12. ――高岡8歳





从 ゚∀从「……お前、左利きなんだな」

从'ー'从「へ?」


俺は小学2年生の春、隣の席に座ってた奴に興味を持った。
同じような髪型、同じような女顔、そして同じ左利き。
話しかけない要素はなかったのかもしれない。


从 ゚∀从「いや、気になっただけ」

从'ー'从「……君も?」

从 ゚∀从「ああ……なあ、野球やんねー?」


俺は渡辺をそう誘った。
その時俺は地域のボーイズリーグに入っていた。
渡辺を誘ったのには特に意味はない。
もしかしたら、自分より下手な奴をチームに入れて安心感に浸りたかったのかもしれない。


从'ー'从「高岡くーん、お待たせ〜」

从 ゚∀从「おせーよ」


渡辺が俺のチームに入るその日。
あいつは野球道具を一通り揃えて待ち合わせ場所にやってきた。


从;゚∀从「すげー、これミズノのバットじゃん! あ、こっちのグラブはSSK!」

从'ー'从「お母さんがもってけ、って言った奴なんだけど……」

从;゚∀从「……」


野球道具は高い。
その当時俺の家にあまり余裕はなく、道具はおさがりのものが主だった。


从 ゚∀从「……なにこのグラブ」

从'ー'从「店員さんに左用って言われたんだけど……」

从;゚∀从「左用!?」


俺のグラブはおさがりに右用。つまり利き腕の左にはめるグラブだ。
対して渡辺のグラブは左用。右手にはめるグラブだ。


从;゚∀从(グラブに左用ってあったんだ……)


みんながみんなグラブを左にはめていたので自分もそうしていたが……
実は左用のグラブもあったのだ。それを知っていても買えることはなかったろうが。


当時の俺は4番でエース。
チームの絶対的存在だった。
そんな俺が連れてくる人間はどんなだと、チームメイトのみならず監督も興味津々だった。


从 ゚∀从「ま、気まぐれだけどな」

从'ー'从「なんか言った〜?」

从 ゚∀从「なんでもねーよ」


そう言って自転車を立ちこぎでこぐ。
いつも通い慣れたグラウンドに。


从;'ー'从「わ、渡辺です。よろしく……」


チームに自己紹介をする渡辺。
左利きで高価な野球道具を持っているとあらば、みんなが興味を持って集まる。


「ちょっと投げてみてよ!」

从;'ー'从「う、うん……」

从>ー<从「えいっ!」

从 ゚∀从「……」


見るも無残な女投げ。
体を使わず、腕も振れていない。もちろん離れていた相手には届かない。


从'ー'从「あれれぇ〜?」


从 ゚∀从「違う違う。ボールってのはな……」


大きく振りかぶる。
左利きとはいえ、長年右でやってきた。今ではエースだ。
しっかりと腰を落とし、肘を先に出して、腕をしならせる。


从#゚∀从「こう投げんだよ!!」

从;'ー'从「わっ」


力いっぱい渡辺に投げ込む。
この時の監督の話だと、俺はもう100キロ近い球を投げていたらしい。


从>ー<从「いたっ!」


その球をを渡辺は取れずに、頭にぶち当てた。
ボーイズリーグは硬球だ。きっと痛いだろう。


「いたそー」

「大丈夫かー?」

「理緋、初心者に速い球投げすぎだって」

从 ゚∀从「わりー、わりー。大丈夫?」

从;ー;从「……」


渡辺は目に涙を浮かべていた。
少しドキッとするがその思いを振り払う。


从;゚∀从「な、泣くんじゃねーよ!!」

「なーかした、なーかしたー」

从;゚∀从「うるせえ」

从;ー;从「……す」


从;ー;从「すごいねえ!!」

从 ゚∀从「へ」


思わず間の抜けた声を出す。
てっきり大きな声で泣き出すんじゃないかと心配だったからだ。


从;ー;从「僕、あんな速い球初めて見た! ね、投げ方教えてよ!!」

从;゚∀从「お、おう」

「根性あんなー」


こうしてなんとなく溶け込んだ渡辺。
高価な道具を使っていたが、俺の知る限りではイジメもなかった。


そうして練習をこなしていく俺たち。
ボーイズが休みの日、俺は友達と遊んでいた。


「理緋、野球の練習せんでええん?」

从 ゚∀从「んで、休みの日にまで野球やらなきゃいけねーんだよ」

「んだよ、プロになるんじゃねえの」

从 ゚∀从「おうおう、なってやるよ。でもな、休養も必要よ」

「……あ」

从 ゚∀从「? どしたー」


自転車の大群の先頭を走っていた奴が止まる。
自動的に後ろを走っていた俺たちも止まる。


「あれ、渡辺じゃない?」


そう言って指差した先には小さいグラウンドの片隅でバットを振る渡辺だ。
隣には、父親だろうか。大人がつきっきりで指導している。


从 ゚∀从「んー? ……ほんとだ」

「素振りしてるじゃん」

「隣にいる人誰だ?」

「……あ、監督じゃん!」


「何してんだろ」

从 ゚∀从「さあ。ヘタクソだから特訓でもしてんじゃねえの」


渡辺は嫌われてこそいなかったが、ヘタクソだった。
バットにボールを当てることはできないし、速い球も投げれない。
そんな渡辺はみんなにからかわれていた。


「ま、いいじゃん。早く高橋ん家行ってファミコンしようぜ」

从 ゚∀从「おー」


そうして俺たちは渡辺を尻目にチャリをこぐ。
ここの差が、後々埋めがたいものになることも知らずに。


「それでは、今度の試合のスタメンを発表する」


時は俺たち5年生の年の夏。
その時も俺はバリバリの4番エースとして君臨していた。


(理緋、今度も4番ピッチャーだろ?)

从 ゚∀从(おうよ)


友達がひそひそと俺に話しかけてくる。
このスタメン発表の時間は俺以外のスタメンを発表する場だった。


「1番センター高橋」

「ハイッ!」

「2番ショート源五郎丸」

「ハイッ!」

「3番キャッチャー理緋」

从 ゚∀从「……は?」


すっかり油断していた。
理緋、とは自分の名だ。
3番? それに、キャッチャー?
意味が分からない。じゃあ4番ピッチャーは誰だ。


从#゚∀从「ちょっと待てよ監督!」

「どうした」

从#゚∀从「どうしたもこうしたもねーよ! なんで俺が3番でしかもキャッチャーなんだよ!」

「……」

从#゚∀从「俺は真面目に練習してるし! 下ろされる理由はないぞ!」


1回、4番エースの座を剥奪されたことはあった。
練習をサボって遊びに行った時だ。
それに懲りた俺は練習にきちんと参加した。やる気ももちろん出していた。


从#゚∀从「納得いかねーって!」


サボった時は100%自分の非だった。
だから仕方ないと反省したし、そういうことをやないとも決心した。
しかし今回は違う。100%自分に非はないのに――


「……続けるぞ」

从#゚∀从「監督!」

「4番ピッチャー綾」

从;'ー'从「ふぇっ!?」


渡辺が素っ頓狂な声を上げる。
確か、綾という名は――


从#゚∀从「ふっざけんなよ!! なんで渡辺が4番ピッチャーなんだよ!!」


「……本当に、理由が分からないか?」

从#゚∀从「ったりめーだろ! ……あれか、こいつが俺より練習してるからか」

「違う。まあそれに関した理由だが」

从;'ー'从「監督……僕、いいです。理緋に譲ります……」

「ダメだ。今度の試合の4番ピッチャーはお前だ」

从#゚∀从「納得いかねーって言ってるだろうが!!」


グラウンドは、騒然となる。


「……ふう」

从#゚∀从「……」

从;'ー'从「……」

「仕方ないな。理由を言っても理緋は納得しなさそうだし……」

从#゚∀从「……」

「勝負しろ」

从;'ー'从「ふぇっ!?」

「綾がピッチャー、理緋がバッターの一打席勝負。それでいいか?」

从#゚∀从「……勝ったら4番ピッチャーだからな」

「はいはい」

从#゚∀从「……」

从;'ー'从「あの……監督……僕本当にいいです……」

「綾」


「綾、これはな、理緋のためでもあるんだ」


渡辺だけにひそひそと話をする監督。
渡辺はそれを聞く。


「理緋は天狗になってる。あいつの鼻を叩き折ってやった方があいつのためなんだ」

从;'ー'从「でも……僕じゃ理緋は抑えられません」

「抑えられません、じゃない。抑えるんだ。大丈夫、綾ならできる」

从;'ー'从「……」


从 ゚∀从「ひそひそ話は終わったかよ」


ヘルメットをつけ、バットを持ちボックスに入る。
素振りをし、マウンドに立った渡辺を睨む。


从;'ー'从「そんな睨まないでよ……」

从 ゚∀从「とっとと来いよ」


「高橋と源五郎丸はそれぞれキャッチャーと審判をしてやれ」

「「は……はい!」」


从;'ー'从


渡辺が投球動作に入る。
そのフォームに俺は少なからず驚く。


从 ゚∀从「!」


最初の女投げでもない。
かといって俺が教えた力いっぱい投げるフォームでもない。
まるでプロのような、ゆったりとしなやかなフォーム。


从;゚∀从「監督め……綾に何吹き込みやがった……!」


1球目。


从 ゚∀从「……なんだよ」


投じられたボールは高岡の球より遥かに遅い。
フォームの優美さに少し驚きはしたが、この程度の球ならエースの資格はない。


从#゚∀从「なめんなあ!!」

从;'ー'从「っ!」


力いっぱいバットを振り抜いた。


「す、ストライク!」


从 ゚∀从「……はあ?」


審判役の源五郎丸がストライクをコールする。
確かに自分は空振りした。
あの遅い球を。なぜ?


(なんだよ……さっきの球……)


キャッチャー役の高橋は驚愕する。
高岡よりかなり遅い球。
しかし、渡辺の球は手元で急に伸びてくる。


(……高橋は、気づいたみたいだな)


ベンチに座る監督はまだ渡辺の球の特性に気づかない高岡を見ている。


2球目。
詰まった当たりはバックネットに当たる。


从;゚∀从「なんでジャストミートしないんだ……?」


2球とも自身を持って振り抜いた。
パワーには自信がある。
ジャストミートすればボールはどこまでも飛んでいくはずなのだ。


そして、3球目。


从#゚∀从「そろそろ……」

从;'ー'从「……」

从 ゚∀从「当たれよっ!!」


バットは金属らしい鋭い音を立てる。
その音とともにボールは高く高く舞い上がり……


从;'ー'从「……」


渡辺のグラブに収まった。


从;゚∀从「……」

「わかったか? 綾とお前の差が」

从; ∀从「わかんねぇよ……」

「……」

从;'ー'从「……」

从#゚∀从「攻守交代だ! とっととどけ!」

从;'ー'从「監督……」
「やってやれ」

从;'ー'从「……はい」

从;゚∀从「なめんじゃねえよ……」


从#゚∀从「俺が……」


投球動作に入る。
むちゃくちゃに力を入れた、ぎこちないフォーム。
そのフォームが1番速い球を投げられると盲信していた。


从#゚∀从「負けるかぁっ!!」


初速だけが速いその球はキャッチャーミットめがけて飛んでいき――


从'ー'从「ここっ!」

从;゚∀从「なっ……」


渡辺のバットの、芯に吸い込まれた。
打球は、河川敷のグラウンドを飛び越え、川に落ちていく。


「これで、投打ともに敗北。もう文句は無いな?」

从 ∀从「……」

「じゃあみんな、手間をとらせてすまんな。続けるぞ。

5番ライト光宙……」

从 ∀从「……」

从;'ー'从「理緋……」

从 ∀从「さわんな」

从;'ー'从「……」


その言葉を聞いて、渡辺は遠くに行ってしまう。
チームメイトからは、

「渡辺すごいな!理緋の球を打つなんて!」

という声も聞こえる。


从 ∀从「……」


「8番セカンドラッキー星……」

「すごいよ綾! ニューエースだな!」

「そんなことないよ」

「あるって! 今まで誰も理緋の球打てなかったんだぜ!!」


从 ∀从「……」


様々な人間の、様々な声が聞こえる。
今まで自分が信じてきた「自分を超える人間はいない」という前提が、覆された。


从 ∀从「……う」

从 ;皿从「ううう……」


その日初めて俺は、悔しさで声を噛み殺して、泣いた。


从 ゚∀从「……」


夜、寝転がってテレビを見る。
いつもは大爆笑するコントも、大して面白くない。


从 ゚∀从「……」


そのうちテレビの笑い声が煩くなり、俺は電源を落とした。
ゴロン、と大の字になる。


从 ∀从「……」


油断すれば、涙がまた出そうになる。
そこでふと思い出すのが、休みの日に監督とともに練習する渡辺の姿。


从 ゚∀从「……ちょっと出てくる!」


「ちょっと理緋!? もう夜よ!?」

从 ゚∀从「監督ん家行ってくる!!」

「ちょっと!!」


うるさい母親を無視して飛び出す。
カギを開けっぱなしにしている自転車に飛び乗る。
闇夜に立ちこぎして向かうところは一つ。監督の家だ。


从;゚∀从「はあ……ついた」


呼び鈴を鳴らす。
結構な時間だが、監督は起きているだろうか。


从;゚∀从「あいつジジイだからな……」

「はいはい……あら」

从 ゚∀从「夜分遅くに失礼します。監督は……」

出てきたのは監督の奥さん。
試合の時にたまに応援に来るからお互い顔は覚えていた。


「はいはい、庭にいますよ。いらっしゃい」

从 ゚∀从「失礼します」


そう言って上がらせてもらう。
用件は一つ。特訓をさせともらうのだ。


「しかし……あの人は教え子に好かれるのね」

从 ゚∀从「……?」


広い家の廊下を歩きながら奥さんは話す。
しかしその内容は俺にはわからなかった。


从 ゚∀从「……あ」


月のきれいな晩だった。
その月光に照らされた素振りができるほど広い庭には――


「おう、そろそろ来るかと思ってたぞ」


監督と。


从;'ー'从「理緋……!!」


バットを持ち、額から汗を垂らす綾だった。


「やっと来たか。まあ来なかったら見込みなしだったけどな」


わっはっは、と高笑いする監督。
不思議そうな顔をする綾。


从;'ー'从「理緋!? どうしたの!?」

从 ゚∀从「あのなあ、綾よ。勝ったと思ってんじゃねえぞ」

从;'ー'从「……?」

从 ゚∀从「才能は俺の方があるに決まってんだ。じゃあ俺がなんで負けたのか……」

「練習の差」

从 ゚∀从「うるせえジジイ。……だからな、てめえと一緒かそれ以上練習をする」

从;'ー'从「……」

从 ゚∀从「そうしたらよ、お前なんかすぐに超えちまうんだよ」


从;'ー'从「……?」


まだ理解できない、という顔の渡辺。
高岡はしびれを切らしたように叫ぶ。


从#゚∀从「だからよ! お前以上に練習してお前に勝つっつってんだ!!」

从;'ー'从「……」

「……ふふっ」

从 ゚∀从「な、何笑ってんだクソジジイ……」

从*'ー'从「ふふっ」


縁側に座っていた監督と、頬を紅潮させた渡辺が微笑む。
高岡はそれが気に入らない。


从 ゚∀从「んだよ、何笑って……」

从*'ー'从「ごめんごめん、理緋!! わかった! 一緒に練習しよう!!」


从#゚∀从「だから!! 俺はお前以上に……」

「はいはい、お前ら。そんな言い合いしてる暇あったら練習したらどうだ?」


監督が手をパン、パンと叩く。
高岡と渡辺は顔を見合わせ、頷きあった。


从 ゚∀从「ジジイよ。俺を焚き付けたんだ、面倒見やがれ?」

「はいはい、何時まででもやってけ」


こうして、高岡と渡辺と監督の秘密練習が始まった。
時に衝突し、時に理解し合い、時に指導する。
この練習は、高岡たちが高校生になるまで続けられた。


――高岡29歳(現在)


从 ゚∀从「……」


ざあっと、一陣の風が通り過ぎる。
11月にしては暑い。
スーツではなくもっとラフな格好をするべきだったか。
そう思い高岡は花を手に歩く。


从 ゚∀从「……あ」


目的地が見えたと思った瞬間。
最も見たくない奴がいた。


从'ー'从「や」


渡辺が、手を振っていた。


从 ゚∀从「……お前も来てたのかよ」

从'ー'从「まあね」

从 ゚∀从「拝んだか?」

从'ー'从「もちろん」

从 ゚∀从「そうか。じゃあもっかい拝め。1人じゃ照れくさい」

从'ー'从「はいはい」


そう言って花を飾り、数珠を取り出し線香を立てる。
渡辺も数珠を取り出し手を合わせる。


从 ゚∀从「ジジイ成仏してください……っと」

从'ー'从「そんなこと言ったら余計成仏しないよ」

从 ゚∀从「言えてる」


そう言って、2人はクスクスと笑いあう。
シーズン中では見れない光景だ。


一通りジジイの墓に手を合わせた後、ベンチに座る。


从 ゚∀从「……もう6年か」

从'ー'从「僕たちが23の時だから……そうだね」


ジジイは俺たちが23の時に死んだ。
もともとボーイズの監督をしていたときも定年だったぐらいだ。
大往生だったらしい。俺たち2人は試合でジジイの死に目には会えなかった。


从 ゚∀从「……」

从'ー'从「……」


自販機で買った缶のお茶を飲み干す。
中身が無いのを確認して左手でゴミ箱に投げる。


从'ー'从「……肩は?」


恐らく、俺の右肩の話だろう。
スポーツ新聞で渡辺は知ってるはずだが。


从 ゚∀从「手術だよ」

从'ー'从「……そう」


从'ー'从「元々左利きなんだからさ、左で投げたら?」

从 ゚∀从「……左で投げたら、ジジイが叩き込んでくれたフォームがムダになるだろ?」

从'ー'从「……」


渡辺は黙りこくる。
俺は言葉を続ける。


从 ゚∀从「俺のフォームは……ジジイの生きた証だ」


大げさだけどな、と付け加える。
渡辺は笑うかと思ったがそうでもないらしい。


从'ー'从「……そうだね」


从'ー'从「監督に、タイトルトロフィー見せたかったな。生きてるうちに」

从 ゚∀从「……まあなあ」


ジジイが死んだのは俺たちが23の時。
その時俺は大卒のルーキーで、渡辺は一軍定着ができないでいた。
しかし渡辺は24歳の時から毎年二桁勝利。
俺は昨シーズン20勝を上げた。


从 ゚∀从「逝くタイミングが悪いんだよ、あいつは」

从'ー'从「同感」


俺たちが輝き始める前に、ジジイは逝った。
ジジイは必死に磨き上げた俺たちの輝きを見る前に逝った。


从 ゚∀从「んじゃ、俺は行くわ」

从'ー'从「そう。実は僕も帰るとこなんだ」

从 ゚∀从「男2人で仲良く歩いて帰れって? 冗談じゃねえや」

从'ー'从「まあまあ、たまにはいいんじゃないの」


ふと、渡辺に言うべきことを思い出す。
なあ、と渡辺に声を掛ける。


从'ー'从「なに?」


从 ゚∀从「……もし、俺が這い上がれなかったらさ」

从'ー'从「……」

从 ゚∀从「ジジイの教え子として、後よろしく」


医者からの手術の説明はシビアだった。
復帰できるかわからないほどの大手術。成功確率は五分。
成功して全盛期の球威が戻るかはさらに五分。
弱気になってもしかたない数字だ。


从'ー'从「……珍しいね」


从 ゚∀从「何が」

从'ー'从「理緋が僕に頼む、って言うの」

从 ゚∀从「……かもな」


思えばずっとライバル視してきた相手だ。
そんな奴に頼み事をするなんて確かになかった。


从'ー'从「ま、監督の一番弟子は僕だからね」

从 ゚∀从「はあ? それは聞き捨てならねえな」

从'ー'从「当然でしょ。怪我でナーバスになる奴なんて一生二番手さ」


俺の血管が、切れた音がした。


从#゚∀从「……ああ、決めた。絶対復帰しててめえの顔面にぶつける」

从'ー'从「期待してるよ」


綾は手をひらひらと振り、タクシーを止める。
タクシーが止まる。綾が乗り込む。
俺も乗り込もうとする。
ふと空を見上げる。そこには、10歳の時と同じ空が広がっていた。



高岡理緋
8年目 29歳
70勝 43敗 防3.35

渡辺綾
11年目 29歳
87勝 71敗 防3.54



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