( ^ω^)ブーンとやまない雨のようです
-
165 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:51:06.51 ID:ptHHviHM0
- さて、それでは次は自分が……。
夏旅さん、お疲れ様でした。
-
166 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:52:28.07 ID:ptHHviHM0
- ――昔々、神様は泣きました。
自分の創った世界には、何もいなかったからです。
その涙は世界に雨を齎しました。
その雨を切欠に世界に命が芽生え、神様は泣くのをやめました。
昔々、神様は笑っていました。
自分の創った世界が、段々と賑わい綺麗になっていったからです。
色取り取りの植物は至上の美術品と呼ぶに相応しく、日々進化を遂げていく生物達を眺める事は、神様の無上の楽しみでした。
神様の笑顔は世界に幸せを与えました。
余りの嬉しさや楽しさに、また時には感極まるあまり、神様は涙を浮かべてしまう事さえありました。
その涙もやはり雨となり、全ての生物達に恵みを与えます。
神様にとって世界とは、掛け替えの無い子供のような存在であり、またこの上ない娯楽でした。
刻一刻と姿を変える自然の美しさは、悠久とも言える時間を経て、尚も飽きる事がありません。
少しずつ、しかし着実に進歩の道を辿る生物達は、神様の目にはとても愛おしく映りました。
しかし、いつからでしょうか。
神様は昔ほど笑わなくなってしまいました。
愛おしく思えた進化の果てにあったのは、暴君とも呼べる頂点者の誕生でした。
-
169 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:54:24.95 ID:ptHHviHM0
- 彼らは己の為にあらゆる生物を殺し、また仲間同士でさえ殺し合いをしました。
彩り溢れる広大な自然も、全て彼らが壊してしまいました。
翡翠を思わせる翠の木々達は無惨に切り倒され、
底無しの青を誇った海は汚濁に塗れ、
澄み渡っていた空気は在るだけで命を脅かす毒にされてしまいました。
そしていつしか神様は、悲しくて悲しくて堪らなくなりました。
神様は泣き出します。
美しい自然も、愛おしい生物達もいなくなってしまったと嘆きます。
枯れる事無く流れる涙は、雨となり世界に降り注ぎます。
そんな事は、涙で滲んだ神様の目には、当然映りません。
泣いている内に、神様は自分が惨めになってきました。
それが悲しくて、神様は更に涙を流します。
降り注ぐ雨は、世界を濁流に巻き込みます。
そんな事は、涙で滲んだ神様の目には、当然映りません。
-
170 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:55:06.33 ID:ptHHviHM0
- とうとう神様は、自分が泣いている理由を忘れてしまいました。
ですが涙は止まりません。
渦巻く濁流は、世界の全てを破滅へと誘います。
そんな事は、最早神様にはどうでもいい事なのでした。
かくして世界は、やまない雨に苛まされる事になりました。
いずれ訪れるであろうと、分かっていた秩序の崩壊。
頂点者、人間達は今正にそれが訪れたのだと悟り――
――しかし、ただ足掻く事しか出来ないのでした。
――( ^ω^)ブーンとやまない雨のようです――
-
173 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:56:30.37 ID:ptHHviHM0
- 轟々と振り続ける豪雨の中、微塵の焦りすら見せず歩く一人の男がいた。
その服装は、彼の低めな背丈には似合わないであろう長いトレンチコートとタクティカルパンツ、
背中には、リュックサックと呼ばれる大き目の鞄が背負われている。
それだけで、雨具らしき物は一切身に着けていなかった。
もっとも、暴風雨と称しても遜色ないこの天候では、一切の雨具が意味など成し得ないのだから、それでも一向に問題はないのだが。
とは言え彼に至ってはまた別の理由で、雨具が必要とされなかった。
雨は以前やむ事無く降り注ぐ。
上空から重力に則って降り注ぎ――そして彼だけを避けて、地面へと辿り着いた。
その後も、雨粒は彼から逃げるように、その足元から離れていく。
( ^ω^)「この雨は……、いつになったらやむんだお……?」
不意に立ち止まり空を仰ぎ見て、彼はポツリと呟く。
何十年間にも渡る大雨。
毎日のように襲い来る濁流や瀑布に、既にこの世界の殆どは飲み込まれていた。
生き残ったのは、極々僅かの人間だけだった。
男の視界には、依然自分だけを避けて降る雨だけが映っている。
暫くの後、彼はその風景に飽きたのか、再び歩みを進め始めた。
豪雨のカーテンで、辺りは全く視界が利かないが、それでも男は迷いの無い歩調で足を動かす。
ひび割れたアスファルトの起伏も、時々立っている錆付いた道路標識も、地面に倒れた電信柱も、
男は難なく躱していく。
進み、進んで、尚も進んでいき――不意に、雨の暗幕が終わりを告げた。
-
175 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:58:12.93 ID:ptHHviHM0
- 容赦なく振り来る雨が、その空間には無かった。
端から端まで、歩いても数十分あれば辿り着けてしまうであろう、決して広くは無い土地。
――そこには、白があった。
異世界と言っても過言では無いその土地には、雨の代わりに眩く透き通る陽光が降り注いでいた。
当然、外では決して拝む事が出来ないと言う事は、言うまでも無いだろう。
――そこには、緑もあった。
更に地面には緑の草が生い茂り、所々に樹木さえ見られる。
そして、それらを利用して作られた家屋や田畑も。
そのいずれも濁流に飲まれ流されて、とうの昔に姿を消した筈の物だ。
――そこには、青があった。
そして何よりも映えて見える物として、
青々とした空と、その光を受け同じく青色に染まる湖畔があった。
外界とは比べ物にならないその美しい風景に目を細めながら、男は胸いっぱいに空気を吸い込み、
( ゚∀゚)「おやおや、誰かと思えばブーン殿ではありませんか。雨の民の村落へようこそおいで下さいました」
その様をまるで揶揄すかのように、1人の男が彼に話しかけた。
声は、彼の背後からだった。
-
177 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/07(金) 23:59:53.92 ID:ptHHviHM0
- (;^ω^)「ジョルジュ……おいでも何も、僕もここの人間だお?」
ブーンと呼ばれた男が振り返る。
そこにいたのは、彼とは正反対の長身を持つ、1人の男。
どんな言葉を返してくるのか楽しみにしている、そんな笑みを浮かべながら、ブーンを見ている。
困ったように片目を瞑り苦笑いを浮かべながら、彼は言葉を返した。
( ゚∀゚)「週に1回しか帰って来ない野郎が何言ってやがる。あんなゴミと廃墟しかない外の何がいいんだ?」
過去に一度だけ、外に連れ出された事を思い出しながら、ジョルジュは問う。
薄暗くて寒々しい灰色一色の世界に、一体何の魅力があると言うのだ。
そう、ジョルジュは思っていた。
( ^ω^)「ゴミだなんてとんでもないお。ブーンにとっては、宝の山なんだお! だお!」
( ゚∀゚)「うわ、きめぇ……。そんなんだから変人扱いされるんだよ。
……っと、丁度いいわ。これ、変わってくんね?」
心外だと言わんばかりに反論するブーンにやはり揶揄すような口調で言い返し――しかし不意にジョルジュと呼ばれた男が、自分の目の前にある物を指差し、そう言った。
目の前にある物――即ち、雨の断面である。
ジョルジュはその断面に向けて、何やら両手を翳していた。
( ^ω^)「おっ? 別にいいけど、それならコレを僕の家に届けて欲しいお」
( ゚∀゚)「いいけどよ。毎回毎回、どこで何を拾ってきてるんだ?」
( ^ω^)「言ってもバカにされるだけだから言わないおー」
-
178 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:01:24.98 ID:+YiYsgSI0
- 背中に背負った鞄を、ブーンは丁寧に地面に置く。
何が入っているのか、重量感のある音が辺りに響いた。
重荷から開放された肩を軽く回しながら、ブーンはジョルジュの傍に歩み寄る。
そしてジョルジュの隣に立つと、彼と同じように、断面に手を翳した。
( ゚∀゚)「……放してもいいか?」
( ^ω^)「おkだお」
確認を取ってから、ジョルジュが断面から手を放す。
軽い雰囲気で話をしていた彼は、同一人物とは思えないほどに慎重な顔つきをしていた。
( ゚∀゚)「……ふぅ、しっかし面倒な事だよな。この『雨祓い』は」
ジョルジュの口から出た単語、『雨祓い』
それはこの空間の維持に必要不可欠な存在だった。
迫り来る雨の壁を押し止め、場合のよっては押し返す。
( ^ω^)「しょうがないお。でないとこの村落が維持出来ないお」
村落の八方に交代制で配置される彼らは、ここで生きる全員の命を背負っているのと同義だった。
壁の決壊は村落の決壊。
ジョルジュが慎重になるのは、至極当然であった。
( ゚∀゚)「そん位は分かってらぁ。だから俺もたまにしかサボってないだろ。
つーか、お前がいつもここにいりゃもっと楽になるんだっての」
よっこらせ、と言う掛け声と共に、ジョルジュは内藤の鞄を背負う。
-
179 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:02:55.05 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「お? もう行くのかお?」
( ゚∀゚)「これでも一応、寝ずの番やってたんだぜ? さっさと休ませてもらうっつの」
見せ付けるように大仰な欠伸をしながら、ジョルジュはブーンに背を向け歩き出す。
疲れに鞄の重みが相まってか、その足取りは酷く覚束ない物だった。
それから暫く経って、
( ^ω^)「……話し相手がいないと退屈だお」
ブーンはジョルジュを帰してしまった事を、今更ながら後悔した。
とは言え、疲れている彼を無理矢理引き止める訳にもいかなかった為、結果はいずれにせよ変わらなかった筈なのだが。
( ^ω^)「……退屈だおー」
思わず口から不満が漏れ出る。
しかしその退屈さえ、生の実感と考えれば贅沢の極みと言える。
今ではその退屈を味わえる人間さえ、殆どいないのだから。
ジョルジュが言っていた、雨の民。それは言うまでも無く、ブーンを含むこの村落に住む者達の事だ。
もっとも、自分達のルーツを彼らは知らない。
雨乞い師の家系だったのか、それとも他に何か理由であるのか。
とにかく彼らは雨に、水に好かれていた。
彼らが拒めば水は彼らを避け、彼らが望めば水はあらゆる物の姿を成した。
かくして彼ら雨の民はこの豪雨の大災害を逃れ、今まで生き延びていた。
他にも同様に、何かしらの自然に愛されたが故に生き延びた人々は、存在している。
-
180 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:04:21.73 ID:+YiYsgSI0
- とは言え、その生活が確実な物かと言うと、そんな訳は無く、
維持だけでも一苦労な生活可能な空間を広げるには、途方も無い労力が必要だ。
無限に増え続ける人が収容し切れなくなったら、それでおしまいだ。
それ以前に、何か1つ疫病でも流行れば、人々の力が少しでも衰えれば、土地の維持は出来なくなってしまう。
そうなれば、やはり終わりだ。
( ^ω^)「……お?」
ブーンが退屈に身を委ねてから、どれ位経っただろうか。
不意に暗幕の向こうで、何かが動いた。少なくともブーンには、そう見えた。
誰かが帰ってきたのかと考え、
( ^ω^)「……灯り?」
それが間違いだとブーンは悟った。
自分達雨の民ならば、一切の明かりが無くとも、この土地の周りを徘徊できる。
僅かに揺れながら接近するその光は、その持ち主が不慣れな場所を歩いている事を示していた。
ゆっくりとブーンが、左手を雨の壁の中に突っ込んだ。
そして、入れる時と同様にゆっくりと引き抜く。
その手に握られていたのは、両手で抱えても余るであろう大きさの球体を模した、水だった。
自分の頭越しに、ブーンはその球体を背後、村落の中央部目掛けて放り投げる。
それは放物線を描き、そして定められた位置に辿り着くと同時に――音も無く、弾けた。
霧雨のような飛沫が村落全体に行き渡り、
( ゚∀゚)「あー……どうやら寝かせてはもらえねぇみたいだな」
民全員が、予期せぬ事態が起こっている事を理解した。
-
182 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:05:52.59 ID:+YiYsgSI0
- 村落全体が警戒態勢を取り、戦闘や水の操作に長けた者は雨の断面へと駆けて行く。
その中にはジョルジュもいて、彼はブーンの元へ向かった。
( ゚∀゚)「よう、ブーン。一体どうしたってんだ?」
( ^ω^)「外見てみれば分かるお」
ブーンの言う通りにジョルジュは外を窺い、そして全てを理解する。
同時に分散された人員を、ある程度自分の方へと呼び寄せた。
( ゚∀゚)「さて、鬼か蛇か、何が来るんだ?」
雨の壁を両手で触れながら、ジョルジュが呟いた。
同時に、水を引き寄せるように腕を引く。
粘土のように水が壁から引き剥がされ、ジョルジュはそれをブーンに纏わせた。
雨祓いの番が潰されれば、それだけで全員の命が脅かされる。
また壁の決壊が防げたとしても、ブーンは水の扱いでは他の追従を許さないほどの人間だ。
その人間に怪我を負わせたり、命を落とさせるような事は、やはり許されない。
ブーンへの防壁を張り終えると、今度はジョルジュは右手のみを、雨の壁に突っ込んだ。
そして勢いよく引き抜き――その手に握られていたのは、透明にして尖鋭な、一本の槍だった。
皆が固唾を飲み警戒する中、雨の壁がゆっくりと――割れた。
-
184 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:07:26.84 ID:+YiYsgSI0
- そこにいたのは、一人の少女だった。
ブーンよりも更に低身長なその少女は、赤いフリルの付いたドレスを着ている。
豪雨によって灰色に塗り潰された背景とそのドレスは、妙にマッチしていて、
そこに彼女の白い肌と金髪が加わる事で、更に優雅な雰囲気に拍車が掛かっていた。
容姿の端麗さも相まって、まるで人形が佇んでいるかのようにさえ見える。
そしてやはりと言うべきか、彼女の真紅のドレスも、煌びやかな金髪の巻き髪も、
ただ一粒の水滴さえ、ほんの一欠けらの水染みさえもが、見られなかった。
一見すると雨の民と同じ雨を受け付けぬその姿は、しかし根本から雨の民とは異なるものだった。
目を凝らすと見える、立ち上る僅かな白線。
泡立つ地面の水。
そして何よりも、少女から放たれる蒸し返るような熱気。
彼女は圧倒的な熱を纏う事で、水を拒んでいたのだ。
その姿を見て思わず、
( ゚∀゚)「……おやおや、火の民ともあろうお方が、こんな所へ何の御用で?」
ジョルジュは誠意の欠片も感じられない敬語で、そう吐き捨てた。
言葉に出さなくとも、殆どの者が同じ事を考えただろう。
雨の民は、基本外の人間全てから嫌われている。
理由は言うまでも無く、降り止まない雨。
一切の原因が分からないこの異常気象を、多くの人間は、雨の民が何かをやらかしたからこうなったのだと、そう解釈した。
-
186 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:09:05.33 ID:+YiYsgSI0
- 完全な原因不明と言うのは、何よりも怖い事だ。希望の欠片さえも持つ事が出来ないからだ。
詰まる所雨の民は、人々の恐怖――ストレスを上手く発散する為に、何の根拠も無い悪役――スケープゴートに仕立て上げられたのだ。
その嫌われ者の所に、他の民がやってきた。自分達を散々罵ってきたほかの民が。
ジョルジュや他の者が暴言を吐いたり疑心を懐くのも、無理はないだろう。
しかし、その少女は明らかな皮肉を無視すると、
ξ゚听)ξ「私は火の民の代表としてここに馳せ参じました、ツンと申します。
申し訳ありませんが、長様はどなたでしょうか?」
義務的な口調で、そう言った。
ジョルジュのこめかみと眉が、ピクリと痙攣した。
(#゚∀゚)「オイコラクソガキ、シカトとはいい度胸じゃねぇか?」
怒りに震える彼の持つ槍が、ツンと名乗ったツンの首筋へと伸びて、
/ ,' 3 「これこれ、ジョルジュや。そう邪険に扱うでない。相手は使者なんじゃろ?」
その槍を、遅れてやって来た老人が、掴み止めた。
口ぶりや雰囲気から、彼がここの長だと言う事を、ツンは理解する。
(#゚∀゚)「こんなガキがか? 冗談キツいぜ。使者ならもっとまともな人選をするだろうよ」
ジョルジュが早口にそう言い、しかし使者を名乗る彼女は動じない。
場に沈黙が帰った事だけを確認すると、ゆっくりと、その小さな口を開いた。
-
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。
:2007/12/08(土) 00:10:43.58 ID:+YiYsgSI0
- ξ゚听)ξ「……私が、火の民で最も優れた炎使いです。ですから、私が使者に任命されました」
ツンの口から発せられた言葉に、一瞬皆が停止する。
考える事は皆同じくして、信じられない。その一言に限る。
その沈黙から、自分の言う事が信じてもらえていないと、彼女は悟ったのだろう。
ツンはジョルジュに目をやって、それから右手を彼に向けて伸ばした。
瞬間、ジョルジュの持っていた槍が、音を立てて蒸気へと変化した。
跡形も無いという言葉が、これほど合致する状況も無いだろう。
(;゚∀゚)「なっ……!?」
ξ゚听)ξ「……信じて頂けたでしょうか」
ツンの言葉にジョルジュは沈黙する。
その彼を見つめる彼女の目は、幼年とは思えない気迫が込められていた。
( ゚∀゚)「……わぁったよ、どんなご用件なんで? 使者様よ」
小さく舌打ちすると、ジョルジュは諦めたように彼女の話に耳を貸す事にした。
ツンは小さく頷き、そして話し出す。
ξ゚听)ξ「単刀直入に言います。今、我々の土地が雨に飲まれようとしています。
ですので……、水の操作に長けた貴方達のお力を、是非お借りしたいのです」
口上が終わり――しかし誰一人として、口を開こうとはしなかった。
考えるべき事が、多すぎるのだ。
-
188 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:12:12.59 ID:+YiYsgSI0
- まず念頭に浮かぶのは、やはり自分達は嫌われ者であり、今まで嫌ってきた者達に頼ろうとは虫がいいのではないか。
そう言う考えだ。
しかし、嫌われてきたのは確かだ。だがその程度で、滅び行く者達――借りにも同じ人間を見捨ててもいいのか。
そう考えてしまうのも、また事実だった。
ξ゚听)ξ「……勿論、助けて頂ければ謝礼は致します。ですので……」
その事を感じ取ったのか、ツンはそう補足した。
/ ,' 3 「むぅ……厳しいのう。見殺しにするのは確かに気が引けるが……」
にも拘らず、やはり皆は片目を瞑り眉を顰め、承諾を渋っていた。
勿論、それには相応の理由がある。
確かに見殺しとなれば気は引ける。だが、突き詰めればそれは所詮、他人事でしかない。
嫌いや可哀想と言った感情論とはかけ離れた現実が、彼ら雨の民にもあるのだ。
即ち、
/ ,' 3 「ワシらもな、余裕があるとは言えんのじゃよ。
雨に飲まれかけた土地を立て直せる程の力を持つ者ともなれば、雨の民の中でも限られてくる。
そんな者を貸し出すのは、リスクが高すぎるのじゃ」
心底申し訳無さそうに、長が言った。
誰も、言葉を発そうとはしなかった。ジョルジュも、他の皆も、使者であるツンも。
酷く居心地の悪い空気が流れ、
ξ゚听)ξ「……分かりました。お騒がせしました事、深くお詫び申し上げます」
その沈黙を破ったのは、他ならぬ火の民――ツンだった。
-
189 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:13:33.14 ID:+YiYsgSI0
- 平坦な口調でそう言うと、深く頭を下げる。
もっと食い下がられるとも思っていた皆が呆気に取られている内に、彼女は身を翻し、
「ちょっと待って欲しいお。さっきから完全に話すタイミング無くしてて寂しかったお」
そしてそのまま立ち去ろうとするツンを、ブーンが呼び止めた。
彼女が立ち止まり、彼の方を振り返る。
ツンと目が合った事を確認してから、ブーンは口を開いた。
「その土地の立て直し……、僕にやらせて欲しいお」
そして、言葉を発する。
その内容に、当然周りの皆は驚愕し、また動揺した。
(;゚∀゚)「バ……バカな事言ってんじゃねぇぞ! 長の話聞いてたのかよ!?」
ジョルジュが叫び、
「元々週に一回しか帰ってこない僕なら、いなくなった所で大して変わらないお。ねぇ長?」
しかしブーンは普段通りの口調で言葉を返した。
/ ,' 3 「まぁ……、それはそうじゃが……」
長も、それを否定できずにいる。
その言葉に、ブーンは二度小刻みに頷くと、
( ^ω^)「じゃぁ決まりだお」
嬉しそうにそう言った。
-
191 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:15:08.69 ID:+YiYsgSI0
- 近くの者に雨祓いを変わってもらうと、ツンに準備を整えるから待っていて欲しいと伝え、
自分の家へとブーンは駆けて行った。
殆どの者は、唖然として言葉1つ発する事は出来なかった。
( ^ω^)「……お待たせしたお」
数分もしない内に、ブーンは彼らの元へと戻ってきた。
その背にはジョルジュに任せた鞄が背負われている。
( ^ω^)「それじゃ、また暫く行ってきますお。……って、ジョルジュはどうしたんですお?」
皆へ別れの挨拶をしようとしたブーンは、その中にジョルジュの姿が見えない事に気付く。
/ ,' 3 「あぁ、それがのぅ……おぬしが行ってすぐに、どこかに走っていってしまったんじゃ。
アイツは強情っ張りじゃからのぉ……」
長の言葉に、ブーンは露骨に肩を落とす。
だが諦めたのか、ツンの待つ壁の外へと出ていった。
( ^ω^)「それじゃ、案内して欲しいお」
微動だにせずに待っていた彼女に、ブーンは背後から声を掛ける。
同時に、軽く彼女の肩を叩き、
-
202 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:41:08.48 ID:+YiYsgSI0
- ξ;゚听)ξ「ひゃぅっ!?」
(;^ω^)「おぉぅ!?」
飛び上がらんばかりに、驚くツン。
その過敏な反応に、思わずブーンも釣られて驚いてしまった。
ξ゚听)ξ「あ……ス、スイマセン。ちょっとボーっとしてまして……」
( ^ω^)「いやいや、気にしなくておkだお。それより、少しでも急いだ方がいいお」
そう言って、ブーンは歩き出す。
慌ててツンは両手に炎を灯し、足元を照らしながら彼を追う。
だが、足元と先を行くブーン。その両方を確認しながら歩く彼女の足取りは、見ていられないほどに危なげだった。
そんな不安定な歩みが長く続く筈もなく、
ξ゚听)ξ「きゃぁ!」
地面のちょっとした起伏に足を引っ掛けてしまい、ツンの体が完全に地面から離れる。
崩れてしまったバランスを空中で立て直す事は当然不可能で、彼女は思いきり転んでしまった。
えも知れぬ恐怖と共に、ツンの眼前に硬い地面が迫り、
( ^ω^)「……っと、君はこの辺の土地は不慣れだったおね」
ツンの小さく整った鼻が地面に触れる直前、ブーンの両腕が倒れかけた彼女を支えた。
そのままブーンはツンを抱き起こす。
( ^ω^)「先に歩き出して悪かったお。すっかり忘れてたお」
そう言って、彼女の小さな手をぎゅっと握り、それを引きながら再び歩き出した。
-
205 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:43:08.51 ID:+YiYsgSI0
- ξ゚听)ξ「あ……」
( ^ω^)「ん? どうかしたのかお? ……あぁ、足元が怖いのかお? だったら、これを使えばいいお」
ブーンが鞄を後ろ手に漁り、そして望みの物を探り当てたのか、それを引き抜く。
一応自分の目で、抜き出した物が探し物と相違ない事を確認すると、それをツンへと差し出した。
ξ゚听)ξ「これは……?」
( ^ω^)「懐中電灯って言うんだお。……知らないのかお?」
ブーンの問いに、ツンは無言で頷く。
ブーンは怪訝な顔をしながらも、スイッチを操作してそれを点灯し、ツンに手渡した。
それから暫く2人は無言で歩き続けて、
ξ゚听)ξ「……あの」
( ^ω^)「お? まだ何かあったかお?」
ツンの小さな呟きに、その歩みは再び止められた。
ブーンが振り向き問いかけると、ツンは少しだけ逡巡して、
ξ゚听)ξ「……ありがとうございました」
ポツリとそう言うと、深々と礼をした。
-
208 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:44:50.71 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「気にしなくていいお。いっぱいある場所を知ってるし、家にもまだまだ取ってあるお」
ξ゚听)ξ「いえ、そうではなく……」
( ^ω^)「お? んじゃ一体何の事だお?」
ξ゚听)ξ「……っ! いえ……何でもありませんでした。それより、先を急ぎましょう?」
( ^ω^)「お、それもそうだお」
結局全ては有耶無耶になり、しかしブーンはそれを別段気にする事も無く、再び前を向いて歩き出す。
それ故に、彼には見えなかった。
彼の背後で、僅かに頬を緩ませるツンの姿は。
どれ程の時間を、彼らは歩いただろうか。
雨によって日が遮られている為に、壁の外では時間の感覚が狂いがちだ。
また視界も殆ど利かず、灯りを点けていたとしても、そう遠くまでは視認出来ない。
その為遠出をする際には、どこで休息を取るべきかの判断が、つけ難かった。
もう少し歩いたら。
そう欲をかいたばかりに、辺りに安全な場所が見つからず、二進も三進も行かなくなってしまう事だってあるのだ。
( ^ω^)「……今日は、この辺で休んだ方がよさそうだお」
すぐ近くに聳え立つ背の高いビルを見上げながら、ブーンはそう呟いた。
確認の意を込めてブーンはツンを顧みる。
若干の不服が、僅かに尖らせた唇や、伏せがちな目からは感じられたが、ツンは小さく頷いた。肯定の意だ。
-
211 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:46:39.55 ID:+YiYsgSI0
- ブーンとツンはそのビルに向かって歩き出し――不意に、足元に目をやった。
見れば、足首辺りまであった水が段々と、どこかへ流れているようだった。
徐々に、だが確実に水は流れ、ついには完全になくなってしまった。
ξ゚听)ξ「これは……?」
ツンが不思議そうに呟き、
(#^ω^)「ビルまで走るお! 急ぐんだお!」
その呟きを完全に無視して、ブーンはツンの手を引いて走り出した。
突然の事にツンはバランスを崩してしまうが、お構いなしだ。
水に精通する彼は、その事象が何を意味するか、知っていたのだ。
走り、必死で走り、それでもやはり、間に合わない。
天を衝かんばかりの津波の壁が、彼らを押し潰さんと、背後から迫っていた。
逃げ切れないと悟り、ブーンは身を翻すと、ツンを自分の背後へと隠す。
迫り来る荒波に向けて両腕を突き出すと、それを受け止め、そのまま受け流すように左右に裂いた。
僅かに生まれた安全地帯を、ブーンは必死で維持に掛かる。
もし波に飲み込まれようものなら、それこそ一溜まりも無い。
2つの力は拮抗し、しかし徐々にだが安全地帯は安定し始めた。
だがその事で、ブーンの心に僅かな油断が生まれた。
-
213 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:48:31.04 ID:+YiYsgSI0
- ( ゜ω゜)「ぐっ……!?」
ブーンの腹部に、拳大程の石が減り込んだ。
よく見れば濁流には、様々な物が飲まれ流れている。
勢いのついたそれらが、流れを振り切って安全地帯へと飛び込んできたのだ。
ブーンの口から、思わず嗚咽が漏れる。同時に、口内が酸味に満たされた。
一瞬とは言え、完全にブーンの集中が途切れ、好機と言わんばかりに濁流が迫る。
(;^ω^)「ぐっ!」
何とかブーンが押し返すも、その安全地帯は大分狭く、また不安定になってしまった。
半ば躍起になるブーン。
そしてその目に映る、迫り来る看板。
気付いた時には、遅かった。
避けられない。防げない。間に合わない。
ブーンに出来た事は、ただ目を瞑る事だけだった。
(;−ω−)「……」
ブーンの中で凄まじい体感時間が流れ、しかし彼が予想していたような激痛は、訪れなかった。
何故だろう。痛みすら感じる前に死んでしまったのか。
どうせ死ぬならツンを守ってあげるべきだった。
そんな事をブーンは考えて――体感時間と言うにはあまりに長すぎる時間に耐えかねて、恐る恐る目を開けた。
-
214 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:50:20.89 ID:+YiYsgSI0
- そこには、
ξ゚听)ξ「……」
ブーンと比べるとあまりに短い両腕を懸命に突き出す、ツンがいた。
熱気を放ち、迫り来る濁流を蒸発させ逃している。
立ち込める熱気に顔を顰め、玉のような汗を垂れ流しながらも、その熱気を弱めようとはしなかった。
看板はどうなったのか。
ブーンは驚くよりも先に、そんな疑問を頭に浮かべ――すぐにその答えを理解する。
足元から湧き上がる熱気。
それを感じブーンが視線を下へと向けると、そこには看板だった筈の液体が溶け、ふつふつと泡立っていた。
ξ゚听)ξ「怪我はありませんか?」
両手を突き出したまま振り返らずに、ツンが問うた。
腹部に鈍痛が残っているものの、他は何の問題も無い。
大丈夫だと、ブーンは素直に答えた。
ξ゚听)ξ「向こうに着くまでに倒れられては困りますよ?」
(;^ω^)「……努力しますお」
返す言葉も無いと苦笑いを浮かべて、ブーンはそう言った。
それから暫くして、津波は休息に流れを弱め収まりがついた。
ブーンとツンは一息つくと、当初の予定通りビルの中へと向かう。
ふらふらとした足取りのブーンを、ツンが先導する形だ。
-
216 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:52:10.92 ID:+YiYsgSI0
- ξ゚听)ξ「まったく……」
(;^ω^)「申し訳ない限りだお」
とにかく彼らはビルの内部へと入り込み、雨の浸入から逃れるべく上階へと向かう。
まだ文明が残っていた頃は百貨店と呼ばれていたその建築物は、上階には家具や寝具が陳列されており、休む場所に困る事はなかった。
状態のいい寝具に目星を付けその上に座り込むと、ブーンは背負っていた鞄を下ろし、その中身を布団の上にばら撒いた。
ツンはと言うと、初めての柔らかさに驚いたのか、ひらすらソファの上で飛び跳ねている。
またここに至るまでにも、落ち着き無く周りを見回していた。
( ^ω^)「おっおっ、これは持って来なくても良かったかもわからんお」
鞄から転がり出た手の平大の時計を眺め、ブーンが小さく呟いた。
その他にもライターやコンパス、娯楽用の機械や本に至るまで、様々な物がベッドの上にばら撒かれている。
ξ゚听)ξ「……なんですか? それは」
-
217 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:54:06.93 ID:+YiYsgSI0
- 見た事も無い物品に興味を惹かれたのか、ソファを飛び降りてツンがベッドの上へと乗り込んだ。
やはり、歳相応の好奇心は持ち合わせているのだろう。
( ^ω^)「知らないのかお? これは目覚まし時計って言って……」
説明をしながら、ブーンは時計の裏にあるツマミを操作する。
そしておもむろに、時計をツンの傍に置いた。
困惑するツンを見ながら、ブーンは意地悪げな笑みを浮かべる。
ξ゚听)ξ「あの……」
意味の分からない間に、ツンがおずおずと口を開く。
そしてそれと同時に、けたたましい高音が辺りに響き渡った。
ξ;゚听)ξ「ひゃっ!?」
次の瞬間、ベッドの上にツンの姿は無くなっていた。
反射的に強張り仰け反ってしまったその体は、呆気なくベッドから転がり落ちてしまっていた。
( ^ω^)「こんな感じに音を鳴らして好きな時間に起きる為の物なんだけど」
言葉を途中で切って、ブーンはベッドから身を乗り出し、下を覗き見る。
ベッドの下では、涙目のツンが必死に声を堪えながら、頭を擦っていた。
(;^ω^)「……正直スマンカッタ」
ξ;゚听)ξ「へ、平気です。痛くなんかありません。……それは、アナタが作ったのですか?」
恥ずかしいのを隠す為か、些か慌て気味に、ツンは話題を時計へと戻した。
-
220 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:56:42.21 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「いやいや、ずっと前からあった物なんだお。……だけど、誰もこう言う物を探そうとも、
それどころか僕が持ち帰っても、目もくれないんだお」
ξ゚听)ξ「……何故、ですか?」
不思議そうにツンが首を傾げる。
( ^ω^)「ある意味で満足していて、ある意味で絶望してるんだお」
ブーンが答え、しかしツンは更に首を大きく傾けるばかりだった。
( ^ω^)「ちょっと難しかったかお? つまりこの本にもあるように『依存はただの停滞』なんだお」
リュックに入っていた本の一冊を掲げながら、ブーンが言う。
だが、ツンの反応はブーンが期待とは裏腹に、薄いものだった。
-
222 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 00:58:37.80 ID:+YiYsgSI0
- ξ゚听)ξ「よく……分かりません。そんな物、見た事もありませんし」
(;^ω^)「おっ!? この名作を読んだ事が無いのかお!?」
ξ゚听)ξ「そうじゃなくて……、そのパラパラした物です」
(;^ω^)「パラパラって、この……本の事かお?」
信じられないと言った口調でブーンが問い、ツンはコクコクと頷いた。
ブーンの表情が、苦いものへと変わる。
ξ゚听)ξ「……どうしました?」
( ^ω^)「いや……」
最早言葉にし難い。ブーンはそう思った。
今の世の人々は、限りなく外の世界に無関心になっていた。
ちょっと足を踏み出してみれば、役に立つ物は幾らでもある。
にも拘らず、皆は外の全てが無価値だと思い込んでいる。
多少言い方は悪いが、たかだか人間が死に絶えた位で、今までに築き上げられた文明全てを無価値と決め込んでいるのだ。
それこそ言葉を除けば、ほぼ全ての文明の利が完全に放棄されていると言っても過言ではない。
ブーンの目には、それは愚かとしか映らなかった。
生きている事で満足し、また殆どの人間が死に絶えた事に絶望し、上を目指す事を諦めている。
それがどれだけ危うい事か、理解している人間は殆ど――少なくとも雨の民にはブーン1人しか――いないのである。
彼が火の民の土地に行こうと思ったのも、半分程はその事が理由だ。
自分と同じ考えを持つ者を探し、また広められないかと、彼は考えたのだ。
-
223 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:00:36.72 ID:+YiYsgSI0
- ξ゚听)ξ「あの……本当にどうかしましたか?」
下から顔色を窺うように覗き込むツンの言葉で、ブーンはハッと意識を現実へと戻した。
そして、少し考え事が過ぎたと反省する。
( ^ω^)「何でもないお。それよりいい事思いついたお。お前ケツの中でしょんべ……じゃなくて、
夕飯まだだおね? いい物を見せてあげるお。きっと気に入るお。
あと、絵本も読んであげるお。丁度よく一冊持ってるんだお」
ξ゚听)ξ「まだですね。……絵本ですか? よく分かりませんが、お願いします」
ツンの言葉を聞くが否や、ブーンはリュックに残っている中身を全部ベッドにぶち撒けた。
その中から、何かが詰められたビニール製の袋を探し出し、ツンに差し出す。
ξ゚听)ξ「これは……?」
( ^ω^)「食べてみるお!」
ブーンの言葉に彼女は一瞬困惑する。
しかし意を決したかのように、手渡されたそれに噛み付いた。
ビニール袋は、変に伸びるばかりだった。
ξ゚听)ξ「……ひゃみきれまひぇん」
(;^ω^)「ちょ……、違うお。このビニー……袋は破いて食べるんだお」
ξ゚听)ξ「破いて……、これは皮なのですか?」
( ^ω^)「あー……まぁそんな感じだお」
-
225 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:02:34.53 ID:+YiYsgSI0
- ブーンの説明を受けながら、ツンはぎこちない手つきでビニール袋を破く。
中から姿を現したのは、茶色く艶のある、棒状の物だった。
一度目の失敗が尾を引いているのか、今度は少し慎重に、彼女はそれを口に含み、
口内に広がる感覚に、思わず驚愕した。
滑らかな舌触りが口全体に余す事無く広がり、
同時に濃厚な、あまりにも濃厚な甘味が彼女の舌を魅了する。
衝撃的過ぎる初体験。
果物とも穀物とも違う。
今まで食したあらゆる食材とも違う美味に、ツンは暫くの間あらゆる思考を停止してさえいた。
( ^ω^)「気に入ってくれたようで嬉しいお」
ξ*゚听)ξ「……おかわりは頂けますか?」
( ^ω^)「まだまだあるけど……、あんまり食べると太るお? これ」
ブーンの言葉にツンは顔を輝かせ、しかし後に続いた言葉を聞くと、露骨に顔を顰めた。
味わって食べるのが乙なんだと、ブーンが笑いながら説明した。
ツンが食べ終わった後は、ブーンは歯ブラシを彼女に差し出した。
歯の磨き方を一通り教えて、こうしないと物凄い痛い目にあうと言う事も、同時に教える。
実の所、ブーン自身の体験談である為、その苦痛と歯磨きの必要性は十分に、ツンに伝わっただろう。
( ^ω^)「さて、そろそろ絵本タイムと行こうかお?」
ツンが歯磨きを終えた頃を見計らって、ブーンはそう言った。
瞬時に、ツンが目を輝かせて大きく頷く。
-
228 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:04:21.62 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「おk把握。ちょっと待って欲しいお」
ブーンはベッドの上に散乱した本を掻き分け、望みの本を探し出す。
本の内容は、神様が泣き出し世界が崩壊の危機に瀕すると言う、陳腐な冒頭から始まった。
だがツンはと言うと、初めての体験故か、ブーンの朗読に聞き入っていた。
( ^ω^)「……とまぁ、こんな感じだお。面白かったかお? ……お?」
ξ--)ξ「……」
いつからかは分からないが、ツンは規則正しい寝息を小さく立てていた。
ブーンはそれを見て小さく微笑むと、ベッドの上に散らばった荷を片付け、彼女にそっと布団を被せた。
それから他の寝具を当たったのだが、どうも状態のいい物は見つからない。
結局ブーンは、ツンがこれでもかと言う程に踏みつけていたソファで眠る事になった。
翌日。
朝早くに――本当に朝なのかは確かめようが無いが――目を覚ましたブーンは、
その場に長居する事無く火の民の土地へと向かった。
どれだけ急いでも後数日は要するであろう遠路だが、だからと言って悠長に過ごしていい時間がある訳ではない。
かと言って、無茶をしてしまえば体調を崩しかねない上、運が悪ければ辺境の地で命を落とす羽目にさえなりかねない。
壁の外を歩き慣れているブーンは、そう言ったペース配分を上手くこなしながら、目的地への距離を縮めていった。
そして、ブーンが故郷を出てから丁度7日目の事だった。
ξ゚听)ξ「……ここです」
不意に立ち止まり、ツンが淡々とした口調で呟いた。
-
229 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:06:27.01 ID:+YiYsgSI0
- ブーンの目の前に広がるのは、やはり雨。
一瞬戸惑いを覚えたブーンは、しかしゆっくりと一歩を踏み出した。
それに伴って、ブーンの視界が晴れ渡る。
雨で遮られていた陽光が、彼の目に入りこんだ。
同時に映り込む、人々が暮らす土地。
木材を用いた家屋が多い雨の民とは違い、土を焼き固め、それを用いた赤い建物が多く見られる。
その情景には、ここが人間が生きていると言う現実が篭められていた。
この時ばかりはブーンも自分の考えなど忘れ、ただこの土地と景観を守らなければならない。
そう思った。
( ´∀`)「……ようこそいらっしゃいましたモナ。心より貴方を歓迎させていただきますモナ。
私が長のモナーと申しますモナ」
不意にブーンの耳に、しわがれた老人の声が届く。
景色に半ば見とれていたせいか、目の前にまで来ていた老人の姿が、ブーンには見えないでいた。
老人の傍らにツンがいるのを見る限り、彼女が呼んで来たのだろう。
(;^ω^)「お……? あっ! こ、これはどうもご丁寧に……」
慌てて視線を老人へと戻し、ブーンは言葉を返した。
モナーと名乗ったその老人は、柔和な微笑を浮かべて絶やさない、見るからに優しげな人物だった。
癖なのか意図的なのか、珍妙な語尾も、彼の優しげな雰囲気を助長している。
-
232 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:09:33.70 ID:+YiYsgSI0
- ブーンの慌てように、モナーは小さく笑い声を上げると、
( ´∀`)「……どうですモナ? この火の民の土地は」
唐突に、そう問うた。
目は笑っている。口元も、やはり笑っている。
それでも、どこかが笑っていない。
完璧な、どこからどう見みても温和に見えるその笑みは、
しかし、返答次第では、そうブーンに思わせる何かが秘められていた。
( ^ω^)「……いい土地だと思いますお。僕の所とはちょっと違うけど、人が生きてるって事が実感できる土地ですお」
隠し立て無く、また誇張する事も無くブーンは言葉を発する。
そんな事をする必要もないし、なによりこの老人に嘘など通用しないだろうと、ブーンは直感していたからだ。
( ´∀`)「そうでしょう! この土地は私がもう何十年も前に、必死で切り開いた土地なのです!」
ブーンの言葉に、モナーは浮かべていた笑みを崩すと、目を輝かせてそう叫んだ。
あまりの変貌ぶりにブーンが目を丸くして、
( ´∀`)「……っと、申し訳ありませんモナ。ちょっと興奮してしまいましたモナ」
たはは、と恥ずかしそうに笑いながら、モナーは1つ咳払いをする。
経験故か、多種多様な笑みを秘め、それを上手く使いこなす老人だ。
-
234 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:11:22.47 ID:+YiYsgSI0
- ( ´∀`)「……この土地は私にとって、とても思い入れのある土地ですモナ。
出来れば私がこの手で窮地から救いたい所ですが……この老体にそのような力は、もう残ってはおりません」
どうか、どうかよろしくお願いします。
悲壮感の溢れる声でそう零すと、モナーは何かを隠すように頭を深く下げた。
( ^ω^)「……お任せ下さいお」
自信に満ちた声で、ブーンが了承の言葉を紡ぎ出す。
その言葉に、モナーは何度も感謝の言葉を繰り返していた。
( ^ω^)「さて……」
小さく呟くと、ブーンは改めて辺りを見渡し、また見て回る。
全体をぼんやりと見ていた最初とは違い、隅々まで細かく分析するようにだ。
よく見てみる事で、徐々に先程とは違うこの土地の姿が見えてくる。
泥濘んだ地面や、壁近くに配置された尋常ではない人の数。
そして、それでも尚防ぎきれていない水の浸入。
確かに、厳しい状況だった。
だがそれは、あくまで火の民にとってはの事だ。
根本的に水との相性が悪い火の民ではなく、雨の民の自分ならば、建て直しは容易いだろう。
驕りや慢心ではなく、ブーンはそう感じていた。
実際その通りで、巨大な力で水を滅し続ける他ない火の民と違い、
ブーンは水を操り、壁の外に追い出すだけで事足りるのだ。
あっけないとさえ思えるほどに、復興の為の作業は進んでいく。
-
236 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:13:14.25 ID:+YiYsgSI0
- 日が暮れる頃には全てが終わるだろう。
ブーンがそんな事を頭の片隅で考え、
ξ゚听)ξ「……どうでしょうか?」
ブーンを探し回っていたのか、軽く息を切らせたツンが、ブーンの背後から問い掛ける。
( ^ω^)「おっおっ、もう殆ど終わりだお」
振り向きザマにブーンが答える。
それを聞いたツンは彼に一礼するとその場を立ち去ろうとして、
( ^ω^)「あー……、ところでツンちゃん」
バツの悪そうな声で、ブーンがそれを呼び留めた。
( ^ω^)「その言葉遣いは……もうちょっと何とかならないかお?」
ξ゚听)ξ「……お聞き苦しかったでしょうか? ……善処します」
(;^ω^)「いや、そうじゃな……」
ξ゚听)ξ「それでは、私は宴の準備がありますので」
( ^ω^)「……宴?」
ξ゚听)ξ「はい。ささやかなものではありますが、歓迎と感謝の意を篭めて行わせて頂きます」
そう言うと、やはりツンは深く頭を下げて、それからブーンが呼び止める暇もなくその場を立ち去った。
-
238 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:15:27.46 ID:+YiYsgSI0
- どこまでも礼儀正しいその立ち振る舞いは、確かに敬意や歓迎の意を表すには最適だろう。
だがそれが、ブーンの目にはどうしても他人行儀に映ってしまうのだ。
仰々しささえ感じられるお辞儀も、根絶丁寧なその口調も、少女らしからぬ不自然さ故だろうか。
百貨店では数回、その年齢や体躯に相応しい態度を見せてくれたが、それっきりだ。
所詮自分は余所者、言葉を選ばずに言うならば、嫌われ者だからなのだろうか。
思わず、そんな邪推をブーンはしてしまった。
すぐさまかぶりを振って、その考えを払拭する。
そんな事はありえない。
そんな事を考える事自体、彼女や先程の老人に失礼と言うものだ。
そう自分に言い聞かせて、ブーンは再び歩き出した。
やがて雨から隔離された土地にも、夜が訪れる。
その頃には泥濘んだ地面も不安定だった壁も、完全に修復されていた。
ブーンが一息吐いて、ふと頭上を仰ぎ見た。
雲1つない空は、しかし星を見る事は能わなかった。
( ´∀`)「星が見れなくて残念ですモナ?」
上を向いている間に歩み寄ったのか、モナーがブーンに問い掛けた。
ブーンは視線を上から自分の隣へと戻すと、
( ^ω^)「お……? 残念と言えば残念ですお。普段は星が綺麗なんですかお?」
わざわざ話題を振ってくるのだから、やはり星に関しては何かがあるのだろう。
そう思い、モナーに問い返した。
-
239 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:17:04.63 ID:+YiYsgSI0
- しかし、モナーは首を横に振る。
( ´∀`)「いえいえ、この土地は空気の関係でしょうか、星を見る事は殆ど叶いませんモナ。
ですが……、その方がむしろ好都合なのですモナ」
そう言って、モナーは笑みを浮かべる。
何かとんでもない物を隠していて、それを相手に見せるのが楽しみで仕方がない。
そんな笑みだ。
世界はゆっくりと、夜の帳へと覆われていく。
そして、空が完全な夜色に染まり切った時だった。
不意に、上空へと光の玉が昇っていくのを、ブーンは見た。
得体の知れないそれを、ブーンはぼんやりと目で追っていき、
そして刹那、光の玉が音一つ立てずに、空一面に弾けて散った。
赤く細やかな光の粒となって、真っ黒なキャンバスに幾何学的な模様を書き上げる。
初めて見る光景にブーンが見とれていると、1つ目の後を追うようにして、2つ目の光の玉が天へと昇り詰める。
やはりそれも1つ目と同じように弾け飛び、だが1つ目とは違って、暗闇の中に巨大な花を咲かせた。
( ´∀`)「いかがですモナ?」
( ^ω^)「素晴らしいですお!」
完全に心を奪われていたブーンが、モナーの声でハッと我を取り戻す。
そのままの勢いで、答えを返す。
若干言葉足らずにも聞えるが、そうとしか言いようがなかったのだ。
-
240 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:18:59.35 ID:+YiYsgSI0
- 美辞麗句を並び立てた所で、あの美しさは表現できないだろう。
その言葉に、モナーは嬉しそうに目を細め、口端を緩ませた。
( ´∀`)「でしょうモナ。あれは私の故郷で行われていた、祭りの際の催し物を再現したものなのですモナ」
( ^ω^)「……花火、でしたかお?」
ブーンが小さく呟き、それを聞いてモナーは少し驚いたような表情をした。
( ´∀`)「これはこれは……、博識ですモナね」
モナーが感心したようにそう言って、しかしブーンはそれを聞いて僅かに表情を曇らせた。
( ^ω^)「……僕が博識と言うよりは、きっと、皆が無知すぎるんですお」
( ´∀`)「……中々、面白い事を言いますね。もうちょっと詳しく、お聞かせ願えますか?」
その言葉に、モナーもまた表情に変化を見せる。
ただそれは、ブーンの見せた変化とは間逆のものではあったが。
( ^ω^)「別に、詳しく話すほどの事でもありませんお。ただ、みな現状に満足しちゃってる。……それだけですお」
( ´∀`)「……皆、怖いのですよ。外を知っている私のような人間は老いて、外に出れば一溜まりもないでしょう。
そして、外を知らない若者は、こここそが楽園だと信じています。
楽園に住む人間は、楽園の外を知ろうとは思いません」
モナーがそう言って、それっきりブーンは黙り込む。
つい皆が悪いような口調で喋ってしまったが、実際にはモナーの言う通りなのだ。
頭では理解出来ていた。
-
245 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:31:55.28 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「でも……それでも、このままじゃいつか終わりが来ますお」
それでも、心はそれを拒んでいる。
感情論と言われるかもしれないと思いながらも、ブーンは言葉を紡ぐ。
( ´∀`)「……その通りですね。……では、貴方はどうしたいのですか? どうするべきだと、考えるのですか?」
再び、ブーンが沈黙する。
答えを模索している訳ではない。
どうするべきか。
そんな事は、もう何年も前から考えていた。
当然、結論などとうの昔に出し終えている。
ただ、それを口に出すのが憚られた。
否定されたら、そして拒否されたら、どうすればいいのか。
それを考えると、図らずも声が出なくなる。
( ^ω^)「僕は……」
それでも、言わなければならない。
何の為にここに来たのか。
自分の考えを広め、そして何より実行する為に来たのだ。
そう自分に言い聞かせて、ブーンはゆっくりと口を開き、言葉を紡ぎ出す。
( ^ω^)「世界中の、生き残った人間皆が協力し合うべきだと、そう考えてますお」
-
246 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:33:43.40 ID:+YiYsgSI0
- ブーンが言い放ち、しかし案の定と言うべきか、モナーは唖然とした表情を浮かべるばかりだった。
少しだけ、ブーンは後悔する。
( ´∀`)「……有史以来、皆が思っていながら、尚も実現されなかった世界……ですね」
言葉に困ってか、それとも更に聞き出そうと思っているのか。
モナーは当たり障りのない分析を零す。
( ^ω^)「だからこそ、今こそ成し遂げる時なんですお。
完全に壊れてしまったこの世界だからこそ、それが成し遂げられるんですお」
今度は、モナーが黙り込む番だった。
小さく俯いて、右手で顎を撫で回しながら、何かを考えている。
( ´∀`)「なるほど、一理あります。……ここに来たのも、それが理由ですか?」
( ^ω^)「……少なくとも、理由の1つではありますお」
ここが分岐点だと、ブーンは悟った。
この老人は、火の民の土地に並並ならぬ思い入れを持っている。
火の民の長である彼に断られれば、最早尋常な手段では、協力を得る事は出来なくなるだろう。
固唾を呑んで、ブーンはモナーの言葉を待ち、
-
252 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:47:46.71 ID:+YiYsgSI0
- ( ´∀`)「貴方の考えは、とても立派です。そして尚且つ、間違いではない」
その言葉に、図らずもブーンは表情を明るくし、目を輝かせる。
だが、続くモナーの言葉は、
( ´∀`)「しかし……、申し訳ありません。私は、そして火の民は、貴方に協力する事が……出来ません」
ブーンの予測していたものとは、違っていた。
(;^ω^)「……え?」
ブーンが思わず言葉を零し、モナーは何1つとして言葉を発さない。
静寂が場を包む。
視界の端で動き回る花火の光を、ブーンには酷く煩わしく感じられた。
(;^ω^)「な……何でですかお?」
待つ事に耐えられなくなったのか、ブーンが問う。
その声は悲痛さと、そして懇願の意が溢れんばかりに感じられた。
だがそれでも、モナーは沈黙を守るばかりだった。
( ^ω^)「僕が……、雨の民だからですかお?」
少しだけ語調を強めて、再度ブーンが問うた。だが、
( ´∀`)「それは違います。……断じて」
モナーは即座に言葉を返す。
ブーンに負けない強い語調だった。
誠実さと、心外だと言う気持ちが篭っていた。
-
253 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:49:40.67 ID:+YiYsgSI0
- ( ´∀`)「……我々にも、考えがあるのです」
( ω )「その考えを聞かせては、頂けないのですかお?」
モナーの言葉に、ブーンは尚も食い下がる。
( ´∀`)「……今は、まだ。……申し訳ありません」
それでも、モナーの返す答えは、ただそれだけだった。
諦めたように、ブーンが小さく頷く。
無念さが、滲み出るようだった。
翌日、ブーンは自分の土地へと帰る事にした。
もっといてくれても構わない、との事だったが、まだまだ自分の手が及んでいない細部があり、
その復旧に忙しいだろうと思い、そして何よりも居辛さがあって、彼はそれを辞退した。
朝早くにも拘らず、壁を作っている数人以外の全員が、見送りに来てくれていた。
土産物も用意してくれたらしく、ブーンはそれを受け取ると、丁寧に鞄の中へ仕舞った。
( ^ω^)「それじゃ、僕はこれで。……今度からは、壁を作る人数を増やしたらいいと思いますお」
( ´∀`)「最後までどうも、お世話になります」
昨晩の事など無かったかのように、モナーは言葉を返す。
それは、ブーンにとってもありがたい事で、しかしそれでも、気まずさは隠し切れない。
ブーンはそそくさと身を翻し、壁の外へと歩き出して、
-
254 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:51:32.85 ID:+YiYsgSI0
- ( ^ω^)「……お?」
その後ろ袖を、何かが掴み止めた。
それは明確な制止のサインで、しかしその力はブーンが軽く拒めばすぐに外れてしまうであろう程に、弱い。
ゆっくりと、ブーンが振り向いて、
ξ゚听)ξ「……」
そこには、ツンがいた。
俯き加減に、ブーンの袖を摘んでいる。
( ^ω^)「ツンちゃん? どうしたんだお?」
ξ゚听)ξ「……私も」
ツンが小さく呟き、しかしその言葉が最後まで紡ぎ出される事は無かった。
ブーンが困ったように首を捻る。
喋ってはもらえない。かと言って、放してももらえないし、振り切るのも気まずい。
( ´∀`)「……もしかして、付いて行きたいモナか?」
困惑するブーンを他所に、モナーが問う。
沈黙が流れ――ツンは、小さく頷いた。
後ろ袖を掴まれた理由が分かり、しかしブーンの困惑は収まらない。
むしろ、不可解な言動によって、一層深まってしまっていた。
(;^ω^)「な、何でだお?」
-
255 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 01:53:23.69 ID:+YiYsgSI0
- 耐えかねて、ブーンが問う。
だが、ツンは答えない。
俯いて、目をきょろきょろさせているその様は、何かを考えているようにも見えた。
ξ゚听)ξ「……ほん」
不意に、細くなっていたツンの双眸が元の大きさへと戻り、同時に彼女は小さく言葉を零す。
(;^ω^)「え?」
ξ゚听)ξ「……そう、絵本。……まだ、最後まで読んでもらってません」
(;^ω^)「あー……、あげちゃってもいいお?」
ξ゚听)ξ「……私はまだ、字が読めません」
あげてもいい。
そうブーンが言ったにも拘らず、少女はまだ食い下がる。
とは言え他人の、他民族の子供を勝手に連れ帰る訳にもいかないだろう。
ブーンが困り果てて、
( ´∀`)「……ブーンさん、もし良ければ、この子をお願いできませんか?」
唐突に、モナーがそう提案した。
(;^ω^)「……でも、この子の親さんは……?」
( ´∀`)「……私が親代わりです」
-
261 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:06:19.30 ID:+YiYsgSI0
- モナーの答えを聞いて、ツンが小さく俯く。
しかしモナーとツンの容姿の差は、父娘と言うよりもむしろ、爺孫の関係に見える。
なんとなくだが、ブーンは悟った。
ツンには、両親がいないのだと。
( ´∀`)「……お願い出来ませんでしょうか。この子が、これほど人に懐くと言うのも、珍しい事なのです」
そう言うモナーの声は、切実さを感じさせるものだった。
そしてブーンには、他意はないにせよ、どう考えても触れてはいけない傷を抉ってしまった負い目もある。
懐かれていると言われると、彼は少し疑問を呈したくもなったが、
( ^ω^)「……分かりましたお」
淀みの無い声で、ブーンは答えた。
ハッと顔を上げたツンの頭を、柔らかい笑みと共に、くしゃりと一撫でする。
( ^ω^)「……行こうかお」
ツンの手をブーンが引きながら、2人は雨の壁の外へと歩いていく。
モナーは最後まで、2人の姿を見続けて――
――唐突にその視界が、濁流に埋め尽くされた。
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264 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:08:32.83 ID:+YiYsgSI0
- 夜、ブーンは大きめの建築物を見つけ、そこで休息を取る事にした。
目星を付けた寝床の上に腰掛けて、鞄の中身をばら撒く。
( ^ω^)「……お?」
ふと、火の民から貰った土産物が目に付いた。
決して小さくは無い箱だ。
ブーンが丁寧に箱を開ける。
入っていたのは、ねじ式の金属缶だった。
中には黒い液体が満たされており、更に箱の底には、一枚の紙切れがあった。
ブーンが缶を傍らに置いて、その紙切れを手に取る。
それは手紙だった。
それを理解して、ブーンは早速手紙に目を通す。
『貴方にお渡ししたその缶には、我ら火の民に伝わる『燃える水』が入っております。
今となっては希少な物で、実用性もあります。きっと、お気に入り頂けるかと思います。
遠路では荷物になると思い、少量しか差し上げられませんでしたが、ご了承下さい。
そして、ここからは少しややこしい文章になることもまた、お許し頂けると、幸いです。
今、貴方の傍にツンは居ますか? いるならば、その子を出来る限り可愛がって上げて下さい。
お話したかもしれませんが、その子は貴方にとても懐いているのです。
そしてもし、傍にツンが居なかったのなら、
これから先に書かれている文章を見ても、決して悔やまないで下さい』
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267 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:10:39.29 ID:+YiYsgSI0
- 前後に空白が設けられた、嫌でも目立つその一文を読んで、思わずブーンは戦慄を覚える。
自分の傍にツンは居る。
だが、居なかったら後悔するような事が、この先に書かれている。
一体何が。
湧き上がる嫌な予感を必死に押さえ込みながら、ブーンは視線を手紙へと戻した。
『我々の土地は、もう長くない内に、雨に飲まれてしまうでしょう。
あと一日持つかさえ、分かりません。
元々、我々の力は雨に抗うには不向きな力だったのです。
少し他人に助けてもらった位では、最早どうしようもない位に。
それでも助けを求めたのは、他でもないツンの為です。
火の民の力を最も色濃く有したその子さえ生きていてくれたならば、
我々が死んだ所で、火の民は滅ばない。
そう考え、皆で話し合い出した結論が、それです。
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269 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:12:44.05 ID:+YiYsgSI0
- 即ち、この子を他の心有るお方に託す事です。
さんざん雨の民を毛嫌いしてきた我々です。
引き受けてくれるかどうか、最後まで不安でした。
我々の出した結論が現実になったのかならなかったのか、
今これを書いている私には分かりません。
ただ、どんな結果であろうとも、私達火の民を忘れないでください。
それだけが、私の願いです。
最後に、あなたの考えに協力出来ない事。火の民一同、心から悔しく思います』
(;^ω^)「……何だお? これ……」
全てを読み終えて、思わずブーンはそう零した。
意味は、頭では理解出来ている。
それでも尚、心がそれを信じられないでいた。
嘘だ。
実は二枚目があるんじゃないだろうか。
それとも縦読みか斜め読みか、どこかに『釣りでした』と書いてあるんだろう。
下らない妄想へと逃避を始める意思を、ブーンは歯を食い縛り呼び戻す。
反射的に荷物を纏め始め――しかし冷静になった頭と心が、それに静止を掛ける。
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272 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:14:50.19 ID:+YiYsgSI0
- 今から戻って何が出来るのか、と。
恐らくは間に合わない。
間に合った所で、出来る事など高が知れている。
それに、今から戻るとなれば、当然ツンにもこの事は知れてしまう。
それはモナーの、火の民の意思に背く事になるのではないか。
ブーンは葛藤し――だがその葛藤は、一瞬で終わりを迎える。
( ^ω^)「……ここで見殺しにして、何が協力し合う世界だお……!」
広げた荷物を乱暴に鞄に詰め込んで、ブーンは立ち上がる。
ξ゚听)ξ「……? どうかしたんで……」
ツンの問い掛けにも言葉を返さず、ブーンは彼女に近寄ると、
ξ゚听)ξ「ど、どうしたんで……ひゃっ!?」
有無を言わさず首と膝の後ろに腕を回し、抱き上げた。
間髪入れずに出口まで走るとドアを蹴り開け、そして雨の中へと飛び出す。
懸命に疾駆するが、やはり遅い。
遅すぎる。
もっと速く、自分の出し得る最高の速度が必要なのだ。
ブーンは思い、そしてそれを実行へと移す。
空に、地に、辺りに無限に存在する水。
それらを寄せ集め、彼は一枚の板を作り出し、そしてそれに飛び乗った。
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277 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:16:53.79 ID:+YiYsgSI0
- 流線型を描く一切の無駄が省かれたその板は、ブーンが作り出した水の流れをレールに滑り出す。
走りよりも速く、疲弊の無い移動法だ。
降り注ぐ雨が、横の線になってブーンとツンの目に映る。
ξ゚听)ξ「これは……」
( ^ω^)「昔、こうやって水の上を滑っていく遊びがあったんだお。すっごく速いんだけど、如何せん一人乗りなんだお」
ブーンの答えに、ツンは納得したような感嘆したような表情を浮かべ、
ξ゚听)ξ「……それでも、一言声を掛ける位してくれたっていいと思います」
しかし自分の現状を思い出すと、少し恨めしそうにそう言った。
ξ゚听)ξ「それで……、どうして火の土地へ戻ろうとしているのですか?」
申し訳なさそうな顔をするブーンに、ツンは続けて問う。
殆ど視界が利かないとは言え、自分の故郷への道のりだ。
分からない筈は無いだろう。
( ^ω^)「……忘れ物だお」
ξ゚听)ξ「忘れ物?」
ツンが聞き返し、
( ^ω^)「そう、忘れ物だお。なくしたら、もう2度と戻ってこないんだお」
ブーンは再度それに答える。
ツンだけではなく、自分にも言い聞かせるように。
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281 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:19:09.72 ID:+YiYsgSI0
- 不意に、ブーンの視界に陰りが生まれる。
ブーンが顔を上げて――巨大な波の壁が、そこにはあった。
先日のものとは比べ物にならない程に高い津波。
ブーンがその存在に気づいた時には、既に迂回すらままならない状況だった。
高速で移動していた事が、災いしたのだ。
絶体絶命の危機であるその壁を目の当たりにして、しかしブーンは考える。
自分1人ならば、ここでお仕舞いだ。
だが、自分にはツンがいる。
火の民の天才と雨の民の中でも屈指の力を持つ自分。
その二人が協力したならば、この程度の壁――どうしようもならない筈の現実だろうと――打ち破れるのではないか、と。
( ^ω^)「ツンちゃん……。あの波に穴、開けられるかお?」
目前に迫る壁に臆す事無く、ブーンが問う。
ツンは答えない。
ただその代わりに、右腕をゆっくりと壁へと伸ばす。
親指と人差し指を立てて形作られた『銃』。
その周りの空間が膨張し――直後、凄まじい熱量を誇る火球が放たれた。
白昼の太陽を彷彿とさせる炎の弾丸は、ツンの意思に背く事無く、津波の壁に穴を穿つ。
だが、その穴は人が通り抜けるにはあまりにも小さく、しかしブーンにとっては、それだけで十分だった。
巨大な堰が僅かなひび割れから崩壊するように。
その小さな穴を始点にして――天を衝かんばかりの大波が、真っ二つに断絶された。
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283 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:21:22.00 ID:+YiYsgSI0
- 道が、切り開かれた。
ブーンが一安心して、
( ^ω^)「……お?」
ふと見れば、ツンが少し控えめに、右掌をブーンに向けて差し出していた。
一瞬ブーンは困惑し、しかしその意味を理解した。
笑いながら、ブーンは自分の右手を差し出す。
初めて見せる満面の笑みを湛えて、ツンはその手を叩いた。
――崩壊する壁。
滝のように降り注ぎ、雪崩れ込む濁水。
一人、また一人と飲み込まれていく。
火の民の生きた土地が今、終わろうとしている。
だがそれでも尚、彼らは逃げようとはしない。
正確には、逃げたいと願った者は既にこの土地を去っていた。
命が惜しい者。家族が、特に幼い子供がいる者。
誰一人として、彼らを責めはしなかった。
火の民特有の物品や技術とを土産に雨の民を頼るよう、モナーはそう彼らに命じた。
ブーンの考えを聞いて、導き出した結論だった。
恐らくは聞き入れてもらえるだろうと、最悪の場合でもブーンが便宜を図ってくれるだろうとも、モナーは考えていた。
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286 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:23:28.82 ID:+YiYsgSI0
- ( ´∀`)「……さて、ただやられるのも芸がないモナ。精一杯、抵抗してやりましょうモナ」
両の手に炎を掲げ、モナーが誰に言うでもなく呟く。
尤もその抵抗は誰にも見てもらえず、故に覚えていてもらう事さえ出来ないのだが。
自己満足だと理解しながらも、彼は逃げようとはしない。
故郷とも言える土地を捨て、あろう事か水底に沈めて生き延びるなど、自分には出来ない。
そう思ったからだ。
ここに残った者は皆、モナーと同じ考えを持っているか、世話になった彼に準じようとしているか。
そのいずれかだった。
( ´∀`)「我ながら馬鹿な真似をしたモナねぇ……」
自虐的な笑みを浮かべ、モナーは両手を交差させながら振るう。
掲げられた火球が弧を描いて飛翔し、壁から流れ入る水を消し去った。
不意に押し寄せる濁流が、モナーを飲み込まんと襲い掛かる。
だがモナーは慌てる事無く、振り下げられていた両手を体の横へと突き出す。
同時に己を中心に放射状に炎を放ち、押し寄せる濁流をやり過ごした。
上手く立ち回れているように見える。
だが全体を見れば、やはり土地は着実に沈んでいっていた。
歯噛みして、モナーは両手を空へ翳すと、巨大な炎の玉を作り上げる。
そしてそれを、一際水が溜まっていた場所に、放り投げた。
蒸発音と大仰な蒸気を上げ、一瞬にして水溜まりが消滅する。
それを見てモナーは達成感や爽快感に似たものを感じ、笑みを浮かべ――だが、突如として襲い来た疲労感に、思わず膝を突いた。
人間の体とは正直なものだ。それが老い衰えたものならば、尚更にだ。
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290 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:25:33.72 ID:+YiYsgSI0
- よくある表現だ。
死んでいく者が最後に見る、真っ白な視界。
やはり自分は死んだのかと、モナーは思う。
だが、違った。
白い視界の奥に、僅かに影が見える。
徐々に鮮明になってきた視界を埋める白さには、僅かにだが濃淡が見られた。
それは、蒸気だった。
モナーを絶命へと追い込もうとした怪物の、死骸とも言える。
不意に、モナーの視界に映っていた影が動きを見せる。
モナーへと、歩み寄る。
ξ゚听)ξ「……大丈夫、ですか?」
声が発せられる。
透き通るような、幼さの残る声だった。
モナーは即座にそれが誰の声かを理解し、しかし同時に疑問を抱く。
何故ここにいるのだ、と。
白幕を抜けて、声の主が姿を現す。
炎のように紅い衣装に身を包んだ少女。
間違いなく、見紛う事なく、ツンである。
一瞬思考停止に陥ったモナーは、しかしその理由を考える。
答えはすぐに見つかった。
むしろ、それ以外にはありえない。
-
296 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:33:06.86 ID:+YiYsgSI0
- 答えを得た事で多少の冷静さを取り戻したモナーは、ふと自分の体が誰かに支えられている事に気づく。
そうでなければ今、頃彼の体は慣性によって石壁に叩きつけられていただろう。
己の体を抱き抱える人間の顔をモナーが仰ぎ見て、
(;´∀`)「やはり……、貴方ですか」
そこにはブーンがいた。
いつも浮かべていた穏やかな笑いはどこへ行ったのか、モナーを案じて不安そうな表情を浮かべている。
( ^ω^)「ヒーロー参上……、って奴ですお」
冗談めかしてブーンが言う。
だが、モナーは笑いはしない。
(;´∀`)「……何故、帰ってきたのですか? これで、ツンにも知られてしまいました」
静かにモナーが問う。
責めている語調ではない。
ただ純粋に、彼の判断に疑問を持ったのだろう。
(;´∀`)「貴方があのまま帰ったとしても、火の民の力は得られたのですよ?
ツンや……、それに行き違いになったようですが、何人かの火の民だって……」
( ^ω^)「知ってますお。津波で足止めを食っている彼らに、会いましたお」
モナーの呟きを、不意にブーンが遮った。
僅かにだが驚きを表に出すモナーに、ブーンはさらに続けて言葉を紡ぐ。
( ^ω^)「モナーさんが雨の民を頼れと言ってくれた事も、聞いていますお。
……だからこそ、僕は戻ってきたんですお」
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298 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:35:18.38 ID:+YiYsgSI0
- その言葉にモナーの目が、この土地を死に場所にすると言う決意が、小さく揺らいだ。
それから暫く沈黙が続き、
ξ゚听)ξ「……皆、皆言ってた。おじいちゃんを、長を助けて欲しいって」
その静寂を、ツンが破った。
周りの水を滅し、押し退けながらも、その目はしっかりとモナーを捉えている。
ξ゚听)ξ「……おじいちゃんは、死にたいの?」
ただ純粋に不思議そうな顔をして、ツンが問う。
邪気の無い目線が、モナーの心を抉った。
同時に、モナーは悟る。
自分の我侭の為に、一体何人を傷付け、巻き込んでいたのかを。
長である彼が残ると言えば、少なからず同情か、或いは恩に報いるためか、
ともかく生死を共にしようと考える者が出てくる。
出て行く者達にしても、後ろ髪を引かれるような思いをするだろう。
火の民全員の命を背負うべき人間に、有るまじき愚考だった。
( ´∀`)「すいませんが、肩を貸していただけますか?」
突然の事だった。
今までどこか力無かったモナーの声が、今までに無いほどに力強くなっていた。
図らずも、ブーンが変化に驚き、それから慌てて彼の言葉を実行する。
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301 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:37:37.44 ID:+YiYsgSI0
- 立ち上がる為に力を込めたモナーの体に、激痛が走る。
だが、それは今までの痛みとは少し違った。
ただ憎々しいだけの痛みではなく、どこか心に晴れ間を差してくれる、笑みさえ零れてしまうような痛み。
何故か。
モナーは暫し考え、そして気づく。
否、思い出したと言った方が、正しいのかもしれない。
( ´∀`)「安寧な生活に甘んじていたせいでしょうか……。名誉ある死など、昔は考えた事も無かったのですがね……」
死ぬ為の痛みと生きる為の痛み。
違いを感じるのは、自明の理だった。
そして絶対的な危機の中、皆はただ1つの事だけを考えていた。
――絶対に、生き延びてみせる。
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302 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:39:46.69 ID:+YiYsgSI0
- 「雨の民も火の民も……関係ないお。力を合わせれば、どんな困難だって乗り越えられるんだお」
昔のように――そして、これからの為に。
「……ようブーン。何だか知らねーけど、エライ事になってんじゃねぇか。感謝しろよ、加勢に来てやったぜ」
「ジョルジュ……!? それに皆、なんでここに……?」
――暮らしや文化、持つ力の違いなど、最早どうでもいい。
「おめぇが心配で来てやったんだよ。で、案の定これだ。……決してそのガキが心配だった訳じゃないからな」
「……ありがとう、ございます」
――些少な問題に囚われているなど馬鹿らしい。
大切な事は、認め合う事。
大切な物は、何よりも命。
何十年もの間――否、世界が雨に包まれる前を含むのならば、それこそ何千年もの間。
目の前にありながら掴めなかった、誰一人掴もうとしなかった真理を――彼らは今掴もうとしていた。
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305 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:41:52.09 ID:+YiYsgSI0
- ずっとずっと、神様は泣いていました。
雨は降り続け、やむ事を知りませんでした。
泣き続けていた神様はしかし、ある時異変に気づきました。
下の世界が、なにやら騒がしかったのです。
神様はもう長い間ほったらかしにしていた世界に目を向けて、
そこでは争ってばかりだった頂点者達が、力を合わせていました。
他ならぬ彼らの横暴によって傷つけられた自然さえもが、力を貸していました。
それは、神様が世界を作り上げてから一度たりとも見られなかった光景。
その様子に神様は戸惑います。
彼らはもう一度、自分に感動を与えてくれるのではないかとさえ思い、
しかし反面、また裏切られるのではないかとも思えてしまいます。
悩み悩んで――神様は決断しました。
絶望から生まれ、絶望を与えた雨に代わり、
希望から生まれた、晴れ渡るどこまでも続く空が、再び世界を包んでいました。
――おしまい――
-
309 : ◆P7LJ8EbA6M
:2007/12/08(土) 02:46:13.17 ID:+YiYsgSI0
- やっと終わりましたよ。
猿掛かりすぎだよ俺。最高記録ですよ。
今までただの厨バトルしか書いてこなかった自分にとって、
『テーマ』を持たせなければならない今回の合作は厳しい物がありました。
途中でPCがぶっ飛んだ事もあって、このような中途半端な終わり方になってしまいましたが、
これはこれで及第点かな、と思ったりもしています。
支援を下さった方々、心より感謝申し上げます。
今日ほど支援を嬉しく感じる日は後にも先にもないと思います。
こんな後書き書いてももう起きてる人いないんじゃないかと思ったりもしますが、
残り僅かな新人合作ですが、この先もよろしくお願いします。
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