見学する日々が続いた。その期間は随分長かったようで、
1ヶ月はゆうに越えていたと思う。





クックルの抜けたセンターのポジションは、クックルがいなければ本来センターのポジションで
レギュラーとなるはずだった二年生が務めることとなった。
彼はクックルほどではないが、上手い。クックルが抜けたからといってチームが弱体化するわけでもなく、
クックルがいない状態での練習試合でも、VIP第二中学は強豪と呼ばれるにふさわしい結果を残していた。

そしてクックルが負傷から復帰後。なぜか彼は練習中の5対5で、一軍であるAチームのセンターではなく、
主に控え選手から成る二軍であるBチームへと降格させられていた。そして驚くことに、彼はそのBチームの中の
控えセンターとなっていたのだ。

原因はよくわからない。彼は他の部員との会話によるコミュニケーションをほとんど取らないからだ。彼が口を
開くときは事務的な内容の伝達が主であった。

が、部員たちの噂では、負傷をした箇所がスポーツ選手にとっての生命線である腰であり、そのせいで満足に
動くことができなくなったからだ、という説が有力であった。
実際、僕自身も彼が練習中に体育館の隅で無言で腰を押さえている姿を目撃していたから、その説は有力であった。







さらにしばらくしてから、また新しい噂が立った。
クックルを怪我に追い込んだのは、センターのポジションの現レギュラーの2年生が裏で手引きをしていた、
というものである。
その選手は、ルックスも人柄もよく、勉強でも学年でトップ15には入るという優秀さも持ち、さらに運動神経も
なかなかのものを持っている。
だが彼には黒い噂があるのだ。勉強もスポーツも、そして女性さえも自分の思い通りに
ことを進めることが可能な彼にとって、自らの障害となるものを排除しようとする癖があるらしい。



…そう。

3年が引退する前からも途中出場での機会を与えられていた将来有望な彼にとって、さらに将来有望なクックルが邪魔

だった。
だからクックルを怪我に追い込んで、自らの確固たる地位を取り戻した、というのが噂の詳細である。

僕も彼が学校の不良たち数名と一緒に笑いあっているのをよく見かけていた。だから、ひょっとすると…。

彼が不良たちに依頼して、クックルに暴行をして怪我を負わせたのではないか。
今となっては真相は定かではない。本人に確認しようにも、クックルは恐らくその件については語ることはないからだ。
いずれにせよ、確かめる術はない。なぜなら……

あ、先に言っておくけどひぐらし的な「転校」じゃないよ。リアルな転校だ。




ところで、僕はクックルが怪我をしてから、一度だけ監督から応援団に選ばれ、VIP第二中学の試合を観客席から
観戦したことがある。


―――――――


――ビーーーーーーッ!!!


「第2クォーター終了!ハーフタイムに入ります!」


(;´∀`)「はわわわ…相手かなり強いじゃないかモナ…前半だけで18点差つけられてるモナ…」

( ´∀`)(クックル君を出せば勝てるはずなのに……)


おそらくは、ベンチや観客席にいた全員がそう思っていたことだろう。しかし、口には出せなかった。
クックルに代わってレギュラーとなって、例の「彼」。決して下手ではない。さっきも言ったけど、むしろ上手い。





だが……。
ただ、それだけなのだ。
確かに彼は上手い。だけどそれだけ。チームとしての向上は、恐らく彼がいるままでは成し得ない。
クックルには、よくわからないが何かとてつもなく大きなものを感じるのだ。
彼がチームを率いていれば、そのチームはどんどん強くなっていけるような……。そんな曖昧なものだけれど、
確実なもの。


( ´∀`)(あ、第3クォーター始まったモナ)


試合は折り返し、後半へと突入していった。が、点差はまったく縮まることなく、むしろ勢いに乗った相手チームに完全


試合の主導権を握られ、5分が経過する頃には点差は30近くになってしまっていた。


( ´∀`)(あーあ、こりゃ負けモナね…。せっかく観に来れたんだから勝ち試合が観たかったモナ…)


その時だった。







( ´∀`)(メンバーチェンジ…。あ、5人全員代えるモナか。負け試合ってわかってても出てみたいモナ…)


( ´∀`)「……って、あれ?」



( ゚∋゚)



スターター5人に代わり、コートに出てきたのは、控えのBチームですらない選手たち。
言うなれば完全なる敗戦処理班。その中に……クックルは、いた。








その後の試合は凄惨たるものだった。チーム内でも高い実力を持つであろうスターティングメンバーでさえまったく
歯が立たなかったのだ。それよりもさらに実力的に劣り、さらに練習中でのゲーム練習の機会すらまともに与えられぬ

彼らに
そんな相手に立ち向かえるわけがなかった。

だが。


「く…クックルっ!!」


それでも。


――ビッ……ばしっ


彼は。



( ゚∋゚)「……っ!!」


痛む体に顔をしかめながら。





――ダムッ!


全力で戦っていた。



――バスッ


「な…ナイッシュー、クックル!」


( ゚∋゚)「………」


片方の手で腰をおさえながら、もう片方の手で無言でパサーとハイタッチを交わすクックル。
ひたすらに寡黙で、それでいて全力で前向きで。
そのひたすらに力強いプレーは、コート上で誰よりも輝いていた。
試合の勝ち負けなんてもの、もはやどうでもよくなり、僕はひたすらにクックルの姿を観客席から追い続けた。



―――――――




この試合を最後に、クックルはVIP第二中学から姿を消した。
さいたま県かどこだったか、とにかくニュー速県からは遠く離れている。
彼がいなくなってからも、VIP第二中学は強豪と呼ばれ続けたが、頂点に立つことはなかった。
もしも、万全な状態でのクックルがいれば…なんてことも考える。しかし、それも今となっては意味のないことだ。
過去の「もしも」にすがっても意味なんてないからだ。残念ではあるけどね。

たった一言しか会話を交わさなかったけれど、僕はあの試合で君のすべてを理解できた気がするよ。
そして、僕のこともキミに理解してもらいたい、と思ってる。

クックル君。キミは今もバスケットを続けているのかい?
僕は続けているよ。最高の仲間たちと、最高のチームで、最高のバスケットを。

クックル君。僕は君にもう一度会いたい。
僕に情熱を与えてくれたキミに。
キミは僕のことなんかおぼえちゃいないだろうけど、キミのおかげで僕は変われた気がするんだ。

僕はバスケットを続けるよ。キミに会える気がするから。
バスケットという名の絆が、いつか僕らを再びで合わせてくれる気がするから。
不思議なことだけど、そう信じられるんだ。



―――――――




―――――――



…そういえば。

僕がVIP高校でバスケ部に入部するかどうか迷っていたときに、ドクオ君が優しく手を差し伸べてくれた。
僕は、彼にクックル君と同じものを感じたんだ。一緒にいて安心できるような…心が温かくなるような、
不思議な感じだった。


――このチームは今以上に強くなる。絶対に。




( ´∀`)「あ、肉まん冷めた」






( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです



Side Story 〜絆・後編〜  おしまい




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