『アクアリウムフィッシュ、選手の交代をお知らせします。
バッター、早良に代わりまして、毒田。背番号、7』
閑散とした球場にウグイス嬢の声が鳴り響く。
もはや聞き慣れた俺のテーマ曲が流れる。
閑散としているスタンドからはそれでも歓声が聞こえる。
ツーアウトランナー二塁。
ピッチャーの代打で俺が告げられた。
( ´ー`)「……」
マウンドでは47歳を迎えた貫禄のおじいちゃん、白根が立っている。
かつての大投手ももはや球のキレも球威も見る影もない。
('A`)「……」
今は消化試合で登板するだけの穀潰しだ。
こんなピッチャー簡単に打てる。
打席に入って数回バットを振る。そして白根を睨みつけた。
( ´ー`)「……」
一球目。
ぎこちないフォームから投げ込まれたボールは力なくまんなかへ入ってくる。
('A`)「一球目を見る必要もねえや」
思い切りバットを振り切る。
そしてバットがボールを捉える瞬間――ボールが、微妙に変化した。
('A`)「!?」
しかし、バットは止まらない。
ボールを捉えきれず、上っ面を叩いてしまった。
転々とショートに転がっていき――ファーストに転送された。
('A`)「……」
ゲームセット。
スタンドからは相変わらず閑散としたため息が起こる。
こうして我がアクアリウムフィッシュ、及びそこに属する毒田剛の2009年シーズンは終わりを告げた。
('A`)は野球選手のようです
('A`)「ふぃー」
アクアリウムフィッシュ。
球団の歴史は古いが、大した実績を残していない不人気球団だ。
特に最近の弱小っぷりは折り紙付き。
チームは音の速さで指定席の最下位を確定した。
当然そんなチームに金があるはずもなく。
('A`)「……はぁ」
契約更改でもらった紙をピラピラとたなびかせる。
その紙には前年度の年俸より20%ほどOFFされた金額が並んでいた。
一足早い俺だけの新春バーゲンセールだ。
しょうがないことではあった。
前半戦、俺は怪我で開幕から出遅れた。
そして開幕から1ヶ月遅れてチームに合流すると、早くも最下位にいた。
('A`)「……そんなんでモチベーション上がるかっつーの」
結局最後までやる気が起きなかった俺は打率.287、本塁打8、打点37で2009シーズンを終えた。
前年度3割15本を打った俺からすると低い数字だ。
('A`)「……ふぁー」
考える。俺は高卒でプロに入って6年。来シーズンは7年目だ。
一応成績はどこに出しても恥ずかしくない。
しかしチームはどこに出しても恥ずかしい。
弱すぎる。――ここでは自分の力を発揮できない。
('A`)「……」
ベッドにごろんと寝転がる。
俺には高校から夢があった。一つはプロになること。これは叶った。
もう一つ。日本シリーズで超満員のスタンドを俺のプレーで沸かせること。
('A`)「……」
しかし実際はどうだ。
ドラフトで3球団競合されたまではよかった。
しかしくじを当てたのは超弱小球団アクアリウムだった。
拒否、という考えはなかった。時間をムダにしたくなかったからだ。
アクアリウムに入団した俺。
そこでの生活は俺が思い浮かべていた華々しいプロ生活とはかけ離れていた。
やる気の無い練習をダラダラ続ける先輩方。
GWの試合でも閑散としたスタジアム。
ポツポツといる観客からも聞こえてくるのはヤジばかり。
('A`)「……内藤、どうしてんのかな」
同じ高校からプロに入った親友を思い出す。
やつは人気球団ニュー速ヴィッパーズに入団した。
が、内藤の目立った活躍は聞かない。
('A`)「ああ―やだやだ。おらこんなチームいやだぁ」
ベッドの上で駄々をこねる。
それは決して叶わない夢だ。せめて、FA資格を取るまでがんばろう……
(^o^)v-~~~「君、トレードね」
('A`)「へ?」
間の抜けた声を出す。
いきなりオフに呼び出されたかと思うと球団幹部からトレードの通告があった。
つーかタバコ吸うな。
(^o^)v-~~~「相手はニュー速。手続きやらなんやらは追って連絡するから。
じゃ、新天地でも頑張ってね」
('A`)「はあ……わかりました」
車で家に帰る。
運転中はまだトレードを通告されたのがわからずボーっとしていた。
('A`)「……」
自宅に帰ってベッドに座ってもなんの感慨も沸かなかった。
やはり、チームを出たい出たいと思っていてもいざ出ていくとなると寂しい。
俺もプロの端くれだ。俺の力でこのチームを盛り立てたいという気持ちはあった。
その気持ちが実を結ぶことは無かったが。
('A`)「……」
結局気持ちの整理はつかなかった。
毒田剛、プロ野球選手7年目。
所属、ニュー速ヴィッパーズ。背番号、37。
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