夢――、だ。

なぜなら僕は何も無い空間に、それこそヘリウムガスが詰まった風船のようにぷかぷかと浮いているのだから。

「ここは、どこだお……?」

(*゚ー゚)「どこでも、ないところよ」

「あなたは……誰だお……」

(*゚ー゚)「そんな事、どうだっていいわ」

声が綺麗な人だ、その姿は霞んでいて見えないが、そこにいる事だけはわかる。

(*゚ー゚)「これから私は、あなたを殺すわ」

「……はい?」

この発言は想定の範囲外だ。

(*゚ー゚)「これからあなたを十回殺すので、一回生き延びて。 それがあなたの勝利条件」

勝利条件って、僕は誰と戦うんだ。
その言葉を最後に彼女の声は聞こえなくなり、僕は漂い続ける空間へと戻った。
あぁ、心地いい。目が覚めたらきっとパンツの中は白い洪水だ。

それが、地獄の一日の始まりだった。








  ( ^ω^)は十回死ぬようです。



( ^ω^)「やっぱ夢だったお」

目が覚めると、そこは普段から変わらぬ自分の部屋だった。
ヲタグッズ、ポスター、フィギュア、抱き枕に腐女子御用達のBLノベルまである。

( ^ω^)「今日も健やかな目覚めだお、月曜じゃなければもっと良かったお」

とはいえ、別に内藤ホライゾン、仲間内からはブーンと呼ばれる彼はひきこもりではない。
むしろ気の合う仲間達と会う事の出来る学校が楽しみですらあった、勉強しに行っているわけではないのが悲しいところだが。
手早く荷物をまとめ(学校で読むラノベと漫画)、制服に着替え(しわだらけ)、朝食を食べる為に1階へと降りる。

( ^ω^)「おはようだおー」

ξ゚听)ξ「五月蝿い黙れ耳が腐る」

晴れやかなブーンとは対象的に、物凄く不機嫌そうな顔をしているのは一つ下の妹、ツンである。
言葉遣いが酷いのはいつものことなので、ブーンは特に気にせず席につく。

J( 'ー`)し「おはよう、ご飯できてるからちゃっちゃと喰ってとっとと行ってきなさい」

( ^ω^)「目玉焼きの目玉が無いお」

J( 'ー`)し「ごめん、食べた」

( ^ω^)「おまwww」


J( 'ー`)し「ああ、カーチャン今日はタッキーのコンサート行かなきゃいけないから夕食はピザでもとって食べてなさいな」

しかたなくブーンはバターの塗られた食パンと目玉の無い目玉焼きを口に運ぶ。

ξ゚听)ξ「これってただの焼きなのかしら……」

( ^ω^)「知らないお……」

数分後、なんだかんだで綺麗になった皿を流し台に運び、家を出るまで数分前、といった時間になった。

ξ゚听)ξ「あ、そうだアニキ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「悪いんだけどさ、これ返しておいてくれない?」

そう言ってツンが取り出したのは一冊の本だった。



( ^ω^)「そう、そのまま飲み込んで……僕のエクスカr」

帯を読み上げるブーン。
かいしんのいちげき!

ξ゚听)ξ「口に出すな」

( 。ω。)「おま……ここは……僕のレヴァンティンが折れ……」

ブリッジしながら悶えるブーンを横目に、ツンは玄関に向かう。

ξ゚听)ξ「んじゃよろしくねー、いってきまーす」

扉が閉まる音がする、ツンは出て行ったのだろう。

( ^ω^)「ちょ、図書館経由だと遠回りになるのに……」

ブーンのかよう高校と、ツンのかよう中学は距離にして同じ様なものだが、位置が正反対だった。
そして図書館は高校寄りにあり、ツンは普段からそこを利用している。

( ^ω^)「まあしょうがないお、一肌脱いでやるお」

へし折れたレヴァンティンを内股で擦りながら、ブーンも家を出た。



…………。

痛い、痛い、痛い、痛い。
背骨は間違いなく折れている、でなければ、燃え盛る炎の中、セルフフェラの体勢なんかできるわけがない。

('A`)「ブーン!! ブーン!! おいふざけんなよ!! おい!!」

目の前で友人が泣いている。
なんだ、僕って結構幸せ者じゃないか、泣いてくれる奴がいるなんて。
でもそこに居ると危ない、ガソリンに引火した炎はまだ広がり続けてるんだから。

(  ω )「……………………ぁ」

声が出た、奇跡だ。
伝えなくては、自分の今を。

(  ω )「ド……ク……僕……は……」

('A`)「喋るな! 今救急車呼んだから! 糞ッ、こんな事のために携帯買ったんじゃねえぞ!」

ドクオは屈みこんで、物理的に不可能な形でそこに倒れている僕の手を握っていた。


(  ω )「死……で……また……」

('A`)「喋るなって! 死ぬな! お前が死んだら俺はまた引きこもるぞ! 次はお前が家に来てくれたって家にいれてやらねえぞ!」

(  ω )「聞い……て……、次……」

('A`)「え?」

その声の真剣さが、死に怯えている物ではない、希望を持ったものであると、ドクオは無意識に感じ取ったのだろうか。
握った手の力が抜ける、それでもその声ははっきり届いた。
荒唐無稽で、言い出せなかった話を、彼は信じてくれるだろうか。
ただ、伝えたい言葉を、言う。


「次の僕を 助けてくれお」



…………。

 


( ^ω^)「やっぱ夢だったお」

目が覚めると、そこは普段から変わらぬ自分の部屋だった。
ヲタグッズ、ポスター、フィギュア、抱き枕に腐女子御用達のBLノベルまである。

( ^ω^)「今日も健やかな目覚めだお、月曜じゃなければもっと良かったお」

とはいえ、別に内藤ホライゾン、仲間内からはブーンと呼ばれる彼はひきこもりではない。
むしろ気の合う仲間達と会う事の出来る学校が楽しみですらあった、勉強しに行っているわけではないのが悲しいところだが。
手早く荷物をまとめ(学校で読むラノベと漫画)、制服に着替え(しわだらけ)、朝食を食べる為に1階へと降りる。

( ^ω^)「おはようだおー」

ξ゚听)ξ「五月蝿い黙れ耳が腐る」

晴れやかなブーンとは対象的に、物凄く不機嫌そうな顔をしているのは一つ下の妹、ツンである。
言葉遣いが酷いのはいつものことなので、ブーンは特に気にせず席につく。

J( 'ー`)し「おはよう、ご飯できてるからちゃっちゃと喰ってとっとと行ってきなさい」

( ^ω^)「目玉焼きの目玉が無いお」

J( 'ー`)し「ごめん、食べた」

( ^ω^)「おまwww」


J( 'ー`)し「ああ、カーチャン今日はタッキーのコンサート行かなきゃいけないから夕食はピザでもとって食べてなさいな」

しかたなくブーンはバターの塗られた食パンと目玉の無い目玉焼きを口に運ぶ。

ξ゚听)ξ「これってただの焼きなのかしら……」

( ^ω^)「知らないお……」

数分後、なんだかんだで綺麗になった皿を流し台に運び、家を出るまで数分前、といった時間になった。

ξ゚听)ξ「あ、そうだアニキ」

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ「悪いんだけどさ、これ返しておいてくれない?」

そう言ってツンが取り出したのは一冊の本だった。

( ^ω^)「……あれ?」

なんだこれ、前にもこんな事あったような。


ξ 凵@)ξ「どうしたのよ、早く受け取ってよ」

イライラしはじめたツン、しかしブーンはそれどころではなかった。

( ^ω^)「……あ、あ、あああ!!!!」

ξ゚听)ξ「っ! 何よ! びっくりするじゃない!」

( ^ω^)「思い出した! 思い出したお!」

そう、彼は思い出した。
自分の一回目の死を。


………………。


('A`)「よう」

( ^ω^)「おいすー」

二人が毎日落ち合うのは、この町の中心部、大十字路とも呼ばれる巨大な交差点だった。

('A`)「いや、今日はいい朝だな」

( ^ω^)「まったくだお」

二人が友人関係になったのはかれこれ半年前、入試の丁度半年前という、この年齢の人間にとっては将来を左右する大事な時だった。
その時何があったのか、それは今の二人にとってはどうでも良いことだ。
今、このときがとても愉しい、かけがえの無い友人であるという事実だけがそこにある。

( ^ω^)「朝からいい夢を見たお、美人のねえちゃんと話したお」

('A`)「お、奇遇だな、俺もだ」

( ^ω^)「マジかお」

('A`)「ああ、十人の美女が俺のそそり立つグングニルを舌で……、フヒヒ」

(;^ω^)「さすがの僕でもそれには引くわ」

何はともあれ、二人は学校までの道を悠々と歩いていく。


( ^ω^)「そういえばお」

('A`)「あん?」

ブーンは今朝の夢をドクオに話した。
うろ覚えだが、一番肝心な部分だけを縮めて言う。
するとドクオはけらけらと笑って答えた。

('A`)「そりゃあれだ、お前、生まれ変わっても彼女できないってこった」

( ^ω^)「ちょwww夢でそんな事言われたくないおwww」

('A`)「夢ってのは深層心理が沸いて出てくるもんだからな、つまりお前も自分自身で自覚してるってこった」

( ^ω^)「なんてこったい」

そんなくだらない会話をしながら、学校へ辿り着く。
この時間が、何よりの平穏で、楽しみだった。

…………。


( ^ω^)「今日も一日愉しかったお」

('、`*川「そう言う事は小テストで0点取るというマントルが逆流したかのような危機的現状をどうにかしてからいいましょうね」

ブーンの げんざいち
→しょくいんいつ

('、`*川「あなたはいい子なんだけどね……、なんというか、ベクトルを少しでもいいから勉強の方に向けてくれないかしら」

( ^ω^)「だが断る」

('、`*川「…………」

担任のペニサス伊藤は、生徒からも人気のある教師だった。
科学の教師である彼女は難しい言葉を多用する事もあるが、ブーンも嫌いではない。
唯一の欠点は、怒らせると怖いと言う事だが。

彼女の背後から、影がゆらりと立ち上る。

( ^ω^)「ちょwww死亡フラグwww」

('、`*川「WRYYYYYYYYYYY!!!!」



しばらくおまちください。


( )ω()「前がみえねぇ」

('、`*川「今日はこの程度にしておいてあげるわ、あとこれ」

ぱらり、と手渡されたのは一枚のプリントだった。

( ^ω^)「お、なんですかお?」

('、`*川「それ、クーさんに届けてくれる?」

クー、というのはクラスメイトのことだった。
ただ、彼女の顔を知っているのはブーンだけだろう。
なぜなら彼女は現在進行形で引きこもりだからだ。

( ^ω^)「げ」

('、`*川「あら? いつもは『わかったおー』とか言って届けてくれるのに」

( ^ω^)「いや、なんでもないですお」

ツンから頼まれた本を返す図書館と、クーの家は微妙に距離が遠いのだ。


('、`*川「ならお願いね、じゃあさようなら」

( ^ω^)「また明日だおー」

職員室を出ると、ドクオがカバンを頭の上に載せながらバランスを取って待っていた。

('A`)「終わったか」

( ^ω^)「終わったお、頼まれ事もされたお」

受け取って、まだカバンにしまっていないプリントを見せると、ドクオも『ああ』と納得したようだ。

('A`)「しかしお前も災難だなぁ、あの変わり者と係わり合いになるなんてよ」

( ^ω^)「半分はお前の所為だお」

クーと言う生徒はあらゆる意味で特殊だった。
引きこもり、と言ってもいじめられている訳でもない、何かされているわけでもない。
中学時代の彼女は最低最悪の魔女とさえ呼ばれ続けていたそうだ。
そんな彼女にブーンがプリントを届けているのは、ひとえにドクオの存在の所為である。


ドクオも中学時代は引きこもりだった、それを厚生させたのはブーンである、という事は前述されていたが、それに目をつけた存在がいた。
勿論、ペニサスである。

昔の噂を聞きつけたペニサスは、ブーンに協力を要請した。

「君ならなんとかできるわ!」「無理ですお」「届けてくれたら私の権限で週一学食を奢るわ!」「まかせてほしいお」

という物凄いやり取りの末だが。

( ^ω^)「そんなわけで今日は滅茶苦茶遠回りになるお」

('A`)「あー、じゃあ先に帰るわ」

校門まで一緒にあるき、やがて二人は別れる。

( ^ω^)「また明日だおー」

('A`)「うーっす」


( ^ω^)「先に本を返してしまうかお……」

図書館が閉まるのは五時なので、そっちを優先すべきと判断したブーンは、その方向へと歩きだした。

(´・ω・`)「…………」

( ^ω^)「ひかるかっぜっをおいこしたらー♪」

歌いながら歩くブーンの後ろに、その存在は居た。

図書館は大通りの向こうにある、信号を渡れば直ぐだ。
車の流れが速いので、中々青に切り替わらないのが傷だが、しかしブーンは気にしない。

( ^ω^)「あるーはーれたひーのことー」

(´・ω・`)「……危ないよ」

……ん?

(´・ω・`)「君、死相が出てる」

( ^ω^)「……僕のことかお?」


後ろから聞こえた声に振り向くと、ブーンと同じ学校の制服を着た少年が、立っていた。
身長はブーンより低いが、ネクタイが蒼い、上級生だ。

(´・ω・`)「僕のことはショボンでいい、内藤君」

( ^ω^)「……なんで僕の名前を知ってるんだお」

一歩後ずさる、この人間、何か不味い。

(´・ω・`)「そりゃ二日に一回、ペニサス先生に無駄無駄ラッシュされてる人だからね、君」

(;^ω^)「ありゃ」

警戒したのが馬鹿みたいだった。
だが、聞き逃せない言葉があった。

( ^ω^)「でも、死相ってどういう意味だお」

(´・ω・`)「文字通りだよ、むしろ僕は聞きたい。何で君――――」


「生きてるの?」




そういうと、ショボンはブーンをじっと見つめた。

( ^ω^)「な、なんだお、それ」

(´・ω・`)「うん、落ち着いて聞いて欲しい」

信号が青になった、だが、わたる余裕などない。
ショボンが言葉を紡ぎだす。

(´・ω・`)「死相が見える、って言ったけどね、空気なんだよ」

( ^ω^)「空気?」

(´・ω・`)「うん、僕はなんとなくだけど、その人が持つ空気ってのが見えるんだ」

電波か、創○か、宗教か?
そんなブーンの疑問に答えることなく、ショボンは続ける。

(´・ω・`)「例えば君は周りの人を明るく出来る人間だ、周囲を柔らかくできる人間、うん、コールドリーディングと言い換えても構わないんだけどね」


それは聞いた事がある。
単純に言うならば観察力だけでその人の特徴や性格、その他色々なものを捉える技術だ。
主に占いや詐欺、インチキな超能力に使われる。
逆に、事前の情報をあたかもその場で言い当てたかのように振舞う事をホットリーディングと言うが、それはどうでもいい。

信号が、点滅し始めた。

会話する二人の横を、急いで横断歩道を渡ろうとする学生が通り過ぎる。

(´・ω・`)「ただ、君は今それ以上に纏ってる空気が違う。 死にそうな人っていうのは僕にとってなんとなくわかるんだけど……」

( ^ω^)「だけど?」

(´・ω・`)「君は」




「五回ぐらい死んでもおつりが来そうな空気を持っているよ」







その瞬間。

トラックが。

会話する二人を。

いや。

一人。

『ブーンだけを飲み込むような形で』、あるいは『ショボンの目の前を通り過ぎるように』、突っ込んできた。

ブレーキは間に合わず、ブーンを横殴りに吹っ飛ばす。
体がねじれて倒れこむ、トラックの運転手は勢いよく外にでて叫んでいた。

信号を渡ろうとしていた学生をよけたトラックが、そのままこっちへ来た、と言う事、らしい。
だがそれを考えるだけの思考力は、それを認識するだけの余裕は、もうブーンには無い。

その情景を見て、ショボンは悲しそうに、どこか納得したように、呟いた。

(´・ω・`)「だから言ったのに。『死相』が出てるって」

その声は、もう届かない。

:一回目の死亡・事故死。 
:実行犯・トラックの親父。
:死亡時刻・四時二十三分。
:( ^ω^)は十回死ぬようです――続く。

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