【第2話:友達と親友】


('A`)「という訳で、友達を作ろうかな・・・なんて」

( ^ω^)「ほうほう、んで何でトイレなんだお」

('A`)「いやさぁ、ありのままの自分を曝け出せるっていうか・・・・・」

( ^ω^)(生まれたままの姿、の間違いかお?)

2時間目の中休みに呼び出された内藤は、妙な相談事を持ちかけられた。
何でも、来たる文化祭の為に友達を作ろうと言うのである。


( ^ω^)「で、どうするんだお?」

('A`)「ちょっと見ててくれ、今から実践する」

内藤は行動力はあるのかと見直した。
・・・・・・のだが。


('A`)「こんにちはー」

生徒A「え、あ、はい、こんにちは」

('A`)「立派なものつけてますねー。馬並ってやつですか?」

生徒A「平均的だと思うんですけど・・・・・」


('A`)「俺のなんてポークビッツみたいで・・・・ほら、見てくださいよ」

生徒A「あはは・・・・・」


('∀`)「あなたの近くにいれば、成長できるかな、なんて」

満面の笑みを見せた。

生徒A「が、頑張ってくださいね!」

生徒は手も洗わずに逃げていった。


('A`)「・・・・・・ダメだったか」

(; ゚ω゚)「あたりまえだおおおおおおおおおお!!」

ドクオは根本的に間違っていた。
これでは唯の変態である。


('A`)「何がいけないんだ?」

(;^ω^)「初対面でいきなり、チンコの話するやつがどこにいるんだお!」

('A`)「何のためのトイレだよ!」

(;^ω^)「逆ギレすんじゃないお!
       そもそも、トイレで友達作りってのが無理あるんだお!」


('A`)「わからん・・・俺たちぐらいの人間なら、下ネタ大好きなんじゃないのか・・・」

真剣に悩んでいるので、始末に終えない。


('A`)「こういうのはどうだ?
    個室で『入ってますか』と聞かれて、『どうぞ』と答えるとか」

( ^ω^)「僕だったら、逃げるお」


('A`)「鍵をかけずに、個室に篭ってるとか」

( ^ω^)「ドアを開けた瞬間、気まずい事間違いなしだお」


('A`)「トイレしてる人を、後ろから脅かすとか」

( ^ω^)「他人を怒らせる方法かお?」


('∀`)「大便中に乗り込むとか!」

( ^ω^)「すっげぇ、職員室行き間違いなしだお!」


('A`)「トイレが無理なら・・・俺に友達は出来ない」

(;^ω^)「何でそこまでトイレに固執するんだお」

こんなのでも、ドクオは本気で考えて編み出した案なのである。
内藤はそれを理解し、溜め息をついてから言葉を紡いだ。


( ^ω^)「じゃあ、僕が明日までに考えてくるから・・・・・・」

('∀`)「本当!それ本当!?」

( ^ω^)「マジだお、だからドクオもちゃんと友達作るんだお?」

('∀`)「わかった!俺、めっさ頑張るよ!」


内藤はドクオの嬉しそうな笑顔を見ながら思う。
『ああ、めんどくさい事を引き受けてしまった』と。


・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・

( ^ω^)「という訳なんだお」

(;゚ー゚)「その人、本当に友達作る気あるの?」

結局、考えるのがめんどくさくなった内藤はしぃに相談した。
『自分一人で考えるよりは良いだろうと』自分を無理矢理に納得させたのだ。


(*゚ー゚)「ブーン君の友達を紹介するってのはダメなの?」

( ^ω^)「僕の友達を、あのバカに近づけたくないお」

(*゚ー゚)「・・・もしかして、あんまりやる気ないの?」

( ^ω^)「今更、ドクオが何かやったところで・・・的な感情だお」


(*゚ー゚)(・・・・・・やる気ないじゃん)


( ^ω^)「友達って、どうやって作るんだお?」

内藤は本当にそれを疑問に思っていた。
友達なんてものは、いつの間にかに自然に出来るものだと思っていたから。


(*゚ー゚)「・・・・・それが、答えなんじゃないかな?」

( ^ω^)「お?」

(*゚ー゚)「友達って、作るものじゃないんだよ。
     きっと、自然に友達になってるものなんだよ」

( ^ω^)「・・・よくわからんお」


しぃの笑顔と対照的に、内藤は顔をしかめた。


(*゚ー゚)「そうだなぁ・・・ブーン君は、友達と友達になった瞬間を覚えてる?」

( ^ω^)「友達になった瞬間・・・?」


内藤は考えても、答えなど思いつきはしなかった。

いつの間にかに遊んだり、話したり、傍にいた。
いつの間にかに、友達と呼び始めていた。

そこに、明確な区切りなど無かったのだ。


( ^ω^)「うんにゃ、全然覚えてないお」

(*゚ー゚)「それはそうだよ、だってそんな瞬間は無いんだから」

( ^ω^)「・・・・・無い、のかお?」


(*゚ー゚)「きっかけはあるかも知れないよ、初めて話しかけた時とかね。
     でもさ、その初めては友達になろうと思っての事じゃないと思うんだ」

( ^ω^)「きっかけは友達になる為じゃない?」

(*゚ー゚)「うん、例えば隣の席になった人に話しかけた時とかね。
    そういう時って、あくまで挨拶とかの為なんじゃないかな?
    ・・・・・まぁ、初めっからそういう気がある人もいるかも知れないけど」


内藤は初めてドクオと話した時を考える。
ドッチボールで顔面に当てた時だったと思い出し、頬が緩んだ。


( ^ω^)「確かに、きっかけは偶然かもしれないお」

(*゚ー゚)「うん、だからさ、あんまり友達になろうとか考えない方が良いんじゃないかな?」

( ^ω^)「友達になろうと考えない・・・・・・」

妙な答えだった。
友達を作るためには、友達になろうと考えないというのだから。


( ^ω^)(お?)

( ^ω^)「それじゃ、結局、ドクオに友達は出来ないじゃないかお?」

(*゚ー゚)「友達になるって、前面に出さなければ良いんじゃない?」

( ^ω^)「というと?」


(*゚ー゚)「普通にさ、話せばいいんじゃないかな?
   『次の時間、何の授業だったっけ?』とか、普通に」

( ^ω^)「そういうのって、友達だから聞くものじゃないかお?」

(*゚ー゚)「何も心配はいらん、私に全て任せておけ」

( ^ω^)「随分と、偉そうじゃないかお」


(*゚ー゚)「なーに、かえって免疫力がつく」

ドンと胸を叩きながら、しぃはそう言った。
内藤はそれを見て、言い様のない不安に駆られた。


(*゚ー゚)「それにさ、ブーン君だって私と友達になった瞬間の事なんて覚えてないでしょ?」

( ^ω^)「え」

内藤は困惑した。
確かに、友達になった瞬間は覚えてなかった。

だが。

初めてあった日の項垂れるような暑さと、透き通るような空の青。
アイスを奢ってあげた時の、眩しすぎるほどの笑顔と、夕焼けの赤。
二人で過ごしている時の、穏やかな時間と、どこまでも続く入道雲の白。

そんな小さな記憶の欠片。
普通なら忘れてしまう筈の、細かな仕草や風景。

どれも鮮明に覚えていた。

彼女と過ごした日々は、鮮やかに彩られた記憶になっていた。


( ^ω^)「うん、何にも覚えてないお」

(*゚ー゚)「あ、それなんかひどいなぁ」

内藤は適当な嘘をついた。

それでも、赤くなってしまった頬を隠せはしないだろう。
暑さのせいだと言って、誤魔化そうと彼は思った。




相変わらず人気の無い、公園。
二人の笑い声と蝉の鳴き声だけは、賑やかに聞こえた。


・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

( ^ω^)「で、どうだったんだお?」

しぃのアドバイスをそのままドクオに伝えた次の日。
いつも通り、屋上で二人でご飯を食べている時に内藤はドクオに尋ねた。

作戦は至ってシンプル。
授業が終わると共に『今の授業だるかったな』と周りの人間に話しかける。

あとは、ドクオ次第と内藤は言った。


('A`)「ああ・・・アレな・・・あれ・・・」

( ^ω^)「元気ないじゃないかお」

ドクオは見るからに、覇気の無い顔をしていた。
いつも通りと言えばそうなのだが、差し引いても元気が無い。

(;^ω^)(・・・・・失敗したのかお?)


( ^ω^)「ドクオ・・・落ち込む事は無い・・・」

('A`)「ブーン・・・・・・」

( ^ω^)「友達なんてものは、一人いれば充分なんだお・・・・・」

('A`)「・・・・・・?」


( ;ω;)「たとえ、お前が嫌われ者でも、ぶた野郎と言われても・・・・・」

(;'A`)「え?」

( ;ω;)「ぼっ、僕だけは友達だっ、だおっ!」

(;'A`)「ちょ、ちょっと落ち着けよ!」

友のために流す涙。
なんと、美しいことだろうか。


( ;ω;)「なんなら、これから飲みに行くかお?」


('A`)「ちょっと待ってくれ、作戦は成功したぞ?」

( ;ω;)「・・・・・・・・・・・・」


( ^ω^)「は?」

二人の間に風が吹いた。
どこか涼しさ、いや寒さを伴った風だった。



('A`)「いやー、携帯のアドレスが3つに増えたぜ!
    お前とカーチャンと、その人と!」

( ^ω^)「え、じゃあ何で元気なかったんだお?」


('A`)「久しぶりにお前以外の人間と親しく話したらさ、疲れた」

成功したのは喜ばしい事だろう。
しかし、内藤はなぜか苛立ちを感じた。


( ^ω^)「そうかお、そうかお、それは喜ばしいことだお」

('A`)「おう、これで休み時間に寝たふりしなくてもいいかもなー」

それは些細な嫉妬であった。
自分しか頼る事の出来なかった者が、離れていくような感覚。

子離れ出来ない親のようなものであろうか。
内藤自身は、そんな自分の思いに気付く事は無かった。


( ^ω^)「トイレで時間潰さなくてすむじゃないかお」

('A`)「3階トイレの守護神と言われた俺がなぁ・・・・寂しいもんだ」

正確に言うならば、3階トイレ、奥から2番目の守護神である。
この場所が最も壁に落書きが多い事は言うまでもないだろう。


( ^ω^)「屋上で僕とご飯に来る必要もないお」

そんな嫉妬心からか、内藤はそんな言葉を吐いた。
自分で、何を言っているんだろうかと疑問を持ちながら。


('A`)「へ、なんで?」

( ^ω^)「クラスの友達と食べれば良いじゃないかお?」


('A`)「俺はお前と食べたいのに?」

対して、ドクオは当たり前のように、そう言った。
邪念など無い、純粋な言葉。

会話に妙な間などは無かった事から、本心である事が嫌でもわかる。
それだからこそ、内藤は妙な喜びを感じた。


(*^ω^)「ぼ、僕はお前が食べたいって言うなら付き合わないこともないお!」

そんな自分の感情をひた隠すように言った為か、変な口調になった内藤。
ツンデレのような口調は、彼が扱うものではないと誰もが思うだろう。

('A`)「なんか、きもいな」

ドクオもまた、同じように。


( ^ω^)「お前ほどじゃないお!」

('A`)「待て待て、今日だけは喧嘩する気はないんだよ」

( ^ω^)「お?」

('A`)「友達作れそうだしさ・・・手伝ってくれたお前に感謝しようと思ってさ」


( ^ω^)「お金でもくれるのかお?」

(;'A`)「・・・・・・お前、汚れてるな」


('A`)「あーそうじゃなくてだな、あーあー!」

ドクオは頭を掻きながら喚く。
しばらくの間、妙な空気が流れた後、ドクオが口を開く。


('A`)「その・・・なんていうか、ありがとよ『親友』

親友。
彼は最も親しい友に贈る言葉としてそう言った。
例え、友達が何人出来たとしても、それだけは変わらない、と。


(;^ω^)「ガ、ガチホモ?」

('A`)「・・・恥ずかしかったのにさ、だから言いたくなかったんだ」

内藤は嬉しかった。
しかし、またしても、その感情を素直に表に出しはしなかった。
いつものいがみ合う関係が自分達にとっての最善だと考えていたから。


( ^ω^)「何で男二人でこんな空気にならなきゃなんないんだお!」

('A`)「全くだよ、気持ち悪い!」

( ^ω^)「帰るお!」

('A`)「俺も帰る!」


( ^ω^)「トイレにかお!?」

('A`)「教室でもうちょい頑張るんだよ!」

( ^ω^)「良い傾向じゃないかお!」

('A`)「ありがとよ!」

変なテンションの会話だった。
恥ずかしさと嬉しさと、色々な感情が交わった結果だった。


屋上の扉を開いて階段へ。
二人で共に教室へ向かうのは初めてのことだった。


( ^ω^)「んで、どうするんだお?」

('A`)「・・・例の人に話しかけようかなと思ってる」

( ^ω^)「周りに人がいたら?」

('A`)「それでも・・・頑張る」

(*^ω^)「おっお、頑張るんだお!」


ドクオは自分を変えようと決心する。
内藤はそれを心の底から応援する。

確かな友情がそこにはあったはず・・・だった。


そんな会話をしながらだったからかもしれない。
これからの出来事に想いを馳せていたからかもしれない。
自分の未来に対し、浮かれていたからかもしれない。

それの答えはつかないだろう。
本人でさえ、理由はつけられないに違いない。


『ドクオは階段から、足を滑らして転げ落ちた』


ドクオの視界はゆっくりと動く。
1秒が無限に広がっていく感覚。

落ちるだけなら良かったと考えた。
その先にあるものを見たから、そんな状態に陥った。

彼の脳の中には、それへの恐怖だけが渦巻いていた。


そんな状態も長くは続かない。
荒々しい音と共に、ドクオは階段を転がり落ちていく。

一度、二度と回転しながらだ。
痛々しいのが目に見えて分かる。

内藤がそんな彼を助けようと足を踏み出す。
そんな時に、ようやく今の事態が予想以上に悪いものだと気付いた。

ドクオは怪我をしていなかった。

それが、まずかった。


「痛ぇじゃねぇか・・・・・なぁ?」

ドクオの下敷きになった男が立ち上がる。
屈強な体、一目で震え上がってしまうような獰猛な瞳。

二人は彼の事を知っていた。
決して近づくなと噂されていたから。


(#゚∀゚)「痛ぇじゃねぇか、てめぇ!!」

ドクオの胸倉を掴みながら、吼える。

男の名はジョルジュ。
一言で言うなら、不良と呼ばれる存在であった。


(;'A`)「す、すいません・・・・」

(#゚∀゚)「ああ?それで済むとでも思ってるのかよ!?」

ジョルジュが右腕を振るうと、ドクオは成す術もなく吹っ飛ばされた。
走る激痛と、空を浮く感覚はあまりに唐突だった。
自身が何をされたのかを理解するのにも、時間がかかる程だった。

口内に、血の味が広がる。
獣が迫ってくる。

ドクオは涙を流しながら、絶叫した。


しかし、そんな叫びに応えるものはいない。
野次馬に一目だけ見て、関わりたくないと離れていく。
自分の保身が何よりも重要だと判断したのだ。

そして、同様に内藤も動けなかった。

(  ω )「あ、ああ・・・・・」

誰にも届かない嗚咽を漏らし、苦悩する。
自分が何をすべきかはとうに理解していた。

『友を助けなくてはならない』

『あの場所へ飛び込まないと』

『今ならまだ被害も少ない』

様々な思いが、膨らんでは消えていく。
足は震えるだけで、まともな機能をしなかった。


『さっきまでは楽しかったじゃないか』

『これからドクオは変わっていくんじゃないか』

『僕が助けないでどうするんだ』

恐怖を打ち消すように、そんな言葉を連ねていく。
階段の上と、下という僅かな距離だというのに。
内藤にとっては、それが果てしなく遠い道のりのように感じた。


内藤が葛藤している間も、ドクオへの仕打ちは悪化している。

馬乗りになった状態のジョルジュが、彼を力の加減も無しに殴るのだ。
右に左に、間隔が空くことも無く、拳が振るわれていく。

そうして、傷だらけになっていく体。
薄れていく意識の狭間で彼は思う。

『俺は幸せにはなれない人間なんだ』

と。


内藤はそんなドクオの思いなど知る由も無い。
目の前で起こる惨劇に心は脅えていた。

被害者が他ならない親友であろうとも。
友情を誓い合ったばかりの友であろうとも。


(  ω )「この恐怖を打ち消すだけの理由にはならないんだお」

救うなどという選択肢は、だんだんと薄れていった。
もう、何も考えたくなかったのだ。


足はゆっくりと動き出す。

階段を、元来た道を、ゆっくりと歩みだす。


ジョルジュの狂ったような叫びと。
骨と骨とがぶつかり合う、濁った音だけは耳に入っていく。
しかし、心のざわめきは消えていく。


再び屋上の扉を開くと、風が通り抜ける。




そこにいつもあった筈の親友の姿は無い。





太陽の光だけは、今までと変わることなく、彼を照らしていた。





【第二話:おしまい】

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