プロローグ
カーテンの隙間から差し込む朝の日差しが、ベッドに横たわる少年の顔を照らした。
日の光を受けて、少年はまぶしいのだろうか、閉じたまぶたを更に強く閉じる。
それでも差し込む日差しのまぶしさを防ぎきれなかった彼は、
体にかけられたタオルケットを顔の辺りまで深くかけなおし、寝返りをうって朝日に背を向けた。
睡眠を妨げる障害を取り除き、「これでゆっくり眠れる」と思ったその矢先、
今度は彼の眠る部屋の外で、ドタバタと誰かが行きかう音がし始める。
「……朝っぱらからうるさいお」
そんなことをつぶやきながら、その音から逃げるかのように
少年はタオルケットの中に頭までもぐりこみ、体を縮こまらせた。
だけど、そうしたところで鳴り響く音からは逃れられるはずがなかった。
彼は完全な眠りに落ちることもままならず、
覚醒と睡眠の間のまどろみの中を行き来していた。
そんな時間をしばし堪能していると、「ガチャリ」と部屋の扉が開く音がした。
まどろみの中にいる彼には、その音が現実の音なのか幻聴なのか判別できない。
結局、まどろみの心地よさにその音を無視して、彼はまぶたを開かない。
それからしばらく何も音がしないので、
きっとさっきの音は幻聴なのだろうと確信した彼はそのまま眠りの底へと落ちようとした。
しかし結局、それが適うことはなかった。
「朝だぞ―――!!」
耳元で甲高い声が響く。
それと同時に「ガンガン!」と金属を金属で叩き鳴らす音が頭の中をかき乱し、
一瞬のうちにまどろみの中から引き釣り出された彼は、驚いてベッドの上から転げ落ちた。
「グッモーニン、ブーン!」
床の上に転がった彼の視線の先には、フライパンとお玉を両手に持った少女の姿があった。
彼女はニッコリと笑うと、
「今日もさわやかな朝だよーん!」
と言いながら、再びフライパンの底をお玉で叩き鳴らす。
その音に辟易しながら、
ブーンと呼ばれた少年は起き上ってボサボサの髪の毛をかきむしった。
「……僕の朝はなんでいつもこんなに騒がしいんだお」
「あんたがいつまでたっても起きてこないからでしょうが!」
部屋を出て、薄暗い廊下を抜け、階段を下って、少年と少女は台所へとやってきた。
地下の一室に備え付けられた台所は薄暗く、
しかしそれとは対照的に、パンの焼ける香ばしいにおいで満たされている。
もうすっかり古くなった木製のイスに座り、
同じく古くなった木製のテーブルの上に、彼は突っ伏した。
すると、後頭部に衝撃が走る。
どうやらフライパンで叩かれたようだ。
「痛いお……」
後頭部をさすりながら顔を上げた少年の口に、間髪いれずにトーストが突っ込まれる。
「ボヘッ!」
「いつまでも寝ぼけてないで、さっさとそれ食べて顔洗って着替えてきなさい!」
「ふぁふぁひはひはー(わかりましたー)」
口にトーストをくわえたまま器用にしゃべると、彼は洗面所へと向かう。
顔を洗い、用を足して股間のエレファントをしっかりと振った少年は、
台所と同じく地下に設けられた狭い作業場にて飛行服に袖を通した。
飛行服に着替えた彼は、作業場と呼ぶには少し狭すぎるそこを見渡した。
目の前には、窮屈そうたたずむ一台の、全長およそ十mほどの縦長の飛行機械。
その表面は銀色で、座席は前後に二つの複座式。
機体の中央両側部には両手を広げたくらいの大きさの羽が二枚。
機首には一丁の機銃が備え付けられており、
後部下方には黒鉄色の細長い金属の棒のようなものが、
湾曲してスプーンのような形を描いていて付いている。
そのスプーンのような形を描く金属の棒を、少女はいじくり回していた。
少年は前部の座席に飛び乗ると、
そこに備え付けられたスイッチやらメーターやら操縦桿やらをチェックし始める。
その作業を一通り終えると、まだ同じところをいじっている少女に向かって話しかける。
「なんだお?エンジンの調子が悪いのかお?」
「まあね。こりゃ、パーツ屋のオカマ野朗のところ行かなきゃいけないかも……」
そう言って、彼女は金属の棒をスパナで「ガンッ!」と殴りつけた。
「ちょっとエンジンかけてみて」
「把握したお」
彼がスイッチを押すと、
金属の棒(どうやらこれがエンジンのようである)が細かく振動を始める。
そして、飛行機械が宙に浮いた。
「へへーん!どんなもんよ!」
「たいしたもんだお!さすがはツンだお!」
「まあね…っと!」
ツンと呼ばれた少女はスパナを放り投げると、飛行機械の後部座席に飛び乗った。
そのスパナは工場の壁に備え付けられたスイッチに当たる。
すると、天井のシャッターがガラガラと音を立てて開きだした。
薄暗くカビ臭い地下の作業場を、外の光がまばゆく照らす。
少年と少女は頭上のゴーグルを眼前に下ろすと、天井を見上げた。
そこから見えるのは、どこまでも青い空と、白い雲だ。
ξ゚听)ノ「それじゃ、お仕事にしゅっぱーつ!」
( ^ω^)ノ「ブ――ンだお!」
飛行機械は垂直に飛び上がると、開いた天井から青い大空へと飛び出した。
〜( ^ω^)が空を行くようです〜
第一話 「スロウライダー」
ブーンたちの飛行機械は優雅に故郷『ツダンニ』の町の上空を飛行する。
朝の風はほんのり冷たく、肌に心地よい。
前部座席に座ったブーンは鼻歌を歌いながら操縦桿を握っている。
一方、ご機嫌なブーンとは対照的に、後部座席では持参した家計簿を開いてため息をつくツンの姿。
ξ;゚听)ξ「はぁ〜〜、今月もピンチだわ…。
ブーン!鼻歌なんて歌っている場合じゃないわよ!」
( ^ω^)「ピンチって言っても、なんとか生活していけるくらいのお金はあるんだお?」
ξ゚听)ξ「……あんた、あたしがさっき言ったこと覚えてないでしょ」
( ^ω^)「……なんだっけかお?」
後部座席のツンの方を向いて、ブーンはとぼけた顔で問いかける。
そんな幼馴染の表情を見て、ツンは家計簿を後部座席の床に叩きつけた。
ξ#゚听)ξ「エンジンよ! エ ン ジ ン !
だいぶヘタってきてんの!だから取り替えなきゃいけないの!」
( ^ω^)「お〜、そういえばパーツ屋さんに行かなきゃって言ってたおね」
ξ゚听)ξ「……もういいわ」
家計簿を拾い上げると、彼女はあたりの様子を見渡した。
その視線の先では、同業者の飛行機械たちが二人と同じ方向へ向かって飛んでいた。
町の中心部から外れた郊外の小高い丘の上。
そこに立てられた二階建ての古びた木造の建物がブーン達の職場……と言えば一応職場だ。
その建物の前に設けられただだっ広い草原に飛行機械を止めて、
ブーンとツンは建物の入り口へと向かう。
建物の入り口には、「飛行機械郵便業協会」と書かれた看板が掲げられている。
その入り口から建物の中に入ると、
そこにはすでに多くの飛行機械乗り…つまりブーン達の同業者がいた。
ごった返す人ごみを掻き分け、二人は受付カウンターへと向かう。
やっとのことでカウンターにたどり着いた二人に、見知った受付の男が話しかける。
( ゚д゚ )「相変わらず遅いご出勤だな。スロウライダー」
スロウライダーとはブーンのあだ名である。
別にブーンの飛行機械の速度が遅いわけではなく、
いつも寝坊してくるために仕事に来るのが遅いという理由から付けられたあだ名だ。
( ^ω^)ノ「おっおっお。おいすー」
ξ#゚听)ξ「馬鹿にされてんのにヘラヘラ笑ってんじゃないわよ!」
そう言って、ツンはブーンの頭に拳骨をお見舞いした。
ブーンは頭を抱えてその場にうずくまる。
そんな少年を尻目に、少女はニッコリと笑ってカウンターの男に話しかける。
ξ゚ー゚)ξ 「で、なんかいい仕事ない?」
( ゚д゚ )「……」
( ゚д゚ )「ウェルチ」
ξ゚听)ξ「こっち見んな」
( ゚д゚ )「……割のいい仕事はもう出ちまったぞ?
残っているのは安いEランクの仕事か、誰もやりたがらないAランクの仕事だけだ」
ξ゚听)ξ「Aランクの仕事が来てるの!?」
ツンは瞳を輝かせ、カウンターから身を乗り出して言う。
カウンターの男とツンは、しばらく至近距離で見詰め合った。
( ゚д゚ )「……」
ξ゚听)ξ「……」
( ゚д゚ )「こっち見んな」
ξ゚听)ξ「それはこっちのセリフ。
ちょうど良かったわ〜!まとまったお金が必要だったのよね〜」
( ゚д゚ )「それ相応に危険だがな」
ξ゚ー゚)ξ 「私たちの腕をなめないでちょうだい!
史上最年少飛行機械乗りの称号は伊達じゃないのよ!」
ツンとブーンの仕事は飛行機械郵便……つまり空の郵便屋だ。
この世界ではとある事情のため電波による交信ができない。
そのため、離れた「島」への連絡手段はもっぱら書面によるものに限られる。
だから、この世界には飛行機械による郵便屋が必要なのだ。
そして、その仕事のランクは基本的にA〜Eの5段階で表される。
Eランクは同じ島内に配達する楽で安い仕事。
Cランクまでは同じ国内の島に配達する仕事で、労力はかかるが安全な仕事。
そしてA・Bランクの仕事は国外の島への配達で、
労力もかかり、安全も保障されていない危険な仕事だ。
その分、報酬はかなり高額なものとなる。
もっとも、A・Bランクの仕事なんか滅多に来るものではないのだが。
( ゚д゚ )「そんじゃ、お願いしようかね」
そう言って、カウンターの男は書簡をツンに投げて渡した。
( ゚д゚ )「配達先はメンヘラ国のラウンジ艦隊だ」
ξ;゚听)ξ「メンヘラ!?それもラウンジ艦隊!?」
ツンが眼を丸くして叫ぶ。
その声に建物内の人間が一斉にツンの方を振り向いた。
( ゚д゚ )「……どうする?止めるか?」
カウンターの男がニヤリと笑う。
同じように周囲の飛行機械乗りたちも不敵な笑みを浮かべている。
仕事を受けるかどうかは、飛行機械乗りの自由である。
もちろん、断ることは認められている。
だけど、一度内容を聞いてその仕事を断れば、それは怖気づいたものとみなされる。
そしてそれは、同じ飛行機械乗りの間で嘲笑の対象となる。
つまり、一度内容を聞いた仕事を断るか否かは、飛行機械乗りの名誉にかかわるのだ。
ツンはしばらく書簡を見つめた後、カウンターに手を叩きつけて叫んだ。
ξ;゚听)ξ 「……やるわよ!やってやろうじゃない!
宛先、メンヘラ国ラウンジ艦隊!ランクはA!
この仕事、史上最年少飛行機械乗りのブーンとツンがもらったわ!」
高らかに宣言し、少女は書簡を持つ手を天高く突き上げた。
それに呼応して、周囲から歓声が沸きあがる。
口々に何か言ってくる同業者の声に、少女は脂汗の浮かんだ額と引きつった笑顔で答える。
一方、ブーンは拳骨を落とされた頭を抱えて、まだうずくまっていた。
建物の外に出た二人は、飛行機械の整備をしていた。
( ´ω`)「メンヘラは軍事国家だお?
危険が危ないのもいいところだお……」
ξ゚−゚)ξ「……わかってるわよ」
( ´ω`)「しかも精鋭部隊のラウンジ艦隊だお?
もし仮にラウンジ艦隊が軍事演習なんかやっていたら、僕たち本当に死ぬお……」
ξ#゚听)ξ「……うるさいわね!」
ブーンの愚痴に我慢できず、ツンは飛行機械の側面を拳で殴った。
予想外に痛かったのか、彼女は殴った拳をもう一方の手で押さえてうずくまっている。
一方で、愚痴るブーンの表情は意外にも晴れ晴れとしている。
( ^ω^)dビシッ!「まあ、一度受けちゃったものは仕方がないお。
さっさと燃料補給して出発するお!」
ブーンは前部座席に飛び乗ると、
地面にうずくまりこちらを見上げるツンに向けて小指を立てた。
ツンは何も言わず、後部座席に飛び乗った。
そして、言う。
ξ゚−゚)ξ「……ブーン」
( ^ω^)d「なんだお?」
ξ゚−゚)ξ「こういうときは、小指じゃなくて親指を立てるのよ」
(;゚ω゚)d「……」
( ゚ω゚)bビシッ!!「ウェルチ!!」
少年は親指を立てた。
さらに、立てた親指を鼻の穴に突っ込んだ。
その指で鼻をほじると、鼻くそのついたその指でスイッチを押す。
機体後部下方に設置された鉄の棒が振動する。
飛行機械が宙に浮く。
そして、推進力であるブースターが点火され、
飛行機械は二人の真の職場である大空へと飛び立った。
第一話 おしまい
( ^ω^)が空を行くようです
第二話 「晴れの空下」
燃料も補給し、ブーンとツンの二人は一路、軍事国家メンヘラを目指す。
眼下に広がるのは周囲360度、空の彼方まで続く、厚く真っ白な雲海。
一方、眼上には淡い青空と、そこにポツリポツリと浮かぶ白い雲。
周囲にはブーン達の飛行機械以外に飛行するものはない。
( ^ω^)「ここからメンヘラまではどのくらいだお?」
ξ゚听)ξ「えっと……二千kmってところかしらね」
( ´ω`)「……たまらんお」
ブーンはため息をついて、バックミラー越しにツンを見た。
後部座席では、ツンが地図を眺めながら水筒の水をおいしそうに飲んでいる。
( ^ω^)「僕にも水、頂戴だお」
ξ゚听)ξ「やーよ。ただでさえ水税が上がったのよ?
そんな貴重な水、そう易々とあげられるわけないじゃなーい。
あんたは黙って運転に集中してなさいよー」
(;^ω^)「こんな晴れの空の下なんか、目隠ししていても運転できるお!」
ブーンは後ろを振り返り、身を乗り出して後部座席のツンへと手を伸ばす。
ツンは水筒をブーンに差出し、ブーンがそれをつかもうとすると引っ込めた。
幼馴染の慌てふためく様子を見て彼女はケタケタと笑い、
二人はしばらくの間、同じやり取りを繰り返した。
ブーン達にとって、水とは貴重な存在である。
それは、飛行中は水が手に入らないと言う理由からではなく、
文字通り水が貴重で、高価だからである。
なぜ水が高価なのか?
それは彼らの世界の構造が深くかかわっている。
彼らの世界。
眼下に広がるのは切れ目なく続く雲海。
その名の通り、雲は海だ。
『世界は空に逃げた……』
昔、小さい頃に聞かされた事がある。
まるで童話のような話。
しかし、、これはまぎれもない事実だ。
空に浮かぶ数々の島々。
果て無く続く雲海。
それが、ブーン達の世界のすべて。
雲の上の世界しか知らないブーンには想像もできない話だが、
広がる雲海の下には、また別の世界が広がっているという。
しかし、人間が住める世界ではなくなっているというのが話のオチだった。
その理由は今となってはハッキリしない。
世界規模の災害とも、古代の戦争の結果だとも言われている。
いずれにしても、雲海の下では強烈な嵐が吹き荒れており、
飛行機械で突入すれば間違いなく帰ってこられないともっぱらのうわさだ。
水の話に移ろう。
雲の上に世界があるということは、勿論雨が少ないということだ。
よって、天の恵みたる雨による水の確保は望めない。
ではどうやって水を確保しているのかと言うと、
それは世界に五つしか存在しない「水の島」から調達している。
水の島はこの世界のもっとも上空に存在する、莫大な量の水が湧き出る島で、
その島から溢れ落ちてくる水を、その下にある別の島々が受け取る。
そして、受け取った島々の端から流れ落ちる水をそのまた下にある島々が受け取る。
そのため、島々は水の島を頂上にした山のような三角錘の形に配置されており、
何かほかのものにたとえるならば、
太陽の光をどの葉からも受けられるように末広がりになっている植物の構造がそれに近い。
太陽が水の島で、太陽の光が水の島から流れ落ちる水、
そして、植物の葉が残りの島々と言うわけだ。
さて、先程『莫大な量の水が湧き出る』と表現したが、
勿論湧き出る水は無限ではないし、国家の管理体制も厳重だ。
それにより水に税金が課せられ、その値段たるや、
酷いところではペットボトル一本買うお金で豪華なディナーをいただけるほどになる。
よって、ブーン達にとっては水税の増税は死活問題となってくるのである。
余談だが、その水の島から流れ落ちている水でつながった、
樹木の葉のように幾層にも重なった島の集まりが
ひとつの国家としてのくくりを受けている。
水の島は全部で五つ。
つまり、この世界には五つの国家が存在するということになる。
さてさて、長々と解説している間にブーン達はとある小さな島に着陸したようだ。
二人は飛行機械の座席から島へと降りる。
( ´ω`)「おー…腰が痛いお…」
ξ゚ー゚)ξ 「お疲れさま!」
そう言ってツンはブーンに水筒を投げてよこす。
飛んできた水筒を受け取るや否や、ブーンはその中身を一気に飲み干した。
( ^ω^)「うまいお!この一杯のために生きているようなもんだお!」
ξ゚听)ξ「親父くさいこと言ってないで、さっさと燃料と水を補給しに行くわよ」
そんな言葉をブーンに投げかけると、ツンは着陸した島にある一軒の建物に向かう。
建物で買い物を終えた二人は、飛行機械に燃料を入れると再び大空へと羽ばたいた。
ξ゚ー゚)ξ 「コンビニエンス島ってのは便利よね〜。物価高すぎだけど」
( ^ω^)「まあ、それはしょうがないお」
遠路を渡る飛行機械乗り達が重宝するのがこのコンビニエンス島だ。
燃料、水、食料、整備に必要な部品など、
飛行に必要なものが一通りそろった店がある島が、この空には各地に転々としている。
長距離を行く際には、
飛行機械乗り達はこのコンビニエンス島を経由する形で目的地への進路をとる。
もっともその島でのそれらの販売値段たるや、
水の島でつながれた国家に属する島々とは比べ物にならないくらいに高いのだが、
水や燃料の輸送費、そしてコンビニエンス島自体の利便性を考えればそれも仕方がない。
それからもひたすらに飛行を続け、
日も暮れ、夜の帳があたりにすっかり降りて、それから更に時間がたった深夜になって、
ようやく二人はメンヘラ国の軍本部がある島へと到着した。
( ´ω`)「あうあう〜…僕はもうダメだお……」
ξ;゚听)ξ「飛行時間約二十時間……自己最長連続飛行時間……記録更新ね…」
飛行機械から転げ落ちるように降りて、二人は地面に寝転んだ。
( ´ω`)「お〜……死んだ母ちゃんの姿が見えるお…」
体の節々が悲鳴を上げ、もうこれ以上動くのは無理だと言っている。
しかし、仕事はそれを許してくれない。
ツンは横で寝息を立てだしたブーンを蹴り起こすと、
彼を引きずりながら、すぐ近くにあるメンヘラ軍本部へと向かった。
ξ;゚听)ξ「え―――!?
ラウンジ艦隊は軍事演習に行ってるの―――――!?」
ようやく軍本部に着いた二人は、見張りの兵士にとんでもない事実を告げられた。
届け先であるラウンジ艦隊は現在、近郊の空域で軍事演習中のためここにはいないらしい。
兵士「ああ。急ぎの届け物なんだろう?
演習場所教えるから、そっちに直接届けてくれよ」
( ;ω;)ξ;凵G)ξ「「 勘弁してよ―――――――!!」」
二人は夜空を見上げて叫ぶ。
すると体から一気に力が抜けたのか、地面にへたり込んで仰向けになる。
兵士「……そう言わずにさぁ、頼むよ〜」
そのまま起き上がらない二人を申し訳なさそうなまなざしで見てそう言うと、
兵士は腰にぶら下げた水筒を二人に差し出した。
兵士「軍で支給されている、ここいらじゃ一番上質な水が入った水筒だ。
これやるからさ、頑張ってくれよ!」
二人は上半身を起こし、心優しい兵士から水筒をひったくると一気に飲み干した。
そして空になった水筒を兵士に渡すと、あからさまに不機嫌な表情で言った。
ξ#゚听)ξ「はいはい!これも仕事ですからね!お水、ありがとうございました!」
( ´ω`)「あうあう……」
ξ#゚听)ξ「ほら!シャンとする!さっさと仕事終わらせて寝るわよ!」
もはや猫背と言うには申し訳ないくらいに前かがみでフラフラと立ち上がるブーン。
そんな彼の背中を叩き、ツンは自分達の飛行機械の方へと歩き出した。
その後ろを、まるで廃人のような足取りでブーンが続く。
兵士「 頑張れよ――――!!」
二人の後姿に向かって、兵士は申し訳なさげに手を振った。
第二話 おしまい
第三話 「STROBOLIGHTS」
二人はヘトヘトに疲れた体を引きずって飛行機械までたどり着くと、すぐさま離陸した。
幸いにも、ラウンジ艦隊の演習空域はそう遠くなく、
速力を上げて飛べば一時間もたたずに到達しそうであった。
夜の空は不気味なほどに暗く静かで、
真下に広がる雲海はこの世のありとあらゆるものを飲み込んでしまうかのような漆黒の闇。
しかし、そんな周囲の様子に眼を向けるほどの余裕は今の二人にはなかった。
ブーンは襲ってくる睡魔との戦闘に必死で、
後部座席のツンはいつでもブーンたたき起こせるようにと、
スパナを片手に必死のまなざしで彼の後頭部を注視している。
この道中の、深夜の飛行の中で響く音といえば、
途中で睡魔に敗れたブーンの後頭部にスパナを投げつけるツンの怒声と、
二人の飛行機械から鳴り響く低いエンジン音、
そして、彼らが風を切って空を進む音だけであった。
それから一時間ほど飛行を続けた彼らのはるか前方斜め下に、
星の光とは比べ物にならないほどに強い無数の光が姿を現した。
ξ゚听)ξ「ブーン!ラウンジ艦隊よ!」
( ´ω`)「……これでやっと眠れるお」
なぜか操縦席に散らばっているスパナを拾い上げ、
後部座席のほうを振り向き、ブーンは身を乗り出してスパナをツンに手渡した。
そして、なぜだかひどく痛む後頭部をさすりながら、彼はラウンジ艦隊の旗艦を探した。
すると都合のいいことに、
他の艦に比べはるかにきらびやかに装飾された旗艦と思われる飛行戦艦は
ブーン達の飛行する方向からもっとも近い位置にいた。
一見すると、われわれの世界の海に浮いている戦艦の様相を呈しているそれは、
本来海面に沈んでいるべき船底部分が骨組みのみでスカスカであり、
そこに飛行機械が着陸できるような甲板や作業場などが備え付けられている。
もちろん、われわれの世界の戦艦と同様、上部にも甲板は備え付けられており、
その上部甲板に向かって、ブーンはゆっくりと飛行機械を進めた。
( ^ω^)「ツン、発光信号を頼むお」
ξ゚听)ξ「把握したわ」
そう答えるや否や、少女は座席から発光信号機を取り出す。
銃のような形状をしているそれは、銃身の部分が強力な電灯になっており、
銃となんら変わりない形状をしたトリガーを指で引けば明かりが付き、
離せば明かりが消えると言う仕組みになっているようだ。
彼女は起用にトリガーを引いたり離したりして、
ラウンジ艦隊の旗艦へ向けて、まるでストロボのような光を放った。
ξ゚听)ξ「信号は送ったわ。後はあっちの返答を待つだけ」
( ^ω^)「乙だお」
返答が帰ってくるまでの間、
ブーンはラウンジ艦隊旗艦から適当な距離を取って、空中をグルグルと旋回していた。
するとしばらくして、相手側の上部甲板から瞬く光が見えた。
ξ#゚听)ξ「な、なんですって――――!?」
それを見たツンが素っ頓狂な叫び声を上げる。
両手で耳を押さえて、その叫び声で鼓膜が破れるのを防ぐブーン。
(;^ω^)「な、なんて言っているんだお?」
ξ#゚听)ξ「『着艦は認められない。早急に立ち去れ』ですって!
何考えているのよ、あの馬鹿ちん達は!?」
長時間の飛行による疲れがそうさせるのか?
それとも、彼女自身の性格がそうさせるのか?
いずれにしてもヒステリーを起こしたかのごとく叫び声を上げる彼女は、
再びの発光信号をラウンジ艦隊へと送る。
返答はすぐに返ってきた。
それを確認したツンは、まるで親のカタキを見るかのような眼でブーンをにらみつける。
そのまなざしにビビりながらも、少年は恐る恐る少女に問いかけた。
(;^ω^)「……あのー、ツンさん?
ラウンジの方々は……なんておっしゃっているんでしょうかお?」
ξ#゚−゚)ξ「……」
少女は少年をにらみつけたまま、何も言わない。
この沈黙が幼馴染の怒りが最高潮に達しているというサインであるということを、
少年は長年の付き合いからわかっていた。
それでも彼は、彼女に聞かないわけにはいかなかった。
(;^ω^)「あのー……ツン様?」
ξ#゚听)ξ「『配達人の飛行機械に、なぜ機銃が付いているのか』ですってよ!!」
そう叫んで、ツンは自分達の飛行機械の機首に備え付けられた機銃を指差した。
ξ#゚听)ξ「だからあたしは前から何度も言ってたのよ!機銃は外そうって!!」
(;゚ω゚)「これは僕達の父ちゃんが僕達のために作ってくれた飛行機械だお!
機銃を外すなんてこと、父ちゃんたちに申し訳なくてできるわけないお!」
ξ#゚听)ξ「だからあんたは子供なのよ!
必要に応じて飛行機械の部品を外すなんて、プロとして当然のことでしょうが!」
(;゚ω゚)「他のどの部品を外したりいじくったりするのはかまわないお!
だけど、この機銃だけは絶対に外したらだめだお!!
この機銃は父ちゃんが、僕が死なないように、
いざという時に身を守れるようにって付けてくれた、大切な機銃なんだお!!」
ξ#゚听)ξ「そんな感傷的なことを言っているからあんたはガキなのよ!!
この機銃のせいであたし達が死んだりしたら、悲しむのはそれを付けたパパ達なのよ!?」
ラウンジ艦隊からの再びの発光信号が送られていることなどお構い無しに、
二人は空中で言い争いを続ける。
そして、怒りが頂点に達したツンが
スパナをブーンに投げようと腕を振りかぶったそのとき、
あたりに轟音が鳴り響き、周囲の空気が振動した。
ξ;゚听)ξ 「くぁwせdrftgyふじこ!!」
(;^ω^)「ううう、撃ってきたお!!」
どうやら、ラウンジ艦隊の旗艦の甲板前方に備え付けられた砲台から弾丸が発射されたようである。
その直後、再びラウンジ艦隊から発光信号が送られてきた。
(;^ω^)「ななな、なんて言っているのかお!?」
ξ;゚听)ξ「『今のは威嚇だ。立ち去らなければ今度は命中させる』ですって!
この仕事は失敗よ――――――!!」
そう叫んで、ツンは頭を抱えた。
( ^ω^)「……仕事は失敗じゃないお!」
ツンの様子を見て、ブーンは叫ぶ。
ξ#゚听)ξ「何言ってんのよ!失敗に決まってるでしょ、この馬鹿ちん!!」
( ^ω^)「……あそこに着陸して書簡を届ければ、仕事は成功だお!!」
幼馴染のその言葉を聞いて、
少女は自分の顔から血の気が引いていくのがはっきりとわかった。
ξ;゚听)ξ「あんた……まさか!?」
( ^ω^)「発砲されたって、それを避けて着艦すればいいだけのことだお!!」
そう言って、ブーンはラウンジ艦隊の旗艦へ向かって一気に下降した。
( ゚ω゚)「父ちゃんの機銃が有ったって、
仕事はちゃんと出来るんだおおぉぉおぉおおお―――――!!」
\ξ(^O^) ξ/「いやあぁぁああぁあ―――――!
アタシの人生オワタ―――――――!!」
二人の叫び声は、
その直後にラウンジ艦隊から鳴り響いた発砲音によってかき消された。
第三話 おしまい
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