第三十話  「それでも来た道」





旧世界と新世界。
二つの世界を分かつ、雲海の穴。

その壁面は白く垂直で、そして、雲海の深さを如実に表すほど長かった。
まさに、世界の壁、世界の果てと呼ぶにふさわしい雲海。

その深淵を、銀色の空の舟はひたすらに駆け上がった。

やがて雲海の穴を抜け、二人は自分達の世界へとたどり着く。

しかしそれでもなお、ブーンは上昇を止めない。
ひたすらに……まるで狂ったかのように空を駆け上る。




ξ;゚听)ξ「ブーン!もう雲海は出たんだよ!!」


前部座席に座る幼馴染の様子に不審さを感じ、声を掛けるツン。

ブーンはその声など聞こえていないかのようにさらに上昇。
やがて限界高度まで達すると、機体を水平に戻し、そこから雲海の穴を覗き込んだ。


( ´ω`)「……小さいお。本当に……小さい穴だお」


見下ろした雲海には、針の穴ほどの『エデン』へと続く道。
この広い空で、こんな小さな穴を見つけるなんて至難の業だ。


そして、その先にあったものは……


少年はにらみつけるように旧世界の入り口を見つめると、
そのまま飛行機械を空へと進めた。




ξ;゚听)ξ「ブーン……あれ……」

(;゚ω゚)「……こんなところまで来ていたのかお」


たどり着けるかわからないはずだった戦艦『VIP』。

燃料切れの不安とともに『エデン』を出発した二人は、
わずか二時間程度の飛行の末にその姿を確認した。

しかし、二人に安堵と拍子抜けのため息は無い。

代わりに二人は、目の前に広がる光景に眼を見開く。


ξ;゚听)ξ「……メンヘラの後発部隊」


見開いた瞳の視線の先。

『VIP』のはるか後方には、
まるで飴に群がるアリの群れのごとく付きまとう空中戦艦の群れ。




十……いや、二十はいるであろうその艦隊を率いるようにして先頭に浮かぶのは、
先日撤退したはずのラウンジ艦隊旗艦『ジュウシマツ』。

まだ距離は大分あるが、それでも戦闘は避けられないだろう。

先日の空戦でラウンジ艦隊を打ち破った『VIP』。
もはや『無敵艦隊』と称しても異論は無いであろうそんな『VIP』でも、
これだけの物量差を跳ね返す戦力があるはずは無い。

その一員である自分達が一番わかっている。


ξ;゚听)ξ「ブーン……」

(;゚ω゚)「わかっているお。とにかく今は、
    ショボンさん達に『エデン』の真実を伝えることが先だお!!」


少年はゴーグルをかけ直すと、アクセルを一気に踏み込む。
空の舟は、そのまま一直線に『VIP』上部甲板へと向かった。




('∀`)「ブーンちゃん!生きていたのね!!」

(;゚ω゚)「ぶおおおおおおおおおおおおおお!!」


甲板に着陸するや否や、ブーンはオカマの強烈な抱擁を受けた。

あまりの力強さに背骨が折れそうになり、
頬を擦り付けてくるオカマの顔の気持ち悪さに失神しそうになる。

そんな二人の様子を横目に、上部甲板へと飛び降りたツン。

見上げた空はいつもどおりの蒼で、
周囲を見渡せば、そこには『VIP』乗組員のほぼ全員が揃っていた。


川 ゚ -゚)「生きていたのか、ツン」


見慣れた集団の中から、隙間を縫うようにしてツンの前へとやってきた蒼風。
彼女の姿を見て、ツンは顔を伏せた。




ξ;゚听)ξ「クーさん……あの時は……ごめんなさい」

川 ゚ー゚)「その件についてはあとでゆっくり説教する。
     とにかく今は……よく帰ってきたな」


そう言ってニッコリ笑うと、クーは右手をツンの前に差し出す。
その手を弱弱しく握り返すと、ツンは周囲を見渡しながら言った。



ξ゚听)ξ「みんな……聞いてください。あたし達は、『エデン』に行ってきました」




         ナ ゝ   ナ ゝ /    十_"    ー;=‐         |! |!   
          cト    cト /^、_ノ  | 、.__ つ  (.__    ̄ ̄ ̄ ̄   ・ ・   

  j    /   ,.- 、  ヾヽ、 ;; ;; _,-<  //_,,\' "' !| :l ゙i !_,,ヽ.l `ー─--  エィ' (. 7 /
      :    ' ・丿   ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `ー-'メ ,.-´、  i     u  ヾ``ー' イ____<うるさい奴らじゃのぅ
       \_    _,,......::   ´゙i、 `¨ / i ヽ.__,,... '  u ゙l´.i・j.冫,イ゙l  / ``-、..- ノ :u l ,− ,−\ / ̄ ̄ ̄ ̄\
   u      ̄ ̄  彡"   、ヾ ̄``ミ::.l  u   j  i、`ー' .i / /、._    `'y   /, |・  |・ | ヽ_____ヽ
              u      `ヽ  ゙:l   ,.::- 、,, ,. ノ ゙ u ! /_   ̄ ー/ u /  `−●-' \ヽ , ─ 、 , ─ | <エデンに
           _,,..,,_    ,.ィ、  /   |  /__   ``- 、_    l l  ``ーt、_ /  / ──  | ──ヽ|・   |・   |  行ってどう思った?
  ゙   u  ,./´ "  ``- 、_J r'´  u 丿 .l,... `ー一''/   ノ  ト 、,,_____ ゙/ /..  ── | ── .|`─ 'っ - ´|
        ./__        ー7    /、 l   '゙ ヽ/  ,. '"  \`ー--- ",.::く、 |    ── | ── |.____) /
       /;;;''"  ̄ ̄ ───/  ゙  ,::'  \ヾニ==='"/ `- 、   ゙ー┬ '´ / \.____|__) / ___/
、      .i:⌒`─-、_,....    l   /     `ー┬一'      ヽ    :l  /  , ' `ソヽ      /l \/\| \
ヾヽ     l      `  `ヽ、 l  ./  ヽ      l         )  ,; /   ,'    '^i━(t)━━l |      | |

         ↑荒巻スカトロチノフ       ↑乗組員A      ↑乗組員B      ↑竹原  ↑国分




/ ,' 3「それはまことか!?」


見事な反応を見せた乗組員達の足元を、
起用に転がりながらツンの前に出てきた荒巻。


( ゚д゚ )「興味深い話だな」

(´・ω・`)「どれ、kwsk聞こうじゃないか」


すばらしいリアクション芸人達の先頭に立つショボンとミルナも、
ツンの前へと歩み寄る。

そこへグッタリと首を垂れるブーンを抱きしめたオカマと、
そんなブーンの頭を指でつんつん突付いているモナーも加わる。

『VIP』の主要なメンバーが自分の目の前に現れたことを確認すると、
ツンは静かに『エデン』の全容を語り始めた。




ξ゚听)ξ「雲海の下で合流したあたし達は、
    そのまま一路、『エデン』を目指しました」

( ゚д゚ )「待て、どうやって『エデン』の方角がわかったんだ?」


いきなり質問を浴びせかけるミルナ。
その言葉にツンはクーの方を向いた。


ξ゚ー゚)ξ「クーさんとモナーさんに鍛えられた方向感覚と……気合です」

川 ゚ー゚)「……そうか」

( ´∀`)「たいしたもんだモナー」


我が子の成長をいとおしげに眺める親のような表情のクーとモナー。




ξ゚−゚)ξ「それからどれくらい飛んだかは定かではありません。

    ただ、『VIP』から発進したのが朝で、
    『エデン』へと到着したのが昼過ぎでしたから、
    おそらく六〜七時間だったと思います。

    あたし達は灰色の世界を、
    上空……雲海の隙間から射る一筋の光を見ました。

    その光の差すほうへ飛ぶと、光の下に広がっていた島がありました。
    ……それが『エデン』でした」 


そのときの感動を思い出してか、無表情だったツンの顔に笑みが宿る。
しかし、すぐに表情を引き締めると、彼女は続けた。


ξ゚−゚)ξ「確かに『エデン』は……楽園と呼べるものでした。
    
    雲海に開いた穴から降り注ぐ太陽の光。
    灰色の雲海に映える、終わりを見たことも無いほどの蒼空。

    歌う鳥達。自由気ままに生きる小動物達。
    渡っていく風たちは柔らかで、流れる水は日の光を浴びてキラキラと透き通っていました。

    生い茂る草木。とろけるようにおいしい果実。

    それらのすべては美しい原色で、
    『エデン』は灰色の世界の中で唯一『色』を持った島でした」




/ ,' 3「まさに神話に描かれた『エデン』そのものじゃのぅ」


淡々と美しい楽園の様子を語るツンに投げかけられる、荒巻の声。
人生の大半をかけて探し続けた楽園の真実に、彼は眼をうっとりさせながら聞き入っている。

しかし、そんな彼の期待を裏切るかのようにツンは自分の絶望を語り始める。


ξ゚−゚)ξ「はじめは、あたしもそう思いました。
    
    だけど……違ったんです。
    『エデン』は楽園なんかじゃありませんでした。
 
    島の奥に広がっていたのは……旧世界の人々の醜い争いの跡。
    遥かなときを経ても原形をとどめる兵器たちに、あたし達は唖然としました。

    こんな兵器を作る技術があったのに、なぜその人達は争いという道をとったのだろう?
    みんなで仲良くその島に住むか、雲海の上……新たな世界に逃げればよかったのに……」


そこまで言うと、ツンは唇を噛みながら顔をうつむける。
しばらくの間、甲板に人の声は響かなかった。




(´・ω・`)「楽園であるがゆえに、欲望の塊であった人々の争いの火種となったんだろうね」


沈黙を破ったのは艦長ショボン。
相変わらずの無表情で、ツンの話の間、彼は喜びも悲しみも現さなかった。


( ´ω`)「その通りですお」


オカマの胸に抱かれて死んでいたはずのブーン。

彼は、「まだだ。まだ終わらんよ!」と言いたげな顔でオカマの腕から這い出ると、
似合わない引き締まった表情でオカマの前に立って、続ける。


( ´ω`)「僕やツンの父ちゃん、長岡さん、ギコさんにしぃさん達が死んで、
     生き残った僕達が命をかけて……生きてきた日々のほとんどをかけてたどり着いた先。
     そこに広がっていたのは、美しい島に隠された人間の醜さだけだったんですお」


ブーンの瞳の中に輝くのは、確固たる意思の光。
少年は真っ直ぐに、『VIP』最高権力者ショボンの顔を見つめた。


( ´ω`)「あんな島に……命をかける価値なんて無かったんですお。
     ショボンさん、引き返しましょうお!
     大きく迂回すれば、あのメンヘラの大部隊からも逃げ切れるはずですお!」




(´・ω・`)「……なるほどね」


こちらを射る少年の眼差しを受け止め、ショボンはこめかみを指で揉む。
何かを考えているような仕草。
彼は大きくため息を一つつくと、ブーンの顔を真っ直ぐに見返して、言った。


(´・ω・`)「君たちの意見は非常に尊重すべきものだね。
     君たちの表情、語り口、そして瞳の輝き。おおよそ嘘をついているようには見えない」


ショボンの肯定の言葉。
への字に垂れ下がった彼の眉が、発した言葉に優しさを添付する。
その表情に、ブーンの顔に浮かぶは喜び。


( ^ω^)「そうですお!だから、早くこの空域から離脱しましょうお!!」


身を乗り出して力説する少年。
しかし、ショボンの次の言葉は彼の期待を打ちのめす。


(´・ω・`)「だけどね、それでも僕達はこの空を行くよ」


相変わらずの無表情。
しかし、瞳だけは先ほどのブーン同様、ゆるぎない意思の光が宿っていた。




(´・ω・`)「君達の忠告を無視して、それでも僕が『エデン』に行く理由は二つ。
     一つは、君達の語る『エデン』の真実はあくまで君達の主観によるものに過ぎないということ」

( ^ω^)「……」

(´・ω・`)「同じ光景でも、見る者によってそこから読み取るものは様々だ。

     たとえば、雨上がりの夕焼けの空を思い浮かべてごらん?
 
     それを見て、『ああ、今日もつらかったけど、明日もまた頑張ろう』と思う者もいれば、
     ただ一瞥して、何も感じることも無く黙って我が家へと帰っていく者もいる。

     どちらが正しいのか、幸せなのかということは、語る価値も無いことだ」


淡々とたとえ話を繰り広げるショボン。
彼に賛同したのか、傍らに立つ副官のミルナが彼の言葉を引き継ぐ。


( ゚д゚ )「お前達は『エデン』を見て、絶望を……人間の愚かさ感じ取ったのだろう?
    しかしな、お前達の話を聞いて、俺はこう感じたよ。
    『人々が争いを繰り広げるほどに価値のある島』だとな」


スーツのポケットに両手を入れたまま、ミルナはブーンとツンの意見を一刀両断した。
さすがにそれには頭にきたのか、ブーンは彼に怒声を浴びせかける。




( ゚ω゚)「それなら、あんた達は人の死が……長岡さん達の死が、
    『エデン』の価値を高めるための飾りに過ぎなかったとでも言うのかお!?」

( ゚д゚ )「ふざけるな!誰もそんなこと言っていないだろう!!」

( ゚ω゚)「言っているも同然だお!

    結局ミルナさんは、自分が価値のあるものを手に入れられれば、
    人の死なんてどうでもいいと思っているんだお!

    ショボンさんだってそうだお!
    長岡さんのお葬式の時だって、二人はいつもの無表情で淡々としていたお!!」


吐き捨てた少年の視界が歪んだ。
直後に後頭部から襲ってくる衝撃。

顔を上げると、息を荒くしたミルナが恐ろしい剣幕でこちらを見下ろしていた。

頬が厚い。
口内に広がるのは鉄の味。

自分が殴られたことを知覚した少年は、
それでも倒れた甲板の床からミルナの顔をにらみつける。




('A`;)「副艦長、やめなさい!」

( ゚д゚ )「離せ!こいつは……俺の想いも知らんで!!」


駆け寄ってきた巨大なオカマに羽交い絞めにされ、
身長156cmのミルナは身動き一つ取れない。

ツンはブーンのもとへと駆け寄ると、幼馴染に肩を貸して抱き起こそうとする。
そこにショボンの姿が現れ、見上げる少年へと手を差し伸べる。

その手を取ることなく立ち上がったブーン。

そんな彼を「やれやれ」と言う表情で一瞥すると、
ショボンはミルナとブーン、そしてツンの間に立つ。


(´・ω・`)「活発な議論は結構だ。でも、喧嘩はしてはいけないよね」


にらみ合う両者を交互に見ると、そのままショボンは話を続ける。




(´・ω・`)「さて、先ほどの続きだ。
     僕がそれでも『エデン』を目指す二つ目の理由。
 
     それはね、単純なものさ。
     そして、もっとも大切な理由。

     『僕は実際にエデンを見ていない』

     これだけで、僕は君達の言葉を否定してまで
     『エデン』へと向かう理由としては十分だと考える」

( ゚ω゚)「……僕達の言葉を、信用していないんですかお?」


殴られた頬をそのままに、ショボンを真っ直ぐに見詰めるブーン。
彼の眼差しは、すべてのごまかしをいっさい許しはしない断罪の意思を宿していた。

そんな彼の眼差しに臆することなく、更に続けるショボン。


(´・ω・`)「そんなことはない。
     長年、君達とともに過ごしてきた僕だ。

     君達の言葉が真実で、
     僕達のことを真剣に考えたからこそ発せられた言葉だということは
     僕は十分に理解しているつもりだ。だがね……」


いったん言葉をとめると、ショボンは自分達を取り囲む『家族』の姿を見渡した。




(´・ω・`)「……命をかけ、
     大切なものを失ってまで追ってきた人生の目標を、
     実際に目の当たりにしないまま

     『価値は無いのでイってはダメです』

     と言われてもね、諦める気には到底なれないんだよ。
     たとえそれが本当に、目指すべき価値が無いものであってもね」


ショボンはそのままブーンの目の前まで歩を進めると、彼の肩をポンと叩いた。


(´・ω・`)「君が仮に僕達の立場だったらどうする?
     君は、『エデン』を目指すことを諦められるかい?」




至近距離から、ジッと問いかけるショボンの瞳。

その瞳の中に、少年はどこまでも広がる『空』を見た。

かつて少年だったすべての者が宿していたであろう、瞳の世界。
夢を一途に追う者の瞳に宿る、宝石の輝きにも似た美しい光。
吸い込まれそうな、そのままそこへ堕ちてしまいそうな程の深い蒼穹。

世界の醜さを知るたびに、その世界は狭まっていき、やがてその輝きは失われる。

その時、人は大人になるのであろうか?

ブーンはホモなわけではない。
だけど、一人の人間として、ショボンの瞳を美しいと感じた。


そして、思った。


今の自分の瞳の中にも、『空』は広がっているのだろうか、と……。




(´・ω・`)「そういうことさ。わかってくれたかな?」


うつむく少年に投げかけられるショボンの言葉。
直後に彼は垂れ下がった少年の右腕を手に取ると、その手のひらを硬く握りしめた。


(´・ω・`)「おめでとう」

(;^ω^)「……はい?」


予想だにしないショボンの言葉。


(´・ω・`)「一人の夢追い人として、僕は君たち二人を尊敬する。
     
     本当におめでとう。

     結果がどうあれ、君達はその夢をかなえたんだ。
     堂々と胸を張りたまえ。君達に、そんな表情は似合わない」


突如投げかけられた賛辞の言葉に、ツンとブーンはキョトンとした顔を上げる。
視界に広がるのは、はじめてみるショボンの満面の笑み。

更にその直後、二人を囲う『VIP』の乗組員達から浴びせられる祝福の拍手。




('∀`)「ぶほほほほwwww
   やっぱりあんた達二人はあたしの見込んだ通りだったわ!」

/ ,' 3「ほっほっほ。たいした小僧どもじゃよ、お前達は」

( ´∀`)「僕はお前達の教習をつけられて幸せだモナー!一生の自慢だモナー!!」


次々と浴びせかけられる賛辞の言葉。
それをただ呆然と聞いている二人の前に、ミルナとクーが歩いてくる。

ミルナはブーンの、クーはツンの手を取ると、その手のひらを硬く握り締めた。


( ゚д゚ )「さっきは殴ってすまなかった。
    しかし、俺の気持ちは艦長と同じだ。俺はお前を尊敬しているよ」

(*^ω^)「ミルナさん……」

( ゚д゚ )「まさか、あの寝ぼすけがここまでの男になるとはな。考えもしなかったよw」


ニヒルな笑みを浮かべると、ミルナはブーンの手のひらを更に強く握り締めた。
そして、少年もその手のひらを、笑って握り返した。




一方その隣では、クーがツンに語りかけている。


川 ゚ -゚)「想い人のために嵐の空へと飛び出した君を、私は心底尊敬する」

ξ;゚听)ξ「いや、そんな……あたしはただの馬鹿ですよ」

川 ゚ -゚)「ああ、君は馬鹿だ」

ξ#゚听)ξ「……」

川 ゚ー゚)「だが、それがいい。そんな馬鹿だからこそ、私は君を尊敬する
    私も、君の馬鹿さ、正直さを見習わんといかんな」


そう言うと、クーはツンの耳元へと口を寄せる。


川*゚ -゚)「『エデン』から帰ったら、
     私はモナーに『郵便屋を一緒にしないか』と誘ってみるつもりだ」


ほんの少し顔を赤らめたクー。
そんな彼女にツンが満面の笑みを返答として返すと、クーもつられてクスクスと笑う。

二人の姿は、まるで仲のよい姉妹が二人だけの秘密を確認しあっているかのようだ。




しばらく和気藹々としていた『VIP』の上部甲板。
そこに、ショボン艦長の威厳のある声が響いた。


(´・ω・`)「ブーン、ツン。君達に僕からの最後の命令を伝える」


周囲のいっさいの音を押しつぶして響いたショボンの声。

威厳のあるその声と表情に、
ブーンとツンの二人は表情を引き締め、直立不動の体勢をとる。



(´・ω・`)「君たち二人は早急に自機でこの空域を離脱。
     なんとしても生きて故郷『ツダンニ』へと帰りたまえ」




ξ;゚听)ξ「……」

(;゚ω゚)「……ショボンさん、何を……言っているんだお?」


発せられたショボンの言葉に唖然とするブーンとツン。
艦長の命令を、少年の目の前に立つミルナが補足する。


( ゚д゚ )「ありったけの増槽、燃料、食料に水、機体の調整、そして離脱の支援。
    すべては我々が責任を持って行う。それでもたどり着けるとは限らんがな。
    お前達はひたすらに『ツダンニ』を目指すことだけを考えろ」

ξ;゚听)ξ「ちょ……ちょっと待ってよ!」


ミルナの言葉に、ツンは悲鳴にも似た叫びを上げる。




ξ;゚听)ξ「あ、あんた達を置いて
     自分達だけこの空域から離脱できるわけ無いじゃない!!」

(;゚ω゚)「そうだお!大体、あれだけの量のメンヘラ艦隊を目の前にして
     無事に『エデン』にも『ツダンニ』にも着けるはず無いですお!!それに……」


一瞬口どもり、深呼吸。

そして、少年は思いのたけを叫んだ。



( ゚ω゚)「僕は『VIP』の……『家族』の一員だお!
    『家族』はいつでも同じ行動をとるべきですお!」




少年の叫びは空に響く。
そしてそれは、うつくしい蒼を帯びて『VIP』の全員へと伝わっていく。

その言葉を受け『家族』に浮かぶ表情は笑み。
彼らの瞳は、優しく少年と少女を包む。


(´・ω・`)「ブーン君。僕は幸せ者だ。
     だけど、君は一つ勘違いをしている」


柔和な、菩薩のようなアルカイックスマイルで語りかけてくるショボン。


(´・ω・`)「君は『エデン』へとたどり着いた。
      その時点で、君は『家族』から自立したんだよ。
      君たち二人は紛れも無い僕達の子供だ。

      だがしかーし!!

      自立した子供は『家族』から巣立ち、
      新たな自分の『家族』を築かなければならない」


ショボンはブーンの肩に両手を置くと、彼の瞳に語りかけるように続けた。





(´・ω・`)「 や ら な い か 」


(*^ω^)「 う ほ っ 、 い い 男 」



以上、NGシーンでした。




(´・ω・`)「人一人に守れるものなんてたかが知れている。
     
     『家族を守るためだったら何だってする』
 
     そんな偉そうな事を言った僕だが、
     僕が守れたものなどほとんど無い。
 
     ジョルジュ、その幼馴染、ネコ耳、
     そして、君たちは知らないであろう『VIP』黎明期に死んでいったたくさんの家族達。
 
     僕が守れたものなんてね、本当にわずかなものなんだよ」


その瞳に一瞬かげりが見えた。

それでも輝きを失わないその瞳は、
これまでどれほどの悲しみを乗り越えてきたのだろうか?




(´・ω・`)「ブーン君。君の本当に大切なものは何だい?
      それが僕達『VIP』だというなら、僕達は喜んで君たちと『エデン』へと向かおう。
 
      ……しかし、君の本当に大切なものはそうではないだろう?」


そう言うと、ショボンは視線をブーンの隣に立つツンに移した。
すぐに少年へと戻ったその瞳は、ジッと答えを待っている。


(´・ω・`)「大切なものの名を口に出さなくてもいい。
     ただ、君がこれから取りたい行動、それだけを言ってくれればいい。
 
     さあ、これから君が行く空の先には、いったい何が待っているんだい?」




少年は顔を上げ、周囲を見渡した。

足手まといだった自分を、ここまで育て上げてくれた『家族』達。
彼らは、暖かなまなざしで自分達を見つめている。

かけがえのない、強い絆。
失いたくは無い、大切な仲間達。

もしも自分に力があれば、喜んで自分は再び絶望の楽園へと向かうだろう。

だけど、自分に彼らを守る力などない。
自分に出来ることは、父の残した飛行機械で空を行くこと。

そして、その座席に乗せられるのはたった一人。

少年は空を見上げた。
いつも自分の傍らにあり、やさしく包んでくれていた蒼。


もしも空を人に当てはめるのならば、それはいったい誰なのか?


答えは決まっている。
あの暗闇の中で、自分の兄がそれを教えてくれた。

兄が指さした先にいたのは……紛れも無いブーンにとっての『空』だ。




(´・ω・`)「メンヘラの艦隊が動き出したようだね。

      ……さあ、答えを聞こうか。

      君の行く、空の彼方にあるものは?」


投げかけられるショボンの言葉。
少年は、真っ直ぐな瞳でそれに答えた


( ^ω^)「……僕達の故郷……『ツダンニ』ですお!!」


ショボンはブーンの言葉に笑みを返した。
その時、彼はたしかに見た。


少年の瞳の中に宿る輝き。


それはいつまでも曇ることの無い、空の色だ。



第三十話 おしまい



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