プロローグ



季節は春。

桜の花も満開とはいかないものの咲き乱れ、
冬という厳しい季節を過ごしてきた小鳥たちがうれしそうに歌いだす春。

日差しは穏やかで、すべての生命が喜びにあふれ、
彼らが奏でる命の躍動が世界の下で調和し、美しいシンフォニーを奏でる、
根暗な作者にとってはなんだか少しむかつく春。

そんなうららかな春の陽気の中で、ブーンこと内藤ホライズンは今日も健康的に
昼真っから部屋でゴロゴロ、テレビを観賞していた。



  
( ´ω`)「あー、つまんないお。春休みはなにもすることがないお」

( ^ω^)「だがそれがいい!」


つまんないと言いつつ、だがそれがいいとわけのわからないことを申すこの男。
頭の中は大丈夫なのだろうか?
そうこうしている内に、彼はリモコンを手にテレビ番組をザッピングしだした。
一通りすべての局の番組を覗き終えると、リモコンを床に置いた。


( ´ω`)「やっぱりつまんないお」


結局つまらないという結論に達したブーンは、
座布団を枕代わりに床にゴロリと寝転がり、天井を見上げた。



  
( ´ω`)「……」


築20年の借家の痛んできた天井を見つめながら彼は思った。


( ´ω`)「(今の僕も、春休みの昼間のテレビのようにつまらないお。
      でも、そんなはずはないお。僕はそんなつまらない人間なはずがないお…)」


根拠も無しに自分をつまらない人間ではないと言い切る彼は
どう見ても典型的な中二病患者である。
大人帝国の野原ひろしの回想シーンを見てからそんなことは言ってもらいたい。

しかし、彼の今までの人生を振り返ると、
自分がつまらない人間ではないという根拠が無いわけではない。



  
内藤ホライズンは小学生までは明るく楽しい、クラスの中心人物だった。

野山を駆け回り秘密基地を作ったり、
美人の幼馴染のスカートをめくったり、
授業中に平気でちんちんを出したり、
道路を走る車に真っ向勝負を挑んで全治二ヶ月の重傷を負ったりと、
それはそれは明るく楽しい、ちょっと頭の足りないお子様だった。

しかし、そんな彼に転機が訪れたのは中学校に入学する直前だった。


( ^ω^)「僕にはきっと隠された力があるんだお!」


何かの漫画に影響でも受けたのであろう。
彼は自分に漫画の主人公のような特別な力があると信じ、
今までとは一転して、クールで神秘的な(少なくともブーンはそう思っていた)中学生を演じだした。

つまり、中二病を発症したのである。



  
しかし当たり前だが彼にそんな力などあるはずもなく、
彼は部活も何もやらない怠惰な、漫画のような出来事を待つだけの中学生活をすごした。

ここまでくるとさすがにおかしいと感じだした内藤ホライズンは
高校では心機一転、原点回帰、
小学生の頃のような本来の自分に戻ろうとした。

しかし、中学三年間のブランクは大きく、
思うように昔の自分に戻れないまま一年が過ぎ、
高校二年生を目前とした春休み、つまり今に至る、というわけだ。


( ´ω`)「(僕には何か足りない……でも、それがわからないお)」


お前に足らないのは頭だ。
そんなつっこみを入れたくなるのが、彼の人生である。



  
さて、その日の夕方。
ブーンは夕食を食べながらサザエさんを見ていた。


( ´ω`)「あー、つまんないお」


何をしてもつまらない。
そんな時期が誰にでもあるだろう。

そんな風にしてぼんやりとサザエさんを眺めていると、
次回予告でブーンの目が見開かれた。



  
サザエ「さーて、来週のサザエさんは?」

アナゴ「ぶるぁぁぁぁぁ!
   アナゴです。先日、孫御飯にボコボコにされた私は
   地球を道連れにしようと思い自爆体制に入ったんだ。
   すると孫悟空が瞬間移動で私を連れ去り、私の陰謀は界王星とともに散った。
   来週のサザエさんは、
   
   『イクラ&ノリスケ、究極の親子かめはめ波』
   『中島、そんなことより野球しようぜ!』
   『波平、アフロにする』
    
   の三本だ!」



  
( ´ω`)「アフロ……」


       |
   \  __  /
   _ (m) _ピコーン
      |ミ|
    /  `´  \
     (^ω^)   <そうだお!これだお!
     ノヽノヽ
       くく



ブーンは洗面台の鏡のもとへと走り、自分の姿を見た。

今年になってからいつか切りに行こうと思いつつ結局行かなかった結果、
伸びに伸びまくった長すぎる髪が、今の彼にはいとおしかった。


( ^ω^)「これならアフロにできるお!」



  
翌日、カーちゃんにもらった散発代となけなしの貯金を手に、
ブーンは美容室へと来ていた。


美容師「サーセンwwwwwすげー長い髪っすねwwwwwww」

( ^ω^)「黙れ小僧」

美容師「サーセンwwwww今日はどんな髪型にしますwwwwww」


ブーンは美容師のほうを振り返り、言った。


( ^ω^)b「アフロにしてくれお!」

美容師「超ファンキーっすねwwwwwwww」



  
数時間後。



( ´ω`)zzZ「……違います……僕はオダギリジョーではありませんお……」

美容師「サーセンwwww起きてくださいwwwwwできたっすよwwwwwww」


ブーンは心地よい眠りから目を覚ますと、
目の前に置かれた鏡の中の自分の姿に唖然とした。、

そこには、信じられないほどファンキーな姿の自分が映っていた。



  



       ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
      (::::::::::::::::::::::::::::) 
      (::::::::::::::人:::::::::ノ 
      (:::: (^ω^):::::: )  < お?
        <ヽ ノ┘
         ||
         ┛┗



  

  
 
       ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
      (::::::::::::::::::::::::::::) 
      (::::::::::::::人:::::::::ノ 
      (:::: (^ω^)ノ::: )  < おお!
        <ヽ ノへ
        ┏┘   `┛



  



        ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
       (::::::::::::::::::::::::::::) 
       (:::ヽ:::::::人::::::::::ノ 
       (:::: (^ω^):::::: )  < アフロックマンだお!
        ┗-ヽ ○
          ┏┘



  



            ◎
    
         ◎     ◎
            ◎
     ◎    ◎  ◎    ◎ < アッ――!
            ◎
       ◎     

            ◎
   
      ティウンティウンティウン



   ブーンがアフロにしたようです ―完―



  



        ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
       (::::::::::::::::::::::::::::) 
       (::: ┐:::人:::::::::::::::ノ 
       (:::: (^ω^)┐:::::: )  < 嘘だお〜ん!
          ヽ ノ 
         ┏┘└┓



  
( ^ω^)「すごいお!超ファンキーだお!」

美容師「サーセンwwwwマジ似合ってるっすよwwwww」


美容室内にもかかわらず、ブーンはポーズを取りまくった。
周囲の視線もなんのその。
ブーンは、あまりにもファンキーな自分の姿に興奮していた。


( ^ω^)「僕に足りないのはこれだったんだお!」


いや、お前に足りないのは頭だ。脳みそだ。
そんな作者のつっこみもむなしく、ブーンはひたすらにポーズを取りまくった。



  
美容師「サーセンwwww400円のお釣りですwwwwwありやしたwwwwww」


美容師の調子のいい声に見送られて、ブーンは美容室を後にした。

外は、まばゆいばかりの日差しに、どこまでも広がっている青い空。
小鳥たちは歌い、河川敷に植えられた草木は青々としている。

まるで、すべての命がブーンのアフロをたたえているかのようだ。


( ^ω^)「明日の始業式が楽しみだお!」


「明日が楽しみだ」なんて思うのは何年ぶりだろうか?
ブーンはうれしさのあまりに飛び上がった。

もさもさのブーンのアフロへアーが、上下に「ボイン」と揺れた。


プロローグ おしまい


  
  第一話


全国的に朝です。

春の朝はさわやかで、春休み明けとあいまってとっても眠い。
「春眠、暁を覚えず」とはよく言ったものだ。
そんなことを考えながら洗面台でいそいそと髪型を整える女の子が一人。

鏡の前でクルクルと天然の猫っ毛を器用に巻いた彼女は、


ξ゚听)ξ「よし!」


と納得の言ったような声をあげると、そのまま玄関へと向かう。



  
彼女の名は津出 麗羅(つで れいら)。
高校2年生。通称、ツンである。

なぜそう呼ばれるようになったかは今となってはもう覚えていないが、
大方、アホな幼馴染がそう呼び出したのであろう。

しかし、そんなヘンテコなあだ名とは裏腹に彼女は美しかった。

クルクルと巻かれた、西洋のお姫様のような髪。
むしゃぶりつきたくなるような白い肌に、淡い茶色のその髪がよく映える。

目はパッチリとしていて、不釣合いにすこし釣りあがっているところがこれまたかわいらしい。
鼻筋は通っており、武道で鍛えた身体はすらりとしていて無駄な脂肪が無い。

そして何より背が小さい。
150p未満のその背丈に以上のような容姿があいまって、
それはもう、頭をなでなでしたくなるほど可愛らしい。

しかも、彼女はそんな自分の魅力に気づいていないというおまけ付だ。

こんな女の子は、現実世界には存在しない。するはずが無い。
全くもって漫画向けのキャラクターである。

現実世界に存在するのであれば、是非作者にご一報願いたい。



  
彼女は玄関で、今ではすっかり履きなれた皮靴履いて、
つま先でトントンと地面を鳴らす。


ξ゚听)ξ「(あのバカは今日も寝坊なんだろうな。
     また外で待たなきゃいけないのか)」


そんな不満を口にしつつ、彼女の顔はなんだかうれしそうだ。
目の前の扉を開ければ、そこから見えるのはちょっとくたびれてきた借家。
ツンの家の前の道路を挟んで向かい合わせにあるその家は、彼女の幼馴染の家だった。


ξ゚听)ξ「(遅刻を理由に殴ってやろう。
     春休みは全然殴れなかったからな〜)」


そんな物騒なことを考えながら、彼女は自分の家の玄関を開けた。
誰もいるはずが無いと思ったその先には、予想だにしない人物の姿があった。



  



       ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
      (:::::::::::::::::::::::::::) 
      (:::::ヽ:::::::人:::::::::ノ 
      (:::: (^ω^)┐:::: )  < グッモーニン!ツン!
         ヽ ノ 
         <  \
     
        ババ――ン



  
ξ゚听)ξ「……」


目の前の光景に、彼女は石像のように固まった。
とりあえず、現状を把握してみる。


目の前には巨大なマリモ。
そのマリモが自分に向かってしゃべっている。


以上、現状把握終了。


( ^ω^)「ヘイベイべー! どうして黙っているんだおチェケラー!」



  
 
                                       ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
                                     (::::::::::::::::::::::::::::) 
                                   (::::::::::::::人:::::::::ノ                                 
             _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ '     (:::: (  ^ω):::::: )
         ξ, -'' ̄    __――=', ・,‘ r⌒>  _/ /
        /   -―  ̄ ̄   ̄"'" .   ’ | y'⌒  ⌒i
       /   ノ                 |  /  ノ |
      /  , イ )                 , ー'  /´ヾ_ノ
      /   _, \               / ,  ノ
      |  / \  `、            / / /
      j  /  ヽ  |           / / ,'
    / ノ   {  |          /  /|  |
   / /     | (_         !、_/ /   〉
  `、_〉      ー‐‐`            |_/


とりあえず、殴っておいた。



  
(#)ω^)「オーイェー!ツンのパンチはデストローイ!」

ξ゚听)ξ「そのしゃべり方やめなさい!」


そう言って、もう一発殴る彼女。

そんな二人は、学校に向けて登校する途中の駅のホームにいる。
周囲の学生や社会人、皆がブーンのアフロを注視している。

周囲の視線にさらされ、ブーンはとってもうれしそうだ。



  
( ^ω^)「おっおっお。みんな僕を見ているお」

ξ゚听)ξ「当たり前よ!あーも、こっちまで恥ずかしいじゃない!
   だいたい何よ、その頭! 妖怪黒マーリモが襲来したかと思ったじゃない!」

( ^ω^)「イメチェンだお、イメチェン。今日から俺は!ってやつだお」

ξ゚听)ξ「そんな頭、学校が認めないわよ!」

( ^ω^)「気にしなーい、だお♪」


そう言って、ブーンは駅のホームでコロコロとポーズを変える。
そんな彼に、ノリのよい一部の人間が拍手を送っている。

ツンは少し離れたところからお調子者の幼馴染を冷めた目で眺めながらも、
中学生くらいからおかしくなった幼馴染が
昔のような性格を取り戻しつつあることを少し嬉しく思った。




男「お、須名さんだぜ! やっぱり美人だよなー」

女「お姉さまになってほしいわ〜」

男「でも彼女、近寄りにくいんだよなー」



  
腰まで伸びた長いまっすぐな黒髪をなびかせながら、
指定された教室へと向かう一人の女性。

スラリとした、女性にしては高めの身長。
すこし細めではあるが見るものを魅了する漆黒の瞳に、筋の通った高い鼻。

スーツを着込めばやり手の美人OLに見えるクールな容姿の彼女は、
教室までの道のりを、周囲の人間の視線を集めながら進んだ。



  
教室の扉に細くきれいな指をかけ、彼女は教室に入る。

その教室内にいた人物の姿に、
普段めったに表情を表さない彼女でも驚きを隠せなかった。



  



         ,.:::.⌒⌒:::::ヽ 
        (::::::::::::::::::::::::::::) 
        (::::::::::::::人:::::::::ノ 
       (┌- (^ω^)-┐: )  < パラグライダー!
         ┗-ヽ ノ-┛

         ドド――ン



  

川 ゚ -゚)「……最高にファンキーだ」


彼女は小声でそうつぶやいた。

須名 空(すな くう)。
高校二年の春であった。



教室内のいたるところから浴びせられる視線に、ブーンはご満悦だった。


( ^ω^)「(これだお!僕が求めていたのはこの視線だお!)」


半ば変態じみたことを考えながらも、ブーンの股間は興奮でもっこりだ。
周囲の視線に負けじと、ブーンもあたりを見渡す。

すると嬉しいことに、憧れのあの人が自分を見つめていた。


川 ゚ -゚)「……」



  
彼女の視線に、ブーンの股間はもっこり富士山。
ボルケーノ!ボルケーノ!


( ^ω^)「(アフロにしてよかったお……)」


内藤ホライズン。
高校2年の春であった。



  
そんな喜びの最中、都合よく隣の席になったツンが話しかけてくる。


ξ゚听)ξ「あんたねー、そんな髪してたらすぐに停学よ?
    高校ナメんじゃないわよ? 義務教育とは違うんだから」

( ^ω^)「アフロに不可能は無いお!」

ξ゚听)ξ「……もういいわ」


そういって彼女は頭を抱えた。
バカな幼馴染を持つと、苦労がたえないようである。



  
そうこうしていると、教室に担任の教師が入ってきた。
担任はブーンの姿を見ると、血相を変えてこちらへ駆け出してきた。


ξ゚听)ξ「(ほらね…あたし、しーらないっと)」


担任はブーンの席の前に立つと、ブーンの机を両手で「バンッ!」と鳴らした。


( ´∀`)「おい!内藤!」

(;^ω^)「は、はいですお!」









( ´∀`)b「お前……最高にクールだモナ!」



  
( ^ω^)b「ですよねー」


担任はブーンに向けて親指を立てた。
ブーンもそれに応じ、親指を立てる。


ξ゚听)ξ「ちょっと待って下さい!」

( ´∀`)「何だモナ? 巻き糞少女」

ξ゚听)ξ「……こんな髪型、許されるんですか!?」


担任のソフトバンクもびっくりな予想外の行動に、
ツンは思わず食って掛かった。

すると担任はあきれたようにため息を「ふぅ」と吐き、
一番前に用意された教卓に向かい、ツンに席に座るように促す。

教卓から教室中の唖然とした表情の生徒を見渡し、担任は話を始める。



  
( ´∀`)「巻き糞、君は何にもわかっていないモナ」

ξ゚听)ξ「何がですか!」

( ´∀`)「生徒手帳は持っているかモナ?」

ξ゚听)ξ「……忘れました」

川 ゚ -゚)ノ「先生。せんえつながら私が」


ここぞとばかりに無表情にクーが手を上げる。



  
( ´∀`)「うむ。なら生徒手帳の20ページ、VIP高校校則第18条を読むモナ」

川 ゚ -゚)「『第18条:半年後、そこには元気になったジェニファーの姿が…』」

( ´∀`)「あ、ごめん。その下だモナ」

川 ゚ -゚)「『第19条:VIP高校の生徒たるもの、常にクオリティが高くなければならない』」

( ´∀`)「と、いうわけだモナ。
     みんなも内藤を見習ってクオリティの高い人間になること。以上だモナ」



  
( ^ω^)「わーい、褒められちゃったおー」

ξ゚听)ξ「……」


しきりにはしゃぐブーンの隣で、ツンは再び頭を抱えている。
そんなブーンの姿を後ろからにらみつける男がいたことに、ブーンは気づいていなかった。


('A`)「……」



  
何事もなく一日は過ぎた。
放課後、ブーンが意気揚々と帰り支度をしていると、思わぬ人物から声をかけられた。


( ><)「やい!内藤!待つんです!」

(;^ω^)「わ、わかんないです君……」


わかんないです。
時代遅れのリーゼントヘアの彼は、VIP高校史上最強の不良と呼ばれる男の子分である。


( ><)「ドクオさんが今から屋上に来いといっているんです!
     お前の人生も今日でおしまいなんです!」

(;^ω^)「ド、ドクオさんが……」


こんな目立つ髪形にすれば、不良に目をつけられるのも当然である。
ブーンは初めて、アフロにしたことを後悔した。


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