プロローグ1


 とっくに夏休みは終わったにもかかわらず、
僕は2日連続で学校に行っていない。
誰にも文句をいわれないのは、9月1日2日が土日と休みだったからだ。
2日間の執行猶予もあと半日足らずで終わってしまう。
学校に行くくらいなら死んだほうがマシだ。

 僕は、ずっと夏休み最後の日に死のうと思っていた。

 靴屋の1人息子である僕は大学へは進学できない。
神に愛された頭脳や才能が僕にあったら
あるいは違っていたのかもしれないが、
僕は大学に行かずに靴屋修行をすることが決まっている。

('A`)「靴屋なんか嫌だ! 僕にはやりたいことがあるんだ!」

 僕にはそんな主張はできない。やりたいことなんてないからだ。
だから僕にとって高校3年の夏休みは人生最後の夏休みであり、
僕はその締めくくりに死のうと思っていた。


 色々と考えたのだ。

 靴屋を継ぐなら学校に行く必要はないのではなかろうか。
だったらこのままだらりと半年間は遊んでいても良いのではなかろうか。
さすがにそう口にしないだけの賢さはあり、
僕は冷房の効いた部屋で布団にくるまるにとどまっている。
僕が大学に行けないのと同じ理由で高校に行かなければ、
すぐに金槌片手に靴型設計の勉強をさせられるに決まっているのだ。

 そんなのはごめんだ。学校もごめんだ。
このまま布団の中で1日を終えるのもごめんなので、
僕は起きだすことにした。
顔を洗って着替えると、財布と携帯を持って外に出た。

 なんせ明日までに死ななければならないのである。
僕には残された時間がない。
どこか遠くに行きたくて、僕は駅まで歩くことにした。



「よおドクオ。どこ行くんだお」

 小太りの男に呼び止められた。

( ^ω^)「暇なら一緒に野球するお」

('A`)「嫌だよ暑い。最後の夏休みに他にすることねーのかよ」

( ^ω^)「ドクオは何かすることあるのかお」

 ないよ、とは言いたくなかった。蝉の鳴く声がする。

('A`)「死ぬ、とか」

( ^ω^)「それは面白いお」


 こいつは本気にしていない。
にやにやしながら僕に近寄り汗ばんだ腕で肩を掴んできた。

( ^ω^)「じゃあ樹海で死ぬと良いお。
       百均で磁石買って行って、
       本当に使えなくなるのか調べてくれお」

 話しているのも面倒くさい。
僕は適当にあしらうと、VIP駅まで歩いていった。

 蜘蛛の巣状の路線図をぼんやりと見つめた。樹海は静岡の方だろうか。

 思えば生れ落ちて18年、路線図をちゃんと見るのははじめてである。
今日死ぬとしたら最初で最後だ。記念になるかもしれない。
注意深く1駅1駅の名前を辿っていくと、

『樹海』

 聞いたことのない名前の駅があった。樹海行きの切符は380円。

 500円もかからず行けるのならば、仮に何かがあったとしても、
最悪夜通し歩けば帰ってこられるだろう。

('A`)「帰ってくるつもりなのか?」

 1人呟き小さく笑った。どうやら僕は死ぬつもりではなかったらしい。

 僕は樹海行きの切符を買った。






  プロローグ2



 電車を降りると、あたり一面草原だった。

しかしすぐに異変に気づいた。

(;'A`)「何故電車を降りたばかりなのに草原しか目に入らないんだ?」

 ここは駅だ。駅の筈だ。しかし僕の目には、草原の他に何も見えない。


(;'A`)「では今まで僕が進んできた筈の線路はいったいどこに行ったんだ?
    駅の建物はどこへ? そもそも僕は電車から本当に降りたのか?
    何故一歩踏み出す前に違和感を感じていないんだ?」

 なるほど、夢か。思い至った。それなら僕にも合点がいく。
おそらくは知覚夢というやつだろう。
明日からはじまる学校が嫌でしかたがない僕の脳が作り上げた幻想なのだ。
それなら全てに説明がつく。
どうせ見るならエロい夢なら良かったのにな。
そんなことを考えていると、

「こんにちは」

 女の子の声が聞こえた。


 いつの間にか、僕の目の前に女の子が立っていた。
ウェーブのかかった金髪をツインテールにまとめている。
赤1色のワンピースから覗く真っ白な腕が妙になまめかしくて、
自分の夢の中だというのにドキドキしてしまう。

 女の子は僕をじっと見つめている。

ξ゚听)ξ「こんにちは。聞こえないの?」

(;'A`)「こ、こんにちは」

ξ゚听)ξ「なんだ、聞こえてるんじゃない。
      それなら返事くらいしなさいよね。
      あー、わかった。あんたここ来るのはじめてでしょ」

 そりゃそうだ。
何度も見ている夢なら、今頃はこの女の子はとっくに僕に犯されている。


 僕が黙っていると、女の子はいつのまにか右手に刃物を持っていて、
僕の眼前に刃をピタリとつきつけてきた。
なんだこの展開は。
汗腺という汗腺から冷や汗が流れ出るのが感じられる。

ξ゚听)ξ「返事しなさいって言ったでしょ。耳ついてんの?」

(;'A`)「す、すいません。ついてます」

ξ゚听)ξ「聞きたいのはそこじゃないの。そんなの見りゃわかるって。
      ここに来たのははじめて?
      だよね。こんなにオタオタしてるもんね」

 なおもつきつけられている刃物にうまく口から声が出ず、
僕はアホみたいに首を縦に振った。

ξ゚听)ξ「そんなに動いたら刺さるわよ」

 僕の動きが止まる。喉がカラカラだ。


ξ゚听)ξ「ああ、自己紹介がまだだったね。あたしはツン」

('A`)「ドクオです」

ξ゚听)ξ「なんだ、声出るんじゃない。
      それならサクサク進めてよね、こっちも暇じゃないんだからさ。
      じゃあはいこれ。はじめての人にはサービスね」

 手に持っている刃物を器用に回すと、僕に柄が向くように差し出した。
僕は思わずそれを手にする。
それは意外なほどずっしりと重く、
『刃物』という呼び方は似つかわしくないように感じられた。

ξ゚听)ξ「名前わかるでしょ。言ってみて」

('A`)「そんなのわかるわけが…ないのに。なんだろう。
    ひょっとして、『ナマクラソード』という名前ですか、これ」


ξ゚听)ξ「そうそう。んー、じゃあ問題ないわね。
      あっち見て。下りの階段があるでしょ。
      すごいレトリックな、ザ・階段! みたいなやつが」

('A`)「あー、ありますね。雨のときとか大変そう」

ξ゚听)ξ「うん、ちゃんと見えてるね。じゃあ、あれ降りてってちょうだい」

(;'A`)「え。なんでですか」

ξ゚听)ξ「なんでって。
      あんた何しに来たのよ。一生あたしと駄弁ってる気?」

 どっちかというとしたいのはセックスだ。
夢の中とはいえとてもそんなことは口にできないので、
僕は何も言えなかった。
こんなにうだつのあがらない夢ならさっさと覚めてしまえば良いのに。


ξ゚听)ξ「あ。ひょっとして。
      あんた夢だと思ってない?」

('A`)「違うんですか」

ξ゚听)ξ「違うわよー」

 ちょっと貸して、と剣を取る。
いきなり僕に斬りつけてきた。

(;'A`)「いたたたたたた!
    ちょっと何するんですか!」

ξ゚听)ξ「ほら痛いでしょー。夢じゃないって」

 はいこれ、と剣を返す。
ツンはバッグから妙な色の草を取り出すと、今つけた傷口にすりこんだ。
めちゃくちゃ痛かったのに、すぐに血が止まり、
動いても痛くならないようになった。
やっぱり夢じゃないのかな、これ。


ξ゚听)ξ「夢じゃないことがわかったら、そろそろレッツゴーしましょ。
      さっきも言ったけど、あたしもそんなに暇じゃないんだから」

(;'A`)「ちょっと待ってくださいよ。
    夢じゃないならなおさら行きたくないですよ。
    だいたいあそこは何なんですか」

ξ゚听)ξ「え。樹海」

('A`)「地下なのに?」

ξ゚听)ξ「うん。樹海。わかったら行こ」

(;'A`)「じゃなくて。あんな得体の知れないところ行ったら
     何があるかわからないじゃないですか」

ξ゚听)ξ「それがいんでしょーが。
      だいたいあんたあそこ通らずにどうやって帰るつもりなの?」

('A`)「あ」


 するってーと何かい。あそこ通らなきゃ帰れないってことなのかい?
そんなわけがない。僕は電車で来たのだから電車で帰れる筈だ。

ξ゚听)ξ「馬鹿ねー。線路もないのにどうやって電車で帰るのよ」

('A`)「むむむ」

ξ゚听)ξ「なにがむむむだ!
      良い? あんたはあそこに行くしかないの。
      別にここでのたれ死んでもあたしは良いんだけどさ」

('A`)「うーん。あそこ行ったら帰れるのですか?」

ξ゚听)ξ「帰れるよー。みんなそうして帰るんだもん」

('A`)「じゃあ行きますよ。行けばいんでしょ」


ξ゚听)ξ「そうそう。じゃあ行く気になったところではいこれ」

 ツンは大きなうまい棒(めんたい味)と変なスイッチを手渡してきた。

ξ゚听)ξ「足踏みしたいときは押してね。
      それから、うまい棒は湿気ちゃったらだめだから。
      それでも食べられることは食べられるけど、
      色々イヤンなことになるからね」

('A`)「はあ」

 ほとんどツンの言ってることの意味がわからない。何うまい棒って。
こんなの誰が食うかっつーの。僕はコーンポタージュしか食べないんだ。

ξ゚听)ξ「じゃあがんばってねー」

 階段を降りる僕の背後でツンが大きく手を振っている。
ちょっとだけ頑張ってみようかなと思った。





  『第一話』>




 階段は暗く冷え込んでいて、Tシャツ一枚の僕には肌寒かった。
降りる途中で何度も引き返そうと思ったのだが、
何故か足が止まらなかった。

 地下1階。僕の右手にはナマクラソードが握られている。

 暗い暗いと思っていたのだが、降りてしまえば意外と視界は開けていた。
少なくとも僕のいる部屋の様子は見て取れる。
僕の今いる部屋には不自然に板のようなものが落ちていた。

 近寄って拾い上げる。板は裏面に取っ手がついていた。
何気なくそこを掴んでみると、

『ドクオはベニアシールドを装備した!』

 そんな気がした。


 どうやらこれは盾らしい。防御力的なものが上がった気がする。
右手に剣、左手に盾。これではまるで物語の勇者のようではないか。
僕が調子に乗って部屋中を駆け回り剣を振ったりしていると、
部屋に猫がはいってきた。

 でかい。というか丸い。
僕の知っている猫の形とはちょっぴり違う様相だった。
無邪気にはしゃいでしまっていたこともあり、
突然の訪問客に僕はドギマギしてしまう。
僕が何もできずにいると、猫はその場でしゃがみこみ、
後ろ足で器用に耳を掻いていた。

 かわいいじゃないか。撫でたい。
ナマクラソードをしまいこむと、僕は猫に近づいた。
僕が動くと同時に猫も動く。近づいてくるのだ。
すぐに僕は猫と隣り合うことになった。
僕の膝下くらいまである大きな猫だが、
丸いせいかあまり恐ろしくはなかった。


 これは好かれてしまったな。
僕はできるだけ猫が怖がらないように、目線を合わせようとしゃがんだ。
猫は動かずじっと僕を見つめている。

 僕は猫を撫でた。

『ドクオの攻撃! ギコ猫に0ポイントのダメージ!』

 当たり前じゃないか。なんだよ攻撃って。
それにしてもこいつ、ギコ猫というのか。かわいいやつめ。
僕の家は靴屋で、商品に毛が入ったりしたらだめだからという理由で
動物は飼わせてもらえないのだ。
この場で精一杯かわいがってやることにしよう。

 すっかり目尻の下がった僕を尻目に、ギコ猫は僕に体当たりをくれた。

『ギコ猫の攻撃! ドクオに2ポイントのダメージ!』


(;'A`)「いたたたた!」

 なんだこれ、めちゃくちゃ痛い。
それに何だよその単位はよ。聞いたことねーよ。

 不思議なことに、それでも僕はこの単位を受け入れていた。

('A`)「僕は15ポイントのダメージを食らうと死ぬんじゃないだろうか」

 そんな気がした。

 お腹がズキズキ痛んでいて、僕はしばらく何もできなかった。
常識的に考えて、じっとしてるとだんだん痛みは引いていくものだけど、
この痛みは増えもしなければ減りもしない。
ずっと2ポイント分の痛さがお腹のあたりを走り回っているのだ。
なんだこれ。
体当たりしてきたあいつを睨みつけるが、
ギコ猫は僕に怒っている風でもなく、
さっきまでと変わらぬかわいさで僕をじっと見つめていた。


 追い討ちをかけてこないのはどういうわけだろう。僕は考えた。
ひょっとしたらこいつにとって体当たりはただじゃれついただけで、
僕がそれに過剰反応しているのかもしれない。
野生の熊にじゃれつかれただけで人間の体は簡単にもげるというし、
そんなテンションだったのかもしれない。
そうに決まってるさ。お腹はずっと痛いけど。

 試しにもう一度目線高さにしゃがんでみても、
ギコ猫は僕を見つめるだけで危害を加えようとはしてこない。
これはやっぱりそうなのだ。疑ってごめんよ。
痛むお腹を気にしながら、僕は再びギコ猫を撫でた。

『ドクオの攻撃! ギコ猫に0ポイントのダメージ!』

 はいはい。

『ギコ猫の攻撃! ドクオに2ポイントのダメージ!』

(;'A`)「痛ぇー!!!」


 今度は鼻っ柱に食らわせやがった。僕はその場で悶絶する。
しばらくじたばたしていたが、やはり痛みは変わらない。
お腹も痛ければ顔も痛い。
僕の顔は涙と鼻血でぐしょぐしょになった。

 ギコ猫は僕を丸々と見つめている。
追撃しようとはしてこない。

('A`)「そうか、そうなのか」

 僕は急激にわかってきた。
頭ではなく心で! 理解してきた気がする。

 つまり、僕もこいつも何らかのルールに支配されているのだ。
僕が行動するとこいつも動く。
僕が行動しなければ動かない。
だからこいつが今愛らしく僕を見つめているのも僕が好きだからではなく、
そういう風にデザインされているからなのだ。


(TAT)「わかってたもん! 勘違いなんかしてないもん!
    彼女いない暦=年齢を舐めんじゃねぇ!」

 相変わらずお腹と鼻が痛い。
だからこの涙は心が痛んで流れているのではないのである。

(゚A゚)「殺す! もう迷いはしない!」

 僕は『行動』しないように注意深く決意した。
なんせ僕はあと11ポイントのダメージで死んでしまう。気がする。
もう痛いのはコリゴリなのだ。
武器は僕も持っている!

『ドクオはナマクラソードを装備した!』
『ギコ猫の攻撃! ドクオに2ポイントのダメージ!』

(;'A`)「ギャー!」

 なんでこーなるんだよ!
悶絶してても大丈夫なのに剣握ったら『行動』なのかよ!
わけわかんねー! 基準を明確にしろ!


 とにかく痛い。
うっかり剣を落とさないように注意しながら僕は状況を確認した。

('A`) HP 9/15 レベル1
右手:ナマクラソード     満腹度:82%
左手:ベニアシールド     ちから:8/8

 やけに具体的だが、こんな気がする。

 そこらかしこが痛い。まったく痛みが和らがない。
とりあえずこいつをなんとかしないことには僕には明日はないだろう。
僕は右手を思い切り振った。

『ドクオの攻撃! ギコ猫に9ポイントのダメージ! ギコ猫をやっつけた!』

 ギコ猫は「モルスァ」みたいなことを言いながら
どこかへ吹っ飛んでいった。


(*'A`)「あれ、ひょっとして僕強いんじゃねぇの? マジ勇者?」

 体中に痛みを感じながら、僕は1人悦に入った。
なんだか大人になった気がした。

 いつまでもこんなところにいてもしょうがない。
僕は部屋を出て探索することにした。
すると体の痛みが和らいでいく。

 僕は再び心で理解した。
つまり、『行動』が時間の経過であり、
それに伴って僕のHPも回復されていくのだろう。

('A`)「なんだよエイチピーって。ヒットポイントかっつーの」

 自分でツッコんでおいてなんだけど、ツッコミも意味不明だった。


 通路を経てまた広い部屋に出る。
不自然に2つのアイテムが落ちていた。

('A`)「アイテム。こんな名詞を使う日が来るとは」

 僕の肩が落ちているのはアイテムを拾うためであって、
体中の痛さでどんどんナイーブになっていっているわけではない。

『火ー吹き草を手に入れた!』
『目ー潰し草を手に入れた!』

 意味がわからんな。とりあえず同じようなジャンルのものだろう。
あっちからギコ猫が1匹と新キャラが1匹歩いてきた。つがいか?


('A`)「ギコ猫は弱いことが先ほどわかった。
    一緒に来るやつも似たようなものだろう。
    ここは意味不明なアイテムをとりあえず使ってみて、
    それぞれどのような効能かを知っとくべきだろうな」

 考えた。
目ー潰し草はどっちの目が潰れるのかわからん。
やつらに食わせるべきなのかもしれん。食うのかしらんけど。
火ー吹き草も意味がわからん。
本当に火が吹いて攻撃できるのか、
それとも火を吹くようなダメージを与える、
やはりやつらに食わせるべきものなのか。

('A`)「どっちかっつーと火ー吹き草かな。
    食ったら即死とかないだろー」


『ドクオは火ー吹き草を飲んだ! 紅蓮の業火が焼き尽くす!
 ギコ猫に25ポイントのダメージ! ギコ猫をやっつけた!』

('A`)「つえー。なんだよ飲めば良いんじゃん。
    まー考えればそうだわな」

 新キャラが僕の隣までにじり寄る。
これまでの経験からするに、殴るか殴られるかすれば名前がわかるだろう。

 やはり僕が行動を起こすまでは動けないようで、
そいつは僕の前でボインボインと飛んでいた。
ここはもう1つの草も試すべきだろう。
視界の端に敵がもう1匹部屋に入ってくるのを感じながら、
僕は草を飲み込んだ。

『ドクオは目ー潰し草を飲んだ! なんと! 目が見えなくなった!』

(+A+)「なんと! じゃねぇえええええ」


 こっちは飲むんじゃないのかよ!
それより脅威は敵の攻撃だ。目が見えないことも相まってすごく怖い。
僕が歯を食いしばると同時に頭部に衝撃が走った。

『何者かの攻撃! ドクオに3ポイントのダメージ!』

(+A+)「いたた! つーか名前も教えてくれねーのかよ!」

 不意打ちの形になったため、予想以上の衝撃だった。
僕は思わずナマクラソードを落としてしまった。

『ドクオはナマクラソードを床に置いた!』

(+A+)「置いたんじゃねぇええええええ!
    しかも! このテロップが流れたということは…」

 剣を落とすのも『行動』だった。


『何者かの攻撃! ドクオに3ポイントのダメージ!』

 尋常じゃなく痛い。吐き気もする。
おまけに僕は剣を落としてしまっている。

「剣、拾いますか?」

 脳内から声が聞こえる。

(+A+)「もう僕にはHPが残ってない。2ターン行動できるかどうか。
    ここはイチかバチか拾わないでやってみます!」

「ファイナルアンサー?」

 みのかよ。


(+A+)「ファ…ファイナルアンサー」

 僕はこぶしを握り締め、やつの方に思いっきり振り下ろした。

『ガッシ! ボカ! ドクオの会心の一撃!
 何者かに12のダメージ! 何者かをやっつけた!』

 何者かは「ギャ!グッワ!」みたいなことを言いながらどっか行った。
どこかで何かを祝うファンファーレが聞こえる。

 ふらふらながら、僕はまだ生きていた。
心なしか筋肉がムキムキになった気がする。

(+A+)「僕は賭けに勝ったんだ!」


 僕はすっかり舞い上がっていた。
剣を拾い、装備する。
このまま目が癒えHPを何ポイントか回復できるまでこの部屋にいよう。
そう思ったのも束の間、

『何者かの攻撃!ドクオに3ポイントのダメージ!』

 もう1匹入って来ていたのを思い出すことになった。
脳内から声が聞こえる。

「選択肢は4つにしました。上下左右の4方向。
 このどれかに敵がいて、今のあなたのレベルなら
 一撃でやっつけられます。
 しかしこの攻撃をしくじり殴られると
 あなたの体はもたないでしょう。
 上下左右。どれにしますか?」

 絶対みのだ。


(+A+)「フィ…フィフティーフィフティーは?」

「あります」

(+A+)「あんのかよ! じゃあそれだ。早くしろ」

「どれが残って欲しいですか?」

(+A+)「この情報のなさでそんなのねーよ! 早くしろ!」

「ではそうしましょう。…上と右が残りました」

(+A+)「う…テレフォンは?」

「あります」

(+A+)「これもあんのかよ! 先に言えよ!」

「しかしドクオさん。あなたは友達がいないので、
 本来4人呼べるはずの協力者が1人しかいません。
 それでもかまいませんか?」

(+A+)「1人いたんだ。じゃあそれだよ!」


 電話の鳴る音がする。脳内で。
脳内だと『行動』にならないのか? そうなのか?

( ^ω^)「おいすー」

(+A+)「ブーンかよ! こいつとは話したくねーよ!」

( ^ω^)「時間がないお。ドクオ早くするお」

(+A+)「そ、そうだな。よしブーン。上と右どっちだと思う?」

( ^ω^)「なんだそれ。意味わかんねーお」



(+A+)「僕も意味なんかわかんねーよ! いいからどっちか言えよ!」

( ^ω^)「じゃあ右」

(+A+)「よーし右だな!」

「…決まりましたか?」

(+A+)「上だ! あいつの言ったことはあたったためしがない!」

「ファイナルアンサー?」

(+A+)「ファイナルアンサー!」


 僕は上に向け思い切り剣を振った。
ナマクラソードが風を切り裂く音がする。

『何者かの攻撃!ドクオに3ポイントのダメージ!』

「残念―!」

 僕は死んだ。

          『何者かに撲殺』。第二話へつづく


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