13.('A`)
('A`)「あ゛ー、疲れた」
日本シリーズも終わりアジアシリーズも終わり。
毒田剛の2009シーズンは終わりを告げた。
今は寮のロビーでくつろいでいる。
普段なら内藤や川島がいるのだが……
('A`)「実家に帰ってますっと」
まあそもそも寮に残ってるのは俺ぐらいのものなのだが。
実家と折り合いが悪いわけではない。むしろ問題は無い方だと思う。
しかし俺が実家に帰らない理由はひとつ。
('A`)「近所の人がなあ……」
俺ももう25歳。
実家のような田舎だと、
「あらまー、毒田さんとこのたけしくんがパパに! いややわー!」
みたいな儀式を済ませてしかるべきらしい。
余計なお世話だ。
それに、俺はなんだかんだでこの寮が好きだ。
長いペナントの合間に川島や内藤や若手選手とだべるのも楽しかった。
アクアリウム時代は寮といえば部屋と練習場を往復するだけだった。
('A`)「ま、でもそろそろ潮時だな」
俺ももう来年8年目。そろそろ中堅選手だ。
いつまでもいつまでも寮にいるようでは面子が立たない。
現に内藤は今年度限りで退寮届けを出したらしい。恐らく俺も出すだろう。
('A`)「……」
いつも賑わうロビーも1人だと寂しく感じる。
やはり話し相手、特にあの2人は俺に取って大事な人だ。
別れ際の2人の言葉を思い出す。
( ^ω^)『ツンとイタ飯行きますwwwサーセンwww』
(K‘ー`)『彼女と24時間耐久にゃんにゃんしますwwwサーセンwww』
('A`)「あ、やっぱ殺してえ」
|゚ノ ^∀^)「や、隣いいかな」
('A`)「あ、レモナさん。どうぞ」
声をかけてきたのはレモナさん。
この寮の寮長をしている。
美人だがオカマだともっぱらな噂だ。思わず括約筋に力が入る。
|゚ノ ^∀^)「いる?」
('A`)「あ、いただきます」
そう言って差し出されたのは缶ビール。
酒は嫌いではないのでありがたく受け取る。
|゚ノ ^∀^)「よっと」
プシュっとレモナさんが缶のプルタブを開ける。
風呂上がりなのだろうか、髪は少し濡れていてなんとなく妖艶な雰囲気を醸し出している。
惜しむらくは生物学上男であるというところだろうか。美人なのに。
|゚ノ ^∀^)「飲まないの?」
一向にプルタブを開けない俺にレモナさんが言う。
確かに受け取っておいて飲まないのは失礼だ。それにぬるいビールは好きではない。
レモナさんにならってプルタブを開ける。
――その瞬間。
('A`)「え」
缶が、爆発した。
もちろん、液体的な意味で。
恐らく振られていたのだろう。
プルタブを開けた瞬間に中の液体が反乱を起こした。
('A`)「……なんでこんなことするんすか」
顔からビールをポタポタ滴り落としながら訪ねる。
レモナさんはうーん、と少し考えたあとこう返した。
|゚ノ ^∀^)「かわいいから?」
('A`)「嬉しくありません」
けらけらと笑いながらタオルを渡される。
こりゃ、風呂に入り直しだな。
|゚ノ ^∀^)「毒田くんも退寮するの?」
('A`)「ええ、まあ。もう8年目ですし」
|゚ノ ^∀^)「そう、寂しくなるわねえ」
('A`)「……」
ふと、興味を持って訪ねる。
レモナさんはずいぶん前からここの寮長をしている。
('A`)「先輩方ってどんな感じだったんですか?」
|゚ノ ^∀^)「先輩? 諸本くんとか?」
|゚ノ ^∀^)「そうねえ。いっぱい見てきたわよ。……いっぱいね」
('A`)「……」
|゚ノ ^∀^)「毒田くん大きなケガしたことないでしょ」
('A`)「ええ」
|゚ノ ^∀^)「それは幸せなことよ。本当に」
('A`)「……」
('A`)「……」
ケガの話は、何度か聞いたことがある。
あれは、諸本さんの家に行ったときか。
|゚ノ ^∀^)「で、長く見てるといろいろ悩みを抱えてるのもわかるわけよ」
('A`)「はあ」
|゚ノ ^∀^)「恋の悩みでしょ」
('A`)「ブッ」
思わず口に含んでいたビールを吐き出す。
オカマは色恋に鋭いというのは本当らしい。
|゚ノ ^∀^)「あら、図星?」
('A`)「カマかけたんですか」
|゚ノ ^∀^)「カマだけにね」
('A`)「笑えません」
|゚ノ ^∀^)「まあまあ、恋愛の相談なら聞いてあげるから」
('A`)「……」
少し考える。
レモナさんは男と女の両方を持っている。
なら、相談するのも悪くないかもしれない。
そして俺はレモナさんに相談した。
いつもなら内藤や川島に笑い飛ばされるような恥ずかしい相談だ。
|゚ノ ^∀^)「はっ」
鼻で笑われた。
('A`)「相談しなきゃよかったです」
|゚ノ ^∀^)「まあまあ。告白したらいいじゃない」
('A`)「無理言わないでください」
|゚ノ ^∀^)「いやいや、話聞いた限りじゃベタぼれよその娘」
('A`)「……」
('A`)「ええー……?」
|゚ノ ^∀^)『ちゃっちゃと誘って襲っちゃえばいいのよ!』
その言葉を真に受け、伊藤さんを食事に誘う。
レモナさんの後半の言葉は聞こえない。
('A`)「そういえば俺から伊藤さんに連絡するのは久々だな……」
俺は以前の失敗も踏まえて顔文字も絵文字もつけないメールを送った。
いつまでも独男ではいられないのだ。
('A`)「うおっ」
俺がメールを打ち終わってすぐにメールが返ってくる。
まさか、また悪魔の英文字列ではあるまいな……
('A`)「ふう……」
まさかのメーラーダエモンではなかった。
ちゃんとした正真正銘伊藤さんのメール。
('、`*川『いいですよ! 明日の〇時に××駅前で〜』
('A`)「……」
('∀`)「へっ」
女一匹、ちょろいもんだ。
その返ってきたメールを胸に抱きながら、俺は快眠を貪った。
――朝。
待ち合わせは夕方なのでまだ時間には余裕がある。
しかし時間に余裕があっても俺にはなかった。
('A`)「デートに着ていく服がない」
朝からクローゼットをひっくり返す。
出てくるのはなぜか某配管工が着るようなオーバーオールばかり。
誰だこれ買ったの。
(;'A`)「ふ、服を買いに行かなくちゃ」
(;'A`)「しまった、服を買いに行く服がない!」
俺はパニックに陥った。
('A`)「……」
タクシーに乗る俺。結局服装はスーツだ。
万が一億が一野球選手とバレたら厄介なのでサングラスもかける。
('A`)「……」
「……お客さん」
('A`)「ハイ?」
タクシーの運ちゃんに話しかけられる。
なんだろう、早くもプロ野球選手とバレたのだろうか。
そうだとしたら俺も結構顔が売れt
「SPですか?」
('A`)
('A`)「……」
待ち合わせの場所につく。
まだ30分以上の余裕がある。
サングラスはその場で叩き割った。
黒スーツはまあいいとして黒ネクタイは外した。
('A`)「これで少なくともSPには見られないな」
どっちかと言うともしかしたらダンディ系かもしれない。
そういえば前雑誌の表紙にこんな格好をしてた人がいたような気がしないでもない。
('、`*川「毒田さん?」
(゚A゚)「ひゃい!?」
ショーウィンドウで自分の姿を確認していると後ろから声をかけられた。
そこには可愛らしい服装をした伊藤さんが立っていた。
あのまま運ちゃんが指摘してくれなかったなら本当に姫を守るSPみたいな感じだっただろう。
('、`*川「どこに連れて行ってくれるんですか?」
('A`)「任せてください。いいレストランがあるんです」
そう言って伊藤さんの手を取り歩き出す。
ロイホに行く イタリアンに行く
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