ハインが死んだ?


ははっ…悪い冗談はよしてくれ。いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるよ……


ねぇ…お願いだ。嘘でもいい。だから……








  
( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです

Side Story 〜his way 後編〜









全てを失った気がした。
試合会場へ向かう飛行機の墜落事故。彼女は…ハインは試合会場に到着する事すらできずに
その短い生涯を終えたんだ。

今でも思う時があるよ。

どうして素直に試合を観せてやらなかったのだろう、ハインが死んだのは僕のせいじゃないか、
ってね。ハインが死んでからしばらくの間僕はずっとそうやって自分を責めていたんだ。


だけど……今は違うよ。彼女の分も生きてやる。最後まで精一杯生きて、死ぬときは笑って
死んで、そしてあの世で待ってる彼女にたくさんの土産話を持っていこう、ってね。




僕は荒れた。無気力になることは出来なかった。
何も考えないようにしようとしても、頭の中から追い出すには『それ』はあまりに
大きすぎたから。学校にも行かず、孤児院にも戻らず、まるで野良猫のような生活を
送る日々が続いた。いつ起きていていつ眠っていたのかも覚えていない。
ただひたすらに、暴力でそれを忘れようとしていた。

(´ ω `)「………」

ドンッ

チンピラ「ってぇなクルァ!!どこ見てんだクルァ!!おいニーチャン、待てや」
(´ ω `)「………」
チンピラ「おい、テメェだよショボクレ眉g……!?」

ドカッ!!

チンピラ「おえっ……」


兄貴直伝の護身術。本来の目的とは遠くかけ離れている。
護身術に限らず格闘技は人を傷つけるためにあるんじゃない。だけど僕には…

どうしようもなかった。




僕の当身で体制の崩れたチンピラ風の男に足払いをかけて空中に浮かんだ男の顔面を掴んで
アスファルトの地面に容赦なく叩きつける。渋川先生も真っ青さ。
鈍い音と叫び声ともうめき声ともつかない男の声が一瞬だけ漏れ、それきり男は沈黙する。
僕は手早くその男を路地裏へ連れ込み、拾ったロープで縛り付ける。
そして男が目を覚ますのを見計らって暴力の限りを尽くす。

今思えば殺してしまっていても不思議ではなかったと思う。

チンピラ「す…すいませ…もう…やめ……」


从 ゚∀从『決定!!!今日は『アナル記念日』!!!オラァケツ出せー!!』

(´ ω `)「ハイン………」

不意に彼女と過ごした最後の冬の記憶が蘇る。
あれは僕と彼女がすごした中で僕が一番笑ったギャグだった。
メロン記念日をもじってるんだ。……プクスw

不意に僕は男の尻を持ち上げ、ズボンを脱がし、パンツまでも下げる。

汚い。

(´ ω `)『(だけど……ハイン……)』
チンピラ「ひ…ひ…マジかよやめ……」


             「アッー」




ただひたすらに彼女の幻を追った。
それが無駄だということを理解していても、僕にはそうすることしかできなかった。
そうしていたら、ひょっとして電柱の影から「ドッキリでした!見事にひっかかったな!」
…っていつものハイテンションでひょっこり出てきてけらけら笑ってるんじゃないか、
って…そう、思ってたんだ。



(`・ω・´)「ショボっ!!」

彼女が死んでからどれだけの時間が流れていたのかは覚えていない。
あの時の僕にはそんなことどうでもいいように思えたんだ。そしてこの時兄貴が
廃人のような僕を見つけだしてくれた時、根拠は全く無かったけれど
「ハインはやっぱり生きてたんだ」って思った。




なすがままに兄貴に手を引っ張られていると見慣れた風景が目につくようになってきた。
角を何回も曲がって、やがて浮かれ気分でこの道を歩いていたことを思い出した。
そして到着した場所は彼女の家だった。

なぁんだ、やっぱりドッキリだったのか。ホントに手の込んだタチの悪いドッキリだったよ。
大方、本気にした僕を兄貴が必死に捜し回ってたんだろう。そう思っていた。
黒く縁取られた四角い枠の中で無邪気な笑顔を保ったままの彼女を見るまでは。

(´・ω・`)「……なに…これ…」
(`・ω・´)「…線香、まだあげてなかったろ?」
(´・ω・`)「なんで線香なんか…」
(`・ω・´)「いい加減にしろ、ショボっ!!ハインは……もういないんだ!」
(´;ω;`)「な…何を言ってるのシャキ兄ぃ…違うよ…ハインは…」
(`・ω・´)「お前のためだ!何度だって言ってやる!ハインは死んだんだ!
      もう戻ってきやしないんだよ!!」

激昂する兄貴を見て僕は認識した。



「…もう会えないのか…」って。





それから何時間泣いたかわからない。
彼女のお母さんやお父さんのいる前で僕は泣き続けた。
なんとか彼女が死んだということを受け入れて、おぼつかない手つきで線香に火をつけた。


(`・ω・´)「…ショボ、お前これからどうするつもりだ?」
(´・ω・`)「死ぬよ」
(` ω ´)「…………………」

(` ω ´)「それで…どうするんだ」
(´・ω・`)「ハインのとこに行く」


その瞬間、僕の顔に凄まじい衝撃が走り、僕の体は宙を浮き、物理法則に則って落下した。



兄貴に殴られた。



今日この日まで、兄貴に殴られたのはこれが最初で最後だっただろうな。
中学の頃DQNたちに向けていた鋭い眼光。ずっと僕を守ってきてくれた傷だらけの拳。
それが――僕に向けられていた。




(`・ω・´)「それでハインが喜ぶとでも思ってるのか!」
(´;ω;`)「……………」
从 'ー`从「シャキン君…大丈夫。大丈夫だから…落ち着いて」

ママンリッヒ高岡さん。彼女のお母さんで、彼女とは対照的で物静かな、あまり
自分の意見を言わない人だった。

从 'ー`从「ショボン君、辛いだろうけど…聞いて」

从 'ー`从「ハインはね、あなたのことが本当に好きだったの」

从 'ー`从「学校から帰ってきたらショボン君の話ばっかりしてたのよ、あの子」

从 'ー`从「今日は二人でウノをした、明日はツイスター持ってくんだ…本当に
     楽しそうに笑ってあなたの話をするの。それでハインがあなたと付き合うことを
     決めたって聞いた時…私も嬉しかったの」

从 'ー`从「ハインはさ、元気すぎて男の子からは敬遠されがちでしょ?深い付き合いを
     する友達も多くはなかったの。それは短所なのかもしれない。だけど同時に
     長所でもある。それを見抜いてくれる人がいてくれてよかった…って」

从 'ー`从「あなたが初めて家に来たとき一瞬でわかったわ。ハインにぴったりの人だ、って」

从 'ー`从「…少し喋りすぎちゃったかもね。だけどね、ショボン君。これだけは忘れないで」


      「あなたは、一人じゃない」




从 'ー`从「ハインは…もう戻ってこないわ。辛いけれど、それが事実」

从 'ー`从「だけどハインは私の中にも…あなたの中にもいる。そしていつものように笑ってる。
     ……そうじゃないかしら?」

(´・ω・`)「…………」

从 'ー`从「だから自分を責めないで。自分を傷つけたりしないで。ハインが生きた証は
     あなたの心にも刻まれているはず。…それを踏みにじるような真似はしないであげて」

(`・ω・´)「ショボ……強くなるんだ」

(´・ω・`)「僕は…どうすればいいんでしょうか。もし僕がハインを試合に呼んだりしなかったら、
      もし僕が…バスケなんてしていなかったら、ハインはまだ生きていたんじゃないでしょうか」

从 'ー`从「………」

(`・ω・´)「それは違うよ、ショボ」

(´・ω・`)「シャキ兄ぃ…」




(`・ω・´)「そんな考えは間違ってる。現実と向き合うことから逃げちゃ駄目なんだ。
     前に進み続けろ。たとえどんなに辛かったとしても…な。ハインはきっと
     そんな結末を望んでいない」

(´;ω;`)「僕は…バスケをしても……いいの?ハインのために…生きていいの?」




僕は決心したよ。ハインを失った事は辛かった。その気持ちは今でも変わらない。
だけど天国のハインに愛想をつかされたりすることのないように、一歩ずつ
自分の道を進もうと思った。
僕の人生という名の道の終着点。そのゴールで彼女が寝そべってマンガでも
読んで待ってくれている事を信じて。




(`・ω・´)「……ワンモア、プリーズ」
(´・ω・`)「日本代表の合宿に呼ばれた」
(`・ω・´)「まじ?」
(´・ω・`)「まじ。」


信じられなかったな、あの時は。
インターハイでは結局2回戦敗退だったけど、僕たちのことをちゃんと見てくれている人がいた。
それもかの有名な荒巻さんから。荒巻さんは現役の頃、高校時代こそ下火でくすぶっていたものの
大学に入ってからめきめきとその頭角を現し、あっという間に日本代表入りを果たし、
日本のバスケットボール界をにぎわした一人だった。そんな荒巻さんは、当時日本代表の監督として
その手腕を存分に発揮していた。まさかそんな人からお呼びがかかるとは思ってもいなかったんだ。




(`・ω・´)「しかしいつの間に……」
(´・ω・`)「昨日、孤児院にわざわざ尋ねて来てくれたんだ、荒巻さんが」
(`・ω・´)「っな…なんでそんな事になってたのに呼んでくれなかったんだ!!」
(´・ω・`)「だって昨日シャキ兄ぃはエイちゃん家泊まりに行ってたでしょ?邪魔しちゃ悪いと
      思ってさ」
(`・ω・´)「な…あんなC級女より荒巻さんの方が大事に決まっているだろう!!」
(´・ω・`)「サインもらっちゃったよ」
(`・ω・´)「ぬあああぁぁ!!よこせぇぇ!!」
(´・ω・`)「コンビニでコピーしてきてあげるよ」
(`・ω・´)「まぁ妥協しよう」





それからの日々はあっという間に過ぎ、日本を出発する日がやってきた。
行き先はアメリカ。合宿では3週間の間、アメリカの代表チームとの合同練習や親善試合を経て、
総合的に判断した上で日本代表のメンバーを決める、というものだった。
つまり、今回の合宿に呼ばれたメンバー全てが日本代表に選ばれるわけではない。

とにかく願ってもいないチャンス。どんどんアピールして代表に選ばれてやる。そう決心した。

だけど現実は甘くなかった。

初めて踏むアメリカの大地。それは意外とあっけないものでやっぱり同じ地球の地面だからか、
などとスケールの大きな事を考えたりした。そして合宿会場に着いたとき、レベルの違いというものを
痛感した。身長は190cmあるのが当たり前、と言わんばかりに大きな選手が揃い、ガードの選手も
センタープレーヤー並に体を鍛えこんでいる。それでいて…速い。

合同練習でそれを体験した。軽いルーズボール争いになったとき、絶対に「とった!!」と思った
タイミングだと思っていたのに気付いたら競り負けている。そしてそこにあるのは無様に
尻餅をついてアメリカの選手を見上げている僕の姿。だけど挫けなかった。
絶対に代表メンバーに残ってみせる。その思いだけで、必死に頑張った。
何度吹っ飛ばされても、何度止められても、僕は前を向き続けた。








そして合宿最終日の親善試合のとき、『それ』は起こってしまった。







最終日の親善試合を行うまでも練習ゲームの形でゲーム形式の練習は行っていた。
だけど僕も兄貴もそれに参加させてもらうことは出来なかった。まあ僕たちよりもずっと
上手い選手達でも歯が立たなかったんだから仕方なかったんだろうね。だけど
最終日を翌日に控えた夜、荒巻さんが僕と兄貴の部屋を訪れてこう言ってくれた。

「最終日だし一度だけチャンスを上げよう。とにかく楽しんでこい!」

…って。僕と兄貴は手を取り合って喜んだ。あ、兄貴はそのときにサイン貰ってたな。
その夜は興奮していたにも拘らずぐっすりと眠れた。
そして翌朝目覚めた時、何だか体が重いような気がした。兄貴も何だか体調不良を訴えていた。
だけどそのときは慣れない環境でのハードなスケジュールが体にこたえているんだろう、と
思って気にしない事にした。何より折角つかんだチャンスを体調不良なんかでみすみす
逃したくなかったから。

そして僕と兄貴がスターティングに抜擢されて親善試合は始まった。
ミスは恐れない。僕たちがアメリカの選手にはるかに劣っているであろう事はわかっていた。
だからこそ自分達に出来ることを確実にこなす。体格差は歴然だったけど僕たち二人の動きは
アメリカの選手相手にもなんとか通用していた。


そして『それ』は起こった。




(;´・ω・)「(まだ5分位しか経ってないのに…なんでこんなに息切れが…?)」
(;`・ω・)「(なんだこの息苦しさは…緊張しているのか…?)」


コートの両サイドに位置する僕たちが同時にリングへ向かって駆け出そうとしたそのときだった。


(;´・ω・)「うっ……」(・ω・´;)


僕にはそれからしばらくの間の記憶がない。気付いたら病院のベッドの上だった。
それから少しして、僕と兄貴は試合中に心臓の発作を起こして倒れたということを知った。
それも……二人同時に。

発作は急性のものだったらしく再発の可能性は低いと言われた。
だけどどうにも腑に落ちない事があったんだ。
そう、「また二人同時に同じことをした」んだよね。





お医者さんにそのことを話すと(通訳越しに)、お医者さんはある興味深い症例を話してくれた。

ある所に、生まれてすぐ生き別れとなった双子の兄弟がいた。その兄弟はもの心つく前に
引き離されてしまったためお互いの顔を知らず、もちろん自分に兄弟がいることなど知らない。
だけど…その二人には共通する部分が数多くあった。

同じ香水を愛用したり、お気に入りの酒や煙草の銘柄も同じ、子供に全く同じ名前をつけ、
同じ名前の人と結婚して、離婚して、再婚する。同じような間取りの家を建てたり…。
まるで一人の人間が一つの意思を共有して分裂したかのような現象が数多く起こるらしい。

また、こんなケースもあるそうだ。
ある所に幼い頃生き別れた双子の兄弟のAとBがいたとする。
その二人は上述したように離れた場所にいても同じような行動を取っていた。
そしてあるときAがケガをした。Bはケガをしていない。だけどBの体にはAがケガをした
箇所と同じ場所にAと同じ傷跡が発生した……らしい。

色々と話が飛躍してしまっているからどれが本当のことでどれが嘘なのかはわからない。
だけどそれらの全てに共通する事が一つある。

それはその双子が一卵性双生児だということ。




僕も兄貴も自分達の生まれたときの事なんて知らなかったから自分達が一卵性双生児だなんて
思いもよらなかった。だけどこれまで起こっていた不思議な現象の全てが一卵性双生児の一言で
解決する。定期テスト事件も、携帯電話が繋がらない事も、ね。


まあ正直そんな事はどうでもいいのかもね。自分で言っておいて申し訳ないけど。
だってそれが原因で兄貴との関係が壊れるわけでもないし、逆に以前よりもさらに
仲がよくなったくらいなんだから。


用心のために僕も兄貴も検査入院をする事になった。だけど発作の原因は全く不明。
首を傾げる僕らの病室に荒巻さんが訪れた。

「万が一もある。残念だがプレーヤーの道は諦めなさい」

目の前が真っ暗になった。憧れていた人にこんな事をいわれてしまったのだから
当然だよね。もちろん引き下がるわけにも行かず、僕たちは必死に反論した。
すると荒巻さんはやれやれ、といって自身の過去を話してくれた。




荒巻さんも選手としての道を諦めた人だったそうだ。
幼い孫と買い物に行ってバスケットボールを買ってやり、その帰り道。
荒巻さんのお孫さんがボールを買ってもらった嬉しさからか帰り道の歩道でそのボールを
使ってドリブルしながら家路についていた。
しかし地面に落ちていた石にボールが当たりボールは予期せぬ方向へ。
その行き先は車道。荒巻さんのお孫さんはそれが危険だなんて考えもせずに車道に出てボールを追う。
そこに一台の車が猛烈なスピードで迫ってきた。
荒巻さんは無我夢中で飛び出してお孫さんをかばって…一生走ることのできない脚となった。
だけど大好きなバスケットボールを諦める事なんて出来ず、何かないかと必死に考えた末に
見出したのが指導者そしての道だったそうだ。

その話のあと荒巻さんはこういった。

「君達は目の前の道しか見えていないんじゃ。周りを見渡しているといい。
 道なんていくらでもある」

って。








それから数ヶ月経ったあと、僕たちは全く同じタイミングでこの言葉を口にした。



          「「バスケの指導者になろうと思う」」








……僕の話はここまでさ。長々と付き合ってくれてありがとう。
僕はちょっと今から出かける場所があるから失礼するよ。…え?どこへ行くんだって?



決まってるじゃないか、体育館だよ。僕の大事な仲間たちが待っているからね。




( ^ω^)ブーンが高校バスケで日本一を目指すようです

Side Story〜his way 後編〜   終




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