【プロローグ】





(; ω )「暑いのぉ……暑いのぉ……」

(*^ω^)「あぁいいのぉ……そこがいいのぉ……」

真夏の太陽が容赦なく照りつけている。
その熱にやられたかは定かではないが、妙な事を口走る男が一人。


(; ω )「まず、なによりも緊急避難が必要だお……」

(; ω )「灼熱地獄のバーゲンセールだお……」

ただ行く当てもなく、体を右に左に揺らしながら歩いていた。
頬を伝う汗が地面に落ちては、蒸発するのを繰り返す。


(;^ω^)「おや、あれは公園ではないですか?」

(*^ω^)「……水を浴びるお!」

視線の先には、さほど大きくもない平凡な公園。
遊具も片手で数えられる程の量しかないが、水道に誘われるように彼は足を運ぶ。


バシャバシャと快い水の音。

(*^ω^)「あふぅーん、生き返るぅ」

飲むだけでは飽き足らず、頭から水を被る。
太陽が照り返して、キラキラと輝いていた。


( ^ω^)「……ベンチで休むかお」

犬のように、ぷるぷると頭を揺らすと、水は弾ける。
飛び散ったそれが、鮮やかな虹を描き出す。


少し歩くだけで、汗が吹き出るような猛暑。
それに反して、清らかなな風が吹き、爽やかさを感じさせる。

今日も、夏は普段と変わることなく夏だった。


( ^ω^)「……お?」

木陰に隠れたベンチ。
そこに近づいていくと、一つの影が男の目に飛び込む。


( ^ω^)「先客……かお」

小柄な女の子だった。
セーラー服を着た、可愛らしい少女。
暑さによる気だるさなどは微塵も感じさせずに、本を眺めている。


(*^ω^)(……フラグの香りがするお)

少女に、そんな男の不埒な考えは届かないだろう。

彼女の視線は、決して本から離れなかった。
1つのページを見終えると、ゆっくりと本を捲る。
その動作を飽きる気配も見せずに、何度も何度も繰り返す。


そんな少女に見とれていた男がハッと我に返る。
同時に、発した言葉が二人の初めての会話となる。


( ^ω^)「隣、良いですかお?」

(*゚ー゚)「……はい、構いませんよ」



見上げる大空、透き通るような透明な青がどこまでも続いていく。

雲の流れとともに、ゆさゆさと木が揺れて、緑葉が舞い落ちる。

ざわめく木々と、蝉が鳴く声のオーケストラが空間を包む。

太陽が、全てを美しく染め上げるように真っ白に輝いている。



少女と、少年の、出会いの瞬間だった。










  ( ^ω^)猛暑のようです 【第一話:少女の名前】













('A`)「へぇ、それなんてsneg?」

( ^ω^)「昔からあるじゃないかお。タイトル『現実世界』だお」

どこにでもあるような、校舎の屋上。
そこで、二人の男が互いを嘲るように会話していた。


('A`)「なるほど、なるほど。混合しちゃったってやつか?」

( ^ω^)「いやぁ、ドクオさんの妄想癖は相変わらずですお
     思わず、黄色い救急車を呼びたくなってしまいますお」

一方は、先生が生徒の話を聞くような口調。
また、一方は大げさな手振りと共に、演説するかのような口調である。


('A`)「ははは、それはこっちの台詞なんじゃないか?」

( ^ω^)「L5になると、他者の言う事が嘘にしか聞こえないらしいお?」


(#'A`)「てめぇ……!」

(#^ω^)「あぁん……!」

ぽかぽかと叩きあい、幼児のような喧嘩をしているが、二人は今年から高校生になった。

貧相な体つきに、冴えない顔をしているのがドクオ。
暑さには滅法、強いらしく、一年を通して半袖を着る機会はないらしい。

若干、栄養の取りすぎを感じる、がっしりとした体つきをしているのが内藤ホライゾン。
体格的に、近づき難いように思えるが、朗らかな顔つきがそんな印象を。上手く緩和させていた。


( ^ω^)「待て……争いは何も生まないお……」

('A`)「それもそうだな……戦争は愚かだ……」

( ^ω^)(お前はもっと愚かだお)

('A`)(お前はもっと愚かだけどな)


('A`)「大体よぉ、公園で可愛い少女と出会って仲良くなりました。
    ……そんなことが俺たちのような人間に起きるはずがねぇだろ、常考」

( ^ω^)「お前と僕は違うってことだお」

('A`)「冗談抜きに信じられん。マジだとしても、ツボか勧誘か……」

(#^ω^)(この童貞インポ野郎……!!)



('A`)「俺はインポじゃねぇし、大体お前だって童貞だろうが」

( ^ω^)「心を読むなお」

('A`)「口に出てた」

( ^ω^)「実はわざとなんだおー!」


(;'A`)「…………」



ドクオがその発言に対し、文句を付けてようとしたところで鐘の音が二人の耳に届く。
昼休みも、もうじき終わりだという予鈴のチャイムである。

( ^ω^)「じゃあ、僕はそろそろ行くお。
      『友達』にノートを借りてるんだお」

('A`)「……それくらいの嫌味じゃ、心も痛まねぇよ」

( ^ω^)「ドクオはどうするんだお?」


('A`)b「もう少ししたら、ここを出て便所で携帯いじくるさ」

( ^ω^)b「流石!」


ドクオには、ブーン以外に友達がいない。
指を立てている動作にも、ほんのりと哀愁が漂っていた。


ドクオがその発言に対し、文句を付けてようとしたところで鐘の音が二人の耳に届く。
昼休みも、もうじき終わりだという予鈴のチャイムである。

( ^ω^)「じゃあ、僕はそろそろ行くお。
      『友達』にノートを借りてるんだお」

('A`)「……それくらいの嫌味じゃ、心も痛まねぇよ」

( ^ω^)「ドクオはどうするんだお?」


('A`)b「もう少ししたら、ここを出て便所で携帯いじくるさ」

( ^ω^)b「流石!」


ドクオには、内藤以外に友達がいない。
指を立てている動作にも、ほんのりと哀愁が漂っていた。


ドクオの人生は平凡であり、異端でもあった。

小学校の頃は、至って普通であり友達もいた。
内藤と共に休み時間は駆け回っていた。

中学生の頃は、地元の遺産とも呼べる物のおかげでなんとか乗り切れた。
ただ、放課後の誘いは全て断っていた。
ドクオはそんな自分に対し、なんの疑問も抱かなかった。

・・・それがいけなかった。

高校に入って、誰とも話せなかった。
見知らぬ人に囲まれ、自分というものを確立出来なかった。

結果、教室では一人、浮いた存在になってしまった。

昼休みに、内藤と話すのだけが、まともに人と関わりあえる機会になっていた。


( ^ω^)「まぁ、これだけは言っておくお」

半分まで開かれたドアの、取っ手を持ちながら、内藤が振り返る。
そして、彼が口を開いたのは、ドクオが疑問を持つよりも早かった。

( ^ω^)「誰が何と言おうと、僕はお前の友達だお……じゃ」




閉じたドアに、ドクオは何も言い返す事は出来なかった。

ただ、ぼんやりと空を眺めて


('A`)「本当に、お前は卑怯だ……」


少しだけ潤んだ瞳を拭う事しか出来なかった。


・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・

( ・∀・) 「ねぇブーン。そろそろノートを返してくれないかな……」

教室で内藤が次の授業の支度をしていると、そんな言葉を投げかけられた。

少年、モララーは真っ黒な学ランという、何とも男らしい格好である。
しかし、中性的な顔立ちのためか、まるで男装をした女性のようにも見えてしまっていた。


( ^ω^)「すまん、もうちょいで終わるから勘弁してくれお」

(;・∀・) 「ええ、僕も次の授業の為に軽く見ておきたいんだよ……」

( ^ω^)「何言ってるんだお、僕が課題を提出できなかったら、悲しいお?」


( ・∀・) 「悲しいのかな?」

( ^ω^)「悲しいお!」


( ・∀・) 「えと……うん、そうだね。頑張って!」

( ^ω^)b「任せるお」


モララーは、定期テストで他の追随を許さず、1位を独占していた。
だが、彼は『賢い』が『馬鹿』であった。

( ^ω^)(馬鹿と天才紙一重だお)


( ・∀・)「でも授業始まる前には返してほしいな……」

( ^ω^)「写し終わったら、生徒リレーで返すお」

(;・∀・)「今返す気はないの!?」


( ^ω^)「終わらないから、しょうがないお」

( ・∀・)「……そうか、しょうがないか!」

( ^ω^)「流石、モララーは賢いお!」

(*・∀・)「照れるなぁ」


( ^ω^)(脳内のネジが一個外れてるとしか思えないお)


突然に、内藤が椅子から崩れ落ちた。

内藤が頭を抱えて何事かと思考を巡らしている時。
追い討ちの踵落しが、綺麗に後頭部に突き刺さった。
その擬音は、到底、日常生活では聞けないような残酷めいたものだった。

('、`*川「たーっく、またアンタはそうやってモララーを苛めて……」

( ・∀・)「いや、別に苛められてた訳では……」

ペニサスと呼ばれた女性は、モララーを鋭く睨む。
情けない事に、モララーそれに対して、短い悲鳴をあげた。


('、`*川「モララー!アンタもアンタよ!
     そうやって、男の癖にうじうじしてるから、こんな風に……!!」

(;・∀・)「そ、そんな事言われても」

('、`*川「言い訳を言わない!ほら、内藤!アンタも謝り……」


('、`*川「あ」

( ・∀・)「あ」

内藤は泡を吹いていた。





後頭部の鈍痛。
課題を出せなかった事の後悔。
これで7度目となる、ペニサスへの完全敗北。



それらが重なり、内藤は目を覚ますと共に、悲痛な叫びをあげた。


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・

放課後になると同時に、内藤は駆け出した。
額に溜まった汗が、玉になって零れ落ちても気にはしなかった。


⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン!!


両手を大げさに広げて走る姿に、人々は後ろ指を指した。

小さな子供は、彼の異様な姿を見て泣いた。
外国から日本に来た人は、クレイジーと言いながら写真を撮った。

それでも、内藤は何一つ意識の中には入れなかった。
凄まじい集中力の前に、立ちはだかるもの等、何も無かった。


( ^ω^)(コンビニに寄ってかないといけなかったお!)

走るのを止める時にかけた急ブレーキは、地面に焼き跡をつけた。
太陽の暑さを超えるほど、彼の魂は燃えたぎっていたのだ。


(*^ω^)「ひんやりとして気持ちいいおー」

アイスの冷凍庫に顔を突っ込みながら内藤はそう呟いた。
コンビニの店員は、それを見て強盗用の警戒ボタンを押そうか悩んだ。


( ^ω^)「今日はどれがいいかおー?」

( ^ω^)「おっと、これなんか良い感じだお」

既に、冷凍庫からは尻から下だけがはみ出している状態。
滴る汗が、ガリガリ君に落ちて、塩味という新たなジャンルを創ろうとしていた。


( ^ω^)「バニラと……僕の好きなチョコと……」

( ^ω^)「こんなもんでいいお!」

両手一杯に持ったアイスが冷気を放つ。
その冷たさは、内藤の熱気によって瞬く間に消滅していった。


( ^ω^)「買いますお!」

店員「あっ、はひ!」

店員は噛んだ。
内藤は、少し萌えた。


店員「えーと、一点、いって、一点、一点、いって……」

時折、『ん』が言えなくなるらしい。
内藤は、少し悶えた。


店員「合計で、780円になりましゅ!」

豪快に言い間違えると共に、店員は赤面した。
内藤は、脳汁が垂れ流される快感を覚えた。


( ^ω^)「どうもですお!」

店員「またお越しくだしゃいましぇ!」

最後までまともに喋る事は出来ない店員だったが、どこか誇らしげだった。


○⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン!!

右手に袋を持ったまま、再び走り出す内藤。
そんな彼を『電信柱の陰から』半身をはみ出して見つめる人影。

川 ゚ -゚)(お笑い芸人ではないがな……)

マイナーな事を考える女性だった。
しかし、容姿は端麗であり、存在自体が華という雰囲気を纏っていた。


○⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン!!

そんな存在にすら、内藤は気付かなかった。

全く隠れきれていない女性は、気付いてもらいたいという意志を秘めていたのだ。
それにも関わらず、彼は微塵も気にかけなかった。


川 ゚ -゚)(それでいい……君はマイペースが素晴らしい……)

もっとも、女性の思考はどこか可笑しいようで、むしろ喜んでいた。

そんな彼と彼女が関係を持つのは、まだ先の話である。


コンビニから、ほんの3分ばかり走った先が内藤の目的地だった。
そこは簡素な公園。
滅多に人の訪れない、静寂に満ちた空間。

( ^ω^)「着いたおー!」

それにも関わらず、内藤は当たり前のように声を発した。


公園の丁度、中央に位置するベンチ。
木々によって出来た影が、涼しさを作り出している。
そんな場所から、返答と思わしき言葉が返ってくる。

(*゚ー゚)「おみやげ!」

少女は、本を閉じると開口一番にそう言った。
同時に、太陽にも負けない輝きの笑顔を見せた。


( ^ω^)「いやいや、せめて挨拶ぐらいはしろお」

(*゚ー゚)「バニラのカップアイスがいいな!」

会話にはならなかった。
内藤はいつも通りだと、特に気にはしなかった。


( ^ω^)「まぁいいお・・・・・よっこらセックス」

古びたベンチは彼が座ると軋んだ。
ぎぃと鳴る鈍い音からは、この公園がいかに廃れているのかを現していた。


(*゚ー゚)「えーと、ガリガリ君にガリガリ君に・・・ガリガリ君!」

( ^ω^)「美味しいお!」

(*゚ー゚)「いっぱいあるから期待してたのに、最悪だね!」

( ^ω^)「笑顔で言うなお」


(*゚ー゚)「バニラキャンディーから食べますかねぇ〜♪」

ピリピリと袋を剥く。
キャンディーの表面に溶けた氷が、水滴となって垂れていた。


( ^ω^)「美味しいかお?」

(*゚ー゚)「もちろん!やっぱ、バニラだよね」

( ^ω^)「バニラキャンディーって、なんかエロくないかお?」


(*゚○゚)「ほんなかんひぃ?」

( ^ω^)「やるなお」

じゅぽじゅぽという音が、絶え間なく続く。
少女は、その食べ方を止める気はないようである。


(*゚ー゚)「あれ?ハーゲンダッツないんだ」

( ^ω^)「奢らせといて、それかお」

(*゚ー゚)「嘘だよー、今度買って来てくれれば文句は言わないよー」

( ^ω^)「爽で我慢してくれお」


こんな目にあいながらも、内藤はここに来るのを止めないなと思った。
少女の楽しそうな笑顔を見ていて、気分が良かったから。

あの日、この夏初めての猛暑日となった日。
初めて出会ったその日から、内藤はここで少女と会話するのが楽しみになっていた。


( ^ω^)「ガリガリ君うめぇ」

(;゚ー゚)「10本も食べるんだ」



( ^ω^)「今日は本を読まないのかお?」

(*゚ー゚)「ブーン君がいる間は読まないよ」

( ^ω^)「僕と話すほうが面白いからかお?」

(*゚ー゚)「そうかもね」

軽く受け流されてしまい、内藤は赤面した。


少女もまた、同じ思いであった。
読書しかやることが無かったが、ようやくそれ以外の楽しみが出来た。

人の訪れない、疎外感すら感じる場所で友達ができた。
他者には理解できない、幸福だった。


( ^ω^)「今日も、暑いお」

(*゚ー゚)「アイスが美味しくなるから、別に良いよ」

内藤はアイスを頬張った。
そして、それもそうだなと笑った。

袋の中に残ったアイスが溶け始める。
影で隠れていても、この熱気に包まれていては意味が無い。
今日も、猛暑日だ。


( ^ω^)「しぃちゃん、アイス溶けてるお」

(*゚ー゚)「あうー、もったいない!」

少女の名前は、しぃと言った。



【第一話 おしまい】








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