第二十八話 「生きがい」





眼を開けると、そこは真っ暗な闇。
どこまでも続くその闇の中に、少年は浮かんでいた。


( ´ω`)「……僕は……死んだのかお?」


雲海に堕ちた最後の記憶。
それを思い出した彼は、諦めたようにため息を一つついて、眼を閉じた。

ただふわふわと、宙を漂うような感覚。
幼い頃、父に連れて行ってもらった大きな池で溺れた時と似た感覚だった。

あの時は、頭上から差し出された父の大きな手が、自分を現世に引き戻してくれた。
もしかしたら、その手が再び自分を救ってくれるかもしれない。

そう思って眼を開けてみても、視界には漆黒の闇以外に何も存在しなかった。




再び眼を閉じようとした少年。
しかし、閉じようと開こうと、視界に広がるのは暗黒の世界。

それならば、このまま闇を見続けよう。
もしかしたら、何かが見えるかもしれない。

そう思った少年のまなこに、ぼんやりと一人の男の背中が浮かんできた。


もう、遥か昔。

幼い頃に最後に見た父の背中。
その背中は、そんな父の背中に酷似していた。


(;゚ω゚)「父ちゃん!!」


あの時も自分は、幼いツンに羽交い絞めにされながら同じ言葉を叫んだ。

手を伸ばしても、それはあの時のように遠ざかっていくだけ。




「ブーン……すまない」

( ゚ω゚)「謝るならくらいなら行くなお!
     あれから僕とツンがどれだけ苦労したと思っているんだお!!」


あの時と違って、ブーンは父の背中に罵声を浴びせかけた。
しかし、返ってきた答えは、あの時とまったく同じ父の言葉。


「お前を残していくことは、本当に悪いと思っている。
 だけど、俺は『エデン』を見つけた。
 そこへ飛ばなければ、俺は干からびた魚のようになってしまう。
 そんな俺の姿を、お前には見せたくないんだ」


幼い自分には、父の言葉の意味が全くわからなかった。
ただ、父との別れが悲しくて、ツンの今と変わらない平らかな胸に抱かれて泣いていただけ。

でも、今なら父の想いがわかる気がした。
『トップページ』を駆け抜けた先で出会った『VIP』の姿をずっと見てきたからだ。

そんな父の背中は消え、代わりに浮かんできたのは『VIP』のみんなの姿。




( ゚д゚ )「スロウライダー、お前はここでくたばるのか?
    お前はその程度の男だったのか?」

('A`)「ぶほほほほほ……あたしの見込み違いだったようね」

( ´∀`)「がっかりだモナー。僕は失望したモナー」

/ ,' 3「所詮は小僧。ここで朽ち果てるのがお似合いだわい」

川 ゚ -゚)「残念だ。君にはもっと期待していたのだがね」

(´・ω・`)「僕は『家族』を守るためだったらなんだってする。
      しかし、君には守るべき価値は無いようだね」


現れた皆は、口々にブーンを罵ると、闇の中へとその姿を消していく。
そんな彼らの姿を、ブーンは黙って見送った。

飛び出した嵐の空から完全な不注意で雲海へと堕ちた自分に、
彼らの罵声を否定する権利などあるはずが無い。


だからもう、そっとしておいてくれ。
この闇の中で、心地よい浮遊感に包まれながら、静かに眠らせてくれ。


そう呟いて、眼を閉じようとしたとき、
突然浮かんできた人物の姿に、少年の眼は再び見開かれた。




( ,,゚Д゚)「少年よ、PMAだ!飛行機械乗りは黙って前を見続けなければならん!
    どんなに厳しい空でも、お前は前を向いて飛び続けるんだゴルァ!!」


死んだと聞かされたはずのギコ。
彼の姿は、今までに現れたほかの誰よりも確かな質感を持ってそこに存在していた。


(*゚ー゚)「あなたは強い。だから、私たちの分まで空を行って」


ギコの傍らに寄り添うようにして現れたしぃ。
自分の目の前で死んだ彼女は、そんなことなど忘れたかのようにニコリと微笑む。


( ´ω`)「そんな……無理ですお。
     父ちゃんは行っちゃったし、『VIP』のみんなも僕を見放したんですお。
     僕にはもう……何も残っていないんですお」


少年は曇った瞳でそう答えた。
すると二人は黙って微笑んで、少年の後ろを指差す。

ブーンは振り返った。

そこには、いつもと変わらない笑顔で立っている彼がいた。



  _
( ゚∀゚)「お前、人間に乳首が二つ付いている理由がわかるか?」


振り返った先にいたのはジョルジュ長岡。
少年の目の前で爆散した彼は、眼帯の無い綺麗な顔でそこに立っていた。

  _
( ゚∀゚)「赤ん坊に乳を吸われるとな、乳首が荒れてたまらなく痛くなるんだよ」


そんな彼の言葉に、ブーンはいつのことだったか、
整備班の休憩室で無理やり聞かされたジョルジュのオッパイ談義のことを思い出した。


(;^ω^)「……なんでそんなこと、知っているんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「うひゃひゃひゃひゃwwwwwたまひよに書いてあった!!」


確か、あの時もまったく同じやり取りをしたなぁ。

その時のことを思い出してか、少年の顔に笑みが戻る。



  _
( ゚∀゚)「ずっと片方の乳首だけを吸われていたら、痛くて我慢できない。
    そのときのために、もう片方の乳首が存在するのさ!!」

(;^ω^)「おー……そういうもんなんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「そうさ!右乳首が痛くなったら左乳首、左乳首が痛くなったら右乳首!!
    そうやって、乳首はお互いを支えあっているのだ!!」


そう断定して、ジョルジュは大声で笑う。
そんな彼につられて、ブーンもゲラゲラと笑い声を上げる。


( ^ω^)「めちゃくちゃな例えですおwwwwwwwwww」
  _
( ゚∀゚)「そうでもないさ!これ以上にすばらしい例えは他に存在しない!!
    いいか?お前が右乳首だとしたら、左乳首を助けてやらなきゃいけない!
    その左乳首が、いずれお前を必ず助けてくれるんだからな!!」




ジョルジュのその言葉に、ブーンの表情は一変した。

とても……とても悲しそうな表情。


( ´ω`)「だけど、僕にはその左乳首なんていないんですお。
     『VIP』のみんなには見放され、ギコさんにしぃさん、
     そして、長岡さんも死んでしまったんだお……」


力なく呟いて、少年はジョルジュの顔を見た。
ジョルジュは首をかしげると、再び大声で笑う。

  _
( ゚∀゚)「何言っていんだ?お前の後ろにいつもいるじゃないか!!」




ジョルジュの言葉に、ブーンは「バッ!」と振り返った。

視線の先にギコとしぃ、二人の姿は無く、
その代わりに、飛行服に身を包んだツンが不機嫌な表情で立っていた。


(;゚ω゚)「ツン……いつからそこにいたんだお?」

ξ#゚听)ξ「何言ってんのよ!小さい頃からずっとあんたの後ろにいたじゃない!!」


肩を怒らせ、機嫌の悪い表情でのしのしとこちらに歩いてくるツン。

まずい。
この顔は、殴るときの顔だ。

そう考えて、頭を抱えて眼を閉じたブーン。


脳の奥底まで響くいつもの衝撃は、いつまでたっても襲ってこない。

不審に思って、少年は頭を抱えたまま上目遣いで前方を見た。

そこに、ツンの姿は存在しなかった。




(;゚ω゚)「ツン!どこに行っちゃったんだお!?」


急に不安になってあたりを見渡すブーン。
周囲からはツンの姿はおろか、ギコやしぃ、ジョルジュの姿さえも消えている。


(;゚ω゚)「ツン!僕を一人にしないでくれお!!」


暗い闇の中を、叫び声を上げながら漂うブーン。

いつまでたっても闇は闇。

どこまでもどこまでも虚空をさまよって、
とうとう力尽きた少年はひざを抱えてうずくまる。


( ;ω;)「本当に……一人になっちゃったお……」


呟やいた声は、もう、誰にも届かない。
ひたすらに続く闇の中を、どこまでも伝わっていくだけ。




僕は一人だ。
祈るべき乳首も、祈る言葉もとうにない。


「闇に覆われた真実、見果てぬ対岸の夢こそが人間の進歩の道標であり、
 その道を手探りで進んでいく中で得たものこそ、なによりも重い自分を造るのである」


先日、荒巻が言った言葉が頭をよぎる。

僕には、夢がある。
闇に覆われた真実……『エデン』を見つけたい。

だけど、僕は一人では何も出来ない。

いつだって、僕の後ろにはツンがいた。
僕が生き延びてきた空には、傍らにいつもツンがいた。

だけど、彼女の姿はもう消えてしまった。
それならば、僕にとって荒巻の言葉は何の意味を持たない。

どこへ行けば、どこまで行けば、
あなたの言葉の意味がわかる?意味が見つけられる?

ひざを抱えて呟いても、もはや誰も答えてはくれない。
手放したもの、失ったものは、二度と自分のもとには戻ってこない。




ξ゚ー゚)ξ「それなら、また二人で見つければいいじゃない」


背中から響いてきた声に、少年はうつむけた顔を上げた。
首だけ振り向くと、そこには再び現れた自分の左乳首の姿。


ξ゚ー゚)ξ「いつまでたってもあんたは子供ね。
    いじけていたって、なんにもはじまらないのよ?」


微笑みながらそう語りかけると、左乳首は少年の背後から彼の両腕に手をやる。
そして、ひざを抱えていたブーンの両手を、彼の股の間で組ませた。




ξ゚听)ξ「このままじゃ堕ちるわよ?さっさと操縦桿を引く!!」

(;゚ω゚)「操縦桿なんてここにはないお!!」

ξ#゚听)ξ「何言ってんのよこの馬鹿ちん!!さっさと引きなさい!!」


暗い闇の中でじたばたと暴れまわる二人。


ξ#>凵)ξ「ああもう!じれったいわね!!
       オンドリャ――――――――――!!」


剛毅な雄叫びとともに、左乳首はブーンの組んだ両手を後ろに引っ張る。

少年の両手は、猛烈な勢いで彼のティンカーベルを殴打した。




( ゚ω゚)「うんがこ―――――ん!!」


股間に走る激痛に悲鳴を上げながら眼を開いたブーン。

少年の視界の先に、もう暗闇は存在しなかった。

代わりに広がるのは、上空から重くのしかかる灰色の雲。
周囲に響くのは、下方から響くザザンザザンという低い音と、
渡っていく風音、そして、自分と機体を激しく打つ雨音だけ。

自分の置かれた状況はまったく理解できないが、
とりあえず激痛の走る股間のチェックをするブーン。


大丈夫。ぶら下がる二つの暗黒タマタマはちゃんと付いている。


安堵のため息をついて、再びブーンはあたりを見渡した。



※うんがこん……昔の長崎の方言で、「なんだこのやろう」の意。常用外




真下には、まるで雲海のごとくどこまでも広がっている巨大な灰色の池。

ブーンはかなり落下していたようで、上昇する機体の真下には、
池が立てるザザンザザンという大きな音が間近に聞こえてくる。

続いて自分の進路を確認。

ブーンは灰色の空に向かって上昇しており、空を覆う雲海がじわじわと近づいていた。


なぜ、雲海が上空に?


そのことに自分が雲海の下、失われた世界に堕ちたことを認識したブーンは、
ここにきて一番のため息をついた。




(;^ω^)「……あの雲海を超えて、『VIP』に戻れるのかお?」


可能性は否定できない。

雲海の上から落下して無事なのであれば、
逆に雲海の下から上昇できる可能性は確かにある。

しかし、上昇の際には引力というハンデが付きまとう。
落下するときには助けとなるそれが、上昇に転じた途端に足かせとなる。

惑星に生きるものすべてに宿命づけられた定め。

神が造りたもうた引力は、人の力だけで空を飛ぶことを許さない。


人は、生まれながらにして不自由だ。




( ´ω`)「……」


僕は一人だ。
この灰色の、失われた世界に、僕の味方なんていない。

だけど、乗りなれたこの銀色の飛行機械の座席で死ねるなら、
ジョルジュのようには笑えないけど……幸せなのかもしれない。

寂しそうな瞳で座席の中を見るブーン。
ふと、その瞳に映ったあるものが違和感を少年の頭に突きつける。

操縦桿。

あの暗闇の中で僕の両手を組ませたツンは、僕に操縦桿を握らせたのではないのか?
……そして、僕に操縦桿を引かせた。

だから僕は今、水面に激突することなくこうやって空を飛んでいる。


ということは……


彼女は……この灰色の世界の中にいる?




脳裏を駆け巡る思いに少年はうつむけた顔を上げる。
前方、左右、どこにも彼女の姿はない。

では後方は?

そう思って振り向こうとしたとき、バックミラーにかすかな光の明滅が映る。


(;゚ω゚)「ツン!!」


首がねじ切れそうな勢いで後方を振り返ったブーン。
彼の瞳は捉えた。
雲海から落下しながら、こちらに発光信号を送る自分の左乳首の姿を。


(;゚ω゚)「ツ――――ン!!」


右乳首は進路を反転する。

落下するかけがえのない人、自分を助けてくれた乳首。


ツン。


幼い頃から自分の傍らにいた左乳首に向かって、右乳首はアクセルを踏み込んだ。




落下するツンの真下へと進路を取るブーン。
しかし、彼女の落下速度は思った以上に速い。

水面に落下するまでに助けられるのか?

いや、無理だ。

そう判断したブーンは、落下する彼女自身へと進路を向けた。

先日のモナーのように、降下しながら機体と彼女の落下速度を同調させ、
クッションのようにして受け止めるのは不可能。

それならば、落下する彼女の手を掴み、
落下エネルギーを消費するまで引きずりまわしてから座席の上に上げよう。
多少荒っぽいが、それが一番可能性が高い。

堕ちゆくツンへと一直線に迫るブーン。
高度はかなり下がっている。

そんな彼女の側面へと進路をとり、操縦桿を片手に身を乗り出してツンへと手を伸ばすブーン。


(;゚ω゚)「ツ―――――ン!捕まるお――――――!!」




ξ;゚听)ξ「ブ――――――――ン!!」


少年の伸ばした手を、少女は片手で固く握り締めた。
その手に握っていた発光信号機が水面へと落下していく。

途端に機体は彼女の重みと勢いで九十度近く傾き、ブーンの身体も空に放り出されそうになる。

シートベルトが身体に食い込む。
腕が千切れそうに痛む。

それでも少年は片手に握り締めた操縦桿を操り、傾いた勢いを利用して背面飛行に入る。
そのまま進路を斜め下にとり、一気に水面へと下降していく。


\ξ(^O^) ξ/「あばばばばばばば――――!!
        ブーン!死ぬうううううううるぽおおおおおお!!」




\(^ω^) /「ががガッガッががが!!」


震える機体上でさかさまになりながら叫ぶ二人。

水面はもう間近。
ブーンは、操縦桿を押した。

機体は斜めから水面すれすれで平行に戻る。
そのまま百八十度ロールして、飛行機械は背面から通常飛行に戻った。

その勢いを利用して、ツンを自分の座席に引き寄せるブーン。
彼女は前部座席によじ登ると、ブーンの顔を見つめていった。


ξ#゚听)ξ「死ぬかと思ったじゃない!もっと安全に助けろ、この馬鹿ちん!!」

( ゚ω゚)「モンテスキュ―――――――!!」


ツンの強烈な拳骨が、ブーンの脳天に落下した。

久しぶりの衝撃に、泣き笑いの表情を浮かべるブーン。
座席に座る少年の両足、操縦桿を握る両手をまたいでこちらを見つめるツン。

少年の間近まで迫ってきたツンの顔は、怒ったままの表情で口を開く。




ξ゚−゚)ξ「……お届け物は確かに配達しました」

(;^ω^)「はい?」


ブーンの眼を見つめながらすっとんきょうなことを口走るツン。


ξ゚−゚)ξ「お届け物はあたし。宛先はあんたです」

(;^ω^)「はぁ……。ツン、覚せい剤でも打ったのかお?」


意味不明なことを口走るツン。

ああ、落下の恐怖でアホになっちゃったんだな。かわいそうに……
気の毒な表情で見つめるブーン。


ξ゚−゚)ξ「受取書にサインをお願いします」

(;^ω^)「ツン……いい医者を探してあげ……」




……るお。

そう呟こうとした少年の口に、やわらかい、暖かな何かが一瞬だけ触れた。

視界に広がるのはツンの顔だけ。
すぐに距離をとった彼女の顔は、真っ赤に染まっている。


これは……


ξ////)ξ「……サインは確かに受け取りました」

(*゚ω゚)「……ブッ―――――――――――――――――――!!」


鼻から盛大に血を噴出すと、少年は座席にもたれかかって気絶した。


ξ#゚听)ξ「ちょっと!起きなさいこの馬鹿ちん!!
     いや――――――――!堕ちる――――――――――――!!」


二人を乗せた飛行機械は、水面へと落下した。




ξ#゚听)ξ「馬鹿じゃないの!?死ぬところだったわよ!!」

(;^ω^)「だって……ツンがあんなことするからだお……」

ξ////)ξ「う、うるさい!死ね!!」

(;゚ω゚)「ハイル・ヒットラ――――!!」


何とか無事に着水した水の上。

上下に波打つ水面に揺られながら、座席の上でブーンは二度目の拳骨をくらった。
脳天を揺さぶる激痛に頭を抱える少年。


この世は理不尽だ。


そんなことを考えている少年を尻目に、暴力乳首は後部座席でなにやら作業を始める。




ξ;゚听)ξ「……おかしいわね」


手にした紙のようなものを空にかざし、なにやら怪訝な表情を浮かべるツン。


(;^ω^)「……どうしたんだお?」

ξ;゚听)ξ「雨が……酸じゃない……」


彼女の呟きに荒巻の言葉を思い出すブーン。

雲海の下には酸の雨が降り注いでいる。
そうであれば、遅かれ早かれ機体は不調をきたし空から堕ち、飛行なんて不可能。


( ゚ω゚)「カロ……これは青酸ぺリ!……じゃないお」


江戸川ブーンは、口元に付いた雨粒をペロリと舐めた。
少年の舌に、すっぱさは感じられない。


ξ;゚听)ξ「この世界は……浄化され始めているの?」


呟いた彼女の疑問に答えるものなど誰もいなかった。




( ^ω^)「それより、これからどうするお?」


座席のメーターやらなんやらを弄り回しながら呟くブーン。

大丈夫。まだ機体は生きている。
燃料だって十分にある。

これならば……


ξ゚ー゚)ξ「決まってるでしょ?」


振り向けば、そこにあるのは不敵な笑みを浮かべるツンの顔。
どうやら、彼女も同じことを考えているようだ。


ξ゚听)ξ「『エデン』よ!ここまで来たなら『エデン』を目指すっきゃないわ!!」


腰に手を当て、水平線の彼方を指差す左乳首。
そんな彼女に投げかけられる、右乳首の疑問。


( ^ω^)「……『エデン』ってどっちにあるのかお?」


水平線を指差したまま、左乳首の身体は固まった。




ξ;゚听)ξ「『VIP』の進行方向はあーで……あたしとクーさんが進んだ方向がこーで……
     落ちるあたしに向かってきたブーンの進行方向がどーで……
     それからぐるぐる回って水面に落ちた方角がこうだから………」


水平線の彼方を指差したまま、なにやらブツブツと呟くツン。

本当に頭がおかしくなっちゃったのかお?

そんな不安に駆られていたブーンだが、
しばらくして「わかった!!」と声を上げた彼女は、先ほどと正反対の方向を指差した。


ξ゚ー゚)ξ「こっちよ!少なくとも反対側じゃないわ!!」

( ´ω`)「ホントかお〜〜?」

ξ゚∀゚)ξ「おほほほほほwwwwwあたしが何年ナビをやってきたと思っているのよ?
     方向感覚だけには自信があるんだから!!」


腰に手を当て、無い胸を張ってふんぞり返るツン。
そんな彼女の姿にくすりと笑みを返すと、ブーンはエンジンを始動させた。






( ^ω^)「それじゃあ、『エデン』に行っちゃってもいいかお!?」


ξ゚ー゚)ξ「いいとも――――――!!」



銀色の機械の鳥は二人を乗せて離水。

一路、ツンの指さす方角へと進路を取った。




それからどれくらいの間、空を飛んでいたのだろうか。
もはや時間の感覚は、とうの昔に消えうせていた。

流れる風景は一向に灰色の空と水面だけで、
もはや自分がどちらに向かって飛んでいるかさえもブーンにはわからなかった。

そんな少年に向けて、
ツンは根拠の無い自信に裏付けられた声で方角を修正していく。


少年の目に映る世界は、灰一色。
ツンの顔も、空も、水面も、すべてが灰一色。


少年は静かに眼を閉じる。
心臓の鼓動が聞こえてくる。


夢が今、自分の目の前にある。


初めて空を飛んだあの日、
太陽に手を伸ばしても届かなかったあの日から
流れ、流れ、流れ、少年はここまでたどり着いた。




父の背中を追い、遥かなる空を渡りたどり着いたこの場所。
少年は今、夢へ続く最後の空を行く。

少年は眼を開ける。
世界に色が戻る。

バックミラーに映るのは幼馴染。

初めて空を飛んだあの日から、ずっとこのミラーには彼女が映っていた。
その顔には、昔とは比べ物にならないほどに頼もしい表情。
彼女もまた、この空でたくましく成長したのだ。

少年はゴーグルをはずし、目の前に広がる光景を注視した。

水平線の遥か彼方。
灰色の世界の上空からさす、本当に細い、一筋の光。


まるで、空の糸。


その下に、本当に小さな極小の点が姿を現す。
眼を凝らせば、それは眼に柔らかな緑色。




ξ;゚听)ξ「ブーン……」

( ^ω^)「……わかっているお」


間違いない。
あれは、『エデン』だ。

灰色の世界、終わった世界に残された最後の楽園。
空の夢追い人たちが血眼になっても見つけられなかった場所。

その道程で、たくさんの命が空に消えた。

二人の父、ジョルジュとその幼馴染、ギコ、しぃ、
そして、名前も顔も知らない勇敢な空の住人達。

彼らの命の遠吠えが、灰色の空から鳴り響く雷鳴に重なって聞こえてくる。


僕達は行く。
たくさんの人達が開拓した道をたどって、この空を行く。


銀色の飛行機械はスピードを上げた。
その姿はまるで光に吸い寄せられる虫のごとく、一直線に光のさす方へと消えていった。


第二十八話 おしまい




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