( ^ω^)が空を行くようです


最終話 「この世の果てまで」


少年の言葉を聞き届けた『VIP』の乗組員達は、
意気揚々と彼らの持ち場へと駆け出していく。

彼らの後方に浮かぶ無数の戦艦の艦影。
『エデン』への最後の戦いに向け、総員の志気は最高潮にまで高まっていた。

ショボンにミルナ、そして荒巻はブリッジへ、
クーとモナーは彼らの飛行機械の置いてある下部甲板の格納庫へ、
それぞれ駆け出していった。

上部甲板に残ったのはその他の飛行機械のパイロット達と整備班、
ブーンとツン、そして、二人の飛行機械の整備を担当する毒男。

オカマは整備班にテキパキと指示を出すと、
格納庫の奥からたくさんの増槽を持ってこさせた。




('A`)「あんた達の機体に限界まで増槽を取り付けるわよ。
   それと駆動系を少しいじらせてもらうわ。

   これで燃費と燃料の積載量は格段に上がるけど、
   スピードに旋回性能、その他空戦において重視される能力は格段に落ちるわ」


二人の機体を目にも留まらぬ速さでいじくり回すオカマ。
そんな彼に手を貸し、ブーンとツンは増槽の取り付け作業にかかる。

船底のカバーを取り外し、駆動系をいじるオカマ。

早々に増槽の取り付け作業を終えた二人はオカマの手伝いをしようとするが、
「ここはあんた達が手伝うと邪魔よ」と一蹴されてしまう。


('A`)「それより、出来るだけ休息を取っておきなさい。
   これからあんた達は何日も空を飛び続けなければならないのよ。

   それと、座席部分にもありったけの燃料を積んでおきなさい。
   はっきり言って、無事に『ツダンニ』までたどり着ける可能性は低いんだからね」


その言葉を受け、燃料積載用のポリタンクを取りに格納庫へと走る二人。

中身を満タンにしたそれを座席に積み込むと、
ブーンはひたすらに作業を続けるオカマに向かって話しかける。




( ´ω`)「毒男さん……」

('A`)「……なによ?」


こちらを見ようともしないで、オカマは作業を続けながら答える。


( ´ω`)「僕達は……本当にこれでいいんですかお?
     お世話になった『VIP』に何も恩返しできないで、
     このまま故郷へと逃げ帰っていいんですかお?」


汚れたツナギの袖で汗を拭った毒男。
彼はブーンにグリスを渡すように言うと、それを受け取ってから話を続ける。


('A`)「……馬鹿言っちゃいけないわ。
   ここから『ツダンニ』へ帰るのも、メンヘラと戦って『エデン』へ降りるのも、
   どちらも厳しい試練であることに変わりは無いのよ。
   あんた達は、自分に与えられた命令に全力を尽くせばいいのよ」


そこまで言うと、作業を終えたらしいオカマは船底部のカバーを取り付け、
オイルにまみれた姿で二人の前へと歩み寄る。




('∀`)「元気でやるのよ?必ず生きてツダンニへとたどり着きなさい!」


直後に「ぶほほほほwwwwww」と大笑いをして、
オカマはオイルがこびりついた両手を二人の頭上にポンとのせる。

二人の鼻に、香水とオイルが混じった毒男特有の香りが漂う。
その嗅ぎなれた香りに、二人の涙腺は緩んでいく。


( ;ω;)「……毒男さん……」

ξ;凵G)ξ「……そんなこと言わないでよ……まるでもう会えないみたいじゃない!」


自分の発した言葉に刺激されたのか、ツンはわんわんと大声で泣き始める。
そんな彼女を、オカマは太い腕で抱きしめた。


('∀`)「ばかねぇ……あたしが死ぬわけ無いじゃない?
   オカマは不死身なのよ!ぶほほほほwwwwwwwwwwwww」


それでもツンは泣き止まず、オカマの胸に顔をうずめてしゃくり声を上げ続ける。
上下に震えるツンの肩に手をやり、彼女の体を優しく支えるオカマ。

そんな彼に向けて、神妙な顔をしたブーンはこれまで聞けなかったことをたずね始める。




( ;ω;)「毒男さん、飛び立つ前に聞かせてくれお。
     どうして毒男さんは……『VIP』に入ったんだお?」


オカマはツンの背中をさすりながら、微笑を浮かべてブーンを見る。


('A`)「……オカマはね、肩身が狭いのよ。
   様々な偏見に差別、しまいには親兄弟にまで勘当されてね。
 
   それからあたしはずっと……一人で生きてきたの。

   この美しい肉体美と整備の技術、そして、不屈の精神だけを頼りにね」


遠く空を眺めながら、オカマは懐かしそうに言葉を連ねる。


('A`)「……あの頃のあたしは……荒れていたわね。
   連日飲み屋を渡り歩いて、喧嘩三昧の日々。
   そんなある日、あたしは一人の男にぶちのめされたの。
   それが、ショボン艦長よ」




視線を空からショボンの定位置であるブリッジに向けるオカマ。


('∀`)「あの人はベコベコに顔のへこんだ醜い顔のあたしに向かって
   手を差し伸べて言ったわ。
 
   『僕の家族にならないかい?』ってね。

   ……うれしかった。
   ……本当に、うれしかったわ。

   それからの日々は、本当に夢のように過ぎ去って行った。
   
   そして今、ジョルジュとその幼馴染、
   副艦長に荒巻のお爺さま、クーにモナー、あんた達二人。

   ずっと昔に失った家族という名の絆がね、あたしの手の中には確かにあるのよ」


オカマはブリッジに向けて一礼すると、ツンをブーンのもとへと促す。
泣きじゃくる彼女の身体をしっかりと受け止め、少年はオカマの姿を見据えて言った。








( ;ω;)「毒男さん、これまで本当に……
      お 世 話 に な り ま し た お ! ! 」






('∀`)「何言っているのよwそれはこっちのセリフよ」


深々と自分に向かって頭を下げるブーン。

すっかり大きくなった彼の姿をいとおしげに眺めると、
オカマは少年の目の前まで歩み寄り、言った。


('A`)「ねぇ、ブーンちゃん。あたしからお願いがあるの」

(;^ω^)「……な、なんですかお」

ξ;−;)ξ「……キスまでなら……許す……」


途端に緊張した表情を浮かべる少年と、泣きながらとんでもない事を言い出す少女。
そんな二人に豪快な笑い声を上げると、オカマははにかんだ表情で続ける。




(*'∀`)「ブーンちゃんに渡したジョルジュの眼帯
    ……あたしにくれないかな?
    アイツが近くにいないと、どうも整備の腕が鈍るのよw」

( ^ω^)「……お」


少年は飛行服の胸ポケットから眼帯を取り出すと、
手のひらにのせて、しばらくの間それをジッと見つめる。


長岡さん、あの時僕を救ってくれた時みたいに、
毒男さんを……『VIP』のみんなを、守ってくださいだお。


愛すべき兄貴分の遺品にありったけの願いを込めて、
少年はそれをオカマに手渡した。




('∀`)「ごめんなさいね、無理言っちゃって」

( ^ω^)「……いいんですお。僕よりも毒男さんに持っていてもらった方が、
     長岡さんも幸せなはずだお。それと……これを」


そう言うと、ブーンはポケットの中から一枚の細長いレシートのような紙を取り出す。
それを手に取ったオカマの目が見開かれる


('A`;)「ブーンちゃん……これって……」

( ^ω^)「僕達にはもう必要のないものですお。
     これが僕達から出来る、『VIP』へのせめてもの恩返しですお」

('∀`)「……ありがとう」


少年の言葉に笑みを返し、オカマは眼帯と紙をツナギのポケットの中に入れた。

そして、銀色の飛行機械を静かに指さす。
その意味を即座に理解し、二人は自分達の愛機の座席へと飛び乗った。

メーターをチェックし、エンジンを起動させる。
心地よい振動が身体を包み込み、二人の身体はふわりと宙に浮いた。




('A`)「取り付けた増槽と大量の燃料で、機体の重量は通常の倍はあるわ!
 
   空戦は厳禁!
   ギアは速度にあわせて常に最適な状態にしておきなさい!!

   もっとも重視すべきはスピードじゃなくて燃費よ!!
   小娘、わかっているわね!?泣いている場合じゃないのよ!!」


いつもと変わらないオカマのゲキが飛ぶ。

その言葉の一言一句を噛み締めるブーン。
ツンは眼にためた涙を拭うと、いつもと変わらない憎まれ口を叩く。


ξ#゚听)ξ「わかっているわよオカマ野朗!
     機体の構造は、あんたに散々叩き込まれてんだからね!!」




('∀`)「よろしい!!」


ゴーグルを下ろし、前を向いた二人。
発進合図のフラッグを片手に彼らの機体の側に立つと、最後にオカマは大声で言った。


('∀`)「いつの日か必ず、この広い空で会えるときが来るわ!!
    そのときまで、あんた達は笑顔で空を飛びまわっていなさいよ!!」

ξ゚ー゚)ξ「あんたもね!もっとも、あんたは死んでも死なないでしょうけど!!」

('∀`)「ぶほほほwwwwwww
    わかっているじゃなーい!?あたしは不死身なーのよーう!!」


豪快な笑い声を上げながら二人の進行方向へと走るオカマ。
そして、大きく振られるフラッグ。




('∀`)「さあ、どこまでも続くこの空を行きなさい!!」

( ^ω^)「……ブーン、行きますお!!」


いつもと変わらないセリフとともに発進した飛行機械。
それは徐々に加速していき、小さな銀色の点となる。


二人の第二の我が家である『VIP』。


そこから巣立っていく二匹の小鳥は、
銀色の羽を広げ、振り返ることなく広い世界へと飛び出していった。




機体が重い。
スピードがまったく出ない。
加速は鈍く、機体の反応は亀のように遅い。

自分の身体が思い通りに動かない。

これまで、少年はこんな状態に陥ったことは無かった。
『トップページ』の空も、ギコとの空戦も、旧世界の道のりも、
自分の羽は、どんなときでも軽やかに動いてきた。

怖い。

今までに経験してきたどんな恐怖よりも身体を震わせる不自由。
それでも、少年は前を向き続ける。

その視線の先にあるのは、メンヘラの大艦隊。
ラウンジ艦隊旗艦『ジュウシマツ』が率いるその群れは、
ブーン達の行く空を塞ぐ鉛色の巨大な壁。

貴重な燃料を消費してしまうが、ここは大きく迂回すべきか?

生き延びるため。
与えられた最後の任務遂行のための、最善の選択肢を模索するブーン。

そんな彼に向かって、
鉛色の巣の中から飛び出してきた無数の機械の鳥達が、機銃という名の牙を向けた。




ξ;゚听)ξ「もう迂回するには遅すぎるわ!
     このまま飛行機械の群れを突っ切るわよ!!」


周囲の状況を把握し、最善の選択肢をパイロットに提供するナビ。

頼もしいパートナーの声に震える身体を叱咤されたブーンは、
アクセルを踏み込み、一直線に群れの中へと飛び込んでいく。


ξ;゚听)ξ「三時から二機!十一時から四機!!
     まもなく三時の機体の射程内に入るわ!!」

( ゚ω゚)b ビシィ!! 「把握!」


状況判断をナビに任せ、パイロットは操縦に専念する。
機銃の無い二人の機体に、応戦という選択肢は存在しない。

……ただ全身全霊をかけて、逃げ切るのみ!!




遅い。

自分の機体も、敵の機体も信じられないくらいに遅い。

ギコさん……
『黄豹』に比べれば、今迫り来る鳥達は文字通り『烏合の衆』に過ぎない。
不自由な自分の機体は、ちょうどいいハンデだ。

ただひたすらに迫り来る鳥達の隙間を縫っていくブーン。

しかし、多勢に無勢。

メンヘラ艦隊の側を通り過ぎようとした彼らに向けて、
更に多くの鳥達がその牙を向け始める。


ξ;゚听)ξ「二時に三機!八時に一機!十時に二機!後方から五機!!
     ああもうダメ!!敵の数が多すぎるのよ!!」


まるで巣をつついた外敵に襲い掛かる蜂の群れのごとく、
二人にまとわりつくメンヘラの飛行機械達。

貪欲な鳥達の群れに、ツンは悲鳴の声を上げた。

ブーンは唇を噛み、八時の方向から放たれる火線を避ける。
それを見計らったかのように後方近距離につけた一機の敵機が、殺戮の深淵を二人に向けた。




ξ;゚听)ξ「ブーン、避けて!!」

(;゚ω゚)「動けお!この鈍ガメ!!」


愛機を罵りながらロールを繰り出そうとするブーン。
しかし、機体の反応はあまりにも鈍い。

間に合わない。

バックミラーに敵機の機銃が映った。
その深淵が、はっきりと見える。


ダメだ、避けられない。


それでも瞳を閉じないブーン。
ここまできたら、最後の最後まで前を向き続けてやる。

そして、機銃は機体を貫通した。




バックミラーから姿を消した敵機。

すぐさまロールに入ろうとした機体を建て直し、水平に戻したブーン。

彼は後ろを振り向かない。
ただ真っ直ぐに前を見詰めたまま、後部座席のツンに尋ねる。


(;゚ω゚)「ツン、何が起こったんだお!!」

ξ゚ー゚)ξ「モナーさんが来てくれたわ!!」


後方の赤い飛行機械を注視するツン。
その機体に、彼女は違和感を覚えた。

『レッドバロン』の駆る空の舟は複座式。

いつもの単座式の機体ではなく、その後部座席に誰かが乗っている。




ξ;゚听)ξ「クーさん!?」


赤い男爵の後部座席から送られてくる発光信号。
その主の名を、ツンは叫んだ。


( ゚ω゚)「ツン!発光信号の解読を!!」

ξ;゚听)ξ「りょ、了解!!
     ……『ここは任せろ。振り向くな。前を向け』だって!!」

( ゚ω゚)b ズビシィ!! 「把握!!」


その言葉に、少年はすべての神経を前方のみに集中させた。

最後に後方を振り返ったツン。

彼女の視線の先で、
『レッドバロン』と『蒼風』はこちらに向けて親指を立てていた。

その姿は、赤い複座式の飛行機械へと進路を向けた敵機の群れにさえぎられ、
すぐに見えなくなった。




川 ゚ー゚)「やれやれ、あいつらは無事に抜けられそうだな」

( ´∀`)「それはよかったモナー」


ブーン達の後方につけた敵機を落とし、発光信号を送った二人。
彼らの言葉を受け取った銀色の飛行機械は、蒼の彼方へと消えていく。

赤の機体はそのまま空戦へと突入。
後方からやってきた味方の飛行機械とともに、『レッドバロン』は空を駆ける。

モナーにとって不慣れなはずの複座式の飛行機械は、
そんなことを微塵も感じさせないかのように美しく宙を舞う。


それは、これまでに見せたことが無いほどに素晴らしい空のダンス。


『蒼風』の眼と、『レッドバロン』の技術。
現役最強と言って差し支えない二人の操る機械の鳥は、次々と敵機を落としていく。




川 ゚ -゚)「位置取りがマズイ。
     いったん空域を離脱し、体勢を立て直せ」

(;´∀`)「了解だモナー!!」


後方から響く冷静な声に、男爵は上昇を開始した。
追ってくる敵機は無く、『赤』はひたすらに空を駆け上る。

上昇する視界に広がる空は、蒼一色。

かつての自分の色を見つめ、クーは静かに微笑んだ。


(;´∀`)「……なあ、クー。ちょっといいかモナー?」


天へと駆け上がりながら、クーに声をかけるモナー。




川 ゚ -゚)「黙れ。戦闘中だぞ」

(;´∀`)「……わかったモナー」


クーの冷徹な一言に気落ちした声を返す男爵。
そんな彼の後姿を見つめてクスリと笑うと、クーは優しく語りかけた。


川 ゚ー゚)「ふふふwしょうがない奴だな。言ってみろ」


クーの言葉のあと、少し間をおいて、モナーはおずおずと言った。


(;´∀`)「『エデン』から帰ったら……
     一緒に、『空の郵便屋』をやらないかモナー?」




川 ゚ー゚)「……ぷっ!
     あっはっはっはっはwwwwwww」

(;´∀`)「な、なんで笑うんだモナー!!」

川 ゚ー゚)「いやいやwすまなかったww」


後ろから響くクーの笑い声に、再び肩をダラリと下げるモナー。
そんな彼の後姿に微笑みかけながら、クーは小さな声で呟いた。


川 ゚ー゚)「……まさか、お前も同じことを考えていたとはな」

(;´∀`)「え?なんて言ったんだモナー??」


不思議そうな声を上げる男爵。
「気にするな」と一声かけて、クーは言った。




川 ゚ー゚)「郵便屋の教習は私がしっかりつけてやる。
     そのためにも、この空戦になんとしても勝利するぞ!」

( ´∀`)「ホントかモナー!?
      み な ぎ っ て き た モ ナ ー ! ! 」


狂喜の雄叫びを上げ、赤い男爵は機首を下方に向けた。
そして、そのまま一直線に敵の群れの中へと突入していく。


体内に流れる熱い血、炎のように燃え上がる情熱の『赤』。
すべての命を潤し癒す、気高く美しい水と空の『蒼』。


誇り高き『二つ名』を冠する二人のパイロット。


彼らが駆る赤い空の舟は、眼下に広がる、最後の戦場の空を行く。




( ゚д゚ )「スロウライダー達は無事にメンヘラ艦隊の包囲網を突破したようだ」


ブリッジの窓から双眼鏡を片手に戦場の空を眺めていたミルナ。

銀色の飛行機械の姿を見届けた彼は、
艦長席に座るショボンの方へと顔を向ける。


(´・ω・`)「それはよかった」


そう言葉を返し、ショボンは眼を細めて眼前に広がる空を眺めた。

肉眼では確認できない距離まで飛び去っていった『VIP』の子供達。

二人が消えた方角をしばらく見据えると、
安堵のため息をついて、背もたれへと身体を預ける。




( ゚д゚ )「ふんwさすがのお前も緊張していたようだな」

(´・ω・`)「まあね。しかし、さすがはブーン君たちだ。
     もちろん、二人を援護した『レッドバロン』と『蒼風』も素晴らしいがね」


誇らしげにふんぞり返るショボン。
そんな彼に向かい、副官は現実的なことを聞く。


( ゚д゚ )「あいつらは無事に『ツダンニ』へとたどり着けるだろうか?」

(´・ω・`)「無理だろうね」


即答で返すショボン。
それでも偉そうに胸を張り、続ける。


(´・ω・`)「だけど、どこかの島にはたどり着けるはずさ。
      そこから『ツダンニ』へと帰れるか否かは彼らしだい。
      まあ、僕の息子達だから全然心配はしていないがね」


ショボンは副官の顔を見てニヤリと笑う。
ミルナは「そうだな」と言って笑みを返すと、再び戦場の空を眺めた。




( ゚д゚ )「物量差は絶望的だな。
    『VIP』ごと、メンヘラ艦隊へ突っ込むか?」


再び双眼鏡を眼に当て、繰り広げられる空戦の戦況を分析するミルナ。

空を埋めつくのは、ほとんどがメンヘラの空中戦艦と飛行機械。
その隙間を縫うようにして、わずかな『VIP』の鳥たちが駆け回っている。

煙をふいて堕ちていくのは、ほとんどがメンヘラ所属の機械の鳥。

しかし、しばらくすると、
こちらに向かって煙を吹きながら戻ってくる『VIP』の飛行機械の姿が目立ち始める。

見下ろした上部甲板では、まさに戦場のように整備班が右往左往を繰り返していた。




( ゚д゚ )「……俺達の夢もここまでか」


寂しそうに呟いて、ミルナは双眼鏡を下ろした。
しかし、その表情に後悔の色は無い。

そんな彼に向けて、ショボンの呆れたような声がかけられる。


(´・ω・`)「やれやれ、君は相変わらずのマイナス思考だね」

( ゚д゚ )「艦長がプラス思考すぎるからな。
    副艦長は常に最悪の状況を想定して行動せざるを得んのさ」


そう言って顔を見合わせた二人はゲラゲラと笑い声を上げる。
ひとしきり笑った後、ショボンは懐かしそうにミルナへ一声かけた。


(´・ω・`)「『VIP』を結成してもう二十年か……早いもんだね」

( ゚д゚ )「ああ……そうだな」


それきり、二人は言葉を発しない。
常に同じ道を歩んできた二人に、言葉など必要なかった。




しばらくの沈黙の後、
ショボンは立ち上がり、窓の側へと歩を進める。

そこから見えるのは、上部甲板を走り回る彼の『家族』の姿。


(´・ω・`)「これだけ多くの愛すべき家族を持てた。
     『エデン』という夢は叶わないかもしれないが、僕の人生に悔いは無い」

( ゚д゚ )「ふん。お前らしくない言葉だな」

(´・ω・`)「たまには弱音を吐いてもいいだろう?
     今の僕は、子離れしたばかりの親の心境なんだから」


ショボンのその言葉に、再び二人は笑い合う。


(´・ω・`)「たくさんの家族を養い育て、
     僕はその種子を空へ無事に放つことが出来た。
     ……家族の長として、これ以上の幸せはないよ」




/ ,' 3「じゃがのぅ、子を自立させた親は、
   次は自分の幸せを考えねばならんのじゃ」

('∀`)「ぶほほほwwwwwwwwそうよ、艦長!!」


いつの間にか姿を消していた荒巻は、
巨大なオカマを引き連れて、ブリッジの扉の前に転がっていた。

オカマは荒巻を蹴っ飛ばしてショボンとミルナのもとに駆け寄ると、
一枚の紙を手渡す。

それを見た二人の目が、見る見るうちに見開かれていく。


( ゚д゚ )「おい、毒男……これはいったい」

('∀`)「ブーンちゃん達が残した、『エデン』への飛行記録よ。
   副艦長、あんたなら、この数字の羅列を見ただけで
   『エデン』の位置がわかるんじゃない?」


オカマの言葉を無視し、食い入るようにその飛行記録を解析するミルナ。
彼の顔に笑みが宿ったことを確認すると、ショボンは館内放送用のマイクの前に立つ。

咳払いを一つして、彼はスイッチを押した。





(´・ω・`)『やあ、みんな。艦長だよ。
     空戦、頑張ってくれているようだね?

     突然だが、展開中の飛行機械をすべてこちらに戻してくれ。
     我々はこのまま、一路、「エデン」へと向かう。

     飛行機械部隊はいつでも「VIP」に戻れるよう近距離に展開。
     対空砲火部隊は、飛行機械部隊を援護して、メンヘラの飛行機械をぶち殺せ。

     以上、健闘を祈る』




スイッチを切って一息ついたショボン。

振り返ると、ブリッジ内に設置された机にかじりついて、
ミルナがブーン達の飛行記録の解析に夢中になっている。

公約は果たせそうだ。
これで『VIP』は、真の家族になれる。

……兄さん、僕は、夢をかなえられそうだよ。

いとおしげにミルナの背中を眺めるショボン。
そんな彼の足元に転がってきた荒巻。

彼は床の上に寝転がり、ショボンの顔を見上げて言う。


/ ,' 3「お前さんの子供達は、とんでもない置き土産を残していったのぅ」

(´・ω・`)「……本当ですね」


荒巻の言葉に笑みを浮かべたショボン。
彼は顔を上げ、目の前に広がる世界を見た。

無数の鉛色の点で埋め尽くされた空。


その背景に映るのは、どこまでも美しい、蒼穹の色だ。




どれくらい、空を飛んでいたのだろうか?
いつのまにか、周囲はたそがれに染まっていた。

見渡す世界にあるのは、三百六十度、オレンジ色の空とわずかな雲ばかり。
響くのは、二人を乗せた舟の鳴らす飛行音と、渡っていく風音だけ。

少年は、中身のなくなった増槽を空に切り落とす。
それはガチャンと乾いた音を立て、雲海の底へと沈んでいった。

増槽の重みが減り、わずかに軽くなった機体はかすかに上昇する。

ふわりと身体が宙に浮く感覚。

それがなんだか心地よくて、ブーンは少しだけ笑った。




今この瞬間、世界にあるのは、
響くエンジンの鼓動と、この身を包むたそがれの空だけ。

ゆらゆら……ゆらゆら……
ドクンドクン……ドクンドクン……

頭の中に響く唯一の音に、ブーンは遠い昔、彼方にある記憶を想起した。

それは、この世に生を受ける前の記憶。
母の胎内で命の水を漂い、身を縮めていたときの記憶。

飛行機械のエンジンの鼓動は、母の心臓の鼓動。
ゆらゆらこの身を揺らす空は、希望と絶望の待つ外の世界。
自分の身体を固定するこの座席は、母の子宮。

空は世界。
飛行機械の座席は母の胎内。

多くのものを失った自分でも、座席の上はこんなにも心地よい。

彼は眼を閉じ、しばしの間、虚空を漂い続ける。

そして、想う。

どこまでも……どこまでも……
このままこの世の果てまで行けたら、どんなに幸せだろうか、と。




ξ゚−゚)ξ「……進路がズレてる。機首を十度右へ」

( ^ω^)「……了解」


突然の声に眼を見開いたブーン。

久しぶりに聞いた幼馴染の声。
そして、久しぶりに発した自分の声。

戦いの空を抜けて以来、二人はまったくと言っていいほど会話を交わさなかった。
ツンが進路を修正する時に、このようなやり取りが交わされるだけ。

無理もなかった。

空を進み、『VIP』の姿が後方の空の彼方に消えたとき、二人を襲ってきたのは虚無感。
胸にぽっかりあいた穴は、埋められることなく二人の心に存在し続けた。

見えなくなって、改めて気づいた。


……自分達はもう、あそこへは戻れない。




毒男は言った。

「いつの日か必ず、この広い空で会えるときが来る」

それが心優しい彼の口から出た気休めの言葉だということくらい、
二人にはよくわかっていた。

あれだけの大部隊を、
たった一隻の無敵艦隊くらいで打ち破れるほどに、世界は優しくない。

残してきた飛行記録。
あれさえあれば、『VIP』は『エデン』へとたどり着けるだろう。

……それがどうした?
それからどうするのだ?
あの大艦隊の塞ぐ空から、生きて戻ることが『VIP』に出来るのか?

自分が残したものは、単なる気休めに過ぎない。

絶望の楽園『エデン』。

『VIP』はそれを見て肩を落とし、
後方から迫ってくるメンヘラの大部隊に絶望の上塗りをさせられるのだ。

結局自分は、『VIP』のみんなのために何も出来なかった。

自分に彼らを守る力なんて、これっぽっちも存在しなかった。




これから、自分達はどこへ行くのだろう?

故郷へとたどり着けないことくらいわかっている。

燃料が圧倒的に足りない。
食料だって水だって、切り詰めても数日持つかどうかだ。

運がよければ、どこかの無人島に着陸できるかもしれない。
そこで、ツンと二人で誰かの助けを待つのか?


……それも悪くない。


ここにきて、はじめてクスリと笑ったブーン。

その直後、後部座席に座るツンの、弱弱しい声が聞こえてきた。




ξ゚−゚)ξ「……ねぇ、ブーン?」

( ^ω^)「お?」


かすかな、力ない声。
耳を澄まさなければ、彼女の声は、飛行音にまぎれてかき消されてしまう。


ξ゚−゚)ξ「……あたし達には、何が残ったのかな?」

( ^ω^)「……」


本当に弱弱しい声。
風に流れて行くその声は、触れれば壊れそうなくらいに脆く儚い。


ξ;−;)ξ「人を殺して……夢を失って……
     お世話になった恩人達を残して……自分達だけおめおめと逃げ帰って……

     あたし達がこの空で手に入れたものなんて、これっぽっちもない。
     それなのに、あたし達の手のひらからは、零れ落ちていくものばかり……」




そう言ったきり、彼女はもう何も口にしなかった。

バックミラーに映るのは、
泣き顔を両手で覆い、うつむいている幼馴染の姿だけ。

ブーンは何も答えなかった。

答えられなかったのではない。
答えなかったのだ。

今の自分が何を言っても、それは気休めにすらならない。
彼女の心を更に深くえぐり、その傷跡に塩を塗りこむだけだろう。


だけど、彼にはわかっていた。


自分の手のひらには、確かなものがまだ残っている。
自分はそれを、一生手放す気など、無い。




やがて、夜の帳があたりに降りた。

雲ひとつ無い空には、満月と星の輝き。
彼らが照らす世界は、暗い藍色を帯びてどこまでも広がっている。


( ^ω^)「ツン……寝ているおね?」


後部座席の幼馴染に向かって呟いたブーン。
バックミラーには、泣き疲れて眼をつむっている幼馴染。

本当は寝られたら困るんだけど、ほんの少しだけ寝せてあげよう。
今はその方が、都合がいい。

優しい笑みを浮かべて、彼は呟いた。




( ^ω^)「ツンは、僕達の手のひらには何も残っていないって言ったけど、
      ……そんなことないんだお」


ゴーグルを外し、遮るものなど何も無い空を見上げたブーン。


( ^ω^)「僕達には、こんなに綺麗な空と、
     そこを渡っていける飛行機械が残っているんだお」


ゆっくりと後方を振り返ったブーン。
そこには、すやすやと幸せそうに寝息を立てる幼馴染の姿。

彼女をいとおしげな眼差しで見つめると、再び夜空を見上げ、彼は言った。




( ^ω^)「そして……ツン。
     ……僕の手のひらには、君が残っているんだお」


そして、ブーンは操縦桿を引いた。
飛行機械はゆっくりと上方に弧を描き、華麗な宙返りをして見せた。

描いた軌道は満月に重なり、銀色の機体をきらびやかに色取る。


世界は広く、こんなにも美しい。


どこまでも広がる夜空に向けて、青年は始まりの言葉を呟いた。



最終話 おしまい







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