第十九話 「ルーレット☆ルーレット<橘玲Ver.>」
その夜。
『VIP』の乗組員たちは『鈍色の星』にある
最古参のバー『バーボンハウス』にて馬鹿騒ぎをしていた。
競馬場でジョルジュたちと別れた後、繁華街のパーツ屋を覗きまくり、
皆に遅れて『バーボンハウス』に入店してきたブーンとツンは、目の前の光景に愕然とした。
_
( ゚∀●)「おい、ブーン!こっち来てお前も飲めよ!!」
('∀`)「ぶほほほほほwwww万馬券当てたから今夜は大パーティよ!!」
すっかり出来上がってしまっているジョルジュとオカマ。
二人はブーンの所へ千鳥足でたどり着くと、両脇にブーンを抱えて彼を連行していく。
_
( ゚∀●)「おらおら!お前も飲めよー!!」
(;^ω^)「ちょwwww僕未成年wwwwww」
('∀`)「硬いこといってんじゃないの!
硬いのは股間のプリンスだけで十分よ!!ぶほほほほwwwwwww」
( ;ω;)「イヤ――――!!
ツン!助けちくり――――――――!!」
下品な冗談とともにブーンの口に酒瓶を突っ込むオカマ。
『あっ』
という間にグデングデンになったブーンは、めでたく馬鹿騒ぎの仲間入りを果たした。
ξ゚−゚)ξ「……ハァ」
入り口に一人残されたツンは、目の前で繰り広げられている光景を見渡した。
広いバーのど真ん中で、肩を組んで歌いだすブーンとジョルジュとオカマ。
そんな三人をはやし立てる『VIP』の乗組員達。
少し離れたソファでは、モナーが両脇に数人の女性を抱えて口説きまくっている。
ξ゚−゚)ξ「……馬鹿ばっかり」
冷めた眼で彼らを一瞥し、店の隅に目線を移す。
彼女の視線の先にはカウンターで優雅にグラスを磨く蝶ネクタイ姿の落ち着いたバーテン。
その席で一人、クーが飲んでいた。
あそこなら落ち着けそうだと、ツンはカウンター席へと近づいていく。
川 ゚ -゚)「……ツンか」
ξ゚听)ξ「どうも。隣、いいですか?」
川 ゚ -゚)「かまわんよ」
クーの肯定の言葉に、ツンは彼女の隣に腰掛けた。
途端、バーテンが渋いハスキーボイスで注文を聞いてくる。
(`・ω・´)「ご注文は?」
ξ゚听)ξ「えっとー……じゃあ、ここにある一番上質な水を!」
(`・ω・´)「かしこまりました」
この世界では、長く保存のきく酒よりも上質な水の方が高かったりする。
ちゃっかり誰よりも高い飲み物を頼んだツンは、差し出された最上級の水を一気にあけた。
ξ゚ー゚)ξ「おいし〜!!」
体に満たされていく命の水。
乾いた土に水が染み込んでいく感覚を身を持って経験したツンは、
先ほどとは正反対にご機嫌な表情を浮かべる。
一方、隣では黙って酒を口にするクーの姿。
実は彼女、べろんべろんに酔っているオカマ達よりはるかに強い酒を飲んでいたりする。
にもかかわらず、なんら顔色を変えないクー。
そういえば、この人とは深く話したことは無いな。
いつもクールでポーカーフェイスな彼女には、いったいどんな過去があるのだろう?
バーに似つかわしい疑問を抱いたツンは、思い切ってクーに尋ねてみることにした。
ξ゚听)ξ「あのー……クーさん?」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
本当に何一つ表情を変えないな……。
なんてことを考えつつ、ツンは話を続ける。
ξ゚听)ξ「クーさんはどういう経緯で『VIP』のメンバーになったんですか?」
川 ゚ -゚)「……」
透明なグラスに残る酒を眺めながら、しばしの間、クーは沈黙。
手にしたグラスを口に近づけ「クイッ」と飲み干すと、静かに話し出す。
川 ゚ -゚)「あれはもう……十年以上前か。
お前達と同じように飛行機械で郵便業を営んでいた私は、
ある日、ミルナにファイブAの仕事を告げられてな……」
ξ゚听)ξ「へー、あたし達とまったく同じですね」
川 ゚ -゚)「ああ。
もちろん私も、その時点でミルナが『VIP』の副官だとは思いもしなかったよ。
……その頃の『VIP』は海賊狩りで名が売れ始めた頃でな。
私は仕事云々より、彼らの勢いの秘密を知りたくてその仕事を受けた」
ξ゚听)ξ「なるほどねー」
大げさに相づちを打ってみせるツンを横目に、クーは空のグラスを照明に輝かせている。
川 ゚ -゚)「しかし……そのあて先で見た光景に私は愕然としたよ。
そこには、空を華麗に舞う赤い飛行機械。その動きに、私は一瞬で魅入られてしまった。
『VIP』に着艦した私は艦長の申し出をすぐに受け、
晴れて『VIP』の仲間入りを果たしたのさ」
そこまで言い切ると、クーはバーテンに追加の酒を頼んだ。
彼女は出されたグラスの液体を、赤く妖艶なその唇から少しだけ口に含む。
ξ゚听)ξ「赤い飛行機械って……もしかしてモナーさんですか?」
川 ゚ -゚)「そうだ。
故郷では『蒼風』の二つ名で畏怖されていた私も、アイツには到底及ばなかった」
/' ! ━━┓┃┃
-‐'―ニ二二二二ニ>ヽ、 ┃ ━━━━━━━━
ァ /,,ィ=-;;,,, , ,,_ ト-、 ) ┃ ┃┃┃
' Y ー==j 〈,,二,゙ ! ) 。 ┛
ゝ. {、 - ,. ヾ "^ } } ゚ 。
) ,. '-,,' ≦ 三
ゞ, ∧ヾ ゝ'゚ ≦ 三 ゚。 ゚
'=-/ ヽ゚ 。≧ 三 ==-
/ |ヽ \-ァ, ≧=- 。
! \ イレ,、 >三 。゚ ・ ゚
| >≦`Vヾ ヾ ≧
〉 ,く 。゚ /。・イハ 、、 `ミ 。 ゚ 。 ・
その二つ名を聞き、ツンは口に含んだ水を豪快に噴出した。
ξ;゚听)ξ「ああああ、『蒼風』!?クーさんの故郷ってまさか……」
川 ゚ -゚)「……ふふふ。おまえ達と同じ『ツダンニ』だ」
静かな笑みとともに眼を細め、妖艶な漆黒の眼差しでクーはツンを見つめた。
故郷『ツダンニ』でもはや伝説として語り継がれる『桃色の乳首』と『蒼風』。
先日ジョルジュが『桃色の乳首』だと知ったが、まさか『蒼風』まで『VIP』にいたとは……。
ツンは驚きのあまり、もはや言葉も出ない。
川 ゚ -゚)「ちなみにモナーは、かつての連合艦隊の飛行機部隊のエースでな。
『レッドバロン』の二つ名で恐れられていた、いまやすっかり衰えた連合艦隊の黄金期の立役者だ」
ξ;゚听)ξ「……」
あれで衰えた?
何の気遣いもなく言ってくれた女の横顔を見つめながら、ツンは空笑いを浮かべる。
川 ゚ー゚)「そんな彼に一から飛行機械の技術を教わり、私はここまで成長したというわけさ」
そう言って、クーは手にしたグラスを見つめ、「カラン」と鳴らした。
その頬は、ほんのわずかだが赤らんで見える。
彼女のしぐさを見て一転してワイドショーを見るおばちゃんの表情になったツンは、
思い切ったことをクーに尋ねてみた。
ξ゚ー゚)ξ「もしかしてクーさん、モナーさんに憧れちゃってたりしますー?」
川 ゚ -゚)「ああ」
こちらを見て、何の恥じらいもなく言ってのけるクー。
あまりにも素直な彼女に期待を裏切られてツンがガックリしていると、
クーは急に厳しい表情になって続けた。
川 ゚ -゚)「……だがな」
ξ゚听)ξ「はい?」
クーは黙ってモナーの方を見る。
つられて顔を動かしたツンの視線の先には、
数人の女性に囲まれてニヤニヤしているモナーのだらしない顔。
川 ゚ -゚)「……あの女癖の悪さだけは……いただけんな」
そう呟いて、クーは手にしたグラスを握りつぶした。
( ゚д゚ )「隣、いいか?」
握りつぶされたグラスの破片を呆然と眺めていたツン。
そんな彼女の後ろから聞こえてくる男の声。
振り返ると、そこには笑みを浮かべたニヒルなミルナ副艦長の姿。
ξ;゚听)ξ「あ、どうぞどうぞ」
( ゚д゚ )「すまんな」
静かに呟くと、ミルナはツンの隣に腰掛けた。
そのまま、楽しそうに騒ぎまわる「VIP」乗組員の姿を眺める。
( ゚д゚ )「ふふふ。皆、楽しそうだな」
川 ゚ -゚)「一部、馬鹿が混じっているがな」
冷めた口調のクーの視線の先には、
両手に抱えた女性にキスを迫って殴り飛ばされるモナーの姿。
本当に男って馬鹿。
ツンも心の中でクーに同意した。
( ゚д゚ )「そう言うな。皆、長い緊張から解放されてはしゃぎたいのさ」
そう言って、バーテンに水を頼むミルナ。
ξ゚听)ξ「お酒じゃなくていいんですか?」
( ゚д゚ )「俺は下戸なんでね」
ニヒルなのに下戸かぁ。
やっぱり身長が原因なのかな?
心の中でツンはクスリと笑った。
しばらく、バーボンハウス内の喧騒を眺める三人。
やがて、クーがカウンターに突っ伏して寝息を立て始めた。
その寝顔がツンの方を向く。
ξ゚ー゚)ξ「……可愛い寝顔ですね」
( ゚д゚ )「どんな女も寝顔は可愛いもんさ」
水をチビチビ口に含みながらクーの寝顔を眺めるミルナ。
彼は再び視線をバーボンハウス全体に移す。
その瞳は、とても優しい。
( ゚д゚ )「『VIP』を結成してはや二十年か……大所帯になったもんだ」
ξ゚听)ξ「二十年……ですか?」
( ゚д゚ )「そうだ。といっても、二十年前とは俺と艦長が出会った時だから、
艦長一人の期間を含めると、その歴史はもっと長くなるな」
その優しい瞳がツンに向いた。
気づけば、それは何処となく哀愁を含めている。
ξ゚听)ξ「へー……」
興味津々の表情でミルナを眺めるツン。
彼女の視線に気づいたミルナは、「続きを聞くか?」と言っていたずらな笑みを浮かべる。
ξ゚ー゚)ξ「是非!」
( ゚д゚ )「そうか。その前にマスター、玄米茶を」
ξ;゚听)ξ「副艦長……玄米茶はバーには無いですよ」
(`・ω・´)「はい、お待ち!」
ξ;゚听)ξ「工エエェェ(´д`)ェェエエ工!なんであるの――――!?」
( ゚д゚ )「それはあるさ。なぜなら……」
そう言って、ミルナはバーテンと眼を合わせた。二人はニヤリと笑う。
( ゚д゚ )「俺は二十年前、ここのバーテンだったからな」
ξ )ξ゚ ゚「ペドロパブロフスクカムチャツキ―――――――!!」
驚きのあまり、ツンはカムチャッカ半島の都市の名前を叫んだ。
(`・ω・´)「いやいや、懐かしいね。あれからもう二十年が経ったか」
( ゚д゚ )「そうですよマスター。二十年前、このバーで
あなたの義弟さんに誘われて、私は『VIP』二人目のメンバーになったんですから」
ξ;゚听)ξ「あの……バーテンさんの義弟って……」
( ゚д゚ )「ショボン艦長だ。
ちなみにこの方は鈍色の星のオーナー、ジャンク王『シャキン・ザ・パンティー』氏だ」
ξ )ξ゚ ゚「津―――――――!!」
驚愕のあまり、ツンは三重県の県庁所在地の名前を叫んだ。
( ゚д゚ )「うるさいぞ、ツン」
ξ;゚听)ξ「だって……」
( ゚д゚ )「それよりシャキンさん。艦長はどうしています?」
(`・ω・´)「ドックの方に顔を出しているんじゃないかな?例の機械の開発のためにさ」
( ゚д゚ )「それはいかんな。私も顔を出してこよう」
ミルナは立ち上がると、ツンに「悪いな」と残してバーテンに一礼した。
直後、振り返って、女性の足元にすがり付いているモナーに向けて叫んだ。
( ゚д゚ )「モナー!クーを彼女の部屋まで連れて行ってやれ!!」
(;´∀`)「な、何でボクがモナー?」
( ゚д゚ )「副艦長命令だ。反論は許さん」
(;´∀`)「……了解モナー」
モナーはしぶしぶとカウンターの方までやってくると、
クーに肩を貸し、そのまま店の出口の方へと進む。
(;´∀`)「クー、しっかり歩くモナー」
川 ゚ -゚)「……黙れ、この女たらしが……」
ふらふらとした足取りで進んでいく二人。
やがて二人の姿が扉の向こうに消えたのを確認すると、ツンは幼馴染の方を見た。
(*^ω^)「長岡さん!毒男さん!!ボクは飲み足りませんお!!」
_
( ゚∀●)「あ〜……わりぃ……俺もうゲロゲロゲ〜〜〜〜」
('A`)「ぶほほほwwwwwジョルジュ汚いわゲロゲロゲ〜〜〜〜〜」
酒瓶を両手に一人盛り上がっている幼馴染の下では、
盛大に寝ゲロを垂れ流すジョルジュ、オカマ、そしてその他の『VIP』メンバー達。
意外にもブーンは酒に強いようである。
ツンはブーンの傍まで歩み寄ると、顔を真っ赤にした幼馴染の頭をはたいた。
ξ#゚听)ξ「あんた、いい加減にしなさい!!」
(*^ω^)「うひゃひゃひゃひゃwwwwツンも酒飲むお!!」
ξ#゚听)ξ「飲まないわよ!この馬鹿ちん!!」
(*^ω^)「硬いこと言いっこ無しだおえええええ〜〜〜」
ξ;゚听)ξ「どわああぁぁぁあぁ―――――!!」
目の前で盛大に吐き出すブーン。
そんな彼にアッパーカットをかまして気絶させると、
ぐったりした幼馴染を肩で支えながら、彼女も店の外へと姿を消した。
第十九話 おしまい
第二十話 「MOON」
( ´ω`)「……」
冷えた風が頬に触れる。
眼を開けると、広がるのは満天の星空。
ガンガンと痛む頭を抑えながら起き上がると、そこは妙に広い場所。
不審に思ってあたりを見渡す。
わからない。
どうやらはじめてくる場所のようだ。
唯一わかることといえば、ベンチや街灯が点在していて、どうやらこの場所が公園の類であるということだけ。
周りには誰もいない。
ふと見つけた時計塔を見ると、針は深夜を指している
( ´ω`)「……なしてボクはここにいるんだお?」
ブーンは一人、暗がりの公園に向かって呟く。
しかし、その声はあたりにむなしく響くだけ。
( ^ω^)「……」
少年は頭の痛みから近くのベンチへと腰掛ける。
見上げると、上空にはキラキラと光を放つ満天の星空。
( ^ω^)「……綺麗だお」
呟いた少年の声は、星空に吸い込まれて消えた。
ξ゚听)ξ「起きたの?」
暗がりの向こうから聞きなれた声がした。
眼を細めて声のする方を見ると、そこには酒瓶を手にしたツンの姿。
ξ゚听)ξ「酔いは醒めた?」
(;^ω^)「……お」
彼女の問いに、ブーンは今までのことを思い出した。
バーで酒を飲まされて、騒いでいたらツンに殴られて……で、いつの間にかここにいる。
誰かが運んでくれたのかな?
しかし、この公園らしき場所にいるのはブーンのほかにはツンだけ。
……ということは……
ξ゚ー゚)ξ「本当なら『VIP』まで連れて行きたかったんだけどね。
あんた、いつの間にか重くなっちゃってるんだもん」
ブーンの隣に腰掛けたツンが笑顔で言う。
そんな彼女の顔は、ほのかに赤らんでいた。
(;^ω^)「お……それはすまんことだお」
ξ゚听)ξ「まったくよ」
そう言って、ツンは手にした酒瓶の中身をグビグビと飲みだす。
(;^ω^)「ちょwwwツン、何飲んでいるんだお!?」
ξ゚听)ξ「お酒よー。いいじゃない、あんたも飲んでいたんだし。
それにこれ飲むとあったまるのよー。あんたも飲む?」
(;^ω^)「いや……遠慮しとくお」
ただでさえ頭が痛いのに、これ以上飲んだら体が持たない。
ブーンは黙って幼馴染の赤ら顔を見た。
酒のせいだろうか、緩んだ表情と垂れ下がった目。
そして、真っ赤に染まった頬。
なんだか目を合わせづらくて、ブーンは視線をすぐに暗闇へと移した。
夜風が二人のそばを渡っていく。
冷えた空気が火照った体に心地よい。
体を優しく包まれている感覚。
少年は眼をつむり、その感覚に酔いしれる。
すると、隣から響いてくるツンの声。
ξ゚−゚)ξ「あたし達、こんなところで何やっているんだろうね」
( ^ω^)「……」
少年は眼を開け、目線だけを隣に移した。
そこには、酒瓶を片手にうつむいている幼馴染の姿。
ξ゚ー゚)ξ「本当なら今頃、あたし達の家で眠っているんだろうね。
もしかしたら、こんな時間まで配達で空を飛んでいるのかもよ?」
そう言ってケタケタと笑うツン。
そんな彼女の笑顔が、ブーンにはなぜかひどく胸に突き刺ささった。
本当なら、自分達の家で眠っている。
もうすでに失われた平穏な生活を想像して、ツンは何を思っているのだろうか?
貧乏だけどそれなりに充実していて、好きな時に空を飛んで、
帰ってきたらおいしいツンのサンドイッチを片手に飛行機械をいじくり回す。
ちょっとしたお金が入ったら、
少しだけ豪華なおかずと、少しだけ質のいい水でささやかな幸せを噛み締めて、
時には見知った友達とおしゃべりしたり、眠れない夜には近所を散歩したり……。
そんな平穏な毎日が、彼女は恋しいのではないのか?
少年は回想する。
『VIP』に入ってからは、甲板掃除やトイレ掃除などの雑用ばかり。
たまの空を飛べる機会にも、そこには厳しい教官の監視付。
ようやく二人っきりで自由に飛べるかと思ったら、エロジジイの妨害。
久々に二人で飛んだ空は、こちらを狙うラウンジ艦隊で騒がしい戦場の空。
充実しているといえば充実している。
飛行技術だって今までと比べ物にならないほどに上達した。
かけがえの無い人達との出会いもたくさんあった。
だけど、その中で失われたものだってたくさんある。
夢を追うため。
それだけのために『VIP』に入った。
だけど、自分のその判断は本当に正しかったのだろうか?
夢を夢として胸の奥に秘めたまま、
ささやかな幸せの中を過ごした方が良かったではないのか?
白い花咲く故郷の空を、自由気ままに飛びまわっていた方が幸せではなかったのか?
そこにあるはずの別の人生を想像して、過去の選択を悔やむ。
数々の人生の分かれ目を経験してはじめて遭遇する類の疑問。
少年は夜空を見上げ、心の中で問いかける。
「僕の選んだ道は、本当に正しかったのかお?」
だけど、見上げた夜空は何も答えてはくれない。
振り返るなと、立ち止まるなと歩き続けて、この道の果ては未だに何一つ見えやしない。
ξ゚听)ξ「……どうしたの、ブーン?」
気が付くと、少年の目の前には立ち上がってこちらを見つめる幼馴染がいた。
満月の放つ光に照らされて、彼女の顔がはっきりと見える。
整った目鼻立ち。
癖のある細い猫っ毛。
女性らしい、細くて丸みを帯びた体つき。
そして、お酒のせいでほんのり朱に染まった頬。
……彼女は、こんなにも美しかったのか?
少年は、幼馴染の中に初めて女を見た。
いつでもそばにいて気づかなかった何かが、少年の中に芽生える。
あたりを夜風が渡っていく。
それに乗って伝ってくる彼女の甘い香りが、少年の鼻にはくすぐったかった。
ξ゚ー゚)ξ「まだ酔っているんでしょ、ブーン?顔、赤いよ?」
そう言って彼女はまたケタケタと笑い、酒を一口、口に含んだ。
ブーンは彼女の顔をまともに見れず、ただ黙って視線をはずした。
……だけど、一つだけ、彼女に問いかけた。
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「なによ、どうしたの?深刻な顔でしちゃって」
( ^ω^)「ツンは本当に……これでよかったのかお?
今までの生活を捨てて……『VIP』のメンバーになって……」
ブーンは顔を上げ、一瞬だけ幼馴染の姿を見つめた。
少年の言葉に、彼女は少し寂しげな笑顔で答える。
ξ゚−゚)ξ「……わからないよ」
ξ゚−゚)ξ「そんなの、ずっと後になってからしかわからないよ。きっと」
満天の空に、ツンの声だけが響く綺麗な夜。
ξ゚−゚)ξ「パパ達がエデンに行っちゃってもう何年かな……。
今思えば、エデンの地図を見つけたパパ達は、必ず戻ってくる自信があったから
小さなあたし達を残していっちゃったんだろうね」
( ^ω^)「……そうだおね」
ξ゚−゚)ξ「……だけど、パパ達は帰ってこなかった。
だからこっちから会いに行ってやろうって決めてさ……。
それから二人で一生懸命飛行機械の練習をして、
ようやく乗れるようになって郵便の仕事始めて……
はじめはEランクの仕事さえもまともに出来なくて、本当に貧乏だったよね」
あの日々を思い出したのだろうか?
ツンの顔に浮かぶは微笑。
つられて、ブーンの顔にも笑みが宿る。
( ^ω^)「おっおっお。本当に貧乏だったお。
あの頃食卓に上るのは中身の無いサンドイッチにすんごくまずい水ばっかりだったお」
ξ゚ー゚)ξ「そうそう!あたしお手製の中身無しサンドイッチをあんた、
『これはただの食パンだお!』ってブーブー文句言ってさ!大喧嘩になったよね!」
( ^ω^)「おっおっお。
その時にツンに投げられた椅子で出来たタンコブがまだ残っているお!」
そう言って、ブーンは頭のてっぺんをさすった。
彼の仕草を見て、ツンは楽しそうに笑う。
彼女の笑顔がなんだかうれしくて、少年の顔もくしゃくしゃの笑顔だ。
ξ゚ー゚)ξ「一年くらい経って郵便業も軌道に乗ってきて、
やっとマシな生活を送れるようになって……それでも貧乏だったけどさw
それからAランクの仕事引き受けて、お金いっぱい入ってきてさ、
オカマ野朗の店でいろんなパーツ選んで、飛行機械ビルドアップさせて、
それからまたあちこち空を飛んで、少しお金に余裕が出てきたらおいしいもの食べて…」
そこまで言うと、笑顔でいっぱいだったツンの表情に影が宿る。
ξ゚−゚)ξ「……それから『ファイブA』の仕事を受けて、
命からがらたどり着いて、今、あたしたちは『VIP』の中にいる」
ξ゚−゚)ξ「どうなんだろうね。
この選択が正しかったかなんて今でもわからないわ。
得たものもたくさん、失ったものもたくさん。
どちらが本当に大切なものかなんて、今のあたしには全然わかんない」
寂しそうに呟いて、ツンの口には再び酒瓶。
しかし、その中身は空だったようだ。
ξ#゚听)ξ「なによ!お酒もう無いじゃない!!」
( ゚ω゚)「フレグランス・ド・フラワ――――――!!」
途端、鬼の形相に変わったツンが空き瓶でブーンの頭を殴りつける。
痛い。
ものすごく痛い。
ツンさん、瓶で殴るのは反則ですよ。
ブーンは激痛が走る頭を抑えて、ベンチから転げ落ちた。
その姿を見てゲラゲラと笑うツン。
二度と彼女にはお酒を飲ませてはいけない。
少年は心の中で硬く誓いました。
ξ゚ー゚)ξ「あはははははwwwwwブーン、大丈夫!?」
(;゚ω゚)「大丈夫なわけ無いお!!」
目に涙を浮かべてツンをにらみつける少年。
しかし、目の前にあるのは本当に楽しそうな幼馴染の笑顔。
彼女はそのまま後ろを向くと、天高く上る月を見上げた。
ξ゚ー゚)ξ「……ねぇ、ブーン。
覚えてる?初めて二人で空を飛んだ時のこと……」
(;^ω^)「……お」
痛む頭をさすりながら、少年は立ち上がった。
…忘れるはずが無い。
……忘れられるはずが無い。
重力に縛られていた体が、ふわりと宙に浮いていく離陸の感覚。
今まで生きてきた世界が眼下に広がっていく光景。
はるか上空にポツリポツリと浮かんでいた雲に、はじめて手が届いた瞬間。
見上げるだけだった空の中を進んでいく自分。
これまで自分が生きてきた世界が、一瞬にして狭く感じられた。
そして、空中から見える数々の島々を目の当たりにして、世界の広さを肌で感じた。
どこまでもどこまでも、可能な限り上空へと駆け上って、太陽へと手を伸ばした。
結局、太陽には手は届かなかったけど、
はるか上空から見下ろした世界には、
どこまでも広がる雲海、
浮かぶ緑の島々、
島から島へと流れ落ちていく水、
それらを彩る数々の虹、
……そして、はるか彼方まで続く蒼穹の空。
世界は広く、こんなにも美しい。
今まで生きてきた中で一番感動した瞬間。
幼い瞳で目撃したあの情景を、僕は、一生忘れはしない。
ξ゚ー゚)ξ「あの時見たあの景色を、あたしは一生忘れない」
目の前に立つツンは、少年の心の声と同じことを口にする。
きっと、彼女も少年と同じ情景を思い描いていたのだろう。
振り向いたその顔は、あの時バックミラー越しに見せた表情と瓜二つだ。
ξ゚ー゚)ξ「あの時以上の感動がどこにあると思う?
あたしはね、それはきっと『エデン』の空にあると思うの」
そう言って、彼女は夜空に手を伸ばす。
虚空をつかむその手のひらは、彼女の想像の中で何をつかんだのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「パパに会いたい。パパと会って成長したあたしを見せたい。
確かにそれはあたしの夢だけど、それはもう叶うことは無い」
見上げた顔をこちら向けた。
ニコリと微笑むその顔に、寂しさのかけらなど微塵も無い。
ξ゚ー゚)ξ「あたしはね、あの時の感動を超えるものをこの目で見たいの。
それがあたしの本当の夢!
伝説として語り継がれる空を、あたしは自由に飛んでみたいの!!」
そこまで言うと、彼女は月明かりの下でクルリと回って見せた。
銀色の月に照らされて、ふわりと揺れる彼女の髪がキラキラと輝いている。
彼女はそのまま、少年の方へと両手を伸ばす。
ξ゚ー゚)ξ「だからね、一緒に行こうよ!
ブーンと一緒なら、あたしは必ず『エデン』の空にたどり着ける!
二人で一緒にはじめて空を飛んだ、あの時の感動の先へ行こうよ!!
誰もたどり着いたことのない、まだ見ぬ伝説の空を行こうよ!!」
( ^ω^)「……もちろんだお!
二人で一緒に、どこまでも続いていくこの空を行くお!!」
目の前には美しい笑顔の女性。
少年は彼女の手を取り、小さな柔らかい手を硬く握り締めた。
銀色の月明かりの下、二人は手を取り合ってクルクルと回る。
月下のワルツ。
そのまま少年は彼女の手を引き、パートナーを自分の胸へと招き寄せた。
ξ゚ー゚)ξ「ブーン……」
胸の中の女性は、少年の顔を見上げる。
ξ゚ー゚)ξ「いつの間にか……あたしの身長、超えちゃったんだね」
はにかんだような笑顔でそう呟くと、彼女は少年の頭上へと両手を伸ばした。
そのまま両手を組んで、少年の首の後ろへと置く。
少年は、女性の顔を見つめた。
彼女の潤んだ瞳。
月明かりで妖艶に浮かぶ唇。
ほんの少し顔を動かせば、互いの唇と唇が触れる。
満月と星の海だけが見守る中、二人は至近距離で見詰め合った
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚ー゚)ξ「ブーン……」
目の前の女性が、赤く染まる顔をうつむける。
途端、漂うは彼女の髪の香り。
少年の胸の中にいるのは、幼馴染であり、一人の女性。
しばしの甘い沈黙。
そして、彼女は言った。
ξ゚−゚)ξ「ブーン……あたし……」
ξ#゚□゚)ξ「……あたし……もうだめゲロゲロゲ〜〜〜〜〜〜」
(;゚ω゚)「どわあああぁぁぁぁあぁあ!!!」
ブーンの胸の中で、ツンは盛大に吐いた。
そりゃそうだ。
酔った体でグルグルと回れば、そりゃ誰だって吐く。
彼女の甘い髪の香りの変わりに漂うのは、鼻につんとくる吐しゃ物のかほり。
今までのあま〜い雰囲気はどこへやら。
一気に現実へと引き戻されたブーンは、
なおも盛大に吐き続ける幼馴染をベンチの上に寝かせた。
ξ#゚□゚)ξ「あ〜〜〜〜…………世界が回るぅ〜〜〜〜〜〜」
ツンは途切れ途切れに、心底苦しそうに呟く。
そんな彼女の口の周りを、ブーンは持っていた布で拭いてやる。
ξ#゚□゚)ξ「ありがとうブーンゲロゲロゲ〜〜〜〜〜〜」
(;゚ω゚)「のわああぁぁぁあぁあ!!」
ブーンの行為もむなしく、ツンはベンチの上で寝ゲロを吐く。
しばらくの間彼女をベンチに放置して、ブーンはこれからどうするかを思案した。
あたりの空気は肌寒い。
このままじゃ二人とも風邪を引く。
結局ブーンはツンを背負うと、そのまま『VIP』に向けて歩き出した。
背負った彼女の体は柔らかく、そして、軽かった。
耳元に響く彼女の息遣いにドギマギした彼だが、
突如脳裏をよぎった重大な疑問に、再び現実に引き戻されることになる。
……ここはどこ?『VIP』に帰るにはどの道を行けばいいの?
(;^ω^)「ツン!ここはどこだお!!どうやって帰ればいいのかお!?」
ξ゚ー゚)ξ「むにゃむにゃ……あたしもう飲めないわよ……」
(;^ω^)「ちょwwwツン!ツ―――――ン!!」
二度とツンには酒を飲ませない。
ブーンは再度、胸の奥で固く誓いました。
それからブーンは肌寒い深夜の町を、
気持ち良さそうに寝息を立てる幼馴染を背負って数時間さまようことになった。
そして結局、ブーンが『VIP』にたどり着いた頃には夜はすっかり明けてしまっていた。
第二十話 おしまい
[前のページへ] 戻る [次のページへ]