从'ー'从 オトナの階段を上るようです(-_-)4日目-3

 無論、道具がなければ何も出来ない、というわけではない。
淫魔の抜け道、つまりゲートを塞いだりするのは紛れもなく彼女自身の力であるし、
剣の威力も、彼女が持っている「力を引き出す能力」が無ければ半減してしまう。

 しかし、彼女の持つ能力は所謂二次的、三次的なものであり、
それ単体では、大したことは全くと言っていいほど出来ないのが現実である。

 自分に今、何が出来るだろう。
逃げることは出来る。
先程、実家に応援を求めた。もうすぐ兄弟やらが助けに来る筈だ。
そうすれば、事態もなんとか収拾が付く。

川 ; -;)「……でも」

 彼女は顔を拭い、自分を鼓舞するように呟いた。
それは逃げである。例え試合に勝っても、勝負においては紛れも無い敗北だ。
何より、応援を待っている間にハインが何をされるか、わかったものではない。

 ハインは一般人である。クーのように淫魔の悪戯に耐えうるような精神力も、体力もない。
早く助けなければ、けれど助けられない。
このまま、彼女が犯されるところを指を咥えて見ていろと言うのか。


川  - )「そんなのは……」

 彼女の心に、激しい波が起こる。

 感情を殺すのは得意だった。
情は決断を鈍らせるから。
慢心は油断を生むから。
憎しみは判断を狂わせるから。
怒りは視野を狭めるから。
そんなものは、命取りにしかならないから。

 冷静になれ、いつもタガを固く締めていた。
自分を出すな、相手に悟られるな。
戦闘時だけではない、日常に於いても常にそれを実践した。

川#゚ -゚)「御免だ!」

 ただひととき、彼女の泣き顔の前以外では。


 転がっていた枝を取り、先端を化け物の目に向け、突っ走った。
一撃だ。剣などなくても、急所を突けば、自分の力なら。
信じる。ただ愚直に。無謀とも言える。
けれど彼女は疑わなかった。自分を騙して、疑わせなかった。

 一本の触手の鋭い動きが、彼女の胴体を上下に割くように捉えた。

川メ;゚ -゚)「っ!」

 反動で吹き飛び、後ろ半身から柔らかい地面にめり込む。
一瞬だけ視界が真っ暗になって、意識が飛びそうになる。
やっと我を取り戻すと、今度は腹部にじくじくと痛みが走った。
見れば、制服に一筋の裂け目が現れていた。

从;゚∀从「クー、大丈夫か!」

 大声でハインが呼びかけた。
痛い、苦しい、それらすべてをまやかしだと振り払い、身体を小刻みに震わせながらクーは立ち上がり、
無言のまま、一度頷いた。

 クーが思ったことは、時間稼ぎであった。
応援が来るまで、敵の意識をハインに向けさせまいとする。
それだけなら、今の自分でも充分こなせると。


川メ゚ -゚)(役目を……最後まで、果たす!)

 また枝を取り、赤い目を睨む。
飛び交う弦を身軽に交わしながら、果敢、というよりはむしろ健気に、彼女は目標への特攻を試みる。
目標まであと5メートル、3メートル、2メートル、1メートル。

 いけるか、そう思った瞬間、世界が瞬時に姿を変えた。
遅れて頬に鋭い痛みと熱っぽい感触を覚え、彼女はコースを捻じ曲げられて右肩から倒れこんだ。

 ひりひりする部位を右手で抑えた。
制服の左肩部分が弾け、むき出しになった肌の表面に着色したような青が見えた。
頬を液体のような物が伝う。すくってみると、今度は絵の具の原色のような赤色が指先に着いた。

 普段の戦闘では負わないような傷、それを身に受けても、クーはまだ屈さない。
歯を食いしばり、立ち上がった。
もう二度と、彼女を泣き顔は見たくない。自分がどうなっても。
負けるか、負けるか、負けるか。

川メメ゚ -゚)「その程度か! 私はまだ戦えるぞ!」

 視界が一瞬眩んだ。額を押さえながら、そう叫び、挑発する。
助けが来るまで、倒れてなるものか。


从;゚∀从「クー! やめろ、もうやめて! 俺はどうなっても……」

 ハインの声を遮るようにして、クーが言った。

川メ゚ -゚)「ハイン、君は黙っていろ! 私は退魔家だ! これは私の仕事だ!」

从;゚∀从「だって、お前もう傷だらけ……」

川メ゚ -゚)「関係ない、気力さえあれば戦える」

 クーは突っ込んだ。何度も、何度も。
その度に弾かれ、飛び、倒れ、傷を負う。
次第にその数は増え、それに反比例するようにクーの動きは鈍くなり、鮮麗さを失っていく。

 気絶しそうになるほどの痛みを堪え、口腔内に入り込んだ砂粒を吐き出す。
もはや衣服は破れてその役目を殆ど果たさなくなり、
露出した肌は一部皮膚が破れ、肉が剥きだしになってさえいる。
立っているのにさえ、凄まじい苦痛が伴う。

从 ;∀从「クー、もういい! もういいから!」

川メメ -゚)「君が良くても……私は……このままじゃ、終われないんだ」

 張り上げていた声もいつしか弱々しくなり、それがハインに届いているのかさえ、クーにはよくわからなかった。

ただ立ち上がり、破滅への道を突き進む。
吹き飛んだ。飛ばされた。倒れた。
これでもう何度目か。恐らく、足の指まで使わなければ数えられない回数になっているだろう。
そんなことを考えた。


 繰り返し、またクーは立ち上がろうとした。
けれど、もう身体が動かなかった。

川メメ - )「……無念」

 やれるだけのことはやった。
気を抜けば意識を失いそうだった。
悔しい。力が及ばなかった。

川メメ -゚)「せめて……剣さえあれば」

 自分の未熟さを呪う。予備の小刀は、渡辺の相棒に渡したままなのだ。
あれさえあったなら、状況は変わっていたかもしれないのに。
一瞬考えて、しかしその思考を振り払った。
もう、なるようにしかならないのだ。全て、自分のせいだ。

 風切り音が聞こえた。間もなく、自分の身体にまた鞭が打たれるのだろう。
目を瞑って歯を食いしばり、痛みに備え――

しかしそれは、やってこなかった。


 クーは困惑しながら薄目で上を見た。
そこには紛れも無く、あの少年がいた。

(メ;-_-)「遅れてすみません、クーさん。ちょっとアクシデントが……」

 弦は吹き飛び、土の上を這いずって歪な模様を描いている。
後ろを見ると、少し離れたところで童顔の少女が立っていた。
なんとなく、その面影にハインに近い物を見出した気がした。

 ヒッキーの登場が突然だったからであろう、怪物は怯み、少しだけ動きを止めた。
クーは立ち上がる。少しだけ、気力が戻ってきた気がした。

川メメ -゚)「そういえば、君が居たのだったな」

(メ-_-)「はあ……勝手に飛び出したって聞いたときは何事かと思いましたけど、やっと状況が見えてきました」

 お互いに意外と冷静であるのは、頭に上った血が外に流れてしまったせいだろうか。
そんなことを思い、クーは俄かに口角を上げた。
なぜか、可笑しくなった。

川メメ -゚)「それを私に貸してくれ、私でなければ、あいつに止めは刺せない」

 ヒッキーは少し狼狽したが、すぐに言葉の意味を理解したのか、
戸惑いながらも素直に小刀をクーの手に渡した。


 下がっていろ、と言い、彼女は攻撃に備える。
先程までのがむしゃらな姿勢とは違う、力の抜けた、自然体の構えで。

 左右から飛ぶ二本の弦。
避けるように、流れるようにクーの身体が動く。
次の瞬間、弦は彼女の身体を掠めることなく横に飛んで行った。

川メメー゚)「なんだ、まだまだ動けるじゃないか」

 やはり自然に、顔の筋肉が緩んだ。
決して作ったものではない、力の抜けた、彼女本来の表情だった。

川メメ -゚)「さあ、覚悟するんだな」


 飛び交う何本もの弦。しかしクーは水を得た魚のように跳ね回り、それをかわし、或いは裁ち切る。
ゆっくりと少しずつ、本体との間合いを詰めていく。

 リーチに入り込んだ。

 今だ。

 両足をばねの様にして、飛び込む。
勝った。そう思った。

川メ;゚ -゚)「!」

 しかし、彼女は慌てて攻撃の手をとめた。
いや、止めざるを得なかった。

从;゚∀从「……っ!」

 弱点である目を覆うようにして、縛り上げられたハインが目の前に現れた。

从;゚∀从「ク、クー……」

川メ;゚ -゚)「く……畜生め!」

 クーは再び、悔しさに唇を噛み締めた。
そうだ、人質が居たんだ。

 ヒーローは現れる。けれど、どれだけ強いヒーローにも弱点はある。
いかなる盾よりも効果を発揮する、最強の防御壁。
最後の最後で、阻まれてしまった。

 逃避するように、クーは辺りを見回した。
渡辺が、ヒッキーが、きょとんとした顔でこちらを見ていた。
使えそうなものは、何も無い。
八方手詰まりだった。


―― ―― ――

 触手が伸びて行く。
それはハインの張りと弾力に富んだ若い肌の上を滑り、白衣の襟元から内部へ侵入していく。

从;゚∀从「は……はふっ!」

 突然、白衣に染みが現れたかと思うと、ハインの身体がびくりと跳ねた。
クーは何が起きているか、一瞬で理解した。
媚薬作用を持つ液体を分泌したのだ。
そうだ、わかりきったことだが、こいつは間違いなくハインを犯そうとしている。

 気持ちが逸る。頭が混乱し始め、どうすればいいのかわからない。
そうしている内にも、白衣の中で触手は蠢いている。
濡れた薄い生地に、ぴったりと張り付く乳房が透けて見える。
それ歪み、形を変えるたびに、ハインの口から白い吐息が漏れる。

从//∀从「は……はぅっ!」

 身体を小刻みに振るわせ、なんとか声を抑えようとしているのが痛いほど伝わる。
早く、早くしなければ。
触手が彼女の純潔を奪い去るのも、もはや時間の問題でしかなかった。

 びりっ。
白衣の襟に掛かった弦が左右に引かれ、胸の部分が肌蹴た。
締め付けられ、ひしゃげた乳房の上部が露わになる。
ハインはというと、そんなことに気を配る余裕すらないのか、頬を染め、顔をしかめて、嗚咽混じりの嬌声を上げていた。


川;゚ -゚)「……あ!」

 肌蹴た胸元を見詰めるうちに、クーはあることを思い出した。
そうか。
そうだ、そうだった。
瞬時に、頭の中で点と点が繋がる。

川;゚ -゚)「このぉっ!」

 間に合え、間に合ってくれ。
飛び込んで右手を伸ばし、クーは掴みに掛かった。

 ハインの胸元にある”それ”を。
そして、その先にある”勝利”の二文字を。

 人肌で俄かに温まった金属。
それに守られるように据えられた、透き通った紅色の石のような物質。
クーの手の平の中で、それが弾けた。

 刹那、瞳を貫かんばかりの強烈な赤い光が、五指の隙間から差し込んだ。


从;゚∀从「うわあぁっ!」

 あまりの照度にハインが目蓋を固く閉じる。
しかし、クーは目を見開いたまま動こうとしない。
見据える先は、ただその一点。

川 ゚ -゚)(チャンスは……一瞬だ!)

 怪物の低い呻き声が辺りに轟く。
ハインに巻き付いた弦は、遂に拘束する力を失った。
彼女の身体が傾く。

 同時に露わになる、その背後に守られるように存在した、赤くぎょろりとした巨大な瞳。

川#゚ -゚)「くたばれええぇぇ!」

 甲高い咆哮を轟かせながら、左手に握った小刀の切っ先を、力任せに思い切り突き立てた。


―― ―― ――

 終わった。
身体から力が抜けて行く。
こんなにも疲労していたのか、こんなにも傷を負っていたのか。
激痛と息切れ、激しい動悸と眩暈に襲われながらも、クーは額に手を宛て、両足でしっかり地面を踏み締める。

 四方八方に際限なく伸びていた弦は、先端から昇華するようにして、黒い煙へと変貌していく。
やがてそれは怪物の本体へ及んで全体を包むような形になり、
その様子はなんとなく、カーテンの後ろに隠された美女が消滅する陳腐なマジックショーをクーに思い出させた。

 煙が消え去った後、そこには「いかにも」といった感じの鉄製の箱と、

川メ゚ -゚)「む?」

 身体を縮めた体勢で、ぐったりと横たわる長髪の女性が残された。
クーはそれが誰だか、彼女に何が起こっていたのかを一目で理解した。
おそらく彼女、つまり伊藤先生は、あの怪物のエネルギー源として取り込まれていたのだ。

 ちなみに、なぜ彼女がそこまで理解することができたかと言うと、
黒いカーテンが消え去った時点で、伊藤は衣服をすべて剥ぎ取られた状態で、
身体全体が茹ったように薄紅色に染まっていたからである。

 クーは伊藤の身体を揺すったが、起きなかったので、
適当に間に合わせで自分の上着を着せて校舎の中へと放り込んで置いた。
(ちなみに後日、伊藤はその状態で生徒に発見され、危うく教師生命を失い掛けることとなるのだが、それはまた別のお話)


 箱はクーが全体重を掛けて踏み潰すと、あっさりひしゃげて、その機能を失った。
箱の中から、緑色の大きな無数の光の粒が漏れ、渡辺の持っていた小型の機械のようなものの中に吸い込まれていった。

从'ー'从「ありがとう、これで私たちの目的は果たせたよぉ!」

 背の低い少女がはにかみながらお辞儀をした。
ヒッキーもその隣で、少し照れくさそうに礼を述べた。

川 ゚ -゚)「こちらこそ。君たちがいなければ、私もどうしていいかわからないところだった」

 クーはいつものように短い言葉で申し訳程度に礼を返す。
うんうんと低い機械音が鳴っている。
別れの時が近いのだな、と、クーは直感で悟った。

川 ゚ -゚)「二人とも、達者でな」

 二人は笑顔で並んだまま、クーの前に現れた時と同じように、突如として姿を消した。
ほんの一瞬の付き合いではあったが、なかなか悪くない奴らだったな、と。


川 ゚ -゚)「……む?」

 何かを見つけ、ふと視線を下に落とす。
そこにあったのは、渡辺に渡したお守り。
昔、ハインにプレゼントしたものとよく似たものである。

川 ゚ -゚)「律儀な奴だ、わざわざ返さなくとも……」

 身体を屈め、紐の部分に触れる。

 しかし、そこで初めて、クーはあることに気付く。
首に装着するために付けられたそれは、まるで刃物か何かを使ったように、綺麗に裂かれていた。
初めは結び目が解れたのかと思ったが、別のところにそれが存在するのを見ると、どうもそうではないらしい。
彼女がやったのか? けれど、一体なぜ?

 何を思ったか、いや、何も考えず、ただなんとなく、クーは本体に手を触れた。
ぱきん、と小さな音が鳴った。

川 ゚ -゚)「悪い予感がする……」

 クーの記憶の片隅に、小さな歪ができた。
しかし、彼女今からやるべきことを考えるうち、それはすぐに覆い隠され、消え失せた。


―― ―― ――

从*゚ -从「ん……」

 呆然としたままのハインの身体を抱く。
弦に巻かれていた部分は少し後が残っており、もう冬も近いというのに背中は俄かに汗ばんでいる。
白衣に触れると、軽く糸を引いた。

 自分と言うものがありながら。
クーは自らに対して小さく憤りを感じ、しかしハインの純潔がまだ無事らしいことに安堵を覚えた。

川 ゚ -゚)「気持ち悪かったろう。どこかで着替えるか」

从*゚ -从「あ……うん」

 手を戻してくっつけていた身体を離すと、クーはハインの頬が先程よりも幾分紅潮しており、
身体がうずうずとゆっくり震えていることに気付いく。
これも先程の粘液が原因だろうか。
そう思って、深くは考えなかった。今はただ、彼女が無事なのが何より嬉しかった。


 校舎内に入り、倒れている伊藤を無視し(ハインは若干、それを訝しげに見詰めていたが)、
誰も使わなさそうな部屋を探した。

川 ゚ -゚)「ここなら大丈夫だろう」

 三階まで上って、クーが言った。
スライド式のドア、窓から見える閑散とした内部。
入り口の上には「視聴覚室」と白抜きの文字で書かれたプレートが掛けられている。

 中に入ると、冷たい空気に身体が震えた。
普段使われない部屋だから、当然暖房も入っていないのだということを、今更ながら思い出す。
やたらに広い部屋の隅に、申し訳程度に置かれた石油ストーブのスイッチを入れ、
ハインにその近くに座るよう促した。

川 ゚ -゚)「生徒指導課に行って換えの下着を貰ってくる。落ち着いて待っていろ」

从*゚ -从「う、うん」

 先程からハインは、何を言っても「うん」と相槌を打つだけか、あるいはただ首を縦に振るかだけで、
その口数は、煩わしいまでに饒舌な普段と比べれば格段に少なかった。
あんなことがあった直後だ。きっと動揺しているのだろう。

 普通なら、一方的に拒絶されても何も文句は言えないような状況だが、
これまでのところ、まだハインはクーに対して嫌悪感を示してはいないようだった。
良かった、とまた胸を撫で下ろし、クーは部屋を後にした。


―― ―― ――

从*゚ -从「ん……」

 見てない、よね。
自分で自分を納得させつつ、誰もいなくなった部屋の片隅で、ハインは壁を背にして座りこむ。

从*//-从「あ……ん」

 畳んだ足を八の字に崩して開き、腿と腿の付け根にゆっくりと手を滑らせる。
下着と肌の間の隙間に細い指を差し込んで広げると、そこがしっとりと濡れていることがわかった。
我慢しきれず、まだ触れてもいないのについ息を荒げてしまう。

 こんなこと、しちゃいけない。分かっていても、なぜか手に自制が効かない。
彼女の頭の中は、夢見心地で宙ぶらりんだった。
初めて目の当たりにした”魔物”に、剣を持って戦う親友。
それらの出来事が、彼女から現実味を奪ったのかもしれない。

 先程、魔物に変な粘液を浴びせられてから、身体がどうも可笑しい。
気持ちが高揚し、何か小さな刺激でも敏感な部分に受ければ、それは波紋を広げたように全身に伝わっていく。
指先で、秘所に引っかくように触れた。


「はあぁ……」

 思わず、身体が跳ね上がりそうになる。
喉を詰まらせるようにして、なんとか声を抑えた。
いつクーが帰ってくるのか、わからない。けれど彼女は、それまで行為を続けるつもりだった。

 右手で左の乳房を鷲掴みにしながら、左手で股間を下着の上からまさぐる。
一見すると相当な変態であろうが、やはり彼女は本能のままに、手の動きを止められなかった。

「はぁ……く、クー……」

 自らを昂ぶらせるように、愛しい人の名前を呼ぶ。

 わかってしまった。
彼女が助けに来てくれたとき、自分のために、ボロボロになるまで歯向かってくれたとき。
あのとき感じた胸の高鳴りは、初めてではなかった。
そんなわけがない、ありえないと、理性ではいくらでも否定できた。

 けれど、クーに優しく抱き締められた、あの瞬間。
ハインの中で何かが弾けて、否定されていた感情は、理性を覆して完全に表面化した。
世界が180度回転したような気分だった。


 次第に手の動きは早まる。心臓が一層強く脈を打ち、体中至る所に血液が廻っているのがよくわかる。
目蓋を閉じると、眼前に裸のクーがいるような錯覚を覚えた。
想像の中でクーは、股を無理矢理割るように自分の足とハインの足を絡ませていて、
右手で彼女の顎を掴み、自らの唇と彼女の唇を繰り返し重ね合わせていた。
そのうちに、クーの長い右手がハインの下腹部を這いながら、ゆっくりと下に降りてくる。

「ここを触って欲しいのか?」

 ハインは小さく、一度頷いた。
クーはよく見なければ分からないほど薄い笑みを浮かべ、下着の中へと手を入れて行き――。


 ――と突然、がらがらと大きな音を立てて、部屋の扉が開いた。
ハインははっと我に返り、手の動きを止め、足を元通り組んで身構えた。
気を抜けば、また衝動が襲ってきそうな気がした。

川 ゚ -゚)「着替えを、持ってきた」

 言いながらクーは、簡素で大き目の白いスポーツブラと体操服を、会議用の長机の上に置いた。

川 ゚ -゚)「……どうしたんだ、機嫌でも悪いのか」

 暫く部屋に沈黙が訪れたあと、クーが訊ねた。
ハインの淫らな行いに、気付くはずもなく。


 ああ、そうだ、こいつはこういう奴だった。
ハインはほっとしながらも、なぜか内心では少しもやもやした気分であった。
その理由がなんなのか、少しだけ考えて気付く。
本当は、見つけられてしまいたかったのだ。

 想像と違い、現実のクーは彼女のことを襲わない。
その逆も然り、だ。

 わかっている。
わかっているはずなのに。

「んっ……!」

 もう自分を咎めるのも限界で、ハインはクーの身体に飛び付き、
そのまま勢いだけで、お互いの唇を重ね合わせた。
ファーストキスだった。
もっと激しいことをしてしまいたい衝動に駆られたが、
どうすればいいかわからないまま理性が働きを取り戻してきたので、すぐに顔を離した。

川;゚ -゚)「ハイン……」

 やってしまった。
とても馬鹿で、残酷で、罪深いことを。


 もはや相手の顔を直視するのすら心苦しく、ハインは細く目を開いてすぐに閉じた。
一瞬だけ薄ぼんやりと視界に移ったクーは、驚いて顔の筋肉を若干引きつらせていた。

从 ; -从「……ごめん」

 閉じた目蓋の端から、水滴が頬を伝って流れる。
涙が止まらない。自分の愚かさのせいだ。
高校生にもなって泣きながら謝っているのでは、本当に世話がない。

 外側から歪み始める視界の中、クーはやはり、困惑した表情を見せていた。

从 ;∀从「あはは、だよね、レズなんて気持ち悪いよね……」

 ハインももうどうしていいかわからず、自らを嘲る言葉を漏らした。
目を閉じれば、視界は真っ暗なままだ。相手の顔もわからない。
いっそもう、目を開けないほうが幸せに生きて行けるんじゃないだろうか。
最低だ、私は。

 自己卑下に陥るハイン。
しかし、

川 ゚ -゚)「ハイン」

意志の強そうな、はっきりした声が聞こえた後、彼女の後頭部に両手が回された。


从;゚∀从「えっ……」

 驚きのあまり、つい目を見開く。
そして視界に映ってきたのは。

川 ゚ー゚)「私は、君が大好きだぞ?」

 想像の中でそうされたのと同じように、クーは自らの薄紅色の唇を、ハインの唇に重ねた。

 突然の出来事で、侵入を拒むように閉じていたハインの唇。
しかし、それをゆっくりと割って、クーの舌はハインの口内へ侵入する。
状況もよく理解できないまま、お互いの舌が絡まりあい、
その微妙な感覚と甘美な背徳感に、ハインはただ身悶えた。

「んん……」

 唇が離れる。唾液が糸を引いているのが見えた。
けれど不思議とそれは、ハインの目には汚らしく映らなかった。

「……こういうことをするのは、初めてか?」

 クーは、普段は滅多に見せない極上の笑顔で訊ねた。
頭がぼおっとして、ハインは質問の意味がよく理解できなかったが、とりあえずクーが喜ぶかなと首を縦に振った。
クーって、こんなに美人だったっけ。ああ、そうだ、何せ私が惚れたんだもんな。
状況が飲み込めず、的外れな考えが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。


 急に、視界が九十度傾いた。
ふと気付くと、頭に回されていたクーの手がいつの間にか肩に据えられており、
そこから、身体を横にされたのだということがわかった。

川 ゚ -゚)「私も初めてだが、これがどういうことかは知っている。あまり人に話したくない事情があるんだがな」

 クーは自らも横になると、両手を背中に回し、ハインと身体を密着させる。
クーの小振りだが形の綺麗な胸と、ハインの豊満な膨らみが触れ合って擦れる。
思わず、驚きの混じったような、変な声を上げてしまう。

 そのうちに、クーはそのしなやかな脚を、ハインのむちむちした肉付きの良い腿と腿の間に割って差し込んだ。

从*;゚ -从「あっ」

 ちょうど膝の辺りが股間に触れる形になり、つい声を上げてしまう。
じくじくとした独特の感覚が体中に伝わり、そこが一層熱を持った気がした。
恥ずかしさの余り、耳まで真っ赤にしてしまう。

川 ゚ー゚)「収まらないんだな。私が気持ちよくしてやる」

 クーは悪戯っぽい表情を作ると、膝を上下に優しく運動させ始めた。

从*///从「あああ、ああぁぁぁ」

 少しずつ早く、徐々に激しく動きを変えていく。
膝が股間に当たるたびに、ハインの身体に甘い電流のようなものが迸る。


「いやっ……」

 わけもわからず涙が出そうになり、ハインはつい声を漏らした。
すると突然、クーが脚の動きを止めた。

川 ゚ -゚)「嫌か? それなら止めても構わないが」

从*///从「あっ……」

 しかしハインは拒否するでもなく、ましてやクーに何か一言告げるでもなく、
自ら快感を貪るように、腰を前後に揺らし始めた。
その姿は、さながら発情期の猫のように淫らで、しかし愛らしくもあった。

川 ゚ー゚)「本当に可愛い奴だな、お前は」

 クーはそれに応じるように、脚の動きを今までよりさらに激しくした。
絶え間なく秘所を攻められて、ハインは全身を振るわせたまま、脚の動きに合わせて嬌声を漏らす。
自らに対する嫌悪。咎める倫理。止める理性。
そんなものより、大好きな人に受け入れられた嬉しさと、快感に身を委ねたいという欲望が勝った。

 くちゅくちゅと、小さな水音が耳に届いてきた。
感覚が麻痺してよくわからなかったが、どうやら彼女は恥部を相当ぐっしょり濡らしていたようだった。


川 ゚ -゚)「これだけ感じてれば、痛くは無いかな」

 クーは身体を離して膝を床に着け身体を起こすと、ハインを仰向けにし、
両手で股を割り、その間に身体を挟むようにして置いた。

 左手をハインの背に回して抱き上げ、頬に伝う涙と汗を、唇で拭うようにして舐め取り、

从*///从「はうぁ……」

そして、脚の付け根に沿えていた右手を下着の中へするりと滑りこませ、
彼女の秘所をゆっくり弄り始めた。

从*///从「ひゃあっ!」

 手の甲で下着をめくると、襞の内側に隠されていたピンク色の柔肉が露わになる。

从*///从「ひゃめ……そこは……」

川 ゚ -゚)「嫌か?」

 クーが聞くと、やはりハインは好奇心に負け、何も言えずにおとなしく脚の力を抜いた。

 ハインの意志とは無関係に、彼女の中へとクーの指が侵入していく。
クーは中の柔らかでぬめりとした感覚を楽しむように、くにゅりと指を回し、一通り撫で回す。
すでに声も抑えが聞かず漏れっ放しになっており、その羞恥すら快感の推進剤へと昇華されていた。


 しばらくそうして遊んだあと、突然、クーは手を激しく前後に動かし、
指を第二間接から折り曲げて、中を乱暴に抉るように弄った。

从*///从「ああ、あ、ぁああああっ!」

 クーが手の動きを早めると、やはり喘ぎ声のスパンもそれに合わせて短くなっていく。
それは、すでに限界が近いということを明確に示していた。
頭の中が真っ白になる。
薄れ行く意識の中、クーが耳元で小さく囁くように、言ったのを、はっきり聞き取った。

川 ゚ー゚)「愛してる、ハイン」

 ハインの身体に、それまでより一層強い波が訪れた。
激しく、淫らに嬌声を上げ、強く身体を振るわせて、彼女は達した。

 はあはあと息を荒げる彼女の、愛液に塗れた股間をハンカチで丁寧に拭く。
行為の後はその部分が一層敏感になってしまうのか、クーの手が動くたびに、ハインは小さく身震いし、甘い声を漏らしていた。
それが終わると、持ってきた下着を上下に着せてやる。

 ハインは蕩けそうな表情で、クーのことを見詰めた。
傍らに腰を下ろすと、彼女はクーを求めるように、上半身を寄せ、細腕をクーの身体に絡ませた。
クーはそれを見て、にこりと微笑む。

 穢れを知らない乙女がふたり、戯れに身を落としていく。
どちらからとなく、ふたりはまた唇を重ね合わせた。


―― ―― ――

(*゚ー゚)「お疲れ様でしたー。さようなら、会長」

川 ゚ -゚)「ああ、お疲れ。……さて、今日も遅くなってしまったな」


 いつものように退屈な仕事を終えて、クーは帰路に着く。
昼間の強い日差しで溶けて水分を含み、固くなった雪は、踏むとガリガリと音がする。
滑らないように気を付けながら、坂道を降りていく。

 薄暗い道の隅に、彼女は居た。
悴む手をすり合わせ、温めている。
そっと気付かれぬよう背後から近づき、肩にちょんちょんと触れた。

从 ゚∀从「……クー」

川 ゚ー゚)「どうした、こんな遅くまで。そんなに私に逢いたかったのか?」

 ハインは無言でクーの肩に手を回し、もう一方の肩に頬をすり寄せた。
すぐに直るが、少し照れくさかったのか、それとも寒さのせいか、頬は幼子のように赤く染まっていた。

 手を繋ぎ、二人は歩く。
白銀の世界に、幅のちぐはぐな二つの足跡が延びて行く。


「……本当に、私で良かったのか?」

「……わからない、けど」

「けど?」

「……たぶん、俺はクーじゃなきゃ駄目なんだと思う」

「……それは、プロポーズの積りかい?」

「そう受け取ってくれるかな?」

「お前みたいな甲斐性無しの旦那は、こっちから願い下げだね」

「あはははは」

 他愛もない会話。冗談を交えては笑う。
そこにほんの少しの、強い気持ちを加えて。
今まではそうだった。でも、今は。

「ね、クー」

 ハインは照れくさそうに、ポケットに手を突っ込んだ。
ようやく中身を探り当てると、両手でそれを持って、クーの前に差し出した。

「いつも一緒にいてくれて、ありがとう」

 歪なハートの板の上に、白い文字が浮かんでいた。


―― ―― ――

 私はもっと強くなれる気がする。
彼女もきっと、もう少し強くなれるだろう。
それは、曲がりなりにも私たちが一緒になったからだ。
強がることじゃなくて、お互いの本当の弱い部分を知ったから。

 愛してると言えば拒絶されると恐れていた私はもう居なくて、
代わりに、愛してると言われて照れくさそうにする彼女がいる。
願わくば、これが何時までも続くと良いと思う。

 形としては最悪のものだったけど、きっかけを作ってくれた運命の神様と、
もう会うことはない君たちに感謝したいと思う。

 ありがとう。

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